取りあえず、カレン達との会談については問題なく終わった。
実はこのギアス世界にも魔法使いという存在がおり、俺はそれだと言い張ったのだ。
この世界には実際にギアスなんてのが存在している以上、あながち間違いという訳でもない。
それに何より、論より証拠と炎獣や影槍を見せれば、目の前にあるのを信じない訳にもいかない。
だが、世の中の裏にいた存在である以上、当然のように戸籍の類がないからという事で、俺はカレンのグループ……正確には扇グループと呼ばれるグループの拠点を住処にして、ホワイトスターからの助けが来るのを待つ事にした。したのだが……
「カレン、学校はいいのか? 扇も学校に行った方がいいって言っただろ?」
「アクセルを1人には出来ないでしょ。それに、私はアクセルの監視役でもあるんだから。何か妙な真似をしたら……分かってるわね?」
「安心しろ。俺は戸籍も何もない状況だ。そうである以上、ブリタニアに協力したりといった真似は出来ない。……それより、KMFの方はどうなんだ?」
俺がスザクから奪った、ランスロット。
現在この世界においては唯一の第7世代KMFは、当然のように扇グループにとっては極めて強力な戦力となる筈だった。
ただ、問題なのは……試作機であるが故に、ロイドやセシルがプロテクトを掛けていたという事だろう。
あるいはKMFについて詳しい人物……ラクシャータとかがいれば、その辺もどうにかなったのかもしれないが、扇グループにいるのはどうしても専門家とは言えない。
取りあえずKMFの整備を何とか……本当に何とか出来るといった程度の者達だけであって、だからこそランスロットのプロテクトを外すような真似は出来なかった。
確保した時のランスロットは起動状態だったのだが、エナジーフィラーが勿体ないという事で一度止めてしまったのが、運命の分かれ道だったな。
「駄目ね」
カレンが短く返してくる。
それでいながら悔しそうな様子を見せているのは、実際にランスロットがどれだけ強いのかというのを、自分の目で確認したからだろう。
「そうなると、こっちの戦力はサザーランドだけか」
俺とカレンが扇達に合流し、ランスロットが来た時、その場所にはサザーランドがまだ3機存在していた。
もし俺がいなければ、その3機もランスロットに倒されていたのだろうが、その前に俺が動いてランスロットを確保する事に成功した。
結果として、そのサザーランドはこちらの手元にあるままで……そして、何故か急に出された停戦宣言によって、ブリタニア軍は撤退していった。
多分、クロヴィスは殺されたんだろうな。
「それでも十分よ。今までは中古のグラスゴーを使って何とかやりくりしてたんだから」
「……まぁ、グラスゴーに比べれば性能は明らかに上だしな。ただ、問題なのは保守部品をどうするか、だ。エナジーフィラーの問題もあるし」
グラスゴーの保守部品が使える場所もあるかもしれないが、同時にサザーランドの部品でなければ使えない場所も多い筈だ。
また、KMFというのは基本的にそこまで長時間の運用が出来ない。
エナジーフィラーという、エネルギー源が必要なんだが、ブラックホールエンジンとかに慣れた身としては、かなり使いにくい機体なのは間違いない。
そんな風にカレンと会話をしながら数日が経ち……
「おい、カレン、アクセル! TVを見てみろよ!」
玉城が叫びながら、俺の部屋にやってくる。
その声に、俺は部屋にあるTVのスイッチを付ける。
……ちなみに、この部屋はかなりの設備が整っていた。
それこそ、とてもスラム街にあるとは思えない程に。
当然ながら、これは俺が影のゲートと空間倉庫を使ってブリタニアの軍事基地から盗んできたものだ。
そして、サザーランドの保守部品とかの類も、そうやって入手している。
実は空間倉庫の中には他にも基地から盗んだKMFが入っていたりするのだが、それは今のところ内緒にしてあった。
ともあれ、TVをつけると、そこではブリタニアの軍人が興奮した様子でクロヴィス殺害の犯人としてスザクが逮捕されたという事を叫んでいた。
「これって……ランスロットのパイロットだった人、よね?」
「そうだな」
カレンの言葉に頷く。
あの状況で、どうやってスザクがクロヴィスを殺したのかは分からない。
スザクの性格から考えても、恐らくは無理だろう。
そうなると、やっぱりこれをやったのはルルーシュなのか?
