【完結】強キャラ東雲さん   作:佐遊樹

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二話まるまるパロディに費やすって本当に最終章目前なのかよこの小説


57.世界最強の再来VS日本代表(後編)

 決戦は息詰まる終盤を迎えていた。

 魔剣を完了させた東雲が、静謐極まりない空気を身に纏い、敵と相対している。

 

 彼我の距離は数十メートル。即ちISバトルにおいては瞬きする間に死ぬ。

 だというのに、日本代表は特別気負うこともなく、刀を緩やかに構えた。

 数秒の沈黙──耐えきれず、観客の一人が唾を飲んだ直後。

 

 間合いが、刹那に詰められる。

 

「一手ッ!」

 

 振るわれた斬撃を代表は軽く弾いた。全身を防護する電磁バリアに絡め取られ、東雲の攻撃が勢いを削がれているのだ。

 攻撃において『世界最強の再来』を上回るとされ、しかし圧倒的な堅守も見せつける日本代表──そんな彼女が。

 

「チィィ──!」

 

 舌打ちとともに、握っていた刀を東雲めがけて投げ込んだ。軽く首を傾げるだけで、東雲はそれを避けた。

 長い黒髪がたなびく後ろで、ブーメランのように回転しながら、刀身が砕け散っていく。

 

()()()()()()()()()()()()()! 電磁バリアの膜を貫通してからインパクトを上乗せしたのでありますか! 一手目は此方の武装を破壊するためのみに……! しかし今の技術、一体どこから引っ張ってきたのです!?)

 

 答えは、管制室で絶句している、彼女の愛弟子だ。

 織斑一夏が研鑽の果てに身につけた、瞬間的な斬撃出力増加テクニック。

 一度それを身に受け、あろうことか二度目は第三者視点で観察できた。

 ならば──東雲令に実行できない道理はない。

 

「二手、三手ッ!」

 

 続けざまに東雲が連続抜刀術を放つ。

 代表が二本目の太刀を引き抜く暇もない。最小限の身体捌きで致命傷にならないよう受け流していく。見事なポジショニングと電磁バリアが重なり、斬撃は代表相手にクリティカルなヒットを果たせない。

 だが三手目──それが日本代表の愛機『宵明』の胸部装甲をひっかいた。

 

 おや、と濡羽姫は悲しげに眉を下げて。

 

「これは不覚。おっぱいに当たってしまったのであります」

四手(しね)ェェェェッ!!」

 

 怒りに身を任せるような愚行はしなかったが、声にこれ以上無い殺気が載せられた。

 唐竹割りが強引に電磁バリアを破り、しかし刀身の根元に肩を入れられて威力のほとんどを殺される。

 

「五手!」

 

 東雲にとって──それは想定済み。

 砕けた刀を捨てた左手、その真後ろに、既に次の得物が待機している。

 東雲はそれを()()()()()()()()()──これもまた、一夏が東雲相手に披露した技術を模倣、更なる改良を加えた上位互換だ──代表の胴体に斬りかかる。

 観客全員が有効打を確信した。回避は間に合わない。

 しかし。

 

「無駄でありますよ」

 

 管制室で、一夏は思わず限界まで目を見開いていた。

 濡羽姫の右肘と右膝。それらが()()()()()()()()()()()()、刀身を噛み止めていたのだ。

 

(磁力を操作して防御行動の速度を上げたのか……当方が最後に戦った時よりも、イメージ・インターフェース兵装の柔軟性に磨きがかかっている)

 

 かつて一夏がクラス対抗戦で咄嗟に見せた絶技。その完全上位互換。

 基礎からレベルが違う。

 次元が、違う。

 格下にできること等全て実行可能。それでいて、自身独自の強力な技術も持ち合わせている。

 

 これが、日本代表──管制室の面々は息をすることすらできなかった。

 

 見る者を魅了する濡羽姫の戦闘機動。

 故に数秒、誰もが忘れていた。

 

「……ッ!」

「──六、七手」

 

 ──東雲令は()()()()()()()()()()()()、『世界最強の再来』と呼ばれているという事実を。

 

 攻撃を止められたことなど頓着せず。

 東雲の両手は既に閃いていた。代表が二本目の太刀に手を伸ばすが、もう遅い。

 磁力バリアの反発力をすり抜けるようにして、正確無比な斬撃が代表の首に吸い込まれる。

 

「磁力パターンは読み切った。詰みです」

 

