魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜 作:わんたんめん
一万字を超えたのはすごく久しぶりな気がする・・・。
リンディから謹慎を言いつけられたヒイロ。しかし、謹慎とは言うものの自由は保証されており、エイミィかそのあたりに言えば出かける程度は許されるほどの名ばかりのものだった。というか、ヒイロが同行しようとするともれなくリーゼ姉妹のトラウマスイッチが作動してしまい、同行どころではなくなってしまうため、むしろあたり前の処置であった。
クロノはリーゼ姉妹を連れて本局へ、リンディはアースラのメンテナンスが完了したため、その試験運行のためにクロノと同じように本局へと向かった。
そんなこんなで家の中にはエイミィとフェイトしかいなくなった拠点の中でヒイロはリンディから代理司令を任されたエイミィに出かける許可をもらい、必要なものを買ってきた。
「おかえりー。買い物って何買ってきたの?」
手に袋を携えて戻ってきたヒイロにエイミィが疑問に思い、尋ねた。ヒイロは袋を床に置くと入っていたものを取り出した。
その取り出したものにエイミィは余計に疑問気な表情を強めた。
なぜならヒイロが取り出したのは綿だったからだ。
「えっと、どうして綿?」
「必要だからだ。」
ヒイロはエイミィの疑問気な表情をスルーしてソファに腰掛けると今度は袋からまた別のものを取り出し、机に設置する。
「ん〜〜〜〜〜?」
その机に置かれたものにエイミィは首を傾げながらさらに疑問気な表情を強めた。
それは一般的に『裁縫セット』と呼ばれる代物であった。ヒイロはその裁縫セットの鞄から裁ちばさみを持つとこれまた袋から取り出したモコモコのファーがついた布を裁断していく。
裁縫道具、綿、そしてモコモコのついたファー。
これらのヒントを持ってエイミィの脳内であるものが組み立てられる。
「もしかして、ぬいぐるみでも作るの?」
エイミィがそう尋ねるとヒイロは作業を行いながら無言で頷く。
それをみたエイミィは目を輝かせながらさっきまでの疑問気な表情を消しとばすかのように興味深々にヒイロの作業を見つめていた。
ヒイロは手慣れた手捌きではさみで布から必要なサイズを切り取るとパーツとパーツを針で縫い付ける。パーツの縫合が完了するとできたパーツに綿を詰め込む。綿を詰め込まれた部分は徐々に丸くなっていき、最終的に楕円型の球体へと姿を変える。
その楕円形の球体にヒイロは別で作っておいた小さな半月型のパーツを右と左、左右対称になるようにそれぞれ取り付ける。それをつけられたことにより、半月型のパーツは『耳』、球体は『頭』の意味を持った。
頭が作られたのであれば次は胴と手足である。同じように布から裁断し、綿を敷き詰めて、胴と手足のパーツを数十分ほどでヒイロは作り上げる。
「早っ・・・?あっという間にできちゃった・・・。」
エイミィの驚嘆する声にヒイロは気に留める様子すら見せずに袋を弄り、今度はプラスチック製の1㎝ほど半分に切り落とされたような黒い球のパーツを取り出した。
再度頭のパーツを手にするとその半球型の黒いパーツを頭に取り付けていく。黒いパーツは全部で三つ取り付けたがそのうち対称に置かれたのが『目』でその下に取り付けたのが『鼻』だ。ヒイロはさらにその鼻の下に糸でカモメを逆さまにしたような形を作り出す。鼻の下につけたのであれば、それは十中八九『口』であろう。
こうして出来上がった頭部と胴体や手足といった四肢を合体させていくと机の上に一つのクマのぬいぐるみが出来上がった。
「わぁ〜!!可愛いー!!」
小一時間ほどで出来上がった代物だが、出来栄えはそこら辺で売られているぬいぐるみを凌駕しているヒイロ手製のテディベアにエイミィは感嘆の声を唸らせる。
「ヒイロ君って裁縫とかできたんだね!!」
「どこへ潜伏しても怪しまれないようにな。それも訓練の一環だった。それだけだ。」
「いやいや、これ普通にお店で出せるレベルだよ!!」
「エイミィ?そんなに大きな声を出して、何かあったんですか?」
そんなヒイロとエイミィのやりとりを聞いていたのか、フェイトが自室から顔を出した。
