その者、かつての導かれし者の一人   作:アリ

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Level11〜冒険者三人、護衛任務珍道中〜

 

 ある日の昼前、粗悪な酒のせいで少しだけ痛む頭を手でさすりながら、旅人はすっかり人も疎らになった掲示板の前に行き、残り物の依頼を見る。

 こんな時間に残っている物は大抵白磁向けの比較的簡単で報酬の少ないものか、銅以上向けの報酬は相応だがそれ以上の危険があるものだ。

 幸か不幸か、旅人はどれでも受ける事が出来るので、それが自業自得で痛む頭をまた悩ませる。

 

「おやおや、随分と健康的とは呼べない生活をしてるみたいだね」

 

 人も疎らで手が空いているのか、監督官が呆れた様子で旅人に近づいて苦言を呈する。

 

「まあ、否定は出来ない。でも仕事に支障は出ないから多少の怠けは大目に見てもらいたいな」

 

 それなら眠気覚ましにどうだと言わんばかりに監督官は手に持った一枚の依頼書を苦笑を浮かべる旅人に押し付ける。

 

「えーと……商人の荷馬車の護衛か、取っておいてくれたのはありがたいけどなんでまた俺が?」

 

「別に取っておいたわけじゃないよ。少し前に、冒険者さん達が依頼を取って行った後にこの依頼が来ただけだよ。

銅等級以上の冒険者がいる事が条件でそんな時に君が来たからどうかなって」

 

 事の経緯に納得した旅人は再び依頼書に目を通した。

 馬車で移動という事だけを聞けば以前の旅を思い出して楽しそうだとも思うがこれは報酬を貰って行う仕事だ。

 護衛の依頼は行きと帰りを行うものと受付嬢に聞いた事を思い出すが、今回は水の街なるまだ行った事のない街へと送り届けるまでが依頼らしい。

 

「うーん……出来なくはないな。でも万全を期するならあと一人、欲を言えば二人欲しい」

 

「一人だと難しいの?」

 

「俺の目は前に二つ、耳は横に二つ付いているのは見て分かるだろ?

一人で遺跡だのを探索するのなら背後からの何かしらには気が付けるけど、自分よりも大きい物と人を守りながらだとどうしても後ろを警戒してくれる人が必要だな」

 

 旅人はそう言うものの実は手が無い訳ではない。

 魔物除けの呪文を使えば恐らく大半の魔物は近寄る事すらできないであろう。

 だが警戒すべきは魔物だけではなく野盗の類にもだ。

 旅人自身、人間相手に武器を振る事は好まないし、なんらかの事情で子供の野盗が多く出た日には困った物だ。

 ならばいざとなれば最終手段として術でどこかの村や街にでも飛んでしまえば良いが、高速の飛行が馬や商人に恐怖心を植え付けないとも限らない。

 結局、普通に護衛をして目的地までたどり着くのが好手だろうというのが旅人の考えだ。

 

「あっ、それなら彼を誘ってみたらどう?

ほら、君が妖術師を退治した時の冒険に一緒に行った。

今日はお仲間さんが用事があって冒険に行けなくて暇だってぼやいてたよ」

 

 なるほど、と零して酒場のスペースに目を向けると確かに青年戦士は退屈そうに杯を手に何かを摘んでいた。

 中身が酒で無ければ誘うとするかと、旅人は監督官に礼を述べて彼の方へと近寄り、杯の中身が酒では無いことを確認するとテーブルを挟んで反対側の椅子に座った。

 

「しばらく振りだな。

一人みたいだけど、今日はなにか予定でもあるのかい?」

 

 酒の独特な匂いが感じられない事を確認して旅人は問いかける。

 

「よう。まあ、工房にでも行ってみて適当に過ごそうかと考えていたところだが、お前さん達の話も聞こえてたぜ。

馬車の護衛だってな、期間はどれくらいだ?」

 

「今日から出て野営を含めて二日間、依頼主に許可を取れれば俺の呪文を馬に使ってもっと短く出来るだろうよ。

帰りは知っての通りここまで直ぐに戻ってこれる。

それを踏まえて手伝って貰えるか?

