「は? 四聖剣が?」
カレンとラクシャータのやり取りがあってから、数日。
今日も今日とてその2人と一緒に部屋でゴロゴロ――ちなみにこの部屋は最近ではハーレム部屋とか言われているらしいが――としていると、扇が姿を現し、そんな事を言ってきた。
その扇は、部屋の中で特にいかがわしい行為が行われていなかった事に安堵した様子を見せながら、口を開く。
「ああ。後でゼロにも知らせるけど、取りあえずアクセルに知らせておいた方がいいと思って」
「……まぁ、いいけど。じゃあ、俺は四聖剣に会ってくるけど、お前達はどうする?」
「一緒に行くわ。アクセルが四聖剣の人達に妙な事をしないとも限らないし」
どうする? という言葉を言い終わるや否や、カレンは即座にそう言ってくる。
なんだかラクシャータがそんなカレンを意味ありげな笑みを浮かべて見ているんだが、何なんだろうな。
ともあれ、ラクシャータはランスロットについてまだ色々と調べたいという事で、俺とカレン、扇の3人で四聖剣に会う事になるのだった。
四聖剣が待っていた場所は、俺の部屋からそう離れていない場所にある部屋だ。
俺の姿を見ると、四聖剣の面々は頭を下げる。
いや、別に俺は黒の騎士団の権力者って訳でもないんだけどな。
「そう言えば、藤堂は?」
「我らを逃がす為、ブリタニアに……」
四聖剣の1人にして、一番年上の仙波だったか? その男の言葉で、何故ここに来たのかを理解する。
日本解放戦線を率いた片瀬は、流体サクラダイトを抱いたまま日本から脱出しようとして自爆し、死んだ。
つまり、現在日本にあるレジスタンスの中で最大勢力なのは黒の騎士団なのだ。
である以上、四聖剣としても藤堂を救出する為にやって来るのは当然だろう。
そして……俺であれば、それこそ容易に藤堂を救出する事が出来る。
「なるほど、藤堂の救出か。ゼロが許可をするのなら、それこそ今からでも俺が救出してもいいけど……どうする?」
「お前が?」
四聖剣唯一の女の千葉が俺の言葉に胡乱げな視線を向ける。
そんな千葉に、カレンが不愉快そうな視線を向けるが……これは、俺の能力を知ってるかどうかといった理由からだろう。
「その、コーネリア総督との人質交換を、と思っていたのだが……」
申し訳なさそうに呟く仙波。
ああ、なるほど。黒の騎士団に接触してきたのには、そちらを狙っての事か。
ぶっちゃけ、俺としてはコーネリアをブリタニアに戻すという意味でそちらを選んだ方が良かったような気もする。
だが、ブリタニアに戻せば間違いなくコーネリアはまた戦場に出て来るだろう。
そうなれば、戦うという事になる以上……うん、やっぱりコーネリアを殺さない為には、このまま捕虜になっていてもらった方がいいな。
「コーネリアを取引材料として使わなくても、藤堂を助けるのなら俺が出来る。……扇、ゼロに連絡をしてくれ。俺の力を使ってもいいのなら、すぐにでも藤堂を救うと」
もっとも、ここで藤堂を救っても藤堂が黒の騎士団に所属するかどうかは分からないが。
その辺は、ゼロの説得……もしくはギアスで決まるだろう。
ともあれ、扇が俺の言葉に頷いてゼロに電話をする。
その様子を見ていると、仙波が不思議そうにこちらに向かって口を開く。
四聖剣の中では、仙波が一番年上……それこそ初老と言ってもいい年齢だけに、リーダー格ではあるのだろう。
「アクセル殿、だったか。貴公は日本人ではないな?」
「そうだな。ただ、言っておくがブリタニア人でもない」
というか、俺の人種って具体的に何なんだろうな。
混沌精霊だから、そもそも人じゃないし……それこそ、アクセル・アルマーという人種だと言われれば、それはそれで納得してしまいそうになるが。
「そうか」
俺の言葉を信じたのかどうか、それは分からない。
それでも、この場で俺を疑っても何の意味もないというのは知っているのか、それ以上は口にせず、他の事を尋ねる。
「それで、アクセル殿の力で藤堂中佐を助けるというのは?」
「それは、ゼロから許可が出たら見せてやるよ。言葉で説明しても信じられないだろうし」
この世界において、ギアスは存在するが、それは一般には知られていない内容だ。
ましてや、魔法は恐らくこのギアス世界では俺1人しか使えない。
