京太郎&赤木 クロスオーバー   作:五代健治

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京ちゃんのスピンオフはよ


プロローグ ~彼我の差~

プロローグ

 

 

 

 別に神様みたいな才能がほしいとか、分かりやすく漫画のキャラみたいな最強になりたいとか、そういうんじゃなかった。

 

 ただ、大好きな連中と一緒に居られる程度、一緒にいてお荷物にはならない程度の実力がほしかった。

 

 ボクシングのスパーリングパートナーみたいなものかな。サンドバッグでもいい。丁度いい手ごたえを提供しつつ、彼女たちの戦意高揚や試行錯誤に貢献できる程度の、そんな立ち位置でよかったんだ。

 

 

 でも―――なんと甘かったことか。

 

 俺は殴られるだけのサンドバッグにすらなれなかった。殴るだけ、構うだけ時間の浪費となる存在だ。

 

 壇上には彼女たちだけが残った。俺は壇の下から、彼女たちを眺めながら雑事を務めた。

 

 喉が渇いたなら飲み物を持ってくるし、探してる本があるなら彼女が部活の練習をしてる間に探してきてやるし、タコスが食べたいなら用意してやるし、牌譜をとって彼女たち同士で研究したいなら、1日に半荘10回、100局だろうが、腕がいくら痛くなっても記録してやった。

 

 彼女たちの輝きが壇上で増すにつれて、俺が壇上に上がってお相手をさせて頂く機会も減って行った。

 

 仮にあったとしても、輝きを増した彼女たちに抵抗できるわけもなく、すぐにまた下ろされた。

 

 俺だって、それを良しとしたわけじゃない。

 彼女たちの名を穢さぬよう、必死で腕を磨いた。

 

 

(……………来た!?)

 南3局 1本場

 南家:京太郎配牌

 

 2223666m 7889p 南南  ツモ:南  ドラ:7p

 

 毎日半荘1回打ったとして、月に一度あるかないかの最高の配牌。

 現在の点数は

 東家 咲 37800

 南家 京太郎 14800

 西家(親) 優希 23000

 北家 和 24400

 

 

 インターハイ後の女子メンバーの牌譜で勉強し、自分での独学での修行のかいもあって、京太郎はここまで一度もこの化け物連中に振り込むことなく南3局まで進んできていた。

 

 だが、代わりに上がりの回数はたった1度、猛烈に進みの速かったタンピン手が一回あっただけである。

 

 躱しに躱してじり貧のまま進んできたが、ここに来て機が舞い降りた。

 

 

(8p切ってダブリー! 初っ端から端の数牌を待ちに含んだ3面待ちで、上がれないはずがない!)

 

「よっしゃ、リーチだ!」

「ええっ」

「じょじょ!?」

 

 

 同じ卓の面子からは驚きの声が上がる。

 

 京太郎は自信満々に牌を横向きに出した。

 

「いっぱーつ! いっぱーつ!」

 

 上機嫌になりながら、自分で掛け声を上げる。

 

「おのれ、犬が主人の真似をするとは!」

「はぁ? 南場でダブリーできたっけお前?」

「二人とも、対局中ですよ」

「「はーい………」」

 

 京太郎と優希のなじりあい合戦が始まると、和からの鶴の一声が飛んでくる。

 

「むう………」

 

 優希の第1打は東。

 待ちがわからない以上、客風牌から切るのは当然だろう。

 

「ふむ」

 

 続いて和の第1打。同じく東。

 

「うげ………」

 

 まさか、と思って京太郎が咲の方を見やる。

 すると案の定、咲の第1打も東だった。これでほぼ一発は消えた。

 

(まぁ、一発なんて欲張り過ぎか。大丈夫、この3面待ちならきっといける。って………)

「来たー!」

 

 自分のツモ牌の3mを見ると、京太郎は息高々に歓声を上げた。

 

 手配をバラっと倒し、役を述べる。

 

 

「ダブリー・一発・ツモ! えっと、後は三暗刻がこの場合はついて、ドラ一つ。あ、南がダブル翻牌で、裏は………乗らないか。でも、えっと9翻だから、倍満! 8000・4000だ!」

「ぐえええええ! おのれ何をしてくれるー!?」

「ざまぁー! 親被りざまぁー!」

 

 上機嫌になった京太郎が、優希の噛み付きを軽くいなす。

 

「もう、京ちゃんったら………。はい、点棒」

「にしてもいつ以来ですかね、須賀君が倍満上がるの?」

「多分咲が来てからは初めてじゃないか? ああ、この苦節半年かん……ふぁ…」

 

 点棒を受け取りながら、京太郎があくびをかみ殺す。

 

「京ちゃん?」

「わり、ちょっと寝不足で」

「なら喜べ! 次の一局で、永遠に寝付かせてやるわ!」

「へっ! やれるもんならやってみやがれ!」

 

 これで現在の点は、

 東家 咲 33800

 南家 京太郎 30800

 西家 優希 15000

 北家 (親)和 20400

 

 

 1位の咲を捲るには、ツモで2600以上の手を上がるか、直撃で2000の手。他家から上がるなら3200以上が必要だ。

 正直なところ、京太郎は降りるのはうまくなったが、狙いを定めて誰かから直撃をとれるほどではない。

 それが全国クラスのこの怪物たち相手となればなおさらだ。

 

(直撃は無理だ。点で負けてる他二人は追いつくために無理をしてくるかもだけど、トップの咲がここで俺に振り込むわけがない。ツモ狙いだな)

 

 心の中で、戦略の方針を立てる京太郎。その配牌

 

 1224m 357p 33999s 西 ツモ:中 ドラ:2m

 

(まーた苦労しそうな配牌だな)

 

 むしろさっきの配牌が出来過ぎだったのだ。

 ため息一つ着いて、どんな手を目指すか考える。

 

(とりあえず3翻あればいいわけだから、ドラが2つ来てくれたのはありがたい。つまり一番簡単なのでタンヤオ

ドラ2。123m、もしくは234mの順子になってしまった場合、リーチか平和ツモドラ1。後者の方がやや運頼りだから、ツモにもよるけど無理してでも鳴いていきつつ9sを暗刻落としするか?)

