魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜   作:わんたんめん

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散る(散るとは言っていない)


第17話 リーゼ姉妹、閃光に散る

「・・・・・・・。」

 

中々唐突な話だが、ヒイロは現在、修羅場の真っ只中に放り込まれていた。

アパートの冷たいフローリングの上で正座させられているヒイロ。フローリングの冷たい感覚が足を伝ってくるが、過酷な任務をこなしてきたヒイロにとってはどうということはなかった。

 

視線を軽く周囲に向ければ、どうしたらいいのかわからないのか終始オロオロした様子を見せるなのはとフェイト。余談だが、アルフも子犬モードでフェイトの足元でプルプルと震えている。

それと、目のハイライトが消え失せ、死んだ魚のような目をしながら部屋に映し出されるディスプレイに現実逃避するように見入っているエイミィ。

 

『ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ』

 

部屋の隅からそんな音が響き、視線を向けるとその先にいた人物達は『ピィッ!?』と情けない声を出しながらお互いの肩を抱き寄せながら身を縮みこませている。

その人物達とはグレアムの使い魔であるリーゼロッテとリーゼアリアだった。二人はヒイロに対し、まるで悪魔やら魔王やら、ともかく恐ろしいものを見ているかのような涙目と怯えきった表情で震えていた。

そして、ヒイロが視線を自身の正面に戻すと仁王立ちしているリンディとクロノの姿があった。

 

クロノは明らかに怒っている様子だったが、リンディの方は笑顔であった。

だが、目が笑っていないことを鑑みるにリンディも怒ってはいるのだろう。纏っているオーラがいつものリンディとはかけ離れていたというのもあった。

 

「ヒイロ君?」

 

リンディの冷え切った声が雰囲気が凍りついた部屋の中で妙に良く響き渡った。

ヒイロはそれに表情を変えずに視線を返すことで答える。

 

「貴方、今回何をしでかしたか、分かってる?」

 

張り詰めた空気の中、リンディがヒイロに問い詰める。

ヒイロは特に表情を浮かべることはなく、意にも介していないかのように自分の行動を説明し始める。

 

時間はヒイロが仮面の男、もとい、リーゼロッテとリーゼアリアにバスターライフルを撃った時間に遡る。

ヒイロがバスターライフルを放った直後の結界内では、それぞれが困惑の様子を浮かべていた。

 

 

(ヒイロさん・・・?さっきの通告は一体・・・?)

 

シグナムも一度構えを解いたため、自然とフェイトも戦闘態勢を解除する。

突然の戦闘中止の忠告と射線を開けろという謎の勧告にフェイトは困惑気味な表情を浮かべていた。

どうしようかと思い悩んでいるとーー

 

『Sir!!高エネルギー体が接近中!!今すぐそこから離れてください!!』

「バ、バルディッシュ?わ、分かった。とりあえず離れればいいんだね?」

 

バルディッシュの急な警告に驚きながらもフェイトは一度その場から距離を取った。シグナムもバルディッシュの警告を聞いたのか、フェイトと同じようにその場から離れた。

フェイトが何事かと思って周囲を見渡す。

ふと視界にそこらの星より一際輝く光が一瞬見えたと思えば、先ほどまでフェイトとシグナムが戦っていた付近を山吹色のビームが駆け抜ける。

そのビームの出力は見るからにとても高い。フェイトはなのはのディバインバスターを彷彿とさせるビームの行き先を追った。

 

そのビームは結界の張られた海鳴市の空を一直線に駆け抜けていく。そのまま行くと管理局員が張った結界の端に到達する。普通であればビームが弾かれるなりなんなりの抵抗を見せる結界。

だがそのビームはその結界に阻まれるどころか、壊れる音すらも立たせずに結界にポッカリと穴を作り出した。

 

「け、結界が・・・!?」

(今のビームは一体どこから・・・!?いや、あのビームはヒイロさんの警告のあとに飛んできた。なら、あのビームはヒイロさんが撃ったもの・・・?)

