誤字修正、げんまいちゃーはん様、名無しの通りすがり様、佐藤東沙様ありがとうございます
涼宮ハルヒ
side.H 一人語り
自分がどれだけちっぽけな存在なのかを知ったのは小学校6年の時だった。
全然興味がなかった野球を家族で見に行って、スタジアムの中を埋め尽くす人の姿を見て。まるで日本中の人間がここに居るんだとすら思う光景に驚いて、でもそれが日本の総人口のたった数千分の一でしかないと知って。
それまで自分はどこか特別な存在で、自分の周りは世界で一番面白いとばかり思っていた。それが幻想だと。自分が面白い、楽しいと思っていたものが、実はどこにでもあるありふれた存在だとしった時、私の中で世界は色を失った。
それまで楽しくて、面白いと感じたなにもかもがつまらなくて退屈な事だと気付かされてしまった。
「ほらそこ、歪んでるわよ!」
「へいへい」
そして、それだけ多くの人が居るなら中にはちっとも普通じゃない生活を送っている人が居て、でもそれは私ではないということにも気づいてしまった。
だから、私は中学生になってから変わった。これまでのつまらない人生を塗り替えるには待っていては駄目なんだ。自分から動かないといけないんだって。
「こぉらー! サボるな!」
「分かってるよ」
疲れたように肩で息を吐き、汗を拭う青年に声をあげる。青年は面倒くさそうに返事を返すと、再び線引きでグラウンドに模様を描く作業に戻った。
わたしはここにいる
どこかの遠い星の誰かが使う文字。そう頭の中で思い描いたそれを校庭に描くだけの作業。校舎の傍からグラウンドを見下ろして指示を出し、それに青年が答えるのを繰り返して、おおよそ数時間繰り返してそれは完成した。
完成した文字を眺めながら空を見る。光る星星の彼方から誰かがこれを見つけてやってきてくれることを願いながら、空を見る。
そんなわけがないんだと分かっていても、分かっているからこそ、願いを込めて空を見る。
「それ、北高の制服よね。あんた名前は?」
「ジョン・スミス」
「バカじゃないの?」
暇をしていたらしい青年と軽口を叩き合いながら、描かれたメッセージを眺める。光りだすとかいきなり空中に文字が浮かび上がるということもなく、白いチョークで描かれただけのメッセージ。
なにかが変わると思って行ったそれは、けれど相も変わらず平凡なままで。落胆をため息で押し流す。
「あの娘はだれ?」
その落胆を押し隠すように会話を投げかける。深夜の学校前で同級生らしき女を背負って歩く男。怪しい。少しだけ興味をひかれて彼に声をかけて作業を手伝わせてみたが、これがまぁなんともしっくりと来る。少し足りない所もあるが、まるで誰かに無茶振りを投げられ続けて慣らされているかのように自分の指示に従う姿に『やっぱり怪しい』という疑念がむくむくと湧き上がってくる。
もう少し会話をしてもいいかもしれない。このまま家に帰るよりは、多少非日常を味わえるかもしれない。
そんな思惑とともに投げかけた言葉の、けれど求めていた返事は来なかった。
「……ちょっと、返事くらい」
イラッとして、それを咎めようとグラウンドから視線を外し、彼が座っていた場所に目を向ける。苦言の一つでも言ってやろうと口を開き、そして。
私は言葉を続けることが出来なかった。
「し…………なん…………」
視線を向けたその場所には誰も居なかった。先程まで確かに存在していた彼は、どこにも姿が見えなくなっていた。
「……へっ……………?」
周辺を見回す。どこにも居ない。それどころか校舎に背を預けて寝ていた女の姿もない。
間違いなく、つい数秒前までそこに居たというのに、彼らは、彼らの痕跡は影も形もない。
「うそ」
ドクン、と胸が跳ねる音がする。今までのやり取りが夢だったのか、今の今まで自分は夢遊病のようにさすらって、校舎について目が覚めたのだとすら思った。だが、彼が線を引いたグラウンドのメッセージはそのまま、特に光りもせずに自己を主張している。
やがてゆっくりと、体に染み渡るようにその事実が浸透してくる。
自分は、今、非日常の扉へと手をかけた。
その実感にガクガクと足を震わせる恐怖と、パニックになりそうな心と、そして少しだけ、心の奥底で感じた喜びを胸に私は家へと走った。
逃げ去るように夜の道を。脇目もふらずに。メッセージだけを残して。
――それからの日々は、退屈であった。いや、退屈ではあるが退屈ではない日々というべきだろうか。矛盾しているようだが、そんな日々を私は送っていた。
