藤丸立香の時計塔生活 作:佑々
ロンドンの繁華街の一角、長身の男とフードを被った少女が歩いている。買い物帰りらしく、2人とも大量の荷物を持っている。
「───えっ」
突然、少女の方の足が止まった。
「どうした?グレイ」
「今、ロード・エルメロイII世って。あの子が」
「どいつだ?」
「……あの黒い髪と青い目をした少年です。──それに、変な感じがします。生きているような、生きていないような、よくわからないものが彼に取り憑いています」
───魔術師だろうか。時計塔では見た事がないが……
長身の男──ロード・エルメロイII世が少年を見つめていると、少年はしまったという表情をして走り去ろうとする。
「ちっ、考えている暇はなさそうだな。魔術師だったら面倒だ、追うぞ!」
「はい!」
逃げようとする少年はすぐに捕まった。ロード・エルメロイII世は自身の魔術が拙いものだとは知っているが少年はそれ以上に拙かった。いや、そもそも魔術が使えないと言ってもいいかもしれない。咄嗟に放ったガンド一発で意識を失うとはロード・エルメロイII世も少女──グレイも思っていなかった。
伸びてしまっている少年を見て、ロード・エルメロイII世はため息を吐く。
──これなら、追う必要もなかったか。それどころか、追わなければ介抱をする必要がなかった分、そっちの方がいいな。と考えるがしょうがないとため息を吐いて言う。
「近くに公園があったな、そこまで運ぶぞ」
「あの、拙が運びます」
「いや、いい。グレイ、君は荷物の方を持ってくれ、少女に自分の体より大きいものを運ばせたとなると体面が悪い」
ロード・エルメロイII世が少年を観察する。傍から見れば倒れている少年に対していい歳した大人が色々やっているようなものだが、そこは魔術師、人払いは済ませてある。
「うーむ、こいつは見れば見るほど異質だな。まず魔力、澄んでいるな。この時代、魔術もろくに使えない奴にはありえないほどに、性質的には神代に近いものだ。そして魔術回路、23本あるが、ふむ、よく使われているようだ。これは──何かに魔力を供給しているのだろう。そして極めつけはこれだ。グレイ、右手の甲を見てみろ」
「これは──」
「令呪、というものでね。聖杯戦争のマスターの証だ」
ふぅと、言ってロード・エルメロイII世は考え込む。──こいつが聖杯戦争のマスターだとは考えにくい。あれ以来、聖杯戦争が起こっているという情報はない。と、なると、どこかの魔術師が行った擬似的な聖杯戦争を勝ち残った元マスターと言ったところか。だが待て、それならばなぜ今でも魔力を供給している──
ロード・エルメロイII世の表情が変化する。少しずつ、少しずつ、かつてウェイバー・ベルベットと呼ばれていた時の何かを恐れている表情へ。それはグレイもすぐに分かるほどの表情の変化であった。
「グレイ、警戒しろ!もしかしたら、サーヴァントがいるかもしれない!」
「えっ」
「不味いな、この状況だ。問答無用で敵対されてもおかしくない」
───アサシンか、アーチャーか。キャスターの可能性もある。よくよく考えてみればおかしかったのだ。こいつの魔力の質はおそらくそのサーヴァントによって改変されたもの、神代に近い魔力を必要とするために──いや、付近を神代にする宝具でも持っているのだろう。マスターの負担を少しでも小さくするために内側から作り直した。おそらく今頃、パスを通じてこちらに──ロード・エルメロイII世のその思考は後ろから聞こえてきた間抜けな声で中断されることとなる。
「ふぁー」
今まで気絶していたとは思えないほどの声、少年の欠伸が、サーヴァントに対する恐怖からピリピリしていたロード・エルメロイII世と、その恐怖を感じとっていたグレイの心を沈めた。その欠伸を聞いて、目が覚めたことを理解したロード・エルメロイII世は1つため息をつくと少年の方を向いて言う。