 

思いもよらない結果にフェイトは思わず驚きの声を零した。

結界が突如として現れたビームに貫通されたことは別の場所からなのはとヴィータも見ていた。

 

「い、今のは一体・・・!?」

「ちっ!!なんちゅうトンデモをやらかしてんだよ、アイツはっ!!あんなのに巻き込まれたらアタシらでも無事じゃすまねぇぞ!?」

 

 

「一体なんなんだい・・・?あれ。」

「・・・・よもやあれほどの威力を誇るものが魔力もなしで撃ててしまうとはな・・・。」

 

アルフとザフィーラは先ほどまで交えていた拳を止めながら未だ目標に向かって飛翔を続けるバスターライフルの光を呆然と見つめていた。

 

 

 

 

「とりあえず、あの人の言う通りにするしかないか!!」

 

クロノはヒイロが無理やり通信を切ったことに苦い顔をしながらも自身の周囲にプロテクションを展開する。

程なくしないうちに結界を貫いたバスターライフルの光が見えてくる。

 

「こ、これはっ!?」

 

仮面の男は自身に迫り来る爆光に気づくと自身の周囲に渦のようなプロテクションを展開する。

しかし、そのバスターライフルのビームは仮面の男を飲み込むことはなく掠めるような形で夜空へと向かっていった。

 

「は、外した・・・?」

 

クロノが疑問気な表情を浮かべるが、それはすぐさま驚愕へと変わっていった。

仮面の男が張っていた渦のようなプロテクションが音を立てて破壊される。

 

(か、掠めただけで、あのプロテクションを破壊したのか!?)

 

クロノが見ただけでも、仮面の男が、いや自身の師匠であるリーゼロッテが張ったプロテクション、『ホイールプロテクション』の強度は並の魔導士ではたどり着くことができないほどの強度はあった。

だが、およそヒイロが放ったと見られるビームはそれを掠めるだけで突破する。

それどころか、ビームが掠めたリーゼロッテにさらなる異変が訪れる。

 

「うっ、ぐっ・・・・ああああああああっ!?」

 

リーゼロッテの体から突如として炎が上がる。それはリーゼロッテを包み込むと焼き尽くさんと言わんばかりの火力で彼女の体を焼いていく。

炎に焼かれたからか、変身魔法が強制的に剥がされ、仮面の男から特徴的な猫の耳と尻尾が生えた本来の姿に戻ると火だるまの状態で墜落していく。

 

「なっ・・・!!ロッテ!!アリアっ!!」

 

悲痛な状態へと成り果てた彼女らに向けて悲痛な声をあげながらクロノは彼女らの元へ駆け寄る。

 

「これは、私も向かった方がいいのでしょうか・・・?」

『シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、俺が開けた穴から結界を脱出しろ。』

 

シャマルは回復魔法が使えるため、一応クロノを追おうとする。その時にヒイロから念話で通信が入った。

なるほど、先ほどのビームはそのためでもあったのね。シャマルはそう思いながらクロノを追う。

 

『シャマル。お前も撤退しろ。』

「ありがとう。だけど、私にはやることがあるから。」

 

シャマルがそう言うとヒイロは考え込むように少しの間押し黙った。

両者の間で沈黙が走るがーー

 

『・・・了解した。だが、闇の書を持っているお前が捕らえられればこの作戦をやった意味がなくなるのを忘れるな。』

 

ヒイロはそう言うとシャマルと念話を切った。

シャマルは軽く笑みを浮かべるとクラールヴィントに向けて何かを呟く。

次の瞬間、バスターライフルの余波に当てられて重傷を負ったリーゼアリアとリーゼロッテの周囲を柔らかな風が包み込む。

一瞬、シャマルに鋭い視線を送るクロノだったが、彼女らを包み込む柔らかな風の正体が回復魔法の類だと気づくと、ホッとしたように表情を緩ませる。

みるみるうちに二人の傷口が塞がっていき、最終的には傷痕すら残さず完治した。

クロノは二人の傷を治してくれたことにシャマルに向けて感謝を述べようとする。

しかし、それよりも早くシャマルが軽く一礼をすると予め発動させておいた転移魔法を用いて、現場から飛び去っていった。

クロノは捕縛対象を逃してしまったこととその捕縛対象に知り合いを助けられてしまったことに微妙な表情をしながらリーゼロッテたちの元へと向かった。

 

 

 

「・・・・わかった。すまんがテスタロッサ。今回はここまでだ。」

「・・・・・貴方をここで逃すわけには行きません。」

 

ヒイロからの念話を聞いたシグナムがレヴァンティンを鞘に収めると転移魔法を起動する。

フェイトはシグナムの行動に怪訝な表情を浮かべながらも追撃するためにバルディッシュを構え、バインドを展開しようとする。

 

『Schlangeform!!』

「お前との戦いは久々に心躍るものだった。余程の鍛錬を積んだか、もしくは良き師に教えを請うたのだろう。」

 

