転生とらぶる   作:青竹(移住)

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番外編097話 ナイツ&マジック編 第14話

 ミロンガ改で空を飛ぶ。

 その速度は、当然のように地上を移動するよりも圧倒的な速度での移動を可能にしており、映像モニタに表示される光景と流れていく景色がそれを証明している。

 オービニエ山脈を越えると、やがてクシェペルカ王国が見えてくる。

 アンブロシウスの娘が嫁いだ事により、フレメヴィーラ王国とも関係の深い国だ。

 実際、リオタムスの息子……アンブロシウスの孫が留学をしているという事もあり、フレメヴィーラ王国とは強い友好関係にあると言ってもいいらしい。

 相応の大国ではあるらしく、出来れば寄ってみたいと思わないでもないが……まさかミロンガ改で寄っていく訳にもいかないので、そのまま上空を通りすぎる。

 そしてクシェペルカ王国を通りすぎると、次に見えてきたのはロカール諸国連合。

 この国は……言ってみれば、弱小国だ。

 俺の目的であるジャロウデク王国とクシェペルカ王国という二つの大国に挟まれた緩衝国。

 どちらかの国がその気になれば、それこそ瞬く間に占領されてしまうだろう。

 ……もっとも、アンブロシウスから聞いた話によると、クシェペルカ王国は基本的に平和主義というか、自分から領土を広げるために戦争を起こすような事はないらしい。

 そういう意味で、ロカール諸国連合にとって危険なのはジャロウデク王国だった。

 ロカール諸国連合の方でもジャロウデク王国を警戒し、軍備を整えたりクシェペルカ王国との関係をより強固にしようとしたり、それ以外のジャロウデク王国と接している他の国々とも連絡を取っているらしい。

 小国の悲哀といったところだが、最後まで諦めようとしないその姿勢は評価してもいいと思う。

 そんな風に考えつつ、ロカール諸国連合の上を通りすぎ……やがて、目的地たるジャロウデク王国が見えてきた。

 とはいえ、それはまだ国が見えてきたという事であって、本当の意味での目的地たる首都はまだ見えてこないのだが。

 かなり上空を飛んでいるので、地上からは基本的にミロンガ改は点としか見えず、それこそもし見つけたとしても鳥か何かだと思っているだろう。

 だからこそ、地上の様子を眺めつつも、ゆっくりと移動する事が出来ていた。

 そうして移動し続け、暫くが経過し……やがて、ジャロウデク王国の首都を発見する。

 今回の件に際して、当然のようにアンブロシウスからはジャロウデク王国の首都に関する情報を貰っているし、ケルヒルトを始めとする銅牙騎士団を尋問して得られた情報についても、必要な情報と判断されればこちらに与えられていた。

 ちなみにケルヒルト達は現在牢屋に入れられているが、この先どうなるのかは分からない。

 一応、アンブロシウスには配慮をするようにとは言ってあるが、それが聞き入れられるかどうかまでは、俺も分からない。

 とはいえ、何だかんだとアンブロシウスは優しい……もしくは甘いと言ってもいいような性格をしている。

 その辺の事情を考えれば、結局処刑にするといった事はない……と思う。

 勿論、必要があれば処刑するのに躊躇ったりはしないが。

 その辺は王として十分な能力を持っていると言ってもいい。

 個人的には、銅牙騎士団はアンブロシウスの直轄の隠密部隊といった具合で使ったらいいと思う。

 だが、問題なのは自由にした途端に逃げ出したり、それどころかアンブロシウスを殺そうとしたりしないかという事だろう。

 ネギま世界にあった、奴隷の首輪と似たようなのがこの世界にもあればいいんだが、生憎と俺はそういうのを見た事がない。

 もしくは、純粋に俺が知らないだけで、裏ではそういうのが流通している可能性は否定出来ないが。

 

「まぁ、その辺は俺が考えるべき事じゃないし、アンブロシウスに任せるとして……さて、いよいよだな」

 

