それでもあなたは転生を望みますか?

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 それでもあなたは転生を望みますか?


こんな転生は嫌だ

 

 

*** Sect 1

 

 唐突だが彼はクズであった。

 30過ぎても就職せず、それどころかアルバイトの経験すら彼にはない。そしてとにかく彼は想像力というものを持たなかった。

 自分の言動、それに対する他人の言動、それに対する自分の言動、さらに広い領域で何が起こっていくかをリアルにシミュレートする力を想像力と呼ぶことにする。

 その点、彼は周囲で何が起きているかをまったく把握できず、自分が何をすべきかを見出すことができなかった。

 それでも根拠のない自信を持ったまま親の財布に寄生し続け、想像力のなさを自覚したのが30を過ぎてからというのが彼のどうしようもなさを示している。

 

 だからいきなりの事故で彼が命を落としたのは誰かの慈悲であるかのようにも思えるのだ。

 

 

 

 光あれ。

 誰かが唱えたかのごとく彼がいる空間は光に満ちていた。

 彼は死を自覚したはずだが、彼は肉体を持っているかのようにそこにある。

 戸惑いを隠せず彼はキョロキョロと周囲を見渡した。

 

『落ち着きなさい』

 

 突然響いた声が彼を止める。彼は自身が前と認識する方へ視線を固定した。

 彼を除いて誰もいないかのような映像を彼は認識するが、声がどこからともなく聞こえてくる。

 声の主は、彼が死んでいること、彼はこれから別世界に転生しなければならないこと、その際に何かしらのギフトを得られること、そして自身がそれらの仕組みに関係する者であることを告げた。

「マジか……」

『嘆いても現実逃避しても変わりませんよ。決定事項というより逃れること叶わぬ流れと表現したほうが近いでしょうか』

「さよっすか」

『どういう世界に行くかはここでは伝えません。それでギフトは何か希望はありますか?』

 

 しばし彼は悩む。それは何がいいかではなく、自身のクズっぷりを知るからの悩みだった。

 無知は必ずしも罪ではない。だが想像力の貧相さは往々にして大罪であるのだ。ならば彼が超能力めいたものを持つのは赤ん坊が銃を持つことと何が違うのだろう。

 悩んだすえに彼は質問した。

「生まれつき何かを持つのではなく、私の望む環境に私が生まれるのはありですか?」

『例えば?』

「武術を学べる環境とか」

 これは彼なりに将来を考えてのことである。

 想像力とは時間をかけて手にするものだ。しかし彼はそういう努力をしなかったし、なにより彼は根気強いほうではない。

 だからこそ訓練する癖を身につけることを彼は考えた。

 武術ならばそう簡単に師匠が逃がしてはくれないだろうし、うまくいけば脳にいい影響があるかもしれない。

 

 と、彼は自分が考えたことを説明した。

 声の主はそれを認め、さらに必要と判断されることは別途付け加えておくと彼に告げる。

 

『では、よき人生を』

 

 

 

 名前も姿も変わり果て、でも記憶と人格は引き継いで、彼は新たな生の中にあった。

 幼少時に前世のことを思い出したが、その頃にはもう彼は武術漬けである。やめる発想も浮かばず彼はさらに修行に邁進した。

 小学校高学年になると彼に霊能力なるものの修行が課せられるようになる。不安がなくもなかったが、彼はそれを押し殺して修行した。

 もちろん武術と霊能力だけでなく、彼は学校の勉強も読書も意識して真面目にやっている。想像力を高めることこそが彼の至上命題だからだ。

 さらに修行を通していろいろな人と関わることができたのも彼にとってはよいことであろう。

 そして。

 

「GS美神の世界じゃねーんかよ。期待してたのに」

 

 オカルトがまったく公的に認知されていない状況に彼はため息をついた。一般的にはオカルトは迷信扱いであり、真のオカルティストは世間にばれないように生きている。

 妖怪に関するトラブルや幽霊の浄化など、そういうことも彼は経験していた。

 

 そして高校生になった頃、彼はあることに悩むことになる。

 ひっきりなしに頭が痛むのだ。

 最初はすぐ治まると思っていたのだが、すぐにぶり返したりする。今では四六時中痛みが続き日常生活に支障が出ていた。

 病院にも行ったし霊障も疑って調べたが原因不明。占いまで使用したがはっきりしなかった。

 頭痛のあまり眠れないこともあるような日々である。

 

 そんなとき彼はかつてのように光満ちる空間に浮いていた。

 痛みもない。

「また死んだのか? 俺」

 思わず出た彼のぼやきにすぐ反応があった。

『いいえ。これは夢のようなものです。あなたはまだ生きてますよ』

 彼にとっては懐かしいともとれる声である。そう。彼をかつて転生させた存在だ。

 

 しかし転生そのものが完了した以上声の主が彼に関わることなどないはずである。それを問うと。

『あなたの頭痛の原因がわかりました。それを取り除いたので報告に来たのです』

「マジっすか!?」

 

 それによると、前世に問題があるとのことだった。通常であればそこまで前世を引っ張ることはないらしい。

 しかし霊能力の修行によって因縁がより強く作用することになったということだった。

 

『あなたは前世で事故で死んでいます。ところが遺体がなかなか確認されませんでした。そうしてるうちに頭蓋骨が岩に挟まり圧迫されるようになったのです。それが痛みの原因でした』

「夢枕獏の「陰陽師」かよ!」

 

 

 

 

 

 

*** Sect 2

 

 唐突だが彼はクズ(以下略。

 例によって光満ちる空間で彼は声の主と会話していた。

 しかし彼は転生を願わない。

「私は想像力などなき身です。仮に転生して、じゃあ想像力を高める努力をしようと思ったとして、わかっていても私はしないでしょう。強烈に面倒くさがるでしょう。それだけはリアルに想像できるんです」

 故に彼は消滅を願った。

 しかし声の主はそれはできないと告げる。声の主にそんな権限も力もないと、ただ粛々とやるしかないのだと。

 

 落ち込む彼に声の主は記憶と人格の初期化を提案した。

『まったくの別人として生まれ変われば、想像力豊かな人間に成長できるかもしれませんよ』

「どうであれ転生前の業を引き継ぐでしょう。それで明るい未来予想などできませんよ」

 現世の行いによって来世のあり方がある程度決定されるというのはよく聞かれる話であろう。むしろ別人になるからこそ反省できずに生きるという可能性もあった。

 

『じゃあ、業を落としてから転生すればいいんです。そういえば仏教でも地獄というのは最終的に極楽に行くために業を落とすある種の修行場じゃなかったですかね』

「え……」

 

 

 

「これじゃあ、神様転生じゃなくて様転生だよ」

 と、後に「パンチとロン毛」の節約担当のごとく光を放ちながら彼は呟いたという。




『転生しても特典はありません。ですが、生前のあなたが所有していたすべてのHDDとUSBメモリの中身を修復不可能なまでに消去してあげましょう』
「のった!」

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