魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜   作:わんたんめん

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家族のいないたった一人の孤独な少女を救うために天使は今、闇へと挑む。




第29話 軌道上に天使は疾った

こちらの切り札であったアルカンシェルが吸収された。エイミィからの通信になのは達は大なり小なりの動揺を禁じ得なかった。

 

「アルカンシェルが吸収されたっ!?それは本当なのかっ!?」

『本当も何も、闇の書の闇は現在もアースラのいる軌道上を漂っているよー!!』

 

クロノの確認とも取れる声にアースラの管制室でエイミィは泣いているかのような声をあげながらそう伝える。

アルカンシェルが対応されてしまったのであればまた別の対応策を考えなければならない。

なのは達はアルカンシェルが防がれたことで意識が精一杯なのか、『嘘・・・。』や『そんな・・・。』と憔悴しきった声をあげるしかできないでいた。

 

「エイミィ、アースラから分かる限りの情報を伝えろ。現状、お前たちが情報源に他ならないからな。」

『わ、分かってる!!』

 

重要かどうかなど関わらずに現状は情報が欲しい。ヒイロはそう思いながらエイミィに情報の提供を求める。

このまま復活した闇の書の闇を放っておいていい訳がない。ゼロシステムを用いずともそれはわかりきっていたことだった。

 

『闇の書の闇はなんかもうよくわかんないくらいグロテスクな塊になって胎動を続けている!!肉の塊って言っても過言じゃないよっ!!』

「奴の大きさは?」

『おおよそ500メートルは下らないね!!正直言ってアースラの大きさを優に超えちゃってるっ!!』

 

アルカンシェルの魔力を蒐集した闇の書の闇はアースラを越すほどの巨体へと膨れ上がった。

500メートルクラスまで膨張した軌道上の闇の書の闇はもはや隕石といってもいいほどだろう。

 

(・・・・隕石?)

 

ふとヒイロの脳内に隕石という単語が色濃く残った。隕石とは地球の重力に引かれたスペースデブリが落下してきたものだ。大抵は大気圏に突入した時の熱量で燃え尽きてしまうのがほとんどだが、それは然程大きくないものだからだ。

しかし、今の闇の書の闇は少なくとも500メートルを越す巨体と化してしまっている。

仮に落ちてくれば、大気圏で燃え尽きることは、ない。

 

「クロノ、闇の書の闇は地球に大質量攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。」

「大質量攻撃・・・・!?まさか・・・・!!」

 

クロノがハッとした表情を浮かべるとヒイロは静かにそれでいて険しい表情を浮かべながら頷いた。

 

『ナハトヴァールの周囲に魔力反応!!』

「っ!?エイミィ!!術式の解析をっ!!」

『もうやってるって!!』

 

その時、エイミィから闇の書の闇に魔力反応が現れたことを告げられる。エイミィが術式の解析を行なっている間、クロノとヒイロの間で沈黙が走る。

だが、クロノとヒイロには闇の書の闇がなんの魔法を使おうとしているのか見当がついていた。

ついていたが故にその険しい表情は一層深まっていた。

 

『術式解読!!こ、これはーーーー』

 

『アル……カン……シェル…………!?』

「やっぱりか・・・!!」

 

エイミィの消え入るような声で語られた結果にクロノは表情を思い切り歪めた。

ヒイロもウイングゼロのガンダムフェイスの下で苦々しい表情を浮かべる。

 

「クロノ、アルカンシェルが地上に向けて放たれると、どうなる?」

「・・・・アルカンシェルは、着弾地点を中心にして少なくとも100キロの範囲に空間歪曲と反応消滅を引き起こす。仮に地上へ向けて放たれれば、その星に甚大な被害を被らせる。」

 

ヒイロのその問いに答えたのはクロノではなくユーノだった。時間が経ったことである程度冷静さを取り戻したのか、表情は苦しいものながらもしっかりと空を、正確に言えば軌道上にいる闇の書の闇を見据えていた。

 

「絶対に、地上に向けて放っちゃいけない魔法なんだ・・・!!」

「つまり、闇の書の闇がアルカンシェルを放つ前に完全に破壊する必要があるということか。エイミィ、ほかに闇の書の闇に動きはあるか?」

『アルカンシェルの発射方角が変なことぐらい!!地球とかアースラに向けているんじゃなくて、どうしてか自分に向けている!!まるで、爆弾みたいなーーあっ!?』

「・・・・どうした?」

『闇の書の闇が・・・・・!!』

 

