ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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我らが征くは星海の彼方

 

それから。

 

クロウ・アームブラストと夜凪刀也はトップクラスの成績で残る選抜試験を突破した。

 

刀也のトラウマーーー遠征艇で悪夢を見て発狂するというものもあっさりと改善されており、遠征艇を模した施設で何日か過ごしたが、トラウマの再発はなかった。

 

 

そうして幾日かが過ぎて、遠征部隊が決定した。

 

各部署に一斉に報せが届く。

 

以下、長期遠征通達文より一部抜粋。

 

『隊長として

忍田真史

 

以下部隊選出

 

太刀川隊より

太刀川慶

出水公平

国近柚宇

 

冬島隊より

冬島慎次

当真勇

真木理佐

 

風間隊より

風間蒼也

歌川遼

菊地原士郎

三上歌歩

 

玉狛第二(三雲隊)より

三雲修

空閑遊真

雨取千佳

ヒュース・クローニン

宇佐美栞

 

 

以下個人選出

 

里見一馬

二宮匡貴

影浦雅人

絵馬ユズル

弓場琢磨

東春秋

 

夜凪刀也(黒トリガー)

クロウ・アームブラスト(黒トリガー)

 

月見蓮(オペレーター)

沖田陽子(オペレーター)

 

以上 25名』

 

 

 

B級ランク戦を経て、数々の調略を行い、試練を突破した夜凪隊は、全員が個人として遠征部隊に選ばれるという異例になっていた。

クロウと刀也は黒トリガー使いとして。陽子はオペレーターとして。ちなみにグランは試作トリオン兵として卵の状態で30体ほど遠征に随行する。

 

 

 

 

「だいぶ偏ってんな」

 

 

選出された部隊は4つ。A級1位、A級2位、A級3位、そこから飛んでB級へと。

個人選出では適当な人材が選ばれてはいるものの、おそらく政治的なものも絡んでいるはずだ。

 

 

「……ま、いろいろあるんでしょうよ」

 

 

クロウの言葉に、どうしてこうなったかある程度理解できる刀也はため息まじりに言った。

 

 

 

A級1位〜3位までの遠征部隊入りは前回の遠征と同じだ。

それに加え、No.1射手である二宮、No.1銃手である里見、黒トリガー2本を投入するのは遠征に対する本気度が窺える。

それでもボーダー最強の部隊とされる玉狛第一や他のA級部隊、迅などを遠征部隊に選出しないのは“本国の守りをおろそかにできない”という点もあるからだ。

 

城戸としては忍田や夜凪隊がいない間に実権を取り戻す算段もあるのだろうが、そもそも太刀川隊などに城戸派離反については“遠征終了まで”とタイムリミットをつけているため、取り越し苦労になるだろう。

 

 

 

そして、玉狛第二が遠征部隊入りしている件についてはーーー

 

 

 

「ええっと、夜凪さんたちが便宜を図ってくれたって聞きました」

 

 

通達が届いてからしばらくして夜凪隊の隊室には三雲が来ていた。

というのも、B級ランク戦を3位で終えた玉狛第二は本来部隊として遠征に参加する事はありえなかったが、刀也の計らいにより部隊での遠征参加が決まったからだ。

 

 

「いや、俺はきっかけをつくっただけ。遠征部隊に選ばれたのは玉狛第二の実力だろ」

 

 

刀也の言う“きっかけ”とは、黒トリガー争奪戦において上層部に突き付けた第二の条件。それに含まれる3つ目の狙い。

 

第二の条件は“夜凪隊をA級に昇格させる事”だ。

これは曲解すると“B級1位の座は空席になる”という事だ。

それでもし順位が繰り上がるとするなら、B級3位だった玉狛第二はB級2位になる。

B級2位なら部隊での遠征参加が可能となる。

 

 

「それに実際、動いたとしたら唐沢さんだ」

 

 

営業担当の唐沢は三雲贔屓な面が見られる。上層部で刀也の言葉を曲解し、玉狛第二に部隊単位での遠征参加資格を与えられると提案できるのは彼くらいのものだろう。

 

 

「でも、夜凪さんがきっかけをつくってくれなきゃ、そもそもが破綻してましたから」

 

 

そうして礼を言う三雲は、どうやら風間から話を聞いたらしい。刀也と忍田による黒トリガー争奪戦の時だ。

あの時にはすでに部隊での遠征参加資格を手に入れていたようで、選抜試験の合間に玉狛の面子に伝えたという話らしい。

 

