ギアスという言葉に、懐から取り出した拳銃の銃口を俺に向けるゼロ。
だが、当然の話ではあったが、俺はそんな銃口を向けられても特に気にした様子もなく、口を開く。
「俺は人間じゃないと言っただろう? 正式には混沌精霊……魔法生物だ。だから、当然のように物理攻撃も通用はしない。撃ってみるか? それならそれで構わないけど、扇達が銃声に驚いてやって来るだけになると思うぞ」
「貴様……何者だ……?」
「だから言っただろう? アクセル・アルマー。魔法使いにして混沌精霊だよ。後は、生身でKMFをどうにか出来る程度の実力も持っている」
何故か俺の愛機たるニーズヘッグやら、それ以外にも空間倉庫の中に入っている機体の類は出す事が出来ないので、万全の状態とは言えないのだが。
ニーズヘッグがあれば、それこそブリタニア軍全てを俺だけで倒す事も出来たんだが。
「……何が望みだ?」
「そうだな。俺が本来いるべき場所に戻る事だな。それまでは扇やお前達に協力しておくよ。……ああ、そうそう。C.C.に伝えてくれ。俺なら魔法でお前の願いを叶えてやれると」
その言葉に、再び動きが止まるゼロ。
誰に聞いたのかは忘れたし、あるいは既になくなった原作知識から得た情報だったのかもしれないが、ともあれC.C.は不老不死であるが故に自分の死という結末を望んでいた。
当然そんなC.C.は俺の力を使っても殺す事は出来ないかも知れないが、俺には永久石化光線という能力がある。
これを使えば、C.C.の意識は完全に絶たれて石化されてしまうので、言ってみればそれは死と同じ事だ。
……まぁ、もしかしたらギアスの力で石化された状態からも復帰してしまうという可能性はあるかもしれないが。
ともあれ、それだけを言って俺はゼロの部屋から出るのだった。
「アクセル、ゼロは何だって?」
「俺が何者か知りたかったらしい」
「あー……なるほど」
カレンは俺の言葉に納得したように呟く。
カレンにしてみれば、ゼロの気持ちはもの凄く納得出来たらしい。
「そう言えば、カレンはあまり俺のことを気にしないな」
「……気にしてもしょうがないでしょ。それにアクセルは私達の仲間……そう、仲間何だから。扇さん達もきっと同じように思ってるわよ」
俺の言葉に、カレンは頬を薄らと赤くしてそう告げてくる。
照れているところが、カレンらしいと言えばカレンらしい。
ともあれ、俺達はこうして黒の騎士団として活動することになる。
……本来なら、ブリタニア側で活動していたのを考えると、色々と微妙な気がしないでもないのだが。
ちなみに、C.C.はゼロからどんな話を聞いたのかは分からないが、取りあえず俺には会わないということにしたと、後日ゼロから聞かされる事になる。
「これが、紅蓮弐式か。……日本独自のKMF」
感心したように扇が呟く。
とはいえ、俺が知ってる話によると、これを開発したのはラクシャータだって話だったから、実際にはインド軍区が日本に頼まれて開発したKMFという事になるのだろうが。
ともあれ、グラスゴーの改良型たる無頼と共に、紅蓮弐式が京都から黒の騎士団に送られてきたのだ。
ブリタニア人の犯罪者とかを倒しては晒していった甲斐があったというものだ。
「そういえば、結局ランスロットはどうしたの?」
「まだ、俺が持ってる」
ゼロにしても、KMFの専門家……それも第7世代のKMFを弄れる技術者というのは、そう簡単に接触は出来ないのだろう。
そんな訳で、恐らくランスロットは紅蓮弐式を開発したラクシャータに任せる事になると思う。
前回はロイド達と、そして今回はラクシャータと、か。
まぁ、この紅蓮弐式もブリタニアの世代に当て嵌めると第7世代なんだから、その辺は当然かもしれないが。
「そう。なら、この紅蓮弐式はアクセルが乗る?」
「あー……いや。これはやっぱりカレンが乗った方がいいんじゃないか? 黒の騎士団のエースはカレンなんだし」
「……そのエースの私が、アクセルには1度も勝てないんだけど?」
不満そうな様子のカレン。
カレンが学校に行っていない以上、当然のように俺の見張りのカレンは俺と一緒にいる事になり、軽く身体を動かすという事で組み手……いや、模擬戦を行ったりもした。
結果は、カレンが言ってる通り。
とはいえ、カレンの運動神経や戦闘センスは非常に高く、俺との戦闘でもその能力を急速に伸ばしているのだが。
多分、今なら生身でもスザクを相手に勝てるんじゃないだろうか。
そんな風に話しているとゼロがやって来て、ナリタまでピクニックに行く事になるのだった。
……いよいよ、コーネリアとの遭遇、か。
ナリタ連山にて待機している中、そんな事が頭に浮かぶ。
正直なところ思う所は色々とあるのだが、この世界のコーネリアは、俺の愛したコーネリアではない。
それはわかっているのだが、それでも俺の愛した女であるのも間違いはないのだ。
矛盾してはいるが、今の状況を考えるとそんな風に思ってもおかしくはない。
「ちょっと、何か妙な事を考えてない?」
山を見ながらコーネリアの事を考えていると、カレンが若干不機嫌そうな顔で俺を見てくる。
コーネリアの事を考えているのが知られたのか?