そういいながらフェイトより早くシグナムは鞘からレヴァンティンを引き抜く。しかし、その刀身はさっきまでフェイトと斬り結んでいたものとは打って変わり、まるで蛇のように連結した極大の長さを誇る蛇腹剣へと姿を変えていた。

刃と刃がワイヤーのようなもので繋がり、変幻自在となったレヴァンティンの刀身がフェイト目掛けて一直線に飛んでくる。

 

「くっ!?」

 

今まで見せてこなかった攻撃、それも奇襲の形で使われたフェイトは魔法陣を展開して防御するのが精一杯だった。

そして、気づいたときにはシグナムは既に転移魔法の準備を整え終えていた。

 

「・・・やられた・・・。」

 

赤紫色の光の塊となってどこかへ飛び去っていくシグナムを見ながらフェイトは悔しげに言葉を漏らすのだった。

 

 

 

「ん、了解っと。てことはアタシらの役目も終わりか。」

 

シグナムと同じようにヒイロの撤退を聞いたヴィータが徐になのはの方に視線を向ける。展開していたパンツァーヒンダネスもなのはのアクセルシューターと何回かぶつかり合ううちにヴィータのパンツァーヒンダネスが先にひび割れ、そして破砕された。ヴィータは正直言ってなのはの実力に舌を巻いていた。

なのははヴィータのその様子に少しばかり疑問を感じるが、口には出さずに警戒心だけを強める。

 

「ヴォルケンリッター、鉄槌の騎士、ヴィータだ。お前の名前・・・えっと、タカマチ・・・ニャノハ?だっけ。」

「なのはだよっ!?」

 

名前を間違えたことをなのはに指摘されるとヴィータは恥ずかしそうに顔を赤らめながらハンマーを肩に担ぐ。

 

「う、うるせっ!!お前の名前覚えづらいんだよ!!」

 

なのはに怒鳴りつけながらヴィータは光弾を生成する。なのははまたハンマーで殴りつけることで誘導弾を発射すると思って身構えた。

 

「アイゼンゲホイル!!」

 

先ほどとは違う名前の魔法、なのはがそれを聞いた時には既にヴィータのハンマーは光弾に打ち付けられていた。そこから出たのは誘導弾ではなく、なのはの視界を覆い潰すほどの爆光と思わず耳を塞ぎたくなるほどの轟音であった。

 

「っ!?」

 

思わず目 瞼を閉じ、耳を塞いでしまうなのは。光と音が止み、塞いでいた感覚器官を再び開くとヴィータの姿は既にそこにはなかった。

 

「探して、災厄の根源を。」

 

なのははヴィータがいなくなったことを確認すると、すぐさま詠唱を行い、自身の周囲に魔力で作り出した『サーチャー』と呼ばれる探査端末を展開する。

 

(・・・・あの子・・・ヴィータちゃんはどう出てくる?目くらましを使ったってことは奇襲とかありえるけどーー)

 

サーチャーを周囲に飛ばしながら同時進行でなのははヴィータの次の行動を予測する。

様々な奇襲が予想されるが、なのははふとヴィータの発言が引っかかった。

 

(・・・ヴィータちゃんは自分達の役目は終わったって言っていたよね・・?ということはこれ以上ここにいる必要はないってことだからーー)

 

なのはの思考がそこまでたどり着き、全てのサーチャーを隠れられそうなところに向かわせる。ビルの隙間や影、なのはが隠れられると判断したところへサーチャーが向かっていく。

 

しかし、なのはの探索も及ばず、とあるビルの隙間から転移魔法を発動させたヴィータが飛び去っていく様子をなのははただ見ているしかなかった。

 

 

 

 

(シグナム、ヴィータ両名の結界からの離脱を確認。ザフィーラもうまくアルフからの逃走が成功したようだ。シャマルも問題ないだろう。)

 

ヒイロはシグナム達の様子を整理しながらおおよその任務は完遂できたことを確認する。

 

(目標であるリーゼ姉妹の捕縛も成功した。任務完了・・・・か。あとはギル・グレアムの説得か。)

 

ヒイロが次の目標であるギル・グレアムに関してどういうプランで行くべきかを考えているとリンディから通信がかかる。

 

「・・・なんだ?」

「ちょっと拠点まで来てくれる?」

 

リンディにしては珍しくあまり声にいつもの和やかな雰囲気が感じられないと思ったヒイロだったが、応じないわけには行かなかったため、拠点へと赴く。

拠点に戻ったヒイロは何故かリンディに正座を強要された。

 

