ドレイクの口から出た言葉を聞いた瞬間、フラオンはどこか呆けた表情を浮かべる。
まさか、昨日までは自分の部下だったドレイクに降伏しろなどといったことを言われるとは、思ってもいなかったのだろう。
……その部下に対し、騙し討ちをしたのは誰なのかといったようなことを突っ込みたかったが。
フラオンはドレイクの言葉を聞き、たっぷりと1分近くも沈黙した後で、自分の聞いた言葉が空耳かなにかだったのではないかと、そんな風に言いたげな様子で口を開く。
「ドレイクよ、余の聞き間違いか? 今、お主は余に対し、降伏するよう言ったように思えたのだが」
「聞き間違いではありません。ここでフラオン王が降伏するのなら、命だけは助けて差し上げます。それどころか、庶民という扱いではありますが、飼ってあげましょう。勿論、庶民である以上、今までのような贅沢はまず出来ませんが」
ドレイクもフラオンの態度には苛立ちを感じていたのだろう。
あるいは、今の態度だけではなく、今までのやり取りで鬱憤が溜まっていたのか。
「ドレイク! 貴様、余に向かって何を言ってるのか、分かっているのか!」
「勿論ですとも。そもそも、こうなった原因は誰にあるとお思いで?」
「貴様が、その2人を庇っているからであろうが!」
そう言い、フラオンは俺とマーベルの方を睨み付けてくる。
今まではドレイクとの間で会話をしていたのが、突然こっちに視線を向けて叫ぶのだから、少し驚く。
それを狙っての行動という訳ではなく、ドレイクの言葉で頭に血が上り、半ば反射的に俺に八つ当たりをしたくなったのだろう。
「そう言ってもな。そもそも俺達は指名手配されるような覚えはない。まさか、服を売っただけで罪になるなんて事はないだろう?」
「貴様ぁっ! 捕らえよ! この者を捕らえよ!」
元々頭に血が上っていたところに、俺の言葉を聞いて更に頭に血が上ったのだろう。
俺を指さしながら、フラオンが激しく叫ぶ。
叫ぶが……そもそもこの謁見の間にいるフラオン側の戦力は決して多くはない。
その残り少ない騎士や兵士達は、俺に武器を向けていいものかどうか迷っていた。
フラオンとは違い、現状を理解出来ているのだろう。
そんなフラオンの横では、宰相なのか? もしくはもっと別の役職なのか、禿頭で眼鏡を掛けた老人があたふたとしていた。
フラオンの言葉に明確に反応するのはその老人くらいで、他の者達はどうするべきか迷っていた。
これが戦いの始まる前なら、もう少しどうにかなったんだろうが……ドレイクとの戦いでエルフ城は陥落寸前といった有様だった。
それを思えば、もしここでドレイクに武器を向けた場合、エルフ城が陥落した後で自分がどうなるのかといったようなことを考えれば、とてもではないが手を出すような真似は出来ないのだろう。
また、騎士や兵士にとってもフラオンのような愚王ではなく、ドレイクのような有能な人物に従いたいといった思いもあるのかもしれない。
「何をしている! この無礼者共を捕らえよ! 死刑だ、死刑!」
自分の命令に騎士や兵士達が動かないことに苛立ったのか、激しく叫ぶ。
とはいえ、騎士や兵士達が動く様子はない。
そんな様子を見ると、俺は小さく息を吐いてから空間倉庫の中から深紅の槍、ゲイ・ボルクを取り出す。
「ひぃっ!」
その穂先を向けられただけで、フラオンの口からは悲鳴が上がった。
いや、幾ら何でもそれはちょっと怯えすぎだろ。
そう思ったが、ゲイ・ボルクは素人が見てもその辺にあるような槍ではないというのが、一目で理解出来る。
「どうする? やる気なら俺は構わないが。……ただし、その場合は手加減をして貰えると思うなよ?」
「寄るな、寄るな、寄るなぁっ!」
ゲイ・ボルクの穂先を向けられた瞬間、フラオンはそんな風にみっともなく泣き叫ぶ。
フラオンは見るからに戦闘訓練とかはしていないんだろうし、こうしてゲイ・ボルクの穂先が自分に向けられたという時点で恐慌状態に陥るのもおかしくはないのだろう。
個人的には、王がそれでいいのか? と思わないでもないが……まぁ、フラオンだし。
「アクセル王、その辺りで。……フラオンの姿は、あまりにも見苦しい。殺す気も失せた。今すぐ消えよ、フラオン。貴様のような存在は、近くにいるだけでも目障りだ」
ドレイクのその言葉に、フラオンは恐慌状態から収まる。
それでいながら、ドレイクに対して向けられた視線の中には、感謝の色があった。
あー、なるほど。ドレイクの狙いはこれだったのか。
フラオンの性格からして、素直に城から出て行けといったところで素直に従う筈もない。
