ドラゴンクエスト3 そして伝説へ……のはずが、僕の四人目の仲間がだいぶおかしい件について 作:笛ふき用
地竜の月 20日
九死に一生を得た僕らが最初にしたことは、ふくろから取りだしたわらベッドで泥のように眠ることだった。今回ばかりはビルドも疲れ果てていたらしく、大いびきを逃げ込んだ先である岩の間にできた空間に響かせていた。
というわけで体感時間での翌日、目覚めた僕が最初に目にしたものは、土下座でごめんなさいしてくるあらくれの人たちの姿であった。さらに彼らの前には僕らに膝をついて頭を下げる、つまり貴族やそれに属する人間が目上の人間に謝罪するときの儀礼の中でも最も丁寧な姿勢の昨日の謎の男性とマリルさんの姿があった。
どういうこと? と僕が目を白黒させているとどうやら少し先に起き上がっていたらしいフルカスが困惑気味に教えてくれた。
何でも事前に言われていた忠告を無視して、あのガメゴンを呼び寄せたことを謝罪したいとのことらしい。……とはいえ肝心のお前が寝ているからせめて起きるまで楽してくれと言ったんだが、もうしばらくこのままでな。
正直、起きてくれて助かったよと言葉を結んだフルカスはまたいつものように口をつぐんだ。彼は別に無口なわけではないんだけれど、こういう何らかの判断のときには助言はしてくれても決定や決断はすべて僕に任せてくるところがある。
いや、多分年長者としてそして僕を勇者として尊重するからこそ自分が変なリーダーシップを発揮しないように努めてそうしてくれているんだろうと僕は思っていた。
……とはいえ寝起きで頭がまだボーとしてるこの状況ではちょっと勘弁してほしいんだけれど。とりあえず、はだ。並んだわらベッドを見ると、まだ寝ているのは限界までMPを絞り出したであろうカダルだけで、フォンはすでに起き上がって岩肌に背をつけて半目でこちらを眺めていたし、フルカスはベッドの上で胡坐をかいていた。そして一番怒っていそうなビルドはというと、あんまり興味なさげにいつも以上にぼーとした顔をしていた。
これも今までの経験からわかるんだけど、こういう時のビルドはフルカスの考えと多分同じことを考えてる時で、僕の判断に従うって時なのでとりあえず僕はまず一番気になっていることを尋ねることから始めることにした。
申し訳ありません、マリルさん。こちらの男性の方はどなたでしょうか?
僕がそういうと昨日僕らが眠った後、涙をたくさん流したのだろうマリルさんが真っ赤になった目を僕に向けてこう教えてくれた。
はい、勇者様。こちらは鉱山監督官であり落盤事故の折、死んだと思っていたわたしの父でございます。
……どうやら昨日僕らが必死で戦っただけの報酬を神様は忘れておられなかったらしい。顔をあげたマリルさんの顔にはお父さんが生きていて飛び跳ねそうなほどうれしい気持ち、昨日暴走したあらくれさんたちを止められなかった情けない気持ちや申し訳の無さ、それが責任感や安心感と混じってとっても表現に困る顔をしていたので、そのことがおかしかった僕はクスリと笑ってしまった後、目の前でかしこまるこのきちんとした男性と他の全ての人たちにこういって話を切り出した。
え~、マリルさんのお父さん。初めまして、僕がアリアハンの勇者オルテガの子アレルと申します。とりあえず、謝罪とかは後にしてお話、しませんか?
ってね。
そこから僕らはいろんな話をした。まずは謝罪を受け、二度と同じ過ちを犯さないようにと厳重に注意をした後、僕たちはまずマリルさんのお父さんに今までのことを尋ねた。
それによるとマリルさんのお父さんは最初の鉱山の崩落のとき、坑道に飛びこんで崩れゆく坑道を何とか進み、中に残されていた荒くれさんたちと力を合わせて地盤の特に固い場所に避難することでまずは難を逃れたらしい。けれど揺れが収まった後、いざ脱出しようにも入り口は完全にふさがれており、何とか崩れた坑道を下へと降りこの鉱山夫達の休憩場にたどり着いた。そして休憩場に備蓄しておいた緊急用の食料や鉱山内にあるキノコやたまたま湧いた湧き水で何とかやりくりして食いつなぎながら、助けが来るのを待っていたとのことだった。
最も、それももはや限界が近づいておりもうだめかと思っていたともマリルさんのお父さんはひげだらけになった顔で僕たちに教えてくれたものだ。
あぶねぇ……ギリギリじゃないかというのが僕のこの時の感想。とにかくよかったと無事を喜んでいた僕らに彼はとても重要な情報を教えてくれたのである。
なぜこのロマリア鉱山に、あんな超巨大なガメゴンがいたのか? その一部始終を彼は僕らに話してくれたのである。
あれは、私たちがこの休憩場にたどり着いて数日後のことでございました。