 

「ま、おまえは前途有望な若者だからな。しっかり経験を積みなさいよ。…でも気は抜かずにな」

 

 

クロウの目から見ても、三雲はボーダー内部では有望株だ。

個人の能力は間違っても高いとは言えないが、機転はきくし気も回る。それに出来る事を言語化できるため指導者の素質もある。そう遠くない未来、東のようになるのではないかというのが予想だ。

 

 

「はい」と頷く三雲に長谷川の姿を幻視しそうになって刀也はかぶりを振った。第0次近界遠征(あの時)とは違う。

命日の墓参りなんて長谷川のだけで充分だ。

 

 

それからいくつか言葉を交わし、三雲は隊室を去って行った。

 

 

 

「…ったく、おまえもやるもんだな、刀也」

 

 

三雲の背中を見送ってからクロウは刀也に言った。玉狛第二に遠征参加資格を得させた事を示していた。

 

黒トリガー争奪戦が決まった直後のぶれぶれの心境でよくそこまで気が回ったものだと。

 

 

「まあ、我ながら良く出来た筋書きだとは思うよ。ちょっと上手くいきすぎだ。……きっとそれも、いろんな偶然が重なったからだと思う」

 

 

偶然が重なって運命となる。

 

きっとこれは、その軌跡だ。

 

 

刀也のトラウマが4年も改善されなかったのが、こうして黒トリガー争奪戦を引き起こし、夜凪隊がA級に上がることで玉狛第二がB級2位に繰り上げらて部隊での遠征参加資格を得た。

 

巡り巡って……、こういうのを運命というのだろう。

 

 

「なるほど、愛されてんな…」

 

 

玉狛第二は、運命に愛されてる。

 

 

「俺の弟子だからな」

 

 

虚空に消えたはずの言葉に刀也が答える。誇るように言う様は、どこかビデオレターのリィンと重なって見えた。

 

 

 

☆★

 

 

 

「行っちゃうのね、夜凪さん」

 

 

「行っちゃうんです」

 

 

 

遠征部隊出発当日。

 

遠征部隊が出発する前に見送りに来た隊員らと最後の言葉を交わしていた。

 

そんな中、刀也と加古は固有結界(ラブラブフィールド)をつくっており、話していた。

話を切り出した加古にやっぱりおどけて応えた刀也だったが、ムッとした後にしゅんとされたので失敗したと反省。

しかし良い慰めの言葉も月並みなものしか浮かばない。

 

 

自分より背の高い女の頭を撫でてやる。

 

 

「そんな顔すんなよ。帰ってくるって約束したろう」

 

 

優しげに、愛おしげに。周囲からの視線を固有結界で遮断しつつ。

 

すると加古は「そうね」と柔く微笑んだ。それが“二度と逢えないだろうけど、だから笑顔を覚えておいてもらいたい”というような気遣いに感じられて、たじろいでしまう。

 

 

「ふふっ」

 

 

刀也のそんな様子に加古は今度こそ本当に笑った。

 

 

「可愛いわよ、夜凪さん。……あんまり待たせ過ぎないでね? 私みたいな良い女、誰も彼も放っておかないんだから」

 

 

俺なんか放っといて幸せになれ、と言ったらどんな顔をするだろう。そんな事を考えたが、意地悪過ぎるため喉元に留めておく。

 

 

「…わかってるよ。俺も、おまえみたいな良い女を手放したくはないからな」

 

 

この言葉も月並みだ。師から教えられた名言集が役に立つのはこんな時だというのに、何も思い浮かばない。

しかし、それで良いのだとわかる。

 

これが、俺の言葉だ。他の誰でもない俺自身の。

 

 

「じゃ、行ってきます」

 

 

軽く、手を上げて加古に背を向ける。遠征艇の入口に歩を進めたところで「夜凪さん」と呼び止められ、振り返ったところでーーーーー

 

 

 

「ーーーーっ」

 

 

 

ーーーー唇を、奪われた。

 

 

 

数秒のそれに、わずかな名残惜しさを感じて。

 

 

 

「行ってらっしゃいのキスよ、ア・ナ・タ」

 

 

 

あっけらかんと言い放つ加古に「やっぱ敵わねえな」と嘆息する。

 

 

 

