二十代後半だと思ってください。

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比企谷八幡と本と雪ノ下雪乃

とある居酒屋

 

「八っちゃん、この前教えてくれた時代小説、よかったよ」

「それは良かった」

「はい、ぬる燗と漬物ね」

「悪いね、大将。儲からない客で」

「気にすんなよ。半分趣味でやってる店だ。ゆっくりしてってよ」

「ありがとう」

(この店に通って、どれくれい経つだろうか。カウンターの入り口側に座り、時代小説を肴に日本酒を飲む)

「大将、ぬる燗と焼き魚」

「ホッケでいいかい?」

「ああ。それと灰皿貸して」

「八っちゃん、タバコ控えなよ。そんなんじゃ、女にモテないよ」

「俺は元々ボッチだから、気にしてないよ」

「勿体ないねぇ、男前なのに」

 

店の戸が開く

 

「いらっしゃい。…ほら、タバコ嫌いが来たよ」

大将が小声で八幡に言う

「お邪魔するわね」

声の主はカウンターの一番奥に座る

「ぬる燗と漬物を」

「はいよ。八っちゃんと同じのね」

「なっ!…///」

(飲む前から、あの人顔真っ赤なんですけど…)

「こっちを見てニヤニヤしないでくれるかしら。気持ち悪い…///」

「へいへい」

「はい、ぬる燗と漬物ね。雪ちゃんも、可愛い顔してそういうこと言っちゃダメだよ」

「…はい///」

(そういうところ、本当に可愛いよ)

「比企谷君」

「なんだ」

「お酒や食事の時ぐらい、本を読むのやめたら?」

「本ぐらいしか友達いないんだよ。俺なりの会話だと思ってくれ。本とウェイウェイ言ってるまである」

「貴方ってひとは…」

 

「大将、このホッケ旨いな。ご飯と味噌汁ちょうだい」

「なんだい、もう締めかい?」

「雪ちゃんに怒られたから、本を置いて飯にする」

「その呼び方、やめてもらえるかしら…///」

「デレのん」

「やめて…///」

「悪かったよ、雪ノ下」

「なんだかんだ言って、仲がいいね」

「…///」

「…///」

 

「大将、ご馳走さま。お代と、さっき読み終わったこの本も置いてくから。これも当たりだよ」

「八っちゃん、いつも悪いな」

「自分の好みと会うから、嬉しいんだよ。また来るよ」

 

カウンターの奥に一言…

「またな、雪ノ下」

「えぇ、また」

 

大将が片付けをしながらな…

「八っちゃんと雪ちゃんて、不思議な関係だね」

「そうね。腐れ縁の一言では、済まない間柄ね」

「一緒になっちまいなよ」

「な、何を…///」

「雪ちゃんは、まんざらでもなさそうだな」

「///…大将、私にもホッケとご飯と味噌汁を」

 

数日後、とあるバー。カウンターの一番奥でカクテルを飲みながら洋書を読む女性

 

一人の男性が入って来る。カウンターの一番入り口側の席に座る

 

「ウイスキーを水割りで」

 

タバコに火をつけ文庫本を取り出す

 

「よく会うわね、比企谷君」

「そうだな。お前も酒飲みながら、本読んでるじゃねぇか」

「これはお酒のお供よ」

「さいですか」

「比企谷さん、雪ノ下さんの隣へ行ったらいかがですか?」

バーテンダーが声を掛ける

「騒がしかったか?」

「いえ、お知り合いのようですし…」

「いや、俺と雪ノ下はこれぐらいの距離がいいんだよ。気を使わせたな」

「い、いえ」

「マスターは?」

「所用で休んでおります」

「そっかぁ、感想聞きたかったけどなぁ」

「マスターから、本を預かっていまして『面白かった、また頼む』と」

「わかった。マスターによろしく伝えてくれ」

「比企谷君、どんな本を貸したのかしら?」

「ここのマスター、ハードボイルドが好きだからな。そのへんのオススメだ」

「プッ…、ハ、ハードボイルド。貴方が…」

「俺だって、ハードボイルドぐらい読むぞ」

「その顔でハードボイルド…クスクス」

「顔、関係ないでしょ。泣いちゃうよ」

 

 

「雪ノ下さん、お帰りですか?」

「ええ、ご馳走さま。比企谷君、またね」

「あぁ」

「比企谷さん」

「なんだ?」

「雪ノ下さんとは、お付き合いされてないんですか?」

「お付き合いしてないぞ」

「早くしないと、雪ノ下さんに彼氏出来ちゃいますよ。あそこまでの美人は、なかなか居ないですよ。よく声をかけられてますから」

「そうか…。悪いな、気を使ってもらって。考えておくよ」

 

