機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ――The Dogs of War   作:◆QgkJwfXtqk

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ガンダム・フレーム
 “厄災戦を終わらせた”として知られる人型機動兵器(MS)
 対MA決戦用の重駆逐MSとして当時の技術の総力を挙げて開発、建造された。
 ガンダム・バエルを筆頭に、ギャラルホルンの権力と権威の象徴となった。

 エイハブ・リアクターを2基搭載し、これを並列稼働させる事で大出力を発揮する事を可能とした。
 但し、2基のエイハブ・リアクターを安定して並列稼働させるのは困難であった為、専用の管制用知性体(アーティフィシャル インテリジェンス) ―― 所謂戦争妖精(Widerstand durch Intellekt)が開発され搭載された。
 戦争妖精は、自機MSの制御だけではなく他のMSをも管制する能力を持っており、ガンダム・フレーム機を頂点とする部隊は軍団(レギオン)とも呼ばれ、集団戦闘でもMAと互角以上に戦う事が可能であった。
 但し、従来のMS用の管制用知性体(アーティフィシャル インテリジェンス)と比較して1桁上の演算速度と計算容量を必要とした為、戦争妖精(Widerstand durch Intellekt)を安定して作動させる為に独自の管制電子機器(モトロニクス)が開発される事となった。
 これが珪素化波動コンピューター(ミーミル・ユニット)である。

 戦争妖精(Widerstand durch Intellekt)は、ある意味でMAの増殖知性体(カーリー・システム)に近い能力を持っている。
 珪素化波動コンピューター(ミーミル・ユニット)によって、半永久的な稼働が可能な点も近い。
 それ故に、戦争妖精(Widerstand durch Intellekt)には1つの機能がオフミットされている。
 それは決断だ。
 情報を分析し、敵を判断し、攻撃方法を提案する。
 決めるのはパイロットだ。
 パイロットだけが決める事が出来るのだ。
 MSパイロットが尊称として騎師とも呼ばれる由来であった。

 高性能を誇った戦争妖精(Widerstand durch Intellekt)はガンダム・フレーム機以外に搭載される事は無かった。
 これは開発と製造を担当した地球の北米アラスカ基地がMAの攻撃によって開発を主導したフェイツ博士とそのチームが、開発製造データと共に地上から消滅した為である。

 厄災戦以後のギャラルホルンのMS開発、特に特に管制用知性体(アーティフィシャル インテリジェンス)に関しては戦争妖精(Widerstand durch Intellekt)の再現こそが目標であった。
 最終的にグレイズ・フレーム、それもSDSプログラム機で類似した機能の再現に成功する。

 尚、グレイズ・フレームではエイハブ・リアクターの新規開発を行い、単発(シングル・リアクター)ながらもガンダム・フレーム機に匹敵する出力を実現した。
 ギャラルホルンでは厄災戦後の終焉(アフター・ザ・ホロコースト)を象徴するものとして期待されていた(※1)。


 厄災戦時に72機が完成し、全機が戦争に投入された。
 最前線に投入され激戦を戦い抜いたガンダム・フレーム機は消耗が激しく、確認されている機体は26機のみである。










(※1)
 グレイズ・フレーム機の戦歴を見れば、確かに長きにわたった厄災戦後を終わらせる事には関わったが、同時に、それはギャラルホルンが意図せざる結果にも繋がった。




1-2

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 夜明け前。

 夜の闇が一番に暗い時間。

 

 

 火星の大地は基本的に地面がむき出しになっている。

 地球化(テラ・フォーミング)によって人が命を育める場所とはなったが、その本質は地球の命を拒む大地だからだ。

 そんな荒野にギャラルホルンの主力MS、グレイズが駐機姿勢で佇んでいた。

 火星に駐屯するギャラルホルン第5鎮定軍を表す暗黄緑色に塗られている。

 磨き上げられた装甲は、光無き夜にあっても輝いて見える。

 右肩に白文字で51の文字が記入されている。

 左肩には小隊指揮官騎を意味する白線が1つ。

 第51MS小隊の小隊長であるオーリス・ステンジャの機体だ。

 1機だけでは無い。

 その後方に2機、此方は機体を覆う隠蔽・防砂ネットが掛けられている。

 グレイズではない。

 ゲイレールだ。

 グレイズが採用される以前のギャラルホルン主力MSであり、火星の様な場所では現在も主力を担っているMSであった。

 

