ヒロアカのあの場面にとあるの上条当麻がいたらと言うもしも話です。

違う世界のヒーロー同士がどう見せてくれるのか。
『まずはその幻想をぶち殺す!!』

一話完結の、話数ごとのつながりはゼロです。
上条当麻が何故この世界にいるのかも深く追求しません。
ただその場面に上条当麻がいればと言うifストーリー。

なのでその手の質問はNGでお願いします。え? なぜかって? 俺も知らないからだよ!


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始めましての必殺遊び人と言います。

突発的に書いた作品ですが楽しんでもらえれば幸いです。

**注意事項として**

この話しは上条当麻が『その場面にいたら』と言う物語です。
どうやって? どうして、やらの違和感は無視でお願いします。

一話完結ですので、今後だす可能性のある話数ごとのつながりはありません。

それでは、お楽しみいただければ幸いです!


vsオールフォーワン編

 爆音が轟いた。

 そこはすでに火の海と化していた。

 

 建物は瓦礫と化し、ヒーロー達は倒れ伏す。

 友人を救いに来たヒーローの卵は恐怖で動くことができず瓦礫に身を隠した。

 

 状況は最終局面。

 ヒーローvs(ヴィラン)連合。

 

 その夜空――。

 月明かりを背にしながら、一人の男が悠々と空からそれを見降ろす。

 

 顔は分からなかった。

 浮いているのは『個性』なのかと、そんな事すら考えが及ばない。

 敵の親玉。恐怖の象徴。  

 そして――。

  

「さて、やるか」

 

 高いとか低いとかではなかった。強いて言うならくぐもった声。まるで覆面でもかぶってるような、不安を煽るその声で。

 そう一言。空を歩きながら呟いた。

 

 

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 緑谷出久。轟焦凍。飯田天哉。八百万百。切島鋭児郎。

 雄英高校ヒーロー科に所属する彼らは、少しでも友人のためとそこへ集った。

 

 敵のアジトを発見し、救出のタイミングを伺う。

 無理をせず、できることをすると言ったその姿勢は、過去の反省が存分に生きていると言えるだろう。

 彼らとてヒーローの卵。

 ヒーローがすでにきているこの状況で、無理に動こうとはしない。

 

 『かっちゃんを助けられる』――と、緑谷はすでに希望すら感じていた。

 

 しかし。

 すでにそのような希望は消し去られた。

 

 パチパチパチ、と。

 夜に木霊する拍手の音。

『さすがはNo.4。ベストジーニスト。咄嗟に服を操り彼らを端へとどかしたか。技術もさることながら、並みの神経じゃないねまったく……』

 それは皮肉か。素直に褒めているのかすら分からない。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()それを鑑みれば、前者と捉えるものの方が多いだろう。

 

『でも、君の個性はいらないな』

 

(動けない――ッ……!!)

 動かないではなく、動けない。

 怖いのだ。恐ろしいのだ。

 『本物の敵』を垣間見て、脳がその前に断つことを拒否してしまっている。

 

 オールフォーワンは仲間、あるいは部下である死柄木を救いに来たのだろう。

 邪魔者を消し去り、今は悠長に会話すらしていた。

(動け……ッ、動けよ!! 今動かないでどうするんだ――ッ)

 敵は自分たちの事に気が付いていないと、今なら救うことができる、と自身を奮い立たせる。

 

 自暴自棄。

 

 酷なことを口にすれば、その行動はありえない。

 敵の数は圧倒的。オールフォーワンの『個性』すら把握できていない。もしここで行動を移すものなら、そんな奴は恐らく自殺志願者だ。

 だからガシリと、その行動を側にいる友人に止められる。

 

 考えなくてはならない。どうすればいいのか。どうするのが最善か。

 そんな時――。

 考えに耽る彼らの横を、一人の『少年』が過ぎ去った。

「な――ッ!!」

 思わず呼び止めることもできなかった。

 その服装は学生服で、失礼かもしれないが見た目は一般人。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、彼らの前に飛び出したのだ。

 

 

 %%%%%

 

 

 地面に倒れ伏しながらベストジーニストは思考する。

 

 情報がなかった。こんな手合いがいるなど聞いてすらいない。

 任務は失敗しこの体たらく。

 だが、そこまで考えて、ベストジーニストは叫んだ。

 

「一流は! そんなものを失敗の言い訳にしない!!」

 

 横たえながらも反撃をするその様は、流石は多くから支持を得たナンバー4ヒーロー。

 繊維を操るとされるその『個性』で、攻撃を仕掛ける。

 

 しかし、その瞳にはそれが映ってしまった。

 

 自身の攻撃を弾き、迫りくる大砲。正確には空気の塊。空気弾とでも言えばいいのか。

 確信してしまった。

 その圧倒的暴力は、一瞬の内に自身を殺すだろうと。その現象を口にするなら、走馬燈とでも言えばいいのだろうか? どちらにしろ、ベストジーニストはそこで終わる。終わらせられる。

 

 その――はずだった。

 

 パリーン! と。

 何かが壊れる音がそこに響いた。

 

 目の前に立つのは一人の『少年』。

 そんな彼が、ヒーローを庇うように立っていた。

 右手を前に出し、敵の攻撃を防いでくれたのだ。

 一瞬の安堵。しかしすぐに、ベストジーニストは声を上げる。

「何をやっている!? ここは危険だ、速く避難を……ッ!」

 ヒーローとしては正しい。

 救ってもらったお礼を口にする時間すらないと判断したのだろう。

 口先だけの屑野郎と思われてもかまわない。取り合えず、この状況から『少年』を救わなければと考えての発言だった。

 

 チラリ、と。後ろを振る向いた『少年』は、ベストジーニストを一瞥した後、すぐさま敵へと振り返った。

「状況は俺には分からない」

 『少年』は口にした。

「あんたは恐らくヒーローってやつなんだろう。もしかしたら俺がやってることは邪魔でしかないのかもしれない」

 ベストジーニストは、何を言い出すんだと困惑すらしていた。

 そんな彼の思考を置き去りにして『少年』は続けた。

「けど、ボロボロのあんたを見捨てることは俺にはできないし、街をこんなにしたあいつを放っておくことは俺にはできない」

 

「――は?」

 と、思わずいってしまった。

 何を言っているのか理解できない。

 (ヴィラン)と戦うのはヒーロー(われわれ)の仕事だろう、と。一般人は避難することが()()()()()()()()()()はずだと。 

 人質になんてなったら目も当てられない。

 

 ベストジーニストが何かを口にする前に、先に(ヴィラン)――オールフォーワンがそれを聞いた。

「ふむ。『少年』……君は一体誰かな」

 