いやまぁ、もしかしたらこの世界にはギアス以外の魔法があるという可能性は決して否定出来ないが。
「……本当に出来るの?」
四聖剣の中では一番若い、朝比奈という男が俺を疑わしげに見る。
カレンがそんな朝比奈に不満そうな視線を向けていたが、この辺はしょうがないだろう。
魔法というのは物語の中でしか存在しなかったのだから。
「アクセル、OKが出た! やれるならやってくれってさ」
扇のその言葉に、四聖剣は揃って複雑な表情を浮かべる。
藤堂を助けるのに手助けをして貰える事になったのは嬉しいが、その方法が俺という得体の知れない人物の力を借りて……という事になっているのだから、それは当然だろう。
「それで、藤堂が捕まっている場所は?」
そう尋ねると、千葉がすぐにその場所を口にする。
なるほど、ここからそこまで離れてる訳じゃないし……問題はないか。
「じゃあ、今からちょっと助けてくる」
そう言い、俺は立ち上がると影のゲートを使用する。
『なっ!?』
いきなり影に沈んでいく俺の姿に、驚愕の声を上げる四聖剣の面々……いや、カレンと扇もか。
そう言えば影のゲートは見せた事がなかったな。
ともあれば、影のゲートに身体を沈み込ませ……千葉から聞いた建物の中でも藤堂のいる場所を見つけると、そこに姿を現す。
「なっ!?」
いきなり影から現れた俺の姿に、四聖剣の面々と同じ驚愕の声を上げる藤堂。
拘束服によって手を後ろに回されている状況で、床に直接座っていたが、特に拷問の類をされているようには見えない。
ブリタニアとしても、コーネリアとの取引材料になるかもしれないだけに、藤堂を丁重に扱っていたのだろう。
そんな俺に対して藤堂が何かを言うよりも前に……そして、ブリタニア軍が俺の存在に気が付くよりも前に、影のゲートに藤堂を沈めていく。
まぁ、どうせここは監視カメラとかがあるから、俺が影のゲートを使ったってのはすぐに知られるんだろうけど。
「四聖剣から救助の依頼を受けた。騒ぐなよ」
短くそれだけを言うと、藤堂は大きく目を見開き……それでも俺を信用したのか、それとも四聖剣という名前を信用したのか、ともあれ影に沈みながらも黙り込む。
この影に沈むというのは独特の感覚があり、結構苦手な者も多いのだが。
ともあれ、影に沈んだ次の瞬間には俺と藤堂の姿は黒の騎士団の拠点……それこそ、先程まで俺とカレンと扇と四聖剣の面々がいた場所にあった。
『なっ!?』
俺と藤堂の姿を見て、再びそんな驚きの声が上がる。
何だか、さっきから同じような驚きの声しか聞いてないような気がするな。
ともあれ、俺がこの部屋から出発――影のゲートをそう表現してもいいのかどうか分からないが――してから、藤堂を連れて戻ってくるまで、1分も掛からず、無事に藤堂の救出は成功したのだった。
「さて、取りあえずそちらの要望通りに藤堂を取り返す事には成功した訳だが……」
そう言いながら、藤堂の着ていた囚人服……拘束服か? それを影槍で斬り裂き、自由に身体を動かせるようにする。
そこまでされて、ようやく藤堂は自分が収容施設から救い出されたのだと理解したのだろう。
四聖剣の面々を見ながら、慎重に口を開く。
「お前達……」
「藤堂中佐!」
藤堂の声に、最初に我に返って叫んだのは千葉。
クールビューティという言葉が似合う千葉が、顔一杯に歓喜の表情を浮かべながら、藤堂に近づいていく。
その様子を見れば、千葉が藤堂にどのような思いを抱いているのかというのは、考えるまでもなく明らかだろう。
「扇、ゼロに藤堂を助けたと連絡してくれ。後は任せたと」
「あ、ああ。分かった。……まさか、こんなに簡単に……」
ある程度俺の力を知っている扇であっても、やはり今の状況には驚いたのだろう。
唖然とした様子のまま、携帯でゼロと連絡を取っている。
「もう、アクセルは何でもありね」
こちらもまた、驚きの表情を浮かべたままで、カレンが俺に言ってくる。
「魔法使いだからな。このくらいなら問題ない」
「……私も魔法使いになれる?」
「あー……どうだろうな。今すぐにってのは、ちょっと難しいと思うぞ。ある程度時間を掛ければ、何とかなるかもしれないけど」
俺はカレンに向かって、そう告げるのだった。
こちらに向かってくる日本製KMF、月下。