「あー、さっきは済まなかったな。いきなり名を呼ばれたもので魔術師かと警戒してしまった」
「いえ、先生が知るはずないのに呼んじゃったし、疑われるのも仕方の無いことですよ」
「そうか、君の名前は?」
「藤丸立香っていいます!」
「……ひとつ聞きたい。君は──藤丸立香は聖杯戦争のマスターなのか」
少年の様子が変わる。図星──という訳では無い、どちらかと言うと懐かしむような表情をしていた。それはまるで、目の前の人物に見覚えがあるかのようだった。
「はい。『前世』での話ですが。俺はマスターとして、貴方やイスカンダルと共に戦いました」
───驚きすらも感じぬほどの衝撃だ。私が、ボクがライダーともう一度、一緒に戦えるなんて。………気にはなるが今は置いておこう。それよりもこいつは───
「───君は今世でも英霊と繋がっている自覚はあるか?」
「えっ」
───なるほど、危ういな。自覚なしに英霊と繋がっているか……呪いか、祝福か。さっきグレイが何かの気配があるといったな、さっきは気が動転していて気づかなかったが、恐らくは彼の前世のサーヴァントは亡霊化して彼に憑いてる。その思念が魔術回路を働かせていたのか。どちらにしても、魔術師に目をつけられたら実験体になるのは避けられないだろう。…………。
「なあ、君、時計塔に来て、魔術師になる気は無いか?今でも君に残っている英霊との縁は魔術師にとって甘美な蜜のようなものだ。君どころか、君の親までも危険に晒すかもしれない。一時、親と離れ、力をつけた方がいい」
「それは──」
「私の連絡先を渡す。親とじっくり話すといい。もしも、危険を承知で普通の人間として暮らすのならばその紙を燃やしてくれ、逆にこちら側の世界に入る気があるのなら、その時はここに連絡してくれ」
─────
本に囲まれた部屋、ロード・エルメロイII世の研究室に一人の男が現れた。考古学科の変わり者であるフラウロスである。
「ほう、貴方がここに訪ねてくるなんて珍しいな。ミスター・フラウロス」
「ああ、ふと目についたんだ。お邪魔だったかな?」
「ええ、今の研究にとってはお邪魔だとも。だが、貴方との対話もまた別の意味で有意義なものとなるだろうさ」
「そうか、ならよかった。過去と未来を共に重要視し、しっかりと『現在』を見て過ごす君との対話は心地が良い」
しばらく2人は話し込んでいた。過去、現在、未来、その全てにおいてロード・エルメロイII世の見解は凡庸であったが、だが、少なくとも偏っていなかった。
───突然、ジリリリリと大きな音をたてて電話が鳴った。
「おっと、失礼。───はい。私だ。………ああ、君か藤丸」
フラウロスの様子が変わる。藤丸という言葉を聞いたとたん表情が変わっていく。恨みと懐古と期待とその他色々な感情がひとつに会した複雑な表情。だが、ロード・エルメロイII世の電話が終わる前には気持ちの整理をつけていつもの様に戻っていた。
「今のは?」
「新しい弟子をとることにしたんだ、才能はないが貴重な
「──そいつは藤丸立香っていう名前ではなかったか?」
ロード・エルメロイII世が驚愕の表情を示す。そして静かに疑問を口に出した。
「知っているのか?」
「ああ、『
「それは──」
ロード・エルメロイII世が言葉に詰まっている間に、フラウロスは続けた。
「ひとつ提案がある。そいつを私に預けてみる気は無いか。もちろん、所属は現代魔術科でいい」
「理由を聞いても?」
「何、極めて個人的な理由だよ。初めて感じた一般人的な感情といってもいいかもしれない。彼の師という立場になり優越感に浸りたいのさ。私の中の砂粒1つ分残る負けず嫌いな部分がそう求めているんだ」