アルカンシェルの状況を伝えていたエイミィが突然驚いたような声を上げるとそれきり黙りこくってしまう。ヒイロが不可解な様子で尋ねるとエイミィは驚愕の言葉を口にする。

 

『闇の書の闇、地球に向けて、降下中・・・!!』

「ヒイロが地球に大質量攻撃を仕掛けるって言っていたのはこういうことか・・・!!」

「・・・・・・!!」

 

エイミィの言葉を聞いたヒイロは頭の中で状況のシミュレートを行なっていた。

闇の書の闇が地球に落下を始めているのであれば、直ちに撃墜する必要がある。

しかし、ただ破壊すると言っても大気圏内で破壊すれば、破壊した時の破片が周囲に飛び散ってしまい、どれほどの被害を与えるかは未知数だ。

故に破壊するなら大気圏外の軌道上で破壊する必要がある。

そうすれば破片は少なくとも大気圏で燃え尽きるだろうし、爆発の衝撃波も地球に届くことがなくなる。

 

瞬時にそこまで手段を導き出したヒイロだったが、その視界に僅かにだが桜色と金色の光が見えたような気がした。

ハッとしたヒイロがその光の軌跡を追っていくとそれぞれの光の先頭になのはとフェイトの姿が映り込んでいた。

 

(まさか、闇の書の闇を破壊しに行くつもりかっ!?)

 

ヒイロは二人の行動をそう捉えるとウイングゼロのスラスターを一気に蒸し、彼女らの後を追う。なのははともかく、フェイトはスピード型の魔導士だがウイングゼロのスピードは二人の速度を優に超えると、あっという間に追いつき、彼女らの前に立ちはだかる。

突然ヒイロが立ちふさがったことになのはとフェイトは驚いた表情を浮かべながら急ブレーキをかけることで踏みとどまった。

 

「何をするつもりなんだ?」

「何って・・闇の書の闇の破壊に行くんです!!早くしないとみんなや地球が・・・!!」

「駄目だ」

「なっ・・・!?どうしてですかっ!?ヒイロさんだって早く破壊しないと地球が大変なことになってしまうのはわかっているはずですっ!!」

「ああ。それは分かっている。」

「だったらどうして・・・!!」

 

なのはの言葉を否定の言葉で一蹴したヒイロにフェイトは驚いた表情を浮かべながら問い詰めた。ヒイロがフェイトの言葉に同意を示したことも相まってフェイトの中で困惑の色が支配していく。

 

「お前たちが向かったところで、無駄死にするだけだ。」

「・・・・私たちじゃ、また足手まといって言うんですか・・・!!」

 

ヒイロの言葉にフェイトは顔を影を落としながら俯いた。ヒイロの視線からフェイトの表情を伺うことはできなくなったが、彼女が悔しさに表情を歪めているのは確かであろう。

 

「・・・・・・なのは、お前に一つ聞く。宇宙とは一体どのような場所だ?」

「えっ・・・?宇宙、ですか?」

「ああ。」

「え、えっと、無重力の空間で・・・・?それで水とかの液体がふよふよ浮かんだり・・・。」

 

突然のヒイロからの質問になのはは面食らいながらも宇宙についての概要を話す。しかし、なのはの口から無重力以外の宇宙に関しての単語が出てくることはなかった。

 

「宇宙空間が無重力状態なのは確かだ。だが、何より重要なのは、大気がないことだ。つまり人間にとって必要不可欠である酸素が一切ないことになる。」

『っ・・・・・!!』

「リンディ、聞こえるか?お前に聞きたいことがある。」

『ヒイロ君!?そっちで何かあったの!?』

 

ヒイロがアースラに向けて通信を繋げるとリンディの切迫した声が聞こえてくる。

闇の書の闇が降下を始めている以上、できる限り手短に伝えなければならないため、手早く聞きたいことを尋ねることにした。

 

「時間がないため、率直に聞く。バリアジャケットに酸素を供給する機能は付いているのか?」

 

ヒイロの言葉にリンディはしばらく考え込むような声を上げる。

 

『・・・・もしかして、なのはちゃんとフェイトさんが軌道上に来ようとしてる?』

「・・・そんなところだ。」

『分かったわ。二人には悪いけど、はっきりと言うわね。バリアジャケットには温度調節機能があったりはするけど、人間にとって重要である酸素まで供給する機能は残念ながら付いていないわ。』