 焦っている様子はない。むしろ先ほど自身の攻撃を防いだ()()()()に興味すら出たのだろう。

 あわよくば奪ってみようと。目の前に落ちたお金だ。拾わない理由がない。

 

 だが、彼のそれは叶わない。

 なぜなら――。

 

「上条当麻」

 

 『少年』――上条当麻は答えた。

 上条当麻。別の世界の()()()。いつの間にかこの世界に来たと『不幸』な目にあったこの世界のイレギュラー。

 『個性』ではなく『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を右手に宿すその少年は。

 

「悪いけど、この人はやらせないぞ」

 

 理由はあった。目の前で殺されそうな人物がいたのだ。傷ついている者がいたのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。関係あってたまるかと。

 右手を横に。

 後ろの人物を庇うように。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 %%%%%

 

 

「……、」

 何かを口にすることなく、オールフォーワンは攻撃を仕掛けた。

 『空気を押し出す』+『筋骨発条化』+『瞬発力×4』+『膂力増強×3』 。先ほどより力を込めたそれを、『少年』――上条へと放つ。

 

「……ッ!!」

 ベストジーニストは咄嗟に目の前の脅威から『少年』を守ろうと彼の服の繊維を操った。

 しかし直後。

 パリーン、と。またも何かが壊れる音が木霊した。

 よく見れば、上条が自身の服を触っている。

 上条は先ほどの会話を聞いていた。ベストジーニストのその『個性』。彼ならまずここから自分を引かせるだろうと。そんな彼の正しさを、上条は否定する。

 

「大丈夫だ」

 

 一言。右手を前に出し、敵の個性へとそれをかざす。

 すると先ほど同様。甲高い音を残し、オールフォーワンの攻撃は無に帰した。攻撃は届かない。

 

「……なるほど」

 何かに納得したかのように、オールフォーワンは呟いた。

 

「攻撃を相殺する『個性』かな? あるいは『個性』を封殺する『個性』か……。それなら欲しいな。『個性の発動を消し去る個性』なら知っているが、『個性による現象を打ち消す個性』は知らないね。どうかな……あってるかい?」

「さあな」

 上条当麻は答えない。

 まずもって『個性』かどうか問う話からして間違っていた。

 上条当麻のそれはそんないい物ではない。

 だが、たった二発で自分の能力を見破られたとなれば、警戒の色を示すのは当然だ。

 

「ははは、流石に答えてはくれないか。だったら奪ってから調べよう。――けど、その前にお客さんだ」

「――?」

 オールフォーワンの視線ははるか後方。

 だが、すぐにそれは現れる。

「……来たか」

 

 次の瞬間。上条は思わずその暴風に顔を手で覆った。

「な、なんだ!?」

 手をどかし目の前に現れたのはヒーロー。

 この世界で紛う事なきナンバー1。この世界に来たばかりの上条すら知っている有名人。

 

「大丈夫だ少年。なぜかって――?」

 NO.1ヒーロー――オールマイト。

「私が来た!!」

 

 舞台の役者は出そろった。

 

 ……。

 

「少年。君はここから避難するんだ。彼らは私が抑える」

 オールマイトは上条当麻へ言った。

 まず初めに彼の心配をオールマイトはしたのだ。

 

 目の前の敵はオールフォーワン。憎むべき師匠の仇である。倒すべき悪であり、倒し損ねた(ヴィラン)なのだ。

 拳が自然と握られる。

 それでも――。

 真っ先に襲い掛かりたい衝動を抑え込み、オールマイトは上条の事を始めに見た。

 

 オールマイトと上条の目の先にはオールフォーワンただ一人。

 

 他の(ヴィラン)は、一人の少年を捕まえようと少し離れたところでバトルになっている。

 

 ぶっちゃけ、上条当麻は引くことを考えた。

 オールマイトの事は知っている。動画で見た限りだが、彼の動きは人間じゃない。

 本気の彼らの戦いについていけるかと問われれば否と答えるしかないだろう。

 いままでは、ベストジーニストを守るものがいなかったが、それはもう果たされた。ここまでくればむしろ足手まといになると考えたのだ。

 だが、

「オールマイトさんだったか? 悪いけどあんたには別の事を頼みたい。俺の後ろにいるヒーロー達を先に避難させてほしい」

 上条当麻の選択はそれを選ばない。

 上条の言葉にオールマイトはすぐに否定の声を上げる。

「いやだめだ。一般人である君を彼と戦わせるわけにはいかない。ここまで戦ってくれたことには感謝する。しかし、これ以上は見過ごせない」

 正しい理論だ。正しい言葉だ。それでも、上条当麻は違う道をオールマイトへ示した。

 

「きっと、あんたたちが戦えばここら一帯に被害が出る。そうなれば周りにいるヒーローだって無事じゃすまない」

 上条は続けた。

「俺一人じゃ全員を運べない。けどあんたならそれができるだろ? それに()()()()()()も気になる。多分だけど、あんた達はあの学生を助けに来たんじゃないのか? ――ならあっちにも必要だ。俺の能力は大勢には向かない。あいつは俺が抑える。その間に学生を助けてくれ」

「た、確かにそうだが」

「無理にとは言わない。最悪ヒーローだけでも頼む」

 

 上条はオールマイトがどこまですごいのかを把握していない。

 だから逆に条件を下げてしまったが、オールマイトならそれは可能だった。

 オールマイトは反論できなかった。

 冷静な判断力。適当な割り振り。彼が一般人と言う事を除けば完璧な提案ですらあっただろう。

 だがダメだ。

 目の前の少年を危険にさせることなどできない。

 オールマイトは無理にでも彼を遠ざけようと強引に投げ跳ばそうとした。

 

「作戦会議はおわったかい?」

「じゃあ頼んだぞ!!」

 オールフォーワンのその言葉に、上条は駆け出した。

「Oh――シット!」

 その行動によってオールマイトは選択権を失った。

 今の状況で上条を救えば、オールフォーワンから攻撃をくらう可能性がある。

 

 そんな状況でも、オールマイトは彼の背中へ手を伸ばした。

 手は届く。強引になるかもしれないが安全を最優先に考えるなら仕方がない。間違っていない。最上の回答だ。

(……っ……!!)

