魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜   作:わんたんめん
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前半 まぁ、そうなるな。

後半 (・3・)あるぇー?どうしてこうなっちゃったんだろうねぇー?


第11話 相手を思うが故に

図書館の常連である車椅子の少女、八神 はやての案内でヒイロは目的の本がある本棚へとたどり着く。

本棚を順繰りと探索しているとはやてから声を掛けられる。

 

「ヒイロさんはまだ海鳴市に来てから日が浅いんか?」

「・・・そうだな。昨日しがたこちらに引っ越してきたばかりだ。」

 

目的の区画が記されている本を見つけたヒイロはその本を手に取りながらはやての質問に答える。

 

「お一人でなんか?」

「いや・・・・・アパートの一室を借りて、ルームシェアの形で複数人と同居している。」

 

流石に管理局の仕事としてとは口が裂けても言えないため、ヒイロはルームシェアという形ではぐらかした。

そんなヒイロに気づくことなくはやては納得といった表情を浮かべる。

 

「へぇー、私もそんな感じの同居人がおるんよ。みんなええ人達で毎日が楽しんよ。」

「そうか。」

(・・・・多分、海鳴市に何があるのかを知るためなんやろうけど、そもそもとして図書館に来て、わざわざ地図で探すかなぁ・・・・。)

 

そう疑問に思うはやてを置いておいて、ヒイロはそっけなく答えながら机に座り、手に取った地図を開く。

パラパラとページをめくる音だけが二人の周囲に響く。

 

「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」

 

淡々と本のページをめくっていくヒイロとその様子をただジーッと見つめるはやて。二人の間にどうしようもない沈黙が続いていく。

 

「・・・・こんなものか。」

「え、早ない?もう全部見終わったんか!?」

「知っている奴の家の周辺や海鳴市の主要施設さえ分かれば十分だ。」

 

パタンという本を閉じる音と共にはやての驚いた声が響く。ヒイロは閉じた本を片付けながらはやてに顔を向ける。

 

「俺はここにもう用はないが、お前はどうする?」

「そうやねぇ・・・。そろそろシグナム達が迎えに来るはずやから、私もここいらで切り上げようかな。」

 

ヒイロは効率を考え、はやての車椅子の取っ手に手をかけようとするがーー

 

 

「ちょっ、ちょい待ちぃ!自分で押せるから!!ヒイロさんに手間掛けさせる訳には行かへん!」

 

はやてからの遠慮しがちな声にヒイロは伸ばしかけた手を引っ込めた。はやては車椅子の車輪を自分の手で押して、前へ進んでいく。

 

「・・・遅かったら置いていくぞ。」

 

そうはいうヒイロであったが、歩幅ははやてが遅れないように車椅子のスピードに合わせて歩くのであった。

図書館の静かな空間を二人並んで歩いていく。

図書館の出口から出てみると、空はオレンジ色に彩られ、時刻が6時あたりに差し掛かっていることを伝える。

それと同時にヒイロ達に向かってくる人影が二つほど見えた。日光から逆光で人相を伺うことは難しかったが、状況から判断して、はやての言う迎えの人なのだろう。

辛うじて分かるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であるというぐらいであった。

 

「っ・・・・・!?」

 

見たことのある人物に思わずヒイロは表情を強張らさせる。そこにいたのはなのはとフェイトを襲撃したあの守護騎士であったからだ。

ヒイロを視認した守護騎士の二人は予想外の存在に二人揃って目を丸くする。

 

「テメェ・・・!!なんでここにいやがる!!はやてから離れやがれっ!!」

 

赤髪の少女は青い瞳を大きく開いてヒイロに敵意を露わにする。

隣の守護騎士も表情には出ていないものの、ヒイロに鋭い視線を向けている。

 

「・・・・たまたま図書館で会っただけだ。」

「んな言い訳、通用すると思ってんのかよ!!」

 

赤髪の少女は犬歯を剥き出しにしながらヒイロに怒声を浴びせる。

ヒイロはこれといった反応は見せないが、頭の中では状況の整理を行っていた。

 

(はやての言う迎えというのは奴らで間違いないようだ。となると、闇の書の主人というのは十中八九、はやてだろう。よもやたまたま寄った図書館で最重要人物と出くわすとはな。)

 

「な、なんや?ヴィータにシグナム、ヒイロさんとは知り合いなんか?」

 