なら、もうエルフ城にいたくないと、そう思わせればいいのだ。
フラオンにしてみれば、ドレイクの言葉遣いに気が付くといったような様子もない。
ただ、俺の持つゲイ・ボルクの穂先が自分に向けられるのを止めてくれたといった感謝の気持ちの方が強いのだろう。
そこには、王としての誇りといったものは存在しない。……埃ならありそうだが。
「言っておくが、フラオンが持っていくのは最低限の物だけだ。財産の類は持っていけるとは思うなよ。それと、フラオンがどこに向かおうとしているのかは分からんが、ギブン家は今頃滅びている可能性が高い。そっちに向かっても無駄だぞ」
ドレイクは、既にフラオンに対して軽蔑の色を隠そうともしていない。
財産の類を持っていかせないのは、これまでフラオンが集めてきた金や宝石といった諸々を持っていかせない為だろう。
フラオンが今までかなりの税を国民達から搾り取っていたのは間違いない。
それこそ、ルフト領の住人であっても、フラオンからは税を搾り取られていたのは間違いない。
その辺を考え……何より、フラオンを追放した事で、これからドレイクがアの国を治めていく以上、少しでも多くの資金が必要なのは間違いない。
そういう意味では、フラオンの一件も決して悪い訳ではないのだろうが。
「な、何だと!? ギブン領が駄目となると……余にどこに行けと!?」
フラオンはギブン領に逃げ込むつもりだったらしい。
だが、ドレイクの言葉でそれが無理だと知ってしまった。
アの国において、ルフト領とギブン領は突出した存在だ。
そんな中でも、ルフト領はギブン領よりも更に突出した領地なのだが。
それだけに、フラオンが逃げ込む先としてはギブン領が最優先候補地だったのはおかしな話ではない。
「さて、儂からは何とも言えんな。だが……フラオンはミの国と協力関係を結んでいるのだろう? であれば……いや、これ以上は何も言うまい」
そう言うドレイクだったが、何も言うまいという割にはしっかりとミの国の名前を出している。
実際、フラオンはそのドレイクの言葉を聞き、なるほどと頷く。
「余はピネガン王の仲間だ。ならば、ピネガン王は余を喜んで受け入れる筈」
自分を追い出すドレイクの前で、そういう事を口にするのはどうかと思うんだが。
その辺はフラオンだからと考えれば、どうしようもないか。
「では、皆。余はミの国へ向かうぞ。共をせい」
当たり前のようにそう告げるフラオンだったが、その言葉に頷いたのは宰相か何かだと思われる、眼鏡を掛けた老人だけだ。
他の者達は、そんなフラオンの言葉に対して、何も反応する様子はない。
「どうした? 準備をしろと、そう余が命じておるのだぞ」
再度命じるフラオンだったが、やはりその言葉に他の者達が反応する様子はない。
まぁ、無理もないか。
普通に考えれば、今の状況でフラオンと一緒に行動するというのは自殺行為でしかないのだから。
あるいはこのままエルフ城に残るというのなら、まだフラオンの部下として働いた可能性もある。
しかしそのような真似が出来ない以上、フラオンと一緒にミの国に行くというのは拒否したいのだろう。
この連中だって、家族がここにいるのは間違いない。
であれば、それを拒否するのは当然だった。
寧ろ、フラオンではなくドレイクの方が仕え甲斐はあるだろうし。
フラオンはそんな部下の心境も分からず、何故自分の言葉に頷かないのかと、疑問を見せる。
しょうがない。このままここで無駄に時間を潰しても意味はないしな。
ここで決定的な一言を口にするか。
「お前と一緒に行けば、破滅する未来しか見えない。だから、ここにいる連中はお前と一緒に行動するんじゃなくて、ドレイクに従う事を選んだんだよ」
「な……に……?」
俺の口から出た言葉の意味を理解出来ない。
そんな風な様子を見せるフラオンだったが、その言葉の真偽を確認するように謁見の前にいる者達に視線を向けると、皆が視線を逸らす。
そして、視線を逸らされただけでフラオンにとっては十分その意味を理解出来たのだろう。
フラオンの性格を考えれば、それこそ視線を逸らされた程度では自分がどんな風に思われているのかは分からないんじゃないかとも思ったんだが。
「く……覚えておれ!」
そう言い、フラオンは謁見の間を去っていく。
「フラオン王!」
そんなフラオンを眼鏡を掛けた老人が追っていった。
それ以外には誰もフラオンを追うような者はいない。
この状況を見れば、フラオンが一体どのように思われているのかというのがよく分かるだろう。
実際、もしフラオンがもっと国王としてしっかり働いていれば、もっと深い忠誠心を抱くような者もいたのだろうが。
