ドラゴンクエスト3 そして伝説へ……のはずが、僕の四人目の仲間がだいぶおかしい件について 作:笛ふき用
地竜の月 12日 つづき
さてもう思い出したくもない惨劇の後、すっかり(物理的に)平和になった銅とスズの坑道にて。
昨日の石炭の坑道以上にはっちゃけるビルドの姿があった。まず手始めに目に入る範囲にあった全ての鉱石をあっというまに取りつくしたビルドは、手に入れた鉱石の量を確認してこう言い放った。
だめだ ぜんぜん たりない
しかたない やるか
だが、そういったビルドの顔はしかたなさなどかけらも感じられない太陽のような満面の笑みで。
次にビルドがとった行動は、採掘場の壁に床から数えて6ブロック分の【木のはしご】を取り付けることだった。そこはすでにビルドが鉱石をとった後で、壁はぼこぼこの隙間だらけ。その中の一つに入り込んだビルドは下にいた僕らに声をかけた。
あれるー ふるかすー あがってきてー
いわれるがまま、はしごを伝って上に行く僕とフルカスにふくろを渡したビルドはこういった。
いまから どんどん ほるから
ぼくの うしろで そざいを あつめてね
そう一息で言ったあと、本人的には長台詞に少し疲れたらしくちょっとぜーぜーと荒く息を吐くビルド。いつも思うけれど何故その程度の言葉数で息を荒げるのだろうか。スタミナというか体力には全く苦労してないはずななのに。
そんな僕の心の中でのツッコミが伝わるわけもなく、ビルドはふくろから残り少なくなった【焼きキノコ】を取りだしてほおばってからおもむろに、
こっちで いいか
といってから採掘場の入り口から見て右側、つまり時計の進行方向へ向いた。
そして。
よーし いくぞー
さくれつはんまーだー
という気の抜けた声の後、採掘場に嵐が吹き荒れた。
――それは圧倒的だった。
――それはあっという間だった。
――それはビルドの姿をした真空系極大呪文(バギクロス)だった。
僕らにできたことは、僕とフルカスはただその世界でただ一つの吸引力に引き寄せられるようにどんどんできるやわらかめの【土岩】や硬い【白い岩】と、その中に混じる【銅鉱石】と【スズ鉱石】をまとめて拾うこと、そして残された三人は斜め上を向いてぽかんと口を開けてみていることの二つだけだった。
つまりビルドは最初に壁に開けたスペースを起点に時計回りに採掘場の壁を掘り出したのだ。いや、あれは掘るじゃない。
けずるである。
まるで木をけずるカンナのように。
僕のお母さんがナイフで器用にリンゴの皮を薄く向いていくように。
巨大な竜巻が周囲のものを全て巻き込んで破壊するように。
そいや! そいや!
というビルドの掛け声とともにどんどん削れていく採石場の壁。そうして元々大きめの家が丸々一件か二件入る程度の広さがあった採掘場上部の面積がどんどん広がっていく。
これぞ無差別破壊。これこそ無差別破壊。まさに無差別破壊。
そのどこにあるのかわからないなら全部壊せばいいじゃない、とどこか遠い国の王妃の人が言いそうな台詞みたいな掟破りの採掘方法に熟練の鉱山夫であろうジョヴァンニさんがパニックを起こした。
く、くずれるぞ! そんな無茶苦茶な掘り方ありえないぞ! もっと慎重に! 落盤が起きるぞ! ていうか鉱山ってそういうのじゃないんだぞ!
といいながら真っ青になって慌てふためきしゃがんだり汗をふきだしたりおびえたりして、やがて気を失った。
そしてそうして僕らの誰も手を出す暇がないうちにどんどん削られた壁の幅はおよそブロックにして十個分。その為、削れた上の部分と削れていない下の部分の差はエライことになっていた。
なんていうか、上の空いたスペースで街でも作れるじゃないの? っていうくらいの広大なスペースが出来上がっていたのだ。その容赦のないビルドの掘りっぷりに途中から様子を見に来ていたフォンとカダルの顔も真っ青である。フルカスもどこか遠い目をしてこの場所ではないどこかを見ていた。
僕自身は……まぁビルドだしね、とあきらめていた。但し口元の筋肉を激しくつりそうになったけれど。
そうしてやっと満足したのか、うんうんとうなづいて下に飛び降りたビルドから僕たちを呼ぶ声がした。
おーい みんなー
はやく おりてきてー
つづき はじめるよー
そういってさっき上でやったのと同じように鉱石を掘り出したあとの隙間に体を入れるビルドの姿を見て僕は再びこの採掘場に真空系極大呪文(バギクロス)が吹き荒れることを確信したのだった。
その後ビルドが、
きのこ なくなったし
きり が いいから ここまで かな
といって作業を終えたころ、採掘場は恐ろしいことに延々とブロック一個分だけ足場に残した上部と下部の二つに分かれた広大なドーム状の広場へと姿を変えていた。
それを見回した僕はあることに気が付いた。
ロマリアの王様の造りたい建物ってもしかしてこういう感じなのかな?