突然の状況に困惑気味のはやてはヒイロに鋭い視線を向けている守護騎士、シグナムとヴィータに質問を向ける。

シグナムは静かに、それでいて冷たい目をヒイロに向けながら頷いた。

 

「そう、ですね。少々、世話になったので。」

 

その表情は今にも彼女の持つ剣が鞘走りと思うほどの鬼気迫る表情であった。

まさに一触即発。どちらかが動けば直ちに戦闘が起こりかねない雰囲気だったが、両者は一歩も動くことはなかった。

その理由として、はやての存在が挙げられる。はやては今現在ヒイロの側にいる。事実上の人質のような形になっているはやてに守護騎士の二人は迂闊に動くことはできない。

反対にヒイロもなのはに一度は対話の姿勢に臨むと言ってしまった手前、ここでシグナム達と鉾を交える気はサラサラなかった。それに自分の迂闊な発言でなのは達の対話の機会を奪う訳にも行かなかった。緊張感があたりに漂う中、先陣を切ったのはーー

 

「ふぅん。なんやヒイロさんはいつのまにか私らの世話になっとったって訳か。」

 

はやてであった。ヒイロに視線を向けると人懐っこい笑みを浮かべる。

 

「ヒイロさん。夕飯、私の家で食っていかへんか?」

「はっ!?」「ちょ・・っ!?」

 

突然のはやての発言に守護騎士の二人は素っ頓狂な声を上げながら驚きを露わにする。

ヒイロも呆気にとられながらもはやてに厳しい表情を向ける。

 

「・・・・正気か?」

「正気やで〜私は。だってただ世話になった礼をするだけや。なんらおかしいところはあらへんよ?」

 

おどけた表情をしながら手をヒラヒラと振るはやてにヒイロは訝しげな視線を向ける。

 

(はやては俺と奴らが関係が険悪になっているのは気づいているはずだ。その上で家に上がらせるなど、報復やそのあたりしか思い浮かばんが・・・。)

 

「・・・・やっぱり駄目、かな?ヒイロさんとは今日会ったばかりの仲やけど、それでも家族と喧嘩しそうな雰囲気を見るのは嫌なんや・・・。」

 

そう言ってはやては悲しげな表情を浮かべるが、ヒイロにはそれが演技が混ざっていることを見抜いていた。

 

「・・・・演技が混ざっているのは分かるが、お前のその言葉は本心なのだろう。」

 

ヒイロは視線を逸らしながらそうはやてに言う。はやてはいたずらがバレたような表情を浮かべるが意にかさずにヒイロは矢継ぎ早に続ける。

 

「だが、お前らはどうなんだ?俺が上がったとしてもお前達はよく思ったりはしないだろう。」

 

ヒイロに視線を向けられた守護騎士二人、特にヴィータは拒絶をはっきりと感じさせるように嫌悪感を露わにしていたがーー

 

「・・・・それが主人の願いであるならば。」

 

シグナムは割とあっさりと引いた。そのことに思わず困惑を隠せないヴィータ。

ヒイロも少し意外性を含めた表情を浮かべる。

 

「なぁ、ヴィータちゃん。ダメか?」

 

はやてが僅かに潤んだ声でヴィータに問いかける。それにヴィータはしばらく天を仰いで声にならない唸り声をあげていた。しばらく自分の気持ちと格闘した結果ーー

 

「ああもうっ!!わかったよ!!だがなお前が何か少しでもはやてにへんなことしそうになったらぶっ飛ばすからなっ!!」

 

ヴィータもヒイロに指差しながら条件付で承諾した。

これでヒイロが逃げる口実は無くなった。

 

「どや?これで文句はあらへんやろ。」

「ちっ・・・。物好きな奴だ。」

 

軽く悪態をつきながらもヒイロははやて達と同行することになった。

 

「あとシグナム達も家に帰ったらちょっとお話しせなぁあかんかもな。裏で何やってるのか気になったからな。」

 

そう言われたシグナムとヴィータは気まずそうに視線を逸らすのであった。

 

(・・・・主人であるはやてにも話していないのか?コイツらの目的は、一体なんなんだ?)