もちろん無理なら遠慮なく言ってくれ」

 

 旅人が依頼書を手渡すと青年戦士は受け取り内容に目を走らせる。

 なるほど、と零してニヤリと口角を上げると依頼書を旅人へと返した。

 

「確かに、この内容でお前となら悪くないな。

だがそうだなぁ、もう一人誘いたい奴がいる。

当然分け前も減っちまうが、それでも良いのなら付き合うぜ」

 

「構わない、寧ろ人が増えるなら願ったりだ。誰だか知らないが君が誘う人物なら問題無いだろうしな」

 

 旅人はよろしく頼む、と付け加えて手を差し出し、青年戦士がそれを握り返す事で即席の一党が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れ前の林道を一つの幌の付いた馬車が通る。

 馬車を曳くのは力が有り余っていると言わんばかりに力強く大地を踏みしめる栗毛色の毛並みが美しい馬。

そして手綱を握るは、旅人よりも五つ程上の依頼主の男、商人らしく最低限の礼儀を持って装飾のされた服を着こなしては荒ぶる馬、曰く長年の相棒と呼ぶ馬を見事に操るものだ。

 そんな彼らの護衛目的で馬車に乗る三人の男、その内の一人である旅人は幌の上に陣取り、馬車の後方から左右にかけて警戒をしている。

 あの後、青年戦士の誘った冒険者と合流して依頼を受けると、依頼主も急ぎの用事との事で待っていたのでギルドにて打ち合わせを行った。

 運ぶ荷の内容、いざと言う時の対処と優先順位を確認、そして旅人の提案する緊急退避の手段と馬の体力を回復させつつ移動して到着までの時間短縮を依頼主が了承した事で辺境の街を出発した次第だ。

 街を出て間もなくは道が舗装されていたが、西に向かうに連れて段々と道が悪くなり草や木、かつて動物であったのであろう骨などが、人や馬によって踏み固められた道の端々に落ちていた。

 

「商人殿、馬の調子はどうでしょう?」

 

 顔を後方に向けたまま旅人は大きな声を出して背後で馬を操る依頼主へと問う。

 

「本当にありがたい事に、貴方が施してくれた術のお陰でとても好調ですな。

相棒もとても喜んでます。それと、ここを抜けて少しすれば野営の予定場所ですな」

 

「ならば、予定通りそこで休みを取りましょうか。

俺の呪文で馬の体力と力が上がっても休憩は必要だ」

 

「ですな。

まあ、お陰さんで昼過ぎに出たら水の街まで三日の道のりを一日半で行けるのだから助かりますな」

 

 提案に商人は肯定の返事を返す。

 まだまだ若輩者の部類に入るのであろう依頼主の商人はどこか冒険者に対する口調がまだ不慣れなようだ。

 辺境の街を発ってから暫く経過したが、幸いにも何事も無く順調に護衛の依頼は事を運んでいた。

 出立前に旅人が依頼主に道中、祈らぬ者が出なかったら無駄金を払った事になるなと冗談めいて聞いてみた。

 それに対して依頼主はそれはそれで結構だと答えた。

 曰く、護衛代を節約して大変な目に、それこそ命を落とした商人は星の数程いるとの事。

 安全に移動ができるのならそれに越した事はなく、冒険者の護衛がいれば気が楽だ。

 そして護衛中は冒険者達は気を張っていなければいけないし時間を貰っているのだからそこに報酬を支払うのは当然の事だと商人は言っていた。

 かつての仲間の商人も同じ事を言うのか、いや、そもそも数多の武具を持ち、十全に知ったそれを巧みに操る彼にそもそも護衛など不要か。

 そんな考えが頭を過り含み笑いを浮かべ、旅人は口を開いた。

 

「との事だ、引き続き警戒は続けるぞ」

 

「了解だ、任せとけ」

 

 馬車の中で前方から馬車の左方向を見ている青年が声を上げて返す。

 

「……言われるまでも無ぇ」

 

 やや遅れてもう一つ愛想の悪いぞんざいな返事の声が聞こえる。

 青年戦士と前方を二分して残る右方向を警戒するのは、何時ぞや旅人に因縁をつけて手合わせをした大柄の斧戦士だ。

 青年戦士の思わぬ人選に旅人は驚いたが、斧戦士も今日は手が空いていたとの事で、居心地が悪そうに文句を一言二言呟きながらも依頼に同行する事を承諾した。

 斧戦士はどうかは分からないが、当の旅人本人は因縁をつけられた事よりもその後に止めてもらった感謝の念の方が圧倒的に大きい。

 あの気勢と戦斧を軽々と操る腕ならば頼りになるとすら思っている。

 

