三章は、ロニー目線からです…。
「ロニー‼‼‼」
耳元で、弟のハリーの声がした。
ここ最近は、ずっと物置に閉じ込められていたので、ペチュニアおばさんが物置の戸を壊れそうな勢いで叩くことも、ハリーが耳元で“起きて!”と叫ぶこともなくなっていた。ずいぶん久しぶりの感覚だ。記憶と日にちの感覚が正しければ、過去最高に長い”お仕置き”をうけたことになる。もう夏休みが始まっているだろう。
ブラジル産大ヘビ逃亡事件は高くついた。いったい誰がガラスを消したのか…ロニーにも想像もつかない。
ハリーだろうか?ハリーは度々不思議な事件を引き起こしてきた。しかし人のことは言えない、ロニーもだ。むしろ、事件を起こすのは、いつも、ロニーのほかもしれない。
一度など、ハリーが先生のカツラを鮮やかなブルーに変えてしまったことがある。その上、それを見てロニーがクスリと笑ったとたんにカツラが消え、先生の、髪のまばらな頭が丸見えになった。先生は顔を真っ赤にして怒り狂い、その様子はずいぶんと滑稽だった。おかげでロニーもハリーも2週間は物置から出ずに、暮らしたし、二週間後に学校に行った時も先生の機嫌は治っておらず、たくさん宿題が出た。
もしかして、私はモノを消せるんじゃないか…。恐ろしい予感がした。先生のカツラが消えたとき、ロニーは“何ならハゲ頭を見せてくれればいいのに”と心の底から思っていた。今回もハリーの出すシューシューという音に合わせてうなずくヘビや、100キロはあるだろう巨体で体当たりしてきたダドリーを見て、“ヘビが檻から出てくれば面白いな”と心の奥で想像してにやりと笑った。
もともと、自分たち…ハリーやロニーが普通でないことは気づいていたのだ。
そしてハリーは多分、こういうこと…ダドリーにヘビをけしかけるなんてこと…は思いもよらない、いい子ちゃんだ。やっぱりガラスを消したのは私かもしれない。
キッチンに入ると、いとこのダトリーが今度の九月から通う“名門”スメルティングス男子校の制服を着てテーブルの一片を占領していた。手にはてっぺんにこぶの付いたセメルティングスの杖を持っている。
「あんた、突っ立ってないで。焦がしたら承知しないよ。」
ペチュニアおばさんがキッチンに入ってきて、ロニーを見たとたんにフライパンを指さして言った。
ロニーはのろのろと冷蔵庫から卵を取り出して目玉焼きを焼いた。
「小僧、手紙をとってこい」
おじさんがハリーに命令した。
「ダドリーに取りに行かせてよ」
珍しくハリーが反論した。
「これから七年その制服を着ようと思ったら運動しなくちゃ、ちっちゃなダドリー坊や」
ロニーが加わった。
バーノンおじさんとダドリーの顔はそろいも揃って赤カブ色になったが、ハリーは手紙をとりに玄関へ向かった。ロニーにはおじさんのげんこつとスメルティングスの杖が飛んできたがひょいとよけてテーブルに並んだ皿に目玉焼きを乗せた。
「小僧早くせんか!」
げんこつを当て損ねたおじさんの怒鳴り声が飛んだ。
ハリーはすぐに戻ってきた。手には四つ封筒を持っている。そのうち二つをおじさんに渡し、ハリーはあとの二つのうち一枚をロニーに渡した。
サレー州 リトルウィンジング
プリペット通り4番地 階段下の物置
ベロニカ・ポッター様
分厚い、黄色みがかった封筒に入っている。でも…この10年間、手紙を受け取ったことなんて一度もない。本当に…私に?