 けれど、オールマイトは上条のそれを掴まなかった。

 理由を挙げるなら、なんとなくとしか言いようがない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 方やこの世界において知らぬものはいない英雄。

 真豪事なき正義の味方にして、数十年間悪と対峙してきた実績を持つ平和の象徴たるヒーローの代名詞。

 

 方や第三次世界大戦を終結へと導き、たった一人の少女を世界――六十億人から守って見せた主人公(ヒーロー)

 

 もし仮に――

 オールマイトが手を止めた理由を明確にするならば、上条当麻のその背中は、すでに誰かを背負っていたからだと言えるだろう。

 

 もっと早く気づくべきだった。そうだ。相手は恐怖の象徴だぞ? プロのヒーローでも目をそらすものがいるかもしれない。なのに、何故()()()()()()()()()()()()()()

 

 ヒーローしては間違っている。間違っている……ッ、が、それでも! オールマイトは上条当麻の言葉を信じた。

 それだけのものを感じ取ったのだ。

 

 だからこそ、その後の判断は早かった。

 

(無理はしないでくれよ……ッ! 少年くん――!!)

 

 最もその場にいたかったはずのオールマイトが。

 上条の言葉に動かされた。

 

 次の瞬間。オールマイトは、すでにベストジーニストを抱えその場を飛んだ。

 

 

 %%%%%

 

 

 上条当麻が走り来るのを見て、オールフォーワンは密かにため息を吐いた。

(何だったらもう少し話してくれても良かったのだけれどね)

 彼の役目は時間稼ぎだ。

 死柄木が爆豪勝己を捕まえるまで、彼はそれらの相手をすればいい。

 

「悪いけど、オールマイトは行かせられないな」

 次の瞬間。

 オールフォーワンの指が伸びた。

 まるで蛇のようにぐりゃぐりゃと曲がり、背を向けて飛び去るオールマイトへ標準を合わせている。

 だが、彼は忘れていた。上条当麻という少年を。

 

「やらせねぇぞ」

 

 すでに懐に飛び込んでいた上条は、躊躇なくその伸びている指を右手で弾いた。

 同時。オールフォーワンの指が元へと戻る。

「……ッ……へぇー」

(個性を強制的に戻された。なるほどやはりこの少年の能力は……)

「けど甘いよ」

 それでは足りなかった。

 『個性』――転送。オールマイトへと標準を合わせ自身の目の前まで呼び戻す。

 しかし――。

 

「だからやらせねぇって言ってんだろ!!」

 

 上条当麻はオールフォーワンを殴り飛ばした。

「……ぐぅ……ッ!?」

 そこで初めてオールフォーワンは驚いたように声を上げた。

 もし顔があれば、目を見開いて上条を見ていたかもしれない。

(なんだ? 体にかけている個性を全て打ち消された……? しかもそれと同時に『転送』まで) 

 

 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』――。上条当麻のその力は、あらゆる幻想――能力を打ち消す始発点。

 

 それが超能力であろうが魔術であろうが、そう――『個性』であろうがすべてを打ち消す神秘の右手。 

 『個性』との()()()()で言えばすべてとの上下関係をひっ繰り回すある種のジョーカー。

 

「やられたね」

 オールフォーワンの視界にすでにオールマイトはいない。

 ぶっちゃけ周りのヒーロー達なんてどうでもよかったが、愉快な気持ちではいられない。

「『個性』を丸ごと消されたけど、今はもうなんともないようだ。……つまり、発動条件は『触る』でいいのかな。いい『個性』だけど戦闘向きではないらしい」

「けど、逃がしたぞ。あんたはもうオールマイトを追えない。あの速さだ、すぐに戻ってあっちの学生も助けるさ」

 上条当麻は揺るがない。

 確かに戦闘向きかどうかと問われればそれは違うと答えるだろう。

 てか、そんな必要などないと上条は思っている。

 

「俺はあんたを少しここで足止めすればいい。それならこの体一つで何とかやってやるさ」

 

 上条も、敵の力が分からない以上、足止めできるかと聞かれたら即答は難しい。

 むしろ逃げられる可能性も高いと考えていた。

 だったら逃げられないようにするしかない。

(右手で触って抑え込むか? いや、空を飛ぶ個性でもあればそもそも触れない。だったら挑発して……だめだ、どう考えても相手が乗る必要がない。あれ? 思ったよりやばい感じか?)

 ここに来てアホな上条当麻が顔を出した。

 上手くいかないことにおいて右に出るものがいない不幸体質。

 

 あわあわと、まるで電車を乗り間違えた受験生のノリで冷や汗をかく様子は、これもまた上条当麻らしいと思わせるお馬鹿さん具合だ。 

 

 そんな上条の心を読むように、オールフォーワンが口を開いた。

 

「君が何を考えているか当ててあげよう。君は僕をどうすれば足止めできるか考えている。けど僕の『個性』が未知数な以上絞り込みは不可能だと結論に至ったのだろう」

「……っ」

「だから先に答えを提示しようか。私はこの場から移動しないとね」

「……どういう事だ?」

 

 思わず聞き返す。

 上条当麻の質問にオールフォーワンは素直に答えた。 

 

「なに、動く必要がないだけだよ。弔達が視界内にいるなら、あえて動く必要はないだろう? オールマイトは君がいる限り絶対に戻ってくる。ほら移動する意味がないだろう」

「……、」

 先生、と呼ばれている一面が確実に出ていた。

 まるで教え子に諭すように、オールフォーワンは上条との会話を楽しんでいる。

「まだだ、なんでお前はあいつらを助けない? あんたが手伝えばあの学生なんて簡単に捕まえられるんじゃないか?」

「ああ、それはもっと簡単だ。あれはあの子たちがやることだからだ」

「――?」

(ヴィラン)にもあるんだよ。育てたい人材と言うのはね。あれは彼らがやり遂げなければならないことだ。それも、弔自身で決めたことならなおさらね」

 

 まるで子供をほめそやす親のように、オールフォーワンは続ける。

 

「どうだいなかなか優秀だろう? 弔は僕が自分で見つけたんだ。手を伸ばし、掴んでくれたんだ。あの子はまだまだこれからだ。伸びる機会を邪魔したくはないんだよ。僕としてはね」 

 

 上条には半分以上何を言っているか理解はできなかった。

 まるでちょっとした応用分野を習うように、なんとなくでしかくみ取ることは叶わない。

 

「あんたは、何のためにこんな事をやってるんだ」

 

 上条は思わずそんな質問をしていた。

 

 別段。敵が理性的であることは珍しくない。

 上条と対峙してきた多くの人物はむしろそういった方が多かったからだ。そして決まって、そういった人物には目的があった。

 

 最初に戦ったステイルや神裂かおりも、学園都市を襲撃した『前方』のヴェントも、第三次世界大戦を引き起こした『右方』のフィアンマも、そして、世界を敵に回した『魔人』オティヌスすらも。

 

 誰しもが戦う理由を持っていた。

 叶えたい願いがあった。

 

 だからこそ聞いた。

 

 弔と言う青年を気にかけているということも分かった。けど彼自身が何をしたいのかが分からない。

 ここまでの事を引き起こし、一人の学生を追いかけまわして、一体何がしたいのかと。

 

 だが、オールフォーワンにとってその答えは簡単だ。

 

「オールマイトだよ」

「――え?」

「僕はオールマイトを殺したいのさ。……でもただ殺すだけじゃもったいない。彼の信念が折れ、ぐちゃぐちゃになって倒れこむ姿を僕は見たいんだ」

 もし、これを聞いたものが上条以外にもいたのなら、この時点でオールフォーワンは悪党認定されていただろう。こいつは屑だと。倒すべき悪だと。そんな理不尽を許してはならないと立ち上がったことだろう。

 

 事実、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかし、上条当麻だけがそこに疑問を呈した。

 

「いや、だからなんでオールマイトを殺したいんだ? 恨みか? 復讐なのか?」

 オールマイトを殺したい。なるほどそれは理解できた。

 けどその理由は?

