機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ――The Dogs of War   作:◆QgkJwfXtqk

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【挿絵表示】

 アーブラウ(地図上:ブルー)
 アーブラウ条約によって成立した環太平洋を中心とした経済圏(図では青色で表示されている)。
 首都は北米エドモントン。

 拡大TPP17を母体とし、厄災戦時代に生み出された安全保障組織である環太平洋連合条約機構がそのまま看板を変えた組織である。
 条約を締結した場所が大型客船のアーブラウであった為、その名が付けられた。

 7大列強で3ヵ国が参加した為、4大圏随一の経済力と影響力とを誇る。
 現在、安定した経済活動拡大の為に宇宙での資源回収に注力しつつある為、ギャラルホルンとの間で安全保障協定の改訂作業を行っている(※1)。

 現在、経済活動の低迷で治安が悪化しつつあるSAU(地図上:ブラウン)との間で深刻な対立が起きており、政治的な緊張に繋がっている(※2)。
 又、シベリアの資源開発に関して汎スラブ連合(地図上:レッド)と連携を深める中で、ユーラシア連邦(地図上:イエロー)とも政治的な対立が発生しつつある(※3)。










(※1)
 アーブラウの蒔苗政権が長期に渡って低迷していたアーブラウの経済を再び成長軌道に乗せる為に打ち出した経済活性化策、太陽系再開発計画(ネクスト・フロンティア・プロジェクト)が発端となっている。

 太陽系再開発計画とは、その名の通り太陽系全域でアーブラウの経済活動を活性化させる事を狙うものであった。
 特に重視されたのが圏外圏との交易であった。
 太陽系外周部に新しく資源開発衛星(コロニー)を建設し、資源開発と共に圏外圏との貿易拠点を行うという極めて野心的かつ壮大な計画であった。

 この計画実現の為、アーブラウがギャラルホルンに対して圏外圏での警備業務拡大を要請した事が、安全保障協定の改訂作業の始まりであった。

 アーブラウとギャラルホルンとの間で締結されていた安全保障協定では、圏外圏であってもギャラルホルンが軍事的な支援を行う(この場合は安全の確保)事を定めていた。
 だが、実際にアーブラウが計画している経済活動を実行しようとした場合、ギャラルホルンは戦力と拠点の整備に莫大な投資を必要とする事となる為、難色を示していた。

 現在、太陽系再開発計画を推進していた蒔苗代表が体調不良による長期療養によって政務から離れた為、太陽系再開発計画自体の予算成立がストップしてしまった為、それに合わせて改定交渉も中断状態となっている。


(※2)
 SAU、南米連合(サウス・アメリカ・ユニオン)とは中米以南のアメリカ大陸を領域とする経済圏であり、陸路ではアーブラウと接触する経済圏である。

 そのSAUは現在、政治的な混乱、経済の不調、その他の国内的な齟齬を誤魔化す為に外部の敵を欲しており、南米に存在するアーブラウ領を「帰らざる我らが領域」と呼び、その返還要求を出すという政治的選択を行った。
 アーブラウ側は、その元となったTPP17以来の歴史的経緯からも不当な要求であり、領土的野心の露呈でもあると痛烈に批判している。

 この他、両経済圏の経済格差からSAUからアーブラウへの不法な人間の移動が頻発している事も、両経済圏間での問題となっている。
 裕福なアーブラウへの出稼ぎと、可能であれば移民を図るSAUの人間が多いのだ。
 だがアーブラウは治安維持対策もあって高技能者か短期的な出稼ぎ以外での圏外人の流入を制限している。
 この為、一般市民、即ちSAU有権者の間で対アーブラウ感情が悪化の一途を辿っている。
 又、アーブラウ側でも、観光ビザなどで入国して不法組織(アンダーグラウンド)で働く人間に頭を悩ませており、対SAU感情が悪化している。
 特に麻薬と売春は大きな社会問題となっており、アーブラウは重武装の国境警備隊を編制する事態となった。