「それじゃあ飯を炊いて、風呂を沸かして待っててくれよ」

 

 

加古の言葉に乗っかって刀也もそう言った。

 

 

 

「ご飯にする?お風呂にする?それとも…、ってやつかしら?」

 

 

 

「そうそれ! ははは、今から楽しみになってきた」

 

 

別れ難いがゆえに、笑って別れる。永遠の離別ではない。だから刀也はまた笑んで「行ってきます!」と言うのだった。

 

 

 

☆★

 

 

 

「……すごいですね、アレ………」

 

 

ため息混じり、冷や汗を流しつつ。村上は刀也と加古に視線を向けながら言った。

 

確かにすごいとしか言い様がない。2人だけの世界というやつだろう。周りの目などなんのその、と言った様子だ。

刀也は少し気恥ずかしそうだが、加古に至っては完全に世界に入り切っている。

 

周囲としては苦笑いで見ないフリをするしかない。

 

 

「ま、放っといてやってくれ」

 

 

クロウはそう言って、閑話休題とした。

 

 

 

遠征前の見送りとの会話はいくつかのグループに分かれていた。

刀也と加古、玉狛グループ、忍田と上層部連中、東とその弟子たち、B級仲良し組などなど。

 

 

「や、クロウさん。そろそろ出発だね」

 

 

クロウが太刀川ら攻撃手ランカーたちと言葉を交わしているところに現れたのは迅だった。どうやら三雲らとの話は終わったらしい。

 

 

「ああ。 思えば、おまえにもけっこう世話になったな。恩に着るぜ、迅」

 

 

「別にいいんだ、趣味だしね。 それよりクロウさん……俺の言葉を忘れないでね」

 

 

迅の未来視によると、世界が滅亡するらしい。

それを防ぐためにクロウと刀也は近界遠征に参加せねばならなかったのだと。

 

 

「2人揃ってなきゃ意味がない。どちらが欠けてもダメなんだ。……どうか助けあって、生き延びて、帰って来て」

 

 

 

クロウ・アームブラストと夜凪刀也。2人が揃ってゼムリアに行き、三門市に戻る。

そうしなければこの世界が滅ぶと迅は言う。

 

 

容易く言うが、困難な道である事は疑いようもない。

 

 

そも“ゼムリアに行く”だけでこれだけの労力が必要だったのだ。それに近界を渡り、ゼムリアの問題を解決して、さらに三門市に戻る…など無茶振りと言っても過言ではない。

 

 

「そろそろ教えちゃくれねえか。いったいどうして世界が滅ぶ? いったいなぜ俺と刀也がゼムリアに行けばそれが回避できる?」

 

 

核心。

 

世界が滅ぶ理由。クロウと刀也がそれを止められる理由。

 

 

それは、何なのか。

 

 

 

クロウの隣にいた太刀川や風間はぎょっとした顔をしている。

やはり聞いてはいなかったのだ。クロウや刀也が遠征を途中離脱するという話を伝えられていたとしても“世界の滅亡”なんてトンデモは聞かされていなかった。

 

おそらく知っているのはボーダーの上層部でも限られているはずだ。旧ボーダーの面子くらいだろう思われる。

 

 

しかし、太刀川や風間は知っておくべきだともクロウは考えた。

きっとこいつらが“世界の滅亡”に立ち向かわないわけがないから。

 

 

「……こっちか」

 

 

迅はわずかに目を細めて言った。この場でクロウがこの話題に触れる、触れないの未来は枝分かれしていたのだろう。

 

 

「……まあいいや。この際、太刀川さんたちも知っとくべきかな」

 

 

そう言って迅は簡潔に太刀川らにも説明する。

世界が滅びる可能性がある事。

それを回避するためにクロウと刀也はゼムリアに行ってもらわねばならない事。

 

 

「はっきりとはわからないよ。おれは会った事のある人の未来しか視えないからね」

 

 

「だけど」と迅は続けた。

 

 

「太刀川さんを視た。…戦って、負けて、死ぬ。 風間さんを視た。…戦って、負けて、死ぬ。 忍田さんを視た。…戦って、負けて、死ぬ。 ボーダーのみんな、戦って死ぬか、捕虜にされてた。街に出て市民を視てもそうだ。…死か隷属か。逃げだり地下活動する人もいたけど、明るい未来なんてない」

 

 

