京太郎&赤木 クロスオーバー   作:五代健治

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もう二度と!
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使いたくない!
どうせどっか変換上手くいってないから、後で直します。
脳内変換よろしく。


10話 資質の覚醒(勝てるとは言っていない)

 roof-topで皆とのリターンマッチ1回戦。

 その最初の配牌。

 

東一局  ドラ{八}

親 まこ

南家 和

西家 優希

北家 京太郎

 

京太郎 配牌

 {一二二八九④⑥569白白北}  ツモ:{1}

 

 白が対子になっている以外、特に何もない平凡な手配だ。

 {④⑥} か {56} のどっちかが端の数牌ならばチャンタに向かえたかもしれないが、この様子じゃ無理かと諦める。

 役牌ドラ1でいいから早くまとまってくれないかなぁと祈りつつ、{1}をツモ切る。

 

 

 7巡目

「リーチだじぇ!」

 優希からリーチ棒が場に出される。

 7巡目リーチを意外に遅かったなと感じるあたり、俺の感覚はマヒしているのかもしれない。

 

 京太郎手牌

 {一二三四八八九}    

 チー:{567} ポン:{白白白} 

 

 優希と同席する以上、勝つには早上がりしかないと見切りをつけて、{白}ポンより先に{567}のチーをするという、下手すれば役無しになる暴挙に出たが、かえってそれが功を奏した。

 運よく後から白を鳴くことが出来て、イーシャンテン。

(萬子なら何引いても大体聴牌だ。せめて安パイ引けますように………!)

 

 ツモ:{七} <やぁ

 

(よりによってそこですかーーーー!!)

 

 これで{一-四}のどちらかを切れば、一応{八}待ち聴牌だが………。

(中膨のドラ単騎待ちとかどう考えても出るわけねーし………あぁ~……心がぴょんぴょん……じゃなくて、あぁもう、どうすんのこれ………)

 とりあえず優希の捨て牌を見てから考えることにする。

 

 優希捨て牌

 {③一7(京太郎チー)⑨③七横2}

 

({③七} は、確か{③}は速攻でツモぎってたから、つまり{③}捨てた時にはもうイーシャンテンだったわけね。

 まぁどっちにしろ俺の手には萬子しか残ってないから、そこらへんは考えなくていいんだけど………。

 {二-五-八}の筋が一枚も出てないし、もし切れれば{一-四}待ちにできるけど、{八}は絶対切れない。

 リーチに対して初手ドラ切りとか在り得んわ。

 んで、安パイが{一か九}かぁ………)

 

 仕方なく、{一}を素直に捨てて一応{八}待ち聴牌に受ける。

 {九}を落としてもいいが、{七八八}の形で残すと最悪この後フリテンになりかねない。

 

 俺の後の二人も、{⑨、2}と二人とも端っこの不要になりそうな安パイから切っていく。

 そして優希の一発目のツモ。

 

 ツモって来た{五}をそのまま捨てる。

(ドラ通ったんかい!)

 単騎待ちとかの可能性もあるから確かなことは言えないが、少なくとも一番ありそうなドラ筋の{五-八}は通る確率が高かったわけだ。

 こんなことなら勝負に行けばよかった。

 そして次の俺のツモ。

 

 京太郎手牌

{二三四七八八九}   ツモ:{一}

 チー:{567} ポン:{白白白} 

 

(勝負に行ってれば普通に上がってたよちくしょー!)

 心の中で散々な悲鳴を上げる。

 フリテンの{一-四}待ちに戻すわけにもいかない。

 もしかしたら{五-八}待ちの線が消えたことで、他二人が浮いた{八}の処理をしようと切ってくれる可能性もあるので、そのまま{八}待ちのままツモ切る。

 

「チー」

 染谷先輩からの発声。

 俺は切った{一}を先輩の方へ渡す。

 そして先輩は打{五}。

({一二三のチーをして五}切り?)

 優希のリーチを流したいなら、喰いタンなど早い手が一番だ。

 鳴くにしても、タンヤオの消える一九字牌を鳴くのはおかしい。

(まぁ、染谷先輩のことだし、多分染め手だろ。完全に染め手じゃないにしろ、一通みたいな手の内の大部分が同じ色に染まるような手かな)

 そしてその次、和は打{南}。

「ポン」

 客風牌をポンする染谷先輩。そして打{中}。

 これはもう混一色かチャンタのどっちかで確定とみていいだろう。これが役牌ならまだ何か別の色が混じってる可能性が無きにしも非ずだったが。

 

 和も次はツモって来た{北}を切り、再び優希のツモ。

 ここでも優希はツモれず、苦い表情でツモ切る。

 

 再び俺のツモは、{⑥}

 (優希は{③}と{⑨}を切ってるし、準安パイではある。まさかまたこないだみたいに三暗刻対々和とかじゃないだろうし。

 染谷先輩は萬子の混一色かチャンタ。しかも{⑨}を切っている。これは通るだろ)

 安心して打{⑥}。

「ふふっ、それロンじゃ」

「へ?」

 染谷先輩の手が倒される。

 