 問題は、SAUが政治と国内情勢の問題があって自経済圏内人の犯罪組織を取り締まるのではなく、SAUの人間を犯罪者の如く扱う(・・・・・・・・)アーブラウの国境警備隊とその活動方針を批判している事であろう。
 この為、両圏は国境線沿いでそれぞれの重武装警察隊、アーブラウの重装機動警察隊(A.M.P)とSAUの特殊警察作戦隊(BOPE)が睨み合いを続ける事態となっている。


(※3)
 アーブラウと汎スラブ連合が共同で行うシベリアの再開発は、経済活動であると同時に政治的な狙いがあった。
 両経済圏の政治的な結びつきを強化すると言う、些か誇大的な表現を用いるならば「東西の歴史的融和」という目的だ。
 同時に、ユーラシア連邦に対する牽制でもあった。
 汎スラブ連合にとってユーラシア連邦は経済規模的には同格の相手であったが、事、人口 ―― 人材と言う面では劣位にあったが為、これを挽回する手段としてのアーブラウとの連携強化であった。




1-3

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 人型機動兵器(MS)

 それは戦場の支配者であり、絶対的な王者だ。

 

 敵にMSが居る事をビクターから知らされたオルガは、自分達が扱う機動戦闘車(MW)では絶対に勝てないという現実から逃げず、1つの決断を下していた。

 目には目を歯には歯を、MSにはMSを。

 CGS本社の動力源にされているMSを動かそうと言うのだ。

 一番組のハエダにも社長のマルバにも相談も報告もしていない、オルガの独断だ。

 終わった後でどうなるか、懲罰を受けるか或は会社から追放されるか判らぬが、動かさなければ死ぬだけだと言うのがオルガの直感であった。

 

 

「頼むぜ、ミカァ」

 

 

 起死回生の切り札を託した、自他ともに認める相棒の名をオルガは呟いた。

 

 

 

 

 

 CGS本社施設の地下に設けられた動力炉では、その動力源たるMSの発進準備が進められていた。

 とは言えこのMSは主機(エイハブ・リアクター)こそ手は入れられていたが、それ以外は何十年か何百年か放置されていた様な機体だ。

 簡単に行く筈も無い。

 その事を歯がゆく思いながら、雪之丞はMSの出撃準備を行っていた。

 機体各部の固定を排除し、各部を確認する。

 そして、大事な事を行う。

 操縦槽(コックピット)設置(・・)だ。

 マルバが発見したこのMSは、その時点で操縦に必要な操縦槽(コクピット)回りの設備が存在していなかったのだ。

 故に、応急処置としてMW ―― この場に三日月が乗ってきた白い機体を解体し、その操縦席周りを移設したのだ。

 

 

「無理矢理だが、何とかなりそうだな」

 

 

 無理矢理に取り付けたモニターに、MSの頭部(センサー/カメラ)からの情報が表示されると共に、雪之丞も安堵の溜息を洩らした。

 MSやMWに使われる設備の規格は人類の科学力の絶頂期 ―― 厄災戦の前の時代に策定されたものが今まで変更されず使われてきている為、雪之丞の技術者としての部分が接続が出来るだろうと判断してはいたが、とは言え実際に接続に成功すれば人間として安堵すると言うものであった。

 操縦桿やペダルの取り付けは終っている。

 後は、操縦席 ―― 阿頼耶識システム接続部の設置であった。

 

 

「行けそうか?」

 

 

「何とか」

 

 

 雪之丞の問いかけに言葉少なげに答えるのは少女の様に線の細い少年、CGS整備班のヤマギ・ギルマトンだ。

 身体の弱さから戦闘部隊から整備班に転属になった少年兵であり、その経緯から必死になってMWを勉強し、今では阿頼耶識システム回りなどでは雪之丞が自分よりも理解していると認めている整備兵(メカニック)であった。

 

 

「阿頼耶識システム、情報伝達回りも劣化してないから接続できるよ」

 

 