 この様にゲイレール・フレーム機は更新され退役しつつあるとは言え別段に老朽化した訳でも陳腐化した訳でも無い。

 MSとはその基本的な部分は300年前に完成しており、特に主機(エイハブ・リアクター)構造体(フレーム)などは高硬度レアアロイを採用している事も相まって300年所ではない寿命を誇っている。

 各部の消耗品の更新をしっかりと行いさえすれば、MSとしての運用には特に問題は発生しなかった。

 にも関わらず更新が行われたのは、ゲイレールというMSのフレームの方向性の問題であった。

 

 ゲイレールが開発された時代は、いまだ大規模な宇宙海賊がMSをもって跋扈する時代であった。

 火星や金星なども襲撃を度々受ける時代だった。

 であるが為、ゲイレールは対MS戦闘が重視され重装甲を前提としたフレームとして生み出されたのだ。

 その時代のゲイレールは、ギャラルホルンの象徴として赫々とした輝きをもっていた。

 だが現代で要求されるのは治安維持戦、対人戦闘である。

 対人用の小火器を機体の各部に取り付け、それを操る広域用センサーと管制用知性体(アーティフィシャル インテリジェンス)が重要になってくるのだ。

 

 対してグレイズは、センサーの数でもゲイレールの1.5倍となっており、装甲内に各種機銃が取り付ける事も出来る様に設計されている。

 その上で可動部分を減らす様に設計を行い、運用コストの低減も図った機体なのだ。

 グレイズは、今、ギャラルホルンが欲する機体であった。

 

 とは言えゲイレールも陳腐化したままで使っている訳では無い。

 主力として製造されてから1世紀、時代時代の要請に合わせて様々な改良や改造が施されてきている。

 そして今、火星にあるのはシャルフリヒター(処刑人)と呼ばれる対人掃討用の重火力重装甲型を基に火星で独自の改造の行われたSM-Ⅲ(火星型シャルフリヒター第3形態)型である。

 グレイズの騎士甲冑の様なスマートな外観と比較すれば、ゲイレールSM-Ⅲは武士の大鎧の様な重厚さを見る者に感じさせる姿だった。

 各部には12.7㎜機銃と40㎜擲弾銃が取り付けられ、それを操るセンサー類も増設されている。

 事、能力としてグレイズに劣らぬものであった。

 

 合わせて3機のMS。

 他に新鋭の重大型戦闘用MWが13両、120㎜迫撃砲を搭載した火力支援車も5両、そして4両の装輪歩兵戦闘車だ。

 トラックも多数、停まっている。

 歩兵として第551機械化歩兵中隊から抽出した人員で編制された1個増強小隊が居る。

 これが第5鎮定軍第1遊撃隊、コーラル・コンラッドの私兵集団だった。

 

 

 

 多くの将兵が最後の戦闘準備を進める中、MSの足元に設けられたテントの中で、オーリスが胸を張って下知をする。

 

 

「クランク、貴様らは予備だ。でしゃばるなよ?」

 

 

 対するのは壮年と青年、2人のギャラルホルン士官であった。

 共に胸元にはMS乗りを意味する徽章を下げている。ゲイレールのパイロットだ。

 

 

「はい、判っております。オーリス一尉の指示があるまではこの場から我々は動きません」

 

 

 壮年の、鍛え上げられた巌の如き風貌をしたクランク・ゼント二尉は腰を曲げる。

 

 

「素直で結構」

 

 

