ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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たぶん黎の軌跡発売前に投稿できるのはこれが最後です。
作者は黎の軌跡発売に合わせて有給をとったのでばりばりプレイしてもりもりモチベを上げたいと思うのでした。



ワールドトリガー

夜凪刀也は、ただそれを眺めている事しかできなかった。

 

 

《堕ちたる外の魔神》マクバーンと、《黒の騎神》イシュメルガの激突を。

 

今やⅦ"sギアの戦闘体は砕かれ、クロウは呪いに飲み込まれた。

ここからどう希望を見出せ、と言うのだ。絶望さえ奪われている。言葉すら失くし、嘆く事も許されない。

 

 

そんな感覚に浸りながら、眺める。

 

戦況は互角に見えた。

出力自体はマクバーンが上に見えるが、イシュメルガには技量があり、何とか凌いでいる。

 

起動者の操縦を真似ているのか、何らかの型が見て取れる。加えてイシュメルガはまだ自らの奥の手を使っていない。リィンから伝え聞いた話によると、イシュメルガは終末の剣に世界規模の暗闇を凝縮させて放つらしい。今は奥の手の使い所を見計らっている…といった所か。

しかしマクバーンも底なしと言わんばかりに火焔を生み出していっている。イシュメルガが奥の手を使う隙はなかった。

 

ゆえに、互角。

 

 

なるほど、これは迅が“世界が滅ぶ”なんて言っていたのも頷ける。

まるでフィクションの中の話だ。神話級の闘いだ。黙示録の戦争だ。

 

もし割って入ろうものなら、トリオン体でさえ一瞬の間に砕け散ってしまうほどの。

いいや、余波ですら十分だ。シールドを張っていなければ今頃は緊急脱出しているだろう。

 

 

 

「埒が明かぬな」

 

 

と言ったのはイシュメルガの方だった。マクバーンが常時展開している結界は、イシュメルガの終末の剣でわずかにだが貫通している。相性の問題か、あるいはただ出力の問題かはわからないが、大したダメージを与える事はできていない。

 

イシュメルガは黒き波動を放つと、終末の剣に力を集中させる。マクバーンの結界にとって黒き波動はそれこそ細波のようなもの。防ぐ価値もなく、ゆえにこれが目くらましだと知っている。

 

終末の剣が暗黒に染まり、振り抜かれるーーーー直前。

黒焔の剣が割って入る。波動を切り裂き、暗黒を全焼させて、終末の剣と魔剣が打ち合った。

 

 

「焦るじゃねえか。裡でクロウが目覚めたか?」

 

 

「戯言を。この肉体はすでに吾のもの。クロウ・アームブラストの精神が消えるのもすでに時間の問題」

 

 

鍔迫り合いながら言葉を交わす圧倒的な2つの存在。

マクバーンの言葉に刀也は希望を抱きかけるが、そもそもイシュメルガの呪いは分体だけでもクロウを呑み込まんとしていた。それが完全に呑まれた状態でどうやって脱出するというのだ。

見ているだけしかできない。これ以上ない無力感がさらに増した気がした。それでも、届かないとしても、言葉だけは。

 

 

「クロウ…クロウ……!頼む、打ち克ってくれ。おまえがいないとおれは立ち上がる事さえできない……」

 

 

激励のような弱音。ふざけるなと自分に言いたい。しかし真実だ。刀也はクロウが来なければ立ち上がる事はできなかった。緩やかに腐っていくだけだったのだ。

それを救ってくれたのがクロウだ。立ち上がる契機をくれた。リィンとの約束を果たす機会を得た。

だから。だからどうか打ち克ってほしい。希望を見せたのだから、その責任を果たせと。

 

 

 

 

 

それからも戦況は互角だった。

 

イシュメルガの無尽蔵とも思えるエネルギーを、マクバーンが圧倒的な火力で焼き尽くす。

多少展開の差異はあれど、それの繰り返しだった。今やどちらのトリオンが先に底をつくかという勝負のようにも思えた。

 

 

そんな時、再びイシュメルガが仕掛けた。波動を纏った終末の剣を振り回してマクバーンを遠ざけると、剣を掲げて闇を束ねていく。

 

マクバーンもそれを黙って見過ごすわけもなく、火球を撃ち放つがイシュメルガがシールドを展開した事で防がれてしまう。

 

 

「チィ…!」

 

 