 結局のところ何も答えていない。

 だから上条は再度聞いた。

「なぁ、あんたは最初から悪党だったのか?」

 

 上条当麻は『知らない』を蔑ろにしたりはしない。

 

「何を言っている?」

「何か悪いことをやってオールマイトに止められた。だからオールマイトを殺したい。それなら理解できる。けどなんでそっち側についたんだ?」

 

 上条当麻は聖者でも正義の味方でもない。

 上から目線で正義論を語って、殴ってボコってはい終わり、なんて言うつもりもないし、できないと自覚している。

 

「なるほど。でもそれに答える意味はあるのかい? 昔どうだったかなんて関係ないだろう。現在僕は(ヴィラン)なんだ。町を破壊した首謀者だ。さらには君たちの大好きなオールマイトを殺そうとしている」

 オールフォーワンは続けた。

「もし、ここで同情できる過去でもあったら味方になってくれるのかい? 見逃してくれるのかい? いいや、君はきっと見逃さない。君の正義感はさっき見せてもらった。そんな事をできる人間じゃない」

 

 確かに、無意味な議論だった。

 結果が変わらない議論など早々に打ち切ってしかるべきだっただろう。

 

 けれど――。

 

「酔ってんじゃねぇよ」

 上条は言った。

 

「確かに。もうしでかしたことは変わらない。もしかしたらあんたは捕まって、最悪死刑ってのになるのかもしれない。――けどな、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……。何を――」

「あんたのその過程に、今のあんたを変えた何かがあるかもしれない。今を捨てられる希望があるかもしれない。情状酌量の余地があるかもしれない。(ヴィラン)だから捕まえる? 悪党だから暴力は仕方ない? 知らねぇよそんな事。そもそも俺にあんたを裁く権利なんてないんだからな」

 

 オールフォーワンは押し黙る。

 

「でもそうだな。確かに聞く必要はなかったかもな」

「――?」

 先ほどとは違うことを口にする上条に、オールフォーワンはすでに理解不能だ。

「あんたにどんな過去があろうと、俺はあんたを助けることをやめないぞ」

 

「意味が分からないな。なぜそれをする必要が「利用しているだけか?」――」

 

「あんたがさっき語ってた弔って奴はオールマイトを殺す道具か? 違うな。だったらあんたはあんな風には喋らない。もしかしたら大半の理由がそれなのかもしれない。けど――確かにそこにはあいつを思う想いがあった」 

 上条も何も無駄にいくつもの戦いをしてきたわけではない。

 本当にどうしようもない敵がいることも知っている。

 だからと言って、そんな簡単に切り捨てるなんてことはしない。

「あんたはあいつらへ手を伸ばしたんだろ。(ヴィラン)なんて言う枠組みかもしれないけど、それでも伸ばすことができたんだろ」

 

「善意からじゃないかもしれないよ」

「悪意からだとしてもだ」

 

 上条当麻は知っている。

 オティヌスにそそのかされた多くの魔術師は、確かに利用されただけだった。

 それでも、多くがそれに期待していた。すがっていた。

 

「手を差し出されるその行為自体に意味がある時だってあるだろ。例え利用されるだけだったとしても、それが希望になることだってあるはずなんだ」

「……、」

「だったら後はあんた次第だ。あんたが悪意から善意に変えればいい。今からだって遅くない。『先生』なんだろ。だったら教えてやれよ、間違ってたって。そうじゃなかったって」

 

 上条の話に、オールフォーワンは答えた。

 

「面白い話だ。まさか僕にこんな事を言う輩がいるなんてね」

 オールフォーワンは微かに笑っていた。

 素直に思ったのだ。上条当麻は面白い人間だと。

 

「そうだね。なら――」

 

 次の瞬間。

 オールフォーワンは最初に上条に見せた空気弾を適当なビルへ向かって撃ち放った。

「……ッ!!」

 咄嗟に、上条は間合いを詰めることによってそれに触ることに成功した。

 角度的に届かないその距離を、近づくことによって無理やり手が届く位置まで移動したのだ。

 しかし――

「……ぐッ……ぶぅ――!!」

「伸びきった腕。わざわざ無防備をさらす愚行。なるほど、やはり打ち消せるのは()()()()だけか」

 オールフォーワンの攻撃が上条に刺さる。

 

 クの字へと折れ曲がったその体は、地面を数回バウンドしながら瓦礫へとぶつかった。

「……かはッ!」

 体から息が漏れる。

 地面と擦れた個所が焼けるように痛い。動こうとすると体がきしむ。最悪どこかしらの骨が折れてる可能性すらあった。

 たった一撃。

 それでなお上条の体をここまで壊す。『個性』によって強化されたその一撃は、上条が聖人と間違えるほどの威力を宿していた。

 

「ははは、どうだい! これが(ヴィラン)だよ! それでもまだ、その空虚な理論をかざせるかい? ……痛いだろう、苦しいだろう。仕返ししたっていいんだよ。殴り飛ばしに来たってかまわない」

「……あ、が……」

「喋れないかい? ならもっと無関係な人でも攻撃しようか? もうこの周辺に人はいないだろうけど、何安心してくれ、探せば人なんてそこらにいる。怪我をしている子でも探して君が言ったように手を差し伸ばしてみようかな? 君がこんな目にあっているのはヒーローがちゃんと守ってくれなかったからだ。どうだい、僕と口だけのヒーローと戦おう、なんていいかもね」

 

 オールフォーワン楽しそうにそれを語っていた。

 悪事を考えることがあ楽しいのか。それを聞いた上条の反応を見ることが楽しみなのか。

 

「そう言えばこちら側にいる理由だったかな? 悪いけど覚えてないよ。いうとしたらいつの間にかだ。特に理由なんてなかったのかもしれないね。もともと僕にはそういう気質があったのだろうさ」

 