「やはりか・・・・。」

 

ヒイロはリンディとの念話をそこで一度打ち切るとなのはとフェイトの方に視線を向ける。

 

「リンディから聞いた通りだ。バリアジャケットもそこまで万能ではなかったようだな。お前達が何の対策もなしに宇宙空間に出れば数十秒経たずに死ぬぞ。」

「そ、それじゃあ、私たちは黙って指を咥えて見ていることしかできないって言うんですか・・・!!」

 

フェイトの言葉にヒイロは黙りこくったまま何も答えなかった。そのヒイロの対応を肯定と受け取ったフェイトはバルディッシュを握る力を強めながら目を思い切り瞑ることで悔しさを露わにする。

なのはも表情を曇らせながら、もはや事態がなのは自身では届かぬ領域まで進んでしまっていることを痛感する。

 

『・・・・ごめんなさい。貴方に嫌な役割をやらせてしまって・・・。』

「お前が気にする必要はない。恨まれるのには慣れている。」

『そう・・・。それと、重ね重ね申し訳ないのだけど、ヒイロ君、というよりウイングゼロなら宇宙空間に出ても大丈夫なの?』

「・・・・問題ない。元々、モビルスーツは宇宙空間での戦闘を念頭に置いている。」

『そこは・・・嘘でもできないって言って欲しかったわね・・・・。』

「事実を誤魔化してどうにかできる状況ではないだろう。それはお前だってわかっているはずだ。」

 

リンディの悲しげな声にヒイロは淡々とそう返した。そのことにリンディはアースラの管制室で僅かに表情をうつむかせ、さながら祈るように両の手を結び、苦渋の決断をヒイロに告げる。

 

『ヒイロ君・・・・貴方に闇の書の闇の破壊をお願いしたいの・・・。エイミィの解析で闇の書の闇に魔力攻撃は悉く吸収されてしまうことが分かってしまっているし、アースラのアルカンシェルのチャージはもう間に合わない・・・!!もう、貴方しか可能性のある人はいないの・・・!!」

 

リンディが悲痛な表情を浮かべていることが念話を通してでも嫌というほど伝わってしまう。本当は頼みたくないという心情がまざまざと伝わってくる。しかし、現状としてヒイロの、ウイングゼロのツインバスターライフル以外に頼れるものは存在しない。

 

「それはクロノ達には伝えているのか?」

『伝えてはある・・・。だけど・・・。』

「・・・もはや手段に構っている暇はない。俺は俺にできることをやるだけだ。だが、これだけは言っておく。俺はクライド・ハラオウンの二の舞になるつもりはない。」

『・・・・本当に貴方は強い子なのね・・・。』

「・・・・直ちに破壊活動に移行する。」

 

リンディのその声にヒイロは静かに、それでいてはっきりとした口調で答えた。

ヒイロはウイングゼロの翼を羽ばたかせると二人の間を通り抜けるように高度を落としていった。

 

「ヒイロさん・・・?一体何を・・・?」

「最後の任務だ。文字通りのな。」

 

怪訝な表情を浮かべるフェイトに端的にそう答えるヒイロ。フェイトはあまり概要を掴めなかったが、なんとなくでなのはを連れて、ヒイロの後についていった。

 

「ユーノ。」

「ヒイロさん・・・。すみません、なのは達を止めてもらって・・・。」

「問題ない。なのはとフェイトが逸るのは想像に容易かったからな。」

「そうですか・・・。それで、ヒイロさん、闇の書の闇のことはどうするんですか?」

「それに関してはお前に頼みたいことがある。」

 

高度を下ろしたヒイロはユーノに声をかけた。ユーノはヒイロの姿を確認すると開口一番になのはとフェイトを止めてもらったことへのお礼の言葉を口にした。

ヒイロは時間がないことを理由に手短にユーノの言葉を打ち切らせるとユーノへの頼みごとを伝える。その内容はーーー

 

「ユーノ、俺を闇の書の闇のいる軌道上に長距離転送で送れ。」

「っ・・・・。やっぱり本気なんだね・・・。」

「リンディやエイミィからある程度は聴いていると思うが、それしか手段がない以上、仕方あるまい。」

 