「パパ!ハリーとロニーが手紙を持ってる!」
ダドリーが叫んだ。バーノンおじさんは、大きな口ひげを生やした丸くて大きな赤ら顔に意地の悪い笑みを浮かべて、
「こいつらに手紙を書くやつなぞ…」
と嘲り笑ったがハリーの手紙を見た瞬間、嘲り笑いは消え、赤ら顔は真っ青になった。
「ぺ…ペチュニア…」
そうつぶやいたおじさんの顔はもはや青ですらないおかゆ色だった。
おじさんはハリーとロニーから手紙をひったくり、(ぼくに見せてよ!二人が持っているのを見つけたのは、僕、だ‼‼)怒鳴った。
「行け!自分の部屋に!ダドリー、お前もだ!!!!」
夕方になって、物置の扉がいつもと打って変わって至極丁寧にノックされた。
「私達のの手紙はどこ?」
ロニーが真っ先に聞いた。
「誰からの手紙なの?」
ハリーが続ける。
「間違いで送ってきたんだ、焼いてしまったよ」
おじさんが告げた。
そんなわけは、絶対に、ない。ロニーは馬鹿にしたような笑みを浮かべて上目遣いに叔父を見た。
「あー、それでなのだが…そろそろ二人も大きくなってきたし、男の子と女の子が二人、こんな風に過ごす…というのはよくないだろう…。それで…ダドリーの二つ目の部屋に移ったらどうかね?」
どういう風の吹き回しだろう?あの手紙を隠すことは…それほどの…ダドリーのスメルティングス杖で何度も殴られるであろうことを引き換えにしてもいい程…価値のあることなのだろうか…?
ダドリーの二つ目の寝室にはダドリーが壊して使い物にならなくなったおもちゃや、飽きられ、忘れられたおもちゃがそこら中に転がっていた。
「ハリー、あの手紙は…明日も来るかな?」
ロニーが半ば願望に近い感じでハリーに言った。
「そんな…手紙は普通、一度出したらお終いだよ。」
ハリーはあっさりと否定した。
「うーん、でもさ、うちらに手紙が届くこと自体、普通じゃないよ?」
手紙は翌日も来た。今度は六通…。
その次の日も、十八通(明日は朝、玄関で待ち構えておこうよ)、五十四通(おじさん!何で玄関で寝ているの?)、百六十二通(これだけあれば一個くらいは…)(小僧、小娘!何をしておる!)…。
日曜日、遂にはリビングいっぱいの手紙がなだれ込んできた。
ダーズリーおじさんはおかゆ色と赤カブ色の混じったまだらな顔でおばさんとダドリーとハリーとロニーを車に無理やり乗りこませ、当てもなく走らせた。
途中泊まったホテルには手紙が三百通以上届き、(わしがすべて引き取ろう!)どこへ行くにも日に日に増えていく手紙の配達がついて回った。
「今日って何曜日だっけ?」
ハリーが聞いた。
「月曜だ、もう一週間も家に帰っていない。」
ダドリーの曜日感覚は…テレビのおかげで…なかなか信用できる。
ロニーはハリーがふっとため息をついたのを見逃さなかった。今日は…私と弟の、十一回目の誕生日だ。
珍しく感傷に浸っていると、おじさんが一艘の子船の前で手招きした。このゴーゴート雨のなっている中、船で湖を渡るなどどうかしている。しかし、おじさんは遠くに逃げれば手紙は来ないと思っているらしく、にたりと笑った。
小舟に乗って付いたのは、湖の中に浮かぶ島に建ついまにも崩れそうなボロ小屋だった。夫妻はギコギコきしきし、いやの音のするベッドで、ダドリーはぺしゃんこのソファで寝た。
ハリーとロニーは何とか床の柔らかいところを探して寝ようとはしたが、なかなか寝付けなかった。
十一歳まであと一分、三十秒、十秒…三、二、一。
ガラガラガッシャーーん!
小屋の扉がものすごい音を立て、倒れた。
入口から、とてつもなく大きな大男が窮屈そうに、身をかがめて入ってくる。
目を覚ましたダーズリー夫妻はソファに寝ているダドリーを重そうに引っ張り、小屋の奥へと逃げ込んだ。
振動が腹の底から伝わってくる。
小屋中が文字通り、震えていた。
ありがとうございました!
ガラスを消したのは、いったい誰だったんでしょう…?