 

移動中、そう疑問に思うヒイロであった。

しばらく歩いていくと表札に八神と書かれてある一軒家にたどり着いた。

ヒイロは軽く視線を周囲に向けてから八神邸に入っていった。

 

「・・・・・・」

 

その様子を何者かの黒い影が見つめていた。

 

 

 

「おかえりなさい。・・・・って、その子は?」

 

玄関のドアを開けると出迎えてきたのは和やかな雰囲気を持った金髪の女性であった。その女性はヒイロの存在に気づくと見かけない人物に首をかしげる。

 

「・・・・・ヒイロ・ユイだ。お前達、ヴォルケンリッターの主人であるはやてに誘われた。」

 

ヴォルケンリッター。ヒイロがユーノから聞いたことの単語。それは闇の書に搭載されている『守護騎士プログラム』の別名である。シャマルはそれを知っている目の前の少年を十中八九、管理局の手の者だろうと思った。

そう判断した金髪の女性、『シャマル』は自身の指に装着されてあるデバイス、『クラール・ヴィント』を展開しようとする。

 

「シャマル、待ってくれ。結界も張っていないのにデバイスを展開すれば、管理局に目をつけられる。」

「・・・・この子は違うとでも言うの?そんな保障、どこにもないじゃない。」

 

シグナムがデバイスを展開しようとするシャマルに待ったをかける。シャマルは一応手は止めてくれたが、その視線はヒイロに突き刺さる。

 

「・・・俺は確かに時空管理局から民間協力者の形を取っているが、立場はほぼ一般人と相違ない。民間協力者というのもその方が動きやすいと判断したまでだ。」

「・・・・どういうこと?」

「俺が時空管理局に話すかどうかは俺次第ということだ。もっとも俺自身に話す気はない。さらに言えば、俺は魔力とやらは一切ない。魔力の追跡で管理局にここを嗅ぎ付けられるということはないだろう。」

 

ヒイロの言葉でもシャマルは疑いを持った視線を向け続ける。ヒイロは人の信頼というのは思った以上取れないものだと心の中でため息をつく。

 

「・・・ならば、この背の低い奴が言ったが、俺が少しでも怪しい行動を取ればすぐさま切り捨てても構わん。」

 

ヒイロはヴィータに視線を向けながらシャマルに自分の命の裁定を預けた。

およそ少年から出てくるとは思わぬ自分の命を顧みない発言にシャマルは目を見開いた。

 

「・・・・本気なの?」

「それくらいでなければお前達は納得しないだろう。それだけだ。」

 

シャマルの確認にヒイロはさも当然だと言うように言い放つ。

虚勢を張っているのならまだしもヒイロの発言は本気以外の何者でもない。

ヒイロはシャマルの答えを待っていると視線を感じた。そちらの方向に顔を向けるとはやてがいた。その表情はどこか怒っているようにも感じられた。

 

「ヒイロさん。そんな簡単に自分の命を捨てたらあかんよ。」

「どんなものにも対価は必要だ。今回はヴォルケンリッターの信用を得るに値するのがたまたま俺の命を賭けるしかなかっただけだ。」

 

はやてはヒイロにムッとした表情を向け、発言の撤回を求めるような視線を向ける。しかし、ただの少女に気圧されるヒイロではないため、それが当たり前だと言うように反論する。

 

「でも・・・やっぱりあかんよ。そう易々と自分の命を賭けたら・・。それでヒイロさんが死んだら絶対に悲しむ人がいるはずやから。少なくとも私は多分、いや絶対泣いてしまうやろな。」

「・・・・そもそも、俺はそう簡単に死ぬつもりは毛頭ない。」

「・・・・・そっか。ならいいんや。」

 

ヒイロの言葉にはやては軽く笑みを浮かべ、シャマルの方に向き直る。

 

「そんな訳や、シャマル。そう警戒せえへんでええんや。ヒイロさんは私が誘っただけやから。ザフィーラも同じやで?」

 

そう言われ、部屋の奥で様子を見ていた紺色の毛並みを持った狼は警戒を緩めたのか床に座った。

 

「・・・・分かりました。貴方がそう言うのであれば。」

「ありがとう、シャマル。」

 

はやてはシャマルに対してお礼を述べるとキッチンへと向かう。

 

「さて、今日はお客さんもいる訳やし、いつもに増して腕によりをかけるで!!」

「・・・・・料理は基本的にお前がやっているのか?」

「え?そうやね。いつも私がやってるかな。」

 

はやてからその答えが返ってくるとヒイロはシグナムとシャマルに視線を向ける。視線を向けられた二人はシャマルは特に気にしていないようだが、シグナムは視線を逸らした。

 

「私はできることはできるわ。」

 

なら病人であるはやてを厨房に立たせずにシャマルがやった方がいいのではないか?そうヒイロは続けて質問をしようとしたが、ヴィータがちょいちょいとヒイロの服を引っ張っていることに気づいた。

