ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに 作:クラウンドッグ
「ガイストと少し前に試作していた“アレ”ーーー組み合わせられませんか?」
忍田との争奪戦が決まってすぐ、刀也は鬼怒田と接触していた。
条件のひとつである“夜凪隊のA級への昇格”。
その狙いは3つあった。その内の2つは話し合いの場で言われた通り、争奪戦で試作トリガーを使用するためというのと遠征選抜第一試験をパスするためだ。
選抜試験の突破が本当の狙いと思われていたが、実際は試作トリガーの使用こそが本筋だ。
それも話し合いで鬼怒田が言及したように八葉一刀流の試作トリガーではなく、もっと別のものだ。
「アレ? アレとはなんだ?」
「ほら、アレですよ。アレアレ……」
「うーん」と名前を覚えていないのか、眉間を指でつつく刀也。
「たしか…そう、おれとクロウが陽子をスカウトしに来た時にテストしてたやつ!」
やはり名前は覚えていなかったが、使われていた場面を引き出して鬼怒田の記憶を刺激してみる。
鬼怒田も「ぬ〜ん」としばらく頭をひねって、
「『リード』か! リードとガイストを組み合わせると…………………ッ!?」
リードは自身の漏出したトリオンにカタチを与え、利用するトリガーとして開発された。が、弾にするしても盾にするにしても既存のトリガーより出力が低く、加えてダメージを受ける事を前提としていたため“失敗作”の烙印を押されたトリガーだった。
ガイストはあえてトリオン体のバランスを崩し、他の部位に集中する事で出力を上げるトリガーだ。その際、制御の問題でトリオンが漏出するという欠点を持つ。
しかし。トリオンを漏出するガイストと、漏出したトリオンを利用するリードを組み合わせられれば、革新的なトリガーが誕生するのではないか。
という刀也の発想も鬼怒田も理解したようで、絶句したあとため息をついた。
「まったく…こんな事をよく思いつくなキサマも」
「まあホントに思いつきなんで流してもらって結構……って言いたいところなんですが、大至急作ってもらいたいです。3日以内で」
「3日以内だと!? ふざけた事をぬかすな!」
「などと言いつつ2日で仕上げるあたり鬼怒田さんさすがなのであった」
その刀也の予言通りに鬼怒田は“ガイスト《リード》”を作り上げて渡すのであった。
☆★
観戦を初めてからしばらくして「妙だな」と太刀川は言った。太刀川の感覚では忍田の瞬殺で終わっても何らおかしくはなかった。
それはクロウも同じ意見だった。交渉の際にグランーーーエネドラと模擬戦を行った忍田の戦い方は見ている。だから今、刀也と向き合っている忍田の戦術は忍田本来のものと違うと断言できる。
ノーマルトリガーではなくⅦ"sギアを使っているから、と言ってしまえばそれまでだが、それ以上の奇妙さを感じていた。
間合いの取り方や戦技を発動するタイミングが刀也と一致する。それでも忍田が一枚上手だが、それは刀也が理想を追求したまま突き進んだらの姿の体現のようでもあり。
どこか似た光景を見た覚えがあった。
「ヨナさんも、いつもと違うな」
話題を転換したのは太刀川だ。その視線は刀也に向けられている。
「気合いうんぬんじゃねえ。あれは……“正解”か」
正解、と太刀川は言った。まるで聞いたことがあるかのように。クロウが怪訝な目をすると「前に酔っ払った時に聞いたんだよ」と説明した。
「ヨナさんのサイドエフェクトは“正解”がわかるんだってな。……いつもはどうも意図してそれを選んでねえみたいだったが…ランク戦とか、おれたちとのエキシビションマッチでも見せただろ」
正解がわかるサイドエフェクト“超直感”。刀也はそれを駆使してこれまで戦ってきた。しかしその使用は限定されたものだった。