その月下が5機。
正確にはノーマルの月下が4機に、指揮官仕様の月下が1機。
フォーメーションを組み、こちらに向かってくる。
そんな月下の群れに、俺はランスロットで突っ込んでいく。
『真っ直ぐ向かってくるなんて、見くびられたものだね』
外部スピーカーで聞こえてくる朝比奈の声。
そんな朝比奈に対し、スラッシュハーケンを牽制として撃ち込みながら、何故こんな事になったのかを思い出す。
藤堂を助けた後で、どうゼロが説得したのかは分からないが、藤堂と四聖剣は黒の騎士団に入る事になった。
ただ、藤堂はともかくとして、四聖剣……特に千葉と朝比奈の2人は、俺という存在が異様に思えたのか、当たりが厳しい。
黒の騎士団側としては、藤堂と四聖剣はそのネームバリューと実績からあまり不満を言えなかったが、このままでは俺という戦力が失われる可能性が高いと心配した。
いや、その場合は俺だけじゃなくて、黒の騎士団のエースパイロットたるカレンと、更にはKMFの開発が可能なラクシャータ、そしてラクシャータの部下達までもが離反する可能性があるかもしれないという不安に苛まれ、結果としてゼロが出した結論はKMFの模擬戦でどちらが上なのかをはっきりとさせる事だった。
まぁ、ゼロにしてみれば俺というスザク以上にイレギュラーな存在と、藤堂率いる四聖剣。そのどちらが主流になってもおかしくはないと判断したからこそ、こうして模擬戦の許可を出したのだろうが。
ちなみに、この模擬戦はシミュレータという訳ではなく、実機を使ったものだ。
武器こそ模擬戦仕様となっているが、実際に機体を使った戦いであるのは間違いない。
……普通であれば、こんな戦いをするとすぐにブリタニア軍が来てもおかしくはないのだが。
特に今は、コーネリアが連れ去られ、そのコーネリアと人質交換の最有力候補だった藤堂も奪われている。
更には、俺という生身でKMFと戦闘が可能で、更には魔法使いという、色々な意味でイレギュラーな存在もいた。
ブリタニア……特にギルフォードやダールトン、グラストンナイツといったような、コーネリアの部下にしてみれば、少しでも早く黒の騎士団のアジトを発見したいと思っているだろう。
そんな中でこうした模擬戦が出来るのは、ゼロの……正確にはゼロのギアスのおかげだろう。
誰にどんな命令をしたのかは分からないが。
ともあれ、こっちに向かって突っ込んでくる月下の攻撃を回避しながら、ランスロットを軽く回転させつつ1機目の……千葉の月下にMVSを振るう。
振動によって相手を斬り裂くMVSだが、当然のように模擬戦でその機能は発揮していない。
だが、触れた場所にはペイントが付着するようになっており、そのペイントが付着すれば模擬戦用のシステムが攻撃を受けたと判断する。
……まぁ、それでも場合によっては相手の機体に大きな被害を与えてしまうという可能性があるのだが、そこはお互いに相手の技量を信じるしかかない。
もっとも、俺は藤堂や四聖剣の技量を信じているし、実際に知ってもいる。
ましてや、混沌精霊の俺は物理攻撃を食らっても意味はないので、その辺はかなり大雑把な感じで、具体的にはどっちでもいいというのが正直なところだ。
だが、藤堂や四聖剣にしてみれば、俺が使う魔法については理解しているものの、KMFの操縦技術については全く何も知らない状況だ。
なのに模擬戦を引き受けたのは……まぁ、こっちが多少ミスしても、自分達ならどうとでも対処が可能だと、そう思っているからなのだろう。
それだけの技量を持っているのは、間違いなく事実だし。
そんな訳で始まった模擬戦だったが、MVSの一撃で千葉が撃破扱いとなり、それに驚いてほんの少しだけ操縦をミスした朝比奈をハーケンブースターを使って撃破。
仙波を含む他の2機は何とかこちらに対応しようとしたが、ヴァリスで放たれたペイント弾によって撃破扱い。
そうして最後に残ったのは、藤堂の操る月下指揮官機のみ。
『やるな』
「これくらいはな」
外部スピーカーで言ってきた藤堂にそう返し、ランスロットで月下に向かって進む。
藤堂の月下も、こちらと競うように真っ直ぐに前に出て……すれ違いざまの一撃は、ランスロットが回避し、月下には命中するという事になって模擬戦は終了するのだった。