「よーし、ならとっとと組み付けちまおう」

 

 

 クレーンで釣り上げた阿頼耶識のシステム回りを接続していく2人。

 その姿を三日月は、近くの通路(キャットウォーク)から緊張感も無く眺めていた。

 時々、火星椰子を齧っている。

 

 

「怖くはないのですか?」

 

 

「ん?」

 

 

 クーデリアだった。

 うつむき加減のままに、三日月に問いかける。

 

 

「怖い?」

 

 

「MSに乗る事も、MSと戦う事も、こんな状況に置かれた事も」

 

 

 敵はギャラルホルン。

 その事を知った時、クーデリアはこの戦いが自分の為に引き起こされたのだと理解した。

 自分が巻き込んだ(・・・・・・・・)のだと。

 だからこそ、CGSに、今命を張っているオルガ達や死地に飛び込む三日月に対して悔恨の念を抱いていた。

 だが、シリアスなクーデリアに対して三日月は緊張感を見せなかった。

 

 

「仕事だしね」

 

 

 今までも、今も、そして明日も。

 自分の仕事は鉄火場で命を張る事だと了解している三日月にとって、今の状況であってもクーデリアの様に重く思う所は無かったのだ。

 その三日月の姿に、クーデリアは少年兵の生き様(・・・・・・・)と言うものを骨身に沁みるのだった。

 

 

「………」

 

 

 言葉が出なかった。

 だが、自分が命を掛けさせるのだ。

 何かを言わねばならない。

 だが、言葉が出ない。

 ノアキスの七月会議では雄弁なる小淑女(・・・・・・・)等と持て囃されてもこれが私の実相であるかを唇をかみしめた。

 

 小さくなっているクーデリアに、一瞥する三日月。

 何かを言うべきかと少し悩んだ。

 

 

「三日月、来てくれ!」

 

 

 雪之丞に呼ばれて、何もクーデリアに話す事無く三日月はMSへと向かった。

 

 

 

 展開した胸部装甲の奥。

 無理矢理に取り付けられたモニターや操縦桿を避ける様に、身を捩って操縦席に座る三日月。

 むき出しになった襟首の阿頼耶識に、雪之丞は阿頼耶識システムのジョイント部を当てる。

 雪之丞の顔には緊張感がある。

 

 

「覚悟は良いか?」

 

 

「大丈夫、とっととやって。オルガ達が心配だから」

 

 

「自分の事も心配しろ」

 

 

 同じ阿頼耶識システムを使うとは言え、MSのソレはMWとはけた違いの情報を機体とやり取りするのだ。

 しかも、少なくとも300年は動かしていないシステムだ。

 技術者として雪之丞が心配するのも当然だった。

 とは言え状況に余裕はない。

 そして、接続しないと言う選択肢も無い。

 

 

「接続、行くぞ」

 

 

 繋げた。

 その瞬間、三日月が跳ねた。

 

 

「おっ、おい、三日月ぃ!?」

 

 

「おやっさん!?」

 

 

 雪之丞もヤマギも大いに慌て、三日月に手を伸ばす。

 だから気付かなかった。

 MSの頭部に、その目に光が点った事を。

 

 機体情報を表示している接触式パネル(センサー・モニター)に文字が浮かび、一気に流れていく。

 

 

「おやっさん、コレって……」

 

 

「ああ、自己診断プログラムか何かだな。噂に聞くMSの管制用知性体(アーティフィシャル インテリジェンス)って奴が目覚めたんだな」

 

 

 機体概略図が表示され、殆どが黄色(機能低下)(機能喪失)で染められていく。

 操縦者(パイロット)を支援し、機体を制御する管制用知性体(アーティフィシャル インテリジェンス)が稼働したと言う事はMSが目覚めたと言う事であった。

 と、接触式パネルの文字スクロールが止まった。

 

 点滅するGANDAM ASW-G-08(ガンダム・バルバトス) Ready(稼働準備完了)の文字。

 

 

