ジャロウデク王国の領土内に入ってからの銀鳳騎士団……いや、懲罰軍は、その名の通りジャロウデク王国軍に懲罰を加えるべく、様々な戦いを繰り広げていく。
そんな中でもやはり特別に派手だったのは、エルの専用機たるイカルガだろう。
和風とファンタジーが融合したようなそんな幻晶騎士は、エルの専用機だけあってかなりの活躍をした。
それこそ、ジャロウデク王国軍の幻晶騎士が姿を現せれば、次から次に撃破していく感じで。
ジャロウデク王国としても、現在は周辺諸国と膠着状態になっているので、ある程度戦力の余裕はあったのだろうが……それで懲罰軍をどうにかする事は出来なかった。
また、当然のように俺達懲罰軍がジャロウデク王国の領土内で戦っているとなると、ジャロウデク王国と戦争中の周辺諸国も活動を活発にする。
何で俺達がそれを分かるのか。
単純に、周辺諸国からの使者がやって来て、挨拶をしたり情報交換をしたり、場合によっては協力して戦ったりするからだ。
ちなみに、何故懲罰軍の事が分かったのかというのは、俺達がジャロウデク王国の領土内で派手に戦っているというのもあるが、ロカール諸国連合からの情報があったというのも大きい。
その辺は元から情報が伝わるのは予想していたので、特に問題はなかったのだが。
そんな訳で、ジャロウデク王国軍は結局以前よりも厳しい戦いになってしまった。
周辺諸国は戦力の大半を自国の首都防衛に戻していたが、それで減った分の戦力の代わりを、懲罰軍が担っていた。
数という点では圧倒的に少ないのだが、質という一点において銀鳳騎士団を中心とした懲罰軍は他国の追随を許さない。
そんな訳で、ジャロウデク王国軍にとって俺達は厄介極まりない戦力と判断し、可能な限り早く撃破する事を狙い……
「うわぁ……凄いな」
現在拠点としている要塞――当然のようにジャロウデク王国軍から奪った場所――から、こちらに近付いてくる大軍勢を見て、キッドがそう告げる。
こちらに向かって整然と近付いてくるジャロウデク王国軍は、物量でこちらを潰すつもりなのは明らかだ。
集まってきた情報によると、現在動かせる最大の数の戦力をこの要塞に向けて繰り出したらしい。
周辺諸国との戦いにおいても、本当に最小限の戦力しか残っていないとか。
……当然そのような状況になっている以上、周辺諸国から派遣された軍隊とジャロウデク王国軍との戦いも活発になっている筈だった。
膠着状態だったジャロウデク王国を中心とした戦いも、俺達懲罰軍が加わった事により、急速に事態が動くことになった。
「なぁ、アクセル。アクセルも今回はミロンガ改で出るのか?」
「いや、ミロンガ改は色々と有名になりすぎたからな。サラマンダーだ」
「サラマンダーって……ああ、あの妙な奴」
この世界には当然のように戦闘機や飛行機といった代物はない。
飛空船がこのまま進化すれば、もしかしたら……本当にもしかしたらだが、飛行機や戦闘機が出て来る可能性もあるかもしれないが、取りあえず今の時点でサラマンダーのファイターや、ましてやガウォークについて認識しろというのは無理だった。
唯一、この世界ではエルのみがファイターについての形を理解してくれるだろう。
……そのエルにしても、ガウォークを初めて見た時は驚いていたが。
「ああ、その変な奴だよ。ちなみに、エルもイカルガで出るらしいから、向こうが飛空船を使っても意味はないな」
「あー……まぁ、アクセルとエルがいればな」
俺の言葉に呆れたように言ってくるキッド。
ちなみに話題になっているエルは、現在アディによるエル成分の摂取に協力しているところだ。
アディとキッドの2人は、ツェンドリンブルを乗機としてるしな。
人馬型のツェンドリンブルは、通常の幻晶騎士と比べても圧倒的なまでの機動力を持つ。
アンブロシウスが、通常の幻晶騎士3機分の実力があると言ったくらいだし。
ツェンドリンブルを製造する上で必要な魔力転換炉は、2基。
それで幻晶騎士3機分の戦力があるというのだから、ある意味でお得と言ってもいいだろう。
とはいえ、ツェンドリンブルは人馬型の幻晶騎士である以上、部品も色々と特殊な物が多い。
その辺りの量産性を考えると、結局幻晶騎士3.5機分くらいのコストになるとか何とか、以前ダーヴィドが話していたような気がする。
「サラマンダーを見たら、ジャロウデク王国は驚くと思うか?」
「当然だろ。空を飛べるのは自分達だけだと思ってるんだ。そこにアクセルとエルが行ったら、どうなるかなんてのは、それこそ考えなくても分かると思うけど?」
そんなキッドの言葉に頷くと……やがて、戦闘の用意をするようにと、指示が来るのだった。
「1機、2機、3機、4機!」
グラビトンガトリング砲から放たれた重力波ビーム……いや、重力波ビーム弾が、当たるを幸いとジャロウデク王国の幻晶騎士を上空から撃破していく。
