ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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表紙裏風キャラ紹介「老け顔剣士(もどき)トーヤ」の末尾に一文追加しました。

「リィンからモテスキルは受け継いでいない」


以上!
大規模侵攻編第2話、開始します!


抗戦、開始

「らああああああ!」

 

 

 

ダブルセイバーが縦横無尽に振り回される。そのすべては無駄がなく、効率的に敵を倒すための動き。

それは確実にトリオン兵を駆逐していく。

 

 

 

クロウは警戒区域の外に出ようとするトリオン兵の群れを倒していた。

市民に被害を出さない事はもちろん、B級合同部隊が早期に戦線に出れるようにするためである。

B級合同部隊は、市街に向かうトリオン兵を確実に駆逐するためにかつてA級に在籍していたB級1位、2位部隊と、任務に入っていた数部隊を除く全部隊で行動している。そんな彼らの仕事を減らしてやれば、合同部隊が戦線に復帰する事ができるわけだ。

そして、門誘導装置がある以上は、門が警戒区域の外に開く事はありえない。上手く事が運べば合同部隊と警戒区域で戦う部隊で敵を挟み撃ちにできるかもしれない。

 

 

 

 

 

しかし、そうは問屋がおろさないというもの。

 

 

倒したトリオン兵の内部から新たなトリオン兵が姿を現わす。それはトリガー使いの捕獲を目的とした新型のトリオン兵ラービットだ。ラービットはこれまでのトリオン兵とは一線を画す強さを誇る。装甲は厚く、パワーとスピードが両立する。単独で挑めばA級隊員すら食われかねないほどの戦力。

 

 

それが、3匹。

しかもその3匹はノーマルタイプのプレーン体ラービットではなく、各々が特別なトリガーの能力を有するモッド体ラービット。

 

 

「例の新型ってやつか」

 

 

クロウが呟くのと同時に、一体のラービットが砲撃を放つ。「うおっ」と言いつつも余裕をもって回避したクロウだったが、直後に砲撃は囮だったと悟る。

 

オルディーネの鎧を纏うクロウのトリオン体に、黒い欠片のようなものが複数くっついている。

 

 

「これは…」

 

 

これ単体では直接的な破壊力はもたないが、それ以上になにかまずい布石になっているのでは、と考える。

 

思考の間に砲撃を撃ったラービットが飛翔してクロウの眼前に迫っていた。

振り被る拳に防御の姿勢をとったクロウ。しかしラービットのパンチは予想以上に重く、地面まで吹き飛ばされてしまう。

 

起き上がろうとしたクロウだったが、鎧に付けられていた黒い欠片が他の黒い欠片と結びつき、地面に縫いとめられ…それを振りほどく出力を出すのに一瞬の時を求められる。

 

その刹那に、3体目のラービットが腕を液状化し、クロウが縫いとめられている地面の下まで潜らせると、液状化させていた腕を刃状にしてクロウに突き刺すーーーー!

 

 

 

 

しかし、オルディーネの装甲には傷一つない。

ブレード程度では、鎧を貫く事はできない。

黒トリガー『七の騎神』はトリオン体には防御力の違いがない、という前提を覆す破格の鎧を備えていた。

 

 

 

黒い欠片を振りほどき飛翔したクロウは見事な連携を見せた3匹のラービットを見下ろす。

 

 

「飛翔・砲撃タイプに、液状化タイプ、磁力タイプ…とりあえず新型には3つ以上のパターンがあるわけか」

 

 

 

それを知っても、無線機能のない七の騎神では誰に報告する事もできない。

 

ならば、口頭で伝えればいいまでの事。

 

直後ーーーーー

 

 

 

 

「旋空孤月」

 

 

 

振り回された刃は、先端に行くほど速度と威力が向上する孤月専用オプショントリガー『旋空』。

ボーダーにおける旋空の最高の使い手が使うそれは、発動時間にしてわずか0.2秒、射程は40mという脅威を誇る。

その旋空は、使い手の名を冠してこう呼ばれるーーーー『生駒旋空』と。

 

 

 

 

生駒旋空ならば、ラービットの厚い装甲すら斬り捨てる事ができるだろう。しかも、わずか0.2秒、さらに不意打ちの斬撃など誰に防げるという話だ。

 

 

 

 

磁力タイプのモッド体ラービットは生駒旋空によって真っ二つにされる。それに気を取られた残る2匹のラービットを、クロウは瞬く間に切って捨てた。

 

 

 

「ありゃ、えらい強いな。さすが黒トリガー……」

 

 

救援に来たつもりが、そんなものは必要なかったと言わんばかりのクロウに生駒はそう呟く。

 

