転移直後のパンドラズ・アクターに、腐女子が入りました   作:水城大地

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最初に、重要な事を言わせて貰おう。「……私は、確かに腐女子だが、別に自分がその枠に嵌りたかったわけじゃない!!」

 ある日、いつもの様に普通に自室で寝て、いつも通りの時間に目を覚ましたら、そこは全く知らない場所だった。

 

 突然、何を言っていつとか言わないで欲しい。

 実際に、自分の身に現在進行形で起きている事なのだから、どうしようもない事実である。

 とにかく、今、私は自分が眠った自室ではなく、全く知らない場所に意識が戻ると同時に立っている事に気付いたのだ。

 いや……実際には全く知らない場所と言い切るのは、ちょっとだけ語弊があるだろう。

 それこそ、全体的なこの部屋の内装を見本なしで書ける位には何度も繰り返し目を皿にして映像として見た事があるから、どこなのか知っている。

 けれど、私にとってそこはあくまでも二次元の中に存在している場所だった筈なのだ。

 

 だってここ、私がここ数年ずっと愛してやまないキャラクターのホームグラウンドじゃないですか?

 

 流石に、何度も何度も押しの格好いい一枚絵を書く為に、資料集を手に入れてからは何度も目を皿のようにしてみた場所だから、忘れる筈がない。

 何と言っても、今自分が立っているこの場所に漂う静謐な空気とか、幾つも部屋から伸びる黒々とした廊下とか、それを見てここがどこか判らなかったらファン失格である。

 だから、絶対的な自信をもって自分がいる場所がどこなのか、その自信がはっきりとあった。

 正直、それに関しては本気で間違いないと確信している。 

 

 むしろ、私にとって問題なのはもっと別の事だった。

 

 先程から、もう一つ私がここで目を覚まして気になっているのが、視線を周囲に向ける度に視界の端でチラチラしているもの。

 ロングコートの袖とか裾とか、すっごく細くて長い四本しかない指とか……これって、全部私が大好きな推しの特徴じゃないだろうか。

 更に言うと、視界をちょっと塞ぐ感じで頭に被っていた独特な形状の軍帽も、凄く良く知ってる。

 

 どう考えても、これは私が今、一番嵌ってる【オーバーロード】に出てくるパンドラズ・アクターのものだ。

 

 この宝物殿の中で、この特徴的な服装を着ている事を考えるのなら、間違いなく私がパンドラズ・アクターになっているのだろう。

 今の状況では、それ以外に考えられない。

 原作では、パンドラズ・アクターには配下となるNPCは存在していなかったから、この格好をしている時点で本人以外はありえない筈だ。

 ここは、ギルドの指輪がなければ入れない宝物殿と言う事もあり、別のNPCがここに偶然来ていたと言う事も考え難いし、そもそもこの特徴的なカラーリングの軍服を着ているのは彼だけである。

 

 そんな風に、〖自分がパンドラズ・アクターになっている〗と認識した瞬間、私の中に彼が持つ大量の知識が一気に流れ込んできた。

 

 正直、余りに膨大な情報量に頭の中での処理が追い付かなくて、眩暈で足元がふらついて仕方がない。

 それこそ、過度の情報量が一気に詰め込まれた事によって、物理的に頭を揺らされるのと同等の衝撃を受けてしまったのだろう。

 どうしても自力で立っていられなくて、いつの間にか自分が居た場所にあったソファに座り込んでいた。

 その状態でも、どんどんと頭の中に流れ込んでくる情報に振り回されない様に、自分の気を落ち着けるべく座ったままゆっくりと数回深呼吸すれば、その眩暈はゆっくりと収まっていく。

 

 普通なら、これだけの知識をいきなり頭の中に流し込まれたら、余りの衝撃に気絶してもおかしく無い状態なのに、少し間を置くだけであっさりと収まった事から考えても、間違いなく自分の身体は人間のものじゃない。

 

この身体の本来の持ち主が、パンドラズ・アクターだと言う事に気付いた後も、それに対して特に違和感を感じさせない所や、本来なら私が知らない筈のこの宝物殿内のに仕掛けられている原作には出て来ていない罠などの細かな知識。

 更に、そ例外に宝物殿領域守護者として必要な部分と、ナザリックの財政担当としての知識が普通にある所などから考えると、私は彼と同化してしまったと思っていいかもしれなかった。

 というか、微妙に自分の中に私と言う意識以外の存在の気配を感じている点から考えると、完全な同化とは言えないのかもしれない。

 

 だが……この状況を前に、私が一番最初に考えた事などただ一つ、だ。

 

「な、何で……私がパンドラズ・アクターなの!