 クランクの後ろに立つ青年、アイン・ダルトン三尉は直立不動だ。

 士官学校を出たばかりのアインにとって、これが初の実戦であったが為、緊張をしているのだった。

 その顔を見たオーリスは、小さく笑った。

 

 

「コーラル閣下のご厚意。アインの初陣であるが、この程度の相手にMSを複数も出したとなれば第1遊撃隊の兵の士気にも関わるからな」

 

 

 戦場の空気を味わうだけで我慢しろ、とオーリスは笑った。

 そこには親しみの色すらあった。

 感動して更に背筋を伸ばすアイン。

 

 地球出身の父と火星人の母を持つアインは、ギャラルホルンではハズレ者(ハーフ・ブラッド)扱いだった。

 被差別の立場にありながらもMS操縦の才能を見だされ、貴重なMSの操縦師の枠を得たアインは、そうであるが故に火星支部でも孤立気味であった。

 純血(ザ・ブラッド)では無いにも関わらず、操縦師としての特権が与えられているからである。

 

 にも関わらず、オーリスはアインに目を掛けていた。

 名家出身の人間(ギャラルホルン・ノーブル)らしい地球出身者偏重主義の徒であるオーリスであったが、同時に、こんな辺鄙な火星へと志願して来るだけあって、変人である ―― 基地内ではそう噂されるほどであった。

 

 

「有難くあります。オーリス一尉の雄姿をこちらから見させて頂きます」

 

 

 或は、素直なアインの称賛が心地良いだけかもしれなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音も無くCGS基地へと近づくギャラルホルン第1遊撃部隊。

 強化服(パワードスーツ)を着込んだ戦闘工兵部隊が切っ先となっていく。

 CGS側も有事(出入り)に備えたセンサーなどで哨戒線を構築していたが、最高級最新鋭の装備を持った連中に全力で仕掛けられてはどうにもならなかった。

 

 と、その象を思わせる足が止まった。

 視線の先、センサーが歩哨に立つ少年兵たちを捉えたのだ。

 手には銃を持ち、周囲を伺っている。

 油断の気配は無い。

 誤魔化しての突破は困難であると判断した尖兵は、後方とのレーザー通信で排除を依頼する。

 200m程後方で最新鋭の隠蔽ネットに隠れていた射手が、誘導に従って12.7㎜狙撃銃を操る。

 

 暗視カメラ越しに、2人の少年を捉える。

 ヘルメットは被っていなのでむき出しとなっている頭部に照準を合わせる。

 呼吸を整えて、少年たちの動き(リズム)を図る。

 合わせる。

 数秒、合った。

 その瞬間、ためらいも無く射手は引き金を引いた。

 消音機によって小さくなった発砲音が響いた。

 1度。

 少しだけ筒先を動かして撃つ。

 

 

「クリア」

 

 

 赤い華が咲く。

 

 

 

 

 

 緊張からか、常日頃よりもかなり早い時間に起きたクーデリアであったが、ベットから起きることなく何となく布団に包まっていた。

 火星を出る事。

 地球へ行く事。

 貧困、資源、経済、混乱 ―― そして少年兵。

 

 

「三日月・オーガスと言いましたね」

 

 

 独白と共に昼間あった特徴的な少年兵を思い出す。

 醒めた、あの目を。

 

 手を伸ばした事を、拒否された事を。

 手をさし伸ばしたとか救いの手を、などと傲慢な事を言う積りは無かった。

 だが、地球へと向かう際に世話になるからと友好の為に伸ばした手は、相手にもされなかった。

 

 

『何で?』

 

 

 心底から意味が分からないという顔をしていた。

 それが、クーデリアの心に刺さった。

 

 自分では傲慢な気持ちは無かったが、それは果たして他人から見ても謙虚な態度と見えたであろうか、と。

 革命の乙女などという過大なあだ名を与えられ、大人たちから誉めそやされ、心のどこかで傲慢になってはいなかったか、と。

 