「コイツぁ………」

 

 

「……バルバトス………」

 

 

 うつむき加減だった三日月が言葉と共に顔を起こす。

 

 

「おい、大丈夫なのか三日月?」

 

 

 流れ出た鼻血を拭い、答える。

 

 

「うん、行ける。コイツも動けるって言ってる」

 

 

 接触式パネルを触る三日月。

 字の読めない三日月であったが、何故か表示されている文字の意味が判った。

 聞こえて来るなにか、或は()に導かれる様に、MSへの指示を下す。

 機体の安全装置を解除し、主機(エイハブ・リアクター)の出力を戦闘出力へと移行させる。

 

 

「おやっさん、上から。もう上は持たないって」

 

 

 通信機を片手にヤマギが声を上げる。

 

 

「三日月?」

 

 

「聞こえてる。ああ、行くよ」

 

 

「頼むぜ」

 

 

 雪之丞が機体の傍から離れると共に、三日月は操縦槽(コクピット)のハッチを閉め、胸部装甲を正位置に固定させた。

 ゆっくりと立ち上がるMS ―― ガンダム・バルバドス。

 その姿に、クーデリアは威容を感じた。

 

 

「ご無事で」

 

 

 それは願いであった。

 希望でもあった。

 と、地下に避難して来ていた年少組も何時の間にかやってきており、出撃するその背に歓声と共に手を振っていた。

 

 

 

 

 

 三番組との戦闘は、オーリスにとって正しく蹂躙(・・)であった。

 歩兵やMWが雑多な火力で抵抗を試みて来るが、グレイズには届かない。

 人やMWが使用できる程度の小口径銃でMSの装甲を傷つける事は出来ず、かといって対装甲用ロケットの類は管制用知性体(アーティフィシャル インテリジェンス)に制御された12.7㎜の近接防御火器(CIWS)よって悉くが撃ち落とせていた。

 その様は正に戦場の支配者であった。

 

 とは言えオーリスは一気に三番組を突破しようとはしていない。

 ゆっくりと大地を踏みしめる様に歩いていく。

 

 

「無様だな火星人、正にゴミのようだ!」

 

 

 機嫌良さそうに笑う。

 必死になって行われる抵抗が、心地よかったのだ。

 これがオーリスが火星に居る理由、第1遊撃隊に参加する理由であった。

 

 陣地に籠り必死になって抵抗する三番組の姿は、火星の傭兵(PMCS)では珍しく実に健気で、オーリスの琴線に触れるものだった。

 その健気さにオーリスは全力で応じる。

 MWを踏みつぶし、逃げ惑う歩兵の背中へ対人火器を容赦なく振りまく。

 誰一人として生かしてはおかぬと言う、愉悦。

 

 

「もっと抵抗してみせろぉぉ!!」

 

 

 その時、グレイズのセンサーが異常を察知した。

 地表での異常振動、振動接近中の表示。

 その意味をオーリスが察知する前に、唐突にグレイズの正面に土煙が上がった。

 

 

「っ!?」

 

 

 反射的に操縦ペダルを蹴っ飛ばし、回避行動を取らせるオーリス。

 だが土煙は生きているかの如くグレイズに迫る。

 否、土煙では無い。

 土煙を裂いて、薄汚れた白いMS ―― ガンダム・バルバトスが姿を現す。

 

 

「なにぃぃ!?」

 

 

 MSの突然の登場に、混乱しつつオーリスは管制用知性体(アーティフィシャル インテリジェンス)言われる(表示/提案される)ままに迎撃を選択する。

 操縦桿の引き金を引き、機体各部の機銃を発砲する。

 

 

「おぉっ!?」

 

 

 12.7㎜と言う豆鉄砲(・・・)は、ガンダム・バルバトスの表面を焦がすだけ。

 その勢いを止める事が出来る筈も無い。

 MSの装甲にそんなもの(・・・・・)が効く筈がないのだ。

 選択ミス。

 対MS戦よりも対人戦闘向けに調整された管制用知性体(アーティフィシャル インテリジェンス)を積んだグレイズ故の、失敗であった。

 