ヒイロの言葉にユーノは少しばかり考え込む仕草をするが、意志が固まったように手をかざすとヒイロの足元に緑色の魔法陣が展開される。

ヒイロは長距離転送の魔法が発動するまでその魔法陣の上でじっと佇んでいる。

シグナムやヴィータといった守護騎士達もウイングゼロのツインバスターライフルしか残された方法がないことを分かっているのか、悲痛な表情を浮かべながらもユーノの邪魔をすることはなかった。

 

「エイミィ、闇の書の闇のコアを探知はできているか?」

『コアの探知はできてはいるけど、肉塊の中で頻繁にコアを転移させて捕捉されずらいようにしている!!』

「そのデータを俺に送り続けろ。ゼロに処理させる。次の転移まで時間はどれほどだ?」

 

ヒイロがそういうとアースラから闇の書の闇の映像データが転送される。ヒイロはその送り続けられるデータをゼロシステムに処理をさせ、ツインバスターライフルを発射する瞬間のコアの居場所を予測させる。

 

『・・・およそ、1秒から2秒・・・!!』

「了解した。手はかかるだろうが破壊してみせる。」

「たった1秒・・・・!!その短い時間の中でヒイロさんのバスターライフルを直撃させようとするなら・・・。」

「必然的に近づくしかない。それもかなりの至近距離でな。」

「ですが、それだと破壊した時に闇の書の闇が抱えている魔力の奔流からは・・・。」

「・・・・・・。」

 

最悪、巻き込まれるだろうな、ヒイロはそう思いながらも敢えて口に出すことはなかった。余計な不安を煽る訳にはいかない。彼なりの配慮であった。

 

「ヒイロさん、まさか一人で行くんですか・・・?」

 

そこにフェイトの消え入りそうな声がヒイロの耳に入った。ヒイロの視線が声のした方向へ向けられるとその視界に不安気な表情を浮かべているフェイトの姿があった。

 

「現状、宇宙でも問題なく活動が可能なのはウイングゼロしかない。夢の世界でガンダムに乗ったお前なら分かっているはずだ。」

「それは・・・そうですけど・・・。何か、本当に何かできることはないんですか?」

「・・・・・ない。宇宙空間はそれだけ危険な環境だ。下手に出てくれば、死ぬことになる。」

「だけど・・・!!」

「お前にはできない。俺にはできる。ただそれだけのことだ。それにお前には帰るべき場所がある。」

「帰るべき・・・・場所・・・?」

「ユーノ、長距離転送の準備はできているな?」

「・・・・いいんですか?」

「ああ。時間もそれほど残されていないだろう。」

 

ユーノの最後の確認にヒイロは間髪入れずに答えた。ユーノがヒイロの足元に広げた魔法陣の輝きを強め、長距離転送を発動させようとした時ーー

 

「ダメェェェェェっ!!!!」

 

はやてが大声をあげながら、ヒイロの腕を掴んでしまう。さながらヒイロを引き止めるかのようなはやての行動にユーノは発動しかけていた魔法陣を咄嗟に停止させる。

 

「今度はお前か・・・・。はやて、お前は死にたいのか?」

「は、はやてさん・・・?さ、流石に転移魔法の直前は危ないよ・・・?」

「ーーーなんでや。」

 

あまりに危険な行動にヒイロははやてに語気を強めながら詰問する。フェイトも苦い表情を浮かべながらはやてに声をかけた。しかし、はやてはヒイロとフェイトの言葉を聞き入れず、ポツリと言葉を零した。

 

「なんで……なんでヒイロさんがそんな重荷を背負わなあかんのや……!!」

 

はやての大粒の涙を流しながらの言葉にクロノ達は困惑の表情を隠しきれなかった。

 

「本来、あれは夜天の主である私が背負わなきゃならん奴や……!!なのにどうして、どうして……!!」

「主・・・!!」

「はやてちゃん・・・。」

 

 

はやてはそういうと嗚咽を零しながらヒイロの腕にしがみつく。その様子にはやての心情を汲み取ったのか、シグナムは苦虫を噛み潰すような表情をし、シャマルは口元を手で覆った。ヴィータとザフィーラも口にはせずともどこか悲痛な表情を露わにしていた。それはクロノ達も似たようなものであり、はやての慟哭のような言葉に手をこまねいてしまっていた。

 