2人はしばらくの間、目を合わせていたが、ロード・エルメロイII世は先に目線外し、諦めたように言った。
「わかりました、貴方に預けよう。少なくとも貴方から彼を傷つけることはなさそうだ」
「───ああ、任せてくれ」
────
時計塔が見える公園、そこで待ち合わせとなっていた。諸葛孔明──ロード・エルメロイII世と出会ったときも驚いたけどそれよりも驚いたのは隣にいる『こいつ』に会った時だ。いや、気づいたと言うべきか。会ってはいた──それどころかずっとそばにいたのだ。
「それで、マーリンどうして着いてきたんだ?」
「一応今世の君の『父親』じゃないか。立ち会うのは当然だろう?」
そう、何を隠そう、こいつは前世で死んだ俺の魂を冥界に送ることなく、さらって転生させたのだ。その上、父親役をして楽しんでいやがった。今ならフォウのマーリンシスベシフォーウという言葉も言葉ではなく心で理解出来る気がする。
「ほら、ね。君、前世で死後どこへ行くか決めてなかっただろう?君のような善良な魂がバラバラにされて消え去るのは──好みじゃない。だったらもう一度人生を繰り返させてどこに行くのか決めてもらおうって思ったんだ。ああ、魂に関しては心配しなくてもいい、200騎以上の英霊達がいたんだ。腐敗を防ぐなんて簡単なことさ。だから、もう一度、今度は運命に翻弄されないようにしっかりと生きてくれたまえよ。ほら、迎えが来たようだ」
遠くから3人が歩いてくる。1人は長身の男性、ロード・エルメロイII世、かつての俺のサーヴァントの1人、もう1人はフードを被った女の子、ちらりと見えた顔はアルトリアを思い起こさせる。そして、もう1人──大丈夫だよと後ろからマーリンが声をかけた。ああ、そうなのだろう。彼は『ゲーティア』では無い。ただの魔術師としてのレフ・ライノール───だから、きっと大丈夫。
「皆さんこんにちは、藤丸立香の父です。」
マーリンが言う。ツッコミたくなるが、一応事実なのだしょうがない。髪の色も姿も違っている父親と名乗る不審者に迎えに来た3人は驚いて止まってしまった。
静寂を破ったのはロード・エルメロイII世やアルトリア似の少女ではなく、それどころかレフ・ライノールでもない。アルトリア似の少女が持っていた魔術礼装だった。
「てめぇ!マーリンじゃねぇか。おいおいおいおい!どうなってやがる。何だ、こいつはキングになるとでも言うのか!?はっ、冗談じゃねぇ。おい、ロード・エルメロイII世さんよ、こいつを引き取るのはやめたほうがいいぜ」
「アッド!」
「ははは、仕方ないね。ケ……いや、アッドくん。まあ、安心してくれ、私は審判のようなものだ。ほら、せっかく世界をまたいだ恋愛活劇をしているのに介入したせいで運命が固定されてしまったら勿体ないだろ?ああ、そうだ。ロード・エルメロイII世くん、この子には夢の中で一通りの魔術を教えているから、時計塔で馴染めないことはないと思う。存分に成長させてくれたまえ」
フリーズしていた男達が動き出す。頭を痛そうにしてロード・エルメロイII世が口を開いた。
「Shit!また貧乏くじか!っち、まあいい。……一つ確認する。ミスター・フラウロス、本当にいいのか。こいつはとびっきりの厄ネタだ」
「ああ、いいとも。こいつが私にとって害だなんてとうに知っている。だが、それは私の獣を引き剥がす鍵でもある。こいつは私の獣が失敗することの証明だ。その存在だけで完璧主義の獣は起動しないだろう」
「獣……?」
「おっと喋りすぎたか。まあ、気にするな。こちらの話だ。そうだろう?藤丸立香」
───なるほど。魔術師としてのレフ・ライノールはビーストの顕現に否定的なのか。いや、あるいはその誘惑から逃れるための楔が俺なのだろうか。