エイミィはフェイトを部屋から連れ出すとヒイロが作ったテディベアを見せ、感想を尋ねる。
「これ・・・ヒイロさんが作ったんですか?」
「ああ。」
「可愛い・・・・」
ヒイロが作ったテディベアをじっと見つめながらボソッと口に出した感想をヒイロは聞き逃さなかった。だからといって追及するようなことはしなかったが。
「・・・・これ、何のために作ったんですか?」
「あ、それもそうだね。そもそも急にぬいぐるみを作ってどうしたの?」
「・・・・・礼だ。」
ヒイロの返答に二人は首を傾げた。ヒイロの端的すぎる言葉にどう返答すればいいのかよくわからなかったのだ。
「礼って・・・お礼、ですか?」
フェイトの質問にヒイロは頷いた。誰へのお礼なのかはわからないが、これはヒイロがその人に対するお礼として作った品物なのだ。
そのことを認識したフェイトはーー
「そう・・・ですか・・・。」
彼女自身、気づいてはいなかっただろうが、ヒイロには明らかに残念がっているように聞こえた。理由を考えるよりも早く、フェイトが残念がった理由を直感的に理解する。
「・・・・欲しいのであれば、お前にやる。」
「えっ!?い、いえ、私、欲しいなんて一言もーー」
「お前の顔に出ていた。分かり易すぎるほどにな。」
「あ、いや、ちょ、ちょっと待ってくださいっ!!」
ヒイロはテディベアを手にするとフェイトにテディベアを押し付ける。押し付けられたフェイトは困惑顔になりながらもヒイロを呼び止める。
「・・・なんだ?」
ヒイロがそう聞くとフェイトは気の引き締まった表情をしながらヒイロにテディベアを大事そうに手に抱き抱えながら差し出す。
「・・・これは、ヒイロさんが誰かに対するお礼として作ったものですよね。私自身、欲しいとは思っていませんけどやっぱり受け取れません。ヒイロさんが渡したいと思っている人にあげてください。」
ヒイロはフェイトのその様子に軽くため息をつくと自身の後ろを指差した。エイミィも少しばかり気まずそうな様子を醸し出しているのも相まってフェイトは怪訝な表情を浮かべる。
「お前の視界にアレが写っていないのであれば、お前の目はかなり節穴だな。」
ヒイロにそう言われ、少しばかりムッとしたフェイトはヒイロの指差した方向を凝視する。その先にはヒイロがテディベアを作る時ために買った材料があった。その量はフェイトが持っているテディベアと同じサイズのを作るのであれば材料が事足りる程の量はあった。
「えっ・・・・あ・・・・・。」
「えっとね、フェイトちゃん。あんなこと言っていたから凄く言いづらいんだけど。」
不機嫌から一転、困惑顔に表情を変えながらオロオロし出したフェイトにエイミィは生暖かい目を向けながら言い放つ。
「材料は結構残っているからもらっちゃっていいと思う、よ?それこそヒイロ君、そのサイズ作るのに一時間もかかっていなかったから・・・。」
「あ、えっと、その・・・・。」
気を使ったつもりがむしろヒイロからの好意を無下にしていたことに気づいたフェイト。
恥ずかしさと申し訳なさが彼女の感情バロメーターを支配していく。そして、その二つが振り切った瞬間ーー
「ご、ごめんなさいっ!!!」
とヒイロに謝罪の言葉を言いながら部屋へと駆け込んでいくフェイト。彼女の部屋のドアがバタンっと思い切り閉められる音が響いた後、ヒイロとエイミィは取り残された空間で黙りこくっていた。ヒイロは特にエイミィに何か話しかけることはなく、その場をあとにしようとする。
「あ、ちょっと待ってヒイロ君っ!!」
苦笑いを浮かべているエイミィに呼び止められたヒイロは顔だけエイミィの方に向ける。
「・・・・他に何か、できることとか、ある?」
それは場の居た堪れなさにエイミィが困り果てたすえに出たその場凌ぎの言葉であった。ヒイロがどう返すかは一切考えていない、まさに繋ぐだけの言葉。
「・・・掃除、洗濯、炊事といった一般家庭で行われる家事は一通りできる。」
「え、なにそのハイスペック。いつでも嫁に行けるレベルじゃん。」
予想すらしていなかったヒイロの言葉にエイミィは目を丸くするのだった。
「・・・料理、手伝ってとか言ったら手伝ってくれる?」
「了解した。」