B級3位部隊隊長、生駒達人

No.6攻撃手にして、ボーダー最高の旋空の使い手。

 

 

 

「いや、助かったぜ。新型には飛翔・砲撃タイプと液状化タイプ、磁力タイプが混じってる!全部隊で共有してくれ!」

 

 

クロウは七の騎神の能力で、すでに合同部隊が近くまで来ていることを把握していた。

それと一旦合流する事を考えれば、新型を即座に倒すより様子見をして性能を見た方が良いと思ったのだ。

 

 

 

すでに本部から「蒼い騎士は味方の新たな黒トリガーだ」と通達が来ていた合同部隊はクロウを敵とは認識せずに近づいて来ている。

 

 

クロウと合同部隊は情報交換をすると、すぐに別れた。

合同部隊は当初の通り、市街を目指すトリオン兵の排除に。クロウは事態の変化を聞きつけて、警戒区域で闘うボーダー隊員たちの元へ向かう事にした。

 

 

どうやら人型近界民が猛威を振るっているらしい。忍田から頼まれたクロウはそのまま最寄りの人型近界民の迎撃に向かう。

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

「風間がやられたって!?」

 

 

 

無線で風間の緊急脱出の報告を受けて夜凪はまずいと直感する。

 

風間はA級でも3位の部隊を率いる猛者だ。しかも個人総合でも3位というボーダーでもトップクラスの戦力。

その風間が敵にほぼ何も出来ずに敗北したという報せに夜凪は戦々恐々とせずにはいられなかった。

 

 

無線からはさらに敵が人型近界民であること、黒トリガーであること、液状化するブレードを使うこと、正体不明の攻撃により体内から攻撃してくる可能性がある事まで伝えてくれる。

 

 

交戦していた風間隊は、風間が緊急脱出した事もあり、現在は退却していると聞く。付近にはB級下位部隊もいるが、足止め程度にしかならない事も聞くと、夜凪は躊躇わず、B級下位部隊を敵の黒トリガーの足止めに回すように伝える。

 

敵黒トリガーの進行方向には本部基地がある。基地に侵入されるのだけは何としても防がねばならないと夜凪の直感が囁いていた。

 

 

 

「海老名隊と間宮隊を足止めに向かわせた。それでどうするつもりだ、夜凪くん?」

 

 

無線の相手は忍田に変わっていた。

夜凪は一切の躊躇もなく叫ぶ。

 

 

 

「俺がいきます!」

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

エネドラは憤っていた。

それが何に対する憤りすら、今は思い出せない。

 

 

今はただ、『泥の王(ボルボロス)』を操り敵を切り刻む事に快楽を覚える。

 

 

 

 

向かってきた敵を切り刻む。

 

 

「雑魚が」

 

 

吐き捨てる。

 

ストレスは発散できず、募るだけ。

 

いつからだったろうかーーーーそれは、思い出せる。

 

自分の右目が黒くなり始めた頃だ。

 

 

アフトクラトルの角……トリガー(ホーン)ーー正式名はトリオン受容体ーーは、幼少期に優秀な者に取り付けられる。そのおかげでアフトクラトルの角付きはトリオンの量が常人と比べて遥かに優る。

 

しかし、角付きになるリスクも勿論存在する。

トリガー角が脳にまで根を張ると人格が破綻し、最後には死に至る。

 

角付きに選ばれた時は誇らしかったし、それ相応の恐怖もあった。

だが、そんな恐怖も仲間たちとの満ち足りた時間が忘れさせてくれる。エネドラは優秀だった。同年代では敵なし…1つ2つ上の世代であるハイラインやミラすら認める程の文武両道。

そんなエネドラが黒トリガーに選ばれたのはある種必然だったのかもしれない。

『泥の王』ーーー自らを固体、液体、気体に変化させる事ができる特異な黒トリガーはエネドラを更なる高みへと導いた。

 

アフトクラトルにおいても国宝の使い手に次ぐ程の実力者として名前を挙げられるほどに名声を得た。それに快楽を覚えるようになった時、エネドラはふと自分の変化に気がついた。

 

自分を満たすのは名声だったか?あるいは富か?違ったはずだ。仲間たちとの日常こそが自分の宝だったはずだ。

 

 

 

じわり、じわり。

 

 

 

日に日にエネドラは自分が何者であるかわからなくなってくる。

暇さえあれば模擬戦を行い、相手をめちゃくちゃにする。始めの頃はそれでストレス発散ができていた。

 

 

 

 

じわり、じわりと。

 

 

問題は、模擬戦でどれだけ敵を切り刻んでもストレスが発散できなくなった頃に起こった。

 

