ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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砕ける理想

「食う……けど、その前に水……ない?」

 

 

「ぼんち揚げ食う?」という迅の問いに刀也はそう答えた。起き抜けにぼんち揚げ食うか?と聞かれるとは思わなかったが、食うか食わないかであれば、食う。

しかし、それ以前に喉が渇いている。寝起きだから仕方ない事だ。迅から手渡されたコップの水を煽って「ふう」と一息。さらにぼんち揚げを一口で丸呑みし、むしゃむしゃばりばりと咀嚼する。

ごくん、と飲み込んで、

 

 

「どういう状況?」

 

と、初めて状況の理解に動いた。

 

「思い出せない?」

 

迅の誘導するような言葉に「う〜む」と唸りながら回想する。遠征選抜第一試験が始まった。臨時部隊の面々と共に遠征艇を模した施設に入った。試験のルールや物資を確認した。課題をこなした。眠った。夢を見た。悪夢を。

 

 

「は………は………」

 

 

呼吸が浅くなる。悪夢の内容を思い出したわけではない。夢の内容なんて忘れるのが人間だ。しかし悪夢を見たという実感は残る。そして、夜凪刀也が忘れたいほど恐れる悪夢なんてたったひとつしかない。

 

“第0次近界遠征”……自分のせいで、4人の仲間が死んだ記憶。その回帰。

 

 

「おれ、は……暴れた……?」

 

 

「うん」と軽々しく迅は肯定する。遠征艇を模した施設に足を踏み入れたのを呼び水にかつての記憶が蘇ったのだ。それが夢という形をとって刀也の前に現れた。

その結果として、刀也は忘我し暴れたのだと自ら理解する。

 

早い話がトラウマだ。かつてはその惨状を見ても戦えた。しかし今はそれを思い出しただけで自失してしまう。ずっと目を背けて来たからだ。ある意味でその記憶を神格化していた。だから刀也にとってそれはまるで悪魔を見たような感覚なのだ。

 

 

「おれは、どうなる……?」

 

 

しかし、それを置いて思考できるのは刀也の強みでもあり短所でもあった。物事を切り分けて考えられるという事実は別の事象から目を背けるという側面を持つ。

 

刀也が迅に尋ねたのは今後の展望の事だ。

夜凪隊は遠征部隊入りが内定していた。とは言えこの醜態だ、内定取り消しもやむなしだろう。上層部がそう判断するのもわかる。いや、それ以上に“こんな爆弾抱えた隊員などいるか!”と記憶封印処置を施して除隊処分にする可能性すらあった。

 

 

「とりあえず、夜凪隊の遠征内定は取り消しだって城戸さんは言ってたよ。あの精神状態で遠征艇に乗られては迷惑だってさ」

 

 

「そうだな……」と返事をする刀也の声に力はない。平時なら「ボロカス言うやん」と軽口を叩いたはずだが、今はそれをできる精神力はなかった。

 

 

「でもまだ挽回の可能性はあるよ」

 

 

予想外の迅の言葉に「は?」とも「え?」ともつかぬ声が漏れる。

 

 

「というか、おれがここにいるのもそれを説明するためなんだ」

 

刀也の中でさらに疑問符が増えていく。悪夢を見たせいか、頭の回転がいつもより数段遅い。迅に言われてようよう気づく。

こんな役回りを迅に与える意味を。

 

 

「……と、説明する前にまず謝っとかないとね。ごめんね、ヨナさん。ヨナさんが第一試験で脱落するのは確定した未来だったんだ」

 

 

迅の謝罪にゆっくりと理解を及ばせていく。

 

 

「いや、お前が謝る事じゃない。……おれが取り乱すのは確定事項だったわけだ。……はっ。笑えるな。遠征に行こうって息巻いて、策を練ったりして、遠征のチケットも手に入れた。それなのに遠征に行く以前に、それを模しただけの施設で過ごしただけでトラウマ発生か?ははっ、冗談にしても笑えるわ、こりゃ」

 

 

乾いた笑い。自嘲。哄笑。

夜凪刀也が遠征に参加できない事は初めから決まっていたという茶番。それなのに必死こいて遠征内定した所で突きつけられる現実。

 

 

「なあ……迅、これ……冗談だろ…………?」

 

 

縋るように迅を見て、

 

 

「いいや、現実だよ」

 

 

即答されて、刀也の布団に涙がこぼれ落ちた。

 

 

「嘘だって言えよぉ……」

 

 

頭を抱えて蹲る。

 

 