「も、もらっちゃった・・・・。」
背中をドアにつけながらヒイロからせがんでしまったようにもらったテディベアを抱き上げるフェイト。
テディベアはお店で売られているような出来栄えで、とてもではないが人の手で作り上げられたものとは思えない。
「ヒイロさんの手作り・・・・。」
フェイトには何故かヒイロの手作りだと言うことが妙に心の中に引っかかる感覚を覚えた。皆目見当がつかないことだったので、そんな心のモヤモヤするような、はたまたときめくような感情を置いておくことにした。
「・・・・・柔らかい・・・・。」
フェイトはそのテディベアを顔を埋めるように抱きしめた。テディベアの中に詰まったモコモコな綿と柔らかなファーがフェイトになんとも言えない心地よさを与える。
「〜〜〜〜〜♪・・・・・・はっ!?」
自身の表情筋が緩みきっていたことに気づくと恥ずかしさに耐えきれずフェイトは自分のベッドへ向かって飛び込んだ。
飛び込んだベッドの上で恥ずかしさを搔き消すかのようにしばらくベッドの上で転がっていた。
なおその時でもヒイロからもらったテディベアをひとときも手放さなかったのは彼女のみぞ知ることである。
次の日の朝、エイミィと共にヒイロが朝食の支度をしているとフェイトがリビングに現れる。
しかし、その様子はどこかよそよそしい様子だった。見かねたエイミィがフェイトに声をかけようとするが、フェイトはそれを手の平をエイミィに向けることで制止させる。
フェイトのその視線は安全のため火元を見ているヒイロに注がれていた。
「あの・・・昨日は強請るようにぬいぐるみを頂いてしまって、ごめんなさい。」
「・・・・元々材料は多めに買っていた。お前が気にする必要性は微塵もない。」
頭を下げ、昨日の謝罪をしてきたフェイトにヒイロは特に視線を向けることなく言葉を投げかける。
ヒイロは一度キッチンから離れるとリビングへと歩いて行く。
「だけどーー」
フェイトが頭をあげながら話そうとした言葉は出てこなかった。
頭をあげたフェイトの目に映り込んで来たのは何やら茶色い物体のようだった。
「っ!?」
咄嗟にそれを掴むフェイト。恐る恐る投げつけられたそれを見ると、それは昨日フェイトがもらったものとデザイン性が大差ないテディベアであった。
フェイトは訳がわからないと言った様子でテディベアを投げつけた主であろうヒイロに困惑気味な視線を向ける。
「・・・なのはの分だ。本命のついでに作っておいた。学校でもどこででも構わんが、渡しておけ。」
「え、・・・あ、はい・・・。」
たどたどしい口調になっている彼女を置いておいて、ヒイロはコンロの上で加熱していた料理をそれぞれの皿に盛り付ける。
「できたぞ。さっさと食事を済ませろ。学校に遅れても知らんぞ。」
「あ・・・うん。」
ヒイロに流されるままにフェイトは席に座り、ヒイロとエイミィが作った朝食を食べ始めた。
「・・・そのテディベア、いつ作ったの?」
「お前達が寝た後だ。」
エイミィにそう返したヒイロは彼女の方に顔を向けると思い出したかのように話しかける。
「・・・午後から出かけるが、問題はないか?」
「え?うん。大丈夫だと思うけど・・・。」
「そうか。」
エイミィから外出の許可を得たヒイロは椅子に腰掛け、朝食を取り始める。
「・・・外出って、どこに行くんですか?」
口に入れていた料理を飲み込むとフェイトはヒイロに外出の理由を尋ねる。
エイミィも『あ、それ気になってた』とフェイトの質問に乗っかる形で同じようにヒイロに尋ねる。
「・・・・少しばかり図書館にな。」
「図書館・・・?もしかして風芽丘図書館ですか?」
フェイトの言葉にヒイロは少しばかり驚いた表情を浮かべる。咄嗟にフェイトがなぜヒイロが行っている図書館のことを知っているのか考える。
確信が得られていないような口ぶりからヒイロの行動をフェイトが把握しているとは考えにくい。
ならば、可能性としてあげられるのは知り合いかだれかがその図書館へ赴いていると言うことであった。
「・・・知り合いか誰かがその図書館へ行っているのか?」
「すずかちゃんがよく行っているんです。それと、最近車椅子の女の子と友達になったって言ってました。」