 とは言え、オーリスとて無能では無い。

 ほんの数秒でその事を理解し、装備してきていた対MS戦にも使える武器での迎撃を決断する。

 近接戦闘用のバトルアックスだ。

 身体を滾らせるアドレナリンが、オーリスに退くと言う事を許さなかったのだ。

 そこにはガンダム・バルバトスの外見が余りにもみすぼらしい ―― 1次(フレーム保護用)装甲が殆どで、頭部や胸部など限られた部分しか2次(対MS戦闘用)装甲が残っていない事もあった。

 オーリスの見る所、ガンダム・バルバトスは廃棄寸前の老朽機でしかなかった。

 即ち、簡単に撃墜()の取れる相手にしか見えなかったのだ。

 

 それが致命的な誤りとなる。

 

 

『オーリス一尉!』

 

 

「クランク、要らぬ世話よ!」

 

 

 覇気溢れる声で笑うオーリス。

 推進機を止めて機体を接地させ、迎撃を選択する。

 振りかぶったバトルアクスは、更にその上から振り下ろされた大型メイスによって弾かれた。

 大型メイスはそのままグレイスを潰す。

 左肩側から入ったメイスは、グレイスの頭部と胸部は前衛芸術の様な形へと強制的に変容させる。

 

 

 

 大地へと力なく沈むグレイスに、クランクは直ぐに反応できなかった。

 

 

「馬鹿な」

 

 

 高硬度レアアロイで構成されているMSのフレームがあんなにも簡単にとの驚愕であった。

 MS乗りとして戦歴を重ねているクランクではあったが、その戦歴は精々が小競り合いが殆どの海賊退治程度であり、本格的な対MS戦の経験が少なかった事が、その驚きに繋がっていた。

 

 

『オーリス一尉!? おのれ、不逞のMSめ!!』

 

 

 が、アインの激高に、呆けている場合では無いと心機一転させる。

 操縦桿を握り直して叫ぶ。

 

 

「アイン! 私が奴の相手をする。お前は511(オーリス機)を救助しろ」

 

 

『はいっ!!』

 

 

 クランクは管制用知性体(アーティフィシャル インテリジェンス)のモードを対人から対MSへと変更させると、推進機を盛大に吹かして後方から一気に前へと飛ぶ。

 

 

 

 三日月のMSが前に出た事で、ギャラルホルンの圧力が下がった事を察知したオルガは、急いで防衛ラインの再編成を指示した。

 前線の塹壕を放棄し、人もMWもCGS本社施設直前の最終防衛ラインへの後退である。

 

 

「死んだ奴は仕方がねぇ、だが生きてる奴は絶対に置いていくなよ!!」

 

 

 声を張り上げて命令を出すオルガ。

 今のうちにと言うオルガであったが、そのMWを操るユージンが報告を上げる。

 

 

「オルガ、まだ来る(・・)。連中、何機持ち込んでやがるんだよ!?」

 

 

 MS、クランク機だ。

 少し遅れてアイン機も続いている。

 

 

「おいミカ、まだやれるか?」

 

 

『やるよ。やるしかないんでしょ。前に出るからその隙に皆を下げて』

 

 

「すまねぇ ―― 任せるぜ」

 

 

『任された』

 

 

 前に出るガンダム・バルバトス。

 その雄姿を眺めるという贅沢をせず、オルガは三番組に指示を出す。

 

 

「急げ急げ、MS戦に巻き込まれたら死ぬぞ。死ぬ気で撤退しろ!!」

 

 

 それから通信機を管制塔のビクターに繋ぐ。

 

 

「教官、聞こえるか?」

 

 

『ああ、まだ管制塔だ。どうした?』

 

 

「まだMSは見えるか?」

 

 

『いや、居ないな』

 

 