 普通、この私がナザリックのNPCの中になり代わりとして入り込むとしたら、数いる一般メイドか男性使用人枠が妥当だと思うんですけど!

 私は、アイパンとかパンアイとか、デミアイとかアイデミとかデミパンとかデミコキュ、コキュデミやマレデミと言った萌え山盛のBLとかが見たいんであって、自分が最押しに成り代わって誰か推しキャラとカップルになりたい訳じゃないんだ!

 と言うか、自分がそんな風に自分の推しキャラになっちゃたら、萌えカプで話とか書けないじゃん。

 あ、元々私は腐女子でも雑食な方ですし、別にBLじゃなくてもノマカプも百合カプもオッケーだから、オバロの世界ならノマカプ王道のセバツアとかアイシャルとかパンナベとか見たいし、ンフィーリアとエンリの公式カップルも見たいよね!

 百合カプなら、シャルユリはもちろんシャルティアとアルシェの絡みも見たい!

 ただし、メリバとかトーカーはもちろん、ヤンデレはノーセンキューなので、重度なヤンデレ一直線なアルベドは要らないけどね!

 元々、私はオバロでモモンガ様の相手をノマカプで考えた時、候補として見るなら本命シャルティア対抗馬アウラ、大穴でナーベ推しだったから、どっちにしてもあのおばさんは要らないんだけど。

 パンドラの服から察するに、書籍版だろうから……彼女は居るだろうなぁ。

 正直、あのおばさんはすぐに自分の都合よく考えて発情しては、モモンガ様を押し倒して周囲に迷惑しか掛けてないし、余りに酷過ぎてヒロイン枠に入れたくないんだよね。

 ヒロインに据えるには、どう考えても変態すぎて〖ヒドイン〗にしかならないし。

 あ、シャルティアも同じ変態だと言われそうだけど……彼女の場合、ペロロンチーノ様のあらゆる性癖を反映している子でもあるから、むしろ変態じゃない方が違和感あるから問題ないんだよね。

 財政面でも、勝手に資材を持ち出して使う予定もない自分の妄想の中の子供の服を大量に作ってる時点で、彼女の行動は身勝手過ぎてアウトだし。

 彼女の事だから、〖アインズ様と私の子供の服は、最高の素材を使わなくちゃ駄目なの!〗とか言って、希少素材を勝手に持ち出してそうだもん。

 そりゃね、それら全部がタブラ様から与えられた素材を使って作ってるなら、自分の私物の流用と言う事で目を瞑るけどさ。

 自室をまともに持たず、私物も鞄の中に詰められた僅かな着替え程度だった彼女が、そんな素材を持っている訳がないし。

 宝物殿領域守護者としても、ナザリックの財政担当としても、彼女の趣味を満足させる為だけの無駄遣いは認められません!

 ホント……この際だから、アルベド関連のフラグは恋愛を含めて全部叩き折らなきゃ。」

 

 自分の中にある情報を思い出しつつ、サクサク現時点での状況を頭の中で把握していくと、ひとまず自分の身体が普通に動くか確認することにした。

 まず、スッとその場で立ち上がるが、問題なく出来たのでこの辺りは普通に出来るのだろう。

 納得すると、次に選んだのは細かな動きの確認だ。

 ピッと指を立てると、腰に軽く手を当ててリズミカルに歌いながら、身体と指を踊るように動かす。

 

 曲はもちろん、コミケでお馴染みの一斉点検於斉に流れるアレである。

 

 一定時間になると流れるアレは、本当に耳に残っていて何かあるとついつい口に出てしまう位、私にとって馴染み深いものだ。

 特に、コミケに参加した後だとそれが顕著で、家で火元の確認や戸締りする時など良く口遊んだものである。

 だから、この時も頭の中に浮んだそれを迷わず選択したんだけど……これに関しては良く考えてから行動するべきだった。

 パンドラズ・アクターの、あの宮野ボイスの超良い声で「みぎっ!ひだりっ!前っ!後ろっ!」と口にしながら、本来よりもオーバーリアクションで可愛らしく動き回ったのだから。

 

 ……うん、無駄に良すぎる声で可愛らしく歌いながら、ハキハキとしたオーバーリアクションであの一斉点検をコミカルにこなす様子は、はっきり言ってシュールすぎるかもしれない。

 