フェイトの言葉にヒイロは少しばかり眉を顰める。すずかが知っているのであればフェイトがその図書館の存在を知っていてもなんら不自然はないが、車椅子の女の子、この言葉がヒイロが眉を顰めた要因に他ならない。なぜならそれははやてのことを指しているのに他ならないからだ。
「確か、はやてちゃんだったかな。その車椅子の女の子の名前は。」
ヒイロが変に悟られないようにフェイトに質問しようとする前にフェイト自身が嬉しそうな表情をしながらはやての名前を挙げた。
そのことにヒイロは内心やはりかと当たって欲しくなかった予感が的中してしまったことを少しばかり警戒し、はやてがヒイロのことを話していないかをフェイトの言葉を注視する。
ふとエイミィの方に視線を向けてみるとフェイトの様子に彼女はフェイトが学校を楽しんでいることを喜んでいるのか相槌を打ちながらフェイトの話に聞き入っている。
しばらくフェイトの話を聞いていたが、それらしい言葉が出てこなかったことを鑑みて、はやてはすずかに自身のことを話してはいないのだろうと断定した。
キッチンとリビングが組み合わさったダイニングキッチンにトントンと小刻みの快音が響く。
まな板の上で切った野菜を丁寧に盛り付けるとその切られた野菜は綺麗な彩りを持ったサラダへと姿を変える。
「みんなー、朝ごはん出来たでー。」
はやてが朝食を作り終えたことを知らせると彼女の騎士であるシグナム達が徐に席につき始める。シグナムは読んでいた新聞を置き、シャマルははやての手伝いをしていたのか身につけていたエプロンを外し、ザフィーラは狼の状態で自身の器である犬用の餌やりプレートの前で腰を下ろす。ヴィータは寝巻き姿のまま、まだ眠たそうに目をこすりながら部屋から出てくる。
「もう、ヴィータちゃんったら。 顔を洗ってきなさい。」
見かねたシャマルがそう促すと少々足取りが重いながらも洗面台へと向かうヴィータ。
そのまるで家族のようなシャマルとヴィータのやりとりをはやては笑顔を浮かべながら眺めていた。
両親を早くに亡くした彼女にとってヴォルケンリッターら四人の存在はまさに『家族』といっても過言ではなかった。
いつまでもそんな光景が続いていくのだろう。そう思っていたーーー
「ーーーッ!?」
はやては自身の左胸、正確に言えば、心臓に突如として疾った激痛に思わず腕で胸を押さえる。
「・・・主?どうかしましたか?」
「・・・う、ううん。大丈夫やから・・・。悪いけどサラダ持ってくれへんか?」
「わ、わかりました・・。」
はやての異常にいち早く気づいたシグナムが疑問気に彼女に尋ねる。
しかし、彼女の引きつった笑みに添えられた頼みに騎士としてかそのお願いに実直に従ってしまう。
はやてはいつも通りにすぐに収まると思って車椅子の上で自分の心臓を抑えるかのように深呼吸する。
そして、はやての心臓がドクンっと明らかに大きな音を立てて鼓動すると、彼女の様子に明確な異常が現れる。
「ッーーーァッーーーハッーーー!?」
痛みが治まらない。それどころかいつも以上に酷く、胸を締め付けるかのようにはやての心臓が悲鳴をあげる。明らかにいつもと違う感覚にはやては目を見開きながら痛みに耐えようとする。
だが、その痛みはおよそ小学生の身に耐えられるものではなく、はやては車椅子から倒れるように崩れ落ちる。
「ッ!?主っ!?」
シグナムははやてが倒れると彼女が丹精に作ったサラダを床にぶちまけながらも彼女に駆け寄る。
すぐにザフィーラやシャマル、そしてヴィータが駆けつけ、はやての身を案じる。
(あ、あれ・・・?おかしい・・・な。いつもやったら、すぐに収まるはずやなのに・・・)
はやては痛みにより薄れゆく視界の中でシグナムがシャマルに何か指示を出したりしている様子を目にする。
おそらく救急車か何かを呼ぼうとしているのだろう。
はやてはそれを見ながらおよそ似つかわしいとは思えない笑みをこぼす。
(ああ・・・よかった。騎士のみんながこの世界に馴染んでくれてーー)
はやてはそのまま痛みに耐えかねて意識を暗闇の底へと落としていった。
「・・・・闇の書を破壊するなり何をするにしてもその無限再生機能が厄介だな。」