あれから私の身に何かが起こるということはなかった。学校も家も退屈で、退屈なまま私を日常に引き留めようとしてきた。ああ、周囲はそれほど退屈ではなかったかもしれない。中学3年になった時、転校生として学校に現れた有希と涼子、それに古泉くんは非日常の存在ではないけれど、今まで周囲に居たぼんくらとは明らかに違う存在だった。
確証はないけれど、彼女たちと彼は普通ではない。非日常にふれたことのある先達として、それがはっきりと理解できた。
彼らの存在と、そしてあるライフワークが私の退屈を紛らわせてくれた。ジョン・スミスと彼の連れていた女の捜索だ。
あれから何度も私は北高を調べた。在学生よりも在学生について詳しくなるかもしれないくらいに調べ上げた。私の頭にある情報は北校の生徒であることと、背格好と雰囲気、それにジョンの声しかなかったが、それだけあれば十分すぎると私は思っていた。
新しく出来た友人たちに協力を仰ぎ、北高に在籍する生徒をリストアップし、これはという生徒に話しかける。それを何度も繰り返して、全ての生徒を調査し終えてもジョンは見つからなかった。
卒業生なのか、とそちらにも捜索の手を伸ばしてみたが、そちらも調べられる範囲では該当する人物は居ない。
手詰まり感に苛まれながらも、私の心にはかつてのようなイライラはなかった。ただ目の前にある巨大な謎にどう着手するべきか、ワクワクと胸を焦がしながら、私は中学3年間を終えて北高へ進学する事を決めた。
そして、北高での初めてクラスの顔合わせの時間。
目の前に座るぼんやりとした顔立ちの男が立ち上がり、必要最低限な自己紹介を口に出し始めた瞬間に、その声を耳にした瞬間に私は確信した。
私の"普通の人生”は今、終わりを告げたのだと。
「キョンと呼ばれたことはあるがジョンなんて名前で名乗った覚えはないぞ」
「キョン? 変な名前ね」
「そっちも自分で名乗った覚えはないがな。親戚の叔母さんがあだ名を人につけるのが好きな人で、気づいたらそれが周囲に浸透している恐怖がお前に分かるか?」
「わかんない」
「だろうな」
頬杖を突き、目の前に立つ私を見上げるようにしながらそう口にする彼の仕草に、声音に既視感を覚えながら会話を進めていく。3年もの間探していた男は、私の予想に反してごくごく平凡な風体の男だった。
突飛な髪型をしているわけでも身の丈3mに届こうかという大男というわけでもはたまた会話の語尾にザウルスとつけるようなけったいな話し方をしているわけでもない。ごくごく普通の日本人らしい背格好をした男子高校生で、随分と捻くれたモノの言い方をするが飛び抜けて個性的というわけでもない。
だからこそ、彼の存在は強い謎の気配を纏っている。どこからどうみてもただの男子高校生にしか見えないのに、私の知る彼と。
ジョンと名乗ったことはないという彼の出身中の人間から話を聞き、どこにツテがあるのか古泉くんが入手してきた彼の世代のアルバムを見てみると、3年前、まだ中学1年の頃の彼の背格好は今よりも頭一つは小さな物だった。3年前に見たシルエット姿のジョンよりも明らかに小さな姿だ。
つまり、3年前に出会ったジョンと彼が同一人物であるわけがない。あるわけがないのだが、私の直感は彼とジョンが同一人物だと確信を持っている。
明らかな矛盾だ。けれど、私の心はその矛盾を否定するのではなく、なぜそうなったのかという疑問でいっぱいだった。
私は彼と友人たちを誘って部活を立ち上げた。ジョンは見つけたが彼から謎を解明するにはまだまだピースが足りないように感じる。
そう、私たちは今大きな謎で構成された館の、扉の前に立っているのだ。ジョンという鍵を手に入れ、そこに鍵を差し込むことは出来た。けれど扉を開くためのドアノブが壊れている。入り口を開くためにはナニかが足りない。
おそらくはあの女が、それだ。ジョンは見つかった。だが、彼がおぶっていた姉と呼ばれていた女が見当たらない。
「隣のクラスに、入学してから一度も登校していない留年生が居るらしいわ」
「へぇ、そいつぁ気合の入った不登校だな。で、その先輩がどうした」
「怪しいのよね。一度も登校しないような引きこもりなら在籍したまま留年なんておかしいじゃない。学費だってただじゃないんだから。私の第六感がビンビンと疼くのよ、間違いなくこの不登校の留年生にはなにか大きな秘密が隠されていて、そして美人で巨乳よ」
「お前の第六感についてとやかく言わんが、最後の一言で信憑性がガタ落ちしたぞ」
「職員室から持ってきた名簿の写真で確認したから間違いないわよ」
「……それを見たりは……出来ない。はい」