 火花が散り、エネルギーバリヤーが食い破られ、絶対防御が発動。

 金属を跳ね返す磁力の渦。だがそれはあくまで、濡羽姫が人為的に操っている代物。

 既に何十何百と切り結んだ──ならば、その指向性を読み切ることなど、東雲にとって造作もない。

 たたらを踏んで代表が数歩分下がる。即座にそこを詰め、東雲が次の太刀を振るう。

 

「八手」

 

 斬撃というよりはゴルフのスィングに近かった。

 真下から振り上げられた深紅の太刀が、濡羽姫の顎を打つ。

 その時にはもう東雲は次の剣を引き抜いていて。

 トドメの一撃を、大上段に振り上げていて。

 

 

 

 勝敗は、決まった。

 

 

 

「──九手、死ねぇ日本代表ッ!!」

「死ぬのはそっちなのです」

 

 

 

 勝負が決まる、刹那だった。

 天を仰いでいた代表がバッと顔を東雲に向け、悪鬼が如き笑みを見せた。

 同時。

 

 機体全体を覆う磁力のバリアが、突如として形状を崩した。

 

 否、否! 崩したなんてものではない──解放された磁場はサイクロンのように、二人を中心に据えて荒れ狂っている。

 戦場が、不可視のカオス状態に陥った。

 身体を覆う鋼鉄の鎧が軋みを上げる。東雲の剣筋が、乱反射する磁力に巻き込まれ不自然に傾いだ。

 

「……ッ!?」

 

 修正は間に合わない──全くの無秩序である磁場を読み切れない。致命打は無様な太刀筋に成り果て、空を斬るに終わった。

 なるほど、と東雲は感嘆する。防御一切を脱ぎ捨てることで、副次的に磁力の乱反射を発生させ、金属による攻撃を無効化する。レーザー類には無力だろうが、バリアを貫通してくる近接戦闘用ブレードやライフルの弾丸すら、代表の身体に到達することはなくなっただろう。

 だが条件は相手も同じだ。

 

(必ずどこかで解除する。そこが付け目だ──)

 

 東雲は冷静に機体制動を調整しつつ、次なる攻撃のタイミングを探し始めた。

 しかしその中で。

 

 代表の左腰。納刀されている最後の得物。

 既に濡羽姫は柄に手を添えて、抜刀の姿勢を取っていた。

 

「たまには、胸囲以外でも勝たねばなりませんので」

「な──!?」

 

 東雲の眼前で、刃が解放された。

 鞘から顔を出した白銀の刀身は、黄金の光を纏っている。過剰エネルギーか、それは雷のように周囲へまき散らされた。

 あり得ない、と世界最強の再来は驚愕する。攻撃が届くはずがないのだ。この不規則な磁力に支配された場で、相手に狙って斬撃を当てることなど不可能のはずだ。

 

「……ッ!」

 

 咄嗟に受け流す体勢を取ろうとして、気づく。

 磁力の嵐が『茜星』の装甲に干渉して、平時の明鏡止水が如き受け流しすら成立しない。

 

(これは──当方の防御術を想定した──!?)

 

 東雲の観測を超えて、濡羽姫の斬撃は()()()()()()()()()

 

 

 

 

「──電磁炸裂抜刀(バースト・マグニソード)。どうぞご賞味あれ」

 

 

 

 紅き刃を真っ向から断ち切り。

 黄金の光が、東雲の視界を埋めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 磁力バリアを解放した際の無秩序な──磁気嵐に則り、こう呼称しよう──磁場嵐。

 東雲の観察眼を以てしても、人間には操りきれぬカオス状態と断じられた。そう、断じざるを得なかった。

 

 

 しかし濡羽姫は磁場コントロールを手放してなどいなかった。

 この決戦の結末は、それが全てだ。

 

 

 空間そのものを埋め尽くしていた磁場嵐。

 それが()()()()()()()()()()()()、一筋の電磁レールへと収束したのだ。

 不規則な乱反射であった。しかしその不規則性は、代表が計算し尽くした、かりそめの姿。

 そこから一転して、磁力を局所的かつ極大出力で収束。

 腰元に納刀状態で待機している太刀を刹那の内に敵へぶつける必殺技術。

 

『──()()()()……とでも言うべきでありましょうか」

 

 茶化すような声色だが、言葉に嘘偽りはない。

 まさしく濡羽姫の一閃は、地に墜ちる雷ですら断ち切るだろう。

 

(……二度目はないでありますな。ただまあ、今は勝利を喜ぶとしましょう)

 

 異名に違わぬ疾風迅雷。

 日の本を背負う女傑は、底知れぬ色を瞳に湛え。

 地面へと墜落していく『茜星』を見つめながら。

 静かに、それでいて荘厳に──納刀音を響かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブザーが鳴ったとき。

