孤高の一夏   作:アーチャー 双剣使い

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第8話

強さとなんだろうか

 

 

それは純粋な力だけでは、揺らいでしまう

 

それは極めた技だけでは、曲がってしまう

 

それは純真な心だけでは、折れてしまう

 

 

故に総てを勝ち取らなければならない

 


 

その日も授業が終わり、放課後の鍛錬をする為に教室を出よう席を立つ。

すると、竹刀袋を背負った篠ノ之がずかずかと歩いてきて、怒鳴り気味に話しかけてきた。

 

「一夏、道場に来い!剣の腕が鈍っていないか確かめてやる」

 

そう一方的に捲くしたててくる篠ノ之に呆れる。こないだ格の違いを見せたはずなのだがな。

そんなことに構うものかと教室を出ようとする。

 

しかし、篠ノ之の声が大きかったのもあり、クラスにいた生徒や廊下を歩いてた生徒達に俺と篠ノ之が勝負すると広まってしまったようだ。ここで断ると俺を好ましく思っていない奴らに餌を与えることになる。

 

現にそんな悪意の籠った視線が数多の視線の中に混じっているのを感じる。オルコットと戦うことが決まっている中で俺が篠ノ之との勝負から逃げたなどと騒がれる方が最終的に面倒になると考え、勝負を受けることにした。

 

「分かった。その勝負を受けてやるよ」

「ふん。ならさっさとついて来い」

 

そういって手を掴もうとする篠ノ之の手を避け、条件を出す。

 

「受けてやるが、一つ条件だ。俺が勝ったら、もう一生俺に関わるな。納得できないなら、お前が勝ったら一つだけ言うことを聞いてやろう」

「…いいだろう。その言葉を忘れるなよ」

 

自信に満ちた顔をして篠ノ之は了承した。余程剣道(・・)の腕に自信があるらしい。舐められたものだと思いながら、篠ノ之が道場に向かったのでそれに着いていった。

 

 

 

道場は篠ノ之が許可を取ってるはずもなかったので、俺が剣道部の主将に頼み込む事になったりと問題はあったが、使用許可を得た。簡単に許可を貰えたのは篠ノ之が剣道界で強いと有名であり、尚且つ俺が学園で唯一の男子であり、剣一本で〈世界最強〉の座に登り詰めた姉の弟だかららしい。

 

 

道場に着き、試合の用意を始める篠ノ之は嬉しそうに語りかけてくる。

 

「久しぶりだな、こうやって二人で剣道場で試合をするのは。」

「どうでもいいさ、そんなこと。それと嬉しそうにしているが、約束を忘れるなよ」

 

篠ノ之はあからさまに不機嫌な顔をする。いったい何を考えているのだろうか。望む返事が返ってくるわけないだろうに。

 

「それがどうした。私が勝てばよいのだ。それより、お前に合う防具はあるのだろうか?」

「別にいらん。竹刀さえあればいい」

「何を言っている?防具を着けずに試合をするなどと可笑しなことを言う」

 

篠ノ之は眉間に皺を寄せて疑問を浮かべる。それに嘲笑を浮かべて返す。

 

「一つ言う。俺はお前が居なくなってから打ち込んだのは剣道じゃない、剣術だ」

「なんだと!篠ノ之流剣術はどうした?」

「あれは剣術と言っても剣道という、スポーツに向いているものだ。俺が使うのは実戦に特化したものだ」

 

正面を見ると顔を真っ赤にして怒っていた。

 

「そんな邪剣に走るとは、その腐り果てた性根を叩き直してやる!」

 

 

そう宣言した篠ノ之は防具を着て竹刀を構えた。

 

「怪我をしても知らんからな」

「当たらなければいいことだ。早く始めるぞ」

 

そこで審判を頼んだ剣道部の主将がルールを言う。

 

「今回は特別なルールで行います。相手が降参するか、先に技を深く当てれば勝利とします。それでは試合を始めます」

 

その言葉を聞き、竹刀の重さを確かめるように振るう。いつもより軽いから、そこも考慮せねばならないからだ。

 

