魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜 作:わんたんめん
ヒイロがなのはとフェイトの特訓の師事を始めて数日、メニューとしては腕立て伏せといった一般的な筋力トレーニングのほかにはランニングなどで数をこなしていくうちに徐々にペースを上げられるほどには二人の体力は向上の線を見せていた。
ちなみに体幹トレーニングもしていたが、これにはまだ小学生である彼女らにはきつかったのか終わった後には敷いたシートの上でドザエモン状態になっている時が何回も見受けられた。
「い・・・・インナーマッスルを鍛えるのってすっごい、大変なんだね・・・フェイトちゃん・・・。」
「うん・・・。でも、今はちょっと話しかけないでほしいかな・・・。少しでも気が抜けると、落ちそう・・・。」
「ううっ・・・フェイトちゃんが最近冷たいの・・・・。」
まさかの親友に話しかけないでほしいと言われたなのははショックを受けながら頑張っているフェイトに負けないように体幹トレーニングに励んだ。
「・・・・3分経ったぞ。時間だ。」
少ししてヒイロがなのはたちの元に戻ってくる。出された終了の合図が聞こえたと同時になのはとフェイトは疲れ果てたのかシートの上にうつ伏せで倒れた。
「にゃぁー・・・・・。」
「まだ、この腕立て伏せとは違った辛さに慣れない・・・。」
「・・・そう一朝一夕に筋力がつくわけではない。こうして訓練は積ませているが、最終的にはどれほど続けたかが結果を左右する。」
ヒイロの言葉に、そうですね、と頷きながら顔を上げる。すると、フェイトの視界には気になるものが目に入った。
「・・・ヒイロさん?それは・・・?」
フェイトはヒイロの手に持っていたものに視線を向けながら尋ねた。ヒイロの手に持っているのは二つのペットボトルだった。
「お前たちの水分補給用の飲み物だ。そこの自販機で買ってきた。」
ヒイロはそう答えながら、二人のそばにそれぞれペットボトルを置いた。
「あ、ありがとう、ございます・・・。」
「あうー・・・ありがとうなの・・・・。」
「それを飲んだらしばらく休んでおけ。次は模擬戦をやるつもりだからな。」
ヒイロがその言葉を言った瞬間、なのはたちの目が変わった。やる気に満ち溢れ、今すぐにでもやり始めそうな雰囲気であった。
その様子に軽くヒイロはため息をつくのだった。
「確認するが、どこか少しでも身体に異常が見られるようであれば特訓は即刻中止する。その点に異論はないな?」
ヒイロが木刀を手にしながらそういうと同じように棒を持っていたフェイトは無言で頷いた。
なのははその二人の様子を少し離れた場所から観察していた。
「時間は10分を考えている。力加減はするが時間中は何度でもかかってきて構わん。」
「・・・はい!!」
フェイトはヒイロに向けて棒を構えた。対称的にヒイロは特にこれといった構えはせずに自然体を貫いていた。
(・・・・まさか、他人に戦闘訓練を施すことになるとはな。)
ヒイロは内心、そんなことを考えていた。今まで戦いしかしてこなかった自分が誰かの指導を請け負う経験はヒイロ自身、全くなかった。ただ、教えている相手がまだ年端のいかないフェイトとなのはということはヒイロにはなんとも言えない気持ちを抱かせていた。
「・・・・行きますっ!!」
フェイトが声を張り上げながらヒイロに接近する。振り上げていた棒を上から下へと薙ぐように振り下ろす。
ヒイロは振り下ろされるそれを木刀で受け止め、鍔迫り合いに持ち込もうとする。
(ヒイロさんに鍔迫り合いに持ち込まれたら確実に力負けする・・・!!)
