普通に戦闘後会話シーンでなんとかなるやろと思ってたけど
やっぱそこは最初にフォローするべきでした
お兄さんゆるして!
というわけで次話かその次らへんで説明入れます……
て感じで
僕のガバが多分にあったのであんま楯無さん責めないであげてください
お兄さんとの約束だよ
織斑一夏を間に挟んで、二人の少女が火花を散らせている。
もはや事態は渦中の彼自身を置き去りにして進行していた。
「えー、絶対私が教えた方が実のある訓練になるんじゃないかしら?」
「断る。指導役は当方である」
自分を取り合って美少女がバトルを繰り広げる、思春期の男子なら一度は夢見たシチュエーション。
その中心で、一夏は背中をびっしりと冷や汗で埋めていた。
(これは、やばい。まさかこんなに唐突なタイミングで、俺の存在価値がトラブルを引き起こすなんて……!)
現状では唯一無二の人材である、ISを起動できる男子。
これは彼の指導役というポジションをめぐって、日本とロシアが争っている国家間闘争にも等しい事態だった。
見守っている箒とセシリアも割って入るわけにはいかず、少し離れた場所で静観せざるを得なかった。
譲る気配のない東雲に対して、楯無は薄く笑みを浮かべる。
「なら東雲ちゃん、こういうのはどうかしら。戦って勝った方が、一夏君の指導役になる。単純明快でしょう?」
「本気か?」
東雲の切り返しは一夏にとって意外なものだった。
もはや両者の空気は最悪そのものであり、この場でどちらかが武器を取り出してもおかしくないほど。
だというのに、楯無の提案に対して、彼女は胡乱げな目を向けた。
「……ああ、そうね。私って公式映像ほとんどないし。再来ちゃんも、代表候補生になってから見れたでしょ?
楯無の言葉を聞き――最初に得心を得たのはセシリアであった。
(なるほど。国家最強戦力としての地位はあるが、むやみに実力を振るうわけではないと。いかにもロシアらしい立ち位置ですわね。
同時、箒もこの場における駆け引きを理解する。
(なる、ほどな。あの生徒会長は……札を一枚切った。私たちにとっては切り札に等しいそれも、
一方で――張本人にして、もはや景品のように扱われていた一夏は、努めて冷静に二人の様子を観察していた。
状況を掌握するには情報量も覚悟も足りない。だが思考停止こそが敗北だと彼は理解していた。
既に混乱からは抜けだし、彼もまた自分にとって最大の利益はどこにあるのかを考えている。
(恐らくここまでは生徒会長……楯無さんの計算通りだ。国家代表サイドから喧嘩をふっかけて、代表候補生が素直に了承するわけにもいかないんだ。俺はまだピンと来てないけど、東雲さんの反応からして、多分そうなんだ。だからこそ自分からふっかけて、東雲さんが退くのを待っている。なら、俺はどうするべきだ? 俺にとっての最適解は何だ? はっきり言ってどちらの指導がより有用なのか、判断材料が少なすぎる。学園最強っていう肩書きを信頼するなら、楯無さんだが――)
けれど彼の行動を縛るのは、他ならぬ自らが師と定めた少女の言葉。
(肩書きに、価値なんてない。全ては戦いの後に生き残っているかどうか。それなら俺としてはぶっちゃけ戦ってもらった方が分かりやすい。でも東雲さんが受諾しそうにないなら――)
「気遣いなどしていない。当方は、純粋に其方の意思が確固たるものかを確認している」
言葉は前兆なしに転がり出てきた。
楯無の表情が――消えた。
「抜けば、斬る。それまでである。それのみである。決着を付けたいというならば当方は満身の力を以て魔剣を振るおう」
「…………へぇ、臆さないのね。言っておくけど、そっちの試合映像とかを見た上で、私は提案しているのよ」
「試合の是非にそれが関わるとは思えない」