「なんだよこれ……ふざけてる。今までやってきた事が全部無駄だった?徒労だった?……はは、嘘だろそんなん……そんなのだめに決まってる。だめだ、だめだめだめだめだめ…………なんて、だめなやつなんだ、おれは………」

 

 

布団を握り締める、その手に力が入らない。

今までやってきた全てが、ここで壁に阻まれるためだったとしたら、それはなんて救いのない物語だ。

 

 

違う、そうじゃないだろ。と刀也は思考を切り替える。落ち込んで泣くくらいなら打開策を考えろと、絶望感から目を逸らす。

 

それはもう癖になっていた。嫌な事から目を逸らす事を、思考の切り替えが早い美徳とすり替える。

しかし、すり替えたからにはしっかり思考するのも夜凪刀也の癖だった。

 

だが、どう考えても次手はない。遠征内定を決めるためにこれまですべてを費やしてきた。そしてそれを使って勝利した。切れるカードは全部切って、今はもう何もない。この状況での打開策なんて欠片もない。絶望しか残らない。

 

 

 

発想を転換する。きっとこの累はクロウまでには及ばない。例え夜凪隊の遠征内定が取り消されてもクロウは個人で遠征に行けるだけの実力がある。

 

なら、クロウにⅦ"sギアを託すか?

 

それはいい。最善だ。クロウもⅦ"sギア(リィン)も七の騎神もゼムリアの生まれ。刀也がついていっても、それは余計でしかない。それならば刀也はこの世界に留まり、クロウだけがゼムリアに向かう。

それでいい。それしかない。あるべきものがあるべき場所に帰る。なんて綺麗なハッピーエンドだ。

 

 

 

そんなもんはクソ喰らえだ。

 

刀也が託されたのだ。他の誰でもない夜凪刀也が、リィン・シュバルツァーに託されたのだ。

だからそれは刀也自身が果たすべき使命で、果たしたい宿願なのだ。

 

 

なら遠征部隊に返り咲くために何をすればいい?

 

 

そんな思考をぐるぐると繰り返す。

 

 

「おれはどうすればいい?」

 

 

ついには声に出して迅にまで問いかける始末。

しかし迅は待ってましたとばかりにぼんち揚げを口に放り込み、

 

 

「それを説明するためにここにいるんだよ」

 

 

と言った。

迅が語る“挽回の可能性”……それは。

 

 

「っと、そろそろだな。歩きながら説明したいんだけど、大丈夫?」

 

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 

刀也の返答を聞き届け、迅は椅子から立ち上がって部屋を出る。刀也はその後ろをついていく事となった。

 

 

☆★

 

 

「それで、挽回の可能性ってなに?」

 

 

部屋を出て歩きながら迅に話の続きを促す。迅は刀也と目を合わせずに、

 

 

「功績をあげる事だよ。今回の失態を打ち消す感じで」

 

と、事もなげに言い放った。「はあ〜?」と挑発するように刀也はさらに促す。功罪打ち消しなんて真っ先に思いつくアイデアだ。しかし、今回の失態は特別なもの。刀也がトラウマを克服しない限りは遠征艇には乗せてもらえないだろう。例えどれだけ功績を積んだとしてもだ。

 

 

「まあまあ、聞いてよ。実はもうすぐヤバい敵が来る。太刀川さんたちさえ相手にならないようなやつが」

 

 

今度こそ刀也は「は?」と言った。先程のものとは違い、本当に漏れ出た疑問だ。

 

 

「サイドエフェクトか?」

 

 

「うん、そう。それで、その敵に対抗できそうなのがヨナさんとクロウさん」

 

 

「おれとクロウの2人で、そのヤバい敵ってのを倒せば……確かに功績としてはでかいな」

 

 

なにせ、太刀川隊すら相手にならないような強敵だ。それを撃破したとなれば評価はうなぎ登り。遠征に参加させない手はない!という考えも膨らむだろう。

 

しかしそれも、今回の失態を打ち消す程ではない。というかそもそも刀也の晒した醜態は功績と打ち消せるものではない。

 

やはり思考は堂々巡り。

 

そんな様子の刀也に迅は語りかける。

 

 

「ヨナさんはさ、強い人だ」

 

そんな事はない。過去を思い出すだけで震え上がる臆病者だ。

 

 

「確実にひとつひとつ積み重ねて、勝ち筋を探る……B級ランク戦に臨んだ時もそうだったでしょ?」

 

 

それは臆病だからこそだ。備えずにはいられない。いつも仲間を失った時の絶望感が脳裏にチラついている。いくら目を背けても、背中にぴったりくっついてくる。

 

 

「時には盤外戦なんてものを仕掛けて、相手を誘導する」

 