ヒイロの馬鹿にならない筋力を警戒してか、フェイトが鍔迫り合いに持ち込まれるより前に一度、ヒイロから距離をとって仕切り直す。
「・・・・あまり、俺を想定して動かない方がいい。お前の相手は俺ではなくあの剣を持った守護騎士だ。」
「え・・・・?」
フェイトはヒイロの言葉の真意を考えようとしたがそれより先にヒイロが動いた。
脚に力を入れ、地面を踏みしめたヒイロはその場から跳躍する。その高さ、およそ10メートルに届きそうであった。
「ふぇぇっ!?」
「う・・・嘘・・・!?」
およそ、生身では到達しえない高さへの跳躍になのはとフェイトの驚きの声が重なる。高く飛び上がったヒイロは木刀を上段に構えながら、重力に従い、自由落下してくる。
「あ・・・・。」
ヒイロの特異な行動に気を取られたフェイトは一瞬、その場に固まってしまう。
(しまった。逃げ損ねた・・・!!防御、するしか・・・。)
立ち止まってしまったことにより逃げる時間を無くしてしまったフェイトは棒を横にして、落下の力が加わったヒイロの木刀を受け止める。ヒイロが力を抜いていたとはいえ、重力による落下スピードが乗った木刀の威力は凄まじく、フェイトは思わず棒を落としてしまう。
「・・・それではこの前の二の舞になるだけだ。」
棒を落として、自身の武器を無くしたフェイトに木刀を向けながらヒイロは言い放った。
「お前の戦闘スタイルはスピードを生かし、相手を翻弄するタイプだ。さっきお前が取るべき手段は防御ではなく回避だ。それはお前の中でもわかっているな?」
その言葉にフェイトは無言で頷いた。ヒイロはフェイトの様子を見ると言葉を続ける。
「戦闘において重要なのは考えることをやめないことだ。一瞬の思考の停止が仇となり死を招くこともある。仮に相手が想定外の行動を取ったとしても冷静に対処し、自身の優位な方向に持っていく。それが基本だ。」
ヒイロはフェイトから視線を外すと彼女が落とした棒を手に取ると、フェイトにその棒を差し渡す。
「時間としてはまだ1分も経っていない。先ほどのことを留意しながらかかってこい。」
フェイトからヒイロから渡された棒を手に取りながら立ち上がる。フェイトは一度、息を吐いて深呼吸をすると、再度棒を構えてヒイロに向き直る。その表情は真剣以外の何物でもなかった。
「・・・お願いします。」
手にした棒を握り締めながらフェイトはヒイロに仕掛ける。フェイトは現状持ち得る戦闘スキルの全てを以てヒイロに攻撃を仕掛けていくが、ヒイロはそれを悉くいなしていく。
(くっ・・・やっぱり強い・・・!!どんな攻撃パターンを仕掛けても平然と対応される・・・!!)
フェイトはヒイロの対応力の高さに驚愕すると同時に有効打を一度も与えられないことに歯噛みしていた。今までやってきた攻撃パターン、もしくはヒイロとの模擬戦最中に思いついた良し悪し問わずのパターン、どんなに攻撃を加えてもヒイロの防御が崩れる様子はなく、フェイトの攻撃を防ぎ続ける。さながら要塞を相手にしているような気分であった。
(普通にやってもダメなら・・・!!)
決心した表情を見せるフェイトにヒイロの振るう木刀が迫りくる。防御のためにフェイトが棒を構えようとした瞬間、フェイトの姿が搔き消えた。ヒイロの木刀は標的を捉えることはなく、空を切った。
(ブリッツアクション・・・!!ヒイロさんには見せたことないからずるいと思われるだろうけど・・・・!!)
フェイトはヒイロの頭上へと移動していた。ブリッツアクションと呼ばれるフェイトが使う高速移動魔法。これを使って瞬間移動とも取れるスピードでヒイロの頭上を取ったフェイトは空中で棒を振り下ろそうとする。魔法まで使った完全な意識外への攻撃にフェイトは取ったと確信めいた感情を抱く。
だが、視線をヒイロの背中に向けた瞬間、彼女の表情は固まった。
(どう、して・・・?)
ブリッツアクションを使った背後を取る奇襲戦法には自信を持っていたフェイト。
しかし、そんな彼女に視線を向ける人物がいた。
「・・・・。」
他でもないヒイロであった。既に木刀は振り下ろした状態ながらも顔をわずかに横に向け、視線だけを背後のフェイトに向けていた。
その目は迷うことなくフェイトを捉えていた。
(読まれた?でもブリッツアクションは見せたことないはずーーそれよりも回避ーー)
「遅いっ!!」
ヒイロに奇襲がバレた状態でもヒイロの助言の通り回避行動を取ろうとするが振り下ろした棒はヒイロに振り向きながらの一閃によりフェイトの手から離れ、天高く打ち上げられる。
「っーーー!?」
フェイトは棒を高く打ち上げられたことに驚きながらもあることに気づく。
ヒイロの攻撃が棒を弾き飛ばした時、フェイトにも少なからず衝撃が伝わった。
その衝撃はフェイトの空中姿勢を崩してしまった。
つまりーー
(しまっーー)
「フェイトちゃんっ!!」
フェイトの体は重力に従って落下を始める。
なのはの声が広場に響き、フェイトが迫りくるであろう痛みに目を瞑った。
「・・・・?」
しかし、いつまで経っても想像していた地面に叩きつけられるような痛みが来ることはなかった。疑問に思って閉じていた瞳を開けると、目の前にはヒイロの顔があった。
「・・・加減を誤った。俺のミスだ。怪我はないな?」
「え・・・っと、はい。大丈夫・・・です?」
ヒイロの問いにフェイトが状況を把握できないながらも答えるとヒイロは表情に変わりはないもののどこかホッとしたような様子を見せる。
「・・・ならいい。お前に怪我をさせればクロノやリンディに何を言われるかわかったものではないからな。」
そう言ってヒイロが立ち上がると、同時にフェイトの視線の高さも上がった。
「あ、あれ・・・?」
気になったフェイトが辺りを見回してみるとヒイロの腕がフェイト自身の体を抱きかかえていた。
状況をうまく掴むことが出来ずに親友であるなのはに視線を向けると彼女はまるで凄いものを見ているかのような視線を送っていた。
「フェイトちゃんがお姫様だっこされてるの・・・。」
「お、お姫様だっこっ!?」
お姫様、つまるところプリンセス。その言葉にフェイトの脳内でドレスを着飾った自分自身を思い浮かべる。
(わ、私がお姫様・・・?)