「試合……開始!」

 

開始の合図とともに篠ノ之は素早く近づいてきて上段の構えをし、その一撃を振り下ろしてくるが体を捻って避ける。剣道の動きでは俺に勝てないと理解してないのだろう。

 

その後も攻撃を繋いで鋭い突きや横払いなどの攻撃をしてくるが、紙一重で避け、時には受け流す。

--相手の一撃が竹刀だというのに重い(・・)--

 

そんな俺の回避ばかりの戦い方に憤慨して篠ノ之は怒鳴った。

 

「貴様、逃げていないで正々堂々と戦え!」

「お前は…そこまでか。予想外だったな、残念だよ」

 

 

 

思っていたよりも手応えが無さすぎた。

 

おそらく、実力と技術は上達したのだろうが、心が成長していないからだ。

本当に強い者は『力』・『技術』・『心』を持っていると先生は言っていた。篠ノ之は『心』が欠けているから歪な存在になったのだろう。

 

 

昔はまあまあ強かった。だから俺はあの頃の篠ノ之との試合を基準に考えていたが、ここまで力量が離れているとは思わなかったのだ。

 

考えてみれば自然なことだ。今迄、俺は躓くことは無かった。

だが、躓いて立ち上がるものもいれば、躓いたまま転がり落ちるものもいる。

篠ノ之は後者だった、ただそれだけ。

 

 

次の攻撃のモーションに入った篠ノ之は突如5メートル程吹き飛ぶ。

 

「はあ?」

「何が起きたの?」

「なんで篠ノ之さんは吹き飛んだのよ」

 

その光景に驚く野次馬たちだが、流石は剣道部のトップなだけはある。辛うじて主将は俺の突きが見えたようだ。そう突きだ、ただの突きを当てただけ。

 

「っ、勝者、織斑一夏!」

 

主将は少し呆けていたが、直ぐに判定を下した。

 

 

俺はそのまま竹刀を預けて、ここを去ろうとするが、結果を受け入れられない者が一人。

 

その現実を許容できなかった者は後ろから俺に竹刀を振り下ろす。それを感で察知し、振り向きざまに刀身の側面に掌を当てて軌道をずらす。狙いが外れた剣先は木造の道場の床をへこませる。

 

完全に振り向くとそこには俯いて竹刀を手にした篠ノ之がいた。

 

 

顔を上げた篠ノ之の目は濁り淀んでいた。目が合った瞬間、下段からの斬り返しが至近距離で放たれた。周りから見たら目にも止まらぬ速さというのだろうが、俺には遅く感じる。先生の一太刀よりも軽く、鈍いからな。

 

危なげもなく回避すると、カウンターで回し蹴りを放ち、無防備な脇腹を攻撃する。怯んだところで預けた竹刀を掴み、鋭い突きを小手に食らわせて、竹刀を手放したのを確認する。

 

止めに腰を落とし、右手を弓を引くように構える。その次に左足を強く踏み込み、矢に見立てた右手を篠ノ之の鳩尾に当てる。当分は意識が戻らないだろうと確信し、篠ノ之の持っていた竹刀を調べる。

 

違和感の正体は竹刀に仕込まれた鉄心だった。これは鍛錬を行う時に使用する物だろう。どちらにしろ当てれば重傷を負わせる凶器の竹刀を主将に預け、謝罪を済ませるといつもの様に鍛錬に向かった。

 

 

 

 

あれから、篠ノ之は俺ともクラスメイトとも話さなくなった。ただ青ざめた顔で上の空な態度で日々を過ごしているようだ。ずっと、一人孤独に。

 

 

 

 

 

クラス代表を決める試合の当日の放課後になった。朝は快晴だったのだが、昼には雲が空を覆うように広がり始め、今にも雨が降りそうだ。

 

ピットには俺と簪と姉がいる。簪は機体調整の手伝いと私情によって此処にいる。それに姉が許可を出したからだ。

 