 

 この連中相手に、悠長に手牌がまとまるのを待つ余裕はない。

 かといってリーチしても愚形になりそうだ。ここは無理してでも手を進める。

 

 そして9巡目 京太郎手牌

 

 22m 7p 456s 9s  ポン:333s チー:345p ツモ:8p

 

(9sを切ればとりあえず聴牌。9pを引くとタンヤオが着かないうえにフリテンけど、この後7pか8pをもう一つ引いてシャボ待ちにもできるし、9s切りだな)

 

「おっと」

 

 9sを切る前に、皆の捨て牌を確認する。振り込んでは元も子もない。

 上家の咲は自身も9sを早めに捨ててるから問題ない。

 下家の優希、こちらも京太郎でも見て分かるほどに萬子の染め手だから問題ない。恐らく残りのドラ2枚は優希が持っているのだろう。最下位だからデカい手を狙っているはずだ。

 

 そして対面の和。

 

 和捨て牌

 1m 9m 發 9p 北 南 8s 6s 1s

 

(あらま、あからさまなタンヤオコース)

 

 明らかにいい手が入っているとは思えない。

 多分、安手で連荘に持っていくのが狙いだろう。

 安手なら平和という可能性もあるが、6sを切っているので、9sは安パイだ。

 安心して京太郎は9sを出した。

 

 

「ロン」

「…………………え?」

 

 

 和の声に、京太郎が凍り付く。

 倒されたその役は……………

 

 

「国士無双。48000で私が逆転トップです」

 

「え…………は、え!? ちょ、まっ!」

 

 京太郎だけでなく、他の二人も和の捨て牌を覗き込む。

 

「うっそぉ…………」

「いや、のどちゃんこれはいくら何でも………」

「国士の捨て牌じゃねーだろ…………」

 

 3人そろって、愕然とする。

 9つ中7つが一九字牌。こんな河から、誰が国士を予想できるものか。

 

「ええ、あまりにもうまく行き過ぎました。私自身びっくりしてます」

 

 びっくり、というよりはにっこり笑って、

 

「え、あ…………」

 

「ありがとうございました」

 

 

 無慈悲な結果を京太郎に突き付けた。

 

「は、はは…………」

 

 笑うしかない。

 胸の中を内側から引っ掻き回され、引き裂かれるような痛みを押し殺しながら、終局を迎える。

 

「はっはっはー! ざまーみろ! 犬の分際で出しゃばるから親の役満くらうんだじぇ!」

「ゆーき! 言い過ぎです。というか、部長を相手にしてるわけでもないのに、あんな待ちをあの河から読めとい

う方が無茶です。まぁしいて言うなら北や南が手出しだったところから読めなくはないですけど…………国士はさすがに無いでしょうし」

「は、ははは…………」

「実力で敵わないからって、こそこそ姑息に動き回ってた罰が当たったんだじぇ! ついでにタコスもってこいじぇ!」

「姑息って………」

 

 

 じゃあ、どうしろというのか。

 この怪物たちを相手に、真正面切って下りずにぎりぎりのところを攻め続けて、躱して上がりをとれとでもいうのだろうか。

 そんなこと、出来るはずがない。

 蛮勇を振るって正面から力勝負を挑めば、どんな結末が待つかは火を見るより明らかだ。

 だから京太郎にできるのは、全神経を注いで彼女たちの待ちを躱して、とにかく振り込みを避けることだけだ。

 そして自分に運が傾いた時を逃さず、そこに全力を注ぐ。

 

 そんな戦い方しかできるはずがない。

 

 それを、卑怯だ姑息だなどとなじられたら。

 

 

(もう、何もできねえじゃねえかよ)

 

 

 そのころからだったと思う。俺が彼女たちの近くにいることを、苦痛に思い始めたのは。

 

 別に彼女たちが悪いわけではない。ある意味これが光栄なことなのだということも理解していた。

 

 やがて世界で羽ばたく才能を持ち合わせた彼女たちの成長をこんな間近から見れて、あわよくばその手助けができる。

 

 でも俺にできる手助けなんて、本当に雑事だけだ。誰でもできるような、代わりの利くことだけだ。

 

 なんて贅沢な奴だとも思う。彼女たちの傍にいられるだけで、それは途方もない幸運だ。なのに、俺はそれを苦痛に感じている。なんて嫌な奴だ。堂々とした打ち方もできない、卑怯な上に自分の分を弁えないやつだ。

 

 そんな風に、自己嫌悪すら湧き始める。

 

 けれど、そんなことはおくびに出してもいけない。彼女たちは優しい。だから、俺がこんなふうに勝手に悩んで、それで彼女たちの心を傷つけてはいけない。

 

 そうやって、我慢して、堪えて、受け流して、忘れて、無理に笑って――――

 

 

 気が付けば、みんなといることが、耐えられないほど辛くなっていた。

 




3年前にテンション上げ過ぎて書き始めてしまった内容。

主は清澄嫌いじゃないよ。
好きなキャラはどんどん不遇な目になってもらった後にハッピーエンド向かってもらい主義です。
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