「なんです?貴方さん方一党は仲がよろしく無いので?」

 

「まあ、何分この面子での冒険は初めてですからね。

ただ、安心してほしい。

俺達が護衛をすれば、貴方と相棒と積荷に決して魔物共が触れる事が無い事を約束しよう」

 

「そうですなぁ……たとえ竜がでたとしてもですかな?」

 

「……そいつは願ったり叶ったりだ。

貴重な体験ができるし、竜の鱗も取り放題だ」

 

 商人の軽口に対して旅人は静かに笑って返した。

 しかし、そんな余裕綽々な旅人とは対照的に、竜を相手なんて聞いた二人は異議を唱える。

 

「おいおい、勝手言ってくれるが竜なんか出たら準備もないから逃げ一択じゃないのか?」

 

「……それとも手立てでもあんのかよ?」

 

「簡単な事だ、全力で叩き斬る。

そして竜はデカければデカイ方が良い。

俺はそんな竜が大嫌いだから現れてくれたら気が晴れるな」

 

 カラカラと笑う旅人に対して呆れ混じりの溜息を仲間の二人はついた。

 しかし、依頼主の方はそんな旅人を豪胆な奴と気に入ったのか、それとも口だけは達者だと嘲るのかは分からないが口元に笑みを浮かべていた。

 それから程なくして一行は今日の予定の目的地である草原にポツリとある大きな岩まで辿り着く。

 大きな岩が屋根の代わりとなり雨風を凌ぐには十分な程で背後を壁にできる。

 腕に覚えが有れば夜襲にも対応しやすい確かに野営に適している場所だ。

 余裕を十分に持った移動ができたため、野営の準備も日が沈む前に終える事が出来た。

 その後は商人の振る舞いで、簡単ではあるが焼いた肉やスープを皆が腹に入れる。

 携行食にしては豪華なそれは、護衛中だから酒が飲めないのは何とも残酷な話だと青年戦士が冗談混じりに嘆き、一行はそれなりに愉快な時間を過ごしていた。

 やがて月が昇り休む時間となると、見張りは先ず斧戦士が、次いで旅人、青年戦士の順で交代で行う手筈となった。

 怪物や野党が現れたら必ず全員を起こす事を取り決めて。

 

 

 

 

 些か冷たい夜風に肌を撫でられて旅人の意識は覚醒する。

 眠る前に羽織っていた筈の外套がはだけてしまっていたらしい。これでは寒いはずだと目を擦って再び身に纏う。

 元々、眠りも浅かったため再び眠るのは不可能だと判断した旅人はそのまま立ち上がり、見張り中の斧戦士の元へと赴く。

 

「もう時間だろう、代わろう」

 

「……起きたのか、まだ少し早えぞ」

 

 旅人の方を見向きもせずに斧戦士は無愛想に返す。

 

「なに、充分休ませて貰えたさ。

腹が膨れて一番眠いときに寝させて貰ったんだ、少し早く交代くらいするさ」

 

「へっ、そうかよ。

……一つ聞きてえんだが、何故俺を今回の仕事に誘った?」

 

 護衛の依頼を受けてから今の今まで、二人の間には必要最低限の会話しか無かったため、斧戦士からの思わぬ問いに旅人は目を丸くするが、すぐに口角を上げて答える。

 

「彼の推薦、それに君の腕なら頼りになると思ったからだ。

幸いな事にそちらも数日予定が無いと来たもんだ。

何より、言いたい事もあったからな」

 

 言いたい事?と気怠そうに斧戦士は旅人の方へと顔を向ける。

 その時の旅人の表情は先程までの穏やか、悪く言えば少し気の抜けた様な顔ではなくなり、真剣な表情で斧戦士の方へと向き直っていた。

 

「先日、俺が我を忘れて暴れていた時、彼と共に止めてくれてありがとう。

心から感謝している。

君達が居なければ、多分あの男を殺していた」

 

 深く頭を下げる旅人の言っていることが理解出来ないと言わんばかりに、今度は斧戦士の方が目を丸くした。

 ここまで旅人に無愛想な対応しかしなかった斧戦士も流石に狼狽える。

 

「おいおい、頭なんざ下げるんじゃねぇ!