 

そうする事で自らを安心させたいからだ。できる事をやらずに失うのはもうこりごりだから。

 

 

「それって誰にでもできる事じゃないよ。するべきってわかってても人にはできない事だ」

 

 

「それは、手段としては最低だよ。皆は正々堂々ランク戦を戦ってる。でもおれは……自分を強く見せるために、自分を慰めるためにやってただけだ」

 

 

「ヨナさんさ、うちのメガネくんに、例え強くあったとしても、実際に強くなければそれは“強がり”に過ぎないって言ったらしいね」

 

 

言った。夜凪隊で玉狛支部に遊びに行った時に三雲に語り聞かせた言葉だ。

 

 

「ヨナさんのそれって、強がり?」

 

 

強がりに決まってる。

夜凪刀也ってやつは悪夢に取り憑かれて、いつまでもそれを振り払えない臆病者で。

命を落とす様を見たくないからって、自らの弟子を無責任に育てるクソ野郎で。

いつまでもトラウマに向き合わないダメなやつで、嫌な事から目を背けて、好きなはずの剣にさえまともに向き合わず。

 

自分を信じなかったばかりに仲間を死なせた無力者だ。

 

 

 

 

「でもさ、それって強がれるくらいには強いって事なんじゃないかな?」

 

 

 

「かもな」と迅の言葉に空虚に答えた。響かない。夜凪刀也には響かなかった。

刀也はこの4年、小手先の技術ばかりが上達した。

力は所詮、己に続くものでしかない。振るうのはあくまで“己”の魂と意志……

三雲に語った言葉があまりにも自らに刺さる。刀也は“己”を鍛えずに“力”ばかりを求めた大馬鹿だった。

そんな“力”だけでも強がる事はできた。でもそのメッキも剥がれて“己”を磨かなかった刀也は、師を失って涙し、仲間を失って慟哭した時の子供のままだった。

「気持ちの強さは関係ない」と語った太刀川が正解だ。どんなに志が低くても力さえあえばランク戦に勝てたのだ。なんて皮肉だと自らを嗤う。

 

 

 

やがて目的の場所に到着する。

「どーもどーも」と気軽に入室した迅に続いて部屋に入り、太刀川の敗戦を知らされる。

 

 

事前に知らされていたとは言え、太刀川隊が負けたのには驚く。A級一位太刀川隊…ボーダー本部では間違いなく最強の評価を得ている部隊だ。

 

 

それを、特に苦戦することもなく撃退したのは赤衣の長身。

それをモニター越しにみて、既視感を覚えた。見た事はない。だけど知っている。その答えを直感が告げていた。

 

 

「結社《身喰らう蛇》執行者No.Ⅰ 《却炎》のマクバーン……!」

 

 

「やはり君もそう思うか」

 

 

と刀也の出した答えに同意を示したのは忍田。城戸も椅子に座ったまま静かに首肯している。

 

 

「あの赤衣……それに焔を操り太刀川隊を撃破した。それに見た事もないトリオン兵……おそらくリィンくんが語っていた人形兵器。我々も君と同じ結論に至ったよ」

 

 

「おれを呼んだのはあいつと戦わせるためですか」

 

半ば迅に連れられた意図を察しつつ尋ねると、「ああそうだ」と忍田は肯定する。

 

「加えて対話による説得も試みてほしい。今回のために君にはⅦ"sギアが一時的に貸し出されるが、それをネタにしてでも足止めを頼みたい」

 

 

「足止め……ボーダーの総戦力で叩くつもりですか?」

 

 

「必要であればな。今のところは遠征選抜試験中の部隊は付近に散らばったトリオン兵の相手をさせるつもりで、君への援軍はクロウ・アームブラストに行かせるつもりだ」

 

 

今度は城戸が言う。その語り口にはクロウに黒トリガーを使わせる意思が透けて見えるようだった。

 

 

「城戸司令!クロウの黒トリガーはーーー」

 

 

「問答する時間が惜しい。出撃を命じる、夜凪隊員。可能な限り人型近界民を食い止めろ。倒せるのであれば倒してしまってかまわん」

 

 

しかし、取り合ってもらえず、刀也はⅦ"sギアを渡されると出撃する事となった。

 

 

「Ⅶ"sギア、駆動」

 

 

ボーダー本部基地を出て疾駆する。すでに思考は切り替えていて、どんな手でマクバーンを足止めするか考えていた。

しかし、やはりその思考の裏には絶望がちらついているのだ。

 

 

☆★

 

 

八葉一刀流、六の型 緋空斬

 

