転生とらぶる   作:青竹(移住)

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番外編103話 ナイツ&マジック編 第20話

 取りあえず興味が湧いたという事で、俺は現在ミロンガ改に乗ってジャロウデク王国に向かっていた。

 当然ながら、俺が移動しているのを他の者達……特にジャロウデク王国の連中に見られるのは色々と不味いので、ミロンガ改が飛んでいるのは雲の上だが。

 ここなら、それこそ相手が飛行船でも出してこない限り見つかるような事はない。

 飛行船が出て来た場合は、それこそ雲の中に隠れればそれでいいんだし。

 そんな訳で、現在ジャロウデク王国に向かっていたのだが……

 

「うわぁ……エムリスの懸念が現実になってるな」

 

 クシェペルカ王国に留学していたエムリスは、ジャロウデク王国が周辺諸国と戦争になる可能性があると言っていた。

 クシェペルカ王国そのものは、間にロカール諸国連合がある為にジャロウデク王国との関わり合いは薄かったらしいが……その、ロカール諸国連合の幻晶騎士と思われる集団が、現在ジャロウデク王国の領土内を進んでいるのが雲の隙間から見えた。

 何故幻晶騎士を見ただけで、それがロカール諸国連合の軍だと判断したのかといえば、堂々と国旗を掲げての進軍だった為だ。

 今回ジャロウデク王国の様子を見に来る際に、その辺はしっかりと調べてきている。

 それだけに、見間違える筈がなかった。

 ロカール諸国連合の国力は、ジャロウデク王国に比べると明確に差がある。

 それこそ、気合いや根性といったものではどうしようもない程の差が。

 にも関わらず、ロカール諸国連合の軍勢がジャロウデク王国の領土内に侵入して……いや、進軍しているという事は、それは何らかの勝ち目があると判断したからだろう。

 その勝ち目とは何か。

 考えられる可能性として一番高いのは、それこそ俺がやって来た事を思えば想像するのは難しくはない。

 つまり、ジャロウデク王国の周辺国家が一斉にジャロウデク王国に対して宣戦布告をしたのだろう。

 それが、しっかりと周辺諸国で同盟を組んだ上での話なのか、それとも宣戦布告するということだけを前もって決めていたのか。

 その辺は俺にも分からなかったが、ジャロウデク王国に対して周辺諸国が一斉に攻撃をしたのは、多分間違いないと思う。

 俺が散布したチラシの内容が正しいのかどうかを調べたのかは分からない。

 あるいは、その内容を信じたい者がいたのか。

 ……実際、エムリスから聞いた話によると、ジャロウデク王国というのは以前からその国力の高さを理由として、周辺諸国に色々と無理難題を突きつけて火種を作ったりしていたらしいし。

 ちなみに、その無理難題を一番多く向けられていたのが、ロカール諸国連合だったりする。

 多分、ジャロウデク王国にとってロカール諸国連合というのはいざ事が起こったら、真っ先に占領するべき場所と認識されていたんだろうな。

 そんなジャロウデク王国だけに、周辺国家にとっても目の上のたんこぶのような存在だったのは間違いない。

 だが、自分達の国だけでは勝ち目がなく、もしジャロウデク王国と敵対するのなら、周辺諸国と手を組む必要があった。

 しかし、国というのは面子がある以上、自分から手を組もうと言う訳にはいかない。

 それ以外にも、ジャロウデク王国を邪魔だと思っていても、それ以外の国で敵対している国もあるだろう。

 その辺を考えると、そう容易く同盟を結ぶといった真似は出来ない。

 ……まぁ、ジャロウデク王国がもっと露骨に野心を剥き出しにしていれば、危機感を抱いて周辺諸国で同盟を結ぶといった事になっていたかもしれないが、その辺はジャロウデク王国が上手くやっていたのだろう。

 だが……そんな状況が、俺の散布したチラシによって一変した。

 そのチラシの内容が真実か嘘かというのはともかくとして、そのチラシに書かれている内容を信じた場合、ジャロウデク王国に対する連合軍を結成する理由となり得たのだろう。

 そうして、現在のジャロウデク王国は、周辺諸国から包囲されて同時に侵攻を受けている。

 もっとも、これはあくまでもロカール諸国連合軍の様子を見ての、俺の予想でしかない。

 予想でしかないが……多分、間違ってはいないと思う。

 

「さて、そうなると……まずはジャロウデク王国の首都じゃなくて、ロカール諸国連合以外がどうなってるのかを実際に見てくるか」

 

