ドラゴンクエスト3 そして伝説へ……のはずが、僕の四人目の仲間がだいぶおかしい件について 作:頭がポップコーン
まるで日の差さない深い深い谷底を思わせるロマリア大坑道のそそり立つ壁面。そこに並ぶ【壁かけたいまつ】がそこに造られた様々な仕掛けや集まった人々の顔を照らしていた。
様々な仕掛けといったが、中でも目を引くのは坑道の天井からぶら下げられ中空に留まっている巨大な鉄球、もとい青銅の塊であり、ぽつぽつとだが整然とならぶ並ぶ【壁かけたいまつ】の炎により、その影を地面まで伸ばしていた。
そしてそれを作ったであろう人々の姿は通路を見下すように張り出した高台にあった。疲れ果て肩を息をしながらも、彼らの顔にはやり遂げた達成感があった。
地下深い空間にしばし静寂が――と思ったが、その中で一つだけ動き回る影があった。子どものように小柄で、とがった金髪をした男の子だけが元気いっぱいに動き回っていたのだ。
疲れ果てた人々にどこからか取りだした【きれいな水】を取りだして飲ませたり、同じくどこからか取りだした【パン】や【焼きキノコ】を食べさせたりまでならともかく、足場の奥を【おおかなづち】を取りだして掘りだしてそれによってできたスペースに【木のベッド】を並べて、地面に寝そべっていた人々をベッドに寝かせていた。
それから外では日が昇り、そして陽が落ちるくらいの時間が経った後、再び人々――アリアハンの勇者一行とロマリア鉱山のあらくれたちは動き出した。
「せ~の!」
「おっいしょぉ!!」
「せ~の!」
「おっいしょぉ!!」
掛け声とともにギギギという音とともに今まで中空にただぶら下がっていた青銅球が、少しづつ斜めに動き始めやがてその動きを止めた。
うぉぉぉぉ!! という歓声がまた地下に響き渡り、抱き合ったりハイタッチしたりしてひとしきり喜んだあと、全員の顔に覚悟の表情が浮かんだ。
これで準備は本当に完了である。ここにいるのは覚悟を決めた力自慢のあらくれ男たちと、戦士一人を除いて【みかわしのふく】に身を包んだ勇者一行。
互いに頷きあって戦士ひとりを高台を残して勇者たちは階段を下へと降りる。とがった黒髪の精悍な少年、淡いブロンドの髪の緊張している少年、とがったまばゆい金色の髪の子どものように小柄な少年に、ぴょんと伸びたウサギの耳をその黒髪の上につけたすらりとした少女の四人がたいまつが照らす戦場へと降り立った。
「じゃあ、始めようか」
そうとがった黒髪の少年――勇者アレルが傍らに立っていたとがったまばゆい金色の髪の子どものように小柄な少年――ビルドに促すと彼は小さく頷いておもむろに手に持った【おおかなづち】を壁際に埋まった【鉄の鉱脈】に振り下ろした。
ギィィイィィン! という甲高い音が坑道に響き渡り、しばし。
大量の水が吹きあがる轟音に続いて、坑道に今再び巨獣の絶叫が響き渡る。
地面が揺れ、やがて奴は姿を現した。
三階建ての大きな建物がすっぽり入ってもまだ余裕があるほど高く広い
坑道を埋め尽くす、亀の甲羅を背負った巨体から伸びる長い長い首の先にある頭は鋭い牙が並び太い角がそびえ立つ竜のそれ。ギロリとひらかれた瞳が遥か眼下のちっぽけな挑戦者たちを睨みつけ、威嚇するようにいらだちを吐き出すようにもう一度大きく吠えた。
GYAAOOOOOOOON!!!
ロマリア大坑道に巣くう魔物
育ち過ぎたガメゴン が あらわれた!!!
さぁ、勇者たちよ。リベンジの時だ。眼前の巨大な魔物を打ち倒せ。
ズズン、ズズンと大きな音を立ててガメゴンが前進を始める。その度に坑道ごと地面が揺れ、淡いブロンドの髪のひどく緊張している少年――僧侶のカダルがゴクリとのどを鳴らした。
その背中を勢いよくぴょんと伸びたウサギの耳をその黒髪の上につけたすらりとした少女――武闘家のフォンが叩いた。
「何するんだよ!」
「こっちの台詞よ。あんた、今さら緊張しててどうすんのよ」
文句を言うカダルだったが、半眼のフォンにバカにされたように言われてぶすっとした顔になりそして表情を引き締めた。
その様子をやれやれと横目で見ていたアレルといつの間にか戻ってきたビルドは、近づいてくるガメゴンとの距離を測りながら今か今かとその時を待っていた。そして地面に【黒い染料】でひかれた線にガメゴンの体がたどり着いたその瞬間、アレルが「今だ!」と叫んだ瞬間、ビルドが手に持っていた【せいどうの銅鑼】が打ち鳴らされる。
次の瞬間、ものすごい勢いで坑道の空間を押しつぶすように巨大な青銅の塊が走りそのままの勢いでガメゴンの竜の頭にものすごい轟音とともに直撃した。砕け散る大青銅球。がその威力は確かにガメゴンへと無視の出来ないダメージを与えた。
思わず高台から身を乗り出して下を見たあらくれたちの目に飛び込んできたのはズズーンという音ともにガメゴンの長い長い首が地面に投げ出された姿。そのことにはじめ信じられないような表情を(マスクの上から)浮かべていたあらくれたちだったが、やがて彼らの口から抑えきれない言葉にならない言葉が零れて合わさり大歓声が坑道に響いた。それは坑道を占拠され、街を壊され、何とか立ち直り、そしてこの場所で一度心を完全に折られた荒くれたちの魂の叫びだった。
そんな声が響く中、ガメゴンの前にいた勇者たちの様子は、アレルはその光景にいけると拳を握りしめ、ビルドはいつの間にか地面に掘った穴の中に隠れ、フォンはトントンと足の調子を確かめるようにステップを踏んで、カダルは俺はやれる俺はやれると自分に言い聞かせていた。
やがてむくりと鎌首をもたげて起き上がるガメゴンは、その高台にも届きそうな頭をふらりふらりとさせながら体を起こし、その眼に確かな怒りを込めて怪物は進撃を始めた。何が何だか分からないが自分を傷つけた矮小な存在を踏みつぶしてやる。そんな意思を込めたガメゴンの進撃に対し、アレル、フォン、カダルの三人は一斉に【ルビーラ】を飲み干し、て、勇者一行らしく勇ましく雄々しく戦いを挑む
――と見せかけてケツをまくって逃げ出した!
その身体をカダルの【ピオリム】の呪文で強化して。こうして人間と生きている砦級の生き物の生死をかけた追いかけっこの幕は上がったのである。
誤字脱字、感想お待ちしてます。
というわけでガメゴン戦開始です。