 色々と考えている間に、ミロンガ改はジャロウデク王国の首都上空まで到着していた。

 さて、ここまで来たら、ある程度高度を下げる必要があった。

 何しろ、この高度からチラシを散布した場合、それこそ風によって狙いが外れて首都の外に落ちるという事にもなりかねないのだから。

 普通なら、首都だけに対空装備ととかが用意されていてもおかしくはない。おかしくはないのだが……生憎と、この世界において空を飛ぶ敵など警戒はされていない。

 いや、魔獣とかならあるのかもしれないが……この辺では魔獣も軒並み全滅させられているらしいしな。

 それに空を飛ぶ魔獣とは、俺もまた遭遇した事はない。

 魔獣だというのを考えると、その辺がいてもおかしくはないのだが……ともあれ、対空装備の類がないのは、空を飛ぶミロンガ改にとっては非常に楽だ。

 ……もっとも、装甲の薄いミロンガ改だが、シャドウミラー製の機体らしくバリアの類は充実してるので、この世界の技術力で開発された対空兵器は対処可能……だと思う。

 対処可能と断言出来ないのは、やはり科学的な武器ではなく、魔力を使っているからだろう。

 ともあれ、対空兵器は気にしなくてもOK、と。

 そんな風に考えながら、ミロンガ改は地上に向かって降下していく。

 今回の一件は、少しでも首都の住人の意識をこちらに引き付ける必要がある。

 そうして住人の注意を引き付けてから、チラシを散布する方が効果は大きい。

 その為、ミロンガ改はエナジーウィングを展開して目立ちつつ、ゆっくり、ゆっくりと降下していく。

 当然のように、そんな真似をすれば首都の住人はこちらに意識を向けてきた。

 最初は何人かがふとした拍子で上空を見てミロンガ改の存在に気が付き、近くにいる知り合いに対して上空を見るようにして、その友人も上を見て別の友人に……といった具合に広がっていく。

 ……上空100m程度くらいの位置までやって来たところで降下を止める。

 当然のように首都にいる者の多くが上空を見ると、治安を守っている兵士達も上を見る事になり、そこでミロンガ改の存在に気が付く。

 そして兵士達が気が付けば、当然のように騒ぎとなり、ミロンガに対抗する戦力として幻晶騎士がやって来る。

 首都を守っているだけに、当然この幻晶騎士を操縦する騎士達もかなり高い技量を持っているのだろう。

 だが、幾ら高い能力を持っている騎士であっても、そもそも攻撃が届かなければ対処は出来ない。

 一応幻晶騎士なら杖を持って遠距離攻撃をするといった真似も出来るのだが、今はまだミロンガを怪しいと思っても、攻撃してきたりといった事はしていないからか、まだ向こうから攻撃してくる様子はない。

 ジャロウデク王国の幻晶騎士達も、もし俺がその気になれば、首都に大きな被害を与えていたというのは分かっているのだろう。

 だというのに、ミロンガ改は攻撃の類を一切する事なく、ただ上空に留まっているだけだ。

 ましてや、空を飛ぶという前代未聞の能力を持つ幻晶騎士。

 出来れば敵対したくなく、友好的に接しようと思ってもおかしくはない。

 俺が首都の上空で待機し始めてから、1時間程。

 そのくらいの時間が経てば、それこそ首都にいる多くの者……それこそ、ほぼ全員と言ってもいいくらいの意識がミロンガ改に集中していた。

 さて、そろそろいいか?