 

 

 

 

「・・・・以上だ。守護騎士を逃したのは結界を破壊するほどの攻撃をした俺のミスだ。」

「・・・・守護騎士を逃しちゃったのはまぁ、仕方ないとして、私が問題だと思っているのはその結界を破壊するほどの攻撃なのよねぇ・・・。非殺傷設定も為されていないようだし・・・。」

 

リンディがそう質問しながら部屋の隅でガタガタ震えているリーゼ姉妹に視線を向ける。彼女らは管理局では有数の使い魔のコンビだ。それこそ、管理局内では知らない者はいないほどと言われている実力の持ち主だ。そんな彼女らが歯の根も合わないほど表情を恐怖に染めあげるほどの威力、恐怖が一転して興味へと置き換わっていた。

 

ヒイロはリンディの質問には頷いた。しかし、そのことを話そうとするが、リーゼ姉妹の方に視線を向けながらリンディに言葉を返す。

 

「非殺傷設定は確かにない。武装のことを話そうとすると、どうしてもグレアムの使い魔が邪魔だ。よって話すことはできない。」

「貴方ならそういうわよねぇ・・・。ねぇ、貴方達、グレアム提督が何をしようとしているの?」

 

ヒイロの対応に仕方ないとため息を吐きながらリンディはリーゼ姉妹に視線を向ける。

予めゼロシステムによるヒイロからの警告でグレアムが何やらキナ臭い動きをしているらしい程度の認識でしかなかったが、こうして本当に姿を隠してまでグレアムの使い魔であるリーゼ姉妹が暗躍しようとしていた事実には驚きを隠せなかった。

 

「・・・・・提督は絡んでないよ。全部あたし達が勝手にやったことだから。」

 

リーゼロッテがリンディから視線を背けながら呟いた。リンディは困ったような表情を浮かべるとリーゼアリアにも視線を向ける。

しかし、こちらも仏頂面を保ったままで話そうともしてはくれなかった。明らかにしらばっくれている態度にヒイロは少しばかり眉を顰める。

 

「・・・こっちとしても手荒な真似はできない。しょうがないけどここはグレアム提督に直接聞くしかないかな・・・・。」

「・・・その方がコイツらを相手にするよりは断然早いだろうな。」

 

クロノの言葉にヒイロが呆れた口調で賛同する。その様子に姉妹は少しばかり狼狽した様子を見せ出した。

 

「まぁ、ね。その方が早いかもしれないわ。ちょうど私にもそろそろアースラの試験運航の要請が来ているだろうから本局に出向かないといけないし。その時にでも提督の真意を確かめに行きましょうか。・・・あの人の人柄的に闇討ちとかはしないと思うけど。」

 

リンディの一声で翌日、本局に出向き、グレアムに直接真意を確かめることになった。しかし、リンディは『でも』とつけるとヒイロに視線を向けて言い放つ。

 

「貴方はしばらく謹慎ね。」

 

謹慎、つまるところ自宅にいろという指示であった。ヒイロが少しばかりムッとした表情を浮かべているとリンディから説明が入った。

 

「彼女らが敵対行動を取っていたとしても、いくらなんでも流石にあれはやりすぎよ。一歩間違えればバリアジャケットがあったとはいえ死んじゃうところだったんだからね。」

「当たり前だ。コイツらに死んでもらっては後が困る。だから出力を結界を突破できる程度に抑えた上でわざと外したんだ。」

 

「・・・・嘘、あれで出力抑えていたの・・・?」

「それにあの結界の端から端のさらにその先にいたターゲットを捉えた上でわざと外す・・・?」

 

なのはとフェイトが驚きの声を上げている中、リンディが困り果てた様子で頭を抱えながらヒイロに再度告げる。

 

「とりあえず、貴方は謹慎ね。それはよくわかった?」

「了解した。グレアムの方はお前達に任せる。」

 

リンディはヒイロが本当によくわかっているのだろうかとすごく疑問に思ったが、追及してもヒイロが答えることはないと判断し、その場は収めることにした。

 

 

 

そして、その日から物語の歯車は急速に加速する。まるで、これまで足りなかったものを補うかのようにーー

 

はやてが寝つき、他の守護騎士も睡眠を取った深夜、闇の書が怪しく紫色の光を放つ。

守護騎士達の記憶からも零れ落ちた夜の誓い(ナハトヴァール)をヒイロはまだ知らない。

 





さて、As本編も佳境を迎えそうです・・・。

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