じわりじわりとエネドラを蝕んでいたトリガー角が、脳にまで根を張った証。眼球が黒に染まり上がる。自分が自分でなくなる感覚に恐怖したエネドラは正気を失い、泥の王で周囲を傷つけた。

それはアフトクラトルにおける大事件となった。国宝の担い手によってその場は収まったものの、周囲のエネドラを見る目は一変した。

畏敬は恐怖に、孤高は孤独に変化した。

 

 

エネドラの不幸は、優秀に過ぎた事だった。優秀だった彼は他人に頼るという事ができなかったのだ。

トリガー角に端を発する問題を1人で抱え込み、そして暴発した。

 

 

 

元の人格は見る影もなく破綻し、その聡明な頭脳も陰りを覚えた。

思考に靄がかかるとでも言うべきか、エネドラの行動は直情的なものになった。

 

 

泥の王は幸か不幸か、強くエネドラが頭を捻らずとも敵を滅するだけの力を有していた。

 

 

 

 

 

 

 

追尾弾嵐(ハウンドストーム)!」

 

 

3人の敵部隊がエネドラに一斉攻撃する。

B級21位部隊、間宮隊の追尾弾嵐は3人全員がフルアタックする攻撃力の高い技として知られている。

しかし、どんな攻撃も敵に実体がなければ無意味。トリオン体を液状化して追尾弾嵐を躱したエネドラは面倒そうに視線を上げ、それと同時に敵部隊の直下まで潜り込ませていた液状化ブレードを突き上げた。

 

 

 

「うぜぇな、くそ雑魚が」

 

 

 

無機質な『緊急脱出』という音声が重なり、3つの光が基地へ飛んでいく。

 

 

さっきの透明になるトリガーを使う3人部隊はなかなか良かったが、それ以外は雑魚だ。

玄界(ミデン)の進歩も目覚ましい」などとヴィザは言っていたが、泥の王にかかればなんてことはない。

 

 

 

 

「すまんがここから先は通行止めだ」

 

 

 

だから、新たに現れた1人の男にもさして期待はせずに、その足元に液状化ブレードを忍び込ませた。

 

 

☆★

 

 

 

「すまんがここから先は通行止めだ」

 

 

 

なんとか間に合った夜凪はエネドラに向かってそう言う。

直後、嫌な予感がしてその場から跳び上がると、地面からブレードが突き出ているところだった。

 

 

 

夜凪刀也のサイドエフェクト『超直感』の真価は、戦闘時において発揮される。それこそ未来予知ではないかとすら言われる程の直感は、不意打ちや狙撃を完全に無効化し、ほとんどの攻撃は避けるか防がれるかされてしまう。

 

夜凪にダメージを与えるには、それこそ避けられないほどの飽和攻撃か、夜凪の剣技を上回るほどの武で圧倒するしかない。

 

 

そういう面で言えば、初見殺しこそが真髄の泥の王は夜凪に対して最悪の相性だった。

 

 

 

「あん?」

 

 

 

どういう仕掛けだ?とエネドラは考える。最初に会敵した3人組ーー風間隊は音か振動かで泥の王を避けていた。泥の王のネタが割れているのなら、先程戦った2部隊ーー海老名隊と間宮隊はどうして泥の王を避けられなかった?

簡単な話だ。音、もしくは振動を捉えられる者がいなかっただけの事。

 

なら今、目の前にいるこいつは?

風間隊と同じく音か振動に敏感なやつなのか?

 

 

少しだけ、頭の靄が晴れる。初見で泥の王を防ぐだけの猛者を倒すために思考を回転させる。

 

 

これはどうだーーーー?

 

エネドラは自己を僅かに気体化させると、それを夜凪の体内に潜り込ませようとしてーーー距離を取られる。

 

 

 

 

警戒区域の民家ーーーもはや住人の退去したその屋根に乗って夜凪は呟く。

 

 

「な〜んかやべぇな。固体、液体とくれば次は気体かな?」

 

 

エネドラは気体化の能力についても知られている事に驚愕する。気体ブレードはこの玄界では一度しか見せてない技だ。しかも、夜凪の言い草はたった今、食らってもいないのに看破したかのようなーーーー

 

 

 

夜凪の思考は至極単純。

固体、液体、気体……水の三要素である。夜凪は高卒後は大学に入学しなかった、ボーダーでは珍しい低学歴組だ。そんな夜凪は知識が乏しいがために「あれ?固体、液体とくりゃ次は気体じゃね?」という発想に至ったわけだ。

 

 

 

「六の型ーーー『緋空斬』」

 

 

 

エネドラから距離を取った夜凪は孤月を振り上げると、オプショントリガーを発動する。

 

