藤丸立香の時計塔生活 作:佑々
時計塔の授業の中に『護身術』という授業がある。必修ではないが、合法的に自分の魔術の腕を試せるということで取っているものも多い。他者の実力を量れることもあってか単位を取ってないものも見に来たりもしている比較的人が集まりやすい授業であった。
だが、それにしてもこの日の観客はやけに多かった。
その理由は今、この大きな体育館の中心で戦っている2人の男であった。藤丸立香と衛宮士郎、同時期に時計塔にやってきたとして一時期話題になった3人の東洋人、そのうちの2人である。
衛宮は短めの木刀を2つ持ち、藤丸の方は1つの長い棒でそれに応戦している。演舞でも舞っているのかのような2人の動きは体育館を埋め尽くすほど人を集めていた。
だが、状況は均衡しているというわけではなかった。速さ、力、技術、その全てにおいて衛宮が上であった。だが、決着はつかない。戦闘開始から15分が経過しようとしているのに有効打を入れることができていない。彼は藤丸を攻めきれずにいた。
───どうして、ここまで防がれるんだ!?
衛宮の中に焦りが生じる。明らかな格下のはずだった。彼自身がそう侮っていたわけではないが、打ち合ううちに自分より実力が劣るとすぐにわかったことが無意識のうちに油断を産んだ。しばらくしてからその異常性に気づく。有効打が入らないのだ。46回、彼が勝利を確信した回数である。明らかな隙のはずなのにまるでこちらの行動を知っているかのように防がれる。
「そこっ!」
───くっそ、また防がれた。
僅かだが確かに隙だった。だが、また防がれる。衛宮士郎の心には焦りが確かに生まれていた。
だが、だからといって衛宮の優位は変わらない。いや、はっきり言えば実際のところ勝負はほぼ決しているのだ。疲れと焦りでパフォーマンスが落ちた衛宮士郎にさえ藤丸立香は一撃も繰り出す事ができていない。棒を槍のように操ろうと、剣のように振るおうとも、藤丸立香が攻撃を繰り出す前に衛宮士郎の一撃が来る。防ぐことはできるが攻めることに転ずるにはいささか速さが足りないのだ。
「衛宮くんの優勢……いや、見せかけの優勢かしら。防ぐばかりで攻撃してこないのは衛宮くんが疲れるのを待ってる……?」
「いや、衛宮くんが優勢なのは確かだと思うよ。凛ちゃん。俺はこういうの苦手だからよくわからないけど、でも、顔はわかる。フジマル──ああ、衛宮くんと戦っている人ね、なんかモヤモヤした顔しているもん。攻めようとしても攻めれないが正しいんじゃないかな?」
最前列で呟いた遠坂に、いつの間にかいたフラットが声をかける。
「げえっ、フラット!なんであんたがここにいるのよ!」
「だって、今の時間講義ないし」
「そうじゃなくて!どうして最前列にいるのよ!ここは今日護身術の授業を取っている人か、私のように付き添いしている人しかいないはずでしょ!」
「別にいいじゃん。指定席ってわけじゃないんだし。それよりほら衛宮くんがまた違う攻め方を試しているよ」
武器の打ち合う音が変わった。衛宮士郎の攻撃があくまで隙を作るためのもので、逆に隙を作らないように気をつけていた今までのものとは打って変わって、多少の隙が生まれるのには目をつむって威力を重視するようになったのだ。
「くっ……!」
苦悶の声を出したのは藤丸立香だった。彼が実力が上の衛宮と打ち合えたのにはひとつトリックがある。大したものでは無い、ただ、彼の完成形と共に訓練し、共に戦かったというだけだ。だがそれは未だその領域に達していない衛宮にとってまさに天敵といえるようなものだった。だがそれも、身体能力的に防げなくなったら意味を失う。
───あっ、ヤバっ……
誰もが戦いの終わりを予感する。今まで全ての攻撃を防いできた藤丸立香の棒がその手から離れたのだ。衛宮は勝負をつけようとして───1歩、下がった。その目の前を猛スピードで棒が通っていく。蹴りあげた。藤丸は落とした棒を斜め前方に蹴りあげて足掻こうとしたのだ。だがそれもかわされて、もう決着はついた───わけではない。右腕が光る。魔力の奔流があたりに風を起こした。
「───令呪よ、俺に力を!」
誰かが飛んだと叫んだ。藤丸が蹴りあげた棒に追いついて、蹴り下ろしたのだ。猛スピードで迫る棒、だが、それもかわされる。が、あと一手、藤丸には残されている───
