ドラゴンクエスト3 そして伝説へ……のはずが、僕の四人目の仲間がだいぶおかしい件について 作:笛ふき用
地竜の月 23日 つづき
しばらく経ってもいまだ痙攣しつづける腕に何とか【ホイミ】をかけて、手のひらを開いたり握ったりして手の感覚を確かめる。それからゆっくりと体の調子を確かめながら東の崖の上に張り出した足場の上で僕は何とか立ち上がった。
次に地面にぐで~~~と座り込んでやり切った満足感をそのいつも通りに見えるしまりのない笑顔に浮かべるビルドをちらりと見た。
珍しく本気で疲れたのかしゃべるのもおっくうなようで、大きく呼吸を繰り返すビルド。
ふとビルドと目が合う。僕が小さく頷くと安心したように足場の冷たい【黄山岩】の上に大の字になった。そしてビルドはすぐさまいびきをかいて寝始める。
そのビルドのやり切って全てを絞りつくした姿を見た後、松明の炎に照らされて夜空にぼぉっと浮かび上がる【黄山岩】のオブジェの残がいの姿をもう一度確認して、もう一度グッと手を握りしめ僕は気持ちを引き締めた。
ビルドはちゃんと自分の仕事をしてくれた。だから、ここからは僕の仕事である。
一気に全身の力を振り絞った結果、いまだ思い通りに動いてくれない自分の体を無理やり動かして僕は街のみんなが歓声を上げる街の中心部へと向かうために長いはしごを降り始める。
やった! すごいぞ! これさえあれば勇者さんたちがあのバケモノを倒してくれるぞ!
ホントだ! さすがアリアハンの勇者だ! 万歳! これでロマリアは救われる!
その途中でそんな声が僕の耳に聞こえた。その瞬間、まるでお酒でも飲んだみたいに僕の頭がかっとなった。あらかじめ用意していたポケットの中の原稿を僕はこの瞬間頭の中で破り捨てた。
やっぱり、ビルドのあげた悪い方の予想通りになってしまった。
――じっさい やってみせても たぶん ここの ひとたちは ひとまかせ
――たりきほんがんだと おもうよ ろまりあじん ってのは そういうひとたち みたいだね
――ゆうしゃさまたち が たおして くれる
――むじゃきに そうよろこぶ かれらの すがた が いまから めに うかぶよ
そう言って口元に苦い笑みを浮かべたビルドにそんなことなんてないといったあの時の僕は間違っていた。そう思いながらはしごを降り切った僕は怒りとともに地面をしっかりと踏みしめて駆け足で見張り台へと走った。
――まぁ たぶん そんなかんじに なるからさ
――だからこそ あれる じっさいに しくみを つかったあと が きみの でばんだ
――どんな ほうほう でもいい あらくれさんたち いや ろまりあじんたちの こころに ひを つけろ
――かれらの こころに ひとにぎりの ゆうきを きみが あたえるんだ
――そこが こんかいの しょうぶの ぶんすいれいだ
その言葉を胸に僕は急いで縄ばしごをよじ登る。腕がきしむように痛むけれど今はそんなことはどうでもいい。ちぎれても構わないと悲鳴を上げる両腕に力を込めて一気に縄ばしごを登り切ると、鉱山街の入り口辺りで歓声を上げる鉱山街の人々の姿が見えた。
大きく息を吸い込んで、僕は叫んだ!
それでいいのか!
今、お前たちの声が聞こえたぞ! 勇者たちがあの仕掛けを使ってあの魔物を倒してくれるって。
本当にそれでいいのか? 僕らみたいな遠い遠い異国であるアリアハンから突然やってきた来た旅人である僕らに何から何までお前たちが奪われた大事なものを取り返すこと全てを押し付けて、お前たちロマリア人は本当にそれでいいのか?
僕の大喝に喧騒が嘘みたいにシンとなる。高地の夜の空気が僕の熱くほてる頬にふきつけるが、そんなもので僕の中にあるこの熱い何かが冷めることなんてない。
僕らはちゃんと示したぞ! あのバケモノをやっつける方法を! お前たちの目に見える方法で!
ここで今、はっきりいっておく!
僕たちだけであの巨大なガメゴンを倒すことは不可能だ!!!
なんだって?
そんな……。
勇者がそんなこといってもいいのかよ!?
口々にそんな声が街のあらくれたちからこぼれる。
その情けない姿に僕は煮立った頭のまま、このロマリアに来てからというもの感じていたやり場のなかった怒りをぶちまけていく。
沈まぬ大国ロマリア。栄光の国ロマリア。僕が寝物語に祖父から聞いた北大陸随一の大国は姿はどこにいった!
魔物の手にまんまとはまりその結果ぼろぼろに疲弊した街! それなのに何もかも人任せで立ち上がらない人々! そんな人々を見もしないで馬鹿なことをやる王様!
そんなものか! これがロマリアか! そんな国なら僕らももうできることはない。このまま僕らはこの国を出て魔王バラモスを倒すための旅をつづけるから、あとはお前たちで勝手にすればいい!!
なんだって!?
おれたちを見捨てるのか?