「そうなんだよねぇ・・・。傷を負った内から再生が始まるからもたもたしているとあっという間にダメージが全快されちゃうよ。」
ヒイロは学校へ登校するフェイトを見送った後、エイミィに頼んで、管理局が分かっている限りの闇の書に関することを教えてもらっていた。
闇の書が持っている機能は主に魔力の蒐集、主が亡くなった時に発動する転生機能、そして無限再生機能の三つだ。
前者二つはリンカーコアがないヒイロにとっては関係ない。だが、最後の一つの無限再生機能が文字通り、ダメージを与えたところで再生されてしまうため厄介極まりない。
「手段としては闇の書の回復スピードを上回るレベルのダメージを迅速に叩き込むか、そもそもの無限再生を機能停止させるかだが・・・。」
「なのはちゃんとフェイトちゃんの同時攻撃でも難しいかな〜・・・。」
「・・・・なのはは砲撃魔術師としていいが、フェイトもそれほど高火力な魔法を持ち合わせているのか?」
ヒイロがそう尋ねるとエイミィは何か納得したような表情を浮かべるとコンソールを操作してディスプレイにとある映像を映し出す。それはなのはとフェイトが戦闘を行なっている様子だった。
「・・・これはなんだ?」
「ヒイロ君、P.T事件のことは知らないでしょ?」
P.T事件、およそヒイロがアースラで目覚めてからその単語を聞いたことは一度もない。ヒイロ自身が情報蒐集をさほど行なっていないというのもあるが、ある程度のことならすぐに分かった。
一つはフェイトが関わっていること。そもそもとしてそうでなければこの会話には出てこないだろう。そしてP.Tというのはおそらく誰かのイニシャルであろうとヒイロは推測する。
フェイト・テスタロッサ。英文化すればFate Testarossa
P.T事件の『T』の文字とフェイトの名字が合致する。ヒイロはエイミィの今の言葉だけでフェイトがその事件に関わっておりーー
「・・・フェイトの親族が主犯格の事件か?」
(うっそ・・・!?今のだけでそこまで見抜いちゃうの・・・!?頭の回転早すぎない・・・!?)
彼女の親族が事件の中心であることまで見抜いた。ヒイロがそこまで見抜いたことにエイミィは舌を巻いた。
「・・・あくまで推測だったがな。お前のその表情で確信へと変わった。」
ヒイロがそういうとエイミィは『アハハ・・・』と反省するような表情を浮かべながら映像を操作する。
「まぁ、ヒイロ君の言う通りなんだけどね。P.T事件。略さずにいうとプレシア・テスタロッサ事件。フェイトちゃんはその人の娘だった。いや、娘って言うのも変かな・・・。」
「・・・・死んだのか?」
ヒイロの問いかけにエイミィは首を横に振った。それでプレシアが生きているのかははっきりとはしなかったが、エイミィの悲しげな表情を見たヒイロはーー
「・・・・生きているかどうかは定かではない、と言ったところだな。」
ヒイロがそういうと今度は映像の方へと目を向ける。映像ではフェイトがなのはにバインドをかけ、何か詠唱を行なっているところであった。
バインドをかけた理由はなのはを逃がさないためか、はたまた詠唱に時間がかかる魔法なのか、しばらく見つめているとフェイトの周りに無数の金色の魔力の塊が生成され始める。しかも一つ一つがそれなりの大きさを誇っており、そこから放たれる魔法の威力は想像に容易い。
「・・・威力を散らばせすぎだな。あれでは防ぎ切られる可能性が高い。」
ヒイロが話題を晒したことにエイミィは驚きながらも映像に視線を向ける。
「敵が複数いるなら効果的だが、この映像のように単体の場合では、変に散らばすより一点集中型の魔法にした方がなのはを落とせる可能性はまだ高かっただろう。いや、あれも一点集中なのだろうが、それでも威力を分散させすぎだ。」
映像の中のフェイトが腕を振り下ろすと槍へと姿を変えた魔力の塊がなのはに襲いかかる。その威力は画面を爆発の煙で覆い隠してしまうほどだった。
一見するとなのはがやられたとしか思えないがーー
「ヒイロ君は状況の把握というか、理解が早いよね・・・。」
画面の煙が晴れてきて、エイミィがそう言った瞬間、フェイトが桜色の魔力で編まれたバインドに四肢を拘束される。まぎれもないなのはの魔力に画面の中のフェイトは煙を凝視する。