 唐突に、サイレンが鳴った。

 耳をつんざく音に、慌てて周りを見る。

 

 

「!?」

 

 

 振動。

 身体を竦める。

 

 

「お嬢様」

 

 

 振り返れば、彼女に最も忠実な従者が簡素な部屋着にコートを着て立っていた。

 髪は少し乱れているが、そこは寝起きのご愛敬だ。

 寸鉄帯びぬ身ではあったが、その心根と覚悟は武装をしているが如くであった。

 

 

「確認してまいりますので、ここでお待ちください」

 

 

「フミタン」

 

 

 と、その時であった。

 

 

「すいませんっ!」

 

 

 扉が叩かれたのは。

 

 

 

 やってきたのはビスケットだった。

 三番組で一番に柔らかな雰囲気があり丁寧語が使え、同時に頭の回る為にこんな役割(メッセンジャー)を良く担当していた。

 

 

「襲撃です。何者かに基地が襲われていますが対応しています」

 

 

 念の為に2人には基地の地下へと避難する様にビスケットはつづけた。

 厄災戦時代に作られたCGS本社構造物は、戦乱に耐えられる様にと動力炉や管制設備、機械室などの重要な区画は殆どが地下にあった。

 築300年を超える建物。

 流石にMSの構造材にも使われるような高硬度レアアロイで出来ている訳では無かったが、適切な補修が行われている事と火星という特殊な環境故にコンクリートの劣化が余り進んではおらず、堅牢なのだ。

 

 非常灯の点いた廊下を案内しながら地下へ地下へと降りていく。

 段々と爆発音も射撃音も聞こえなくなっていく。

 

 

「厄災戦時代の軍事拠点ですからね、衛星軌道爆撃を食らってもここなら大丈夫ですよ」

 

 

 薄明りの中で見上げるコンクリート打ちっぱなしの壁。

 壁際に放置された雑多な荷物に積もった汚れが、この施設の歴史を感じさせる。

 珍し気にそれを見上げるクーデリア。

 

 

「ここは何の場所なんですか?」

 

 

「地下格納庫なのかな? この階層は深いからあまり使って無いけどMS整備用の設備が残ってるって聞いた事がありますから」

 

 

 倉庫代わりになっているというビスケット。

 そしてもう1つ、この基地の動力炉があるのだとも。

 

 

「そうですか………」

 

 

 非常灯だけが照らしていた廊下の先、大きな扉が内側からの光で目立って見えた。

 

 

「あそこです。あそこが動力炉とその管理室があるんです。そこなら人がゆっくりできる設備があります。後、動力炉には少しびっくりすると思いますよ」

 

 

 

「まぁ!」

 

 

 声を上げたクーデリア。

 そこには1機のMSが鎮座していた。

 白を基調にしたMSは油と埃にまみれてはいたが、確かな力強さがあった。

 身体の各部に太いケーブルが這っている姿は、囚われの武将染みた風格すらあった。

 

 

「グレイズ? それともゲイレールですか?」

 

 

 MSと言えば、とTVに写るギャラルホルンを象徴するMSの名を挙げれば、ビスケットは笑った。

 

 

「ギャラルホルンの? まさか。これは社長が見つけて来た奴です。厄災戦の頃のMSじゃないかって言われてます」

 

 

「おぉ来たか」

 

 

 金属的な足音を立てて、休憩所から浅黒い肌をした厳つい男が出て来た。

 濃緑のオーバーオールに黄色い戦闘作業着を羽織っている。

 ナディ・雪之丞・カッサパ、CGSでMWを中心にした機材整備の責任者をやっている男だった。

 表情に緊張感がある。

 恨み恨まれるのがPMCSの常とは言え、このCGSの基地に襲撃を掛けて来られたのは初めてなのだ。

 緊張しているのも当然であった。

 

 

「年少組はコッチへの避難は終った。哨戒に出てた奴ら以外は点呼は終ってる。全員いるぞ」

 

 

