『貴様は、黒の騎士団の者か?』
「そうだ。それより、いつまでもここで時間を浪費していてもいいのか? 日本解放戦線は、ブリタニアの攻撃でかなりの被害を受けているぞ?」
その言葉に、一瞬沈黙する藤堂。
だが、その沈黙があればそれで十分なので、俺はそのままその場から移動する。
藤堂達も、俺を放っておくような真似はしたくないのだろうが、俺の言った事は決して嘘ではない。
実際に今の日本解放戦線は、かなりの被害を受けているのだ。
であれば、一応……本当に一応は同じ志を持つからこそ、今は俺から事情を聞くよりも日本解放戦線の首脳部に合流する事を優先するのは当然だろう。
そんな訳で、藤堂と四聖剣は俺を追いかけては来ず……俺はナリタの中で味方を助けながら、コーネリアのいる場所に向かうのだった。
「あー……いやまぁ、この結果は予想出来る事ではあったか?」
その戦場に到着した時、既にコーネリアはゼロに捕らえられていた。
紅蓮弐式は、ランスロット……恐らくスザクが言っていたランスロット・クラブとかいう機体なんだろうが、その機体の四肢を破壊し、胴体だけが地面に転がっており、コックピットから出たスザクが黒の騎士団に捕らえられていた。
えーっと、何が何でこんな事になってるんだ?
俺が知っている成り行きとはこれでもかと言わんばかりに違ったので戸惑ったが、考えてみればある意味では当然だった。
まず、ランスロット・クラブ。
これはランスロットの予備部品とかを使って作った機体である以上、当然のように俺が奪ったランスロットに比べると性能が落ちてしまう。
更に、カレンは結構な頻度で俺と戦闘訓練を行っていた事もあり、それがカレンのKMFの操縦技術についても底上げし、結果としてスザクとの勝負でカレンに勝敗が上がったのだろう。
スザクが負けた事により、コーネリアの方もゼロやその部下だけに構っていられなくなり……結果として2人揃って捕まった、と。
「アクセルか。……見ろ、大勝利だ!」
ゼロが俺の姿を見て、そう告げる。
仮面を被っているので表情は分からないが、嬉しそうなのは声で理解出来る。
そんなゼロを見ながら、猿轡をされているコーネリアを見た。
猿轡をしているのは、コーネリアが自殺しないようにだろう。
コーネリアの性格を考えると、捕虜になる屈辱を味わうくらいなら……と、舌を噛んでもおかしくはない。
「あー、うん。おめでとうと言った方がいいのか? けど、これからどうする? このままコーネリアを連れて行けば、ブリタニア軍は間違いなくこっちを追いかけてくるぞ。それも、絶対に諦めずに」
これが、コーネリアではなく他の相手ならそこまで心配はしなくてもよかっただろう。
だが、今回捕らえた相手はコーネリアだ。
ダールトンやギルフォード、グラストンナイツ……それ以外にも、多くの部下がいる。
それも強い忠誠心を持っており、コーネリアのいる場所こそが国であると、そう断言してしまう程だ。
そのような者達が、コーネリアを捕虜としたこちらをそのままにしておく筈がない。
絶対に、コーネリアを奪い返そうとするだろう。
今の黒の騎士団の実力では、正面からコーネリア軍……いや、ブリタニア軍と戦っても、勝つ事は難しい。
いやまぁ、俺が全面的に戦ってもいいのなら、どうとでもなるのは間違いないが。
「ふむ、それは分かる。だが、コーネリアがいる以上、向こうも迂闊な手出しは出来ないだろう」
「でも、ゼロ。コーネリアを連れてゲットーとかに戻ったら……」
カレンが心配そうに告げる。
その気持ちも分からないではない。
コーネリアを奪還しようとすれば、ギルフォードやダールトンといった面々は、間違いなくゲットーに住む者達の安全について考えるといった事はしないだろう。
何よりもまず、コーネリアの奪還こそが最重要事項なのだから。
「うむ。その心配は理解出来る。だが、コーネリアという最大のカードを手に入れた以上、それを捨てるという真似は出来ない」
そんなゼロの言葉に、カレンはこちらに視線を向けてくる。
