ドラゴンクエスト3 そして伝説へ……のはずが、僕の四人目の仲間がだいぶおかしい件について 作:笛ふき用
地竜の月 19日 つづき
咆哮とともにあらわれたガメゴンが僕らに向けてゆっくりと前進してくる。
一歩、一歩ごとに、そのあまりの重量によって地面が揺れる。同じ地面に立っているだけでその一歩ごとで揺れる足元にまともに立っていることさえ困難だ。
こんな奴が地上を歩いていることが許されるのか? とさえ思うほどの巨体があれだけ広かった坑道を進むと、ちょうど道幅いっぱい、壁にこすりつけるように舐めるように奴の体が少しづつこちらに向かってやってくる。
どうする? 右手に握った【せいどうのつるぎ】を見る。あれを剣で攻撃する? ……ダメだ、根本的に届かないし、それに意味がない。
何故って? 奴は歩く船、歩く砦、歩く城だ。剣で城をやっつけるなんてどんな勇者だって考えたことないはず。少なくても今の僕ではあいつを切ることはできない。フルカスをちらりと見ると僕と同じように【せいどうのだいけん】を構えたまま、額に脂汗をうかべて固まっている。攻撃手段が手足を使ったものだけのフォンも、おそらく有効な攻撃魔法を持たないカダルも同じだ。
……残る希望はと思い、ビルドを見てみるも首を振られた。
方針決定。撤退だ。
アレルたちは にげだした!
幸い奴の動きは巨体だから鈍い。今なら逃げ切れるはず……。そう思った次の瞬間、僕たちが降りてきた階段がある壁に奴がその長い長い首をしならせてその頭をぶつけてきた。
まるで鎖でつないだ鉄球を振り回す武器、モーニングスターのように壁にぶつけられたガメゴンの頭部によってあの硬い【黄山岩】が簡単に崩れ、ぼくらはへたり込んでいたマリルさんを助けるのが精いっぱい。結果、上に続く階段が完全にふさがれ、退路はふさがれた。
……だが まわりこまれてしまった!
どうやら僕たちを素直に逃がしてくれる気はないらしい。
さらに壁際に目を向けるとガメゴンが放つあまりのプレッシャーに震えて立てないジョヴァンニさんをはじめとしたあらくれの人たちが。
せめて彼等とマリルさんだけでも生かして地上に返さないと、と僕たちは目の前の巨獣との戦闘を開始した。
目の前のバケモノから逃げるための戦いをである。
狙いは一つだけ。【催眠魔法】ラリホーで眠らせて、その隙に逃げる。これしかない。
カダル、まずはピオリムを! その後は補助魔法でとにかくラリホーを唱え続けて! 僕らが時間稼ぎをする。あきらめずに唱え続けて!
フルカス、フォン、行くよ! あくまで牽制だからね!
そしてビルドに一つうなづく。
そうしてビルドは駆け出す前に注意してきた。
かだる まぬーさはつかうな!
あれる すこしだけもたせて!
なるほど、あれだけでかいやつが幻覚になってかかれば今以上にやたらめったらそこら中ぶっ叩きかねない。さすが、ビルドはこんな絶体絶命の状況でも冷静だ。呆然としたままのマリルさんを肩に担いであらくれさんたちのところに向かうビルドの背を見て改めて思う。頼りにしてるからね、ビルド。
そうして改めて無茶苦茶に振り回されるガメゴンの首を加速魔法【ピオリム】で敏捷性を増した僕たちはぎりぎりでかいくぐりながら奴の体を切りつけるも、
フォン の こうげき
ミス! ガメゴンに ダメージを あたえられない!
アレル の こうげき
ミス! ガメゴンに ダメージを あたえられない!
フルカス の こうげき
ガメゴンに 1 の ダメージ!
謎の電波が頭に飛んでくるも、そんなことは電波で解説されなくても手に伝わる手ごたえでわかってる!
硬すぎる! これが英雄譚や勇者の物語の中で語られる竜種の鱗か! 鉄のかたまりでもここまで硬くないとさえ思えるほどのそのあまりの硬さに剣で切り付けるたびに手に重いしびれが。
ならば!