 CGSの大人の中では例外的な、教官のビクターと並んで三番組の子供たちに優しい人間だった為、急場などでは年少の少年たちの引率者の様な真似事までしていた。

 

 

「有難うございます。こちらは昨日、ここに来たお客さんのクーデリアさんとフミタンさんです」

 

 

「話は聞いている。地球に行く別嬪さんたちだな。俺はナディ・雪之丞・カッサパだ。この会社で整備をやってる」

 

 

「あ、クーデリア・藍那・バーンスタインですよろしくお願いします。こちらはフミタン・アドモスです」

 

 

 挨拶。

 それが終わるのを焦れた様に、ビスケットは動く。

 

 

「じゃ僕は上に戻りますんでクーデリアさん達をお願いします」

 

 

「おお判った。気を付けてな」

 

 

「はい!」

 

 

 駆け出していくビスケット。

 太いながらも筋肉を持った人間独特の、妙なまでの素早さがあった。

 

 その背中を一瞥した雪之丞は、それから相好を崩してクーデリアを見た。

 スマイルスマイル。

 安心させるように笑う。

 

 暗い場所で大人の男と居ると言うのが女性にストレスを与えると理解しての行動だ。

 ガサツに見える雪之丞は、その実、女性に対しては実にスマートな感性を持っている部分があった。

 

 

「ここは暗いし、少しばかり臭いかもしれんが安全な場所だお嬢さん。代用だが珈琲もある。ゆっくりと過ごしてくれ。子供たちが煩いかもしれんがな」

 

 

「煩いはヒデェよおやっさん!」

 

 

 大柄な雪之丞の身体からひょっこりとまだあどけない少年兵が顔を出した。

 唇を尖らせている。

 その頭を乱暴に撫でる雪之丞。

 

 

「悪い悪い。じゃぁお詫びにお前の珈琲には砂糖をたっぷり入れてやるよ」

 

 

「やったぁ! 嘘は駄目だぜ、おやっさん!!」

 

 

「約束だ」

 

 

 歩き出した2人の姿と会話に何となく笑ったクーデリアは、一度だけ巨大なMSを見上げてからその背中を追って歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しづつ明けてくる空。

 雲の少ない青みの強い空は火星特有だ。

 

 空の下、オルガは癖の左目を閉じながら戦場を睨む。

 現在、戦闘は膠着状態にある。

 散発的な撃ち合いは続ているが、敵は無理矢理に押し込んでこない。

 

 オルガたち三番組も無理には前に出ない。

 掘ったタコツボに籠ったり、遮蔽壁に隠れたりしながら撃ち返している。

 飛び出すのをよく耐えて辛抱強く戦っている。

 お蔭で、撃ち合いが始まってから2時間近くが経過しているが、けが人は兎も角、死者は少なかった。

 運の悪い、迫撃砲の直撃を受けた塹壕以外は、敵の攻撃をよく耐えれているのだ。

 

 教官であるビクターの教えを忠実に守っていたのだ。

 戦場で飛び出す奴は馬鹿自殺志願者だ。味方の邪魔だ。そんな奴は訓練で俺が殺す ―― そう言って扱かれた三番組の少年兵は、ベテランの傭兵並みにしぶとく、陰湿な戦い方を身に着けていた。

 

 であればこそ生まれた膠着状態。

 

 

「だが狙いが判らねぇ」

 

 

 戦場の全体が見える場所に置いた指揮用のMWに搭乗したオルガは首を傾げる。

 商売敵の嫌がらせなら、それこそ2~3発撃ってからこれみよがしに戦力を誇示して退くものだと聞いていた。

 腰を据えての撃ち合いなんてやって被害を出したくないのはどこも同じであると。

 

 後、派手な撃ち合いをすると、治安維持にとギャラルホルンが出張って来る。

 事後処理が面倒くさいので来ない様に短時間で終わらせるのも流儀だとは聞いていた。

 

 

「オルガ!」

 