リィンならこうする、という“理想”で“正解”を上塗りした行動。しかし刀也ではリィンの動きは再現できないから、刀也の動きは“理想”と“正解”の狭間で、中途半端なものとなる。
しかしそれを感じさせない“正解”の動きがあった。それは例えば荒船隊の同時狙撃を打ち破った神業だったり、二刀の太刀川に一刀で互角の剣舞を繰り広げた様だったり。
理想を追求しては敗北すると観の眼が判断した瞬間なのだろう。
だが今の刀也は常に正解で戦っている。リィンという理想になるのではなく、追いつき並ぶために。
刀也がガイストを起動する。
「お、ありゃ京介の…」
太刀川はガイストを起動した刀也を見て言った。
「確かにあれなら忍田さんと渡り合えるかもな」
“渡り合える”と。それでまだ勝ちの目はないと踏んでいるのだ。それは正しい分析だった。
生前のリィンの動きをトレースできるⅦ"sギアはトリオン体の身体能力を底上げしたものだ。リィンの膂力は普通のトリオン体では追いつかないほどのもの。
刀也はそのどうしようもない差をガイストを使う事で埋めた。しかしそれはあくまで同じ土俵に立っただけだ。
しかしそれは、あくまでガイストが以前のものだったらの場合だ。
「それだけじゃねえ。あれは改良版だ」
刀也のガイスト《リード》の特訓に付き合ったクロウはその真価を知っている。
それをもって刀也は自身の新たなるスタイルを確立した。……より正確に言うなら、すでに開拓されつつあった戦闘法を言語化できるまでに研ぎ澄ませたのだ。
「改良版? どういうことだ」
「そりゃ見てのお楽しみだ」
言うならば、正解を超えた夜凪刀也だけの八葉一刀流。
夜凪刀也のボーダーでの4年間を八葉一刀流に落とし込んだ、“八葉一刀流 界境防衛分派”を。
☆★
「ガイスト《リード》、起動」
果たしてそのトリガーは刀也の予想通りの出来だった。
ここ数日間クロウと共に出力の調整を行い、感覚の把握に努めた。
『
ガイストのもう1人の使い手たる烏丸は刀也よりも扱いに長けている。白兵戦特化、機動戦特化、射撃戦特化などを瞬時に入れ替えて使いこなすが、刀也にはそれを習熟するだけの時間はなく、ゆえに生み出した剣士戦特化。
『緊急脱出まで180秒。カウントダウン開始』
音声が残り時間を報せる。180秒。3分。
短かすぎる。充分すぎる。
夜凪刀也の4年を3分に凝縮しろ。出し尽くせ。心を燃やせ、魂を焦がせ。
ここで終わってもいい?違う。ここから始めるために!
目を細めた忍田の視界から刀也が消える。
眼前に迫った孤月を受け止めようとして弾き飛ばされる。
刀也は漏れ出たトリオンを孤月に纏わせると、それを振り切って緋空斬とした。
忍田は着地と同時に疾風を繰り出し、緋空斬を打ち消すと刀也に肉薄する。
一合。二合。三合。打ち合う。
刀也から漏出したトリオンを固めるとアステロイドのように射出した。
さすがの忍田も刀也の相手をしつつ弾丸を捌くのは難しいようで後退して攻撃を避ける。
後退した忍田は緋空斬を放つ。
対峙する刀也は呼吸を整えた。迫る緋空斬を前に、
「一の秘技」
緋空斬を掬いあげる。そのまま巻き取ると共に己のトリオンも注ぎ込み、斬撃の竜巻として撃ち返した。
一の秘技『廻天』
目を剥きつつも跳躍し回避した忍田に孤月が迫る。
「二の秘技」
疾風だ。その一撃は防いだ忍田だったが続く斬撃は対応できずに裂傷を負った。
二の秘技『裏疾風』
少しばかり距離が空き、同時に剣を振り上げた。腕から剣に巻き上げられたのは龍を象る炎のイメージ。
「三の秘技」
振り下ろされ、撃ち放たれる龍炎は互いを食い破る。
三の秘技『龍炎撃』
次撃は刀也が先手を取った。忍田は迫る孤影の斬撃を切り払うべく鋭い抜刀を繰り出すが、
「四の秘技」
孤影斬に刀也の抜刀が重なる。二重の斬撃が忍田の紅葉切りと鎬を削る。