「はやて、お前には悪いが、その手を離せ。」

「嫌や・・・この手を離せば、ヒイロさんは絶対無茶なことをするんやろ・・・?私言ったよな、命を捨てるようなことしたらあかんって・・・!!」

「お前の願望と現実を履き違えるな。誰かがあれを破壊しなければ、地球はナハトヴァールに呑み込まれる。」

「せやけど、何もヒイロさんたった一人でやる必要はないはずや!!なんか別の方法があるはずや!!なんも対策立てられないで、ヒイロさんになんかあったら、私……!!」

 

はやてはリィンフォースとユニゾンしているその蒼い瞳から大粒の涙を零しながらヒイロの腕に縋り付く。

 

「・・・・・・。」

 

ヒイロは少しの間泣きじゃくるはやてを見つめると彼女に掴まれていた手を動かし、彼女の頰に優しくあてる。

 

「あ………。」

「これがお前にしてやれる唯一のことだ・・・行かせてくれ。」

 

そういうとヒイロは頰にあてていた、手を肩へずらすとそのままはやての肩を押して魔法陣の外へと突き飛ばした。

突き飛ばされたはやては彼女の後ろに回り込んでいたフェイトとなのはに抱き止められる形で体勢を整えた。

 

「フェイト、それになのは、はやてを頼む。」

「・・・・ヒイロさん・・・!!」

 

そうヒイロの名前を呼んだなのはの目は潤んでいた。今にも泣き出しそうであった。

反面、フェイトは表情を変えることなく、しっかりとヒイロを見据えていた。

 

「さよならは、言いません。だから、絶対に無事に帰ってきてください・・・!!」

 

「私にとって、ヒイロさん、貴方も帰る場所なんですから・・・!!」

 

フェイトの肩が震えていた。声も上擦り、よく見てみれば彼女は下唇を噛み締め、血が滲み出てきそうなほど、力が込められていた。

彼女もなのはと同じように涙を必死にこらえているのは明白だった。

 

「駄目や、ヒイロさん!!アンタ、とんでもない無茶をするつもりやなっ!?そんなんダメやっ!!」

 

はやては必死にヒイロに向けて手を伸ばすが、なのはとフェイトが彼女をしっかりと抑えつける。

 

「ユーノ、早くしろ。」

「・・・分かりました!!」

 

ヒイロの言葉にユーノは意を決した表情を浮かべながら足元の魔法陣の輝きをもう一度強める。

徐々にヒイロの視界が光に包まれていく中、ヒイロははやてが未だ必死に自分に向けて、手を伸ばしてくれていることを確認する。

 

ヒイロはそれを見るとらしくない穏やかな笑みをウイングゼロのガンダムフェイスの下で浮かべながらーー

 

(・・・・さよならだ、はやて。)

 

そう心の中ではやてに告げるのであった。

 

「長距離転送!!目標、軌道上っ!!」

 

ユーノの転送先を告げる声を最後にヒイロの視界は完全に光へと包まれる。

時間として数十秒ぐらいの時間、ヒイロはなんとなくだが光に包まれた視界の中で移動していることを感じ取る。

 

そして、目が眩むほどの光が収まってくるとヒイロの目の前には蒼く輝く巨大な物体が広がっていた。

太陽からの光を海が反射することで周囲に蒼い光を輝かせる。

 

ヒイロはその輝いているのが地球だと視認すると視界を自身の背後へと向ける。

 

そこには今にも地球を喰らいつくそうと降下を続ける闇の書の闇、否、もはや原型すらも留めていないソレはもはや肉塊へと成り果てていた。

見るのも憚られるほどの醜悪な物体と化した闇の書の闇をヒイロは静かに見つめる。

 

「魔力を喰らっただけでここまで醜悪な姿に変わり果てるものなのか・・・。」

『ヒイロ君、聞こえる?』

「・・・こちら、ヒイロ・ユイ。所定ポイントへの転移が完了した。」

 

闇の書の闇の変貌に目を疑っているとリンディから通信が入った。ヒイロはその通信に応えながら、ツインバスターライフルをサーチアイの前面で構え、右手でグリップを、左手を銃身に添える。

背中の純白の翼を大きく広げる。その状況はかつてA.Cにて地球に落下するリーブラの破片を大気圏に突入しながら狙撃した状況と酷く似ていた。

 

『闇の書の闇のコアは今もその肉塊の中で忙しない様子で動き回っているわ。ゼロシステムでその転移先の予測はできるの?』

「ゼロの予測はあてにはしている。」

 