とある休日

発売されたばかりの新刊を書店で購入し、家まで我慢が出来ず、いつもの喫茶店に入る

「比企谷君、いらっしゃい」

「うっす。コーヒーで」

カウンターの入り口近くの席に座る

「また砂糖とミルク山盛りかい?」

「いや、ブラックかな。今日買ってきたのが、恋愛モノで甘ったるくなりそうだから、飲み物はビターで」

「前から思ってたけと、本の内容で飲むもの変えるって、面白いよね」

「ただの気分的なもんですよ」

「貴方、本のことになると饒舌になるのね」

カウンターの奥の席から声がする

「雪ノ下、居たのか」

「ええ。マスター、紅茶のお代わり頂けるかしら」

「お前はブレないな」

「そうね」

「はい、コーヒーと灰皿ね」

「マスター、ありがとう」

「俺もだけど、比企谷君もタバコやめないの?」

「なんとなくやめれないかな。1日に4,5本だから」

 

「マスター、区切りがいいところになったから帰るよ」

「比企谷君、いつもの豆を挽いておいたから」

「ありがとうございます。ご馳走さまでした。雪ノ下、またな」

「ええ、また」

 

「まだ、比企谷君とは付き合わないの?」

「ひ、ひ、比企谷君と付き合うなんて…///」

「満更でもなさそうだね。早くしないと、比企谷君も彼女作っちゃうよ」

「彼の彼女になろうなんて、酔狂な女性はいないわよ」

「いいのかな?そんなこと言って?」

「どういうことかしら?」

「うちのお客さんでも、彼と話がしたいって人、結構いるよ」

「そ、そうなのね」

 

別の休日

 

部屋でコーヒーを飲みながら、読書をしている

マグカップが空になっているのに気がつく

「コーヒー淹れるけど、飲むか?」

「ええ、お願いするわ」

 

「はいよ」

「ありがとう」

 

短い会話の後、また本を読みはじめる…

 

「なぁ、雪ノ下」

「何かしら?」

「お前が探していた本、古本屋で見つけたから、買っておいたぞ」

「あら、ありがとう」

「ほれ」

「本の上の箱は?」

「プレゼントだ」

「開けてみてもいい?」

「好きにしろ」

「ネックレス…。綺麗」

「雪ノ下に似合うと思ってな、買ってみた」

 

「比企谷君」

「ん?」

「私も貴方にプレゼントがあるの」

「開けてもいいか?」

「えぇ」

「ライターじゃないか。いいのか?」

「貴方に使ってほしくて買ったのよ」

 

 

「なぁ、雪ノ下」

「ねぇ、比企谷君」

 

「…」

「…」

 

「俺と付き合ってくれないか」

「私と付き合ってください」

 

 

 

「なぁ、雪乃」

「何かしら?」

「今度は一緒に、あの居酒屋行かないか?」

「バーも一緒に行きましょう」

「今から、本屋に行って、帰りにサ店でお茶するか」

「いいわね。貴方が積極的に出掛けるなんて…」

「うるせぇ。豆は同じなのに、あそこで飲むと違うんだよな…」

 

「ねぇ、八幡君」

「ん?」

「せっかくだから、ネックレス着けて」

「わかったよ、雪乃」

「八幡君」

「ん?」

「ライターをプレゼントして言うのも、なんだけど、タバコはほどほどにしてくれないかしら」

「…善処します」

 

「なぁ、雪乃」

「何かしら?」

「なんで、『君』呼びなんだ?」

「私に呼び捨てで呼んで欲しいなんて、贅沢ね」

「…恥ずかしいのか?」

「そ、そんなことないわ」

「じゃあ、呼んでみてくれよ」

「は、は、八幡?」

「なんで疑問形なんだよ。首を傾げて、可愛いんだよ。まぁ、徐々に慣れていけばいいか」

「そうしてもらえると助かるわ」

 

「さぁ、出かけるか」

「八幡君」

「なんだ?」

「付き合う始めたのだから、腕を組んでもいいかしら?」

「ほら、いいぞ」

「嬉しい…」

「ここまで、時間かかっちまったな」

「別に気にすることではないわ」

「そうか?」

「やっとお互いが【本物】だと思えるタイミングだったのよ」

「それ言うかよ」

「ねぇ、いつ両親に挨拶してくれるのかしら?」

「今度、指輪プレゼントするから、その後にな」

「待ってるわ」

「今度は、そんなに待たせるつもりはないからな」

 

 

終わり

 

 

 

 



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