「今の俺には高さが足りている!当れェェェ!」
もう一度魔力の奔流が走る。衛宮士郎の一瞬の隙、棒をかわすために視線を逸らした隙を藤丸は狙った。
「あっ、あれは!あの姿は!まさにシューティングスタープレス!」
観客から声があがる。外れるということは無いだろう。衛宮には令呪を使った攻撃をかわす方法などなかった。木刀で受け流そうにもそれを行う時間はなかった。ならばどうするか、受け止める他ないだろう。
「
投影するのは何の変哲もない大盾。神秘は必要ない、丈夫さも必要ないただ一度受け流すことができればそれでいい───
「うおおおおぉ!」
叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。それが観客なのか、藤丸なのか、衛宮なのかはわからない。いや、誰でもいい、そんなことにもい意味はなかった。ただ一つわかる事は、このあと立っていた男が勝者になるということ───
バキンと大きな音が鳴った。藤丸の飛び技が衛宮の盾を破った。───だが、破っただけだ。もう体に勢いはない。
勝負は決した。大番狂わせなどなく、ただ、実力通りに勝敗は決まった。
拍手が巻き起こる。歓声鳴り止まぬ中、レフェリーが高らかに勝者を宣言した。
「勝者!衛宮士郎!」
─────
「改めて、お疲れ様。衛宮くん」
「ほんと、疲れたよ。15分も戦い続けるとか、初め打ち合った時は想像もできなかった。それに投影魔術まで使わされるとは……」
「ははは、最後の技は私も肝を冷やしたわ。シューティングスタープレスだっけ、あれ。違う奴からだけど私も受けたことがあるのよね。一撃でKOされたわ」
夕焼けに染った部屋の中、遠坂凛と衛宮士郎が気絶した藤丸立香を介抱していた。もちろん介抱することが主目的ではない。藤丸が最後に使ったものは明らかに令呪と呼ばれるものだった。それは、冬木の聖杯戦争における参加証のようなもので聖杯戦争に関係ないはずの藤丸立香が持っているはずがないものだからだ。
「───それで、衛宮くん。彼、何者だと思う?」
「キャスターの元マスターじゃないか?ほら、キャスターってマスターと合わなかったから逃げてきたみたいだし、令呪が残っていてもおかしくはない気がするけど」
「それはないわね」
キッパリと遠坂が否定する。
「そうなのか?まあ、確かにキャスターとそりが合わないというわけではなさそうだけど」
「キャスターの元マスターはアトラム・ガリアスタという魔術師よ。聖杯戦争が始まる前にすでに死んでいるわ」
「じゃあ、バゼットみたいにサーヴァントを奪われたマスターか?」
「別に今回の聖杯戦争に参加している必要はないのよ。第三次、第四次の時に生き残った魔術師の子孫なのかもしれないわ」
「うーん、いやそれはないと思う。打ち合ってみてわかったんだけどさ。こいつ、俺の太刀筋を知っているみたいだった。あー、つまりな。少なくともアーチャーを知っているみたいなんだ。だからさ、きっと第五次聖杯戦争には関わっていたんじゃないかなって」
手を一度叩いくとやめやめと呟いて、遠坂は話を打ち切った。
「まあ、今、色々話していてもしょうがないし、お茶でもして彼が起きるのを待ちましょ」
「そうだな。軽くサンドウィッチでも作ってくるよ」
夕日が落ちて街に明かりが灯り始めた頃、藤丸立香は目を覚ました。
「あれ、確か──」
「おっ、目を覚ましたか。どこか痛むところはないか?」
「いや、痛むところはないよ。それよりもここは?」
「そうか、それはよかった。ここは俺たちが借りてるアパートだよ。───あー、寝起き早々悪いんだが……いや、遠坂、やっぱりやめよう。まだ頭が働いてないだろうし、こういう時に聞くのは良くないことだ」
藤丸に何か話しかけようとした衛宮は考え直すように遠坂に話しかけた。だがそれをダメよの一言で片付けて威圧的に遠坂は話し出した。
「あなた、聖杯戦争って知ってる?」
有無を言わせぬ威圧感、だが、その威圧感を気にせず藤丸は返す。
「ああ、知ってる。聖杯戦争と言っていいかわからないものだけど参加したことはある」
「でしょうね。あなたの右手の甲にある令呪がその証。さて、冬木の聖杯戦争、その御三家として尋ねます。冬木以外で聖杯戦争が行われているとは聞いたことがないのだけれど、情報教えてくださるかしら」
「えっ、喋らなきゃダメ?」