キョンとの軽口の応酬が好きだった。グラウンドでヒーコラ言いながら線引きを行っていた彼と交わした十数分、その時を思い出すのもあるが、それ以上に彼との気安い関係を気に入っている自分が居る。
初めての感覚だった。
「今日の放課後は駅前の金鰲島で集合よ! 遅れたら罰金なんだから」
「へぇへぇ分かりましたよ団長様。しかしお前、やたらとあの喫茶店好きだな。店長と仲が良いからか?」
「中学の頃から世話になってるのよ」
異性とのやり取り。くだらないと思っていたそれが。中学三年間で切り捨てたはずの日常的なやり取りが、何故かたまらなく楽しい。
自分が、致命的な間違いを犯していることに気付かなかったこの頃が。
もしかしたら、私の人生で一番幸せな時期だったのかもしれない。
「今思い返してみるととんだクソガキよねぇ私」
「ノーコメント」
軽口が砂と岩に覆われた荒野に響き渡る。何もない空間が揺らめいたかと思うと、その空間にはいつの間にか二人の少女の姿があった。
学生服のような衣装を纏った黒髪の少女は、ブルーグレーの髪を持つ少女のつれない返答に唇を尖らせながら目前にある巨大な建造物を見る。岩山に覆われた城とも言うべきそれを無感情に眺めた後、彼女は無言のまま再度空間を揺らめかせてその姿を消す。
あからさまに不機嫌な上司の様子に小さなため息をつきそうになり、ため息をつくなどという人類じみた行為を自分が行おうとしていた事実に少しの驚きを覚えながら、もう一人の少女は空中に現れた画面のようなものを軽く手で操作した後、先程の少女と同じように空間を揺らめかせて姿を消した。
side.N あるいは現在
「悪いが、交渉が決裂したら死ぬ。いや、下手すると死ぬことすらできない状況に陥るかもしれない。その覚悟はしておいてほしい」
安心院なじみの言葉に、彼女に随伴する二人は無言で返した。
彼らにとって命をかけるべき対象はその主である女神アテナだけだ。ただ、そのアテナ自身から出来うる限り彼女に協力するよう言いつかっている。この矛盾を解消するために、一輝が先に口を開いた。
「俺たち聖闘士はアテナのため、地球の為に命をかける」
「だったら安心だね。飛び火すれば君たちの主だって危ないかもしれない」
相手は神だ。全能に限りなく近い。なじみはそう口にして、石畳を歩いていく。
情報を伝えてくれたのは八雲紫だった。
昨日一杯、キャットファイトをしたと語る推定年齢〇〇〇〇歳はボロボロになった体でなじみの元を訪れた。涼宮ハルヒがカチ込んでくるぞ、と。あれ。僕、彼女になにかしたっけといつもの遊びのノリかと思って尋ねると、八雲紫の口からとんでもない厄ネタが飛び出してきた。
よりにもよって蘇妲己を匿っているバカが、このエリア群に居るのだ、と。
確かに以前から目撃情報はあった。上層部では情報共有もしていたし捜索もされていた。なかなか尻尾を掴ませないなとジレ気味だったくらいだ。
それがまさか。まさかまさか、そこそこの要人が匿っているなんて話が出てきたのだ。
「ヤバいんだよ。妲己は」
本人の危険性も無論ある。なにせタイヨウ系エリア群はあの女の策謀で、もう一歩で転覆するという所まで追い込まれたのだ。BETAの襲来と重なったという不運を加味しても、その功績は悍ましいものだ。
だが、それよりもなによりもヤバイ点がある。
「妲己が相手じゃハルヒは自制が利かなくなるんだ」
蘇妲己は涼宮ハルヒにとって特大の地雷であるのだ。見つけ次第殺しに来るほどに。あの全能にほど近い、間違いなく超越者の一柱たる女が、我を忘れて襲い掛かる相手なのだ。
もし仮にハルヒの状況が想定の中で一番悪い状態――暴走している場合は主役級聖闘士二人という主人公力の高い男たちを引き連れていても勝負にならない。神と戦った事がある。ただそのバックボーンだけを頼りに彼らを借り受けたが、それでもコンマ数秒、自分に向ける注意を逸らしてくれるかどうか。そしてそのコンマ数秒で必死の抵抗を行って引き分けに持ち込めるかどうかだろう。
懐の中にしまい込んだ、厳重に密閉されたソレを解放すれば、間違いなくハルヒを止めることが出来るがそれは自らの終焉をも意味する。使いたくない。絶対に使いたくないが、背に腹は代えられない。
代表なんて止めてしまいたい。誰か適当な奴に押し付けられないだろうか。そんなひどく後ろ向きで魅力的な考えを引きずりながら、なじみはその岩城の主の前へと空間を渡ってたどり着いた。
「でね、その喫茶店の店長がやたらとエロくて物知りだなぁ、って思ってたんだけどさ。そいつ妲己だったのよね」
「ほう。女狐がなぁ」
「まぁその時、私ただの小娘だったから。コロッと騙されちゃったわ」
あれ。めっちゃ談笑してるな?