 ちょっとだけ、「失敗したかも」と思いながら、それでも自分の意思で身体が動く事に安心する。

 まぁ、今の行動を誰かが見ていた訳でもないから、そこまで今の自分の行動を気にしなくても問題がないんだろうけどね。

 一先ずそこで納得し、私が次にしたのは手持ちのアイテム確認だった。

 だって、今すぐ使いたいアイテムがあるんだから、自分がアイテムボックスの中に何を持っているのか、それをきっちり確認するのは当たり前だろう。

 

 多分、手持ちのアイテムを使わなくても、パンドラズ・アクターの持つ二重の影としての能力を使えば、やりたいと思って居る事は可能だとは思うものの、出来れば選択したくない。

 

 もちろん、それにはちゃんとした理由があった。

 今の段階で、私は自分の事を漸く〖パンドラズ・アクター〗になっているのだと認識し、膨大な情報を受け継いだばかりである。

 それこそ、この世界に来たばかりで正確に自分が持つ能力を把握していないまま、アイテム使うという選択肢を捨ててそれをこの場ですぐに試すのは、流石にちょっと度胸が必要だった。

 まだ、自分がパンドラズ・アクターになった事を認識しても納得していないからこそ、私がこの能力を使うのはとても危険な行為なのだ。

 更に言えば、自分の中に別の存在—パンドラズ・アクター本人の気配—を微かにでも感じている状況だから、出来るだけ慎重に動くべきだろう。

 

 もしかしたら、彼の能力を私自身の認識不足できちんと扱いきれず、そのまま今度は私の方が自我を飲み込まれてしまう可能性だってあるのだから。

 

 そう、この状況下において色々と勘違いしている可能性だってある以上、能力を使用するとしたら……ある程度自分の意識とこのパンドラズ・アクターの身体が馴染んでから、時間を掛けてきっちりと試すべきだろう。

 正直言うと、彼の記憶を継承してある程度知識があるからこそ、自分ではまだ正確に使いきれない可能性があると考えている時点で、彼の持つ二重の影の能力を使う気にはとてもなれなかった。

 むしろ、原作でモモンガ様が実際に外の様子を見るのに使用していた【遠隔視の鏡】などのアイテムを使用し何かする方が、余程安全である。

 それに、これから自分が行うのはナザリックの中の様子ではなく、外の様子の確認だ。

 

 対象となる相手は、もし自分の知っている知識通りの状況なら、外に居るだろうセバスである。

 

 この時点で、そのアイテムでモモンガ様の事を直接見ようと思わないのは、ちゃんとした理由が二つあった。

 まず、今の自分がいる時間軸が把握出来ていないと言う点。

 もし、原作開始と一緒に意識がパンドラズ・アクターの中に憑依したのだとしたら、モモンガ様はナザリックの中から動いていない事になる。

 その状況で、下手にその姿を確認しようとアイテムを使用しても、世界級アイテムの効果で弾かれるだけで何も得る事がないのが最大の理由だった。

 そして更に言うと、見えてもモモンガ様が普段使用している攻勢防壁がこちらのアイテムに反応し、宝物殿の中を荒す事態にでもなったら困るからだ。

 

 もしそんな事態になったら、モモンガ様はもちろんパンドラズ・アクターに対して幾ら詫びても詫び足りない事態になりかねないだろう。

 

 流石に、自分が置かれている状況を確認をするだけで、味方である筈のモモンガ様からの事故のような攻撃を受ける様な、そんな真似はしたくない。

 どうせ探すなら、原作時間軸で一番最初に外に出ているだろうセバスの方が都合がいいのだ。

 これだと、割と単純な理由でアイテムを使用する対象としてセバス選んだように見えるだろうけど、私なりにちゃんと考えた上での選択だった。

 

 彼を選んだ一番の理由は、元々拠点防衛用のNPCとして攻性防壁を所持していない上、時間軸の把握がしやすい相手だからでもある。

 

 もし、このままアイテムで彼の姿が確認出来て、その場所が草原なら……それこそ、原作が始まって約一時間以内だと考えていいだろう。

 逆に、アイテムの使用でセバスの姿が見えず、そのまま約一時間(約が付くのは、私が自分の事を認識するまでに掛けた時間を差し引くからだ)探して彼の姿が確認する事が出来なければ、彼は既にナザリックの中に戻っている……つまり、原作軸がある程度進んでいるという事である。

 更に、アイテムによってどこか街もしくは馬車に乗っている状況が確認出来た場合は、原作の三巻巻前後の時間軸になると考えて間違い。

 その時、シャルティアが馬車に同乗しているのが確認できれば、三巻の盗賊襲撃直前で確定、もし彼女がいなくてセバスが御者台に座って街並みもしくは街道を走っているなら、シャルティアと別れた後などと判断が可能になる。

