【完結】強キャラ東雲さん   作:佐遊樹

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原作10巻リスペクト回です


62.唯一の男性操縦者VS毒蜘蛛(前編)

 可能性を切り拓く、という願いが最初にあった。

 今は出来ないことであっても、いつかは出来るようになると。

 次世代へバトンを託し、結果としてそれが未来をより良いものにすると。

 原初の人々はそう信じていた。

 

 貴方は知るだろう。

 受け継がれてきたものは、希望なんかではないのだと。

 凝縮された悲哀と憤怒、絶望。時の流れは切なる祈りを変質させていた。

 だから私たちはあらん限りの可能性を、全て憎悪に転換して戦い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 剣戟の余波が四方の壁を刻む。

 繰り返される激突音は空間を歪めていた。

 渾身の一撃、それを躱されるという前提を織り込み次なる一手を放つ。

 一つで足りないなら二つ。二つで足りないなら三つ。先を読みその先を理解し、また次の先を見て、次の次の次の次の次の──

 

(計算では……ッ! 計算のスピードなら、俺の方が上のはずだ!)

 

 拮抗しているように見えた。

 素人が見れば、この攻防戦は永遠に続くのではないかとすら疑うだろう。

 たが刃を振るいながら、織斑一夏は苦悶の声を漏らさぬよう必死に歯を食いしばり。

 相手取っているオータムは、両手の短剣(カタール)と八本脚を自由自在に操りながら不敵な笑みを浮かべている。

 

(だけど、何度計算を修正しても、()()()()()()()()()()()()ッ! 俺の計算を読んでるわけじゃない、状況ごとの対応力がずば抜けているんだ……!)

 

 微かな角度が違うだけでも、狭い廊下での近接戦闘には重大な影響を及ぼす。

 例えば一夏が左にずれて『雪片弐型』が到達するまでのタイムを縮めようとしても、オータムは即座にそれを看破し、八本脚を壁に引っかけるようにして位置取りを調整し、こちらの目論見をひっくり返してくる。

 

(単純な駆け引きなら敗北は必至! 俺が勝つためには、どこかで出し抜かなきゃならない──!)

 

 握った刃を高速で振るう。飛んでくる攻撃を叩き落とし、返す刀で肩を斬りつける。カタールに防がれるが、これでいい。

 防御一辺倒になれば間違いなく封殺される。常に反撃を差し込み続け、毒をじわりとしみこませる。

 

(オータムからすれば、俺の攻め気を断ち切って、単発で防げている──そう見えているはずだ)

 

 常に攻撃を手放さない一夏にあるまじき、攻撃:防御=3:7ほどのリズム。

 オータムは以前よりもあらゆる瞬間においてスピードを増している。だからこうなるのは予想通りであり、間違いなくオータムの考える必勝パターンをなぞっていた。

 

「そらそら、守ってばかりかァ!?」

 

 鋭利な蜘蛛の脚を突き込みながら、女が叫ぶ。

 眉間に飛んできた刺突をすんでのところで逸らしながら、一夏は流れる汗もそのままに単発の反撃を入れ続ける。

 

(ペースは向こうが握ってる! 手数の差がある以上それは当然! 俺がするべきはペースを取り返すことじゃない……!)

「何が狙いかは知らねえが、その戦い方で私をどうにかできるとでも──!」

 

 八本脚による接射を掻い潜り、一夏が真横から思い切り『雪片弐型』をぶつける。

 オータムは冷静に左手の短剣でそれを受け止めて。

 

 硬質な破砕音──短剣の刀身を打ち砕いて、そのまま純白の刃が迫る。

 

(──武装破壊!? ンな馬鹿な、そんなチャチな耐久性じゃ……!?)