騎神の展開する防壁はマクバーンのそれと比較すれば脆弱だが、それを割るとなればそれなりの力が必要だ。イシュメルガが仕掛けるために溜めた力を解放したのか、防壁は堅固で破壊するには“ジリオンハザード”を放つか接近して魔剣で斬り裂く他ない。

 

 

もはやジリオンハザードを撃つ焔を生み出す時間はなく、魔剣を叩きつけるしか選択肢のないマクバーンはイシュメルガに接近する。

 

悪意を束ねた終末の剣と黒焔を纏う外の理の魔剣が振り切られる刹那、白光が世界を席巻した。

 

 

そしてーーーー

 

 

☆★

 

 

 

暗黒は反転し極光へ。

 

その変貌に感じるものがあったのかマクバーンは距離を取り、刀也はあまりの眩しさに目を覆う。

 

 

徐々に光が収まる。逆光が写し出す影は《黒の騎神》のものではない。かといって《蒼の騎神》のものでもない。

 

刀也は記憶を掘り返したが《灰の騎神》の姿形でもなかった。しかし、マクバーンは何か勘づいたようで、

 

「クク…そう成りやがったか…」

 

などと呟く。

やがて光が消え去り、その姿が明らかになった。

 

 

装甲は蒼く、全体の形もオルディーネに近いが、どこか意匠が違って見える。

以前のオルディーネより力強く、イシュメルガより神々しい。

 

神威、というものを感じさせる雰囲気だ。

 

 

「待たせちまったみてえだな」

 

 

しかし、そんな神の如き騎神からはその雰囲気とはマッチしない軽薄な声。

 

 

「クロウ……なのか?」

 

 

「ああ。……ったく、情けねぇツラしやがって。これが片付いたら説教だ」

 

 

「は、はは……」

 

その言葉があまりにも“いつも通り”を感じさせてくれて、思わず笑ってしまうくらい刀也の心は安堵に包まれた。

 

 

「アンタにも…見苦しい所を見せちまったようだ、マクバーン」

 

 

「いや?別に構わねえさ。一度やり損ねた相手とやり合えたし、珍しいモンも見れたしな。……だが、それより今のお前の方が面白そうだ」

 

 

ぞわ、と刀也に鳥肌が立つ。それほどの烈気をマクバーンから感じたからだ。これまでのイシュメルガとの戦いが、まるで遊びであったかのような凄み。

それをクロウは飄々と受け流し、頑健に受け止め、猛々しく弾き返す。

 

 

「そうかよ。なら相手になるぜ。俺とこの《零》の……いや、《(はじまり)の騎神》オルディーネ=ギルスティンでな!」

 

 

闘気、烈気、覇気、神気ーーーーそういった表現が白々しく聞こえるほどのなにか。

 

《創の騎神》オルディーネ=ギルスティン

“ああ、これなら大丈夫だ”…一目見ただけで感じる安心感。あの《黒の騎神》すら超越した威容。創造と破壊の具現。騎神の極地。

 

 

 

「来な」

 

 

呼びかけて、宙空に手を翳す。光が収束し、弾けて、一振りの双刃剣が姿を現す。

 

蒼銀の終末の剣(ミリアム)赤黒の終末の剣(イシュメルガ)。それが柄尻で結合してダブルセイバーとなっている。

 

光と闇の融合。白と黒の共演。秩序と混沌の相克。

清濁併せ呑むクロウ・アームブラストに相応しい剣であった。

 

 

「いくぜ」と宣言してクロウは、オルディーネ=ギルスティンは双刃剣にエネルギーを収束させる。

同じようにマクバーンも両掌で火力を上げていく。

 

先手はマクバーン。収束し、圧縮した火球を放つ。ジリオンハザードの前段となる戦技。

それをクロウは終末の双刃剣で弾き消していく。

 

 

 

「さぁて、コイツで仕上げだ…!ジリオンハザード!!」

 

 

 

次いで放たれる本命。火球なんてものじゃなく、炎弾なんて比較にすらならぬ。太陽と言ってなお甘い。そんな却炎が撃ち放たれた。

 

 

 

「喰らえ……開闢の十字……!」

 

 

 

その却炎を、かき消す白と黒の閃光。

あまりにも速すぎる加速は刀也だけでなく魔神マクバーンすら認識できない。

その声が背後から聞こえ、振り向いた時にはすでに遅い。

 

 

 

「ーーーークリエイトクロス!!」

 

 

 

 

 

 

切り裂くは終焉。道を切り拓くゆえに開闢。白と黒が織り成すは創の軌跡。すなわち此れ、創世の十字なり。

 

 

☆★

 

 

 