「いいわ、今からでどうかしら」
「了承」
一夏を巡る二人の少女は、しかし彼を置き去りにして、並んで更衣室へと歩いて行った。
「……ッ、一夏さん」
「あ、ああ……やっと落ち着いた、けど」
二人の背中を見ながら、一夏は心配げな視線を向ける箒と、これからどうするのかと視線で問うセシリアに、真剣な表情で振り向いた。
「多分、俺はそんなに、結果には頓着しない。でも」
「試合から学ぶべきモノはある、か」
箒の言葉に頷く。
そうして三人は、今度はアリーナの客席へと向かった。
(やっべこの人の戦闘映像見たことあったっけこれ)
隣を歩く楯無の顔を見て東雲令は必死に記憶の糸をたぐり寄せていた。
(なーんか見覚えはあるんだけど、全然思い出せないな……いや完全に頭に血が上って喧嘩売ってしまったな。え、これやばくない? 向こうは見たことあるんだったら普通に条件超不利じゃんやっべ、えぇ……どうしよう……とりあえず最初は様子見から始めるか……初見殺しぶっぱされて終了とかシャレにならないし……覚えてないってことは多分大したことないような気もするけど)
少し気が重くなってきた。相手は国家代表である。
(いやでも、指導役じゃなくなったら……話す機会なくなるよ!? だめだめ、それはだめです! もう絶対に勝っちゃうんだからね! ふぁいとー、いっぱつ!)
本人なりに気合いを入れて、東雲は女子更衣室の中に踏み込んだ。
「来た」
一夏は知らずのうちに両の拳を握り、目を見開いた。
ピットから飛び出す二つの影。
「……機体名『ミステリアス・レイディ』。ロシア製の第三世代機か」
「あの基礎フレーム構造には見覚えがありますわ。恐らく第三世代IS『
箒とセシリアの言葉を受けて、一夏は水色の機体に視線を向ける。
「装甲が……薄くないか……?」
「守りを捨てた超攻撃的な機体なのか、あるいは装甲に寄らない特殊な防御手段があるのか。いや……あの装甲、まさか結晶装甲か? かなり特殊な材質だ。ならば、何か奇異な防御方法を有している可能性が高いぞ」
「ええ、わたくしも同意見です。恐らく何か隠し球があるのでしょうね。自律行動ができるかは分かりませんが、左右にビットが浮遊しています。また黒いリボン状のフレーム、アレも見るからに特殊兵装ですわ」
勉学を重ねているとはいえ、未だ知識量においては二人に及ぶはずもない。
箒とセシリアは有する知識を元にした洞察を口にした。間違いなく、『ミステリアス・レイディ』は未だ見たことのない、極めて特殊なISであると。
聞こえた内容をしっかり脳に刻みつけつつ、一夏は、楯無と相対する機体に目を向けた。
対照的に頭部以外をきっちり覆う、茜色の装甲。
鋭角的なデザインながら、コンパクトにまとめられた全高。
「……機体名『
その名を発しただけで、三人を得体の知れない緊張感が襲った。
「日本代表候補生ランク1にして『世界最強の再来』、東雲令の専用機――か。あの機体のベースは……『
「分かりにくいだろうが、『打鉄』と自衛隊正式採用枠を争って敗れた『明星』という機体がベースだ。しかし一夏、彼女の試合映像は見たことはないのか?」
「いや……恥ずかしながらないんだ。前はISの試合なんて千冬姉のぐらいしか見てなかったし、訓練を始めてからも、東雲さんから上手い人の機動を見るより自分の理想を突き詰めていった方がいいって言われててな」
「合理的ですわね。ですが今の貴方が見ても、悪い影響を受けることはないでしょう」
「それって、誉めてくれたのか?」
「さあ?」
セシリアは肩をすくめた。
「まあ、とにかく、思ってたよりは普通の機体……な感じだけど。あのバックパックは何なんだ?」
一夏が指さしたのは、『茜星』の背中に浮かんでいる巨大な
