残念ながら、ハリーの、『自分より劣っているものだからと言って差別してはいけない』それをドラコに教える、その目論見は完璧に失敗した。ホグワーツ二週目を過ごし終わってみると、ロニーとしてはそういわぜるをえない。ロンのドラコに対する態度は相変わらずひどかったが、なぜかダンまでもが、むしろロン以上にひどい態度をとっていた。もっとも、ロニーとしても、あのドラコの様子を見たのでは無理もないと思ったが。
実際、ロニーも、本当にドラコを友達と呼んでもいいのか分からなくなってきたのだ。あれじゃあ、スネイプと同じじゃないか。いや、正確には違う。それでも、理不尽な態度を他人に取るという点では共通している。それに、もしかすると、私は最初っから、ハリーの双子の姉でしかなかったのかも。それでも、ドラコは初めて、私やハリーを異端者として扱わなかった同年代の子供なのに。それとも……そういう自分の都合とか感情で友人を選ぶのは悪いんだろうか……。もしかすると、ドラコって、いやな奴なのかもしれない。それなら、自分に対する態度がそうじゃないからって、彼をともだちと呼ぶのは、ダンやロンにしてみたら、きっと迷惑なことだ。
なんだか、ドラコとのことでモヤモヤとしていたロニーとしては、その日張り出された『お知らせ』はことさらありがたくなかった。
飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとスリザリンの合同授業です。
「やった、飛行訓練だ!スリザリンと一緒ってのが気に食わないけど……。」
となりでロンが声をあげた。
「スリザリンが何だってんだ。僕、ほうきって乗ったことがないんだ。母さんが過保護だから……。信じらんないだろ?」
ダンがうきうきと言っが、ただでさえこの二人は背が高いのに『お知らせ』の前にずっと立ってピョコピョコしたものだから後ろに人だかりができた。
「あああ、でも、私、今はドラコと会いたくないな。なんて言うか……あの時は別に気にならなかったんだけど。」
ロニーがダンとロンを『お知らせ』の前から引っぺがして言った。
「気にすんなよ、悪いのはあいつだ。」
『太った婦人』の肖像画を出て、廊下を歩きながら、ダンが肩をすくめた。
「別に、私が悪かったんじゃないかなんて気にしてないわよ。少なくとも、私、できるだけのことはやったもの。」
ロニーは若干そうとも言えない気がしたが、声を張り上げていった。
「あの時、話を逸らすべきじゃなかったって思ってる?だとしたら、まあ、一週間の熟考は無駄になったな。」
ダンはやれやれという様なポーズをとって、ロニーを振り返った。
「そうだよ、最悪、僕ら、ハグリッドの小屋を吹き飛ばしてたかもしれない。まあ、一年生じゃそこまでは出来ないけど……。」
ロンも続ける。
「出来ることならやってたね。ただ、ルーモースには無理さ。もちろん、ルーマスにもね。」
ダンがこの一週間の妖精の呪文での出来の悪さを茶化した。
「ロウマスはまだ希望があるかもしれない。」
ロンがロニーをニヤニヤと見ながら言った。
「それでも、ハーマイオニーに言わせれば、“あなた、中途半端なのよ”よ。私だってまだ出来たほうなのに!」
ロニーがハーマイオニーの声を真似て言った。ハーマイオニーのことはすごいと思うが、その時の気分次第では、ひどく癇に障ることもある。第一、あけすけすぎるのだ。妖精の呪文でも、彼女は彼女の周囲にいたすべての人間の呪文の発音を正して見せた。そう、完璧に。
「まあ、どっちにしろ、ほうきは良いもんさ。二人とも、乗ったことがないなんて、信じらんないよ。」
ロンが大げさに肩をすくめた。
「僕なんか、ホグワーツに来る前は家の周りをほうきで飛び回ってたんだ。それで、バングライダーにぶつかりそうになったことがあってさ。もう、チャーリーのお古のボロだから……。」
ロンはこの調子で大広間に着くまで延々と話し続けたが、ダンもロニーも興味津々で聞いた。
「でも、僕もほうきなんか乗ったことないな。」
テーブルに着くと、ダンがそれまでほうきに乗せてもらえなかったことに対して愚痴ったが、それを聞いたネビルも行った。
「地上に足をつけてたって危ないんだからって、ばあちゃんが。」
そう言ってネビルはカボチャジュースに手をひっかけた。
「それは......賢明な判断かもしれない」
ダンがクスリと笑う。
「でも、どうせいつかは乗らなくっちゃいけないんだから……、練習しときたかったな」
