「ここは……」
影のゲートの転移による混乱から落ち着くと、ようやくクリスは周囲の様子を確認するだけの余裕が戻ったのか、そう呟く。
まぁ、驚きの言葉を口にしたくなる気持ちも分かる。
周囲に広がっているのは、バルシェムの生成チャンバー……つまり、人が1人簡単に入ることが出来るだけの大きさのガラス瓶――この表現はどうかと思うが――が並んでいるようなものなのだから。
「ここがさっきのパイロットを治療する場所だ。……考えてみたら、あのパイロットも俺が転移で連れてくればよかったな」
とはいえ、俺達だけがいても意味はない。
治療を行うレモンがいなければ、ただあのパイロットがいてもどうすればいいのか迷うだけなのだから。
「ここで治療を……?」
「ああ。ちなみに、治療の実績はかなりあるぞ」
これは嘘でも大袈裟な話でもなく、純然たる事実だ。
アウル達のように、今回のパイロットと同じく薬漬けにされていた者達を治療したりもしたし、それ以上に多いのは死ぬしかない病気を治療したりもした。
特に後者は、UC世界でもギ二アスがそれに当たる。
そういう意味で、実績というのはかなり大きいのだ。
「実績が……こういう時は、さすがシャドウミラーって言えばいいのかしら?」
「それでも別にいいわよ」
クリスの言葉に答えたのは俺……ではなく、部屋に入ってきたレモン。
量産型Wに伝言を頼んでからそう時間が経っていないのに、もうここに来るってのは……さすがと言ってもいい。
「レモン」
「戻ってたのね。それも随分なお土産を持って」
「土産か。その表現が相応しいかどうかは分からないけどな。症状としては、アウル達と同じく薬で強化されるとか、そんな感じらしい。量産型Wが連れてくるから、治療を頼む」
「あのねぇ。幾ら症状が似ているからといっても、違う世界の話よ? SEED世界とUC世界では強化の手法として薬物が使われていても、その薬物が同じとは限らないのよ? その辺の事情を考えると、まずは現在どういう状態か調べてからじゃないと、どうにも出来ないわ」
そう言われてしまえば、レモンの言葉にも納得出来るものがある。
MSという同じ人型機動兵器を使い、ガンダムというMSがあっても……SEED世界とUC世界は、全く違う世界なのだ。
これは別に、どちらの世界が優れているとか、劣っているとか、そういう問題ではない。
「取りあえず、運ばれてきたらすぐにでもチャンバーに入れられるように準備はしておくわね。……それにしても、その子がUC世界で見つけてきた新しい恋人? 私はてっきり、セイラに手を出すと思ってたのに」
「ちょっ! いきなり何を言うんですか!」
レモンの口から出た言葉に、クリスは顔を赤く染めながら、そう叫ぶ。
クリスにとって、レモンのその言葉は完全に予想外だったのだろう。
「あら、そう? アクセルはいい男よ。お勧め出来るわ。……もっとも、打算ではなく本当にアクセルを愛する人じゃなきゃ、恋人にはなれないけどね」
「貴方は……」
そうクリスが言おうとした瞬間、量産型Wがペイルライダーのパイロットを連れて部屋の中に入ってくる。
それを見たレモンは、クリスとの話をあっさり中断すると、パイロットの様子を調べ始めた。
「ふむ、なるほど」
体温を測り、汗を採取する。
また、呼吸の荒さを確認し、指の先端に触れ……と、俺にとっては一体何の為にそんな事をしているのかも分からないといったようなやり取りを5分程行うと、量産型Wに指示して着替えさせ、チャンバーの中に入れるように指示する。
指示が終わると、レモンは俺やクリスの様子を完全にいないものとして、チャンバーの設定を行う。
以前聞いた話によると、チャンバーの中に入れる溶液はチャンバー側で色々と設定出来るらしい。
考えてみれば、チャンバーの中に普段入るのは量産型Wだが、病気や怪我、重度の薬物中毒者といったように、様々な者がこの中に入る。
であれば、このチャンバーの中に入れる溶液の成分を色々と調整出来るようになっているのは当然の事だろう。
もっとも、その辺の調整はあくまでもその辺の知識がある者だからこそ出来ることであり、それ以外の者にしてみれば下手に弄るとどんな効果があるか分からない。
それを考えると、やはりレモンだからこそ、このチェンバーを使いこなせているのだろう。
ちなみに……本当にちなみにの話だが、パイロットを着替えさせるのは量産型Wが俺の見えない場所で行った。
あのパイロットが女である以上、それは当然だったのだろうが。