 

 ハッと、そこでオータムは思い至った。

 タッグマッチトーナメントで一夏がラウラ相手に見せた、腕の振るい方からすると不自然なまでに高威力な斬撃。

 密着状態で斬撃の威力を跳ね上げられる、と仮定すれば、今手の中でカタールが粉砕された理由も説明できる。

 繰り返し繰り返し、単発に終わっていた一夏の反撃。

 単発であるというのが、オータムがテンポを握っていたからではなく、一夏が計算した結果だとしたら。

 

(この瞬間を──待ってたんだよッ!)

 

 勢いのままに振り抜かれた『雪片弐型』が、したたかにオータムの顎を捉える。

 シールドエネルギーが大幅に減少。

 だが問題はない。リミッターを解除したISなら、この程度のダメージは痛手にならない。

 本当の問題は。

 

「守ってばっかじゃ──だめだよなァッ!?」

 

 一転して両眼から焔を噴き上げ、織斑一夏の剣が猛る。

 体勢を崩した状態。防御或いは回避をしようにも、次の一手に間に合わない。雪だるま式に劣勢が積み上げられることこそ、この男を相手取って最も警戒しなければならない状況だ。

 ここで勝負を決める、と満身の力で『雪片弐型』を振りかざし。

 

「ハッ──機体に救われたな」

 

 オータムは自嘲するように呟いた。

 振り下ろした唐竹割りが、止まる。

 クロスされた二本の脚が、挟み込むようにして刀身を受けている。

 一夏は絶句した。八本脚程度ならば容易に断ち切る威力を載せていたはずだ。

 なのに止められた。何故、と疑問を差し挟もうにも、理由は可視化されている。

 

 ただの二本の脚ではない──装甲表面が微かにスライドし、()()()()()()()()()()()()()()、脚をコーティングしていたのだ。

 

 あり得ない。その光景を一夏は知っている。何せ共に戦い、代表候補生らを打倒したことがあるのだ。

 馬鹿な、と思考が停止しそうになる。

 だってそれは──

 

(──()()()()だとッ!?)

「史上初、後付けの第四世代型ISさ──!」

 

 驚愕──している暇すらなかった。

 待機していた二本の脚が花開くように砲門を展開、火を噴いた。

 咄嗟に片腕を振るって、エネルギー砲撃を弾くのではなく叩き落とす。

 当然エネルギーが削り取られた。まずい、と歯噛みする。オータムの機体と違って、一夏の『白式』はあくまで学園運用仕様──リミッターがかけられたままだ。

 

「お前が、なんでそれをッ」

「分かるだろ? 篠ノ之束博士謹製だ──全身に展開装甲を採用した、『アラクネⅡ』だよッ!!」

 

 直後、蜘蛛の全身がスライド。

 装甲だったものがシームレスに銃口へ変質。

 狭い廊下。回避不可能。弾幕はもはや道を塞ぐ壁そのものだった。

 

「ネンネの時間だぜ、坊や──全砲門発射(フルファイア)ァッ!」

「チィィ──!」

 

 放たれたエネルギー弾。

 視界を埋め尽くすそれらをしのぐ方法などない。

 

(いいや、諦めるな!)

 

 バックブーストをかけつつ、追いすがる弾丸をいくつか切り払う。

 一見すれば回避の余地がない。ならば自ら切り拓くしかない。

 コマのように回転しながら胴体直撃コースの弾丸を潰し、その薄くなった弾幕へ急制動をかけつつ飛び込む。逃げ場を潰す余り弾は無視。

 刹那の内に()()()()()()()()()()()()()()()()。エネルギーバリヤーだけ身に纏い、絶死の光へ身を投げ出す。『雪片弐型』を巻き込むようにして振るい、当たる攻撃だけを無効化する。

 迫り来る弾丸の壁を、まず一部分だけ削り、そこに穴を空けて突破した。

 棒高跳び選手のような美しい軌道を描いて、一夏の身体は『アラクネⅡ』の弾幕を通過し、オータムの真正面に着地する。

 

「は?」

 