しかし、委員会の用意した機体がまだ届かない、試合開始時刻の十分前だというのに。

 

間に合わない時の為に用意された打鉄の状態を確認する。機体状態は良好、装備は刀剣〈葵〉を十本だけ。開始時間が五分を切った時に、山田先生が慌てて控室でもあるピットに入ってくる。

 

「お、織斑くん織斑くん織斑くん!」

 

慌てているようで、駆け足でピットに入って来たのだが転びそうになったのを俺は見逃さなかった。

 

「山田先生、とりあえず落ち着いてください」

「は、はい。もう大丈夫ですよ」

 

深呼吸をして息を直ぐに整える山田先生。

 

「それでですね。来ましたよ、織斑くんのIS!」

 

漸く届いたようだ。試合のギリギリ前になんて、納入するには遅すぎだろう。これで粗悪品だったら最悪だな。

 

「織斑、直ぐに準備しろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな。フォーマットとフィッティングは実戦でしろ」

 

滅茶苦茶な事を仰る。幾ら恨みを口にしても意味は無いのだから口を開こうとしたが閉じる。

 

 

ごごんっ、と鈍い音を立てながらピットの搬入口が開く。

その防壁扉の向こうには

 

『白』が、いた。

 

白。ただただ白いだけ。

 

嘘偽りのない潔白の白。

 

それを人は穢れなく美しいというのだろうが、俺にはどうしても無理やり白いペンキをぶちまけられただけに見えた。

 

本来の『色』を塗り潰され、『偽の色』を塗り固められているようだ。

 

泣いているようだった。何故かは分からないがそう感じた。

 

可哀想だと思った。この俺がだ。

 

 

無機質だが涙を流すそれは、俺に手を伸ばしているようだ。俺に何を求めているのだろうか?

 

 

山田先生の声で思考の海から浮上する。

 

「これが一応織斑くんの専用機になる『白式』です」

 

ずっと眺めている様にもいかないので、とりあえず装着して戦いに向かうとしよう。

そこに姉が指示を出してくる。

 

「さっさと装着しろ。そうだ、背中を預けるように。座る感じでな。後はシステムが最適化してくれるだろう」

 

不思議な感覚だった。例えるとすれば後ろから抱かれ包み込まれる感覚で、とてもあたたかった。

 

俺の体に合わせて装甲が閉じる。この一体感に首を振る。本当の姿ではないのだろう。

 

視界が変わる。360°を見渡せるようになったが気持ち悪いな。

そう思うと視界は前方だけに広がる、優秀だな。

 

「しっかりとハイパーセンサーも機能しているな。一夏、気分は悪くないか?」

 

本当に心配しているのだろう、いつもと声色が違う。笑顔を貼り付けて返す。

 

「大丈夫だよ、姉さん。行ってくるよ」

「そうか」

 

ほっとしたようだ、そこで装備一覧が開かれると、そこには近接ブレードしかない。眉を顰めながら簪に頼みを言う。

 

「簪。この機体には武器が剣一本しか積まれていないんだ。打鉄から葵を二振りほどこっちに入れてくれないか?」

「え?剣一本だけ?ふざけ過ぎでしょう。ちょっと見せてね」

 

そういって機体にケーブルを差し、空中投影ウィンドウを操作している。

 

「んー、でも空いている容量がもうないみたいだけど…… あれ、まぁここならいけるかな」

 

そう言って数十秒間操作すると、打鉄の方から送られてきたであろう葵がISの腰部に鞘に納められた状態で装備された。何故機体に直接なのだろうかと疑問に思い、簪に問う。

 

「どうして量子変換しないんだ?」

「そっちは空いてなかったから、機体の容量に空きを見つけたから無理やり突っ込んだんだよ」

 

そうか、と返してアリーナへのゲート前に立つ。時間ギリギリだ。オルコットはもう待機してるみたいだ。飛び出す前に簪に一言告げる。

 

「勝ってくるよ」

 

そして、ゲートを飛び出し、巨大なアリーナで待つオルコットの元に向かう。

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