格納庫である地下倉庫から飛び出した俺が最初に目にしたのは、谷の住人が育てた畑に、無作法に着陸しようとするトルメキアの強襲艇だった。
「いくら軍国だからといって…戦う力を持ってることが、そんなに偉いのかよ!!」
スロットルを全開に開放すると、機体を支えるスラスターから青い燐光が光った。操る機体は、事の行く末を見守るしかない谷の住人の頭上を越えて、着陸しようとする強襲艇へ迫る。
「上昇しろよ!!」
驚愕したパイロットと目があったような気がした。俺の機体に驚いた敵機は、着陸を諦めて迫る俺から逃げようと上昇し始める。
好都合だ。手に携えたままのビーム兵器を再び起動し、俺は上昇した敵機の真下を潜る。
「羽さえ切れば!」
すれ違いざまに、強襲艇の尾翼の先を切り落とす。姿勢は不安定になったが、墜落はしないように加減した。無様に墜落され、谷の住人に被害を出すわけにもいかないし、何より住人の前で俺は「人殺し」をするつもりはなかった。
サブモニターで、強襲艇が谷の尾根に不時着したのを確認して、俺は機体を一気に上昇させる。一千年前と違う大気に、機体がちゃんと飛んでくれるかという不安はあったが、それを吹き飛ばすように、機体は一千年振りの空を勇ましく舞い上がって行く。
様子を伺っていたいくつものトルメキア船が、旋回飛行をやめる。とんぼのような機体の腹部に幾つもある機銃が、人の手によって動かされてるのが見えた。
「銃口!!」
機体を鋭角に旋回させた瞬間、トルメキアの船が針山のような対空砲を放ち始めた。弾頭がセラミック製ということはわかっている。迂闊に当たれば、いくら機体が頑丈とは言え、ただでは済まないだろう。
しかし、トルメキアの船が俺の機体を捉えることはなかった。
とんぼのような形をした船と、人型の機動兵器。その機動力と旋回性能は根本的に異なる。弾幕を回避して、トルメキアの船の頭上に抜けた瞬間、足のスラスターを吹かして、その場で急旋回。
トルメキアの軍人たちから見れば、頭上へ舞い上がっていこうとした敵機が、自分たちの真上でぴったりと急停止したようにしか、見えなかった。
「ここは、戦争をする場所じゃないだろ!!」
対空砲の砲先と、先ほどの強襲艇と同じように尾翼の先端を切り裂く。機体制御がうまく効かなくなったトルメキアの船は、風の谷とはまったく違う方向へよろよろと降下していった。
それを見送ることもせずに、俺は次の目標へ迫る。接敵し、撹乱し、急旋回。そして武力を奪い、翼を切り裂く。無理やり風の谷へ降りようとした船は、より責め立て、尾根に不時着した強襲艇と同じ末路を辿ってもらった。
トルメキアの軍勢が半数に達したとき、一機のトルメキア船が俺の機体めがけて飛んできた。
「こいつだけ、動きが違う…!」
無駄に対空砲を打たずに、セラミック製の骨格を有する機体で、体当たりしようと近づいてくるように見えた。
ギリギリのところで回避すれば、敵は旋回しながら的確に対空砲を放ってくる。避けて近づこうものなら、体当たり覚悟で接近。
半数の両機を落とされるのを見ながら、学習したのか?あまりにも嫌らしい戦術を行ってくる。
しかし、それは相手が「敵は近づかなければ攻撃してこない」と錯覚しているからだ。
俺は機体の腰に懸架された武器を選択する。地球の向こう側から打ってくる巨神兵のビーム兵器には劣るが、射程距離は十分に保っている。
ライフルのような銃身、その銃口を構えると、長年の眠りから覚めたビーム砲は、ホコリなどのチリから成る煙を上げて、光源を収縮させてゆく。
あとは尾翼をかすめる程度に。ターゲットアイコンが、ヘルメットのガラスに映り込む。そこで、俺の中で、一千年前の記憶が蘇った。
ビームで穿たれた敵と味方。無差別に人を焼き殺す業火。そして、地球を包んだ虹色の翼。
「俺に…俺にーー」
向かってくるトルメキアの船に、俺は形容しがたい怒りを感じた。なぜ、風の谷の人々のように、優しさを信じて、すべてを許して、慈しむように、分かち合って、わかり合って、生きることができないのか。
この世界で、争おうとする全てに怒るような、大きな怒りを。
「俺にライフルを…使わせるなーっ!!」
収縮した光弾は、トルメキア船の尾翼を掠めて、谷の尾根に着弾する。
その光景に、誰もが戦慄した。
セラミック製の弾丸では起こらない、誰もが目撃したことのない光。
それを見たというのに、トルメキアの船は戦いをやめなかった。有効な攻撃を魅せた船に習って、次々と接近していくが、ライフルを解放した俺にとって、その戦術は無容易に近づいてくる的に過ぎなかった。
「俺にライフルを使わせると、みんなで死ぬぞって言ってるんだぞ!!」
立ち向かってくる軍勢にライフルの銃口を向けた瞬間。
『全軍、聞け!!!』
拡張音声が大空に響き渡った。
『クシャナの名の下に、トルメキア全軍の戦闘を停止させる!!全軍、戦闘を辞めよ!!』