プリペット通り4番地の住人、ダーズリー夫妻は「おかげさまで、私どもはどこから見てもまともな人間です」というのが自慢だった。
不思議とか神秘とかそんな非常識はまるっきり認めない人種で、まか不思議な出来事が彼らの周辺で起こるなんて、とうてい考えられなかった。
ずんぐりと肉付きの良いダーズリー氏の豊かな口ひげは穴あけドリルを製造する、グランニング社の社長としての威厳を示していた。奥さんのほうはやせた金髪で、普通の人の二倍ほどもある首は、ご近所を詮索するのに大変役立った。そんな二人の息子、ダドリーはまだ一歳になったかならないかの年だというのに、すでにその出来の良さは隠しのようもなかった。もちろん、この二人の親ばかに言わせればの話ではあるが。
とにかく、どこをとってもこの一家にはおかしなところはなかったし、絵に描いたように満ち足りた一家であることは言うまでもなかった。
しかし今日は様子が違った。
いつもきれいにそろえられているはずの芝生の上では新聞を持った一匹のトラ猫が待ちきれぬように二足で立っていったり来たりを繰り返し、行き交う人は「例のあの人が...」とか「息子のハリーが...」とかと、まだ夏の暑さの残るこの頃だと言うのに真っ黒なマントを着てヒソヒソと話しこんでいた。
勿論、世間一般の常識から外れることに関しては、妻と並んで誰よりも厳しいダーズリー氏がそんな異変に気づかないはずはなかった。
出勤しようと家を出ると自宅の芝生の上では猫が新聞を読み、空には午前9時だというにもかかわらずフクロウが飛び交っている。行き交う人々は、誰もが幸福そうな顔をして訳の分からない話をしている。
猫が新聞を読む時点で信じられない話だが、何より気になったは、マントを着た人々の言う「息子のハリー」の部分だ。確か妻の頭のおかしな妹の息子がそんな名前だった。この妹一家のことは、ご近所の誰にも知られてはならない。もし知られれば…きっと格好の噂話のネタになるだろう。これはダーズリー一家唯一の心配事で、この世で一番恐れているものだった。
いや、何かの間違いだろう。猫が新聞を読むなんてあり得ない。それに、ハリーだって、珍しい名前ではない。そもそも、その息子の名前がハリーだと言う確証もないのだ。第一、この暑いなか、あんな長いマントを羽織った頭のおかしい連中が自分にかかわっているはずはないじゃないか。
結局、夕方になって帰宅したときは猫もマントを羽織った人々も消えていたのでそのまま気にもとめず、眠りについた。
ふと、街頭のあかりが吸い込まれるように消えた。
長いマントを着た、背の高い、このどこまでもありふれたプリベット通りには不似合いな老人がどこからともなく現れた。百歳を超えているかもしれない。それほど年老いている。
老人が新聞を持ったトラ猫に近づいくと、次の瞬間、猫は厳格そうな女性の姿へと変わった。
「それで、皆の噂は本当なのですか?ダンブルドア」
老人を目にするなり、女性が聞いた。
「噂、とは?」
「『あの人』に関する噂ですよ!噂では…ポッター一家が狙いだった。とか…それで、その、リリーとジェームズが…あの二人が…死んだ…とか…。」
老人はうなだれ、女性は息をのんだ。
「ああ、なんてこと。信じられない!…信じたくなかった、ああ、アルバス…」
老人は手を伸ばし、女性の肩をたたきながら言った。
「分かる、よーくわかるよ…。」
沈痛な声だった。
「それで…もう一つの噂は…皆の話では、『あの人』が…消えた、とか。」
女性は声を震わせて言った。
「うむ…」
老人がうなずいた。
「それじゃ、いったいなぜ?二人はどうやって生き延びたと…?一歳になったばかりの幼い赤ん坊が…!」
「それは想像するしかないじゃろうな…。永遠にわからずじまいかもしれん。」
女性はハンカチで目頭を押さえ、老人は鼻をすすった。
低い、ゴロゴロ…という音があたりに響き渡った。
途端にとてつもなく大きなオートバイがプリベット通りに現れた。しかしオートバイもそれにまたがる男に比べたら、ずいぶんと小さい。何しろこの男ときたら背丈は普通の人の二倍、横幅は五倍ある。
女性は彼が大切そうに抱えている双子の赤ん坊を見て、目を見張った。
「まさか…、この二人をどうするおつもりで?まさか、ここの住人に預けるなんてことはございませんよね?」
女性が憤慨して老人を見やると、老人は言った。
「親戚がこのほかにおらんのじゃ。他にどうすればいいと?これが最善の方法じゃよ」
「ええ…。」
女性はまだ納得しきれない様子で頷いた。
大男は赤ん坊を抱えなおして老人に差し出すようにした。
「この額の傷は…。」
女性が男の赤ん坊を見ていった。
「一生消えることはないじゃろう。呪いによって受けた傷じゃ。」
老人がそう言って、男の赤ん坊を抱きよせ、つかつかとプリベット通り四番地の戸口の前に立った。双子の片割れである女の子を抱いた大男が後に続く。
「あの、お別れのキスをさせてはもらえないでしょうか?」
大男はそう言うと、あたりに響き渡る大声でオイオイと泣き出した。
「ッシ、マグル達を起こしてしまいますよ」
女性がすかさず注意した。
「す、すまねえ…」
大男はそういいながらもテーブルクロスほどの大きさもあるハンカチに顔をうずめた。」
「さて…」
丸々一分間そこに佇んだのち、老人は懐から手紙を取り出して赤ん坊の上にそっと置いた。
「必要なことはすべてこの手紙に書いてある…。二人が成長すれば、おじさんとおばさんがすれて話してくれよう。後ほどお会いしましょうぞ、マクゴナガル先生、ハグリッド。」
街灯の明かりが元に戻った。
「幸運を祈るよ、ハリー、ロニー。」
老人がそうつぶやくと、三人は跡形もなく消えていた。
二人は眠っている。
そうしている間にも、国中の人々が杯をあげこう叫んでいるというのに。
「ハリーポッターに乾杯!」
そんなことも知らず、二人は眠り続けている。
読んでくだっさって、ありがとうございます。
まだ主人公に自我が芽生える前…なのでかなり省略してはいますが原作通りの展開です。
もしも原作を読んだことがない方がおられたら、ぜひそちらも読んでみてください!
(01/15に原作を読み直したうえで、変更しました)