「そうですね。俺はその話を理解しています。それで、どうして、レフ・ライノールはここに?」
「レフ・ライノール……か。なるほどそう呼ばれていたのだな。私のことは……ふむ、父上とでも言いたまえ。」
「それって…」
「そうだ。君は今から養子となり、立香・藤丸・フラウロスとなる。まあ、普段は藤丸立香と名乗ってくれて構わないがね。それでいいな、偉大なるキングメーカーよ」
「ああ、いいとも。さて、これで私の仕事も終わり、後は気ままに関わったり、アヴァロンから眺めるとしよう」
「おっと、まだ帰るな。一応未成年の養子縁組手続きだ。法的にも、魔術的にもこの短期間でやるには色々書類が必要だ。父親だろう?書いてくれ」
トントン拍子で話が進んで行った。俺の意思を挟む暇もなく、かつての仇敵の息子になることが決定されてしまう。何か言いたかったが、言ったところで認められるはずもなく。YESとはいしか選択肢がないよくあるパターンと気がついた。
「さて、行くぞ」
ついていくことができず、ぼけーとしていると、いつの間にか書類系統の手続きが終わったらしく、レフ・ライノールに声をかけられた。
「行くって、どこへ?」
「決まっているだろ。お前の新しい家だ」
時計塔へと歩き出す3人について行く前に、後ろを見る。そこではいつもの様にマーリンが笑っていた。
「じゃあね。立香、君の2度目の生がどうか有意義なものでありますように」
───ずるい、そんな顔で見送られたら、別れるしかないじゃないか。前世の人生は覚えている。父さんも母さんも、みんな思い出せる。それでも、それでもこの人生における親は貴方なんだマーリン。だから──
「じゃあね。親父。できればもう会わないことを願っているよ」
清姫や紅閻魔には悪いけど、ひとつ嘘をついた。
「…………酷いや、こんな感情を渡して別れるなんて。アルトリアでもそんなことはしなかったぞ」
そう呟いたのが聞こえた気がした。
現在の藤丸立香のスペック
(ランクはサーヴァント基準ではありません)
魔術:D
一般的な魔術師レベル。前世を含めると神話の人々に教えられてもこれなのであまり成長は見込めないだろう。
武術:C
英雄レベルではないが普通の魔術師には負けないレベル。スカサハやケイローン等の神話レベルの先生達に教えられた結果である。
召喚術:B++
条件さえ揃えば勝手に色々とやってくる。ただし顕現するための魔力はないためか、燃費がいい、あるいは自分で魔力を補給できる者が優先される。つまり、来るのはアヴェンジャー組やシグルドなど。
ガンド:C
魔術の中でガンドのみが突出している。とはいえ魔術礼装がない以上、それはビーストやサーヴァントをスタンさせるレベルには及ばず、凛やルヴィアが使うレベルの威力、その上連射性はない。
宝物:A
もしも藤丸立香がサーヴァントだったら宝具になるレベルのものがゴロゴロある。いつもは体内にあるか、アクセサリーとなっている。取り出すことはできるが、魂に癒着しているためある一定以上離すと体内に戻る。
例:バレンタイン礼装の一部。絆礼装の一部。
令呪:EX
とあるお兄さんが親切心からつけてくれたもの。毎日12時になるとひとつ増える、最大3個。
───:EX
ええ、もちろん。私たちも見ているわ。お気に入りですもの。
武装
刀
無銘の刀。よく手に馴染む。どうしてこれを持っているのか、誰が渡してくれたのか、もう忘れてしまった。
槍
誰かから貰った槍、英霊も使えるほどなので人間が使って壊れることは無いだろう。
怨霊?
藤丸立香に取り憑いている者がたち。かつてとは違い、普通の魔術師に負けるほどに弱体化しているが、炎、雷、毒、炎、炎、ドレインなど攻撃の種類は様々である。令呪による強化が可能。
────
しばらくの間は時間が取れないので短編ばかりです。