取りあえず、話を誤魔化しておく必要はあるだろう。
カレンにとって、コーネリアというのは、今回の戦いで倒すべき敵ではあるのだ。
俺がそんなコーネリアと深い関係……それこそ、コーネリア本人ですら知らない黒子の位置を知っているような関係だと知られれば、確実に不味い事になるだろうし。
「いや、何でもない。ただ……お、始まったみたいだな」
俺の言葉の途中で、ブリタニア軍が日本解放戦線に対する攻撃を開始した。
「っと、いけない。じゃあ、私も紅蓮の中に戻るから。……アクセル、気をつけてよ」
そう言い、カレンは紅蓮弐式のコックピットに向かう。
ちなみに、今回の戦いにおいて俺が乗るKMFは、無頼となっていた。
考えてみれば当然なのだが、紅蓮の他にあるのは無頼と新宿事変で入手したサザーランドしかない。
で、サザーランドは当然だが保守部品等の問題で使える筈もなく、結果として俺が使うのは無頼になった訳だ。
ランスロットは、ラクシャータがまだ合流していないし、もし合流してもコックピットとかを修理する必要がある以上、すぐに使うといった事は出来ないんだよな。
かといって、まさか紅蓮弐式をもう1機寄越せなんて言える筈もないし。
その後、ブリタニア軍の数の多さに玉城が自分がゼロに取って代わろうとするも、結局はゼロに任せる事にした。
……というか、玉城のあの自信って一体何なんだろうな。
ちなみに黒の騎士団の財政に関しても、玉城は横領しているのをゼロに見つかって首にされている。
にしても、無頼か。……いやまぁ、実際に悪い機体って訳じゃないんだけどな。
ただ、俺の場合はそれこそ生身で戦った方がKMFに乗るよりも役に立てるような気がするんだが。
ルルーシュに言わせれば、それは黒の騎士団の切り札、ジョーカーだから、出来るだけ秘密にしているらしい。
いやまぁ、実際に素手でKMFと戦うという光景を思えば、ルルーシュの考えはそうおかしなものではないし、いざという時に相手の意表を突くという点でも秘密にしておいた方がいいのは間違いない。
とはいえ、スザクの乗っているランスロットを素手で倒し、そのスザクは捕らえるでも、殺すでもなくそのまま解放している。
そうなると、ブリタニア軍に俺の情報が渡っている可能性もあるのか。
……まぁ、ランスロットはこっちが確保したし、映像データの類は何も残っていない以上、ブリタニア軍がスザクの言葉を信じるかどうかというのは、微妙なところだが。
基本的にはナンバーズや名誉ブリタニア人というのは、本職のブリタニア軍人にとって信頼すべき相手ではない。
そうなると、今回の一件に関しても、到底……ああ、でもジェレミアも知ってるのか。
けど、現在のジェレミアはオレンジとしてとてもではないが他人に信じられてはいないしな。
ともあれ、俺は無頼のコックピットに乗って、日本解放戦線とブリタニア軍との戦いを眺める。
眼下で行われている戦いは、日本解放戦線が一方的に被害を受けているという状況であり、このままでは負けるのはほぼ確定と言ってもいい。
藤堂や四聖剣辺りがいれば、まだ話は別だったのだろうが。
だが、俺の知ってる情報――以前のギアス世界でのもの――によれば、この藤堂と四聖剣は現在京都に行って無頼改を受け取り、ナリタに戻ってきている筈だ。
無頼改、これはグラスゴーを改良した無頼を、更に改良した機体だ。
その性能は高く、この時代のブリタニアにおける主力量産機のグラスゴー以上で、グロースターとすら互角に戦えるだけのものがある。
……出来れば欲しい機体であるのは間違いないな。
『カレン、やれ!』
そんな風に考えている間にも時間は進み、ゼロがカレンに対して指示を出す。