「確かに。だって、ほとんどが小さい頃からほうきで飛び回ってたやつらんなかで、自分だけ始めっててのは、ちょっとキツイじゃないか」
ネビルの言葉にダンが同意した。
「でもさ、みんな自慢はするけど……、ホントかどうかは怪しいんじゃないかな?」
ロンが自分のことは棚に上げて言った。
しかし、実際、ロンの言ったとおりだった。
魔法族の子供たちは、幼いころの武勇伝を長々と話したが、どれも本当とは思えないような突拍子もない話だった。彼らは口をそろえて木曜日が楽しみだの、一年生がクィデッチのチームに入れないのは残念だだのと言った。
しかし、木曜日の訓練に関心を寄せているのは魔法族の子供たちだけではない。ハーマイオニー・グレンジャーは箒やクィデッチに関する本を読み漁り、四六時中その話をしたが、こればかりは知識だけではどうにもならない。しかし、ネビルはハーマイオニーの話にしがみついていれば、あとで箒にもしがみついていられると思ったのか、熱心に彼女の話を聞いていた。
木曜日の朝、ロニーに初めての手紙が届いた。
「わお、手紙!」
ヘドウィグにありがとうと言ってから手紙を開けると、ハグリッドからだった。
この間は、あんまし落ち着いて話せんかったし、また、お茶にでも来んか? ハグリッド
「またやなこと思い出しちゃった」
「気にするなよ。だいたい、何でマルフォイなんかにこだわるんだ?」
ロンが怪訝そうに聞いた。
「まったくだ。スネイプのことはあんなにこき下ろす癖に」
ダンが鼻を鳴らした。
「何でって、ハリーの友達だし……。それにスネイプほど理不尽なことはしないじゃない」
「どうだかな。」
ダンとロンが声をそろえて言った。
「わあ、ネビル、それって思いだし玉?」
すぐ隣でシェーマスが声をあげた。見るとネビルが手にビー玉のようなガラス球を持っている。
「思い出し玉?」
マグル育ちのディーントーマスが聞いた。
「うん、何か忘れてたりすると赤くなるんだ。僕忘れっぽいから……それでばあちゃん、送ってくれたんだと思う」
ネビルがそういうと、『思い出し玉』はみるみる赤くなった。
「あれ……何か忘れた、かな……?」
「でも、もうそろそろ行かないとまずいよ?」
ロニーが時計を見ていった。今日は朝から飛行訓練がある。
「君にとったら、忘れ物なんて、大したことないだろ?」
ロンがこの数週間でロニーも分かってきた無神経さを発揮した。
「箒のほうが大事さ」
ダンもにやりと笑う。もしかすると、ダンとロンって、すごく良いコンビなのかもしれない。二人とも、ずいぶんちがって見えるけど、変なところでそっくりだ。
「まあ、どうせ間に合わないしね」
言ってから、ロニーは、自分も人のことは言えないなと思った。私たち、ホントにいいトリオだ。
「何をぼやぼやとしているんですか」
飛行術の先生、マダムフーチは、開口一番ガミガミと言った。
「さあ、ほうきの横に立って」
箒は全部ボロだ。皆少しでもよさそうな箒を勝ち取ろうと急いだが、ロニーにはいい箒と悪い箒の区別もつかなかった。
「上がれ!と叫ぶ。」
マダムフーチのこの言葉で、皆が上がれと叫んだ。しかし、きっちりと手に収まった箒はごくわずかだ。
「上がれ!」
ロニーもあわてて叫んだ。
驚いたことに、箒はまっすぐ手に収まる。
何回か、上がれ、上がれ、と叫ぶうち、ほとんどの生徒の手に箒が収まったが、ネビルやハーマイオニーはまったくダメだった。
「では、箒にまたがってみましょう。」
そのうちにマダムフーチは諦めたように言って、皆は箒にまたがった。
「私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえて、二メートルぐらい浮上したら、前屈みになってゆっくり降りてくること。」
マダムはキリッと生徒たちを見回した。
「1、2の......。」
ネビルの箒が勢いよく空に舞い上がった。二メートル、三メートル、あっという間に豆粒ほどの大きさになると、いきなりネビルが降ってきた。ボキッというイヤな音。
「まあまあまあ!」
マダムフーチが真っ青になってネビルに駆け寄った。
「手首がおれてるわ」
「大丈夫ですよ......、さあ医務室へ......。」
マダムフーチはネビルにそう声をかけると、またキリッとなって、残りの生徒に告げた。
「私がネビルを医務室へつれていきます。その間、一歩でも箒に触れてみなさい、クィディッチのクの字を聞く前にこの城から出ていってもらいます。」
「あいつの顔、間抜けにもほどがある。」
ドラコが意地悪い顔をしていった。