 

「ビスケットか、悪いな手間を掛けさせた」

 

 

「スポンサーは大事にしないと駄目だからね。それより状況は? 一番組は何をしているの?」

 

 

 三番組よりも良い装備、良いMWを与えられている一番組であったが、この場には1台のMWどころか1人として居なかった。

 

 

「後方で戦闘準備中、俺らは時間を稼げとよ」

 

 

「………あいつら」

 

 

例の奴(・・・)、まだ大丈夫だよな?」

 

 

「大丈夫だ。発見されて怒られたって話は聞かない。後、スイッチはここにある」

 

 

 ポケットを触って確認するビスケット。

 オルガは楽しそうに頷く。

 

 

「朗報だ、今の所は一番のな」

 

 

 と、オルガのMWの通信機が鳴った。

 機体の操縦手であるユージンが取る。

 声を上げる。

 

 

「オルガ、教官だ!」

 

 

「おう」

 

 

 ネックのスイッチを切り替える。

 三番組部隊用から直接通信に。

 一瞬のノイズ。

 音がクリアになる。

 

 戦闘中は一緒に居るどころか滅多な事では連絡してこないビクター。

 薄情な訳では無い。

 オルガの指揮権と指揮官としての権威を尊重するが故に、万が一にも指揮系統が混乱しないようにとの配慮だった。

 そのビクターが動いた事に、何らかの嫌な予感を感じる。

 

 

「どうした教官、何処に居るんだ?」

 

 

 声が震えて無かった事に安堵しつつオルガは耳を澄ます。

 

 

『ああ、管制塔に登っててな、敵が良く見えるぞ』

 

 

「危ないぜ、狙われる」

 

 

『既にガラスは全部やられたよ。ま、俺は死ぬ予定が無いんで無事だがな。そんな事より悪い報告と凄く悪い報告がある。どっちから聞きたい?』

 

 

「良い話は無いのかよ、少しでもマシな方から頼むわ」

 

 

『良いぜ、敵の正体が判った。MWのステンシル………ギャラルホルンだ』

 

 

 七星重工製の最新大型軍用モデルだと言う。

 何よりラッパのマーク(ギャラルホルン章)が車体に書き込まれているのだ。

 間違える筈も無かった。

 

 

「マジかよ。最悪中の最悪じゃねぇか。それより悪い報告何て想像も出来ないぞ」

 

 

 悪態をつくオルガ。

 だが通信機の向こう側、ビクターの声には遊びは無かった。

 

 

『MSが居る』

 

 

 極めつけの凶報に、オルガは思わず車体のハッチを殴っていた。

 

 

 

 

 

「何でギャラルホルンがウチみたいな所に来るんだよっ!?」

 

 

 悲鳴を愚痴とを洩らしながら、逃げ支度を進めていくマルバ。

 パンパンに膨れ上がったバックに更に詰め込んでいく。

 ギャラルホルンが敵となれば銀行口座も封じられる可能性があるので、現金と貴金属とが生命線になるからだ。

 必死にもなろうと言うものであった。

 

 社長室に駆け込んでくる男、ササイ・ヤンカス。

 マルバの腰巾着みたいなをしている。

 とは言え、急場でもマルバを見捨てない辺り、忠誠心はそれなりに持っていた。

 

 

「社長、準備できましたか!?」

 

 

「まだだ、あと少し」

 

 

 隠し金庫を開けようとして悪戦苦闘をマルバに、ササイは泣き付く。

 

 

「勘弁して下さいよ社長! 命あっての物種ですって!!