そして以前ギ二アスがチャンバーに入る時に着ていたのと同じような服に着替えさせられた女は、量産型Wによってチャンバーの中に入れられ……レモンが操作を完了すると、やがてチェンバーの中に溶液が満たされていく。
「取りあえず、これですぐに死ぬといったことにはならないと思うわ。後は少し様子を見て薬を抜いたり、投薬の影響で弱っている部位を治療したりといった具合にしていけば……そうね、半月から1ヶ月くらいかしら。そのくらいで、治療は終わると思うわ」
「凄い……」
レモンの口から出た説明に、クリスが驚きの声を上げる。
その気持ちも分からないではない。
普通なら、薬物中毒とかそういうのを治療するには、結構な時間が掛かってもおかしくはないのだ。
それが、レモンに掛かればこの通りなのだから。
特に治療している方にしてみれば、チャンバーの中に入っている間は意識がないので、眠って起きたら、もう薬物中毒が治っている……といった感じだ。
今回の場合は、このパイロットが俺に気絶させられた状態でチャンバーの中に入ったので、余計にそう感じるだろう。
もっとも、チャンバーで治療出来るのは、あくまでも肉体的な治療だけだ。
このパイロットの場合とは違い、快楽目的で薬物を使った場合は肉体的な治療だけではなく、精神的な治療も必要となるのだから。
その場合は、また別の手段が必要になるだろう。
「それで、この子は結局誰なの? アクセルが連れて来たって事は、そっちのクリスがアクセルの新しい恋人じゃないなら、こっちがそうなの?」
「違う」
その言葉には即座に断言する。
このパイロットの正確な年齢は分からないが、それこそ10代半ばになっている俺の姿よりも、更に若い……いや、幼いように見える。
12歳から13歳……といったところか?
いやまぁ、外見が必ずしも年齢を表していないというのは、俺もよく知ってる。
場合によっては、この外見で実は20代ですとか言われても……驚きはするが、同時に納得もする。
それでも、まだ会ったばかりのこの女を恋人にというのは、考えられない出来事だ。
「そもそも、このパイロットはEXAMシステム搭載機と思われるMSに乗っていたんだ。そういう意味で、色々と事情を聞きたいとは思うし……アウル達の事もあるから、あまり見ていたくはなかった、というのも大きいな」
「EXAMシステム? それって……」
レモンも、当然ながら俺からの報告だったり、ルナ・ジオンからの報告だったりで、EXAMシステムについては知っている。
それだけに、訝しげな視線を俺に向けてくるのも、当然だったのだろう。
「クルスト・モーゼスだっけ? ジオン公国から亡命した、その人だけしか作れないんじゃなかったの? そして、残存するのはホワイトベース隊の1機だけって聞いてるけど?」
「だろうな。俺もそう思っていた。けど……あのMSの動きや反応を見ると、どうしてもEXAMシステムを思い起こさせるものがあった。しっかり調べてみないと分からないから正確な事は言えないが、もしかしたらEXAMシステムじゃなくて、その亜種とか、改良型とか、そんな感じのシステムの可能性もあるな」
EXAMシステムそのものだけなら、正直なところそれなりに優秀なシステムだとは思う。
ただ、作るのにニュータイプの意識が必要だったり、ニュータイプの存在を察知したら暴走状態になったり、EXAMシステムを使った場合は機体の損耗が非常に激しくなる……といった風に欠点も多いが、システムの性能そのものは非常に有益なのは間違いない。
そうである以上、連邦軍がEXAMシステムをベースに新たなシステムを開発してもおかしくはない。
疑問なのは、クルストが連邦軍に亡命してきてから、まだそんなに時間が経っていないにも関わらず、そんな新たなシステムを開発し、その上でペイルライダーという新型MSに搭載出来るのだけの余裕があったか? という事だろう。
ガンダムのバリエーションが大量に同時進行で開発されていたのを考えれば、絶対に無理とは言えないのかもしれないが。
「ふーん。……少し興味深いわね。EXAMシステムそのものは、W世界のゼロシステムに類似部分があったけど……それを思えば、危険性は言うまでもないけど」
「まぁ、それはな。実際、そのおかげでこうしてパイロットがシステムに耐えられるように薬漬けにされてるんだから」
「普通に考えれば、そのシステムに対応出来るように身体強化と……情報を素早く判断する為に、神経伝達系を薬で強化しているといったところかしら。……うん、この数値を見ると間違いないわね」
