ゆかりさんをお迎えする話   作:ゆかりさんを甘やかし隊

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むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
前話より、お待たせしました。



頼れる友人

 水面に浮かぶ食器が揺れ、擦れ合い、かちゃかちゃと音を立てる。今まで一人分だったものが単純に倍になったことで少しげんなりもするが、そのうち慣れるだろう。それに悪いことばかりじゃない。

 

 後ろを見やると、少しだけ口角の上がった彼女がいる。どこにでもありそうなダイニングに、一つ増えた椅子。良く言えば質素な──悪く言えば地味なそこに、彼女という花が添えられていた。それだけで部屋としてのグレードが2段階は上がった気がする。

 

「はふぅ……ごちそうさまでした」

 

 まぁその彼女は、さっきまで団子の方に夢中だったが。満足げにお腹の上に手を乗せている姿だけで、多めに作った甲斐があったというもの。……まさか完食されるとは思わなかったが。

 

「美味しかった? 結構食べてたけど」

「ひゃっ! あ、私っ、ごめんなさい無遠慮に……!」

「いいよいいよ、そのために作ったんだし気にしないで」

「……うぅ」

 

 うめき声のようななにかを出して俯いてしまう彼女。心なしか耳が赤いように見えた。ボイスロイドって風邪ひくのかなぁと考えながら手を動かす。うかうかしているとあいつ(・・・)がもう来てしまうかもしれない。

 

 洗い終わった皿を拭きつつ、これからのことを考える。ボイスロイドを、ゆかりさんを買ったは良いものの、昨日の俺は本当に勢いだけで他は何も考えていなかった。とりあえず物置にしていた部屋から荷物を追い出し布団を敷いた。昨夜と今朝は冷蔵庫の余り物で飯は作ったが、もうすっからかんだ。ついでに財布の中もゆかりさんを買ったことでかなり冷え込んでいる。端的に言ってピンチだった。

 

 そういえば、と少し手が止まる。

 

 誰であろうと、現代日本においてゆかりさん(ボイスロイド)を買った時点で責任というのは発生するのだ。それは衣食住の提供であったり、自由意志の尊重だったり……要約すると、人間と同程度の扱いをしなければならない。これを守らない場合普通に逮捕されることだってある。にもかかわらず、ゆかりさんのこの状態だ。前の持ち主はロクな奴じゃあない。

 そしてこの状態で見つかってしまえば、まず捕まるのは俺の方だ。ボイスロイドに関しては疑わしきは全て罰せられるこの世の中、言い訳したところでどこまで信じてもらえるか。

 

 普通、すぐに返品してとっとと忘れるのが吉なのだ。それは自分でもわかっている。

 

 しかし、手放すかと言われるとそんな気にはなれない。ではやはり返品するかと考えるが、それは流石に良心が痛み過ぎる。八方塞がりだ。頭を抱えそうになるが、濡れているのを思い出しやめた。宙ぶらりんになった手が今の状況を示しているようで、絡まった思考を振り払うように少し乱暴に皿を置く。分からないものは仕方ない。とりあえずは──放っておけないという自分の感情に従おう。

 

「よしっ」

 

 季節はまだ冬、水は冷たい。顔を上げると丁度向こうの道路を走るトラックの側面に、『あなたの生活をお支えします』の文字が様々なボイスロイドと共に映し出されているのが見えた。よくある広告だ。その値段も半端ない。本来なら俺の手が届くはずの無い存在──ボイスロイドとは、そういうものなのだ。

 かじかんだ手をほぐすついでに時計を見ると、予定まであと数分だった。幸せそうに食べるゆかりさんを眺め過ぎたか。

 せっかちなあいつなら、早めに来てもおかしくない。少し部屋が散らかっているため片付けておきたいが……。

 

 と、ピンポーンとチャイムが鳴らされる。どうやら片付ける暇は無いらしい。長々と考え過ぎたようだ。急いでエプロンを脱ぎ、ゆかりさんに少し待っているように伝え玄関に向かう。

 

「おー、久しぶりぃ。んでどしたの、急に呼び出して」

 

 そこにいたのは金髪の、男ならば十人中最低でも八人は認めるであろう美少女。少女というには余りに大人びた身体と、それでいてあどけなさを残す均整の取れた顔立ち。

 彼女は弦巻マキ──正確にはその第二世代型アンドロイド。俺と同じバイト先で働く仕事仲間だ。一応、俺の上司にあたるのだが、敬語や堅苦しいのは嫌だと言われて以来同年代の友人のような関係になりつつある。