決着は必然だった。

マクバーンの戦闘体はクロウの新技によって破壊され、今は元の人間体に戻っている。加えて敵意もないようだ。

クロウも同じように感じたのか、七の騎神の換装を解除してマクバーンに歩み寄っていた。

 

 

「クク……やるじゃねえか。あの状態の俺を倒すとはな」

 

 

「ま、色んな偶然が重なったおかげだろ。対等に勝負してアンタに勝てる自信はまだねぇさ」

 

 

何が面白いのか「クク」とまたマクバーンは笑う。それからポケットから眼鏡を取り出すとそれをかけて、

 

 

「さて、そんじゃ敗者の義務を果たさなきゃな。……何から知りたい?」

 

 

そう言うマクバーンからはすでに敵意は微塵もなく、今が換装前と言えど戦える事を差し引いても敗者である事を甘んじて受け入れていた。

この都合の良い説明タイムはクロウにゼムリアの事情を話して自身の目的を達成したいがためのものだと推測される。

つまりは力尽くが無理だからお話で解決しようという事だ。

 

 

「なら、最初の質問に立ち返らせてもらうぜ。どうしてアンタがここに派遣された?結社のやつらはなぜ今更“七の騎神”……いや《巨イナル一》を求める?」

 

 

至宝の行く末を見届けるという結社の目的はすでに達せられたはずだ。それなのになぜマクバーンが行く末に至った至宝を……その器を回収しに来たのか。

 

 

「それは言った通りだ。“次”が創められねぇ……もっと詳しく言うと、《巨イナル一》なんて結果は要らねぇが、その器だけは必要ってわけだ。それがないとゼムリア大陸は“次の周回”を創められねぇ」

 

 

「“次の周回”……ゼムリアはループしてる?」

 

 

「正確にはループではなくニューゲームってところだな」

 

 

刀也の導いた回答にマクバーンが捕捉する。

刀也の説は“世界ごとのタイムリープ”だが、真実は“世界を新しくやり直す”というものだった。

 

 

「なんて言っても意味不明だろうから、最初から教えてやるぜ」

 

そう言ってからマクバーンはゼムリアという世界について語り始めた。

 

 

「そもそもゼムリアってのは遥か昔に滅んだ国家の実験国だ」

 

“実験”…そのワードは幻想機動要塞でカンパネルラが語った結社の目的とも符号する。

ではどんな実験なのか?それももう知っている事だった。

 

「その実験の内容は“七つの(マザー)トリガーを統合し運営する巨大国家”の実験だ。“神”はエイドス。《身喰らう蛇》はエイドスの影を盟主とし、七至宝が世界にどんな作用をもたらすかを見届ける組織ってわけだな」

 

 

「待て」とそこでクロウが説明を止める。

 

「母トリガーってなんだ?」

 

新しいワードに頭を抱えるクロウと同じようにマクバーンも「そこからかよ…」と頭を抱える。

 

 

「母トリガー…女王トリガーとも呼ばれるが、こいつは近界の国家を形作る巨大なトリガーの事だ。そこに生贄…“神”とも言うが、こいつを放り込む事で機能する。その生贄のトリオン能力が高いほど国家自体もデカくなるって寸法だ。……とりあえず母トリガーについてはこんなもんだが、その様子だと(クラウン)トリガーについても知らねえな?」

 

 

「知らねえ」とクロウは即答する。刀也も母トリガーについては知っていたが冠トリガーについては初耳だ。

 

 

「冠トリガーってのはまあ、母トリガー直属の国家で一番強ぇトリガーって覚えておけばいい」

 

 

軽く説明し、マクバーンは本題に戻る。

 

 

「七つの統合母トリガーの冠トリガーはゼムリアを守る防壁……教会の連中が“女神の枷”とか呼んでたアレだ。内からは出られず、外からの干渉も受けない。これが破られたのは…お前が知ってるやつだと3回だけ……塩の杭に俺、それに騎神に乗って大気圏突破したリィン・シュバルツァーくれぇだな」

 

マクバーンの説明にクロウは「なるほど」と相槌を打つ。近界の情報を集めているとゼムリアが如何に破格の大きさを持つ国家かと思った。その割にアフトクラトルの連中は知らないと言うし。

それが冠トリガー七つを融合した防壁に守られてあらゆる情報がシャットアウトされているなら筋は通る。

 

 

「母トリガーが統合された事で冠トリガーも防壁として発現し、七国の冠トリガーの器だけが残った。そこに導力をぶち込んだのが“七の至宝(セプト=テリオン)”だ。だから《巨イナル一》という結果は不要だが、その器は必要って事だ」