八葉一刀流、六の型『緋空斬』

 

それは緋き斬撃が空を飛ぶ剣技。旋空とは違う本物の飛ぶ斬撃である。

 

 

泥の王で広げた気体を裂き、液体となったエネドラの肉体の大部分を斬り飛ばす。しかし、エネドラにダメージはない。まさしく糠に釘といった感じだ。

 

 

「ハッ、多少は良い腕してるようだが、所詮は猿だな」

 

 

泥の王に敵はない。少なくともこの玄界には。アフトクラトルに帰ればそれこそ自分以上の強者もいるが、それはそれ。玄界の猿如きに遅れはとらない。

 

挑発を受けた夜凪はしかし、平然としたまま孤月を肩に担いでエネドラを見据えた。

 

 

「猿、か……力に振り回されるだけの阿呆に言われたくはないな。力は所詮、力ーーーどう使うかは自分次第なわけだが、おまえはその黒トリガーに振り回されてるだけに見える」

 

 

夜凪の言葉は正鵠を射ていた。

泥の王は強い黒トリガーだ。それは誰が使っても同じで、別段エネドラが優れたトリガー使いである事を意味するわけではない。

トリガー角が脳にまで根を張る前までは、泥の王を上手く操り国宝の使い手に次ぐ程の実力者と謳われたものだが、今ではその評価も地に落ちた。

 

泥の王を使うのではなく、泥の王に使われているというのはエネドラも自覚しているところだった。

 

 

 

こんなわかりやすい挑発、前なら乗ってやるどころか痛烈な皮肉を返していたところなのだが。

どうも思考に靄がかかったように上手い言葉を思い付かない。

 

代わりに自分の喉から絞り出されたのは、激昂の叫びだった。

 

 

 

「うぜぇんだよ、くそ雑魚がああぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

泥の王による気体ブレード、液体ブレードによる乱斬撃。

それは風間隊にやったものよりも広範囲で、逃げ場などない攻撃。

 

 

 

しかし、

 

 

「二の型」

 

 

気体がブレードと化すより速く、液体ブレードが地面から突き上がるより速く、

 

 

 

「『疾風』」

 

 

 

夜凪の孤月はエネドラを斬り裂いた。

 

 

 

 

 

エネドラは、泥の王は強いが決して無敵というわけではない。

トリオン体には、2つの弱点がある。

1つは『トリオン供給器官』、もう1つは『トリオン伝達脳』である、生身で例えるならトリオン供給器官は心臓で、トリオン伝達脳は文字通り脳だ。

心臓か脳をやられれば死ぬ、というのはトリオン体であっても変わりはない。当然、頭と胴体を切り離されれば死ぬことも変わりない。

 

エネドラの泥の王はこの2つの弱点を液体化、気体化できない。そうしてしまったら供給器官や伝達脳としての役割を果たせないからだ。

だから、エネドラの体内には2つの弱点は確実に存在する。しかし、エネドラは首を飛ばされても胸を吹き飛ばされても死なない。

それは供給器官と伝達脳を、自己の体内でたえず流動させているからだ。不意打ちを食らっても良いように弱点を固体化の能力でカバーする事も忘れてはいない。

 

不意の銃弾くらいなら防げるが、確実にそれを弱点を狙ったブレードの一撃までを防ぐだけの硬度を、固体カバーは備えていない。

 

 

 

「な……」

 

 

風のように軽やかに、風のように鋭く。夜凪の孤月はエネドラの弱点を斬っていた。

 

 

 

エネドラの肉体がトリオン体のそれから生身へと変化する。

 

 

「てめぇ……どうやって」

 

 

エネドラは敗北の屈辱に打ちひしがれながら、どうして夜凪が自分の弱点の場所をピンポイントで斬り裂けたのか尋ねる。2つの弱点は固体カバーに包んで自分の体内をたえず動かしていた。まぐれでかする事はあっても、ピンポイントで狙い撃ちなんてできるわけがないのだ。

夜凪の太刀筋は確実に弱点を狙ったものだった。

 

 

エネドラの疑問に、夜凪は孤月を鞘に納めながらいつもの調子で答える。

 

 

 

「悪いね、おれの直感は鋭いんだ」




VSエネドラ戦終了!

出てきた会でやられるなんてエネドラ、なんて不憫な子……
まあ、夜凪のサイドエフェクトに泥の王はすこぶる相性悪いので、そういう事でひとつ。

かってにエネドラの過去を作ってしまった!これはエネドラがいつか仲間になる伏線かもしれません……?


諏訪隊、風間隊、活躍なし!(ほんとすまん

次回、クロウVSランバネイン!
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