そういって右往左往する街の人々の中に、両手で口元をおさえ何とか悲鳴を上げるのをこらえるマリルさんとその横で目を閉じて両手を組み何かを堪えるように立つマリルさんのお父さんの姿が見えた。
その姿に心に冷たいものが吹き込み、なえそうになる心に再び活を入れ僕は言葉を続ける。
僕は言ったはずだ! あなたたちにあの魔物を倒すための方法を見せるって! 僕は何も僕らだけで戦うなんて一言も言ってないからな!
そんな役回りなんてまっぴらごめんだ! 僕が救わなきゃいけないのはこの世界そのものであって、そのために魔王バラモスを倒すため、僕らは冒険の旅に出たんだ!
その旅の途中でまったく勝ち目のない戦いをしてロマリアのために死ぬなんてこと絶対やらないからな!
何だと、それでもお前勇者か!
恥を知れ! 勇者のくせに!
僕の言葉に反応してあらくれさんたちの荒々しい非難の言葉が返ってくる。僕はこっそりと口元に笑みを浮かべ、彼らのその罵倒をさらに倍返ししてやることにした。
恥をしれだと!
それはお前たちの方だ! 何から何まで僕らに頼りきりで何もしない、やったと思えば余計なことをして自分たちだけじゃなくみんなを危険に巻き込むことしかしない!
そんなやつらが恥をしれだと? よくも言えたな、そんなこと! この恩知らずの腰抜けどもめ! どうやらどいつもこいつもその筋肉だらけの身体はただの見せかけのようだな! すっかすかでみっともない! 全部見せかけの張りぼてじゃないか!
悔しいか! この腰抜けども!
なんだとぉ! 俺の筋肉が飾りだとぉ?
いくら勇者だからって、言っていいことと悪いことがあるぞ!
舐めやがって降りて来い! ぶっとばしてやる!
黙れ!
悔しかったら立ち上がれ! 僕たちと一緒にあの恐ろしい魔物を立ち向かってみろ!
言っただろう? やり方は教えるって! 何も奴と直接剣を交えろなんて僕らはそんなことは言ってない!
言っただろう!
あの化け物は倒せる! 見ただろう、僕の仲間が作ったあの仕掛けの威力を! あれがあればあの化け物だって倒すことは可能なんだよ!
そこに冷たい風がまた吹いて、一旦鉱山街から吹き抜ける風の音以外のが消えた。
そしてしばらくして呟くように小さな声がまた聞こえはじめる。
……でも、あんな恐ろしい化け物、おれたちみたいな普通の人間には。
……俺達はあんたたちみたいな特別な戦う力なんてないんだよ!
違う、大事なのは力じゃない! 再び肚に力を込めて僕は声を絞り出しように叫ぶ。
ちがうな! あんたたちにないのは勇気だ! 怖くても恐ろしくても大事なもののために戦おうとする前に向かう意志だ!
悔しくないのか! 僕みたいなよそ者の若造にここまで言われて! 取り戻そうとは思わないのか! 自分たちの日常と大事な居場所を!
し~んと静まり返る鉱山街。僕も一度大きく息を吸い込んだ。1、2、3とゆっくり数字を数え少し落ち着いた声で再び僕は目の前のロマリアの人々に話しかける。
……今あなたたちに必要なのは一握りの勇気をもって立ち上がること! 戦う意志を見せること!
あなたたちが戦うというのなら! 僕たちは、このアリアハンの勇者アレルは共に戦う誰かを見捨てたりなんて絶対にしない!
約束しよう! あなたたちが立ち上がるというのなら! 僕は、僕らは! 必ずこのロマリア大鉱山に巣くうあのガメゴンを打倒し、ロマリアという国に平和を取り戻すと!
だから! 自分たちの大事なものは、自分たちの手で取り戻せ!!!
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
という野太い大歓声に、僕は自分の仕事を果たせたことを確信し、その場にへたり込んだ。そしてふと気配を感じたので見上げると満面の笑みのフルカスとフォンが僕の肩や背中をバンバン叩いてくる。
見上げるように東の足場を見ると、そこには足場からはみ出すように僕を見ている笑顔のカダルの姿とビルドの手だけがよくやったといわんばかりに親指を立てていた。
やってやる! みてろよぉ!
バカにしやがって! アリアハンの勇者がなんぼのもんじゃ! 俺達あらくれの、いやロマリア人の意地を見せてやる!
ほら、あんたたち! やる気になったあんたたちのために、私が故郷から持ち込んだとっておきの酒を出してやるからさっさと酒場に来な! もたもたしてると飲み損ねても知らないからね!
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 前祝いだぁ! 飲むぞ! 飲んでぶっ倒してやるからな! 魔物めぇ!
そんな声をききながら僕は何とか自分の仕事を果たせたことに満足しながら、さっきのビルドと同じように見張り台の床の上に大の字に寝転んだ。
さて、これからが本番だ。
こうしてロマリア大鉱山を舞台とした決戦の火ぶたが切られたのだった。
今回は賛否両論あるかと思いますが、ノリで押し切ることにしました。
いつも通り誤字脱字報告、感想お待ちしています。
次回は謎の精霊さまによる決戦場の詳細説明です。