……俺はお前を殺す気で得物を振った。そんな相手に頭なんざ下げんな」

 

 斧戦士がやけに気不味そうな態度を取っていた事に旅人は納得するが、彼のその言い分は旅人に取ってはどこ吹く風だ。

 

「だとしても、君があの時俺を止めた事実は変わらない。

それに、俺はこうして元気に生きている」

 

「けっ……俺如きの攻撃では自分は死なないって嫌味かよ。

てめえは最近フラッと現れたと思ったらとんでもねえ速さで昇級しやがるし、てめえが悪く言われても気にしねぇ、かと言って人の為には憤る、そんで殺そうとした相手に礼を言うか。

……正直俺はおめえは可笑しい、いや、イカれてるとすら思ってる……だが、同時に悪い奴じゃねぇとも思ってる」

 

 旅人から顔を背けて、相変わらず無愛想に斧戦士は言った。

 その言葉に旅人も悪い気はしなかったのか穏やかな表情で返した。

 

「ふっ、ソイツはどうも。

俺も君はなんだかんだで良い奴だと思っている……っ!!」

 

 斧戦士に言葉を返したと思うと、突如旅人はどこからか剣を取り出す。

 そして眼前に広がる漆黒の平野の方を険しい顔で睨みつけながら、周囲に設置しておいた松明に火をつけ始める。

 

「何かが近付いてきている、相当速いな」

 

「あぁ?俺には何も……いや、確かにそうだな」

 

 旅人の態度に怪訝な表情を浮かべていた斧戦士だが、彼の耳にも漆黒から発せられる音が届いた。

 やけに木々が騒めき出し、肌を撫でる風が嫌な感触を覚える。

 斧戦士も得物を手にして音のする方を警戒すると同時に、残る松明に火をつけた。

 旅人は空いている左手を少し離れて眠っている青年戦士の方へと向ける。

 

「彼も起こすぞ、『ザメハ』」

 

 旅人の手が光を放つと、そのまま同じ色の光が青年戦士を包み込む。

 光が収まると同時、目を覚ました青年戦士は突如その体を起き上がらせて周囲を見渡すように首を振る。

 

「なんだ!どうしたどうした!?」

 

「何かが近付いて来ている、何かまでは分からないがとりあえず君を俺の魔法で起こした。

一応周囲に魔除けの結界を張ってあるが、万が一があったら困る。

すぐに装備を整えて状況によっては依頼主を起こしてくれ」

 

 突如覚醒した意識に戸惑っていた青年戦士も、旅人の説明で状況を理解をしたのか、傍に置いたあった剣を手に取り兜を被ると松明に火をつけて回る。

 その間にも音は一向に近付いてくる。

 やがて、その音は馬が蹄を地に打ち付ける音であると分かった。

 

「依頼主と馬を起こせ!!」

 

 声を上げたのは斧戦士だ。

 近付くのが馬であるのなら、逃げるのに此方も機動力の確保が必要だと判断したのだろう。

 間違っていない。

 逃げの手段を取らざるを得ない場合は自分が時間を稼げば良いと、旅人は思い、彼の判断に頷いた。

 青年戦士は商人を起こしに向かうと、それはすぐ近くまで襲来し音が止んだ。

 

「クソっ……ツイてねぇな」

 

 不意に斧戦士が零す。

 現れたそれは、夜の世界と同じ色をした漆黒の重鈍な鎧を身に纏う大剣を持つ騎士と、普通の馬の倍はある巨躯に漆黒の毛並みをした馬であった。

 しかし、騎士にも馬にも首が無い。

 更には強く、身体が重くなるような暗い圧を放っていて亡者の怪物の類である事は明白だった。

 

「……しにがみきぞくの亜種か?」

 

 槍と盾を携え、馬に跨り死の呪文を唱える豪華な服を着た骸骨の魔物。

 かつての冒険で旅人はそんな魔物を倒した事があったので思わずそんな感想を零す。

 

「何言ってやがんだ!

首無し騎士(デュラハン)じゃねぇか!