 

 

 三番組が抵抗しているが、何時、ギャラルホルンが基地まで突入してくるか判らない。

 基地が包囲されるかもしれない。

 今は一方方向からの攻撃なので、今のうちにギャラルホルンがが居ない方向から逃げ出したい。

 それが、ササイの、一番組の大人たちの総意だった。

 

 三番組には、一番組が別方向からの一撃(バックブロウハンド)を決めるまでの持久を命じていたが、その実として肉壁として一番組が安全な場所へと逃れる為の時間稼ぎが目的だった。

 

 

「くそっ、ワシは、ワシはこんな所では終わらんぞ!!」

 

 

 不屈の決意と金、そしてササイと共にマルバは駆け出す。

 

 

 

 

 

 MSのコクピット内で戦況を見守っているオーリス。

 だが、状況が良い訳では無い。

 眼前のMW部隊の攻勢は、ほぼ頓挫している。

 120㎜迫撃砲の支援を受けて尚、MW部隊は敵MW部隊の堅守を押し切る事が出来ずにいるのだ。

 よくよく計算されて作られたCGS ―― 三番組が作り上げた塹壕とMW退避壕は、ギャラルホルン第1遊撃隊の猛攻に粘り強く耐えていた。

 多分に、この様な僻地で真っ当な野戦築城に出会うとは思わなかったが故のギャラルホルン側の慢心と準備不足もあった。

 

 三番組が見事であれば、対する第1遊撃隊は不甲斐ないと評する事が出来る。

 だが、オーリスの表情に陰りは無かった。

 MW戦で多少抵抗出来たとしても、此方は囮なのだ。

 派手な砲撃戦をするMW部隊は敵の耳目を惹きつける為の助攻であり、本命は迂回浸透でCGS施設内へと流し込む機械化歩兵部隊なのだから。

 

 先にクーデリアを確保し、その後、グレイズ(機械仕掛けの戦場神)によってCGSの哀れな傭兵もどきを蹂躙する ―― それがオーリスの作戦であった。

 

 と、その本命である筈の機械化歩兵部隊の浸攻ルートで信号弾が上がった。

 

 

「なっ、何があった!?」

 

 

 

 青空に上がった赤い信号弾。

 そのコントラストに目を細めるオルガ。

 慌ててビスケットを見る。

 ビスケットも慌てた様に首を振った。

 

 その意味する所は、まだ(・・)やってない。

 

 仕掛けはしていた。

 万が一に一番組が逃げ出した日には、囮代わりにしてやろうと彼らのMWに細工をしていたビスケットだが、まだその装置は使っていなかった。

 

 

「何だってんだ」

 

 

 奇しくもそれは、オーリスと同種の呟きだった。

 

 

 

 彼我の指揮官が困惑したのとは別に、戦闘は一気に加速しだす。

 浸透、奇襲を予定していた第1遊撃隊の機械化歩兵指揮官は、逃げ出した一番組との出合い頭の戦闘が勃発するど同時に、作戦を強襲へと変更。

 全火力使用許可(オール・ウェポンズ・フリー)を宣言すると共に、一挙に攻勢に出た。

 短時間で粉砕し、突破しようというのだ。

 一番組を低練度のPMSCと侮っての事であったが、それが裏目に出る。

 

 余りに勢いよく撃ち込んでるく第1遊撃隊に、一番組は逃げ場を奪われた ―― 包囲殲滅をされるのではとパニックを起こし徹底抗戦を開始してしまったのだ。

 

 機械化歩兵部隊とMW部隊が何の細工も無しにぶつかるという余りにも力技の戦闘。

 両者の指揮官はほぼ同じタイミングで、増援を求めた。

 

 

 

『MW部隊を全部コッチに回せ、火力が足りねぇ』

 

 

 通信機越しに、焦った声で急いで支援に来いと言うハエダ。

 逃げ出そうとしていた事などおくびにも出さぬその物言いに、内心で大いにキレながらもオルガは回せる部隊の抽出を考える。

 ハエダの一番組が壊滅し、突破されてはオルガたちも挟撃される事になるからだ。

 

 

「急いで1班を回しますんで、それまで耐えてて下さい」

 

 

『MW隊、全部コッチに寄越せ、命令だ』

 

 

「無茶言わんで下さい。それじゃコッチが即座に突破されっちまいますよ」

 