 

「・・・頼む。何も聞かないでやってくれ。シャマルの料理は死ぬほど微妙なんだ・・・!!」

 

その表情は僅かに青い顔していたため、ヒイロはそれ以上は何も聞かなかった。

・・・・死ぬほど不味いなからともかく微妙であればある程度の鍛錬を詰めば出せるレベルになるのではないだろうか、と思ったのは内緒だ。

 

 

 

「えっと、確かここにアレがあったはずやけど・・・。」

 

必要な調理器具を取るために車椅子を移動させて取りに行こうとする。

車輪に手をかけ、いざ行こうとした時、目的のものがある引き出しにはすでにヒイロがいた。

彼はその引き出しを開けるとあるものを手にとって手渡した。

それははやてが必要としていた調理器具であった。はやてはヒイロから受け取ると驚きの表情浮かべたまま作業に戻った。

 

「よ、よく分かったなぁ・・・。」

「視線と作っている料理からある程度の推測は可能だ。」

「・・・ヒイロさん、もしかして料理できるんか?」

「一通りの家事全般は可能だ。」

 

 

しばらくするとはやてが作った料理が食卓に並べられる。

ヴォルケンリッター達やヒイロも用意してくれた席に座りながら家の主人であり、闇の書の主人でもあるはやてが切り出した。

 

「さて、それじゃ、話してもらおか。シグナム、裏で隠れて何をやっていたか話してや。」

 

はやてがそう聞くとシグナムは徐に話し始めた。自分達が主人であるはやてにも隠して行ってきたこと。はやての下半身不随の原因が闇の書がはやてのリンカーコアを浸食していることを知った彼女らが魔道士達やリンカーコアを持つ生物達を襲撃し、魔力を奪い取り、闇の書の完成を目指していたことを。

 

「ーーーこれで全部です。貴方との誓いを破っていたこと、我々は何の申し開きもしません。」

 

シグナムがはやてに対して頭を下げると、ヴィータ達も頭を下げた。彼女らには悪意は少しもなかった。あったのは、ただ自分達に優しくしてくれたはやてを救いたいという一心だけであった。

 

「・・・・みんな、顔を上げるんや。」

 

はやてからの声がかかると守護騎士達は揃って顔を上げた。叱責などを覚悟していた彼女らが見たはやての表情は笑顔であった。

 

「ありがとうな、こんな私のために。大変やっただろうに。」

 

主人からの労いの言葉に困惑を隠せない守護騎士達。シグナムはそんな彼女に思わず質問をぶつける。

 

「主人よ・・・その何もないのですか?」

「何もって・・・・何が?」

 

シグナムの質問にはやてはキョトンと首を傾げた。その様子が守護騎士達の困惑を一層引き立てる。

 

「だって、みんなは私のことを思って魔力を集めていたんや。まぁ、流石に人様に迷惑かけとったのはあかんけど、その気持ちを怒ったりはせえへん。」

「・・・・主人よ。貴方の寛大な御心、感謝します・・・。」

「・・・・ひと段落はついたようだな。それで、お前達はこれからどうするんだ?」

 

ヒイロがそう声をかけるとはやては悩ましげな表情を浮かべた。

 

「うーん。とりあえず魔力の蒐集はやめさせるとして問題は闇の書をどうするかねんな。実を言うと時間がないっちゅうのは私自身なんとなく分かってはいたんよ。それに関してはシグナム達には謝らなあかんわ。ごめんな。」

「というと・・・?」

 

シャマルが疑問気な表情を見せるとはやてはバツの悪い顔をした。

 

「実はというとな。ここ最近心臓辺りが突然激痛に襲われることがあるんよ。心筋梗塞とかそのあたりかと思っとったんやけど、あながち間違いじゃあらへんやな。」

「・・・・闇の書の浸食がそこまで進んでいるということか。」

 

ヒイロがそういうとはやては頷いた。シグナムの言っていた闇の書の浸食が進んでいるということは早急に手を打たなければはやては死んでしまう可能性がある。

 

「でも、闇の書が完成すればはやてちゃんの麻痺も治ると思っていたのですが・・・。」

「・・・その情報は本当にそうなのか?こちらでは完成させれば周りに甚大な被害を生むと聞いた。文字通りの災厄をな。」

 