アレルは ラリホー を となえた!
しかし ガメゴン は ねむらなかった!
続けてカダルもラリホーを唱えるも、奴が眠る様子はない。めげずに僕も続けるが、やはり眠らない!
なんて戦いだ。こっちの攻撃はまるで効かず、相手の攻撃はその一撃一撃がまるでレーベの村で戦ったどくどくゾンビの投げた大岩を思わせる轟音を響かせて襲い掛かってくる。つまりはこっちの攻撃はまるで意味がなく、相手の攻撃はかすっただけで致命傷間違いなしという理不尽なもの。
それでも生き残る手段はこれしかない。必死でやつの攻撃をかいくぐりながら牽制のための攻撃とギリギリでの回避を続けていると、ビルドがあらくれさんたちを連れて壁際を移動し始めたのが見えた。
ならあともう少し時間稼ぎしないとね。まるで燕のように華麗な動きでガメゴンを翻弄するフォンと、いつの間にか【せいどうのだいけん】を【せいどうのたて】に持ち替えたフルカスが、次から次へと襲い掛かるガメゴンの猛攻を【ぼうぎょ】と【やくそう】の大盤振る舞いで耐えているせいで、フルカスの口元はもう真っ緑だ!
その様子にクスリと笑って少し緊張がほぐれた。
ならばもう少し僕らに付き合ってもらおうか、ガメゴン!
それからどれぐらいたっただろうか、MPも体力も使い果し疲労困憊、満身創痍になり地面に膝をついた僕らをガメゴンがその巨大な顔に嗜虐的な笑みを浮かべながら踏みつぶそうとしてゆっくりと前進してきたその時、タタタタタっという軽快な足音とともにビルドが帰ってきた。
おまたせ あとは まかせて
かいふく して うしろに にげて
そう言ったビルドは肩に【おおかなづち】を担いで、ガメゴンを睨んだ。
よくも すきほうだい やってくれたな このかめ!
ぶっとばしてやるから かかってこい!
そういってビルドはガメゴンにたち向かっていく。
加勢したかったけれど、その力が残っていない僕らはじりじりと後退しながら残り少ない【やくそう】を使って回復をしていく。
そんな中、ビルドの戦いは圧倒的だった。
ビルドの こうげき
かいしん の いちげき!
ガメゴン は 60 のダメージをうけた
ガメゴンの こうげき!
ミス! ビルドは ひらりと みをかわした
そんな風にあの硬い岩をも壊すおおかなづちの一撃を、正確にガメゴンの頭部にヒットさせることでビルドはダメージを稼いでいったのだ。
ビルドの こうげき
かいしん の いちげき!
ガメゴン は 54 のダメージをうけた
ガメゴンの こうげき!
ミス! ビルドは ひらりと みをかわした
謎の電波による分かりやすい説明で、ビルドが戦いを有利に進めていることは僕にも分かった。
それを見て疑問が。僕たちよりも戦いが苦手なはずのビルドがあんなに有利に戦えているんだろうと思ったんだけれど、その答えはさっき僕自身が奇しくも思ったガメゴンへの考察の中にあった。
奴は歩く船、歩く砦、歩く城だ。船や建物ならビルダーに壊せないわけがない。
つまりあれは戦いじゃなく解体工事なのかな? つまり奴に有効な手段、狙うべきは剣や槍による鋭い一撃でなくビルドの持ってるような硬い鈍器で殴りつけることなのかと僕がようやく立ち上がって加勢をしようとしたその瞬間。
ガメゴンの動きが変わった。
不意にガメゴンが動きを止め、大きく息を吸うようなそぶりをしたのだ。
まずい!
と叫んだビルドが瞬時にふくろから取りだした大量の【黄山岩】でものすごい勢いで後ろにいる僕らの視界をふさぐほどの壁を作り出す。
何が、と思った次の瞬間。
ガメゴンは もえさかる かえん を はいた!