 放心して、生徒たちは立ち上がることすら出来なかった。

 

「……嘘、だろ」

 

 一夏は呆然と、口から言葉をこぼした。

 横に並ぶ面々も両眼をこれ以上なく見開いて愕然としている。

 

 モニターに表示される──東雲令、エネルギー残量ゼロの表示。

 

 自分ならどうだった、と誰もが考えた。

 東雲の二手と三手の連撃──そこでやられる。運次第では乗り越えられるかもしれない、だが五手だ。あの逆手抜刀の速度に、対応できない。間違いなくそこで詰む。

 だというのに──結果として八手を受けても尚生存し、九手を撃たせずに、カウンターの一閃で濡羽姫が東雲を沈めた。

 言葉を失う一同を見て、簪は小さく頷く。

 

「みんなは慣れてないよね……令相手に、あの人は大体二割の確率で勝てるの」

「二割……!」

 

 恐るべき数字だ。

 二割──二割、東雲令に勝てる。

 

 しばし無言の時間が続いてから、一夏たちは慌てて立ち上がり、ピットへ向かった。

 既に試合を終えた両者はピットに帰還しており、装甲を脱ぎ捨てISスーツ姿で相対していた。

 

「……完敗です」

「いえ、次はないでしょう。一度きりのだまし技なのです。とはいえ今回は私の勝利でありますな」

 

 日本代表はピースサインを突き上げていた。

 東雲は平時と変わらぬ無表情……に見えて、両手を硬く握り肩をふるわせている。

 思わず一夏は声をかけようとして、だが言葉が見つからなかった。

 

「東雲さん……」

「……無様な姿を見せたな」

 

 そんなことない、と否定しようとして、口が巧く動かない。

 箒たちも心配げに師弟を見つめていたが、やはりどうにもできなかった。

 黙り込む二人を見かねてか、整備班に『今回の調整もイケてたのであります。強いて言うならバリア解除後の関節補強がやや甘かったのであります』と理論的な指摘をしていた代表が歩いてきた。

 

「東雲代表候補生。別に私にはいつでも負けていいと思うでありますよ。私、一応代表ですので」

「……それは、そうですが」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ハッと、東雲は顔を上げた。

 

「今の東雲代表候補生は、肝心な所で負けてしまいそうなのです。私、なんとなく感じるのです。致命的なタイミングで、致命的な敗北をしてしまうような……」

「それは……」

 

 濡羽姫の台詞には、何故か頷かざるを得ない、身に迫るような実感があった。

 絶対的な強者であるが故に持つ、『()()()()()()()()()()()』──織斑千冬にとっての第二回モンド・グロッソ。日本代表にとってのそれは知らないが、きっとあったのだ。

 そして東雲令はまだ、そんな失敗をしたことがない。

 

「……あー、失礼。代表、ちょっとチェック箇所が……」

 

 と、その時。

 整備班の一員である男性が、遠慮がちに濡羽姫へと声をかけた。

 代表は東雲に「では」と軽く一礼し──ささっと前髪を整え、自分の身だしなみを瞬時にチェックしてから、彼の元へ駆け寄る。

 

「はい、何でしょうか」

「あ、電磁制御担当(ぼく)じゃなくて。武装担当の方からです」

「むむ。分かりました……が! せっかく勝利したというのに、褒め言葉の一つもないのは遺憾の意を表するのです!」

「えぇ……」

 

 一夏たちの目の前で、なんか夫婦漫才みたいな会話が始まった。

 おや、とセシリアが目を丸くする。

 何せ分かりやすいほどに──日本代表の態度が違う。露骨にぐいぐい行っている。

 

「これはもしかして……」

「あらー、『疾風迅雷の濡羽姫』も隅に置けないわね」

 

 様子を窺う箒の声に、鈴がニヤニヤしながら乗っかる。

 セシリアはちょいちょいと簪の袖を引いた。

 

「簪さん。あのお二人は」

「……付き合ってないよ。()()

 

 まだ。

 その二文字に、思春期の少女たちが例外を除いて一挙に色めき立つ。

 

「なんだあの女面倒くさいな」

「やめてくれラウラ、その言葉は私たちに効く」

 

 もう一度やめてくれと懇願しながら、箒は無体な発言をしたラウラを諫めた。

 

「はい。ええと。それじゃあ……よ、よくやりました、ね?」

「何ですかその言い草は! 近所の子供相手でありますか!? まーた子供扱いしたのです! ぷんすかです!」

「ちょっ、それは拡大解釈ですよ!?」

 