正直なところ、俺としてはこのままコーネリアを解放したいところだが、今の状況を考えるとそんな真似も出来ない。
今の俺は黒の騎士団の人間である以上、ここでコーネリアを解放するという真似は決して出来ない。
なので、カレンの視線に小さく頷く。
「……分かったわ、ゼロの言う事を信じる。それで、こっちの枢木スザクはどうするの?」
「そちらは解放しても構わん」
「え? ちょっと、本気!?」
「俺もカレンの意見に賛成だ。この男はランスロットのパイロットで、KMFの操縦技術も高い。それこそ、この戦いの痕跡を見ても、腕利きだというのは明らかだしな。そんな奴をこのまま解放するなんて事になれば、それこそ後々黒の騎士団にとって都合の悪い事になる可能性が高い。つまり……殺す」
そう言った瞬間、ゼロの身体がビクリと震えた。
今のゼロは、スザクに対してまた強い友情を感じているしな。
また、カレンとしてもスザクを殺すという選択肢は取りたくないらしく、こちらに視線を向けていた。
「……のはちょっとどうかと思うから、取りあえず捕虜という扱いにしてそのまま連れて行ったらどうだ?」
その言葉に、ゼロはあからさまに安堵した様子を見せる。
ゼロは……いや、ルルーシュがこういう突発的な出来事に弱いのは、世界が変わっても同じなんだな。
そんな風に思いつつ、今回の作戦が大成功したという事に満足しながら、俺達はその場から立ち去るのだった。
コーネリア、捕虜となる。
このニュースはブリタニア側が必死に隠している為か、まだ殆ど広まってはいない。
そんな状況の中で、俺達黒の騎士団の姿は京都にあった。
京都からの呼び出しというのが最大の理由だが、俺が来たのは京都ではなく……
「ふーん。これがあのプリン伯爵が開発したKMF、ね」
俺の前では、ラクシャータがランスロットのデータを興味深そうに……それでいて、それを表に出さないようにして眺めていた。
まぁ、ラクシャータとロイドは色々と因縁があるらしいから、それもおかしくはないのだろうが。
「ああ。ただ、プロテクトの類が掛かってるらしくてな。今は使えない。コックピットも破壊されてるし。……どうだ? 直せるか?」
「うーん、直せるかどうかって事なら直せるんだけどね。あのプリン伯爵と共同作業ってのはちょっとぞっとしないわね」
そう言いながらも、結局ラクシャータは俺の要請を引き受けて、最終的にはランスロットの修理は完了する事になる。
それと、本来なら2つしか装備していないスラッシュハーケンだが、実はランスロットには4本装備されており、こちらもまたプロテクトで使用出来ないようにされていたのを、ラクシャータがあっさりと解除してくれた。
……うん。プリン伯爵と呼んでるくらいだから、プロテクトの解除キーも簡単に理解出来たんだろうな。
「それにしても、このスペックだと普通のパイロットならとてもじゃないけど機体を扱えない筈なんだけどね。アクセルだっけ? 日本人じゃないのに、黒の騎士団に協力してるのは、その辺が理由なの?」
「否定はしない。実際には成り行きってところなんだけどな」
「成り行き?」
少し疑問の視線を向けてくるラクシャータだったが、まさかいつの間にかこの世界に転移してきたなんて事は言っても分からないだろうし。
ともあれ、ラクシャータは今回の一件で俺に興味を持って黒の騎士団に合流する事になったのだが……
「ちょっと、アクセル! 何でその人とそんなにくっついてるのよ!」
俺の部屋でラクシャータが仕事をしながらこっちにちょっかいを出しているのを見て、カレンが怒る。
「あら、別に私とアクセルが何をしようと、貴方には関係ないんじゃない? それに、ほら。今は月下の調整で忙しいんだから」
「なら、尚更アクセルにちょっかいを出す必要はないでしょ!」
「もしかして、妬いてるのかしら?」
「なぁっ!? ななななな……そ、そんな訳ないじゃない!」
ラクシャータの言葉に、カレンが顔を真っ赤にして叫ぶ。
何て分かりやすい。
というか、いつの間に俺はカレンの好感度をそんなに稼いだんだ?