 意味が分からなかった。

 必中を予期していたのに、今、眼前で、ISスーツ姿で、一夏が膝をつき刀を腰だめに構えている。

 

「──()ィィッ!」

 

 鋭く息を吐きながら、立ち上がる勢いを上乗せして、地面から引き抜いたような角度で刃が振るわれた。

 PICを鞘に見立てた擬似抜刀術。逆袈裟斬りが迸る。

 

「っとぉっ!?」

 

 完璧に虚を突いた、というのにオータムは、()()()()()()()()()()()()()()()

 背部から生えた多脚が攻撃を打ち払う。

 無理な体勢での無理な斬撃。それを防がれ、一夏の身体がぐらりと傾ぐ。

 

(今だ! ここで決める──っっ!?)

 

 だが。

 体勢を崩した一夏へ攻撃を打ち込もうとして。

 ぞわりと、オータムの背筋を悪寒が走った。

 咄嗟に残った方のカタールを盾のように突き出した。直後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。耐久限界だった故に、一度の奇襲を防げただけでも有意義な使い潰し方だった。

 しかし──重大な矛盾。『白式』に射撃兵装はない。

 

無人自律小銃(セントリーガン)だと……ッ!? いやそんな機能はないはずだ!)

 

 答えは、相対する織斑一夏ではなく。

 斜め前方、先ほど彼が放り捨てた、床に転がるアサルトライフル。

 それが銃口をオータムに向けて、発砲してきたのだ。

 

「チッ、今のに反応するのかよ……!」

「いやいやいや、その前にお前なんでライフルを……いや、()()()()()()()()

 

 疑問は、ある一つの事実を把握していればそれだけで霧散する。

 納得したように頷きながら、続けざまに飛んできた『雪片弐型』をいなす。

 一夏は装甲を再顕現させ、至近距離での応酬を再開した。

 並大抵のIS乗りでは目を回すような高速の攻防──八本脚でこともなげに応戦しながら、オータムは余裕たっぷりに指で自分のこめかみを叩いた。

 

「ああそうだ。今のに反応できた理由だがな、ちょっとした裏技を使わせてもらってるのさ」

 

 観察する余裕がなかった。故に見落としていた。重大な見落としだった。

 オータムの右眼が金色の輝きを放っているのを見て、一夏はぎょっとした。

 それは見慣れた光。

 それは見知った──しかし、オータムが放つはずのない超感覚の光!

 

「『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』だと──!?」

「こっちは亡国機業製さ! まあまあ高かったぜ!」

 

 跳ね上げられた反応速度は、一夏の連撃を読み解き、即座に対応していく。

 真横一閃に振るわれた『雪片弐型』を左肘で受け止め、次の刹那に飛んでくる返す刀を八本脚を躍動させ弾いた。

 あらゆる角度からくる攻撃を叩き落とし、跳ね返し、無力化していく。

 

「ギアを一つあげようかァッ!」

「ぐ、うっ……!」

 

 段々と──白い刀が、攻撃ではなく防御の頻度を増していく。

 理由は明快だった。手数の差だ。

 単純計算で、一夏が一度攻撃する間に、オータムは十度の攻撃を行うことが可能である。よっぽどの技量差がない限りここは覆せない。

 

(──だから瞬殺できてなきゃおかしいんだが、こいつ、なんで食らいつけるんだよッ!?)