ということ。なんとなくイメージなんだけれどこういうものの気がする。
そうならあの王様、ここに連れてきたら満足するんじゃないだろうか? と思ったけれど頭の中で打ち消した。
こんな誰にも自慢できないところじゃ駄目なんだろうなぁと、お目当ての【銅鉱石】と【スズ鉱石】以外のいらないものの中からや硬い【白い岩】や【木のブロック】をこれでもかというくらいにふんだんに使って自分が作りだしたホールに壁や柱を作ることで補強工事をやっているビルドの背中を見ながらしみじみと、これを作り出したビルドとこれを地上に作ろうとしたロマリアの王様の無茶苦茶さ加減を僕はかみしめていた。
追記 ビルドがこの時に使った【木のブロック】が余りに大量だった為、慌てた僕が作業途中でビルドをつかまえてこう尋ねた。
ビルド、君どんだけの森を消したの? 正直に言ってくれ! これだけの【木材】、森四つや五つじゃとても足りないよね?
そういうとビルドは例の、あ、こいつわかってねーな的なイラッとする表情を浮かべてこういったのだ。
あのね あれる
あんしん して
もう 【もくざい】 なら いくら つかっても だいじょうぶ なんだよ?
むげん だよ むげん
そういってぜーはーいってから再び作業に戻るビルドの言葉は僕にとっては意味不明で。
無限の木材ってどういうこと? ビルダーってそんなことまでできるの? と悩み続けることしかできないのだった。
地竜の月 12日 夜 つづき
ようやくビルドが坑道内でやることを終えて僕らが【リレミト】で外に出てくるとすっかり外は真夜中だった。
ほとんど何もしていないはずなのにぐったりと疲れ果てた僕たちとジョヴァンニさんがそのまま宿舎に直行すると、マリルさんとマリルさんのお母さんが笑顔で迎えてくれた。
おかえりなさい! 勇者様! みなさん! そしてジョヴァンニさん! 無事で何よりでした。まずは召し上がってください!
そういって差し出された【野菜炒め】のおいしかったこと。【キャベツ】のしゃきしゃきの歯ごたえを残しつつ、火を通したことで甘みが増しているし、さらに疲れた体に熱々の料理は何よりのごちそうだった。
そうして無心で食べる僕らをしばらくうれしそうに眺めていたマリルさんだったが、やがて何かに気づいたように僕に尋ねてきた。
あの、勇者様。ビルドさんはどちらに……。
その言葉で僕は今この宿舎内にビルドの姿がないことに気づく。さすがにあれだけのことをやってのければビルドだって疲れ果てて僕たちと一緒に宿舎に来ているだろうと、僕たちの常識であいつを計ったのが間違いだったようだ。
お行儀は悪いけれど口の中に二つめの【野菜炒め】を詰め込んだまま、急いで外に飛び出してビルドの姿を探す。すると探すまでもなくビルドはいた。鉱山街の中心にある広場で物珍し気な鉱山街のあらくれたちをギャラリーに煌々とたいまつの光に照らされながら何かの準備をしていた。
広場にある程度のスペースを確保したビルドは作業台を取りだし、まず【炉】を三つ作りさらにレーベの村から持ってきた作り置きの【炉】と合わせて五つ広場に並べて一気に【銅鉱石】を溶かしはじめた。
恐ろしい勢いで減っていく【銅鉱石】と【石炭】。同時に出来上がる大量の【銅のインゴット】。さらに出来上がった【銅のインゴット】と【スズ】を再び【炉】に入れて合金化していくビルド。
そんな何だか何かの儀式のようにも感じられる光景の中に大きく、ぐ~~~~~~~~~というお腹の音が鳴り響く。
ん~ だめだ
おなか へった
それを聞いた僕は苦笑いをうかべてマリルさん特製の【野菜炒め】を手に腹ペコのビルドに駆け寄ったのだった。
それにしても今気づいた。ビルドが昨日強行軍で【キャベツ】の段々畑を作ったのはこのためか。
ビルドからふくろを借りて中を確認する。
うわぁ、やばい。【キノコ】はおろか、もうほとんど【小麦】も【モモガキ】もないぞ。
やばい、こりゃ急いで手を打たないと食料が足りなくなる。
ここにきて僕らは坑道を取り返す以外にも難問にぶち当たることになってしまったのであった。
誤字脱字報告へのご協力、感想お待ちしています。
○○系極大呪文ってすごい浪漫ですよね。だって極大だもの。