薄く、しかし表面積は大きな、それは十人が見て十人が断言する、ただ紅いだけの直方体だった。
「銃火器には見えない。だからといって刃があるわけでもなく、挙句の果てにはスラスターも見当たらないぜ。まさかシールドじゃないよな?」
「……多分、実際に見た方が早いですわ」
セシリアは東雲令の戦装束姿に、少し前のめりになりながら言い放った。
「すまない一夏、私も同意見だ。言葉で説明するよりも断然、見た方がいい」
「そう、か。うん、二人がそう言うなら、この目で確かめるよ」
その時。
『観戦しに来たのか』
不意に声が響いた――東雲令だ。
「あ、ああ。悪かったか?」
『否。だが……参考にはしないでほしい』
ISを用いて、一夏は遠視モニターを出した。
拡大すれば、茜色の装甲を身にまとった東雲の顔が映る。
「そこは気をつける。あと……俺にとってはこの戦い、すっげえ重要な戦いだと思うんだけど……個人的な感情としては、やっぱり東雲さんに勝って欲しい」
『ほう? 国家代表を相手に、我が弟子は無理難題をおっしゃる』
珍しく砕けた、冗談であることを明白にした言葉だった。
「無理難題とか言ってるが」
「微妙ですわね。映像と実戦が異なることはままあります。特に東雲さんはひどいもので……わたくしが初めて戦った時は映像と別物過ぎて、一周回って笑えましたわ」
『当然である。当方は敵を撃滅する上で必要な戦力をもって当たる。故に見え方は異なるだろう』
箒とセシリアの会話にそう補足して、東雲は正面の敵に向き直った。
(…………ん? それって戦う相手によって色々変えるってことだよな? 勝ちパターン一種類じゃなかったっけ東雲さん)
思わず、一夏は首を傾げていた。
なんか言ってること違う気がする。
「ちなみにセシリア、具体的にはどこがどう変わるんだ」
箒の問いは興味本位だった。
だから――セシリアの顔が少し青ざめたのに、思わず驚いた。
「……どうしたんだ、何か、悪い思い出が?」
「最悪――ええ。文字通りに最悪の思い出ですわ。ですがまあ、いいでしょう。問いに答えます」
自然、一夏もセシリアの言葉に耳を傾けている中。
彼女は東雲令という少女の戦いをこうまとめた。
「
「……カウント?」
「ちょっと~? 私を無視しないでほしいんだけど~?」
通信を終えて、東雲が顔を向けたとき、楯無はぶーたれた表情だった。
「謝罪する。だが当方は既に戦闘準備を終えている」
「あら、そう」
口調や表情こそふざけていても、楯無の視線は鋭い。
まず確認するは相手の装備。映像で確認した通り、彼女は最初に武器を持っていない。
また剣気もなく――準備を終えたという割には、攻め気のない様子だった。
(ふーん、まずは様子見か。ならこっちは……)
試合開始のカウントが刻まれる。
三秒前の段階で、楯無は各部のウォーターサーバを起動。
全身を水のヴェールが覆い、さらには手にしたガトリングガン内蔵型ランスが水の穂先をまとい真の姿を現す。
『――――ッ! あれが、楯無さんのISの機能か……!』
「そ。水を扱い、流麗に戦う。学園最強の技量、売り込んであげるわ」
観客席で驚嘆する一夏にそう告げて、楯無はカウントが零になると同時に飛び込んだ。
水のマントが広がり、ランスを勢いよく突き出す。
しかし東雲は一切の反撃を行うことなく、鋭い突きをいなし、かわし、眉一つ動かさないまま攻撃を捌き続ける。
「思ったよりすばしっこいわね……!」
人間の反応速度には限界がある。見てから身体を動かしていては間に合わないことも多い。
だが東雲は明らかに、全ての攻撃を見切っていた。
急所は確実に避けつつ、時には腕の装甲で逸らし、時には穂先を蹴り上げて攻撃を届かせない。
(ディフェンスが固いわね、ちまちま削っても倒せそうにない――なら!)