 元々、セバスたちが雇っていた御者も盗賊の仲間だったから、セバスが御者台に移動していた時点でまず間違いないだろう。

 

 こうして、原作開始から最初の三巻までの節目節目でその行動が判っているという点で、彼は現在の時間軸がどの辺りなのか、確認に最も適しているのだ。

 

 正直、私は最初から原作の流れをそのままにするつもりはない。

 そういう理由からも、きちんと自分がいる現時点でも時間軸を把握していないと、それこそとんでもない事になるのが判っているのだ。

 だからこそ、こういう必要な事での確認に関して、一切手を抜かず慎重に動くつもりである。

 

 少なくとも、現時点でモモンガ様がシャルティアと一騎打ち直前に世界級アイテムを取りに来るという状況だと、それこそ今すぐにも登場しそうなモモンガ様たちに対して取り繕える自信がない。

 

 一応、私が継承したパンドラズ・アクターの記憶の中では、私の意識が入るまでにモモンガ様がアルベド達を引き連れて宝物殿へ訪ねて来ていないので、今、この時点はそれより前なのは確定だった。

 そんな事を考えつつ、手早く見付け出した【遠隔視の鏡】を起動させた私は、目標を【セバス】に設定して探してみる。

 丁寧に、鏡を操作して捜索してみたけど、どうも反応がない。

 パンドラズ・アクターの知識を元に、アイテムを扱っているから操作ミスはないし、きちんと必要条件を満たして捜索している筈なのだ。

 それでも見付からないと言う事は、もしかして彼はこの付近に居ないと言う事になる訳で。

 

 本当に……自分の意識が転移したのは、モモンガ様とシャルティアの一騎打ち間際の事なのだろうか?

 

 そう思うだけで、段々強い焦りを感じそうになるのを抑えるべく、一度大きく深呼吸をしてみた。

 だって、そう考えるのはまだ早計だからだ。

 ナザリックの中だと、この遠隔視の鏡は世界級アイテムによって弾かれると言う事を考えれば、セバスはナザリックの中に居るのかもしれない可能性だってある。

 まだ、何もはっきりしていない段階で焦っても、絶対にいい結果にはならない。

 この世界で、上手く何とかやっていく為にも、焦りだけは禁物だ。

 

 でなければ、この私に存在を乗っ取られたにも拘らず、ギリギリ人格を維持した状態でモモンガ様の幸せの為に助けてくれようとしている、パンドラズ・アクターに顔向けが出来なくなってしまうだろうから。

 

 そう、先程一気に情報が流れ込んだにも拘らず、私がそれ程間を置かずに回復出来た理由の中には、本来のこの器の持ち主であるパンドラズ・アクターの人格のサポートもあった。

 最初の時点では、自分の方が彼の事を乗っ取ってしまった事もあって、彼の存在を感じたことに警戒をしてしまったのだが、少しだけ色々と思考を回すうちに冷静さが出て来て、自分の状態が上手く維持出来ている理由が、彼のサポートによるものだと気付いたのである。

 普通なら、自分の身体を取り戻そうとする筈なのに、主導権を握る私のサポートをしてくれるなんて、良い子過ぎると言うしかない。

 多分、彼が私に対して協力してくれている理由は、私が本来なら知り得ない筈の知識を持っていると言う事を、彼もまた私から情報として受け取ったからかもしれない。

 どちらにしても、今は、この彼の協力を素直に受け入れる方が優先だった。

 

「……えぇ、大丈夫ですとも。

 こうして、私が〖私〗としてある限り、モモンガ様の幸せ第一で動いて見せましょう!

 その為にも、まずはセバスの行動を確認した上で、アルベドから【真なる無】を取り上げる事ですね。

 あれは、元々モモンガ様を筆頭に御方々が協力して得た物。

 例え守護者統括とは言え、外に出る際の貸与ならまだしも……御方々ですら個人的に所持出来なかった物を個人的に持たせるなど、あってはなりませんから!

 他にも、色々とフラグを叩き折りたいですし。

 ……その為にも、出来れば現時点が原作開始直後だと良いのですが……」

 

 そう、自分に言い聞かせるように呟きつつ、私は遠隔視の鏡を操作し続けたのだった。

 




という訳で、パンドラに腐女子を突っ込んでみました。
この話、実は随分前から少しずつ書き溜めていた物です。
更に言うと、まだ数話分未編集の書き溜めがあったりします。



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