四の秘技『蓮華切り』
刀也は再び納刀する。好機を見逃すかの如き動きに隙を見逃さぬ忍田が太刀を振ろうとして、
「五の秘技」
何故か先に刀也の孤月が振り抜かれている。出鼻を挫く先の先の攻撃だ。
五の秘技『裏残月』
戦いのテンポを取られている事に気づいた忍田はバックステップを踏み距離を取る。
太刀を緋色に染めると斬撃を放つが、それは刀也も同じだった。
「六の秘技」
緋色の斬撃が激突する。そのまま相殺されるかと思われた斬撃は二つに分裂するとそれぞれが鳥のように舞うと忍田に襲いかかった。
六の秘技『飛燕斬』
燕の如き斬撃に対応する忍田に刀也の次撃が放たれる。刹那の七連撃が一太刀にて結ばれた。
「七の秘技」
斬撃は嵐と化し、一箇所に収束する。
無想覇斬で迎撃するが後手に回ったせいでダメージは不可避だった。
七の秘技『無空一閃』
互いに距離を取って一つ呼吸をした。睨み合って、
「これが…君の八葉か……」
全身からトリオンを漏出させつつ忍田は言う。致命傷を負ってないのはさすがと褒めるべきか、詰めの甘い刀也を責めるべきか。
「なら次は…」
忍田の雰囲気が静謐なものへと変貌する。それはリィンの、剣聖そのものの雰囲気だ。
「まだですよ」
忍田の続くであろうセリフはきっと『無仭剣』を引き出すのだろう。あの凄まじい一刀を。
正直なところ、見てみたいとは思う。
だけどそれはもう夜凪刀也には必要ないものだ。
「八の秘技」
孤月を構えて突撃する。無仭剣は間に合わず、忍田は防御の構えを取った。
「破甲剣ーーーー!」
貫く。孤月を防いだはずの太刀は砕け、鋒が胸元に突き刺さる。
これこそが夜凪刀也の導いた八葉の極点。“身剣合一”の境地。
それはリィンの“色即是空”とは違う極みだ。だが、それでいいのだ。夜凪刀也はリィン・シュバルツァーではないのだから。
リィン・シュバルツァーがあまりに理想的過ぎて。夜凪刀也から自信が消え失せてしまって。だから刀也はリィンになりたかった。
だけど、それは無理な話だった。偽物は本物にはなれないし、刀也は本物以上の偽物を目指してもいなかったから。
だから、夜凪刀也は夜凪刀也である事を始めた。始める事にした。
「見て下さい。これがおれだ」
まだ何者でもない。だから今はまだーーー
「ーーー『
孤月を振り切る。一刀両断。崩れ落ちる忍田の笑顔があまりにも満足げでーーーーー
「ーーーーー見事だ」
“さすがは俺の一番弟子だ”と声には出さず、唇だけで紡ぐ。
「……ぁ………」
黒トリガー“Ⅶ"sギア”争奪戦終結。
勝者、夜凪刀也。Ⅶ"sギア奪還。
文字数少なめのためヨナさんの戦技の設定を公開!
一の型、秘技『廻天撃』
『螺旋撃』をベースにした秘技。
螺旋撃のモーションで弧月で敵を薙ぎ払いつつ、噴出したトリオンが小さな竜巻となって放たれる。
二の型、秘技『裏疾風』
『疾風』をベースにした秘技。
疾風で敵に斬撃を加えたのち、とどめの真空波で周囲を切り払う。
三の型、秘技『龍炎撃』
『業炎撃』をベースにした秘技。
燃え盛る炎を龍の形に押し込めて放つ。龍炎は空を駆り、地を這い敵を炎上させる。
四の型、秘技『蓮華切り』
『紅葉切り』をベースにした秘技。
真空波を放つと同時に切り込み、鋭い2つの斬撃を叩き込む。
五の型、秘技『裏残月』
『残月』をベースにした秘技。
先の先をとる先制反撃技。攻撃を予兆を感じとり、敵の出足を挫き残月を放つ。
六の型、秘技『飛燕斬』
『緋空斬』をベースにした秘技。
緋色の斬撃は空を飛ぶ燕の如く、その軌道を変化させる。
七の型、秘技『無空一閃』
『無想覇斬』をベースにした秘技。
刹那の七連撃を一太刀で結ぶ。炸裂した斬撃の嵐が一か所に収束する。
八の型、秘技『破甲剣』
『破甲拳』をベースにした秘技。
身剣合一の境地から放たれる一撃は、いかな守りとて容易く貫く。