 呟き、ミロンガ改を移動させる。

 ロカール諸国連合軍は、自分達の上空をミロンガ改が移動しているというのに全く気が付いていないだろう。

 空を飛ぶというのは、この世界においてそれだけ大きな意味を持っているのだ。

 ……それだけに、ジャロウデク王国が現状をどうにかするには、飛行船を有効活用する必要があるだろう。

 具体的に飛行船がどれだけの数あるのか、もしくは武装をするようになったのか。

 そこは分からないが、ジャロウデク王国も自分達が危険だというのは周辺諸国の様子を見ていれば分かるだろう。

 だからこそ、フレメヴィーラ王国がツェンドルグを開発したように、新しい幻晶騎士を開発してもおかしくはない。

 もっとも、この世界における幻晶騎士というのは百年、もしくは数百年単位で開発されるらしいので、すぐに新型をといったところで難しいだろうが。

 そんな風に考えながら、ジャロウデク王国と隣国の国境に向かうと……そこでは、俺の予想通りの光景が広がっていた。

 あの国は……確か、孤独なる十一とか、そんな名前だったと思う。

 国の名前としては妙だったが、元々は大商人達が拠点としていた都市国家が集まって出来た国らしいから、そういう意味ではロカール諸国連合と似たような感じなのか?

 ただし、国力という点ではこちらの方が圧倒的に勝っているが。

 他の場所も見て回ると、やはりジャロウデク王国に向けて多くの国が進軍を開始していた。

 この様子を見る限りでは、既に宣戦布告は完全に済んでいるのだろう。

 そうなると、ジャロウデク王国にとっては厳しいところだな。

 10日程掛けて色々な場所を見て回り、時にはジャロウデク王国やその周辺国家の街に寄って情報を得る。

 そうすると、俺の予想は大体間違っていなかったという事が判明した。

 

「うちも、今までジャロウデク王国には嫌な目に遭わされてきたからね。今回の一件でジャロウデク王国が大人しくなってくれれば、こっちとしては嬉しいんだけどね」

 

 食堂で適当な料理を注文し、看板娘ではなく女将とかお袋さんとか呼ぶのが相応しい相手と会話を交わす。

 ここは、ジャロウデク王国と隣接する国の1つにある街だ。

 それもジャロウデク王国との国境に一番近い街だけに、ジャロウデク王国からの無理難題も今まで受けていたのだろう。

 だからこそ、周辺諸国全てが手を組んでジャロウデク王国に戦いを挑んだというのは、この街に住む人々にとっては朗報以外のなにものでもなかったのだろう。

 

「そういうものなのか? けど、ジャロウデク王国は何だかんだで大国だろ? それこそ、何か奥の手があるかもしれないぞ」

「そうだね。それは少し心配だよ。けど、ジャロウデク王国と接している国々が……いや、噂では接していない国も協力してるって話だし、そこまで気にする必要はないんじゃないかい?」

「……接していない国も協力を?」

 

 それは、ここ10日程色々な情報を集めていた俺にとっても、初めて聞く話だった。

 

「ああ、そうらしい。何でも、今回の一件に関わってる国と同盟を結んでいる国が援軍を派遣したとか何とか。あたしとしちゃあ嬉しいけど、後で占領した場所の所有権で揉めたりしないといいんだけどねぇ。……いらっしゃい!」

 

 俺と話している最中、新しい客がやって来たので、そちらに向かう女。

 そんな女を見送りながら、今聞いた話について考える。

 ジャロウデク王国と隣接している国だけではなく、隣接していない国からも戦力がやって来るとなると、ジャロウデク王国は完全に食い物にされている。

 周辺諸国だけでも一杯一杯なのに、そんな中で更に敵が増えるのだから。

 それも、増える敵国の数はどれくらいになるのかは分からない。

 周辺諸国と同盟を結んでいる全ての国が離れている国と同盟を結んでいるとも限らないが、逆に1つの国が同盟を結んでいる国が1つだけとも限らないのだから。

 そうなると、ジャロウデク王国の敵は際限なく増える可能性もある。

 これは……もう駄目だな。

 ジャロウデク王国の現在の状況を考えると、そう思わざるをえない。

 フレメヴィーラ王国が……いや、エルが開発した新技術を奪おうとして、強襲をし……更には、魔獣の生息地たるボキューズ大森海と隣接しているフレメヴィーラ王国においては禁忌の品とされている呪餌を使った相手だと考えれば、自業自得以外の何物でもない。

 そんな風に考えつつ、そろそろフレメヴィーラ王国に戻るかと考える。

 情報を聞く為にこの辺の国々を回っていたが、影のゲートがある以上、フレメヴィーラ王国に戻るのは難しくはない。

 そう判断すると、食事の支払いをして店を出た……ところで、視線の先に見覚えのある代物を見つけた。

 空を飛んでいるそれは、紛れもなく飛行船。

 そしてこの世界において飛行船を有しているのはジャロウデク王国だけだ。

 つまり、自動的にあの飛行船はジャロウデク王国の物となる訳だが……何でこんな場所を飛んでいるんだ?