 

 そんな彼女に俺は。

 

「──お金貸してくださいあと彼女の服とか選んでください!!」

 

 全力で頭を下げた。

 

 

 

 

 ###

 

 

 

 

 

「ふーん……君、ボイスロイド買ったんだ。しかも結月ゆかり型。へぇー……」

 

 開口一番あんなことを言ったからか、マキの目が冷たい。何故か家主であるはずの俺が正座し、靴も脱がずマキは仁王立ちしている。途中「いつからガチクズになったの?」とか「君には失望したよ」とか言われて心が折れかけたけども、ボイスロイドを──ゆかりさんを買ったのだという旨を伝えると一応話だけは聞いてくれた。

 

 伝えたことは三つ。ゆかりさんを買ったこと、少々性格に難がありそうなこと、服や生活スペースはどうすべきかということ。

 

「おいそんな目で見るなそんな目で。別にそういう(・・・・)目的で買ったわけじゃなくてだな」

「はーいはい言い訳は良いですよーだ。で、どこにいるのその子? 折角なんだし合わせてよ」

「今はキッチンで待ってもらってる。でもその前にちょっと話を──」

「はいはいお邪魔しまーす」

 

 そう言うなり、彼女は荷物を玄関に置きずかずかと家の中に入っていく。何回か来たこともあるためか、その足に迷いは無い。普段なら俺も気にしないが、しかし今はまずい。

 ──あの状態のゆかりさんを見て、マキはどう思うだろうか。そんなことも分からないほど、俺もバカじゃない。

 

「ちょっ、待て待て待て! だから一回話を──」

 

 しかし時は既に遅く。無情にもキッチンのドアは開け放たれ、マキの背中越しにビクりとしたゆかりさんの姿が見え、そして。

 

……お話、しようか

「…………はい」

 

 阿修羅がそこにいた。

 

 ゆかりさんをキッチン残したまま、ずるずると俺の部屋に連れていかれる。筋力は普通の女性と変わらないはずなのだが、万力のような力で俺の腕を掴み引きずる姿からはとてもそうとは思えない。未来から来た殺人ロボットだったりするのだろうか。

 

 ゆっくりとドアが閉められる。その音がやけに耳に残り、これからどうしたものかと目を覆う。

 

「……何回殴ってもらっても構わないから、話は聞いてくれないか?」

 

 怖くてマキの顔が見られない。しかし震える肩と強く握りしめられた拳から、考えていることは分かる。こうなるくらいなら文章上でもっと伝えておくべきったかと後悔するが、最早遅いだろう。頬に紅葉ができるくらいで済めばいいなぁ、なんて現実逃避をしていると、大きなため息が聞こえた。

 

「──なんか勘違いしてるみたいだけど、別に君を責める気はないよ」

「へ?」

 

 顔を見ると、不愉快そうに眉を顰めてはいるが、俺に対して怒っているようでは無さそうだった。

 思わず安堵のため息が漏れる。

 

「あの子、新人じゃないんでしょ? 君がボイスロイド買えるお金なんてある訳ないから、変だとは思ってたけど」

「……まぁ、な。めちゃくちゃ安くて、旧世代だからかと思ってたんだけど」

そういう事情持ち(傷あり)だったってことか。はぁ、君はいつも厄介事を抱えてるねぇ」

 

 やれやれと首を振るマキ。いつの間にか俺の腕は解放されていて、代わりに彼女自身の身体を抱きかかえていた。身体は、震えたままだ。

 

「正直、何を経験したらあそこまで怯えるようになるのか分からない。分からないし想像したくもないけど──君に一つ確認したい」

「ああ。何でも答えるさ」

「君、あの子のことちゃんと支えられる?」

 

 ──あなたの生活をお支えします。

 ふと、見慣れた文言が脳裏をよぎった。これじゃあ逆だ。でも不思議と、悪い気はしなかった。

 

「ああ。今更放っておけないしな。これはもう決めてる」

「……そっか。うん、君らしいや」

「なんだそれ」

「べーつーにー。でも、なら安心かな」

 

 少しだけ笑顔を見せるマキ。いつかゆかりさんもこんな感じに笑ってくれるのかなぁ、なんて思うが、ジト目に変わるのが見えたため咳払いで誤魔化す。

 

「さて、じゃあ本題なんだが」

「お金と衣服、だっけ。うーんそうだなぁ……」

 