 

 そもそも、三番組とて楽な戦場に居る訳では無いのだ。

 火力の熾烈な応酬をしている最中なのだ、退避壕に籠っているMWが転用しようと動かしたら即座に撃破されかねない戦況であった。

 

 

『何でも良いから急げ、俺らが死んじま__ 』

 

 

 そこでプッツリと通信が切れた。

 ハエダの指揮MWが撃破されたのか、機材の破損か、通信妨害か。

 何れにせよ、戦況が悪いのだけは判った。

 

 

「ふざけやがって」

 

 

 何が、と言う訳では無い。

 何もかもがだった。

 いきなり仕掛けて来るギャラルホルンも、逃げ出す一番組も、戦況も、MSも、何もかもがふざけていた(・・・・・・)

 

 とは言え、現実を無視し得たのは、贅沢が出来たのはこの1言の時間だけ。

 オルガは三番組の(タマ)を預かる人間として、脳みそを絞る。

 

 

「どうするオルガ?」

 

 

 参謀役のビスケットが顔を顰めている。

 現状維持をするのもギリギリな戦力なのだ。

 それだけの戦力差があった。

 

 

「裏をかかれちゃ、コッチもやりきれねぇ………さっき補給に下がった昭弘の隊に行ってもらう」

 

 

「昭弘の隊だと……」

 

 

 言葉を濁すビスケット。

 昭弘の隊とは、昭弘・アルトランドの指揮する7機のMW部隊だった。

 昭弘はMW乗りとしての腕は良い。

 三番組では三日月に次ぐエースであり、又、部隊の指揮官としても安定したものを持っていたし、隊の隊員も精鋭だった。

 その意味では増援に回すのにうってつけであったが、1つだけ問題があった。

 

 彼らが、昭弘を含めて全員が左側に赤いラインの入った濃緑の戦闘作業着を着ているという事。

 即ち、ヒューマンデブリ(奴隷階級)だという事が。

 

 宇宙海賊などに攫われ、小さい頃から戦場に放り込まれ、使い潰されて行く哀れな戦争奴隷(ヒューマンデブリ)

 CGSに来たのも、マルバが戦闘要員(阿頼耶識持ち)として買い込んだ結果だった。

 

 とは言え、別にオルガもビスケットも昭弘達をそんな目で見た事は無かった。

 同じ釜の飯を食い、同じようにビクターに扱かれ、同じように戦場で闘う仲間であると思っていた。

 だが、一番組は違う。

 一番組の大人たちは奴隷として扱う。

 この戦闘でも状況が悪化したら盾として使われる可能性が高い。

 その事をビスケットは危惧していた。

 

 

「だがよビスケット」

 

 

『仕方が無ぇだろ。この戦況じゃな』

 

 

 さび色の声が混ざる。

 昭弘だ。

 

 

『何、一番組の連中の為に死んでやる積りはねぇから安心して任せろ』

 

 

「すまねぇ」

 

 

『辛気臭ぇのは無しだぜ、組長』

 

 

「ああ。腕のいいお前らに任せる。死ぬんじゃねぇぞ」

 

 

『努力はする、期待していろ』

 

 

 

 オルガの切ったカード(増援)

 対するオーリスは鬼札(エース)を切る。

 

 

『オルガ、MSが動いた』

 

 

 ビクターからの報告。

 平地に居るオルガの双眼鏡にも、オーリスのグレイズが見えた。

 前に来る。

 

 

「マジかよ」

 

 

 

 

 




 MSの設定とか、フレーバーなので余り考えすぎないで下ちい。
 ガンダムが72の悪魔で、それぞれ公爵だの何だのと階級があったので、その理由をと考えて、管制出来る配下のMS部隊規模って事にすれば良くねとかそこら辺です。
 なのでフレーバー(バエルが草バエル


 後、三日月が空気過ぎる件。
 昭弘は嫁と弟と義理な弟の為に、超ガンバ!
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