そんな疑問を抱きつつ、TVを見ていると、玉城が俺の方を見て口を開く。
「どうするんだよ?」
「どうするって、何がだ?」
玉城の言葉の意味が分からず、素の状態で返す。
だが、玉城はそんな俺の言葉が面白くなかったのか、苛立ち紛れに口を開く。
「だから、クロヴィスの件だよ! 俺達がやったって言えばいいと思わないのか!?」
「思わないな。というか、実際にやってないのをやったっていうのはどうかと思うぞ。それに、そもそも何で俺にそれを言うんだ? ここは扇グループで、扇がリーダーだろ? 俺は、そこに厄介になってるだけだ」
「そうよ、扇さんが言ってないのに、何でアクセルに言うのよ!」
「いや、だってよ。扇の奴は何もしないって言うんだぜ? 折角こんなチャンスなのに」
扇が決めたのなら、それでいいだろうに。
というか、玉城って何気に扇グループの中でも足を引っ張っているんだよな。
一応扇グループの金を纏めているのが玉城なのだが、その金を使い込んでいるというのは、それこそここで暮らしたばかりの俺であっても理解している。
しかも、今では新宿事変と呼ばれているあの騒動も、玉城が自分の手柄を欲して独断専行したのが原因となれば、好印象を抱けというのが無理だろう。
玉城本人は全く認識していないようだが、こいつの行動が原因で何百人、もしくは何千人が死んだのは、間違いのない事実だ。
「アクセル、ちょっといいか?」
玉城の扱いにうんざりしていると、扇が部屋に入ってきてそう声を掛けるのだった。
「オレンジ、ねぇ」
ルルーシュ……いや、ゼロのそのブラフによってジェレミアはスザクをゼロに引き渡し、そのまま脱出する事になった。
俺とカレンがクロヴィスの車……外側だけを何とかそれらしく整えたその車に乗っていたのだが、結局その場では俺が特に何をするでもなくスザクの奪還は終わる。
「アクセルがいれば、正面からでも成功出来たんじゃない?」
「かもな」
ゼロとスザクが話している部屋の隣で、扇グループの面々が待っていて、そんな状況で俺はカレンにそう言われた。
実際にやろうと思えば出来たのは間違いないだろう。
だが、もしそれをやったとすれば、俺は悪い意味でこの世界で目立ってしまう。
……あ、でもレモン達が助けに来た時の事を考えると、目立って俺という存在についての情報を広めた方がいいのか?
そんな風に思わないでもないが、今の状況を考えると微妙な感じがしないでもない。
「君は……」
ゼロとの話が終わったのか、スザクが俺達の前に姿を現す。
「よう、元気そう……と言ってもいいかどうかは分からないが、取りあえず無事で良かったな」
「そうだね。ただ、これから軍事裁判の場所に行くから、そこでどうなるのかは分からないけど」
「はぁっ!?」
俺の隣で話を聞いていたカレンが、スザクの口から出た言葉にそう叫ぶ。
まぁ、分からないではない。
今から軍事裁判に行っても、ほぼ間違いなく有罪が待っている筈なのだから。
その辺の事情を考えると、スザクの取る行動は自殺行為であるようにしか思えない。
「ロイドさんとセシルさんには怒られたよ」
「だろうな」
特派が有しているランスロットというのは、ロイドにとって非常に重要な代物だ。
それを奪われたとなれば、それで怒るなという方が無理だろう。
もしくは、素手でコックピットを引き裂かれるような真似をしたのだと、信じて貰えなかったか。
ギアス世界の人間であれば、それを信じろという方が無理だろうけど。
「ただ、予備パーツがあったから、それでランスロット・クラブという機体を組み上げたんだ。今度は負けないよ」
そう言い、スザクは去っていく。
「馬鹿じゃないの?」
「カレンの言いたい事も分かるけど、スザクにはスザクの行動指針があるんだろ」
「それが、あれ?」
「だろうな。正直なところ、俺も理解は出来ないが」
自分から死刑になる可能性が高い場所に向かうというのは、俺には理解出来ない。
いやまぁ、俺はギアス世界でスザクが死ななかったと知ってるからこそ、好きにさせたんだが。
……俺の介入で、その辺まで変わったりしないよな?