壁の向こう側と僕らの前方。
つまりビルドのいたあたりは紅蓮の炎に包まれたのだ。視界を赤く染めた炎が去った後、壁のあたりには煤に汚れて地面にうずくまるビルドの姿が。
ビルド―!
よくもビルドを! 僕は叫んで駆け出した! 僕のなかまによくも!
この時の僕は怒りに我を忘れた僕はわずかに残った精神力を全て込めてあのカメ野郎に一矢報いることしか頭になかった
デイン!
けして落雷など起きないはずの地下の閉鎖空間に稲光が走り、ガメゴンへと命中した。ぐらりと少しだけよろけた後、雷でしびれているのかガメゴンが固まる。
あれる ない~す あしすと
怒りのまま駆け出した僕が次の瞬間見たものは、半分溶けてしまっている壁を駆け上がりざま足場にしてそのままの勢いで高くジャンプし空中に身を投げ出した後、全身煤だらけのまま体を竜巻のように引き絞り、その両手にがっちり握りしめたおおかなづちを投げようとするビルドの雄姿だった。
くらえ そして さようなら ぼくの おおかなづちちゃんいちごう
いけ! おうぎ だいにだん!
ひっさつの ちょう ぐるぐる はんまー!
そして放たれたおおかなづちはものすごい勢いで回転しながらガメゴンの眉間へと一直線で飛んでいく。
ビルドの 超グルグルハンマー!
かいしんの いちげき!
がめごんに 255 のダメージ!
おおかなづち は くだけてしまった!
ずずんと地面を揺らして沈み込むように動きを止め、頭を長い首ごとだらりと地面に打ち付けるガメゴンの姿に、やったか? 僕はと一瞬思った。
けれどそれが甘い考えだったことを僕はビルドとガメゴンにすぐさま教えられた。
にげるよ!
そう言って僕らの手を引き一目散に楕円形の坑道をガメゴンから遠ざかるように走るビルド。あれだけの一撃だったのに、倒せたかもしれないなんて微塵も考えていないその足取りに僕らはビルドにしたがって懸命に走りだした。それを証明するかのようにしばらくして僕らの背を追うようにガメゴンの咆哮が再び坑道に響き渡り、またずしんずしんと奴が前進を開始したのが振動でわかった。
必死で走る僕らの背に迫るガメゴン。振り返る余裕などない、迫る音が近づいているのだけでやつが距離を詰めているのはわかっているから!
そしてちょうど最初にガメゴンと戦っていた場所から、この坑道の中心に立つ楕円形の柱の向こう側にあたり辺りまできた時、僕らの目に飛び込んできたのはたいまつを手に持った見慣れない男性の姿だった。
みなさん! こちらです! 早く!
その人の声にしたがって壁の隙間に巧妙に隠された隠し部屋に飛びこむ僕ら。そして全員が入ったのを確認するや否やビルドが中から【黄山岩】を使ってふたをするようにそこを閉じてしまう。
そして息をひそめる僕ら。坑道を揺らすガメゴンの足音。壁ごしに聞こえてくる息遣い、咆哮。それが分厚く強固なはずの【黄山岩】の壁がまるでぼろぼろの【ひびわれ土岩】でできた壁のように心細いものに思えた。
そしてどれくらいたっただろうか、僕らが見つからないことにいらだったガメゴンはやがて諦めたのか、ゆっくりとどこかへ去っていった。
けれどその後もかなり長い間、誰も言葉を発せず沈黙を続けた。それはまるで声を出したらあの恐ろしいガメゴンが帰ってくるかもしれないと思っているようだった。
けれどもそれも長くは続かなかった。
あー しぬかと おもった
こういう時に空気を読まないことに定評のあるビルドがいつもの間の抜けて声を出したことで、僕は全身の力が抜けていくのが分かった。
こうしてガメゴンとの最初の戦いは、僕らのある意味勝利、そしてある意味敗北で終わったのである。
誤字脱字、感想お待ちしています。
というわけで辛くも逃げ出すことに成功したアレルたち一行。
次回に続く!