死を振り撒く怪物だ……どうする、逃げんのか?」

 

「うーん、アレがどう出てくるかな」

 

「怪物ですかな……冒険者さん方、なんとかなりますかな?」

 

 呑気な事を言う旅人の背後で商人も目を覚ましたようだ。

 隣で愛馬が嘶くが、飼い主は矢張り怖いのか、その声は少し不安に震えていた。

 

「おい!どうするんだよ!」

 

 青年戦士は声を上げるが、旅人は何も答えない。

 それを好機と見たのか、首無し騎士は巨馬を駆り一向に向かい突撃する。

 疾く、重く、そして強いその威力たるや間違いなく進路上の物を踏み潰し、殲滅、蹂躙するであろう。

 対して、青年戦士と斧戦士は依頼主を守ろうと強く得物を握ると商人と首無し騎士の直線上に立ち、商人はその物言わぬ圧に押されてしまい目を堅く閉じて愛馬に抱きつく。

 そして旅人は……剣を地に刺し、腕を組んで迫る首無し騎士を只々睨みつけていた。

 首無し騎士は全てを消し去ると言わんばかりに大剣を突き出して馬を加速させる。

 

 暗闇の平地に轟音が響いた。

 首無し騎士の馬が舞上げた土煙が辺りを包み込む。

 そして、旅人は鋭い目つきのまま口角を吊り上げて笑っていた。

 

「中々の攻撃だが、お前に越えられるものかよ」

 

 土煙が晴れた頃、旅人以外の全員が目を疑う。

 首無し騎士の突撃は一向と大きく距離を残して見えない壁に阻まれる。

 壁に激突した筈だが、痛痒を受けていないのは亡者故か、首無し騎士の実力か。

 首無し騎士は一度下り距離を取る。

 顔が分からないので推測だが、一人も命を奪えなかった事に憤りを覚えているのではないか。

 

「お前、『聖壁』(プロテクション)の奇跡が使えたのか!?」

 

「いや、こいつの場合それじゃないだろう」

 

 力が抜けて持っていた斧を地に下ろして斧戦士は旅人に問うが、彼よりも少し付き合いの長い青年戦士は似て非なる何かだろうと察する。

 

「その『聖壁』とやらが何かは分からないが、魔除けの結界(トヘロス)は張ってあると言っただろう。

まあ、あと数回同じことをされたら破れちまうだろうな。

さて、商人殿。

この結界を捨ててあの騎士から逃亡を図る事と、この場で奴を撃退する事、希望はありますかな?

もちろん、もう奴には結界に触れさせない、個人的には後者をお勧めしましょう」

 

 旅人は落ち着いた口調で、商人に安堵感を抱かせるように静かに笑ってみせた。

 意地と気を張っていた商人であったが、とてつもない勢いで迫る首無し騎士の突撃にスッカリと身体の力が抜けてしまい、ストンと尻を地面に落とした。

 

「はっ……ははは……その提案、乗らせて貰えますかな」

 

 しかし、首無し騎士にも動きがあった。

 天に大剣を掲げると、大地が激しく揺れた。

 立っていられない位強い揺れが収まると、数多くの骸骨が地面から身を這い出して現れる。

 

「質で勝てないと分かれば数で勝負か……だが生憎、俺はお前達の天敵だ、『ニフラム』!」

 

 旅人が地より出でる骸骨に向かって白く光る手を翳す。

 光は旅人の手を離れて骸骨の群れへと向かうと巨大な球状となって進む。

 暖かな白き光の球は五十は居たであろう骸骨の半数以上を飲み込み、それらを光の彼方へと消し去り、光も収束した。

 同時に、光る煙のような何かが天へと昇って行くのを斧戦士達は見た。

 

「思ったよりも減らせたようだな。

俺があの首無しをやる、どっちか骨を頼む!残る一人は商人殿に付いて護ってくれ!」

 

「ふん……俺がやる。

てめえ一人に美味しいところをくれてやれるか」

 

 そう言って斧戦士は旅人の隣に並び立つ。

 青年戦士は呆れたと言った様子で勝手に話を進める二人を尻目に商人の前に移動する。

 

「またそれを貸す、商人殿を頼んだぞ!」

 

 旅人はふくろから破邪の剣を取り出して青年戦士の足元へと投げ、更にふくろから鉄の盾を取り出して装備する。

 地に刺さったそれを彼が手にしたのを見て、旅人は斧戦士の方へと顔を向けた。

 答えるように斧戦士が小さく鼻を鳴らしたので、二人は歩を進めて結界の外へと出る。

 

「行くぞ、アレは俺達の敵ではない!」

 

 かくして、闇の帳を数本の松明の火が照らす中、死を振り撒くという首無し騎士の一団と、三人の冒険者の戦いが幕を開ける。

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