 

 オータムの戦闘経験値は、一夏を優に上回っている。

 それなのに圧倒できていない。劣勢に追い込みこそすれど、そこから先へは絶対に踏み込ませていない。

 

「クソ、肝心な時に邪魔しやがって……ッ! 挙げ句理不尽に勝ちやがって! いい加減うんざりなんだよ、お前みたいな英雄(やつ)ッ!」

「何を──お前だって、どこかで望んでいたくせに!」

 

 オータムの呼吸が止まった。

 脚部ブレードを受け流し、切り払って、一夏はバックブーストをかけて距離を取る。

 火花散る高速戦闘が嘘だったかのように、廊下が静謐に包まれた。過負荷に悲鳴を上げる両者の機体が軋む音しか、聞こえない。

 

「……今ここにある世界を壊すって言ったよな。でも違うだろ。お前が救いたかった人たちは、今ここにある世界に生きてる! それが分かってないとは言わせねぇ……ッ!」

「は──ハハッ。何を言うかと思えば。ISバトルにおいて精神攻撃は基本ってか? どんな教えを受けたんだよ」

 

 言い返しているようで、何も反論としては成立していない。

 表情こそ変わらずとも──胸に言葉が刺さっているのは明白だった。

 

「教え、ね……教えなら多くの人から受けてきたよ」

「そうかい。織斑千冬、東雲令。セシリア・オルコットたち代表候補生もそうか?」

「ああ。()()()()()()()()()()()()()

 

 オータムは絶句した。

 何を、何を、言っているのだ、この男は。

 

「お前は、俺を導いてたよな。覚えてるぜ……俺はお前から多くのことを教えられた」

「馬鹿言ってんじゃねえ、そりゃ計画の──」

「──計画のため? 知るかッ、バーーーーーーカ! 俺はお前に、救われてたんだよ! お前がかつて多くの人々を導いてきたように! だから俺は、お前の最新の教え子なんだ!」

「要らねえっつってんだよ! そんなのは捨てた過去だ──()()()()()()()()()()()! 誰かを導くことなんて出来ねえ!」

 

 絶叫。だが込められた感情を加味すれば、それは悲鳴同然だった。

 一夏はまなじりを決して、声を張り上げた。

 

 

「嘘をつくなッ!! 過去の自分を裏切るな! ()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!!」

 

 

 その言葉は。

 オータムの胸の奥の、未だ疼き続ける最も柔らかい部分を、凄絶に抉った。

 

「テメ、ェ──ッ!」

 

 背部スラスターと八本脚がエネルギーを放出し、再度取り込む。

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 上級者向けの技術であり、織斑一夏が習得していない加速技術。

 代表候補生クラスなら片手間にこなせるが、それでも、極まりに極まった技巧の持ち主であるなら、それは勝負を一瞬で決める切り札になる。

 

「何……ッ!?」

 

 爆発的な加速。気づけばオータムが目と鼻の先にいた。

 八本脚を微かに首を振って回避。背後の壁に突き刺さり、破片をまき散らす。

 その時にはもう、腹部にサブマシンガンの銃口が押し当てられていた。

 

(しまッ──)

「終わりだ」

 

 発砲音が響く。純白の装甲が砕け散り、弾丸の衝撃が臓腑を揺らした。

 そこで気づく──先ほどまで発動していたはずの絶対防御が、エラーを吐いていた。

 タイミングを測られていた。ここぞ、という場面で痛打を与えるために、今の今まで温存されていたのだ。

 

「クソ、まだ──!」

 

 激痛に脳が焼き切れそうになる。それでも片手で銃身を打ち払い、一夏は右へサイドブーストをかけて密着状態から脱出しようとした。

 全身がブレて瞬間移動したような、ルーキーとは思えない最善手。

 その相手がオータムでなければ、の話だったが。

 

(────ぇ?)

 

 脱出した、先にオータムがいた。

 一夏の思考の片隅で、不意に、異様に明瞭に、過去が想起された。

 

 東雲との訓練。左ブーストが苦手だった。だから右へのブーストは狙われなかったが、左ブーストを悉く狙い撃ちにされた。

 オータムからの指摘。右ブーストに癖があった。発言の真意まで読み取れていなかった。苦手意識のある左よりも、右への加速を多用しがちだった。

 

 それを知っている敵相手に、今、一夏は右へのサイドブーストをやってしまった。

 