地面を鉱山ごと揺らす振動が再び坑道内で起こり、また地震か崩落かと身構えておりますとしばらくして揺れが収まり、代わりに話し声が聞こえてまいりました。もしや助けが来たのかと、外の様子を伺いますと何とそこにはあの巨大な魔物と二体の小さな魔物の姿が。小さな魔物の片方は、エビルマージと呼ばれた全身を緑色のローブで身を包んだ魔法使い、だったかと思います。そしてもう一体は、こうもりおとこと名乗るコウモリの羽をもつ人型の魔物でございました。
私はとっさに壁の隙間に身を隠し彼らの話を聞くことができたのです。
エビルマージはいいました。
よし、こうもりおとこよ。このバラモス様が直々にとある魔法の品を利用してここまで巨大にしたガメゴン、つまり【育ち過ぎたガメゴン】による体当たりという力技ではあったが、このロマリア鉱山はもはや復旧不可能な状況へと追い込まれておる。これ以上、何かこの【育ち過ぎたガメゴン】にさせる必要はない。こやつをここに留めておくのは万が一、誰かが鉱山を解放しようとここまでやってきても、それをさせぬようにするためじゃ。
何しろこのガメゴンは強い。そりゃあもう強い。このバラモス軍一の魔法使いであるワシが本気を出して倒そうとしても倒しきれるか自信がないほど強い。さらにこの狭い坑道の中では大軍を送り込むこともできぬ故こやつを倒すことは事実上不可能よ。
そしてこのガメゴンにはあらかじめ【鉄を掘るときの音】に反応して、この場所で暴れるようにワシが魔法をかけておいた。つまり今後、ロマリア鉱山から鉄が生まれることはない。まさにバラモス様の深慮遠謀よ。
では、こうもりおとこよ。ワシは次にイシスに向かいかの国での次の任務を果たしてまいる。お前にはこの【育ち過ぎたガメゴン】と、残る東側の坑道に侵入した魔物たちのことを任せる。なに、特に何かをする必要はない。変に坑道の外に出て、外部の人間を呼びこまず自分たちに任された坑道をただただ占拠しているだけでよいと奴らには伝えてある。
むしろ何もしてはならぬ。聞け、バラモス様はこうおっしゃった。
人間は愚かで脆弱であるが、決して侮ってはならぬ生き物である。特に奴らが団結した時は侮れぬ。一人一人の人間は決して強くないが、追い詰められ結束した人間の力は決して侮れるものではないと。
故にバラモス様はお考えになった。我ら魔物の力を持って正面から人間を打倒するのは悪手であり、まるで真綿で首を絞めるようにじわじわと弱らせていくことこそ上策。
ロマリアにおいてはこのロマリア鉱山の鉄こそこの国の要、この国の急所よ。ここさえ押さえておけば、いずれロマリアは立ち枯れる。
故に。つまり貴様の仕事は、この【育ち過ぎたガメゴン】や東坑道に送り込んだ魔物たちがおかしな暴走せぬように監視することと、そしてもしこの西の坑道や東の坑道を解放しようと人間たちが攻め込んで来たら、すぐにワシへ連絡を入れるだけ。戦う必要もない非常に安全な仕事である。分かったか?
そうエビルマージが言うと、こうもりおとこはこう答えました。
ハイ、エビルマージサマ。
コノこうもりおとこ、セキニンヲモッテ コヤツラノカンシト モシモノ時ニハスグニオシラセシマス!
その返事を聞いたエビルマージは満足げに、
良い返事である。では任せたぞ!
とだけ言ってその場から魔法で去っていきました。
それからしばらくガメゴンのゆっくりとした、そして大きな息遣いだけが響いておりましたが、やがて小さな笑い声が聞こえはじめたのです。
どうやら残されたこうもりおとこがクスクスと笑いはじめ、その内何が楽しいのかゲラゲラと大声で笑いだしたのです。
ナニガ ナニモ シナクテイイダ! アノ バカ緑メ!
コンナスゴイオモチャガアルンダカラ モットメチャクチャニシテヤレバイインダ!
コイツナラ ロマリアノ国ゴト 滅ボスナンテ 簡単ダ!
オイ! デカブツ! オレ様ノイウコトヲキケ! マズコノ鉱山ヲ モットメチャクチャニシテ……
こうもりおとこに言えたのはそこまででした。
ぎょろりと目を開けたガメゴンは、煩わしそうにこうもりおとこを一瞥したかと思えば次の瞬間、その長い長い首を振るってこうもりおとこを壁に叩きつけたのです。
もちろんこうもりおとこはそのまま即死。
ガメゴンはうっとうしい奴が消えたとばかりにその後は何を気にすることなくそのまま眠りにつき、やがて腹が減ったのか自分が開けた外への大穴を通ってどこかに行ってしまったのです。
と、ここまでが今回の事件の真相であった。
つまり、このロマリア鉱山の事件はバラモス直々の侵攻作戦だったのである。
追記 こうもりおとことやら、ホント何のためにいたんだろうね?
誤字脱字報告、感想お待ちしてます。
出落ちに合掌……。
あと、いくら食料と水があったからって長時間地下で人間が生きられるわけないだろ! という方は、チリ落盤事故 で検索ですよ。