 全周、今姿を見せている奴ら以外に動きは無いと言うビクター。

 その声に動揺などは無い。

 お蔭で1つ、オルガは安堵の溜息を洩らした。

 

 

「そいつは何よりの朗報だ。後、一番組の方はどうなってる?」

 

 

ワチャクチャ(・・・・・・)だ。手荒い乱戦になってる。昭弘の隊も近づききれてない』

 

 

「押し込まれてないなら良いさ」

 

 

『良い判断だ』

 

 

 雑談をし、そして最後にオルガは本音を漏らした。

 言いたかった。

 或は零したかったのだ、不安(・・)を。

 

 

「なぁ教官、ミカは勝てるかな」

 

 

『………信じてやれ。今はそれしか出来ないんだ』

 

 

「そうだよな、すまねぇ」

 

 

『気にするな』

 

 

 オルガの心境を察していたビクターは、珍しい位に優しい声を出していた。

 それは年長者(ベテラン)の気遣いでもあった。

 

 

 

 接近して来る2機のMS。

 だがガンダム・バルバトスの管制用知性体(アーティフィシャル インテリジェンス)は、2機を別の分類に入れた。

 クランク機は要警戒(レッド)、アイン機は警戒(イエロー)と。

 ガンダム・バルバトスが積み上げて来た戦闘経験が、2機の挙動の差から目的を察知させたのだ。

 同時に、接触式パネルに赤い文字で警告が出される。

 オーリス機との戦闘機動で各部のセンサーが機体各部の異常を察知して報告していた。

 そして推進剤の残量の少なさ ―― 連続噴射推進可能時間が10分を切っていると言う警告であった。

 

 

「それでも戦わないって選択肢は無いから」

 

 

 機体に答える様に呟く三日月。

 その視線は、接近して来る2機を睨み続けている。

 と鼻の違和感、再び溢れた鼻血を何事でも無いかの如く拭う。

 阿頼耶識システムを介して三日月の脳に転写された情報(・・・・・・・)は、MWとはけた違いの精度と密度であり、少なからぬ負荷を与えていたのだ。

 頭痛や吐き気が三日月を襲う。

 とは言え、そのお蔭でガンダム・バルバトスを操れる様になったのだ。

 文句を言える話では無いと割り切っていた。

 

 操縦桿を握り直し、狙いを定める。

 狙うはアイン機。

 牽制に機銃を撃ちながら突っ込んで来る。

 管制用知性体(アーティフィシャル インテリジェンス)の機動予測が足元 ―― オーリス機を狙っていると示しているのだ。

 目的は救援だろうと判断する。

 であれば、そこに届いた瞬間(・・・・・)に殴りつければ潰せると読んだのだ。

 

 残り少ない推進剤を吹かして、低く横に飛ぶ。

 クランク機の跳躍突進を躱し、オーリス機を軸にして90度以上回る。

 撤退中のギャラルホルンのMW部隊を背にした。

 流れ弾がMW隊を襲う前に、MWの敵味方識別装置(IFF)の信号を確認したアイン機の管制用知性体(アーティフィシャル インテリジェンス)誤射危険(アラート)を宣言、射撃を中止させた。

 

 

「こうすれば撃てないだろ」

 

 

『モビルワーカーを盾にするとは卑怯だぞ、貴様ァ!!』

 

 

 酔狂な事に外部マイクを入れて叫ぶ敵機(アイン)に、三日月は唾棄する様に呟く。

 どの口が、と。

 散々にMS(オーリス機)で三番組のMWを蹂躙し、多くの人間を殺した連中が何を寝言を言うのかと。

 

 先ず殺してやる。

 殺意を言葉にせぬままに、機体を操る。

 突進。

 最後に残ってた推進剤を盛大に噴射し、地を這うように一気に迫る。

 

 投射。

 大型メイスを投げさせた。

 

 

『武器を捨ててっ!?』

 

 