 

 

「とてつもなくデカい器だな」とマクバーンは捕捉した。つまり、導力という水はいくらでも用意できるが、“冠トリガーの器”というコップが無ければ意味がない。

 

 

「オーケー、話はわかった。その上で質問だ。なんで結社は遥か昔に滅んだ国家の実験を続けてやがる?それにこの実験てのは何度目だ?」

 

 

クロウの問いかけは“実験を続ける意図は?”というものだ。

遥か昔に滅んだ国家が、巨大国家を運用可能か測るための実験国がゼムリアだ。おそらくこれまでも幾度と無く繰り返されたのだろう。しかし、実験の指令を下した国家が滅んだのなら、もうこれ以上のデータ収集は無意味。

なぜそれを繰り返すのかーーーー?そんな問い。

 

「クク」と再びマクバーンは喉を鳴らす。

 

 

「簡単だ。壊れちまってんだよ…エイドスって女がな」

 

 

エイドスという名は刀也もリィンから伝え聞いていた。空の女神エイドス。七耀教会の象徴にしてゼムリアにおける唯一神。

ゼムリア大陸はこの世界と比較してもある程度科学は発展してるし、やもすると凌駕している部分すらある。それに民族も実に多種多様だと聞く。それなら複数の宗教が発生してもいいはずなのに、空の女神エイドスが唯一絶対の神だとは。聞いた時にはどれだけ歪なんだ、と漏らしたほどである。

しかし、その神が役割として実在しているなら話は別だ。

 

 

「母トリガーへの生贄は、トリオンがデカければデカいほど良いってのは話した通りだ。しかもゼムリア…滅んだ国家が征服した七国の母トリガーを無理矢理融合させた母トリガーだ…生贄のトリオンは、それこそワールドトリガーに匹敵するほど莫大なもんじゃなけれないけなかった。そこで選出されたのがエイドスって女だった。他にはいないほどのトリオンの持ち主…実験を円滑に進めるためにエイドスには不死身のトリガーとか色々埋め込まれたって話だ。それから何千年…何万年が経ってんだろうなぁ……今や“生きながらにして死んでいる”ってエイドスの影法師…結社の盟主から聞いたぜ」

 

 

一度に与えられた情報が多過ぎる。

ゼムリアは遥か昔に滅んだ国家の実験国。

大陸は滅んだ国家が征服した七国の母トリガーを無理矢理結合したもの。

その(生贄)がゼムリアで信奉される女神エイドス。

エイドスには不死身などのトリガーが埋め込まれている。

ゼムリアの防壁として七国の冠トリガーは統合されて“女神の枷”となった。

空になった冠トリガーの器には導力が注がれて七の至宝になった。

至宝の器がなければ次の実験に移れないため、その回収に来たのがマクバーン。

 

 

「なるほどな……筋は通る。信じてもいいかもしれねえな」

 

 

そういった情報をクロウは整理する。しかしまだ腑に落ちない点があった。

 

 

「なぜ器だけの回収なんだ?その中身…力もセットじゃなきゃゼムリアのエネルギーの総量としては損…実験を繰り返すたびにその規模は縮小していくんじゃねえのか?」

 

 

「ま、否定はできねえな。とは言ってもそんな例は今回の《巨イナル一》くれえのもんだが。他の至宝……《幻》がいい例だな。《幻の至宝》は自滅したが、器は残る。冠トリガーだからな、至宝の力と言えどトリオン由来のものじゃなきゃ絶対に壊せねえ」

 

 

確かに、トリオン兵に通常兵器の効きが悪いのと同じ原理だろう。

 

 

「そして自滅した分のエネルギーだが、こいつは時間が経てば回復する。ゼムリア大陸におけるエネルギーの総てはトリオンを変換したものだからな。……クロウ、お前ならもう気づいてんだろ?」

 

 

 

「トリオンと導力……多少差異はあれど共に“時間経過で回復する”という性質を持つ。おそらくトリオンに最も近い性質を持つエネルギーが導力……それは、いずれ世界が開かれた時にトリオンというエネルギーに順応するため…か……」

 

 

トリオンと導力。その類似性についてはリィンも言及していた。それはクロウが言った通りであり、またゼムリア大陸が実験から解放された後、トリオンというエネルギーに慣れるための練習のようなものだ。

 

 

「クク、正解だ。まあ盟主にとっちゃ気持ちばかりの抵抗らしいがな」

 