シャマルの発言に対してヒイロがそういうと守護騎士たちは皆、驚きに満ちた表情を浮かべた。そのことにヒイロは怪訝な顔を浮かべざるを得なかった。

 

「・・・お前たちは闇の書のプログラムの一種のはずだ。記録とかは共有していないのか?」

「そんなの聞いたことがねぇぞ!!どこで聞いたんだよ、それ!!」

「管理局の執務官だ。名前は伏せさせてもらうが。」

「・・・シグナム。我らの記憶は朧げなところが多い。闇の書を完成させれば、主人の体が治るというのも我々の勝手な思いつきだ。ここは彼に情報を集めてもらった方がいいかもしれん。」

 

突然響いた男性の声にヒイロはあたりを見回す。声のした方向にいたのはザフィーラだけだった。だが、ヒイロにはアルフとユーノという前例からある結論を導き出した。

 

「・・・・お前、使い魔だったのか。」

「守護獣だ。そこのところは間違えないでほしい。」

 

どうやら違うらしい。何が違うのかはよく分からなかったが、追及はせずに話を戻すことにした。

 

「ザフィーラの言う通りだ。その、不躾で申し訳ないのを承知で君に頼みたい。闇の書に関する正確な情報がほしい。」

「・・・了解した。だが、こちらからも頼みがある。しばらく、魔力蒐集を続けてほしい。」

「理解しかねる・・・。どういうことだ?」

 

ヒイロの頼みにシグナムが訝しげな表情を浮かべる。先ほど、はやてが魔力の蒐集をやめると言ったのに、それを無下にするつもりなのだろうか、と。

 

「・・・無理に行う必要はない。それこそ蒐集を行う振りでも問題はない。だが、管理局は組織だ。組織である以上、一枚岩であることはありえない。必ず別の考えを持つ奴がいる。ソイツらを引きずり出す。マイナス要因は取り除いておく必要がある。」

「黒幕を炙り出す、ということか?」

 

シグナムがそう聞くとヒイロは首を横に振った。

 

「・・・・ソイツは黒幕ではない。だがこちらの出方によっては味方に引き込むことも可能だ。それに闇の書にも密接に関わっている。情報源としても味方に引き込んでおいた方がいい。」

「・・・主人、どうしますか?」

「え、私に振るんか?そうやね〜・・・・ヒイロさん、それは絶対しなきゃあかんか?」

「・・・しておいた方が誘きやすくはなるが無理強いをするつもりはない。」

 

ヒイロにそう言われると、はやては少々唸り声をあげながら思案に耽る。

 

「・・・・わかった。多分、魔力の蒐集を行なっているって相手に見せるのが重要なんやろうな。シグナム、一応許可は出すわ。けど過度な蒐集は行わないことが条件や。」

「・・・了解しました。」

 

話も一息ついたところで、とりあえず置いてあった夕飯を平らげ、ヒイロは八神邸を後にしようとする。

 

「な、なぁ、ヒイロ。」

「・・・・ヴィータか。」

 

振り向くとヴィータが少々思いつめた表情を浮かべていた。少しばかり逡巡した様子を見せていたが程なくしてヒイロに視線を合わせた。

 

「・・・あの白い服の魔道士の名前、なんて言うんだ?あいつにはちょっと謝りたくてさ。」

 

ヴィータの言う白い服の魔道士というのはなのはのことを指しているのだろう。

彼女を襲撃したことをヴィータは謝りたいらしい。

 

「・・・・自分で聞け。向こうもお前に名前を聞こうとしていたそうだからな。」

「うぅ・・・・ケチ。」

「ヒイロ。」

 

ふてくされるヴィータを無視して玄関のドアから出ようとするヒイロを再度呼び止める声が響く。その声の主はシグナムであった。

 

「なんだ?」

「・・・お前ほどの実力者であれば気づいているだろうが、つけられている。」

「・・・・ああ。理解している。」

「・・・・気をつけろ。」

「ああ。」

 

 

シグナムの言葉に軽く返事をし、ヒイロは八神邸を後にした。日は既に沈み、光源となるうるものは電柱のライトから照らされる光ぐらいであった。

そんな夜道を一人で歩いている中、ヒイロは立ち止まり、振り向いた。そこに広がるのは闇だけであったが、ヒイロには分かっていた。

 

「殺気で丸わかりだ。用があるなら姿を見せろ。」

 

闇に向かってそう呼びかけると闇の中から歩く音が響いてくる。闇の中から出てきたのは仮面を被った男であった。

 



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