 カツカツ、と。倒れている上条へ足を延ばし。服の襟をつかみ無理やり立たした。

 

「どうした? 口で僕を説得できると思ったかな。子供の戯言に耳を貸すと本気で考えていたのかい?」

 上条当麻は虚ろな瞳でそれを見ていた。

「でも君自体は面白い。オールマイトとはまた違ったヒーロー性だ。壊してみるのもまた一興、かな」

「……あぁ……」

 

 上条当麻は微かに口を開いた。

「ん? なんだい」

 顔を寄せるオールフォーワンに向かって上条は右腕を振りぬいた。

 だが、

「おっと、そうだろう。この位置なら殴りに来ると踏んでいた」

「……ゲホゲホッ!」

 振り落とされた上条は、数回咳き込むと、オールフォーワンを鋭くにらむ。

 

「憎いだろう。なら戦おうじゃないか」

 両手を広げ、上条へ言った。

「大丈夫。それは私と同じ感情だ。オールマイトを殺したいと思う感情と同じなんだ。……君の質問にはこれで答えたことになるかな」

 

 それを最後にオールフォーワンは口を閉じた。

 上条の言葉を聞きたいのだろう。

 この場にいないオールマイトなど知ったことではないとでもいうように、その意識は上条のみに向いていた。

 

「はは、はははははははあはあははあははははははははははははははははははははははははははははははははッ」

 上条は笑っていた。

 何が可笑しいのか、傷口を抑えながら。痛いに決まっているだろうに、それを期にすることなく笑っていた。 

「……狂うほどの事はしてないと思ったが、予想に反して心は脆弱だったのか?」 

 

 期待を裏切られたかのように呟く声に、上条が答えた。

「茶番、だな……」

「……なに?」

 

「言った……だろうが。俺にあんたを裁く権利はない」

 オールフォーワンは黙ってそれを耳にする。

「俺はあんたの可能性に賭けてるだけだ。期待してるだけなんだよ。こちら側へ来れる線をまたげる奴だってな。……こんな事、わがままだってのは理解してるさ。チンピラの戯言だって思ってくれていい」

 

 ドカンッ!! と、唐突に瓦礫が破壊された音が響く。

 話はまだ途中だった。

 しかしそこへ、オールマイトが戻ってきた。

 

 オールフォーワンではなく爆豪のところへ行くのを見るに、上条の無事を確認しての判断らしい。

 

「……ちッ……!」

 オールフォーワンはすぐさま『個性』を発動させようとするが、それを上条が割って入る。

 結果。『個性』は打ち消され、すぐさまオールフォーワンは空へと飛んだ。『個性』――エアウォーク。

 

 だが一瞬でも上条に気をとられたせいか、オールマイトはすでに爆豪の回収を終えている。

 『個性』――赤外線の情報によればヒーローがもう一人。

 

 ――なるほど。あの二人相手に数秒はやりすぎた。

 

 と、オールフォーワンは自身の失敗を認めた。

 だからこそすぐに次の手を打つ。

 先ほど同様指を伸ばし、何人かの(ヴィラン)連合に触れ、『個性』――個性強制発動を行う。

 

「――先生ッ!」

 

 声が聞こえた。

 だから答えた。

 

「お別れだ弔。――君は戦い続けろ」

 

 それを最後に、(ヴィラン)連合はその舞台から消えた。

 

 ……。

 …………。

 

 目的という面において、爆豪を助けたヒーロー側と死柄木達を逃がしたオールフォーワンは引き分けと言う形で勝負は終わった。

 だが、それを引き起こしたのは目の前にいるこの『少年』だ。

 

 その存在をオールフォーワンは無視できない。

 

「やられたな。またしても」

 ゆっくりと。地上へ降りたオールフォーワンは上条へと視線を向けた。

「言っただろわがままだって。目的を忘れたわけじゃないんでな」

「これは騙された、と思っていいのかい? 聞こえのいい言葉を並べられただけだと」

 

「無事か少年!!」

 それにこたえようとする上条とオールフォーワンの間に入るように、オールマイトが姿を現す。

 どうやら爆豪は他のヒーローに預けたらしく手元にはない。

 作戦がうまくいったようでよかったと、微かに上条は胸を撫で下ろす。

「またしても邪魔をするかオールマイト……!」

「少年。ここは私に任せて逃げなさい。ここから先は本当にヒーローの仕事だ」

 

 そんなオールマイトの事を聞きながら、上条は前へと踏み出した。

 

「嘘なんてついていない」

 オールマイトは上条へ伸ばした手を止める。

「あんたがそっち側にい続けるなら、何度だって対峙してやる。それが、あんたに希望を抱いた俺の責任だ()()()()()()()()

 

 オールマイトをして口を挟もうと思えないほどの空気の重さ。

 オールマイトですら小さく見えてしまうほどの二人の重力。

 

 だが、それももう最後。

 オールフォーワンはすでに答えを聞いた。

 なら――。

 

「なら来るかい? ヒーロー気取りのチンピラ小僧」

 オールフォーワンが問いかけ。

 

「ああ、行ってやる。悪党気取りの大根役者」

 上条は答えた。

 

 そんな中、オールマイトは上条の隣へ立ち。

「分からない。分からないが、引けない理由があると見た少年」

「わるいな。オールマイトさん」

 申し訳なさそうに言う上条へ首を振り、

「いいや、私も引けない理由がある。オールフォーワンと戦うべき覚悟がある。その気持ちを無下にしたり私はしない。これは時間稼ぎを手伝ってくれた報酬と思ってくれていい」

 

 本当なら許されない。それでも。

「ならば私はヒーローオールマイトだ。君を死ぬ気で守って見せよう!!」

 

 そして、最後の戦いが始まった。

 

  

 %%%%%

 

 

 一人対二人。

 人数だけを見るなら上条とオールマイトは有利に見える。

 オールマイトはもはや説明するまでもなくNo.1のヒーローで、上条も『幻想殺し(イマジンブレイカー)』と言う『個性』に対して有利の力を手にしている。

 だが、現状を言えば二人は厳しい戦いだと感じとっていた。

 

「オールフォーワンッッッ!!!」

「うわッ!?」

 

 まず、オールマイトが飛び出した。

 まるでジェット機が通りすぎたように、オールフォーワンへと突撃をかます。

 

 この時点で、上条当麻はその戦いには入れない。

 戦闘という面でコンビネーションをとれないその二人は、もはや一対二と言う状況を持て余していた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()のだが。

 

「はは、僕が憎いかいオールマイトッ!! ああ、なら存分に戦おうじゃないか!」

 野太い声で、オールフォーワンは答えるように叫びかえす。

 

 激突する二人。

 人間の限界を超えた化け物同士の激突。

 まるで引いたら負けとでもいうように、二人はその場から足を下げない。

 

 すでに――。上条当麻は動いていた。

 オールマイトの突風に吹き飛ばされるアクシデントがあったとはいえ、それはある意味作戦通り。

 上条が前で戦えば、オールマイトは全力を尽くせない。

 上条はすでに死に体。はっきり言って立っているのもつらかった。

 だから、上条はそいう場面を待っていた。

 

 オールフォーワンの背後に周り、その体へと右手を伸ばす。

(……届くっ!!)