今までのフラオンの様子を見る限りでは、とてもではないが忠誠を誓うような者はいなかったのだろう。
ある意味で自業自得ではあるが……かといって、ここであっさりと主君を見限ったような連中をドレイクが重用するのかと言えば、また微妙に難しいところだろう。
勿論、そのような相手であっても使わなければならない時はある。
今まではルフト領を治めるだけだったのが、これからはアの国全体を治める必要が出て来るのだから。
その上で、アの国がそれなりに落ち着いたらミの国を攻める予定だ。
当然だがミの国を落とした後は、そのミの国を運営していく必要もあるので、余計に人材が必要となる。
ドレイクも人材を集めてはいるのだろうが、それでも国を運営するには人材不足になるのは明らかだろう。
であれば、ドレイクとしてもこの連中を使わざるを得ない訳だ。
とはいえ、将来的にドレイクの下に人材が揃ってくればどうなるか。
その時までにこの者達がドレイクの信用を得るような事が出来なければ、将来的に切り捨てられるだろう。
「さて、アクセル王」
フラオンの姿が消えたところで、ドレイクが俺に向かってそう尋ねてくる。
そんなドレイクの言葉に、謁見の間に残っていた者達が改めてこちらに視線を向けてきた。
この連中にしてみれば、俺という存在があまりよく理解出来ないといったところか。
「何だ?」
「その槍は、そろそろしまってくれないか?」
「分かった」
ゲイ・ボルクを空間倉庫に収納する。
空間倉庫について知らない連中は、そんな俺の行動に目を見開いて驚く。
バイストン・ウェルなんてファンタジー世界に住んでいるんだし、地上人を召喚するような真似も出来るのだから、そこまで驚く必要もないと思うんだが。
「すまんな。……それと、フラオンが余計な物まで奪っていかないか、見てこい」
俺に感謝の言葉を告げると、自分の護衛として一緒に来た騎士達にそう命じる。
ドレイクが財産の類を持っていくのは許さないと言ったが、相手はフラオンだ。
それこそ、ドレイクの言葉を無視して財産の類を持っていくといった可能性は十分にある。
それを思えば、やはり誰か見張りを向かわせるというのは、そう悪い話ではないのだろう。
「は!」
騎士の1人がそう言い、謁見の間から出ていく。
それを見送ると、ドレイクはそのまま謁見の間に用意されている玉座に座る。
正直なところ、長年フラオンが使っていた玉座と考えると、あまり使いたいとは思わないんだが。
その辺はドレイクの判断だろうし、ドレイクも本当に嫌だったら後で新しい玉座を用意するなりなんなりするだろう。
「さて、これでアクセル王の予定通りになった訳だ」
「ああ。そうなると、ミの国の反乱軍には少し行動を起こすのを待つように言った方がいいのかもしれないな」
ミの国の反乱軍……という表現が正しいのかどうか分からないが、ともあれ連中にしてみれば出来るだけ早くピネガンをどうにかしたいと思っているのだろうが、フラオンをピネガンに押し付け、その内部で不和をもたらしたり混乱したりするまで、多少なりとも時間が掛かる。
普通ならこういう時は効果が出るまでそれなりに長時間必要となるというのが正しいのだが、今回の場合はフラオンだしな。
それこそミの国に到着したその日のうちに問題行動を起こしてもおかしくはない。
そして、時間が経てば経つ程にその問題は大きくなっていく。
あるいは、ピネガンがその面倒を嫌ってフラオンを切り捨てる――比喩的な意味ではなく物理的に――という可能性もあるのか?
そんな風に考えていると、ドレイクが再び口を開く。
「アの国を占領したことを祝い、新たに地上人を召喚する」
その言葉に、謁見の間にいた者達は驚きの表情を浮かべるのだった。
アクセル・アルマー
LV:43
PP:1525
格闘:305
射撃:325
技量:315
防御:315
回避:345
命中:365
SP:1987
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
努力 消費SP8
集中 消費SP16
直撃 消費SP30
覚醒 消費SP32
愛 消費SP48
スキル:EXPアップ
SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
念動力 LV.11
アタッカー
ガンファイト LV.9
インファイト LV.9
気力限界突破
魔法(炎)
魔法(影)
魔法(召喚)
闇の魔法
混沌精霊
鬼眼
気配遮断A+
撃墜数:1673