そこにはバリアジャケットがススだらけになりながらもなのはがしっかりと健在していた。
なのははバインドで身動きが取れないフェイトに向けてレイジングハートを構えるとその切っ先に魔力の塊を作る。その塊はどんどん大きくなっていき、なのはの身の丈程までに巨大化させるとその塊から膨大な程の魔力のビームがフェイトを包み込んだ。
見るからに強大な威力だとわかるそれはフェイトを一撃で気絶させ、海へと墜としていった。
(・・・ツインバスターライフルの最大出力よりは下か。)
なのはの全力全開のスターライトブレイカーを見てもヒイロは特に動じることはなかった。
「・・・あんまり驚きはしないんだね。」
「・・・もっと威力の出るものを知っているからな。」
「もしかして・・・この前の?」
エイミィの言うこの前、というのはリーゼ姉妹をバスターライフルで狙撃した時のことを指しているのだろう。半分正解で半分不正解のような感じだがヒイロは首を振るだけにとどめた。
リーブラ砲やバルジ砲など、少なくともツインバスターライフルより威力だけならありそうなものを知っているからだ。
そう思っていると部屋に通信を告げる音が響いた。エイミィが疑問気に部屋の一室に設けられた管制部屋へ向かうとクロノの声が響く。
『ヒイロを呼んでくれるかい?』
「ヒイロ君?分かったけど・・・。」
エイミィが一声かけるとヒイロもその管制部屋に足を入れる。
「何か用か?」
『ついさっきユーノから念話で連絡があった。ある程度だけど闇の書に関する情報が出揃った。』
「・・・・内容を教えろ。」
ヒイロがそういうとクロノはユーノから教えられた情報をヒイロに伝える。
無限再生機能や転生機能は置いておき、闇の書は最初からその名で呼ばれているわけではなかった。
『夜天の書』
それが本来の闇の書の名前であった。夜天の書は元々は世界中を旅し、あらゆる魔法をその身に記す。いわば魔法の図書館のようなものであった。しかし、時が流れるにつれて夜天の書にあらゆる悪意ある改造を施され、現在のような世界に破滅をもたらす代物へと成り果ててしまった悲劇の魔導書であった。
「・・・元はなんの害もなかったのに・・・。」
「力とはそういうものだ。扱うものの使い方によっては善にも悪にもなり得る。魔法とて例外ではないだろう。」
『・・・ヒイロの言う通りだ。だから闇の書、いや夜天の書を僕達は止めないと行けない。これを見てほしい。』
悲しげな表情を浮かべるエイミィに対してヒイロは淡々とした表情をする。
クロノがヒイロの意見に同調しながらある一枚の写真を出す。
その写真には長い銀髪に深紅の瞳が特徴的な若い女性が映っていた。
『夜天の書の管制人格だ。プログラムの全てを統括していて、夜天の書そのものといってもいい。』
「ターゲットはその管制人格とやらか?だが、奴はこれまで一度たりとも姿を見せていない。引きずりだす必要があるのか?」
ヒイロがそう確認するとクロノは首を横にしながら画像を拡大する。ちょうど若い女性の左手部分が拡大されると、毒々しいほどの紫色のガントレットが現れる。
「クロノ君・・・これは・・・?」
『ユーノ曰く自動防衛運用プログラム、通称ナハトヴァール。これも夜天の書の後付けされたものなんだけど、どうやらこれが闇の書の暴走の原因なのかもしれない。』
「なに・・・?」
眉を軽くあげるヒイロにクロノはナハトヴァールについての説明を始める。
『ナハトヴァールは主の意思に関係なく過剰防衛を働くんだ。それこそ、主の身を滅ぼしてもだ。正確に言えば、これが組み込まれたことにより、夜天の書にバグが生じてあんな危険な代物になったんだ。何よりネックなのがーー』
『場合によっては魔力の蒐集を最優先にして、制御を管制人格から奪い取ってしまうんだ。』
クロノの言葉からヒイロは咄嗟に頭の中でこれまでのことを整理する。
ヒイロははやて達と出会い、魔力の蒐集を控えめにさせた。そのことにより闇の書に溜まっている魔力はそれほど多くはないはずだ。少なくとも完成には至っていない。それが導くのはナハトヴァールの早期起動による魔力の無差別蒐集だ。そしたらまず始めに誰が犠牲になる?