戦闘機に手足が生えたガウォークだけに、ジャロウデク王国軍の連中も、最初は警戒していたり、馬鹿にしていたりしたのだが……そんなのは無意味だと言わんばかりに、次々とジャロウデク王国軍の幻晶騎士は撃破されていった。
飛空船で空を飛ぶ存在には慣れていても、ガウォークのような形で空を飛ぶ存在には慣れていないのだろう。
……まぁ、ジャロウデク王国軍ならミロンガ改を見た事があるような者がいてもおかしくはないが。
ともあれ、この戦いには飛空船が多数参戦していたものの、エルが開発した魔導飛槍や、何よりもイカルガによる攻撃で次々と撃破されていった。
何隻かは、エルが研究用にと確保すらしていたのだが……うん。まぁ、その辺は気にしない方がいいだろう。
敵にしてみれば、飛空船がまさかこれだけ撃墜されるとは思ってもいなかったのだろう。
とはいえ、まさかサラマンダーとイカルガという、空を飛ぶ敵がいるとは思っていなかったのだろうから、その辺は理解出来ないでもないが。
もっとも、懲罰軍側の被害も皆無という訳ではない。
魔導飛槍があるが、敵にも攻撃手段はある。
特に上空から一方的に攻撃をするという戦術は、他国の首都に大きな被害を与えてきたのだから。
それだけに自信はあったのだろう。
事実、何機かの幻晶騎士は死人こそ出ていないが、中破……場合によっては大破と呼ばれる機体もいる。
それでもこの程度で済んでいるのは、懲罰軍に参加した者が腕利きばかりだったからだろう。
銀鳳騎士団の面々は当然の事だが、他の騎士団から派遣された者達も精鋭と呼ぶに相応しい技術を持っているのだ。
だからこそ、飛空船からの攻撃でもそこまで被害を受けずに済んでいる。
ジャロウデク王国側にしても、フレメヴィーラ王国からやって来た討伐軍の存在は、非常に厄介な戦力だと認識してるのだろう。
幻晶騎士以外に、飛空船の数もかなり派遣してきたのだが……その飛空船も大半が既に空にはなく、制空権は完全にこちらのものとなっている。
そんな中で、俺はガウォークで空を飛びながら攻撃していたのだが……ふと、敵軍の奥の映像を見る。
そこには、見るからに周囲とは違う形をした幻晶騎士の姿があった。
恐らくは……敵の大将。
エルは? と視線を向けると、イカルガを使って空を飛び回りつつ、ジャロウデク王国の幻晶騎士を攻撃している光景が見えた。
その機体の動きから、明らかにテンションが高くなっているのは間違いない。
だとすれば、ここはエルの好きにさせておいた方がいいか。
そう判断し、俺はガウォークのまま敵の大将と思しき幻晶騎士に近付いていく。
当然のように、敵も近付いてくるサラマンダーの姿には気が付いたのだろう。
すぐにその大将機と思しき幻晶騎士を守る隊形を取る。
だが……それは、遅い。
空から地上に向かって急降下しながら、エナジーウィングから刃状のエネルギーを大量に射出する。
それこそ、絨毯爆撃と言ってもいいようなその攻撃は、幻晶騎士でそう簡単にどうこう出来るものではない。
大将機を守ろうとしていた幻晶騎士の多くが、刃状のエネルギーに貫かれ、その場に崩れ落ちていく。
一度の掃射で、5割以上が撃破され、次の掃射で9割が撃破、もしくは大破する。
それでもさすがと言うべきか、大将機は他の幻晶騎士が身を挺して守ったという事もあってほぼ無傷だった。
……代わりに、まともに動ける幻晶騎士は5機程度になっていたが。
そうして敵の本陣を壊滅状態にした後で、ガウォークからバトロイド……人型機動兵器の状態になって、地上に降りる。
もっとも幻晶騎士は全高10m前後なのに対して、バトロイドは全高15m前後だ。
その5mの差により、幻晶騎士は俺の乗ってるサラマンダーを、かなりの巨体と感じているだろう。
KMFなら、幻晶騎士よりもかなり小さいのだが。
ともあれ、今の俺がやるべき事はそう難しい話ではない。
ビームサーベルを引き抜き、その切っ先を大将機に向かって突きつけ、外部スピーカーのスイッチを入れてから口を開く。
「さて、ジャロウデク王国軍の大将。この状況からどうする? 勝ち目はないと思うが、降伏するか? それとも、最後のあがきをしてみるか?」
『ふざけるな! この俺が……ジャロウデク王国の王子たるクリストバル・ハスロ・ジャロウデクが、降伏だと!? ふざけるのも大概にしろ!』
俺の降伏勧告に、向こうがそう外部スピーカーで叫んでくる。
しかし……へぇ。
名前にジャロウデクとついており、本人も王子と名乗っているという事は……思ったよりも大物だったな。
『王子、ここは私が!』
無事だった幻晶騎士のうちの1機が、そう言いながら前に出る。
この様子をみる限りでは、クリストバルとかいう王子の側近といったところか。
……いや、声からするとそれなりに年齢がいってるように思えるし、側近とかではなくお守りか?