 が、その瞬間。ゾワリ、と

 

「『不可視の槍』そして『衝撃反転』」 

 オールフォーワンの告げられた言葉をきいて、上条はすぐさま横へと飛んだ。

「ぐぁああああああああああッッ!!?」

「――ぶぅッ!?」

 

 上条は見えない何かに切り裂かれ、オールマイトはのけぞる様に後方へ飛んだ。

「動きにキレがなくなっているな上条少年。そしてオールマイト、君もすでに限界寸前か……」

 そして同時に放たれる空気弾。

 上条とオールマイト。二人へそれは飛んでいき。

 上条は右手をかざし、オールマイトは拳を振り切り強引にそれを打ち消す。

 

 内容にしては一瞬。

 たった数秒の攻防で、オールマイトはすでに上条の実力を把握していた。

(……戦いなれている)

 長年ヒーロとしてやってきた経験と、サイドキック及び他ヒーローとの連携の記憶が正確に上条の戦い方を分析していたのだ。

 

 サポート――という面において、ほぼ完成された戦い方。もちろんここで言っているのは『全体の動きや立ち位置』あるいは『戦況の見極め』と言ったことで、本人自体の戦闘力を言っているわけではない。

 長く自分より強いものと戦ってきたことがある動きだ。

 自身の能力が切り札としてが最も効果があると誰よりもわかっている。

 

「なるほど……ッ! なら私が――」

 故に、オールマイトのやることは一つだ。 

 

 ――守る。その一点に帰結する。 

 

 常に切り札がその場に存在するというのは精神的にも楽だと言える。

 一緒に戦うというのであれば上条当麻のそれはすでにプロレベルと評価をしてもいいものだった。

 動きに迷いがなく適切。

 

 何より『勘』がさえている。

 

「……ッ上条少年!! 私が隙を作る! 君は――」

「させると思うのかい?」

 

 拳を引き突撃をしてくるオールマイトに対し、オールフォーワンはただ左手を前に出した。

「『竜巻』『突風』『筋力強化』『ばね』さぁ、まだ序の口だぞオールマイト。まだ君の攻撃は届いてすらいないよ!!」

 さらに――、

「……か……ハッ!」

 後ろから迫っていた影を――横なぎに振ったその腕が上条の体を折る。 

 

「悪いな上条少年。私は目で見ているわけじゃないんだ。視覚は存在しないと言っ――……ッ」

 

 一つだけ語るならば、オールフォーワンは勘違いしていた。

 

 ここに来て、上条が先ほどと同じ戦法をとった理由。必ずしも戦闘なれしているかと言われればそうでない事実がここに来て牙をむく。

 こればっかりは仕方がない。

 上条当麻の分析において、長年ヒーローといして戦ってきたオールマイトと、裏での支配を得意としてきた差が如実に出ていた。

 

 オールフォーワンは拳を横なぎに振りぬいただけだった。

 ()()()()()()()()()()()『個性』を発動させるより、攻撃速度を優先した結果ですらあった。

「左利きだろ、お前……。癖ってのは重要なファクターだよな。捕まえたぜ」

 上条は、あえて右手で防御せず、体全体で包み込むようにその腕を抑え込んだ。

 右手を使わない。

 ()()()()()()()()()()それへと手を伸ばす。

 

 それはつまり――

(しま……ッ……!)

 

「デトロイトッ――スマッシュッッ!!!」

 

 すでにオールマイトの拳は迫っていた。

(転送を……!)

 だが、それは叶わない。上条が『幻想殺し(イマジンブレイカー)』で触れている以上、『個性』の発動は無に帰す。

 元よりボロボロのその体では、この一瞬で振り切ることも不可能。

 轟ッ!! と、そこら一帯が轟音に包まれた。

 終わりを告げるドラムのように、これで終わりだと示すように。  

 

 土煙がゆっくりと晴れ。

 オールマイトが立ち上がり、勝利の宣言とこぶしを突き上げる。

 勝った。終わった。

 それを周りで見ていたものは同時にすべてが立ち上がった。

 メディアでそれを見ていただけの人たちすらも。

 

「上条少年。勝っ――……ッ!?」

 だが次の瞬間。

 

 強大な風の塊がオールマイトへとあたり、その体を吹き飛ばす。

 

 何が起こったのか理解ができない。

 

 つまるところ、周りからそれを見ていたものは、再び絶望へと立たされた。

 勝ったはずだった。オールマイトの一撃をもらったのだ。立てるわけがない。

 彼らの知らないところで言えば、上条当麻によって『個性』を封殺されていたのだ。ありえない。

 

 では――なぜ? と。

 

「『超速再生』今の僕では体が持たず一度しか持たない裏技だが、上条少年ごと吹き飛ばしてくれたことには感謝しよう」

 

 オールフォーワンは先ほどの攻撃がまるで効いていないかのように悠然とたたずみ。

 

「あと少し威力があれば、私を完全に行動不能まで追い詰めただろう。悲しいねオールマイト。『平和の象徴』である君の姿が――()()()()()()なければ、勝ちもありえたかもしれないというのに」

 

 あざ笑うかのように、口を開く。

 見下すように笑いを吐き出す。

 

 ――チラリと。オールフォーワンは上条へと目を向ける。

(……意識は……まだあるか)

 上条は先ほどの一撃によってほとんど限界だったのだろう。

 意識はあっても立ち上がることすらできずにいた。

 

 そして、オールマイトも――。

「なんて醜い恰好なんだオールマイト。やせ細り、頬はコケ、目は窪み。『平和の象徴』たるその姿がどこにもないじゃないか」

 土煙から出てきたのはやせこけた男性。

 ワンフォーオールの活動限界。まだ下半身は力があるとはいえ、上半身は先ほどの攻撃で使い果たしてしまったのだろう。

 

「今のヒーロー社会を表しているようじゃないか? オールマイト。口先だけの正義感。勝てない正義。だというのにそれを隠しとおそうとする傲慢さ。さぁ世間へ晒せオールマイト! そのありのままの姿を!!」

 オールマイトをヒーローそのものと見立てての皮肉。

 しかし事実として、その姿はメディアを通して多くのものへと伝えられている。

 

 それでも――。

 だから何だと、オールマイトは拳を握る。

 

「だが、私はまだ倒れていない……ッ、折れていないッッ! こんなもので『平和の象徴』は砕けたりしない!!」

 

 目がまだ死んでいない。

 握りこぶしは開かれていない。

 

「そうか、なら仕方がない」

 

 オールフォーワンはそれを壊すことにした。

 

 『エネルギー』『方向性指定』『質量倍増』『熱』――。

「これは僕のとっておきであると同時に毛嫌いするものですらあるんだ」

 『威力増幅』『半永久』『消失』『螺旋』『内包』『標準指定』――etc.

