京太郎&赤木 クロスオーバー   作:五代健治

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タイトルがそろそろネタ切れになってきた


9話 みんなの仲直り

「えっと………ここです」

「へぇ、麻雀打つにはずいぶんとこじゃれた感じじゃないか」

 

 翌日の放課後、俺は赤木さんと一緒にroof-topに来ていた。

 赤レンガに洋風窓の、いかにも明るい雰囲気のお店。

 よくある煙草の煙がすぱすぱ蔓延している雀荘とは大違いだ。

 何より雀荘には「本日メイドデー」とか書いてある看板は置いてない。

 

「よぉきたのぉ」

「お邪魔します、染谷先輩」

 

 俺と赤木さんは背が高いから、店内からも見えたのだろう。

 メイド衣装に身を包んだ染谷先輩が、店の入り口から顔を覗かせた。

 前に一度、インターハイが終わってroof-topで打ち上げを行った時にも先輩のメイド衣装は見たが、中々に可愛らしい。

 麻雀部の中では一番(良心的な意味で)大人びた先輩で、今もその雰囲気は抜けきっていない。

 ただ、さらに大人び過ぎた落ち着いた色合いの衣装がかえって、背伸びをしている子供らしさも出して可愛らしく見えた。

 

「おう、赤木さんも一緒かい。お二人様麻雀卓へごあんな~い」

「いや、俺は構わない。京太郎を鍛えんのが目的だしな」

「そうかの? ならまぁええが、うちは全席禁煙じゃけんの。タバコはこっちへポイじゃ」

 

 先輩が店の入り口のすぐ隣に置いてある灰皿スタンドを指さす。

 

「そうかい……(´・ω・`)」

 

 赤木さんはしょんぼりしてから煙草を捨て、一緒に店の中へ入った。

 

 

「おかえりなさいませ、ご主人様」

「ご、ごしゅじんさま…………」

 

 

 出迎えたのは、やけに堂に入った動作でお辞儀をしたピンクのメイド服の和と、消え入りそうな声でお辞儀をする水色のメイド服の咲だった。

 

「ん、う、うん?」

 

 俺は予想だにしなかった展開に対して、正しく処理を下すことが出来なかった。

 

「ほら咲さん。そんなにたどたどしいから、須賀君も困っていますよ」

「だ、だって、京ちゃんにこの服で………その………」

 

 和に諫められた咲は、やけに短いスカートの裾の部分(いわゆる絶対領域)を抑えて、もじもじと顔を伏せて俺から身体の正中線を逸らす。

 羞恥心に身を焦がされていることは、傍から見ても明らかだった。

 

「えっと、ただいま咲?」

「お、おかえりなさい京ちゃん…………」

 

 これがあの大魔王宮永照の妹、魔王宮永咲の普段の性格だと言っても、大多数の人間は信じないだろう。

 メイド服のコスプレして恥ずかしさに悶える魔王。

 噴き出すのを堪える方が難しい。

 

「今日は京太郎をもてなしてやろうっちゅうことでな。臨時メイドデーじゃ」

「はぁ」

「ご主人様、お飲み物はいかがなさいますか?」

「お、おう………じゃあコーヒーで」

 

 自然体でメイドさんをやっている和に、意外さを隠しきれない。

 当の本人は結構面白おかしく楽しそうにメイドさんをやっている。

 まぁ、私服が「アレ」なことを考えると、珍しい衣装が好きなのかもしれない。

 NAGANOスタイル恐るべしだ。

 

「そちらの方は…………」

 

 いきなり声のトーンが落ちる。 

 俺の後ろで黙っている赤木さんを見た途端、和の機嫌が悪くなったのが分かった。

 

「酒類はないのか?」

「当店ではアルコールの類は提供しておりません」

「じゃあ俺も京太郎と同じもんでいい」

「はい。ではお席にどうぞ」

 

 ツンツンしたメイドさんというのもよくありそうなものだが、実際に見てしまうとなんだかしゅんとした。

 俺は赤木さんも和も好きなので、あんまりつっけどんにされると残念なのだが。

 

「じゃあ京ちゃ、こほん。ご、ごしゅじんさま。麻雀卓へどうぞ」

「呼び方くらい好きにしろよ」

「うん…そうするね」

 

 ご主人様、の発音が上手くいかない咲は、俺からの助け舟に心底胸をなでおろしたようだった。

 

「あれ? そういえば優希は?」

「優希ちゃんは、厨房で皆のタコス用意してるよ。部長は、新生徒儀会長の選挙の会議で遅れるって」

「ああ、2月で引継ぎだもんな」

 

 顔の見えない二人のことを尋ねて、麻雀卓につく。

 学校にあるのと同じタイプの雀卓だ。

 

「いそいそ………ごそごそ…………」

「お待たせしまし…………須賀君、何やってるんです?」

「いや、ちゃんと整備されてるか気になって……どうした?」

 

 台の下の方や洗牌をする部分を何気なく見ていたら、咲と和からものすごい気の毒そうな視線をもらった。

 

「須賀君………今須賀君はお客さんです。そういうのは気にしなくていいんです」

「いやでも毎回部活で様子見てるとなんか気になっちゃって。

 この数日通った雀荘で打った時も、始める前に調べたりして、2件ほど調子悪い台直したらお礼言われたんだけど…………」

「京ちゃん………ごめんね、私たちのせいだね。全部京ちゃんに押し付けてた私たちのせいだね………」

「おい、何でそんなに沈んでるんだ二人とも」

「京太郎………」

 