ヒイロはそれだけ答えるとツインバスターライフルのトリガーに指を添える。できる限りのタイムラグをなくすためだ。アースラから送られてくるデータにより、ゼロシステムはデータから演算、コアの転移先をヒイロにビジョンとして脳内に直接教え続ける。

そしてーーー

 

「ゼロの予測では、お前に未来はない・・・・!!!!」

 

ツインバスターライフルのトリガーをヒイロは引いた。銃口から放たれた山吹色の爆光は肉塊に突き刺さった箇所を悉く、その醜悪な肉の塊ごと焼き払っていく。

ツインバスターライフルの光は肉塊の中を進んでいく。アースラの管制室でその様子を見ていたスタッフ達は外した、と誰もが思った。

しかし、次の瞬間、ツインバスターライフルの射線上に突如としてコアが転移してきたのだ。さながら吸い込まれるようにも思えたその光景にリンディ含め、全員が目を疑った。

スタッフが声を上げる暇も与えず、射線上に現れたコアを山吹色のビームは呑み込んだ。

ゼロシステムがコアの転移先を読みきったのだ。

 

「コ、コアに直撃を確認・・・!!」

 

エイミィがアースラのコンソールを操作して状況を確認する。疑いを持った目をしながらもヒイロを信じてアースラのモニターに結果を映し出した。

 

そこには随所にヒビが入り込んでいるが、未だに健在のコアの姿があった。

 

「ダ、ダメです!!コアは健在です!!」

「そ、そんな・・・・ヒイロ君のウイングゼロでもダメなの・・・!?」

 

リンディがもはや万事休すか、と苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、モニターに映し出されているヒビの入ったコアを睨みつける。

 

『いや、これでいい。これより本命を叩き込む。』

 

アースラの管制室に響き渡ったのはヒイロの声だった。突然の状況にリンディ含め、全員が目を見開いた。

次の瞬間、コアを映し出していたモニターに突如として異物が入り込んだ。

コアに押し付けるようにその二つの銃口をぴったりと突き付けた無骨な印象を覚えさせるライフル銃。

それは紛れもなく、ヒイロの、ウイングガンダムゼロのツインバスターライフルだった。

 

『・・・・ゼロ、ツインバスターライフルのリミッターを解除しろ。最大出力を超至近距離で直撃させる。』

 

押し付けたツインバスターライフルの銃口からエネルギーが迸る。銃口から紫電が走っているのを見るだけで発射されるビームがこれまでのものとは比べものにならない出力であることを否が応でも直感させられる。

 

『・・・・・終わりだっ!!!!』

 

そして、ヒイロはもう一度ツインバスターライフルのトリガーを引いた。リミッターを解除されたツインバスターライフルの最大出力はコアを呑み込むどころかその爆発的なビーム質量でアースラのモニターを砂嵐の映像へと変えさせ、離れていたはずのアースラの船体を大きく揺るがせるほどのものであった。

思わずリンディ達アースラスタッフはその場で自身の身を守ることしかできなかった。

 

 

 

(・・・・いけるか?)

 

ヒイロは肉塊と成り果てた闇の書の闇の内部でコアにゼロ距離で最大出力のツインバスターライフルを叩き込んだ。

コロニーすら一撃で破壊するほどのビームの奔流をゼロ距離という超至近距離で浴びせられたコアは最初こそ耐えていたものの、徐々にヒビを広げていきーーー

 

 

パリンッ!!

 

 

やがてそんなガラスが砕けたような音が響いた。ヒイロはそれをコアが壊れた音だと直感した。

だが、魔力の持ち主がいなくなったことで、アルカンシェル用の魔力とこれまでの闇の書の闇が有していた魔力が暴走を始めてしまう。やがて、行き場を失った魔力の奔流は破壊されたコアを中心に次元震という形となってヒイロに襲いかかる。

ヒイロはウイングゼロの計器からアラート音がけたたましく鳴り響く中、後退しようとする。

しかし、次元震はブラックホールのような形となって周囲の物体を悉く呑み込んでいく。それはもちろんウイングゼロも例外ではなかった。

 

「・・・・離脱は無理か・・・・。」

 

ウイングゼロには大気圏を自力で突破できるほどの推力はある。しかし、距離が近すぎたのが災いし、離脱しようにもそれが叶うことはなかった。ウイングゼロは少しずつ、次元震の中心へと引きずりこまれていく。

 