 まこ手牌

 {四五六中中中⑥} 

 {ポン:南南南 チー:一二三}

「親の役牌のみ、2000点じゃ」

「ろ、{⑥}単騎ぃ!?」

 

 顎があんぐり開くのが自分で分かった。

 染谷先輩の表情からして、これは意図的な待ちだったとわかる。

 にしても、何だこの待ちは。

 

「今日は来れなかった久から京太郎によろしくと頼まれたからのぉ。今日のわしは染め手の多面張&悪待ち使いとしてやらせてもらうぞ」

「ええー………」

 

 躱しきれる気がしない。

 染谷先輩も相当器用な方だから、部長ほど意地は悪くないが盲点になりそうな待ちをしてきそうだ。

 出鼻をくじかれつつ、俺は渋々点棒を先輩に渡した。

 

 

 東一局1本場  ドラ{四}

親 まこ

南家 和

西家 優希

北家 京太郎

 

京太郎 配牌

 {一五①⑥⑧455778南北 ツモ:西}

 

(索子が伸びてくれればいいんだけどな………)

 これが大物手になってくれるとしたら、索子の染め手あたりだろう。

 だが字牌と言えど客風牌ばかり持っていても仕方ないので、ツモ切る。

 

14巡目

(うーん、これは・・・)

 東場なのに、優希から上がりの声は上がらず、おとなしい。

「うぎぎ………じぇえぇ………」

 というより、さっきから憎々しげに自分の捨て牌を見て唸っている。

 

 優希捨て牌

 {一九八⑤⑥9}

{ ④中(まこポン)①南發4}

 {⑥3}  

 {暗槓:裏四四裏 チー:一二三 ポン:八八八} {(新ドラ:2)}

 

 どうみても途中から萬子の清一色に向かっているのが見え見えなのだが、フリテンではなかろうか。

 {一-四、五-八、六-九}の筋は最初の3巡でもうフリテン確定だし、仮にツモ上がりに期待していてももう{八と四}は種切れだ。

 これがいわゆるバカチンというやつか。

 

 ドラ4の暗槓の時はみんなしてぎょっとしたものだが、フリテンとなれば怖くはない。

 そんな時俺の手牌は

 

 京太郎手牌

 {①①13344557788}

 

 順調に索子が伸びてくれて、七対子聴牌。

 {①}の対子が邪魔で、索子の清一色七対子に向かってもいいかもしれないが、もうツモが3~4巡程度しかないので、そんなことをしている場合ではない。

 というか{1}が種切れなのでこの後何かと待ちを換えないといけない。

 

「ん、カンじゃ」

 

 そんな中、染谷先輩が引いて来た中を加槓する。

「んー、引けんか。んで、ドラは………」

 新ドラ:{①}

(やった!)

 邪魔でしかなかった{①}に、ドラが乗ってくれた。

 これで張れば、七対子ドラ2でリーチをかければ満貫だ。

「ドラも乗らんのかい、まったく」

 まこがぼやきながら、嶺上牌の南をツモ切る。

 優希は相変わらずフリテンのツモ切り地獄。

 俺は出来る限りポーカーフェイスを保ちつつ、ツモ山へ手を伸ばした。

 

 ツモ:{6}

 

 (オッケー、こうなりゃ全ツッパだ!)

「リーチ!」

 生牌を引けてきたことに歓喜し、リーチ宣言と共に打{1}。これで{6}待ち。

 出上りは期待しないが、残り3回のツモで引けることを祈る。

 

 そして親の染谷先輩。

「んー………まぁ、ここは冒険してもいいところじゃろ」

 打{6}。

 

「ロンです!」

「なぁあ!?」

 バラっと手牌を倒し、手役を述べる。

「リーチ一発七対子ドラ2! 裏は………乗んないか。でもえっと合計で6翻で」

「え? 違いませんか?」

「え?」

 役の合計を確認してるところで、和が遮ってきた。

 もしかして何か間違っていたか? 

 ひょっとして俺までフリテンだったっけかと急いで河を確認する。

「あ、いえ。フリテンじゃなくて………あ、やっぱり。これ七対子じゃないですね、二盃口です」

「へ? 二盃口って………」

 たしか一盃口が二つ同時に鳴かないでできている役のことだったよなと思い出して、手牌をよく見る。

 

 {①①33445567788} 上がり:{6}

 

「あ」

 本当だ。見た目が七対子だから自分でもわかっていなかった。

「だからえっと、リーチ一発平和二盃口ドラ2………倍満ですね」

「うぐっ!? やってくれるのぉ………でもま、これは捨てられんわ」

 染谷先輩が手牌を倒して、どんな手を張っていたのか見してくれる。

 

{⑨⑨⑨999白白白一} 加カン:{中横中中中}

「ふぁっ!?」

 混老頭 トイトイ 三暗刻 役牌二つの親倍満手。

 これは勝負に行くのもわかる。

「本当は七対子で申告したらその点しかもらえんのじゃぞー?」

「す、すいません………」

 染谷先輩が苦笑いしながら16300点を支払う。

 図らずもいきなりトップになってしまった。

 