 雀卓の様子が見える近くの席に座った赤木さんまで、何と言ったらいいか困っているような顔をしていた。

 おい、雀卓の具合がどうか気にするのがそんなに悪いのか。泣くぞ。

 

「おーう京たろ………じゃなくていぬ、じゃなくてご主人様、タコスの到着ですじぇ!」

「おい待てなんで犬って言い直した」

 

 厨房の方から、タコスを積んだ大皿を優希が運んできた。

 よし決めた今日こいつだけには絶対に負けん。むしろ飛ばしたる。

 とりあえず放課後で小腹は空いているので、タコスはもらうが。

 

「さて、今日は京太郎が主賓じゃからの。打ちたい面子はおんしが決めてええぞ」

 

 全員がタコスを口にし始めたところで、染谷先輩が頼んでいたコーヒーを持ってきてくれた。

 

「いただきます。

 そうですね、前は一年組で打ちましたし、染谷先輩も入ってもらえますか?」

「おう、構わんぞ。まぁ店が混み過ぎてたら無理じゃが」

「お願いします。そんじゃタコス食い終わったら始めるか。食いながらとかは汚いし」

「ですね」

 

 

 3,4分ほど、皆でタコスをかじりながらこの数日間の近況を報告しあう。

 

「そういえば優希、お前タコス自分で作ったのは気に入ってないんだって?」

「気に入ってないって程じゃないけど………なんだか味気なく感じるんだじぇ」

「あー、そりゃまぁあれだ。俺の場合ハギヨシさんに教えてもらったからなぁ。

 俺も料理する方じゃないから確かなことは言えないけど、多分あの人そこらの下手な料理人よりよっぽど料理上手いぜ。

 教わった時にとったメモ今度持ってきてやるよ、レシピの」

「なぬ! よし今すぐとって来い!」

「人の話を聞け」

 

「和、牌譜とるのとか量が多くて困ってるんだって?」

「ええ、学校の古いPCじゃ対応しているソフトがあんまりいいのがなくて………結局家に帰ってやった方が速いですね」

「家に自分のパソコンあるの、俺と和だけだっけ?」

「わしも持っとるっちゃあ持っとるんじゃがのぉ。一応店の備品じゃし、私事に使っていいかびみょうじゃけん」

「ああそっか。店のパソコン、部活のために使っていいかはたしかに」

「結果おんしに家に帰ってからもぜーんぶ押し付けちもうたわけじゃ。

 まったくいくら頭を下げても下げ足りんわい」

「はは………」

 

 

「よし、じゃあ始めるか」

「ちょ、ちょっと待って」

「ん?」

 

 最後の一口を飲み込んだところで配牌を始めると、咲が肩を掴んだ。

 

「京ちゃん、私には何も質問ないのかな?」

「え、いや昨日けっこう話ししたじゃん」

「そ、そうだけど………」

「昨日?」

 

 和が俺の言葉に反応する。

 

「昨日はお昼も咲さんは私と話してて、放課後はずっと部活のはずでしたけど………。

 須賀君も授業が終わり次第、すぐに飛び出して行ってしまいましたし、いつ話したんです?」

「ああ、昨日咲が夜中にうちに来てさ」

「「「家に?」」」

「うん?」

 

 それを聞いた他のみんなが、声を揃えて食いつく。

 何か変なことを言ったかと、コーヒーを飲みながら考える。

 

「夜中って、何時ごろだじぇ?」

「えーっと、俺がどうフレ再放送見終わってボロボロ泣いてた頃だから、もう11時半すぎてたと思うけど」

「ちょ、京ちゃ………」

 

「夜中の?」

「日付が変わる頃に?」

「一人で?」

 

「須賀君「京太郎「犬「の家に?」」」

 

 三人の声がぴったり揃う。優希は許さん。

 

「あ……そ、その、買い出しの帰りに近くを寄ったから、ちょこーっと話そうかなーって……あはは………」

「咲さん」

「は、はい」

 

 なぜか和相手に敬語になる咲。

 

「それ、言い訳にしては苦しいです」

「あぅ………」

 

 ただでさえ小さいのに、さらに縮こまる咲。何なんだ一体。

 

「ま………京太郎、頑張れってことじゃ」

「? はい」

「こいつぜってーわかってねーじぇ」

「ですね」

「?」

 

 一気に場が俺を非難するような空気に変わる。

 え、何かしたか俺?

 

「ま、ええわ。始めるとしようかの。そんじゃ、白引いた奴が一回休みな。あ、そういや赤木さんは打たんでいいんじゃの?」

「ああ、俺はいい。京太郎の打牌を見てるだけでな。ゆっくりくつろいでるさ」

「そうかの」

 

 染谷先輩が雀卓の上に牌を4枚伏せて掻き混ぜて、それを俺を除く女子四人が1枚ずつ取った。

 

「わっ! 私白だよぉ………」

 

 白を引いてしまった咲が、涙目になってしょげる。

 

「まぁ何回戦か打つからええじゃろ。咲が最初休みな」

「うう………せっかく一緒に打てると思ったのに………」

 

 そこまで楽しみだったのかと心の中で意外に思いながら、俺は改めて伏せられた4枚の風牌を手にする。

 

 1回戦開始だ。




こないだ人生で初めてタコライス食べたけどおいしかった。
だけどもう少し辛くない方がいいな。

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