「・・・・それが俺の未来か・・・・。だが、必要最低限の任務はこなした。」

 

そんな状況下で、ヒイロは軽く視線を地球に向けた。その先には蒼く美しく輝いている地球がしっかりとそこに存在していた。

それ見たヒイロはわずかに表情を緩めーーー

 

「・・・これで何もかも終わりだ・・・・任務、完了・・・・。」

 

その言葉を最後にヒイロの視界は光に包まれ、彼の意識は暗黒へと堕ちていった。

 

 

 

 

「っ・・・・!!!」

 

ツインバスターライフルの衝撃が収まり、アースラが態勢を整えるとリンディはぐらつく意識を頭を振ることで覚醒させる。

 

「エイミィ・・・?闇の書の闇は、どうなった・・・の?」

 

言葉を途切らせながらエイミィに状況の確認を急がせる。エイミィもエイミィで衝撃の揺れでぶつけたのか腕をさすりながらコンソールを操作する。

 

「闇の書の闇・・・・コアの消滅を確認・・・!!再生反応もありません!!!」

 

待ち望んでいた報告にアースラスタッフ達は一同、腕を突き上げながら歓喜の雄叫びをあげる。

 

「そう・・・・良かった・・・。」

 

それはリンディも例外でもなく肩の荷が降りたようにため息を吐いた。

長年の因縁でもあった闇の書との決着をつけれたのだ。嬉しそうな表情を浮かべない方がおかしい。

 

「エイミィ、ヒイロ君にアースラに来るように伝えてくれる?転送ポータルで海鳴市に送るわ。」

「はいっ!!・・・・・・・えっ?」

 

リンディの指示に意気揚々と返事をするエイミィだった。しかし、コンソールパネルに触れている最中、その表情は突然色を失い、固まった。

 

「エイミィ?」

 

エイミィの様子に気づいたリンディが彼女に声をかける。しかし、エイミィはそれに先ほどとは異なり、意気揚々と返事をすることはせずに一心不乱にコンソールを操作していた。

 

「そ、そんな・・・・!!!」

「エイミィ!!何かあったの!?」

 

エイミィのその様子に渦巻く不安感を隠さなくなったリンディは彼女に大声で報告を求める。

エイミィはゆっくりとそれでいてどこか覚束ない口調で報告をする。

 

「ウイングガンダムゼロの反応、ありません・・・・。それと同時に、ヒイロ君の生体反応・・・ロスト・・・・?」

「っ・・・・!?」

 

エイミィの報告に今度は全員が息を呑んだ。痛々しいほどの沈黙が管制室に走った。

エイミィは打ちのめされた様子でただ入ってくる情報を途切れ途切れに言葉にする。

 

「コア破壊と同時に、行き場を失った魔力で局地的な次元震が発生・・・ヒイロ君はそれに・・・巻き込まれた・・・?」

「そ、そんな・・・・!!」

 

管制室では先ほどの歓喜の嵐とは一転、重々しい雰囲気に包まれてしまっていた。

 

「みんなに・・・みんなになんて報告したらいいのよ・・・・・!!!!」

 

その中でリンディは悲しさを押し殺すような声で唸ることしかできなかった。

 

 

 

海鳴市の海上でフェイト達はヒイロの安否を祈るかのように空を見上げていた。

そんな彼らの視界に映り込んでくるものがあった。白く輝く光がフワフワと落ちてくる。今の季節は寒さも本格的になっている12月。空からフワフワと落ちてくるものは季節を鑑みるに一つしか思い浮かばない。

 

「雪だ・・・・。」

 

なのはがその降り注ぐ雪を手のひらに乗せる。その雪の結晶はなのはの体温で手の中で溶けていってしまう。

フェイトとはやてもなのはの真似をするように舞い落ちる雪を手のひらに乗せる。

二人は溶けていく雪を見るとなぜか胸がざわつくような感覚を覚える。

 

それは綺麗な翼を羽ばたかせた天使の羽根のように見えてーー

 

無数もの(羽根)を散らしている今の風景は、さながら天使が堕ちたようにも感じられた。

 

少女達は自身の手のひらで溶けていく雪に言いようのない不安を抱くしかなかった。

 

 

 




この回と後日談を含めてA.s編は完結です。
やっぱり10年って言う年月は流石に空白が大きすぎるんですよねぇ・・・・。

どうしてもこのような展開しか思いつきませんでした。
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