「やめてよ、初めてなのよ?」
同室のパーバティが眉を潜めて言った。
「あら、パーバティ、あんなちびのデクが好みなのね?」
パグ犬顔のパンジー・パーキンソンが嘲った。
「見て、ロングボトムがなにか落としたみたいだ」
ハリーが草むらから小さなキラキラと光るビー玉のようなものを取り出した。
「思いだし玉だ」
ドラコの顔がことさら意地悪くなる。
「どうやら、自分には箒なんて乗れっこないってことは思い出させてくれなかったようだな」
「返して!あなたこそ、自分がどんなに情けないやつなのか、思いだした方がいいんじゃないの?」
ロニーが顎をつんとあげて言い放った。
ドラコは青白い頬をさっと染めると、ハリーに目配せした。
「ロングボトムが後で取りに来られるところに置いておこう。木の上なんてどうだい?」
そのまま箒をとって空に舞い上がる。なかなかの腕前だ。
「ハリー、来いよ!」
ハリーは迷ったような顔をして、箒をつかんだ。
「ハリー!信じられない!」
ロニーはほとんど無意識に箒をつかんで空に飛び上がった。冷たい風が耳元でごうごうと音をたてる。
一体、何故こうなるんだろう?ハリー、あなたは自分より劣っているからって、意地悪くするのはいけないと、ついこの前、言っていたじゃない!それに、ドラコだって、やっぱりイヤなやつ!友達かもって思っていた自分が情けない。
「ロニー、あなたまで退学になること、ないわ!」
ハーマイオニーが叫ぶ声が聞こえた。
「返して」
ロニーがドラコに向き直って言った。
「......イヤだね」
ドラコは目を泳がせて言った。
「ハリー、パスだ!」
思いだし玉はきっちりハリーの両手に収まる。
ロニーは前屈みになり、ハリーに向かってまっすぐ飛んだ。
「恥ずかしくないの?」
「僕......」
こういうとき、どうにも歯切れが悪いのはハリーの1番悪いところだ。
そのままハリーは答えず、箒を旋回させて、さらに高く舞い上がった。驚いたことに、すごくうまい。正直、ドラコなんて目じゃないくらいだ。
ロニーもハリーを追って、高く舞い上がる。あと、五メートル、四メートル、三メートル、だんだんと距離が縮まる。しかし、いきなりハリーが箒を止めた。ロニーもあわてて急ブレーキをかける。
「ちょっと!どういうつもりよ!」
「ごめん、やっぱり、僕......ドラコにちゃんとダメだって言わなきゃいけなかった」
そしていきなり、孟スピードで今来た方に引き返した。どういうつもりなんだろう?ハリーは時々訳のわからない行動をとる。
ロニーはあっけにとられて、少し迷ってから、ハリーのあとをまた追った。
「ねえ、どういうつもりなの?」
ロニーがノロノロとハリーに追い付くと、何故か思いだし玉はドラコの手のなかだった。
ドラコが口を開きかける。
「ねえ、ホントに、あなたって、最低!」
ロニーがいうと、ドラコはまた頬を染め、おもいっきり思いだし玉を空に放り投げた。
ロニーは息を飲んでまた急旋回する。
危機一髪、思いだし玉はきれいにロニーのてのなかに収まった。
「ポッター!こんなこと......」
ロニーが地上に降り立つと、ドラコとハリーはもう降りてきていて、さらに、そこにはなぜかマクゴナガル先生がいた。
「私......、いえ、すみません」
一瞬、全部ドラコとハリーが悪いのだと言いたくなったが、ふと思い出して口をつぐんだ。あのとき......、ドラコが口を開きかけたのは、謝るためだったのかもしれない。
「ロニーのせいじゃないんです!」
ダンが叫んだ。見ると、すごい顔でハリーとドラコを睨んでいる。
「ほんとなんです!全部、ポッター......ハリーの方ですよ?......と、マルフォイが悪いんです」
ラベンダーが重ねた。
「お黙りなさい!」
マクゴナガル先生が一喝でグリフィンドール生を黙らせた。
そういえば......退学になるのだ......。まだ一ヶ月も通っていないこの学校を。最悪だ......。まだハグリッドとの二回目のお茶だってしてないのに。
「心配することはありません」
マクゴナガルが重々しく告げた。
その声で心配しないでですって?でも、今だって、城に向かって歩いているじゃない!しかも、どちらかというと、グリフィンドール塔の方向に。
しかし、マクゴナガル先生が足を止めたのは、太った婦人の前ではなく、闇の魔術に対する防衛術の教室の前だった。
「クィリナス、ちょっとウッドをお借りしいてもよろしいですか?」
ウッドって、なんだろう?木の棒なんて......なにに使うんだろうか?