スピードに目を見張るものを感じた楯無は、素早く巨大な槍で、横合いになぎ払った。
ランスを覆う水流のドリルが膨れ上がり広範囲を一掃する。しかし――東雲は大きく前傾姿勢を取り、そのなぎ払いの下に潜り込んだ。
「ッ!?」
攻撃を予期し飛び下がる――同時に
だが。
「……ねえ、今の、懐に入ろうとしたくせに、攻撃の意思を感じなかったんだけど」
「肯定する」
明らかにインファイトの気配を見せておきながら、東雲は徒手空拳のまま。
潜り込んだ瞬間に武器を出されたところで回避自体は恐らく間に合っていた。だが、攻撃するつもりがないのに敵に近づくとはどういうことか。
その答えはすぐに弾き出される。
「つまり
「?」
「ここ屋外なのに……湿度、高いでしょ」
言葉と同時――観客席で一夏は咄嗟に、『逃げろ』と叫んでいた――楯無が指を鳴らす。
轟音。それと共に巨大な火柱が上がった。
東雲の機影が炎の中にかき消える。思わず観客席の三人は立ち上がった。
『東雲さんッ!?』
「ただの水じゃないわ。ナノマシンによって構成されたこの水流は、ISから伝達されたエネルギーによって……」
BOMB! と彼女はおどけてみせる。
「『
『飛び込んだ際に、あらかじめナノマシンを散布していたってことですか……!』
「そそ! まあ一夏君に教える上では、きちんと近接戦闘を教えてあげるから安心なさい」
そう告げる楯無は勝利を確信していて。
火力としてはISのエネルギーを削りきるのには十二分で。
「どこを見ている」
全身を悪寒が走った。
まるで突然足場が割れ、冷や水の中に突き落とされたような感覚。
ガバリと顔を向けた。
爆発、『清き熱情』による破壊攻撃はアリーナの大地を砕き、甚大な被害をもたらしている。
特殊合金ですら跡形もなく粉砕されるであろう威力の証明だ。
――しかし。
それが全て幻であるかのように、無傷の東雲が、凄惨な破壊跡の中心に佇んでいた。
「……なん、で」
「爆発とは即ち炎熱、衝撃を伴うものである。だが
何を、言っている。
何を、言っているのだ、この少女は。
理解不能の理論をぶつけられ、楯無は思わず槍の穂先を向けた。
ガトリングガンによる牽制目的だった。
しかし――次の瞬間。
楯無は戦慄の余り、一切の身動きを止めてしまう。
立ち上がったまま、一夏はこれ以上なく目を見開いていた。
いや、隣の箒……篠ノ之流という一つの武道を修めた少女の方が、その驚愕は計り知れなかった。
東雲は無手のまま、脱力した。
ぶら下がる両腕。
無意味な力みはかき消えた。
不必要な気炎も消失した。
そこには究極の自然体だけが在った。
(あ、これ、やばっ)
「底は知れた」
変化は劇的だった。
全身の装甲がスライドし、隙間から過剰エネルギーの粒子を放出した。
紅く、紅く……まるで全身を巡る動脈のあちこちから鮮血を噴き上げるように。
「これより迎撃戦術を中断し、撃滅戦術を開始する」
背部の
直方体だったそれが円状に展開され、一夏は目を剥いた。
それらは計十三個にも及ぶ、刀を収めるバインダー。今の今まで集積し、四角いバックパックに擬態していたのだ。
東雲の背後で、太刀を格納する十三のバインダーが円状に配置される。
簡素な柄をパイロットに向け、横から見れば筒を描くように。
「――
だが円状のそれらは楯無から見れば、リボルバー拳銃の
その比喩になぞらえるなら。
他ならぬ東雲令自身こそが、楯無に向けられた銃口。
「当方は――五手で勝利する」
アリーナに鬼神が降臨した。
(よーし我が弟子応援してくれたしやっちゃうぞー! そのうち愛弟子とか呼んじゃったり……いやいや待って! 愛弟子ってもうそれ告白じゃない!? だ、だめだよまだ明確に好きかどうか分かんないし! そりゃかっこいいと思うし顔も好きだし、真剣に訓練に付き合ってくれるのも好きだし、諦めないとことかは好きだけど……! あれ!? 好きな所しかないな!?)
試合に集中しろ。
口調も外見もちゃんと戦術に反映されている
これだけははっきりと真実を伝えたかった