 文句を一通りぶつけた後、わざわざ「つーん」と冷たい態度を声に表明してから、代表は自分の機体の元へ歩いて行った。

 その背中を見送ってから、自分が視線を集めていたことに気づき、整備班の男性が気恥ずかしげに咳払いをする。

 

「代表と仲いいんですね」

「仲……そうだねえ。良好な関係を築けているとは思うんだけど」

 

 一夏が声をかけると、男性は頭をかいた。

 

「どうにも今みたいに、ぼくのことをちょっかいのかけやすい相手だと思ってるみたいだ」

「はは。分かりますよ、そういう気苦労。俺もみんなには思いっきりブン回しても壊れないおもちゃだと思われている節があるので」

「それは大変だなあ」

 

 会話を聞いて──セシリアは卒倒しそうになった。

 

(それアピールですわ!! お二人とも!! 気づいて!! ください!! それは素直になれない乙女の!! 精一杯のアピールなのですわ!!)

 

 ISに関わる男性は馬鹿しかいないのか? と真剣に疑ってしまう。

 

「……子供扱い、してるわけではないんですよね?」

 

 男二人で心労を共有しているところに。

 恐る恐る、といった具合で、シャルロットが割って入った。

 整備班の男性は顎を指でさすりながら、首を横に振る。

 

「ああ、本人は気にしてるみたいだね。それは別にどうでも良くない? ぼくにとって彼女は素敵な女性だよ。さすがに雲の上の存在だけどね」

 

 それを聞いて。

 シャルロットは突然──間合いを殺して、勢いよく男性の両肩を掴んだ。

 

「あ──諦めないでくださいッ!」

「は?」

 

 何故かシャルロットは鬼のような形相で声を上げた。

 

「応援します! 僕応援しますから! 本当に応援します! 久々なんですこういうの! もう身の回りは人間関係メチャクチャで……! 恋愛ってそうですよね! 一対一で! 絶対実現させましょう! デート代とか全部出しますから! 住所も割り出します! ライバルがいたら任せてください!

 

 この女、必死である。

 がくがくと揺さぶられ、男性が泡を吹いていることにも、それを見て日本代表が冷たい笑顔で歩いてきていることにも気づいていない。

 

 セシリアは嘆息した。

 確かに、今ここにいる顔見知りは、シャルロットにとってはほとんどが恋敵である。普通に考えれば狂っているとしか言いようがない。

 

(だからこそ、わたくしたちが色々と気を回さないといけないのでしょうが……)

 

 基本的には箒を応援することを決めているセシリアは。

 部外者であるくせに場をかき回すことしかしていない、もう一人の傍観者──東雲令にそっと視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(うるせ〜〜!!!!!

 知らね〜〜〜〜!!!!

 

 ╋━━━━

 Infinite Stra

 tos)

 

 

 東雲はヤケになっていた。

 よりにもよって──愛弟子の前で敗北したのだ。接戦であり一度きりのだまし技を使われたとはいえ、負けたのだ。

 

(畜生ォォォッ! 勝てない……ッ! 当方は……ロリに勝てない……ッ! 致命的なタイミングで致命的な敗北って、いつだよ!? 今でしょ!(全ギレ))

 

 落ち武者にふさわしい最悪の解釈である。

 真面目なアドバイスがまるで伝わっていない。これでは濡羽姫も浮かばれないだろう。

 

(当方は負け犬です……ロリ以下の無様な女です……!)

 

 奇しくも愛弟子とまったく同じ台詞を内心で放ち。

 ISバトルでも胸の大きさでも敗北した弱者は、がくりと肩を落した。

 

 

 

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東雲令

『世界最強の再来』

バトルは惜しかったが

胸囲は何も惜しくなかった──

再起不能(リタイア)

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ア サ ル ト ア ー マ ー



フランスクレーマー
「臨海学校で完結したらOVAの来ちゃった♪ができないじゃん!
 どうしてくれるのさこれ(憤怒)(かわいい)
 来ちゃった♪がやりたかったから連載したの!何でないの?
 それじゃぁ(高速切替)……これからOVA先取りしてさ
 来ちゃった♪を書いてくれたらぁ……
 今回のことを織斑先生に内緒にしてあげる」

第二のいなり一夏
「うっ(盾殺し(シールド・ピアース))」

フランスクレーマー
「来ちゃった♪が――フタチマルゥ…」



次回
58.愛に焦がれる多重奏(アンサンブル)


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