ともあれ、王子を守る為には何でもやるといったような印象を受ける。
また、そんな男の隣にも、これは……また……うん。
何本も長剣を備えて、身体中刃じゃないかと言わんばかりの幻晶騎士。
『ここは俺の出番だろ』
『グスターボ……任せた』
グスターボと呼ばれた、長剣を身体のいたるところに装備したその幻晶騎士は、サラマンダーの前に立つと、言葉も発することがないまま、一気に斬りかかってくる。
さっきのやり取りから考えると、それなりに他人と言葉のやり取りとかはするような奴だったんだろうが、今はそんな状況ではないといったところか。
……まぁ、ジャロウデク王国軍の稼働出来る戦力の大半で一気に要塞を攻めようと思っていたのだが、それが逆に俺に……そしてエルに狩られるような事になってるんだしな。
いや、懲罰軍に参加している他の面々も、腕の立つ者が多い。
その上で新型機に乗っているので、防御側の俺達が相手を一方的に殲滅しているといった奇妙な事態になっていた。
いや、元々攻めるのと守るのとでは後者の方が有利である以上、防御側が敵を圧倒するというのは珍しい話ではない。
だが、その防御側が要塞に籠もって中から攻撃をして敵に大きな被害を与えるのならともかく、防御側が率先して自分達よりも圧倒的に多数の敵を蹂躙しているというのはかなり珍しい光景だと思う。
ジャロウデク王国軍も、別に雑魚って訳じゃない。
実際、少し前まではこの周辺では大国として知られていたし、周辺諸国に一斉に宣戦布告されても互角にやり合えるだけの実力はあり、何より飛空船という新兵器を投入すらしている。
そんなジャロウデク王国軍が、弱い訳がない。
だが……それでも、フレメヴィーラ王国の騎士団というのは、実戦経験という一点において他の追随を許さない。
勿論、実戦経験とはいえ、それはあくまでもボキューズ大森海に棲息する魔獣に対するものだ。
そして幻晶騎士と魔獣を相手にするのは違う。
……しかし、それでも命懸けの実戦を積んでいる騎士達……それも各騎士団からの精鋭だったり、銀鳳騎士団という次世代の幻晶騎士を使いこなしている者達との戦いで、どうにかなる筈もない。
結果として、ジャロウデク王国は蹂躙されている訳だ。
『行くぜぇっ!』
そんな言葉と共に、グスターボと呼ばれた、長剣を大量に装備した幻晶騎士が俺に向かって襲い掛かってくる。
そんな相手にグラビトンガトリング砲を向け……
「へぇ」
トリガーを引くよりも前に、グスターボは幻晶騎士を素早く横に跳躍させる。
今までの戦いから、グラビトンガトリング砲がどのような武器なのか……正確な知識は分からずとも、どういう性質の武器なのかは理解したのだろう。
とはいえ……それはまだ甘い。
横に跳びながらこちらとの間合いを詰めてくるグスターボの幻晶騎士に向け、俺はその行動を先読みした形でグラビトンガトリング砲を撃ち……それが命中した瞬間、グスターボの幻晶騎士の下半身は破壊されるのだった。