遠坂は藤丸の問いにあくどい笑みを浮かべながら答える。だが、藤丸はそれすらもあまり気にしてないかのような様子だった。
「あら、喋らなくてもいいわよ。ただ忘れないで欲しいのは、授業が終わってからの数時間、あなたはずっと気絶していた。悪い魔術師に呪いをかけられているかもしれないわね」
「しょうがないなぁ。もうちょっと温存するつもりだったんだけど。まあでも魔術の基本は等価交換だろ、なにか対価は?」
「そうね、そこにいる衛宮くんができることならなんでもひとつだけしてくれるわ」
「えっ、俺?」
思わず紅茶を入れていた衛宮が素っ頓狂な声を上げる。まさか等価交換の材料にされるとは思ってもいなかったようだ。
「わかった、その条件で話そう」
「了解、これで契約は成立ね」
「なぁ、遠坂。弟子を等価交換の材料として勝手に使うのはいささかどうかと思うのだが」
「あら、弟子のものは師匠のものよ。その存在も含めてね」
「なんでさ!」
「───とまあ、こんな感じで戦ってきたんだ。普通なら話すような事でもないけど、あのイシュタルの依代となった遠坂凛や、エミヤシロウの若い時に言ったとしても悪いようには使わないと思っているからね。ああ、衛宮、夕飯美味しかったよ。ごちそうさま」
「とりあえず、遠坂。一言」
「わかったわ、衛宮くん。すぅー、はぁー。なんでイシュタルは体貸してやったのに家賃代わりの宝石も何もくれないのよ!それでも神様でしょ!失ったとはいえ、時代や世界を超えて贈り物の一つや二つ簡単でしょうに!どうしてそっちばっかり、あの英雄王の財の何割かをもらったですって!そんなに宝石があったら宝石剣でもなんでも作れるわ!」
話の途中で何となくそういう雰囲気が出ていたが遠坂は自分だけ得をしてわけようともしない神様に怒りを向けている。
「でも、ま。アーチャーが楽しそうでよかった。人理のために戦うなんて夢にまで見た正義の味方じゃない」
遠坂が落ち着いたのを見て、藤丸はじゃあと切り出した。
「衛宮、頼みたいことなんだけど……」
「ん、もう使うのか?」
「ああ、お前があのエミヤシロウの同一存在ならできるはずの事さ。──実はね。どうやって入手したのか、誰から貰ったのかわからない刀があるんだ。それを解析して欲しい」
「わかった。今度見せてくれ」
「いや、ある。今ここに確かにあるんだ」
藤丸が少し念じると、まるで析出するかのように素朴なそれでいてどこか鋭利な印象を受ける刀が現れた。その刀を見て驚いたのは衛宮ではなかった。
「ひ、ひひひとつ聞いていい?その刀どこから出したのかしら?」
「あー、それがよくわからないから衛宮に聞こうと思ったんだ。わかるの?」
「わからないわ。でもね、わからないことがおかしいの。本来、なにかものを生み出すとき、あるいはワープさせるときには必ず魔力が必要なの。魔力も何もない状況からそれらをするなんて魔法の領域よ。衛宮くん、それ解析できる?」
「あっ、ああ。わかった『
「どうしたの、衛宮くん。もしかして衛宮くんでも解析できないようなものなのかしら?」
「いや、まあ、うん。一応できたけど……藤丸、これの刃渡りは何センチぐらいだ?」
「そんなの見れば……あれ?」
おかしい、よくわからないと藤丸は思った。短刀のように見えることもあれば、物干し竿のように長く見えることもある。いや
「────」
「どうした?衛宮に遠坂」
「───やっぱりか。今、お前が見ている間その刀は様々な形に変化していた。それはお前の認識の一部、お前があると認識したから存在し得る無銘の刀だ」
─────
ベッドに横たわりながらさっきの話を思い出す。あの時は自分の魔術の一環だと誤魔化したが、実際のところこれが贈り物であることは明白だ。「」は確かにこういう贈り物をしそうだと思う。「」?まるで記憶がもとより存在しなかったかのように何も思い出せない。思い出せないのに魂が覚えているのがわかる。記憶だけがすっかりとこぼれ落ちて、ただ曖昧な感情だけが残っていた。
flag list
『衛宮士郎』
若き頃のアーチャー。やはり料理が美味かった。
『遠坂凛 1』
イシュタル、エレキシュガルの依代となった少女。宝石好きは似ているみたいだ。
『刀 1』
私からの贈り物気に入ってくれたかしら?
男の子って、こういった変形する武器や、日本刀とか好きよね?