ランスロットを奪ってるし。
何気にランスロットが奪われたというのは、スザク的に大きなダメージだったような気もするが……まぁ、これで死ぬのならそれもまた運命なのだろう。
出来ればコーネリアが可愛がっているユーフェミアの為に助けてやりたいという思いはあったが、それでも俺にやれるべき事はどうしても限られている。
ともあれ、そんな風にスザクを見送り……最終的にやはり俺の予想通りにスザクは証拠不十分の無罪として釈放されることになるのだった。
スザクの解放から少しして、相変わらず俺はカレンと一緒に行動していた。
というか、本気でカレンはアッシュフォード学園に戻らなくなっており、俺の監視という名目で半ば俺の部屋に住みついてすらいる。
とはいえ、年頃のカレンが俺と一緒の部屋で寝泊まり出来る筈もなく、カレンが寝ている部屋は別だったが。
そうしてずっと一緒にいれば、当然ながらカレンにとっても俺と一緒にいるというのが日常になり、お互いに打ち解ける事も出来る。
時々扇が俺の部屋に顔を出しては、何故か満足そうに頷いていたりもしたが。
また、俺の生身の実力を確認するという名目で扇グループの面々に訓練をつけてやったりもした。
ともあれ、そんな日々を楽しんでいたのだが……不意にゼロからの連絡があり、呼び出された先には一台の巨大なトレーラー……と呼んでもいいのかどうかは分からないが、そのような巨大な車があった。
「ねぇ、アクセル。これって買うとしたらどのくらい掛かるのかしら」
「どうだろうな。取りあえずその辺の一般人に購入出来るような代物ではないのは間違いないと思うけど」
その言葉に、カレンだけではなく他の面々までもが頷く。
この扇グループってのは、何だかんだと今も表向き社会人だったり、レジスタンスをやる前は社会人だったりした者もいるので、ある程度の金銭感覚を持っている者が多い。
……それでいながら、何故玉城のような奴に財政を任せているのかは疑問だが。
ともあれ、それだけにこれだけの車を購入するには一体どれくらいの金が必要なのか、理解出来るのだろう。
ともあれ、トレーラーの中に入っていたのは……ゼロだった。
そこでゼロと扇グループの間でこれから共に行動するという事になり、俺が知ってる通り黒の騎士団が結成され……そんな中で、俺はゼロと話す機会を得る。
というか、ゼロの方から俺と話そうとしてきたというのが大きい。
ゼロにしてみれば、新宿事変において自分が手も足も出なかったランスロットを生身で倒したというのが気になっていたのだろう。
それと、スザクの件もあるのか?
ともあれ、トレーラーにある一室、ゼロの部屋で俺はゼロと向かい合っていた。
こうして直接ゼロと話すのは……オレンジ事件の時以来か?
もっとも、あの時は色々と忙しくてお互いにゆっくりと話す事もなかったし、ルルーシュがスザクについて聞いてくるといった事もなかったが。
「お前が、あの白兜を1人で、それも素手で倒したというのは本当か?」
「ああ、俺にとってみればKMFは玩具に近いしな。それより丁度良かった。俺もお前に用件があったんだよ」
「……ほう? 私に用件とは?」
「KMFの専門家を探して欲しくてな。ああ、操縦じゃなくて設計の。白兜……枢木スザク曰く、ランスロットを入手したのはいいけど、試作機だけにプロテクトが頑丈でな。一度止めてしまったら、もう起動しなくなったんだ」
スザクという名前を出したところで、ゼロの身体が一瞬震えるのが分かった。
やっぱりスザクの事を聞きたかったのは確実、と。
「……手配しよう。だが、その前に聞かせろ。お前は何者だ?」
「そうだな。強いて言えば……魔法使いといったところか。それと人間ではない」
「何?」
魔法使いと人間ではないという言葉。
そのどちらに反応したのかは俺にも分からなかったが、それでも何らかの反応を得る事には成功する。
まぁ、C.C.という死んでも死なない存在を知っている以上、ゼロにとっては適当に聞き流す訳にもいかない話なのは間違いないだろうが。
「例えば、こんな風にな」
そう言い、軽く指を鳴らすと同時に炎獣を生み出す。
リスや子猫、小鳥……そんな小さな炎獣が、部屋の中を駆け回る。
「……」
仮面を被っているので表情は見えないが、それでも動きが止まっていることから驚いているのは明らかだった。
そうして動きが止まっているルルーシュに対し、俺は追撃の一言を口にする。
「そんな訳で、人間ではない俺にギアスは通じないぞ」
その言葉に、ゼロは半ば反射的にだろう。懐から取り出した拳銃の銃口を俺に向けるのだった。