「明日からゴールデンウィークですが、神樹ヶ峰学園の生徒としての自覚を持って過ごしてくださいね」
「「「はーい!」」」
ゴールデンウィークを翌日に迎えた神樹ヶ峰学園。その星守クラスでも、少し浮き足立った生徒達と彼女らに釘をさす担任、というどこの学校とも変わらない光景があった。形だけのような生徒の返しに多少の不安を感じたものの、担任は生徒を信じることに決め、SHRを終わらせた。
放課後。明日葉は茉梨、風蘭、樹の3人と帰宅路についていた。ここでも話題は明日からの超大型連休について。
「あーちゃんは何か予定でもあるの?」
「はい、茶道や書道、薙刀の練習をしようと思います」
「そう、楽しみなのね」
「はい!」
明日葉らしい回答に思わず笑みがこぼれた3人の予定はというとー
「本当ゴメンな…できれば明日葉も連れて行きたかったんだけど…」
「ごめんね、あーちゃん…」
「いえいえそんなに落ち込まないでください!私なら大丈夫ですから!」
ー某夢の国に2泊3日という満喫ツアーだった。商店街のくじ引きで茉梨が特等のこのチケットを手に入れたのだが、明日葉は家の事情で参加ができず、留守番という形になってしまったのだ。
「家の事情じゃ仕方ないものね…お土産は期待して待っててね」
「はい!」
「ただいま帰りました…」
「おかえりなさい、明日葉さん」
笑顔で送り出した明日葉だったが、内心は羨ましかったのだ。夢の国で夜に行われるパレードはテレビでしか観たことなかったが明日葉にはとても魅力的だったのだ。ライトアップされた城を一度だけでも見てみたかったが家の事情があると言われ泣く泣く諦めるしかなかった。
「明日葉さん」
「…はい」
「明日から2日間ですが、ある所へ向かいますので宿泊の用意をしてください」
「泊まりがけですか?」
「突然ですみませんがよろしくお願いしますね」
「…分かりました」
2日間家から離れるとなると、楽しみにしていた茶道や書道もできない。この時ばかりは『早く時間が過ぎればいいのに』と明日葉は強く思った。
翌朝。明日葉は支度を終え、家族で出かけていた。どこへ行くのかはわからない、というよりも誰も教えてくれなかったのだ。誰に何度聞いても返ってくるのは「着いてからのお楽しみです」とばかり。『こっちは楽しみにしていた趣味の時間までも無くされたのだ。それくらい聞いてもいいのに』とばかりに明日葉は迫ったが変わらない返答にとうとう諦め、ふて寝とばかりに眠ってしまった。
「明日葉さん、明日葉さん」
「…ぅん………あれ…?」
気がつくと既に夕暮れ。明日葉は母に起こされ辺りを見回す。するとー
「……えっ!?」
明日葉を包んでいた眠気は一気に消え、代わりと言わんばかりの衝撃が目に飛び込んできた。両目に映るのはライトアップされた巨大な西洋の城、噴水、そして巨大な乗り物から手を振っている物語の登場人物。明日葉は夢の国に来ていた。
「お母様…どうして…」
「母なら娘の気持ちくらい、分かって当然です。本当は茉梨さん方と行きたかったのでしょうけれど、保護者不在では流石に心配ですからね…日程も合わせられれば良かったのですがそこまではできませんでした…」
「お母様…」
「いつも頑張っている明日葉さんにご褒美…と言うんでしょうか、思い出になればということで皆さんには内緒にしてもらってたんです」
ごめんなさいねという言葉は明日葉にはもう届いていなかった。というよりも明日葉の母が言う前に母に抱きついていた。
「ありがとうございますお母様!私の一生の思い出です!」
明日葉の満面の笑みは母も笑顔にした。その日、その夢の国で1組の母娘が城や噴水よりも綺麗だったことは言うまでもなかった。