 いつまでもこのままだと、地上でも痺れを切らすだろうし。

 実際、地上でこちらの出方を窺っている幻晶騎士の数はかなり多くなっている。

 ……ふむ。ジャロウデク王国の幻晶騎士は運動性や機動性を重視したような細身の幻晶騎士だな。

 瞬発力には優れているが、膂力という点では少し劣っているといったところか。

 もしテレスターレを入手する事が出来ていれば、恐らく……本当に恐らくではあるが、この機体の後継機はもっとマッシブな感じになっていた筈だ。

 何だかんだと、網型結晶筋肉を使うと細身の機体ってのは作りにくいしな。

 ともあれ、そんな幻晶騎士も大量に集まってきたところで……俺はミロンガ改のコックピットを開く。

 とはいえ、真下にいるジャロウデク王国の者達にしてみれば、コックピットを開いても俺の存在を見る事は出来ないだろうが。

 そうして空間倉庫の中から、次々にチラシの束を取り出しては、結んでいた紐を切って、散布していく。

 ……何だかんだと、このチラシを書く為に、フレメヴィーラ王国の面々はもの凄く苦労したらしい。

 何しろ、この件は表向きはフレメヴィーラ王国とは関係のない事になっている以上、事情を知る者は最小限にする必要があったのだから。

 そのチラシに書かれているのは、前もっての予定通りの内容だ。

 ジャロウデク王国は自分達で新技術を開発することが出来ず、他の国が開発した技術を盗もうとした盗賊国家である。

 ジャロウデク王国の技術力が低く、現在軍で使用している幻晶騎士の性能が低いのは分かるが、技術が欲しいのなら恵んで下さいと頼んでくるべきだ。

 その上で、呪餌という本来なら使ってはいけない物を使用し、村を魔獣に襲わせ、そこまでしたのに新型機の奪取は失敗して犯人達は捕まった。

 自分達で技術を開発出来ないような小国なのは仕方がないが、自らの国力を上げる努力もせず、他人から奪えばいいという考えは犯罪者でしかない。

 そのような犯罪者一族たるジャロウデク王家は、恥という言葉すら知らない無能。

 この地には以前世界の父という統一国家があったらしいが、その国家の末裔とは思えないような無様さ。

 それ以外にも様々な内容が書かれたチラシが、大量に散布されたのだ。

 最初こそはミロンガ改から散布されたチラシを見て恐る恐るといった様子だったが、それに書かれた内容を見たのだろう。

 地上にいる幻晶騎士や兵士が活発に動き出したのが、ミロンガ改からでも認識出来た。

 

「急いだ方がいいぞ。でないと、チラシを集めるのは難しいだろうからな」

 

 そう呟き、今までいた場所から移動する。

 とはいえ、別に首都から外に出る訳ではない。

 首都だけあって、ここはかなり広い。

 つまり、王城のすぐ側でチラシを散布しても、当然ながら首都にいる者達全員にチラシが行き渡る訳ではない。

 なら、どうすればいいのか。

 簡単な事だ。つまり、現在ミロンガ改が飛んでいる場所以外でもチラシを散布すればいいのだ。

 先程いた場所から、少し離れた場所。

 そこでも俺は、空間倉庫から取り出したチラシを大量に散布する。

 一度、二度、三度、十度、二十度、三十度。

 そんな回数、移動してはチラシを散布するという行為を繰り返す。

 

「っと! ……惜しいな」

 

 それだけチラシを散布すれば、当然のようにジャロウデク王国にとっても、その全てを回収するのは難しいと判断するのは当然だろう。

 そして散布されたチラシ全てを回収出来ないのなら、そのチラシを散布しているミロンガ改をどうにかしようと、そう考えるのも、また当然の話だった。

 テレスターレに比べて細身の幻晶騎士が、杖を使って空中にいるミロンガ改に攻撃してくるが、その殆どが届く前に威力の多くを消失する。

 そうして威力の弱まった攻撃を、ミロンガ改であっさりと回避していく。

 これが地上であれば、まだ回避出来る範囲は狭く、敵にも相応のチャンスがあっただろう。

 首都という事もあり、建築物もそれなりに多いし。

 だが、ミロンガ改がいるのは空中だ。

 それこそ、上下左右前後、あらゆる場所に移動が可能なのだ。

 その上で、テスラ・ドライブとエナジーウィング、各種スラスターと、非常に高い運動性を持つ。

 ぶっちゃけたところ、同じように空を飛ぶ相手でもなければどうしようもない。

 更にジャロウデク王国軍にとって不運だった事は、幻晶騎士で地上を移動するのもかなり大変だという事だろう。

 ミロンガ改が地上にいれば建物で敵の攻撃を回避出来なくなるだろうが、それはジャロウデク王国軍の幻晶騎士にも言える事だ。

 ミロンガ改が一切の邪魔もなく、空中を飛び回っているのに比べて、ジャロウデク王国軍の幻晶騎士は地上を移動する必要があった。

 急いで移動しなければ、俺の乗るミロンガ改は行く先々でジャロウデク王国を誹謗する――俺から見れば真実しか書いてないように思えるのだが――チラシが散布されてしまう。

 かといって、本当に急いで移動するとなれば、建物を破壊しながら移動しなければならないのだが、そのような事をする訳にもいかない。

 結果として、ジャロウデク王国軍の幻晶騎士は後手に回り続ける。

 そんな地上の様子を気にせず、俺はフレメヴィーラ王国の中でも限られた者達だけが頑張った……それこそ腱鞘炎になるくらいに頑張り、空間倉庫の中に入っていた技術班謹製の栄養ドリンクを飲んで、飲んで、飲んで頑張りながら書き上げたチラシを、ただひたすらにジャロウデク王国の首都に散布していく。

 首都に到着してから、一体どれだけのチラシを散布したか。

 ともあれ、首都中にチラシを散布し続け……時には地上から撃ってくる幻晶騎士の攻撃を回避し続け、やがて役目を果たした俺はジャロウデク王国の首都から離脱するのだった。


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