予想とは全然違った光景に、なじみは声を失った。
side.H 一人語り
妲己は上手かった。そう、上手かったというべきだろう。
私という存在に気付いた妲己は、私に取り入った。誘惑ではなく、私自身の心に入り込もうとしたのだ。もしも誘惑をされていたならもっと早く、致命傷になるまえに太公望さんなり誰かが気付いていただろう。でも、彼女は仙人としての力ではなく自身の話術と魅力で私を篭絡しようとしたのだ。
彼女は魅力的で、蠱惑的だった。ただの小娘だった私は当時、あの女を姉とすら思って慕っていたのだ。まんまとそれに絡めとられた私は、百戦錬磨の仙女によってどんどん丸裸にされた。
彼女は私に不思議への道筋を与えた。彼女は私に教えを与えた。彼女は私が知りたい事、教わりたい事を少しずつ、根気よく教えてくれた。周囲に気付かれることなく、ただのオカルトに詳しい喫茶店のマスターという皮を演じきった。
少しずつ私の自我を肥大化させ。私を周囲から少しずつ切り離し。最後の1ピースは、私自身の手で行わせて、私を壊そうとした。
壊したというのは語弊がある。私は一度、壊れたのだ。
私を止めようとしたキョンを私自身に害させる事によって。
「あいつの狙いは、私だった。正確に言えば私の神としての力。やろうとすれば全知全能になれるコレを、あいつは欲してた」
「ああ。あやつ自身の口から聴いた」
「やっぱここにいたんだ。あいつ今どこ?」
「逃げたよ。3日ほど前にな」
「私がここにいるって聞く前じゃん。どうなってんのかしらね、あいつの危機感知能力」
ハー、と息を吐く。溜めに溜めていた胸の内の暗い感情が、息と一緒に霧散していくのを感じる。これで何度目の空振りか分からない。それくらいにアイツの逃げ足は、速い。
「で、なじみ。なにアンタ、私を止めに来たの?」
「状況にもよるって所かな。正直今、ほっとしてる」
「あっそ。迷惑かけたわね、今度スタバ奢るから勘弁して?」
「やっすいなぁ命の危機」
「あんたもその危険物、絶対に外に出さないでよ」
「オーケー。あ、抜作先生、出番じゃないんで。出てこなくていいですよ?」
紫さんにも頭を下げないといけないし未遂で終わったのだからそこは許してほしい所だ。なにせ、こちとらお小遣い制である。
タイヨウ系で一番偉い筈の私がお小遣い制だというのはおかしいかもしれないが、うちの大蔵大臣には私も頭が上がらないのだ。あの男は未だに1年前のまだ学生だった頃の感性が生きていて、変に私が金を持つことを警戒している節がある。
まぁ、私も頭が上がらない今の環境を、楽しんでいる節があるから。文句はそんなにないけれど。
『俺は! ポニーテールが! 大好きなんだよぉ!』
なっさけない顔で飛び込んできて、そう叫んだ彼の顔が今でも頭に浮かぶ。妲己に操られていた頃の記憶はどれも最低最悪だが、最後の最後。あの瞬間、飛び込んできたキョンの顔と叫び声だけは、一等大切な自分だけの記憶だ。
死ぬかもしれなかったのに。高確率で無駄にするかもしれなかったのに、彼は私の手を取り、唇にキスをした。
その瞬間、神である涼宮ハルヒは死に、人間涼宮ハルヒが生き返ったのだ。
「あー。キョンの顔見たくなったし帰るわ」
「うん。早く帰って?」
「じゃ、またねなじみ。明日は駅前のスタバに集合よ」
「どこのだよ!」
瞼に映るやる気のない男の、ほのかな笑顔を思い浮かべて、涼宮ハルヒは嫌そうな顔を浮かべる安心院なじみに笑って手を振った。
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厄介な友人を見送り、安心院なじみは深く、ふかぁくため息をつく。もしも彼女がSNS沼にハマっていたらもうつらたん。リスカしよ、と呟く位には疲れていた。だが、彼女は一応、望んではないけれど、仮としてこのエリア群の代表者に名を連ねている。