 

「なぜなら、少なくともこの町の半分ぐらいは軽々吹き飛ばしてしまうからね。僕自身も危険だし、()()()()()()()()()()使わないならそれに越したことはない」

 

 数十にも及ぶ『個性』の合成。

 肉体戦闘を好む彼をして嫌いと言わしめる絶望の一手。

 

「これを出させたのは君だオールマイト。止められなければ何千と言う人間が死ぬ。さぁ!! 最後まで見せてくれ! 『平和の象徴』!!」

 

 オールマイトは動かなかった。

 ヒーローに今ここで逃げるという選択肢は存在しない。

 だから一言。

 

「来い」

 

 それだけを言って。

 

「ああ行くさ」

 

 オールフォーワンは青白く光ったそれを、表すなら光線か。莫大なエネルギーの塊であるそれを、オールマイトへと放った。

 轟ッ! と轟き、ジュジュ、と地面が焼ける音がして、青い光がオールマイトへと迫りくる。

(消し去るしかない……! 全力以上のワンフォーオールで!!)

 

 それは、気合か、あるいは周りからの声援の力か、右腕に力が戻り剛腕を取り戻す。

 

「デトロイ――……ッ!」

 振りかざす寸前。

 そこに一人の少年が滑り込んだ。

「オール…………さん。それは最――――て――れ」

 聞き取れたかと言われれば否だった。パクパク、と口を動かしていたぐらいにしかオールマイトへは見えなかった。

 それでも――伝わった、と。オールマイトは拳を下げる。

 

 スっと。上条当麻は右手を突き出し。

 瞬間。バジリ!! 青いそれと対峙した。

「……ッ……ぐぅ!?」

 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』で相殺しきれない。

 

 思い出すのは過去の強敵。 

 

 まるで『右方』のフィアンマの右腕のように、圧倒的エネルギーを一瞬で消し去ることができない。

 このままでは消し去る前に押されると。

 上条は左手で右手首を掴んだ。

 

 経験だけを問うならば、上条にはこのような事態に幾度と直面した。

 必ず都合よくうまくいったかと聞かれればそうではないが、今回。この攻撃において言えば、上条はすでに回避を成功させた。

 

 左手首で右手の平の向きを強引に変え。

 茶碗の中でビー玉でも転がす要領で、光線を斜め上へと打ち上げる。

 『方向指定』『標準指定』と言ったあらゆる保険が、その時上条の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』によって打ち消されていた。

 

 青白い槍が空へと消え失せ。()()()()()()()()()()()()()――その瞬間!

 

 ――轟ッ! と――。

「『ユナイテッド――ッッ!!』」

 

 オールマイトはすでに動き出していた。

 オールフォーワンはたじろぐ。

 予想だにしていなかったと言えば嘘になる。だが熱くなり過ぎた。オールマイトという相手は、彼をして冷静さを欠く相手だったのだ。

 

 結果。()()()()()()()()()()()()()()

 

「『ステイツオブッ!! スマッッッシュッ!!!!』」

 

 今度こそ確実に、オールフォーワンへとそれは突き刺さった。

 

 

 %%%%%

 

 すべての終わりを告げるような、澄んだ夜空がうかんでいた。

 勿論、それを目で見ることは叶わないが。意識が戻ったオールフォーワンは何故かそんなことをまず思ったのだ。

 体はがちがちに拘束され、まるで重傷者だという気遣いが感じられない。

 

 グラリと顔を動かすと、そこには一人の『少年』がたたずんでいた。

 

「僕は……負けたのかい」

 

「ああ、あんたは負けたよ。完膚なきまでな」

 

「そうか」

 

 後処理でもしているのだろう。

 周りにはヒーローやら警察やらがせわしなく動いていた。

 

 なんな中――オールフォーワンと一人で話すその『少年』へ、集まったヒーローが引き戻そうとするが、それをオールマイトが手で制す。

 

「最後の攻撃。あれは確実に多くの命を消すつもりでいた。それでも君は、僕にまだ希望があると思えるのかい」

 オールフォーワンのそれは、最後の悪あがきなのだろう。

 いたずら心で、上条当麻の言葉を否定してみようと。

 

「思ってる」

 

 わかってた。それはどう転がっても覆らない。

「言っただろう。俺はあんたに期待した。だから、俺はあんたと戦ったんだ」

 つまるところ。

 オールフォーワンにそれ以上の悪事をさせないためなのだ。

「殺しなんてさせない。また悪事をやるなら止めてやる。何度だって向き合ってやるよ」

 

 あるかもしれないそれに賭け、待つと決めたのだ。

 なら、それを手伝うために拳を握ってもいいだろう。

「はは、なら最後の願いだ。オールマイトを此処に呼んでくれるか」 

 上条は顔を歪めた。

 ――俺の次はオールマイトかと。負けず嫌いも行き過ぎだ。

 

 オールマイトを手招きで呼び、立ち去ろうとする上条をオールフォーワンが止めた。

 何故という疑問はあったが上条はそこは残る。

 

 まるでその場に音がなくなるのを待つかのように、オールフォーワン言葉を溜めて、

 

「死柄木弔は志村菜奈の孫なんだ」

 

 そのことは告げられた。

 

「……ッ!?」

 オールマイトは表情を変える。

 上条当麻には分からなかったが、予想するに『志村菜奈』と言う人物はオールマイトと親しい間柄だったのだろう。

「貴様ッ! どこまで!!」

 許せるわけがなかった。自分のせいで、自分だけのために、守らなければならなかった大切な者を悪に染められたのだ。

 思わず一歩踏み出すそれを、掴みかかろうとするその腕を。

 

 上条当麻は静かに止めた。

 

「やめろオールマイトさん。そこから先は私怨だぞ」

「……ッ」

 わかっている。オールフォーワンはすでに拘束したのだ。

 ここで手を上げれば、それはヒーローでも何でもない。ただの喧嘩よりも質の悪い。暴力と言う存在だ。

 それでも――ッ。

 

「それがあいつ(死柄木)を守る理由だったのか?」

 

 だから上条が続けた。

 縁も所縁もない上条だからこそ、冷静にその先へと駒を進める。 

 