(八神・・・・はやて・・・・。)
最後の夜天の書の主であるはやてに他ならない。彼女が闇の書が原因で半身不随になっているのは明白だ。闇の書は今なおはやての体を蝕み続けている。
可能性によっては急激に浸食が進行しているかもしれない。
「くっ・・・・!!」
ヒイロは苦い顔を浮かべると管制部屋を飛び出した。
『ヒイロっ!?』
「ヒイロ君っ!?」
クロノとエイミィの驚く声が聞こえるがヒイロは気にすることもなく扉ーーではなく窓の方へ走っていく。途中、何か物の入ったナップザックを背負いながら、窓を開け放ち、ベランダの塀に手をかける。
「ちょっ!?ヒイロ君、ここ何階だと思ってーーー」
ヒイロを追うような形で管制部屋から出てきたエイミィの言葉はそれ以上続かなかった。ヒイロは塀を飛び越え、拠点としているアパートから飛び降りたのだ。
咄嗟に目を覆うエイミィだったが、いつまでたっても肉と地面がぶつかり合う生々しい音が響くことはなかった。
エイミィが恐る恐るベランダから覗くと、何事もなかったかのように走り去っていくヒイロの姿が見えた。
「よ、よかったぁ〜・・・・。」
ひとまず無事な様子を見たエイミィは腰が抜けたようにへたり込んだ。しかし、それも少々くぐもったクロノの通信の声が耳に届くとすぐさま管制部屋に戻り、クロノに報告をする。
それを聞いたクロノは少々頭を抱える仕草をしながらため息をつく。
『もしかしたらヒイロは既に夜天の書の主と接触していたのかもしれないね。』
「え!?もしそれが本当ならどうして私達に知らせてくれないのよっ!?」
『・・・そこでロッテとアリア、というか仮面の男とも出会ったんだろうね。彼はロッテとアリアの捕縛を優先して、僕達にそれを伝えなかった。となると、この前の捕縛作戦もヒイロが一枚噛んでいたのかな・・・。』
そこまで言ったところで一度言葉を切ってエイミィに厳しい視線を向ける。
『エイミィ、なのはとフェイトに伝えるだけ伝えておいてほしい。学校だから動けないだろうけど、ヒイロから事情を聞く必要がある。』
「わかったよ!!」
(・・・・もっとも彼女らに捕まる彼ではないだろうけどね。)
ヒイロの戦闘力ははっきりいってそこら辺の魔導士では束になっても敵わないだろう。生身の戦闘力でも守護騎士に及ぶものがあるのだ。クロノ自身でも捕らえるのは至難の技だろう。
(ヒイロのことはひとまず置いておこう。今はグレアム提督に真偽を確かめる!!)
自身のやるべきことを改めて確認しながらクロノは管理局本部の廊下をリーゼ姉妹を連れて歩む。
(奴らの魔力蒐集は結果だけを見ればナハトヴァールの起動の抑制になっていた・・・!!それを俺ははやてに半ば強制的に止めさせ、はやての寿命を縮めることとなった・・・・!!)
ヒイロは海鳴市の街を全力で走る。途中通行人から驚きの表情や声が上がるが知ったことではない。一人の人間の命がかかっているのだ。ましてやその人間が少女であることがヒイロを余計にかきたたせていた。
ヒイロの記憶から呼び起こされるのはかつての任務で幼い少女とその子が飼っていた子犬を自分のミスで殺してしまったこと。
「俺の・・・・!!俺のミスだぁっ!!」
ヒイロは悲痛な声をあげながらはやての家へと向かう。もう二度、あの少女と子犬のような人間を出さないために。
さて、ここからAs編は終盤へとさしかかっていきます。
どこまでヒイロのポテンシャルを引き出せるかはわかりませんが、頑張りたいと思います