そう思いつつ、カレンに声を掛ける。
「言っておくけど、ラクシャータは俺の身体を調べたいだけだぞ。生身でKMFに……それもランスロットに勝ったのが、信じられないらしい」
その言葉に、カレンはラクシャータに不満そうな視線を向けた。
カレンにしてみれば、ラクシャータがそういう理由で俺に近づいてきた事が気にくわなかったのだろう。
「あら、魅力的な素材に興味を持つのは当然でしょう?」
「素材って……」
こうしてきっぱりと俺を素材と言い張る辺り、ラクシャータらしい。
「ほら、いいから離れなさいよ! 全く、油断も隙もないんだから」
「羨ましければ、羨ましいって言ってもいいのよ?」
「ばぁっ!? な、なななななな……そ、そんな訳ないでしょ!」
ラクシャータのからかいの声に、カレンが慌てたように叫ぶ。
何だかんだと、カレンはこういう方面に対して初心だよな。
「ランスロットの方はいつくらいに使えそうなんだ?」
ラクシャータの、平均よりも明らかに大きな双丘が俺の背中で押し潰されるのを感じつつ、ラクシャータに尋ねる。
修理そのものは既に終わっているが、ランスロットのデータを取りたいという事で、まだ実戦で使うというのは許可されていない。
……俺が鹵獲したのに、ラクシャータが許可を出すのはどうかと思わないでもないんだが。
ラクシャータも、口では何だかんだと言いながらロイドの開発したランスロットには興味津々といったところか。
「そうね。今度実際に動かしてるところを見てみたいんだけど……そう言えば、あの機体の本当のパイロットってどうなったの?」
「スザク? スザクなら、今は牢屋の中にいるけど、もう何日かしたら京都に引き渡すみたいよ」
いつの間にか、カレンはスザクをスザクと呼ぶようになっていたらしい。
少し前までは枢木スザクとフルネームで呼んでいたと思うんだが。
何がどうなってその辺が変わったのかは分からないが、ともあれそういう事らしい。
「京都に?」
「ええ。何でも京都にはスザクの親戚がいるらしくて。そっちの方で預かるみたい」
その言葉に、そう言えば……と思い出す。
皇神楽耶だったか。
その事に納得するのと同時に、ゼロがスザクを引き渡す事に成功したのだと、そう納得する。
ゼロ……いや、ルルーシュにとってスザクという人物は、幼なじみにして親友……いや心友と言ってもいいような人物だ。
それだけに、スザクは出来れば手元に置いておきたいと、そう思ってもおかしくはない。
そんなゼロが京都にスザクを引き渡すというのは、強い疑問があった。
とはいえ、ルルーシュの事だからスザクを引き渡すのにも何かの意味はあるんだろうが。
「京都か。まぁ、オレンジ事件の時のように自由にすれば引き渡す事になるんだろうし、そう考えればブリタニアに戻らないだけマシか」
「あのプリン伯爵が認めた技量だもんねぇ」
そう言い、再び俺の後ろから抱きついてくるラクシャータ。
そんなラクシャータに再び怒鳴り声を上げるカレン。
何だか、この先は何度も同じような光景を目にするような事になりそうな気がする。
ともあれ、そんなやり取りは受け流して、スザク以外の捕虜について尋ねる。
「それで、コーネリアはどうするんだ?」
そう、ぶっちゃけた話、俺にとってはスザクよりもコーネリアの方が何十倍、何百倍も大事だ。
勿論、このギアス世界のコーネリアが俺の愛したコーネリアではないというのは、知っている。
だが、それでもやはりコーネリアの事を気にするのは当然だろう。
「……何だか、最初からそっちが本命だったみたいな聞き方ね」
「別にそんな訳じゃない。ただ、あのブリタニアの皇女だからな。どういう風に使うのか、ちょっと気になっただけだ」
「そうね。普通に考えるのなら、日本を解放する為にブリタニアと交渉する為の材料とかなんでしょうけど」
「無理ね」
カレンの言葉を、ラクシャータは即座に切り捨てる。
そんなラクシャータに対して若干不満そうな表情を浮かべたカレンだったが、本人もラクシャータの言葉に一理あるというのは認めているのか、反論する様子はない。
実際、俺が知ってる限りでもコーネリアを人質にして日本解放を願っても、まず無理だろうというのは容易に予想出来るし。
「そうなると、新型のKMFとか?」
「ランスロットを奪われたのに?」
次のカレンの言葉もあっさりと潰される。
……こうなると、コーネリアというカードが大きすぎるだけに、使い道に困るんだよな。
まぁ、ゼロならそれなりの結果に辿り着くのだろうが。
勿論殺すとかそういう事を言った場合は、俺はコーネリアを連れて黒の騎士団を抜けるか、もしくはゼロを倒して黒の騎士団を乗っ取るかをするだろう。
そんな風に思いつつも、俺は背中に当たるラクシャータの双丘の感触を楽しむのだった。……カレンに見咎められないようにしながら。