 

 

「“抵抗”か………ひとまずは理解したぜ。その上でもう一つ質問だ。世界を“次の周回”に進めるという意味……それは再び人々に七至宝を与え、その行く末を見届けるという意味でいいんだな?」

 

 

それは質問というより確認という方が表現として正しい。なにせ、答えがわかりきってるからだ。

 

だからそれは、最後通牒のようにマクバーンに伝わった。弱敵であればその意思を捻じ曲げかねないクロウの声音に、マクバーンは即答する。「ああ、そうだ」と。

 

 

「…そうかよ。じゃあやっぱりこいつを渡すわけにはいかねぇな」

 

 

七の騎神のトリガーホルダーを握りしめながらクロウは言う。

 

 

「それは例え、ゼムリアが滅びかけてると言ったとしてもか?」

 

 

しかし、返ってきた言葉は予想外のもの。クロウが“七の騎神”を渡さないのはゼムリアを新生させないため。ゼムリアが次の周回に入るならば、きっと今の人々はどうにかされてしまうのだろう。今の時代に古代ゼムリア文明以前の歴史が判明していないように。

 

だが、ゼムリアが滅びかけてるーーーー?

 

 

「龍脈の枯渇なんてのはお前がいた頃からゼムリアを騒がせてただろうが。今はそれがゼムリア全土に広がってるってわけだ」

 

 

確かにクロウがゼムリアを脱出した7年前でさえ、大陸東部は龍脈が枯渇して不毛の大地と化していたという。

 

 

「龍脈の枯渇……ゼムリアが近界の一つだとすれば、ありえない話じゃないか?」

 

 

眉根を寄せたクロウだったが、それを打破するように言葉を紡いだのは刀也だった。

 

 

「ゼムリアが七国を統合した特別だってのはわかった。だけどマザートリガーで動くって原則が変わらないなら、“神”が不死身なら、龍脈の枯渇(国が死ぬ)なんてのはありえない」

 

 

刀也はボーダーでも古株で、多少なら近界の事にも明るい。だからこそ導けた答えだった。

 

だとしても龍脈の枯渇は事実。なら考えられるのは。

 

 

「自作自演……と言うよりはゼムリアを次の周回に到らせるために龍脈をエイドスが吸い上げてるって事か?」

 

 

世界を新生させるならば、それなりの出力が必要だろう。しかしエイドス()単体では為せないため、代わりとなるエネルギーを世界から吸い上げてるとしたら説明はつく。

 

マクバーンは正解だと言うように「クク」と嗤う。

 

 

「なれねぇ交渉なんざするからだ。…とにかく俺はゼムリアを“七至宝の行く末を何度も見届ける事を繰り返すだけの実験場”で終わらせたくねぇ。とうの昔に滅んだ国の実験なんか放棄して、今を続けて未来を形作りたい」

 

 

一拍置いてクロウは宣言する。

 

 

「だから“七の騎神”は渡せねえ。俺は俺の手段でゼムリアを解き放つ」

 

 

忌々しい使命からーーーー。

女神すら縛る使命から、ゼムリアという世界を解放する。

 

 

「少しの間待っててくれや。こっちはこっちでゼムリアに行く手段を整えてるからよ。しばらくしたら、そっちの問題を解決しに戻ってやる」

 

 

そこでクロウは笑って傍らの刀也の背中を押し叩く。

 

 

「こいつと一緒にな」

 

 

そうされた刀也は、努めて自分の置かれている状況を忘れて「ああ!」と返事をひり出す。

 

 

クロウの答えを聞いて、マクバーンは気まずそうに「あー」と頭を掻いて、そのあとすぐに視線を戻す。

 

 

「わかった。そこまで覚悟決まってんならもう俺から言う事はねえ。ただまあ、あんまり時間は残ってねえから、できるだけ急いだ方がいい。リベールやらクロスベルやら、帝国の連中…それにお前らが去った後に起こった共和国での事件を乗り越えたヤツらも奮戦しちゃいるが、時間稼ぎにしかならねえ。ゼムリアを解き放つつもりなら、エイドスが“次の周回は五つの至宝だけでいい”と諦める前に来るこったな」

 

 

マクバーンの忠告に「ああ」と短く答える。

結社のオルフェウス最終計画…騎神が争った《幻焔計画》に続く第三段階が完了してから今日まで、きっと“終わり”が続いているのだろう。至宝の器なくしては“次”が創められないから。