借りた人員も無事に返せそうだし、その点は満足のいく結果であるけれども。ケジメは、つけなければいけない。
「で。どういうつもりですかバーン様? 事と次第によってはちょっと大きな問題になったんだけどね?」
「ふふ。そうめくじらを立てるな。涼宮ハルヒはなにも起こさず帰った。結果はそれで終わりであろう?」
「それで済む話じゃないのも分かってますよね?」
この城――鬼岩城の主である大魔王バーンは、くつくつと笑って目の前で気を吐く二人の人間と、一人の人外に視線を向ける。
ただそれだけで聖闘士二人はぞわりと背筋を上る悪寒に身を震わせた。先ほどの少女とはまた別ベクトルでこれは人の域を超えている。そう確信させる力を、目の前の老魔王は有している。かつて挑んだ神に伍する存在であると認識して、二人の戦士は意識を切り替えた。
そんな人間の様子を興味深そうに見た後、大魔王バーンは首を小さく横に振る。過ぎた話なのだ。彼にとって。
「空に」
だから、バーンは口を開いた。直接涼宮ハルヒを見て、バーンは目論見を一つ、完全に諦めたのだ。だから、これはもう彼にとって終わった出来事である。
「空に浮かぶ偽りの太陽。あれをな、消したかったのよ」
女狐はかつて彼に語った。全知全能へ手が届く可能性があると。故に彼は彼女へ幾らかの支援を行った。いわば投資のようなものだ。投資した結果は十分とは言えないが返ってきた。彼にとってはもう、この顛末はそういった過去の出来事になっている。
「余が求めた
だから口から出た言葉に熱はなく。ただただ、にじみ出る憎悪だけを乗せて。
大魔王バーンは天に伸ばした手を、なにかを潰すように握り締めた。
side.K あるいは過去の蛇足
その光景を、蘇妲己は見つめていた。
自らの手がちょっと力を籠めれば、この手の中に居る人間は簡単に死んでしまうだろう。非力な、仙人骨すら持たないただの人。ちょっと医学の知識を持つだけの小人。この1年、名前を聞くたびにそう思っていた。
つい今しがた。自身の企みが、乾坤一擲の策がひっくり返される瞬間を目にするまでは。
「あの人間は」
ギリッと唇を噛みしめ、言葉を絞り出す。長き時を生きた。数多くの人を誑かし、数多くの人を殺し、数多くの人を己が糧としてきた。人だけではない。仙人や道士、同胞たる妖怪仙人たちですらも己にとっては糧であり利用するための駒であった。
男を吊り上げる右手に力がこもる。弾みで殺してしまいそうな自分自身を必死で抑えながら、妲己は言葉を続けた。確認するように、事実を述べて目の前の現実が変わる事を望むように。
まぁ。つまりは。
「あの小僧は死んだはずよぉん。わらわが命じて、涼宮ハルヒが手を下した。わらわはそれをこの目で見たわぁん。間違いなく、確実に」
「ならばその目が節穴だったというだけじゃよ」
妲己の言葉に被せるように、男の声が響いた。妲己は咄嗟に手を放して男から距離を取ると、一瞬前に居た場所を一陣の風が吹き飛ばす。聞き覚えのある声。忘れた事などない声に、妲己はやはりと心の中で独り言ちる。出し抜いたと思っていた。この男をチキュウエリアにくぎ付けに出来ていたと思っていたのに。
悔しいという感情と、それ以上に安堵すら覚えて妲己はその名を口にする。
「お久しぶりねぇん。太公望ちゃぁん」
「久しいの、妲己。直接顔を合わせるのは半年ぶりか」
「貴方が来る前に決着を付けたかったんだけれどぉん。間に合わなかったみたいねぇん」
妲己と太公望の知恵比べは。中華という小さな大地から融合世界という大きな舞台へと移り変わった闘いの一幕は、今回は妲己の負けだろう。いくつか読み違えた点もあるが、最後の最後でひっくり返されるまでは自身が優勢であった。そう。最後の鬼手さえなければ、このまま勝ち切れたのだが。
「いいや。間に合っておったよ」
「…………?」