斬撃を飛ばす剣技。その発展形。秘技とでも言うべき、新しい型。

 

 

八葉一刀流、六の型 秘技 飛燕斬

 

 

飛ばした斬撃を曲げる剣技。曲がる斬撃を飛ばす剣技。

発想はあった。トリガーを試作した。それでもできなかった。

 

それがⅦ"sギア(リィン)なら容易く実現できる。

 

その事実に刀也は師との距離を再確認し、さらに理想を深める。

 

 

「飛燕三羽、舞いては落つる」

 

 

飛燕斬、三連。立て続けに放たれた緋色の斬撃は空を切り裂きマクバーンに殺到する。

 

曲がってマクバーンを左右と後方から押さえ込む。さらに正面からは刀也が迫っており、逃げ場のない斬撃がファーストコンタクトとなった。

 

 

「燕返し」

 

 

飛燕斬と自己で敵の逃げ場を塞ぐ一連の戦技を刀也はそう名付けた。

決まれば、アフトクラトルの人型近界民すら撃破せしめるであろう技を受けていながら。

 

 

「ぬりぃ」

 

 

その一言で、マクバーンがノーダメージだと刀也は悟る。バックステップで距離をとった所で、マクバーンは腕を一振り。周囲に舞う塵芥を灰も残さず焼き尽くした。

 

 

「だがまあ、真似事の剣にしちゃ悪くなかったぜ。……その格好、まるで灰の小僧だな。さっさと本物を出しな」

 

 

そう言うマクバーンの威圧感はこれまでの誰とも比較にならない。呑まれかねないそれを前にして刀也は「ふう」と一息ついて、太刀を肩に担ぐ。

 

 

「リィンさんならいないよ。黒トリガーになった。おれのこれがそうだ」

 

 

平静を装う。そうする事で自分は普段通りだと自分自身に言い聞かせる。

 

 

「へぇ……なるほどな。雰囲気まで似通っちゃいるが、まさかそんな理由とはな。灰の小僧…リィン・シュバルツァーのファンかと思ったぜ」

 

 

「大ファンさ。あの人の軌跡もある程度把握してる。………お前さんはマクバーンだな?」

 

 

「俺の事を知ってんだな。灰の小僧が喋ったか。…まあいい、用件を言おう」

 

 

マクバーンの事はリィンを通じて知っていた。

却炎、火焔魔人、堕ちたる外の魔神。幾度となくⅦ組の前に立ち塞がっては圧倒的な強さを示していった、《身喰らう蛇》の最強執行者。

 

その用件とはいったい何か。太刀川隊を撃破し、四方八方に人形兵器をばら撒いて、その上での要求。

刀也は生唾を飲み込みながらも油断なく聞き届ける用意をする。

 

 

「巨イナル一……あるだろう?そいつを寄越しな」

 

 

「巨イナル一……?」

 

 

マクバーンの言葉を反芻し、脳内で検索をかける。ヒットしたのは一件。ゼムリアでの出来事を多く語ったリィンが、あまり話したがらなかったのが巨イナル一についてだ。

 

巨イナル一とは、焔の至宝と大地の至宝が無限に相克し、無尽蔵のエネルギーを生み出す鋼……だったはず。

そのエネルギーを分割し、騎士人形に封じたのが騎神という話だった。

曰く、分割されたエネルギーを再び統合するための儀式が七の相克……騎神同士の奪い合いだったと。

 

 

……それが今、こちらの世界にあるのだとしたら……七の騎神の黒トリガーの内側にある…?

 

 

 

「なんだ、知らねえのか?」

 

 

黙考した刀也を見てか、マクバーンはそう判断する。刀也も頷いて、わずかばかりの沈黙が木霊するが、それを打破したのはマクバーンだった。

 

 

「おい小僧……まさかとは思うが、その黒トリガーを入手したのは4年前か?」

 

 

と、マクバーンが示したのはⅦ"sギアだ。リィン・シュバルツァーが黒トリガーとなったもの。その入手時期を把握されているのは謎だったが、ここは素直に答える。

 

 

「そうだけど…?」

 

 

聞いて、「は」と嗤うマクバーン。笑いが抑えきれないと言った様子であった。片手で顔を押さえて笑みを殺し、

 

 

「ククク………まさか、そういう事だったとはな。何とも奇妙な縁が巡りやがるもんだ。……生きてんのが灰の小僧じゃなく、クロウだったとはなぁ……」

 

 

どうしてそれを知っているのか?と尋ねるよりマクバーンの理解の速度が勝る。

 

 

「って事は、だ。七の騎神はクロウの生命線ってわけか」

 

 