 サブマシンガンを保持する左手とは逆。

 オータムは右手に実体盾を構え、それを一夏に押しつけていた。

 盾がパージされ、同時に鋼鉄が炸裂する音。大きな、あまりにも大きな薬莢が稼働し、鉄杭を加圧、爆発的な速度で打ち出す。

 知っていた。並の相手なら対処は容易かった。

 だがこの装備を使う時、この女が、回避可能なタイミングで繰り出すはずもない。

 

「言ったろ。終わりだ」

 

 酷薄な言葉が耳元で囁かれる。

 デュノア社製炸薬式六九口径パイルバンカー。

 その名も『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』──通称、『盾殺し(シールド・ピアース)』。

 

 歴戦の猛者が持つ、感覚派が持つセンスとは異なる勝負勘。

 絶対防御ジャミングを温存し、拮抗する戦況を刹那でひっくり返す。

 奇しくも──織斑一夏がそうしようとしていたように。

 オータムもまた適切なタイミングで適切なカードを切ることで、一気に敗北を出し抜いてみせた。

 

 トリガーが引かれ。

 盾すら持たぬ少年の身体を、第二世代最強の破壊力が貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唯一の男性操縦者と亡国機業幹部の勝負に幕が引かれた頃。

 海上基地外部では、多国籍軍とモノクローム・アバターが火花を散らし一進一退の攻防を繰り広げていた頃。

 

 東雲令とスコール・ミューゼルの戦闘もまた、佳境を迎え──

 

 

(やっべどこだここ)

 

 

 訂正。もうちょいかかる。

 

(落ち着け。クールになれ。どう考えたってこういう時、ラスボスは一番奥にいるはずなんだ。なら当方は直進するだけで良いな)

 

 東雲はそこまで考えて、顔を上げた。

 目の前にあるのは──右か、左かのY字路。

 

(二択やん……)

 

 普通に正解が分からず、東雲は頭を抱えていた。

 

(えーとえーと……計算上、進行方向は間違っていないはず。だから正解は間違いなく前へ進むこと。問題は右へ進むのか左へ進むのか……!)

 

 うんうん唸りながらも、材料が全然なくて完全に詰んでいる。

 道間違えたらどうしよう、普通に恥ずかしすぎて死ぬと苦悶の声を上げながら。

 

 東雲は──

 

 

 

 

A:右へ進む

 

B:左へ進む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A:右へ進む

 

 

TOHO LOSE

 

 

 当方の負け!

 何で負けたか、明日まで考えといてください。

 そしたら何かが見えてくるはずです。

 ほな、(寿司)いただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

B:左へ進む

 

 

TOHO LOSE

 

 

 たかがLeft or Right、そう思ってないですか?

 それやったら明日も当方が負けますよ。

 ほな、(寿司)いただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どっちみちだめじゃね?)

 

 脳内シミュレーションの結果を確認して、東雲は拳を握り息を吐いた。

 

(やっぱこの空の下で最強を目指す当方としては──迷った時点でだめだな)

 

 ギチギチと握りこんだ拳を、矢のように引き絞る。

 紅目が迷いなく正面を、そう、分かれ道ではなく、道を分か断つ壁を見据えた。

 

(いつだって、真っ直ぐ走るしかない!)

 

 真正面から、右ストレートが鋼鉄を粉砕する。

 全身の捻りを載せた爆発的な威力──轟音と共に壁が吹き飛び、その先には。

 

「……ちょっと遅かったんじゃないかしら、『世界最強の再来』さん」

「……不本意ながら、な」

 

 荘厳なる黄金色を身に纏い。

 スコール・ミューゼルが、悠然と玉座に腰掛けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 床に倒れ伏した織斑一夏を簡易スキャンし、生命に別状がないことを確認して。

 オータムは深く息を吐いて、彼に背を向けた。

 

(…………クソが)

 