俺と話しながらも、レモンはしっかりとチャンバーに入っている女の情報を確認していたのだろう。納得したように呟く。
「どうだ? 治療は可能か?」
「ええ。さっきも言ったけど、そう時間は掛からないわ。どうやら、UC世界はこの手の技術はあまり進んでないようね。これだけならSEED世界の方が進んでるわ」
アウル達の件を見れば、その辺は俺にも分かる。
MSの動力炉の点ではUC世界の方が進んでいるが、この手の技術に関してはSEED世界の方が進んでいるというレモンの言葉は真実なのだろう。
「取りあえず、半月から1ヶ月くらいで治療が完了するって話だったけど、順調に進めば五日くらいで健康体になりそうね」
「この場合、連邦軍の薬に関する技術の低さに呆れればいいのか、それともシャドウミラーの……いや、レモンの技術に驚けばいいのか、どっちだと思う?」
「私の技術に驚いてくれるというのが、嬉しいけど?」
そう言い、艶めいた笑みを浮かべるレモン。
もしここにクリスがいなければ、それこそここでレモンと一時愛し合うという事も考えられたが、今の状況でそのような真似が出来る筈もない。
「レモンの技術力なら安心出来るよ。……本当はもう少しここでゆっくりしていたいところなんだが、今こうしている時もUC世界では戦いが続いてるから、そろそろ戻らないけないな」
「そうね。ア・バオア・クーがどうなるのかは、それこそこれからの連邦軍にとっても大きく関わってくるもの。出来れば、しっかりと確認しておきたいわ」
俺とレモンの会話をずっと聞いていたクリスが、そう会話に割り込んでくる。
クリスにとっては、ペイルライダーのパイロットよりも連邦軍の事が心配なのだろう。
一応、仮にも今はルナ・ジオンの所属なんだが……まぁ、ルナ・ジオンに移ってきたのも、色々と訳ありで、なし崩し的なところもあったし。
人当たりがよく、能力的にも優秀なクリスの事だ。
当然のように、連邦軍には知り合いも多いだろうし……俺達がいない状況で、ア・バオア・クーで何かが起こってしまわないかと、そう心配するのも当然だろう。
ソロモンでは、ビグ・ザムの件もあったしな。
それを考えれば、ア・バオア・クーでも何かがあると、そう考えてもおかしな話ではない。
「分かった。じゃあ、そろそろ戻るか。……そんな訳で、レモン。そっちのパイロットの治療は頼む」
「ええ、それはいいけど……他の人達には会っていかないの? 皆、アクセルとは会いたがってるわよ?」
この場合の皆というのは、シャドウミラーに所属している面々ではなく、もっと狭義的な意味での皆……つまり、俺の恋人達だろう。
会いたくないかと言われれば、勿論会いたい。
会いたいんだが……今の状況でそのような真似をしていられるような余裕はない。
「俺も会いたいけど、それはまた今度の楽しみにしておくよ。UC世界のジオン公国との戦争も、もう終盤だ。ア・バオア・クーを攻略すれば、サイド3の前にはもう何もなくなる。ギレン・ザビの知能があれば、降伏してくるだろう。……デギンがいれば、もっと早くどうにかなったかもしれないけどな」
デギンと……何より、レビルが死んだというのは、正直痛い。
これからの連邦軍とのやり取りをする中で、かなり面倒な事になるのは確実だ。
せめてもの希望は、まだ連邦軍にゴップがいるという事か。
補給畑のゴップだからこそ、月を……そしてシャドウミラーと敵対する事の意味をしっかりと理解している筈だった。
「そう、分かったわ。じゃあ……頑張ってね」
そう言い、レモンは俺の唇に自分の唇を重ねる。
「なっ!?」
いきなりの行為にクリスが狼狽する声が聞こえてくるが……俺は、レモンの舌を迎えいれ、口づけの時間を楽しむのだった。
アクセル・アルマー
LV:43
PP:1240
格闘:305
射撃:325
技量:315
防御:315
回避:345
命中:365
SP:1987
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
努力 消費SP8
集中 消費SP16
直撃 消費SP30
覚醒 消費SP32
愛 消費SP48
スキル:EXPアップ
SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
念動力 LV.11
アタッカー
ガンファイト LV.9
インファイト LV.9
気力限界突破
魔法(炎)
魔法(影)
魔法(召喚)
闇の魔法
混沌精霊
鬼眼
気配遮断A+
撃墜数:1627