「ああそうさ。そのためだけに彼を手に入れてたんだ。オールマイトに少しでもその表情をさせたくてね」

 笑いながら告げるオールフォーワンに上条が聞いた。

 

「本当か?」

「本当だよ」

 最悪だった。

 考えが腐ってる。

 こいつは救えないと。救いようがないと誰もが思った。

 

 だが、その言葉に上条当麻ただ一人が笑っていた。

 

「……なら。何故今それを言ったんだ?」

「……、……なに?」

 オールフォーワンは聞き返す。 

 

「最後のあがき? 意趣返し? いいや違うな。あんたはそんな子供じゃない。もっと効果的な場面でそれを言うはずだ。例えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、な」

「……」

 オールフォーワンは少し黙るも、すぐに沈黙を破る。

 

「君が何を思っているのかはわからないが、君が何を思ってもこの先の戦いは止められない」 

「それでも止めるさ」

「……死柄木はすでに(ヴィラン)だ。止められない」

「かもしれないな」

 

 オールフォーワンは上条が何を言いたのか分からない。

 

「自分の心って言うのは案外分からないもんだぜ」

「……」

 ほんの少しの沈黙。

 そして何かに気付いたような表情。

 憤怒ともとれる感情の爆発。

 

 その一言にオールフォーワンは声を荒げた。

 

「まさか……。まさか僕が彼を救ってほしくて君たちにこれを言ったと思ってるのか!? そんなわけがないだろ!! ここまで来ると君のヒーロー性も笑えてくるなッ!!」 

 

「そんなんじゃない。ただ、利用するだけのそいつに、ここまでして守ったあんたの心を俺が勝手に信じただけさ」 

 上条当麻は受け流すように、軽く笑った。

 

「あんたはもう側にはいられない。なら代わりに見極めるよ。あんたの代わりに、俺たちが」

「もしそれを本気で言っているなら。君はヒーローなんかじゃないな」

 

「肩書なんてしらねぇよ。三回目だぜ。言ってんだろ、俺はあんたを信じてるだけだって」

 

 折れない、壊せない。

 腕っぷしだけを言うなら素人の域を出ないこの『少年』をオールフォーワンは最後まで変えられなかった。

 誰かを救うという行為を行うにも、知識が足りずヒーローの卵にも劣るだろうその『少年』をだ。

 

 きっと上条も底抜けに誰かを信じているわけではないのだ。

 むしろ逆――。

 誰かを信じているのではない、悪党だからと言って簡単に切り捨てることをしないのだ。

 

 だからこそ、隣でそれを聞いていたオールマイトは思った――。

(上条少年――君は一体……)

 

 自分たち(現代ヒーロー)とはまた違う完成されたヒーロー。

 敵も味方も丸ごと救ってしまう。まるでおとぎ話を見ているような主人公(ヒーロー)

 本来なら笑い飛ばしてしまいそうなそれに可能性を見せてくれる。そんな『少年』。

 

 どちらが正しいではなく。認めてしまうヒーローの可能性。一つの在り方。

 それをこの年ですでに獲得しているという異常。

 

 ――この『少年』は、一体()()()()()()()()()()()()()()()()。  

 

 オールフォーワンもまたそれを感じたのだろう。

 だからこそ、敵意はなく落ち着いたようなその口調で。

「止められるものならやってみるといい。弔はもう僕の手を離れた。新しい『(ヴィラン)の象徴』――その誕生だ」

 

 そう最後に告げて。

 オールフォーワンは再び眠りにつき。

 

 その戦いは幕を閉じた。

 

 

 %%%%%

 

 

「イタイイタイ痛いッ!!? オールマイトさん!? 私こと上条当麻さんは結構な深手なわけでして、そう腕を引っ張られると辛いと言いますか何と言いますか!?」

「ああ、私も命の恩人にこのような仕打ちはしたくないさ。けどこればっかりは譲れない! 説教だ」

「説教!?」

 

 ズルズルと引きずられる上条は、そのボロボロの体、ガリガリな筋肉のどこに引っ張る力が!? と一人驚きを隠せない。

 アドレナリンのせいか上条は気づいていないが彼も相当に重症だ。

 死に体が死体を引きずっていると思えば、理解できなくもないだろう。

 

「それから素性と親御さんについても話してもらうからな。私が巻き込んでしまったとはいえ、謝っても謝り切れないッ!」

「えーッ!? ちょっと実は上条さんは身分証がないと言いますか。この世界の人物ではないと言いますか……?」

「なるほど。頭を打ったのか。まずは病院だな。すぐに連絡しよう」

 ――えー! チョっ!? えー!? とジタバタする上条にはそこから逃げるすべはなく。

 仮に逃げても、カメラに顔までばっちりとられているのだ。

 現代の監視カメラ社会で見つからないなど不可能だろう。

 

 なんか嫌な予感がすると、これについて行ったらまずい気がすると。

 なんとなく過去の経験から四角い密室空間でオールフォーワンと再会する気がする!! と、上条はありもしない妄想へと潜っていた。

 

「ちくしょー不幸だーーッッ!!」

 

 そんな声が、星咲く夜に木霊した。

 

  




 
 長すぎる!!
 ここまで読んんでくださった方々ありがとうございます!!

 何やら続きがある風に終わっていますが続編はありません。
 てか、これ以上書くかどうかもわかりません。
 またネタを思いつき次第書ければと思っています。(『ステインVS上条当麻』とか少し書いてみたい(笑))

『独り言』
 上条当麻がうまく書けているかすごく不安です。
 てかオールフォーワンが悪役すぎて相性悪すぎた!? 無理やり改心とかしても良かったのですがそれはなんだかヒロアカを崩す感じだし、どうすればって書いてから思いました。

 結局選んだのは、『期待する』と言う方法です。

 オールフォーワンと『会話』をすることによって、上条当麻は期待できるだけの何かを見つけた。過去の経験から感じ取った。みたいな感じです。
 だからこそその可能性を信じて向かい合ったのかな?(私が書いたんだけども)

 第三者の立場だからこそ見ることのできたオールフォーワンとの会話。それには少し力を入れてみました。
 なかなか無理やり感もありますが皆さんだったら上条はどうすると思いますか……なんて(笑)
 てなわけで!
 それでは、次回があればまた会いましょう。


『意見』
 皆さんの意見を聞いてですが、話数を分けたほうが良いという方は感想にて言ってくださると嬉しいです。意見が多ければ適当に分けたいと思いと考えていますのでよろしくお願いします。

『おまけ』
作者「はぁー疲れた」
緑谷「僕らの活躍場面が……」
作者「……ッ(さーセン!!)」 
 


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