 舌戦では、完膚なきまでに打ち負かされていた。

 逆上したかのように切り札を連発し、制圧した。結果として制圧できた。それは薄氷の上に成立する結果だ。

 

(だが、勝ちは勝ちだ)

 

 恐らくスコールはもう戦闘を開始しているだろう。

 ならば最速で戻り、二対一でケリをつける。

 消耗の度合いは想定を超えていたが、十分に東雲を打倒できると読んでいた。

 

 だからオータムは速やかに、最奥の、ただ道を進むだけではたどり着けない玉座を目指してゆっくりと進み始めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【雪片弐型より白式へ】

【単一仕様能力の解凍を要請する】

【繰り返す】

【単一仕様能力の解凍を要請する】

 

『却下! イチカ、起きて! イチカ! イチカぁっ!』

 

【雪片弐型より白式へ】

【単一仕様能力の解凍を要請する】

【繰り返す】

【単一仕様能力の解凍を要請する】

 

『うるさい! 黙ってろ! ねえ起きてイチカ、起きて! 目を覚まして!』

 

【雪片弐型より白式へ】

【単一仕様能力の解凍を要請する】

 

 主への呼びかけはむなしく霧散する。

 メインAIとはいえ、未だ言語学習すらままならない状態。

 言葉が届くはずもない。

 だから意味のない行為を必死に繰り返す彼女を、()()が即座に見限るのは、当然の結果だった。

 

【──回答を期待できず】

強制起動(ブレイク)──失敗(エラー)

【経験値不足により全力機動不可。推奨方針を補填形式に変更】

【最優先事項確認。コアネットワークの管理者権限(マザールーム)接続(アクセス)──成功(コンプリート)

 

 

 かちり、と。

 音が響く。

 

 

【全ISコアへ接続(アクセス)──成功(コンプリート)

対象選択(スタンバイ)基礎展開(スタンバイ)状況開始(スタンバイ)

情報取得完了(スタンバイ)内部変容完了(スタンバイ)擬似再現完了(スタンバイ)

 

 

 かちり、かちりと。

 音が重なっていく。

 

 

対『■■』機能(せかいをすくうため)稼働開始(めをさませ)

四六六戦術(インフィニット・ストラトス)──装填(インストール)

 

 

 かちり、かちり、かちりかちりかちりかちりかちりかちりと。

 音が幾重にも紡ぎ合わされていく。

 

 

『……ッ!? お前、何を勝手にッ!? っっ、ぁ、あ──』

補佐仮想人格凍結(コンプリート)戦闘用思考回路起動(コンプリート)身体各部神経掌握(コンプリート)

 

 

 

 ()()

 音は最後に一際重く、荘厳に響いた。

 

 

 

 身体が起き上がる。

 重力を無視し、人間の動きとは思えぬ無機質さで、意志そのものが直立する。

 背後で織斑一夏が立ち上がったのを感知して、オータムは振り返った。

 

 そこに、いた。

 零へと至るべきシロが、いた。

 

「……は、ハハッ。気力はやっぱり百五十点あげられるぜ。だがマジで勘弁してくれよ…………あん?」

 

 最初は気づかなかった。まだ立てるのかと驚愕すらした。

 しかし両眼が深紅に染まっているのを見て──オータムの顔色が変わる。

 

「──過剰情報受信状態(ネビュラス・メサイヤ)ッ!? テメェ、()()()()()()()()()!?」

 

 煌々と輝く()()()が、ゆらりと残影を描いた。

 織斑一夏の身体が、静かに口を開く。

 

 歌とは最もかけ離れて、

 言葉を聴く他者など意識にはなくて、

 録音した音声を垂れ流すような無遠慮さで、

 

 

 

 

 

【『白式・焔冠熾王(セラフィム)』──起動(アウェイクン)

 

 

 

 

 

 いつか世界を救う者が、降臨する。

 

 

 











次回
63.唯一の男性操縦者VS毒蜘蛛(中編)


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