そんな状況下で仲間たちは、まだ見ぬ同志は足掻いているという。“次の周回”という安易な救済の道は知らないにしても、世界を終わらせないために。おそらく“次”を創めるエネルギーを収束させるためにゼムリア大陸を覆っていた女神の枷(防壁)も解除されている事だろう。他国からの侵略もあれば、トリオン技術なんて新しいものになれる時間も必要だったろう。

ありとあらゆる苦難がゼムリアを襲ったはずだ。それでも諦めず、立ち上がり、前に進んだならば……報われてもいいだろう。その努力に報いたいと思ってもいいだろう。

 

クロウはそうして、決意を深める。

 

 

 

髪は色を失った白から元の銀に戻り、赤い瞳には覚悟が宿ったのを見て、マクバーンは安心したように笑みをこぼした。

 

 

「さて……そんじゃあ俺は帰るとするぜ。クロウ…くれぐれも注意するこった。“七の騎神”はワールドトリガー並みに力を持つ。簡単に国を滅ぼし得る力だ。せいぜい扱いには気をつけな」

 

 

踵を返そうとしたマクバーンを「待ってくれ」と呼び止める。

 

 

「“ワールドトリガー”って、なんだ?」

 

 

それが最後の質問だった。

ワールドトリガーとは何ぞや?

何度も会話に出て来ているし、アフトクラトルの大男、ランバネインも“七の騎神”を指してそう言っていたが。

 

 

「……まあ、そりゃ知らねえよな。母トリガーや冠トリガーを知らねえんだから」

 

マクバーンは納得したようにして、語る。

 

 

「ワールドトリガーってのは、言っちまえば超強力な黒トリガーだ。たったひとつの黒トリガーに、その国のすべて……国民から母トリガーに至るまで、すべてのトリオンと生命力を注ぎ込んで造られた黒トリガーを、ワールドトリガーと呼ぶ。文字通り、世界ひとつを犠牲にして完成するトリガーだからな」

 

 

近界に浮かぶ国のひとつの総てをひとまとめにした黒トリガー。それがワールドトリガーだとマクバーンは言った。

 

 

「ま、ワールドトリガーと言っても能力そのものの変質はあまりねえ。元の黒トリガーの出力を大幅に向上させるってだけだ。ごく稀に新しい能力が発現する事もあるみてぇだが」

 

 

その内容にはクロウも納得する。マクバーンの魔神形態の馬鹿げた火力は、そんな底上げがあったからだと理解する。

 

 

「元の黒トリガーの性質を色濃く残すとは言え、その選定は大きく狭まる。単純に犠牲となった総てに気に入られなきゃいけねぇからな」

 

 

黒トリガーを起動できる者は限られる。普通の黒トリガー(たった1人)でも起動できる人物を探すのに手間取るのに、星ひとつの命に認められなければ起動できないとなると、狭き門という表現が可愛らしく見える事だろう。

 

 

「“七の騎神”は厳密に言えばワールドトリガーじゃねえが、七つの騎神……今や《巨イナル一》か……を内包してる事に加えて終末の剣まであるしな、出力はワールドトリガー並みと言っても過言じゃねえだろう」

 

 

「俺の障壁も破ったしな」とマクバーンは付け加える。確かに《巨イナル一》そのものとなったオルディーネ……オルディーネ=ギルスティンなら、どんな難敵でも撃破できるだろうという確信があった。だからこそ、扱いに注意は必要なのだろうが。

しかし、そんな事より前にマクバーンのセリフの中に気になる文言があった。

 

 

「ひとつ聞くが、まさかミリアム…終末の剣も黒トリガーなのか?」

 

 

「まあそうだな。真っ当なプロセスじゃなかったが、造り方として間違ってはいねえ。あの白い終末の剣は黒トリガーだ」

 

 

考えてみれば、制作した人物が命を懸けたというのはクロウの知る黒トリガーの造り方と相違ない。

となると、そんな武具でしか殺せない堕ちた女神の聖獣にも言及したくなってくるが、これについては答え合わせの機会は永久に失われているため思考を放棄する。

 

 

「こんなもんか」と説明を終えたマクバーンは短い挨拶を残すと、さっさと門を開いてその姿を消してしまう。

「それじゃあな、ゼムリアで待ってるぜ」と。

 

 

こうして三門市の危機は乗り越えられたのだった。




《創の騎神》オルディーネ=ギルスティン……いったい何者なんだ……?

という冗談はさておき。作者の妄想騎神です。詳細については後々、活動報告で語られたとか語られなかったとか……
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