「七の騎神がクロウの生命線…!?どういう事だ?」

 

 

「何も聞いてねぇんだな」とマクバーンは刀也を睨め付け、説明する間を取った。

 

 

「クロウが生きてるって事は、どうあれ七の相克が終わっちゃいねえって事だ。どんな裏技を使ったかは知らねえがな」

 

 

「だが」とマクバーンは続ける。

 

 

「不死者だったクロウは相克に負けた時点で灰の騎神に吸収されるはずだった……それは灰の小僧によって先延ばしにされたが…それも七の相克が終わるまで。本来なら消え去る運命を無理に捻じ曲げてんのが現状だ。いつ綻びが出てもおかしくねぇんじゃねえか…?」

 

 

「綻び……」と刀也は呟く。思考はすぐさま形になった。黒トリガー七の騎神は、騎神を七ノ相克以前にまで巻き戻したものだという。だからクロウは今まで生存できているわけで……

だとすれば、巨イナル一を欲するマクバーンが七の騎神を手に入れたら、相克は本来の歴史を取り戻してクロウは消える……?

 

黒トリガーを作り変えるという意味でもあるが、ゼムリアはアーティファクトとかいうトンデモ遺物がある世界だ。ありえない話ではないように思えた。

 

 

「…そうか。だとしたら余計に差し出すわけにはいかないな。……悪いが手ぶらで帰ってもらおうか、《却炎》の」

 

 

「ハッ!俺とやろうってのか?いいだろう、チィと熱いが我慢しろよ…!」

 

 

そうして唐突に戦端は切り開かれる。

両手に焔を灯したマクバーンが瞬時にそれを放つ。迫る焔を紅葉切りで両断し、戦闘開始の合図となった。

 

 

☆★

 

 

負けない。負けるはずがない。負けるわけがない。

 

 

「ARCUS、駆動」

 

展開された7つの武具が太刀に吸い込まれていく。リィン・シュバルツァーが結んだ縁、絆……それをもってⅦ"sギアに施された拘束を解除する儀式。

 

ユーシスの騎士剣、ユウナのガンブレイカー、ミュゼの魔導騎銃、クロウのダブルセイバー、アリサの導力弓、フィーの双銃剣、エステルの棍棒。

 

拘束解除は六つまで。無仭剣を使う。

 

 

壱、弍、参、肆、伍、陸、漆。

 

 

 

負けちゃいけない。負けていいはずがない。負けていいわけがない。

 

 

負けるなんて許されない。

 

 

だって、これは。

 

 

 

「ーーーー八葉一刀、無仭剣!」

 

 

 

リィン・シュバルツァーの剣なのだから。

 

 

 

 

 

その一刀が叩き込まれ、さすがのマクバーンも膝をつく。

しかし、同時に魔剣と焔をぶち込まれていた刀也はそれよりひどいダメージだ。すでに換装は解けていて、生身でマクバーンの前にいる状況だった。

 

斬りつけられたマクバーンだったが、一瞬後には何事もなかったかのように立ち上がり、魔剣を刀也に突きつける。

 

 

「悪かねぇが……興醒めだな。最後まで借り物で戦いやがって……猿真似じゃいつまで経っても本物にはなれねぇぞ?」

 

 

「な、にを……」

 

 

破られた。砕かれた。敗北した。

 

誰が?おれか?Ⅶ"sギアを使ったおれ(リィン・シュバルツァー)が?

負けた?

 

ダメだ。そんな事はありえない。ありえちゃいけない。認められない。何かの間違いだ。

立て。すぐに立て。立って戦え。勝て!

 

念じて、念じて念じて念じて。何度もⅦ"sギアを再び起動させようとして、何度も不可能だと思い知る。

 

そうして刀也は、自らの理想が砕け散ったと理解した。

 

 

 

 

そんな時、ボーダー本部の方角からこちらに向かって猛スピードで接近する蒼き影があった。

七の騎神を起動させたクロウだ。オルディーネという外殻を纏い、一騎当千を顕示するクロウだ。

 

それに並び立たなければいけないはずの自分は、師の力を使ってこの有様。逃げてしまいたい衝動に駆られる。

 

しかしそれより速くクロウはやってきた。

 

 

 

「お、見知ったのが飛んできたと思ったらお前か…クロウ」

 

 

もはや刀也から興味を失ったマクバーンは新たに現れたクロウに視線を移す。クロウも刀也を一瞥すると意識をマクバーンに集中させた。

 

 

「ああ……久しぶりだなマクバーン。再会を祝いてぇ所だが、その前に質問だ。なんでアンタがここにいる?」

 

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