さらに一度浮かんだ妄想はそう簡単に留まるところを知れず、彼女を抱きかかえているヒイロに視線を向けると、つい妄想を重ね合わせてしまう。
それはお姫様がいるところその存在ありと言っても過言ではないーー
(じゃあ・・・ヒイロさんが、王子様・・・・?)
その妄想を設定においた空想がフェイトの頭の中で思い描かれ始めた瞬間ーー
「降ろすぞ。怪我がないのであれば、問題あるまい。」
「あ・・・・。」
ヒイロがフェイトを降ろした。現実に戻される感覚と共に、僅かにもの寂しげな感情をフェイトは抱いた。
「10分は経っていたな。次はなのはだ。お前の場合は遠距離特化だったな。」
「うん!」
ヒイロの言葉になのはは大きく頷いた。フェイトはそこでヒイロの視線が既に自分ではなくなのはに向けられていることを察する。
「最後にやった背後への移動。あれは単純だが、それ故に安定した動きを出すことができる。お前の戦闘スタイルを鑑みてもそれの使い方が有効打の一つにはなる。今後も使っていけ。」
「え・・・?」
フェイトが驚きの表情を浮かべ、ヒイロに視線を向けた時にはなのはに説明を始めているところでとても先ほどの発言について詳しく聞くことはできなかった。
「ならば格闘戦に持ち込まれた際の対策を中心に置く。内容としては俺が攻撃を仕掛ける、お前はそれを捌く。それだけだ。お前はいかに相手との距離を稼ぐかを意識しろ。」
「はい!!」
(・・・・・どうしよう。動悸が止まらない・・・・。)
フェイトは模擬戦のために広場へと向かうヒイロとなのはをそっちのけで自分の止まらない心臓に顔を赤くしながら抑えるように自身の手を乗せるのであった。
「格闘戦に持ち込まれた際に相手との距離を取るには主に二つだ。攻撃を避けるか相手にカウンターを叩き込むかだ。」
「・・・・あれ?」
なのはと相対したヒイロはなのはに格闘戦についての教示を始める。ヒイロの言葉を聞きながら反芻するように頷いていたなのははふと気になったことがあった。
「主にってことは、回避とカウンター以外にも距離を取ることができる方法ってあるんですか?」
「・・・あるにはある。それは距離をとってからの魔法による反撃への移行も容易い。だが、それはできればの話の上、どうしても避けられない攻撃への咄嗟の対応という面が強い。失敗した時のリスクを考えれば回避と相手の隙を見出すことを強化したほうがいいと思うが・・・。」
「それじゃあ・・・内容だけ聞かせてもらってもいいですか?やるやらないは別として。」
なのはの言葉にヒイロは少々考え込む様子を見せる。程なくした後にヒイロの閉ざされた口が開いた。
「・・・いいだろう。簡潔に言えば、相手の攻撃に合わせて後ろへ飛ぶことだ。うまくタイミングが噛み合えば攻撃の威力を減衰させつつ、衝撃を利用して相手との距離を作ることも可能だ。」
「・・・失敗したりするとまともに相手の攻撃を受けちゃいますね・・・。」
「そうだ。だが、実行するかしないかの判断はお前に任せる。間合いの取り方や方法は俺が教えるよりお前自身で考え、経験した方が手っ取り早いからな。」
「はいっ!!」
なのはは返事を辺りに響かせながらヒイロに向けて棒を構える。
「それじゃあ、10分間、お願いします!!」
「・・・・行くぞ。」
・・・CVグリリバのキャラにお姫様だっこされると誰でも墜ちるような気がするのは小生の気のせいだろうか。