 棒立ちのままに、大型メイスを弾いたアイン機。

 反応速度は悪くない。

 だが、その余りに稚拙な(緩い)動きに、三日月は相手が新兵であると当たりを付けた。

 最初にコイツを狙った事が間違いでは無かったと確認した。

 戦場では弱い奴から潰していく。

 慈悲は不要。

 潰す事で彼我の兵力差(シーソー)を揺らし、より戦闘を楽に進めろとビクターが教えたのだ。

 勝つ為の、生き残る為の教えを三日月は忠実に守る。

 

 最後の推進剤を振り絞ってガンダム・バルバトスは飛ぶ。

 飛んで、弾かれた大型メイスを掴む。

 掴むや一気に降下し、撃ち下す。

 

 出鱈目なGに揺さぶられながら、三日月は歯を食いしばってガンダム・バルバトスを操る。

 管制用知性体(アーティフィシャル インテリジェンス)が示した攻撃コースの中で、最大威力を選ぶ。

 推進剤は空になる最終警告(レッド・アラート)を理解し、ケリを付けるのだ。

 

 必殺の意思が乗った大型メイスを前に咄嗟に回避運動を取れた事は、アインが非凡な才能を持ったMS乗りである事を示していた。

 だがそれでもガンダム・バルバトスの攻撃範囲から逃れる事は出来なかった。

 

 

「浅い ――」

 

 

 勢いの乗った大型メイスは、アイン機の腕を叩き折り、構造体(フレーム)に深刻な損傷を与えた。

 そしてパイロットにも。

 吹き飛ぶアイン機。

 

 管制用知性体(アーティフィシャル インテリジェンス)がアイン機の擱座(ディフィート)確率が低い事を算出し、報告して来る。

 何より三日月の戦闘カンが、相手はまだ動けると告げていた。

 追撃。

 推進剤はもう残っていない。

 三日月は踏み込み、致死の一撃を放とうとする。

 

 

『させんよ!!』

 

 

 クランク機が割り込んで来る。

 牽制にと全身の機銃を発射しながら、バトルアックスを振りかぶってくる。

 

 致死の一撃を放てば、同時に致命的な隙を見せる ―― 三日月はその事を咄嗟に理解し、機体を操る。

 勢いの乗っていたメイスを離し、その反動に合わせて大地を蹴って後退する。

 無茶苦茶と言って良い三日月の操作、だがガンダム・バルバトスの管制用知性体(アーティフィシャル インテリジェンス)は、歴戦であるが故に豊富な戦闘経験から、その操作を無理のないものへと修正してみせた。

 機体の姿勢制御システム(ジャイロ)を全力で動かし、機体のバランスを崩さぬ様に魔法の様に慣性(モーメント)を取った。

 お蔭で、ガンダム・バルバトスは両足で着地に成功する。

 

 無くした武器の代わりは、足元にあった。

 オーリス機のバトルアックスだ。

 

 連続しての第3戦。

 だが、クランクは戦う事を選ばなかった。

 戦闘の機は失われたと判断し、頭部後方に設置されている信号弾を3発、発射する。

 白、白、赤。

 全部隊への撤退命令だ。

 併せて煙幕弾を発射する。

 

 

「っ!」

 

 

 一瞬だけ失われた視野。

 その一瞬を無駄にする事無く、クランクはアイン機を抱えて撤退した。

 

 

「退いた……のか………」

 

 

 守れた。

 三日月は、そう思った瞬間、盛大に鼻血を流して気絶していた。

 

 

 

 

 




(あとがき)
 粗筋に追加が難しいので、コッチでごーごー

 4大勢力、改めて見ると謎過ぎるんで、改めて再設定ごーごーな件。
 と言うか、4大勢力だけで地球上が色分けできるとかナイワーだと思うのですよ。
 経済的な意味合いで見捨てられた場所とかありそうですからね。
 なので主要4大勢力と、それ以外という形で逝きます。
(つか、日中印が参加したグループがオセアニアの看板を上げているとか、そらどっち側からしても酷いジョークにしかならないと思うのですよねー)
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