 いやまぁ、正確には近くを通り掛かっただけで、この街が目的地ではないみたいだが。

 そのことに安堵しつつ疑問を感じながら空を見ていると、俺の近くを通り掛かった人が、空を見ている俺に気が付いたのか足を止めて飛行船を見て……そして、当然の如く驚く。

 

「何じゃありゃああああぁっ!」

 

 叫ぶ男。

 そして男の叫び声が周囲に響けば、当然のように他の者達も何を騒いでいるのかと視線を追い、空を飛ぶ飛行船を見る。

 

「おいおいおい、何だよあれ」

「空を飛んでいる……鳥とか?」

「ばっか、んな訳がねえだろ。見ろよあれ。見るからに船だろ? どこをどう見れば、あれが鳥に見えるんだっての」

「なら、何で船が空を飛んでるんだよ!」

「うっ、そ、それは……」

 

 そんな風に、大勢が騒ぐ声が聞こえてくる。

 それでも騒ぐだけで大きなパニックになっていないのは、あの飛行船がこの街に向かっている訳ではないからだろう。

 もしあの飛行船がこの街に向かっていれば、大パニックになっていたのは、ほぼ間違いない……と思う。

 いや、飛行船の存在を知らない以上、寧ろ興味津々か?

 ……まぁ、この街の上空を飛んでいるとなると、この国に所属している相手だと判断してもおかしくはない。

 ともあれ、あの飛行船の向かう先は気になる。

 可能性として一番高いのは、やはりこの国の首都を直接攻撃するというものだが……取りあえず様子を見るか。

 そう判断すると、俺は街から出てミロンガ改に乗って雲の上に移動する。

 飛行船からはかなり距離を取り、雲の中を隠れながら進む。

 雲がなくなると見つかる危険性も増えるのが厄介だが。

 ただ、幸いにして今は雲がかなり多く、見つかる様子は一切ない。

 それにしても……本当にこの飛行船、どこに行くんだ?

 普通に考えれば、首都のようにこの国の中でも重要な施設だろう。

 だが、当然のように重要な施設というのは警備も厳重だ。

 特にジャロウデク王国と戦争になっている今となっては、普段以上に警備は厳しいだろう。

 そうである以上、ジャロウデク王国の戦力で襲撃するというのは成功の確率がそう高いとは思えない。

 いや、ジャロウデク王国は大国だけに、本気で何とかしようと思えば出来るだろうが、飛行船に搭載出来る幻晶騎士の数は当然のように限られている。

 そうである以上、幾らジャロウデク王国でも重要な場所をどうにかするのは難しいと思うんだが。

 そんな俺の疑問をよそに、飛行船は誰にも止められることなく空を進む。

 ……まぁ、現在のこの世界の状況で空を飛ぶ飛行船を止める手段を持ってるのは……俺が情報を渡し、アンブロシウスが対空兵器の開発を命じたフレメヴィーラ王国くらいだろうが。

 そのフレメヴィーラ王国にしても、エルが開発はしたものの、実際に飛行船に効果があるかどうかは分からないのだが。

 そんな風に考えていると……やがて、飛行船は首都に近付いていく。

 おい、もしかして本当に首都を攻めるのか?

 自殺行為以外のなにものでもないと思うんだが。

 そんな俺の予想とは裏腹に、飛行船はやがて首都に到着する。

 当然ながら、首都でも雲に隠れているミロンガ改はともかく空を堂々と飛んでいる飛行船はすぐに見つかり、騒いでいる様子が映像モニタに表示されていた。

 飛行船の方は、敵に見つからないということよりも、敵に自分の姿を誇示するというのを優先しているのだろう。

 一瞬、空を飛ぶという事で、ミロンガ改を思い起こさせ、それで敵意を俺に向けさせる為か? と思ったが……そう思ったタイミングで、飛行船はジャロウデク王国の国旗を掲げるのだった。


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