それが迅の見た“世界の滅亡”だった。この世界が何者かに支配される。そんな未来。

 

 

「きっとこれは、近界民の仕業だ」

 

 

異次元からの侵略者。その表現が正しく、それ以下はない。

 

 

「はっきり視たわけじゃないから推測になるけど、大規模な侵攻が始まる。四年前の第一次近界民侵攻、この前のアフトクラトルの第二次近界民侵攻とすら比較にならない侵攻…征服。ボーダーは負けて、世界も総崩れ………地球まるごと支配される」

 

 

トリガーは近界の技術であり、地球上ではボーダーが独占した技術だ。

記憶封印措置があるためスパイも難しく、他国に漏洩していないため、侵略国がボーダーという壁を突破できたら、それはそのまま地球の防衛ラインの突破とも言える。

 

 

「それを防ぐためにクロウさんとヨナさんにはゼムリアに行ってもらわなきゃならない」

 

 

「それがどう繋がるんだ」と太刀川は尋ねる。尤もな疑問であった。

 

クロウらがゼムリアに到達するのと世界の滅亡を防ぐのに直接的な関係はない。

 

 

「……おまえはさっき、行って、帰って来いと言った。……これはつまり、そういう事だな?」

 

 

ボーダーが地球の防衛線であるなら、それを突破させなければいい。

 

 

「たぶん、そう」

 

 

未来視で視たわけではないからか、迅の言葉は自信なさげだ。

だがクロウとしてはほとんど確信に至っている。

 

 

 

 

簡単な話だ。

 

 

 

 

侵略者に負けない戦力を追加すれば良い。

 

 

 

 

すなわち、ゼムリアの猛者たちを三門市に連れ帰り、防衛に加わってもらう。

 

 

 

 

と言った旨を説明する。

しかし太刀川らは疑問を抱きがちだ。

 

「戦力を足す……理屈はわかるが、いったいどうやるつもりだ?」

 

「遠征艇の問題もあるしな。それにボーダー総出で負ける相手に数人…多くても数十人か…、で勝てるのか?」

 

 

まあそれも、尤もな疑問である。

 

 

「遠征艇の問題は…わからねえが、戦力としては申し分ねえはずだ」

 

 

なんたってゼムリアは達人、超人、聖人、魔人なんでもござれの異次元だ。

エレボニア帝国だけでも《光の剣匠》、《雷神》、《黄金の羅刹》…etc……である。ゼムリア全土で見れば、そのクラスの達人も両手の指では数えられないだろう。

 

戦うなら騎神を持ち出す相手である。

 

 

 

そういった面々を召喚できれば世界の滅亡を阻止できるのでは…、と思うのだ。

 

 

 

☆★

 

 

 

「定刻だ。出発する」

 

 

迅らとの別れも済ませて、遠征艇に乗り込んだクロウ。座席に座って出発の時を待った。

 

 

緊張した面持ちで忍田が言う。

遠征艇の操縦を務めるオペレーターらがパネルやレバーを操作して数値を読み上げていく。

 

 

(ゲート)、開きます」

 

 

月見が言って間もなく、低い音がして円形の黒い孔が空間を穿った。

 

 

艇内を見渡すと何人かと目が合った。それぞれプレッシャーを感じているようだ。

刀也とも視線が交わる。クロウと刀也は頷きあって、

 

 

 

「出航だ!」

 

 

 

忍田の指示で遠征艇は飛び立つ。門を潜り、近界へ。

 

 

 

一瞬の後に、そこは星海になっていた。まるで宇宙の景色だ。

 

 

 

遠く、久遠の果てを見つめる。きっとそこにゼムリアがある。

 

 

己が故郷に帰るため。

 

亡き悪友のため。

 

その弟子のため。

 

ゼムリアの問題を解決するため。

 

三門市を、世界を滅びの運命から救うため。

 

 

 

我らが征くは星海の彼方。




やった!終わった!第一部完ッ!


今回『我らが征くは星海の彼方』は拙作『ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに』最終話となります(ガチ)。

エンドルート : 俺たちの冒険はここからだ!


近界編、ゼムリア編……と構想がもやっとある程度なので、更新するにしてもまだ先になると思われます。
ので、一区切りとして、ここで完結!という事にします。

また連載する時はしれっと再開すると思うので、思い出したら見てやって下さい。

ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました!


あと1話だけ幕間っぽい感じで短いのを出します。
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