 床に座ると、隣にマキも座り込んだ。顔を傾けながら考える姿は、彼女が本当に悩んでいる時のソレだ。我ながらいい友……人? を持ったものだ。

 しかし胸の下で腕を組むのはやめていただきたい。彼女の豊満がより強調され、更に動くたびに揺れるのだ。昨日のゆかりさんもそうだがボイスロイドってなんでこうも目に毒なんだろう。ありがとうございます。ぽよよん。

 

 いや待て待て。悩んでくれる友人を見て煩悩膨らませてどうする。確かに悩ましいけど。悩ましいけれども! ぷるぷる。

 スライムかて。

 

「……まだ負けたわけじゃない。ファイトだ私。頑張れ私。……よしっ」

 

 俺が内なる自分と戦っているうちに彼女は内容を整理し終えたらしく、小さな咳払いと共に顔を上げた。

 とにかく俺はボイスロイドについて、表面的なことしかしらない。その点ボイスロイドそのものである彼女はある種スペシャリストであるはずだ。彼女の意見は何かしら助けになるだろう。困ったら泣きつく気満々だ。

 

「お金についてはシフト増やしてもらうしかないかな。貸してあげたいのは山々なんだけど、実は今月ピンチで。でも服についてはちょっとアテがあるから任せといて!」

「それはかなり助かる。女の子の服とか分からん」

「勤務時間増えることは良いんだね……」

 

 少し不満そうな表情が彼女に浮かんだ。最近ミスも減ってきてるんだからシフト多めに入るくらい許して欲しい。

 

「そりゃま、それくらいは覚悟してたからな」

 

 ゆかりさんと二人で生活するぐらいならまだしばらくは大丈夫だ。それより目下の問題である服の方が大きい。現状寝間着すら無いのだ、ゆかりさんには。

 

「……ふーん。ま、そこは君の問題だから私には関係ないけど」

「そんな突き放すようなこと言わないでくれよマキマキ」

「マキマキ言うな! ……はぁ、私の方からもパ──店長に言っておくよ。君の仕事増やしてやってくれないかってね」

「うぐっ、いや確かにそれは助かるんだけど助からないというか」

「女の子一人買ったんだから責任くらい持ちなさい。君は今、その子のマスターなんだよ?」

「そう、か。うん。そうだな。頑張るよ」

 

 俺がゆかりさんのマスター。人にそう言われるとなんだか不思議な感じがする。でも嫌な気はしない。ゆかりさんの前のマスターなんて毛ほども興味は無いし想像したくも無いが──少なくとも俺だけは、ゆかりさんの味方でいよう。

 

……その顔、ずるい

「なんか言った?」

「っ、女の子がいるんだから部屋もっと片付けなよって言ったの!」

「立て込んでてな。気を付けるよ、さんきゅ」

 

 さてと、と言って彼女は立ち上がる。どうしたのかと尋ねると、いたずらっぽい笑みを浮かべた彼女と目があった。

 

「じゃ、私は少しあの子と話してみるよ」

「それはお願いしようと思ってた。好きな食べ物とか、嫌いな食べ物とか、趣味とか色々聞いてお──」

「それは君が自分で聞き出しなさい! マスターなんだから」

 

 ゆかりさんの怯えた姿を思いだす。現状、俺が何を言っても多分余計怖がらせてしまう。よほど強いトラウマを抱えているのか、そうならなければならない環境にいたのか、はたまたその両方か。いずれにしろ、俺にできることは生活を支援するぐらいだろう。

 

「俺が言っても怖がらせちゃうから、さ」

「……少しは聞いたげる。でも、君自身の口からもちゃんと聞くんだよ」

「ああ、分かってる」

「じゃ、行ってくるね」

 

 そう言って彼女は部屋を出ていく。多分マキなら大丈夫だろう。そう考えた途端、気が抜けたのか突然眠くなってきた。少しだけ、横になるとしよう。

 

 ゆかりさんと仲良くなる方法、考えなきゃな。

 

 

 

 

 

 

 




期待されていたようなお話からは多分外れてしまうのではと怖がりつつ、現実ストレスが許容値を超えたので好きなように書き殴りました。
元々このお話はあの一話で終わる予定だったので、ゆかりさん以外誰を出そうとか全然考えてなかったんですよね。
でも色んなボイロ劇場とか見てると、キャラ同士の掛け合いとかいいなって。
あとボイロ達の色んな可愛い姿も書いてみたいなって。

そういうことです。
基本ゆかりさんメインの予定ですが、また気長にお待ちいただければと思います。

久々過ぎて仮タイトルのまま投稿しちゃってたので修正
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