そう。妲己の中では、これは自分と太公望との戦いであった。駒を並べ、互いの駒をつぶし合い、時には奪いながら陣を取り合う戦争遊戯。もちろん幾つかの目的はあれど、妲己の中では戦う相手は太公望であったのだ。
「わしはこのエリアではなーんもしとらんからな。このエリアの事はこのエリアの人間に任せて、ようやくここに来れたら目の前にお前がおった。それだけじゃよ」
信長のじーさん、よぉやってくれたのぉ。そうケラケラと笑う太公望の言葉が、妲己には理解できなかった。これほどの規模の知恵比べを人任せにしたと。
だから、読み違えたのだ。キャスティングボードを握る相手が移り変わっていることに、気づかなかったのだ。彼女にとっては駒の一つである程度の認識の存在が、いつのまにか盤の向こう側に座っていたことに。
そしてなによりも。
「……キョンくんは死んではいなかった。涼宮さんなりの最後の抵抗だろうな。液状の、ゲルのような状態であっても彼の魂と命は確かにあそこに存在した」
目の前に居る、彼女が取るに足らないと切って捨てた男が。キャスティングボードをひっくり返しうる鬼手の一つだという事に、最後まで気付かなかったことが。
「生きているなら、治せる。だから、治した」
燃えるような瞳で彼女を見る人間に気付かなかったことが。
「だから、お前は人間に負けたんだよ。蘇妲己。人間の想いを軽く見すぎたんだ、お前は」
それが彼女が、人間に敗れた最大の原因であろうか。
「お前は」
自分の声が震えていることに気付きながら、妲己は言葉を続ける。
「貴方は、だれ?」
「間黒夫。ただの人間で、ただの医者で、ブラック・ジャックの偽物だ」
そして、自分の名前を口にした後に彼は妲己を指さしこう告げた。
「どうせこの場から逃げる手段も用意してるんだろう。だから事前に言っておくし気が向いたらでいい」
「これから先、防衛機構管理内の世界にお前の居場所はない。当然お前は外に出るだろう。そこでお前はこの俺と似たような男に出会うかもしれない。その人はきっと、俺などよりもはるかに素晴らしい、神のような腕前の持ち主だ」
「もしもその人に出会ったら伝えておいてくれ」
「
久しぶりすぎてSide使いとしての腕が落ちた気がする
落ち着いたら手直し入るかもしれません
涼宮ハルヒ:出展・涼宮ハルヒの憂鬱
慕ってたのは事実だからこそ殺意が強い
長門有希:出展・涼宮ハルヒの憂鬱
今回空気に徹してた。ハルヒのゴーサインが出たら取り合えず2,3個エリアを潰す計画は用意してたので一安心。陰で殺気を飛ばしてきた一輝の右手を凍らせて因縁を作ってる
安心院なじみ:出展・めだかボックス
汚染されるとしばらく(ギャグ時空から)帰ってこれなくなる最終兵器:抜作先生は使わずに済んだので一安心
ペガサス聖也:出展・聖闘士星矢
場合によっては複数の世界が消滅する危機だと聞いていたので何事もなく終わって一安心。拍子抜けしてた所にバーン様の狂気に触れた。こいつこそ倒すべき悪なのでは?と疑問に思っている。だいたい正しい。
フェニックス一輝:出展・聖闘士星矢
聖也と同じ理由で安心院なじみの護衛についていたが聖也よりもうちょっと好戦的。手持無沙汰だったため相手の副官らしき女に殺気を飛ばしたら右手を凍らされた。フェニックスポイント上昇。
バーン様:出展・ダイの大冒険
まがい物の天なぞに興味はない。本物を隠した存在がいると考えているためそれを知り得るハルヒの神の力を欲していたが、手に入らないなら別の手段を模索するだけ。妲己にモンスターなどを提供していた
蘇妲己:出展・封神演義
ふんだりけったり。99%勝てる勝負で1%を引いたギャンブラー
太公望:出展・封神演義
本人の言う通りマジでなにもしてないうちに勝手にカセイエリアが独力で妲己を凹ましたのを見てああ、自分がいなくても大丈夫だな、と引退を決意。以降は身軽な立場で妲己の策略を防いだり遊んだりしてる。ちょうどいい変わりも生まれたからね……