その命令に従い、カレンの操る紅蓮弐式は輻射波動を使い……結果として、大きな土砂崩れが落ちる。
まるで雪崩の如く崩れていく土石流は、ブリタニア軍と日本解放戦線を区別なく呑み込んでいく。
あの中……特にブリタニア軍の中には、俺にとっても知ってる奴もいるんだろうが……その連中が被害に遭っていないことを祈るとしよう。
ともあれ、紅蓮弐式の起こした土砂崩れによって、戦場は混乱の渦に叩き込まれた。
そして、ゼロの命令に従って黒の騎士団は出撃する。
コーネリアと会うのは、この世界ではこれが初めてか。
この世界のコーネリアとどう接すればいいのか、正直なところ今もまだ迷っている。
そんな思いを抱きつつ、俺は無頼を操ってブリタニア軍のサザーランドを撃破していく。
『アクセル、お前はポイントA-3に向かえ! そこでコーネリアの親衛隊がいて、こちらが苦戦している!』
「了解」
ゼロの指示に従ってその場所に向かったのだが……
あー、うん。コーネリアの部下と言えば、当然のようにこいつがいてもおかしくはないよな。
本来なら、俺の友人の1人……ギルフォード。
そのギルフォード率いるグロースターの部隊が、黒の騎士団に所属する無頼を一方的に倒していたのだ。
いやまぁ、ギルフォードという腕利きの騎士を相手に、ろくに実戦訓練もしていない黒の騎士団の人間が勝てると思う方がおかしいのだが。
その上、ギルフォード以外にもコーネリアの部下の操るグロースターがいるとなれば、寧ろここまでよく保ったと言ってもいい。
「お前達はどけ、後は俺が引き受ける」
『す、すいません!』
まだ残っていた無頼からそんな声が聞こえ、そのままこの場を離脱していく。
……いや、それは離脱ではなく、逃げ出したと表現してもいい。
ギルフォードとの戦いで、それだけ恐怖を感じたという事か。
こうなると、あの無頼に乗っていたパイロット達はこのまま黒の騎士団に留まるかどうか、もし留まってもKMFのパイロットとしてやっていけるかどうかというのは、微妙なところだろう。
ただ、ここで踏ん張る事が出来れば、KMFのパイロットとして一皮剥けるのは間違いないが。
そんな風に思いながら、俺はグロースターとの間合いを詰めていく。
『退けぇっ!』
ギルフォードの機体から放たれる怒声。
ギルフォードにしてみれば、少しでも早くコーネリアの下に行きたいと焦っているんだろう。
他のパイロットとは一線を画した速度と鋭さでランスによる突きを放ってくる。
だが、ギルフォードにとって最大の不運は、相手が俺だった事だろう。
ギルフォードと行った模擬戦の数は、それこそ限りない。
その結果として、今の……俺が知ってる方のギルフォードは、目の前にいるギルフォードよりも圧倒的なまでの実力を持っているのだ。
それだけに、目の前のギルフォードの一撃は容易に読めて……ランスの一撃を回避して懐に入り、スタントンファの一撃を放つ。
KMFというのは、基本的に機動力を重視して作られている為に、装甲そのものはそこまで厚くはない。
拳銃程度であれば防ぐのは難しくはないが、同じKMFが振るうスタントンファの一撃は、グロースターの装甲をひしゃげさせ、コックピットブロックが吹き飛ぶ。
……取りあえず、生きてるのでOKとしておこう。
他のグロースターは、まさかギルフォードがこうもあっさりと負けるとは思わなかったのか、驚きで動きが止まり……そこを狙って、次々と撃破していく。
それでも命を奪うような真似をしなかったのは、出来るだけ知ってる顔を殺したくはなかったからだ。
そうしてギルフォードを含めた者達を倒したところで、藤堂と四聖剣の面々が無頼改で俺の前に姿を現すのだった。