ウッドは人間だった。たくましい五年生だ。
「さて、二人とも......。私についてきなさい」
マクゴナガル先生は短くいうと、どんどん廊下を進んだ。ウッドも、授業中にマクゴナガル先生に呼び出されるなんて、イヤな予感しかしないらしく、固い表情で黙りコクっている。
「ウッド、シーカーを見つけましたよ!」
ある程度進み、人気のない廊下に出ると、マクゴナガル先生は満面の笑みで告げた。シーカーって、なんだろう?不安に思って、ウッドを見上げると、なんとウッドは目を丸くして......喜んでいた。
「でも、一年生は箒の持ち込みは禁止なんじゃ......。いえ、もちろん、なんとかなるならそれでもう最高なんですが......規則が......。」
ウッドがロニーの体をじろじろと見ながら言った。
「もちろん、それは何とかして見せますとも。」
マクゴナガルが自信たっぷりに言った。
「箒の操作の荒さは目立ちますが、それはそれは素晴らしいスピードと加速力ですよ。訓練すれば、チャーリーウィーズリーに、負けずとも劣らない選手になるでしょう。」
「それなら......うん、最高だ。体つきはシーカーにぴったりだし......加速力とスピードはシーカーに最も必要とされる素質だ。えっと......君、名前は?」
ウッドが惚れ惚れとしたように言った。
「えっと、ロニーポッターです」
すると、ウッドの目がまんまるくなった。
「まさか、ジェームズポッターの娘の?」
大抵、ロニーの名前を聞いて驚く人がまさかのあとに繋げる言葉は、ハリーポッターだったので、いきなり父親の名前が出てきて驚いた。
「偉大なクィディッチ選手だ。時代が違えば間違いなくプロになってたな。何しろ、彼のプレーはパフォーマンス性があった。チェイサーだったんだ。もちろん技術も折り紙つきさ!」
ウッドが目を輝かせる。
「私......知らなかった。でも、ちょっといい気持ちね」
ロニーはウッドの熱弁に面食らいながら言った。
「君も、いつかはチェイサーとしてやってけるかもしれないな。今年はもう最高なのが三人揃ってるからダメだけど......」
ウッドが一人でうなずきながら言って、突然はっとしたようにマクゴナガル先生を見た。
「それにしても......箒は?まさか、流れ星なんて使えませんよ?」
「ええ、それも、規則を曲げられるか、ダンブルドアに掛け合ってみます。ニンバスなんかがいいでしょうね」
それからマクゴナガルはひらりとロニーに向き直って言った。
「必死に練習に励んでください。そろそろ、クィディッチ杯を副校長室に飾りたい頃です。さもなくば......処置は考え直さなくてはなりません」
そして一度、ハーマイオニーが変身させた飾りボタンを見た時以来の微笑みをみせ、マクゴナガルはくるりときびすを返した。
そのまま夕食に大広間へいくと、ロンとダンがそわそわして待っていた。
「どうなった?」
「退学にはならなかったな。それどころか、クィディッチ選手になった」
ロニーが肩をすくめてニヤリと笑った。
一瞬、二人は訳が分からないという顔をしたが、すぐ口をあんぐり開けて、それからニッコリ笑った。
「ソレって、何年ぶりだい?だって一年生は箒を持っちゃいけないんだ!」
ロンが叫んだ。
「本当にすごいよ!今回ばかりは、マルフォイとポッターに感謝だ!」
ダンがニッコリ笑う。
その言葉で、ロニーは目をスリザリンのテーブルに向けた。一瞬、ドラコと目がたしかにあったが、すぐにそらされてしまった。申し訳なさそうに。
ありがとうございました!
次はハリーの視点でいきます!
なんか、ロニーが書けば書くほどリリーそっくりに!でも、ハリーがリリーに似ているとダンブルドアが言った意味では、ちゃんとジェームズに似せるつもりです!結構重要だと思うので......そこは変えないでいきたい......。