「ぐぞー……最初の3巡さえなければふつーに清一色ドラ4上がってたじぇ……」

「いや、その捨て牌でも{四}で暗槓せずに頑張って多面張にすればよかったんじゃ………」

「孤立したドラが4つ来たら槓するだろー! その後くっつく形で{二三}辺りが来るしー!」

 

 正論を言ったはずなのに噛み付かれる。ひどいけどいつものことだ。

 いったいこいつが「犬の分際で!」の一言で、無条件に俺の意見を突っぱねなくなるのはいつの日か。

 

「それじゃあ、私の親ですね」

「おっし! リード守り切るぞー!」

 

 

 およそ30分後、俺はいかにそれが難しいものか身を以って味わっていた。

「ほいっと、それロンじゃ。12000点」

「うぐう………」

 

 最初に倍満を上がれたのは良かったが、その後がまずかった。

 みんなの待ちを躱すだけならまだ何とかなるのだが、どうしてもツモ上がりの速さの勝負となると、皆に軍配があがる。

 しかも点数がおかしい。

 2回だけ和の3900直取りと2600オールがあっただけで、後は皆普通に満貫跳満を上がってくる。

 それだけでも容赦なく削られていくのに、今日の染谷先輩は意地悪だった。

 一時は点棒が2600点まで追い詰められていたものの、そこからこの上がりで3万点以上まで戻してきた。

 宣言通り、染め手の多面張で待ち受けることもあれば、役牌の安手で親を流してくる。

 そして俺から上がるたびに眼鏡をキラーンとさせるのがやけに腹が立つ。

 しかもロンは全部俺から上がるし!

 

南3局 ドラ{⑧}

親 優希 21000

南家 京太郎 12700

西家 まこ 32800

北家 和 33500

 

 優希が親の南3局。

 とにかくここで点を稼いで、トップ二人を最低でも満貫ツモで射程圏内に入れるところまではいきたい。

 つまり2万点より上に行きたい。

 そんな時俺の配牌

 

 {112356688②八八 ツモ:6}

 

(うおっ!?)

 14牌の内、10牌が索子で、しかもつながりも悪くない。

 これはもうまっすぐに索子の染め手に向かうことにして、打{②}

(頼むぜ………!)

 ここで粘れなければ、ほぼ負けが確定する。

 他3人の怪物が、5,6巡でツモ上がるなんてことが起きないように、必死に祈る。

 

 そんな俺の祈りが通じたか、11巡目。

(す、すごいことになったな…………)

 

京太郎手牌

 {1112345666888}

 

(え、えっと………多分、{1-4-7}と、{2-5}と、{3-6}も………だよな? 7面待ち?)

 比較的わかりやすい清一色多面張になってよかった。

 待ちが分からなくてチョンボとかいやすぎる。

 

 しかし、これならいけるはずだ。

 ここで上がれることを期待して、ツモ山に手を伸ばす。

 ツモは{8}。

 上がることは出来ないが………

({8}なら………うん、暗槓で7面待ちのままもう一度ツモが出来る。他のみんなは………)

 

 ここで他のみんなの様子を確かめる。

 まずトップの和。

 こちらは南4局で楽に逃げ切る余裕がほしいのか、筒子の染め手気配だ。

 4位の染谷先輩とは微差だし、欲を言えばここでもう一度満貫でも上がっておきたいのだろう。

 

 上家の優希。

 妙な捨て牌をしている。七対子か、三色あたりだろうか?

 しかし七対子なら、単騎待ちによさそうな一九字牌を多めに捨てているし、多分タンピン三色の方ではなかろうか?

 となると端に近い{8}はまだ比較的安全牌ではある。

 678の数字を見てみると、わざわざ{六}と{七}が連続で捨てられているので、もっと下の方の三色だろうと当たりをつける。

 

 そして、今回俺から執拗に直撃をとっている染谷先輩。

まこ捨て牌

 {④⑥東白八3⑨①99} 

 

(こりゃどう見ても萬子の染め手だろ………)

 初手{④}というあたりで、もうまともな手ではないのが分かる。

 また変な待ちということも考えられなくはないが、ラスト2局のこの状況で安い悪待ちをするだろうか?

 

 とにかく、3人ともに対して、今引いて来た{8}は安パイだ。

(いや………でも、待ちを減らさずにもう一度7面待ちのツモに挑戦できるなら、やるべきじゃないのか?)

 もし和了れれば、清一色嶺上ツモで倍満。リターンもこれ以上なく十分だ。

「よし………槓!」

 {8}四枚をさらす。

 暗槓なので先に新ドラ表示牌がめくられる。

 表示牌は{6}。新ドラは{7}だ。

(頼む………!)

 上がれる可能性だって、かなり高いこの嶺上ツモ。

 汗ばむ手で持ってきたその牌は………

 

 

 {二} < やぁ

 

 

(絶対切れねえええええええええ!!!!!!)

 よりによってここで萬子引いてくるかと無言で叫びつつ、どうしたらいいか考える。

 

京太郎手牌

 {1112345666} ツモ:{二} 

 カン:{裏88裏} 

 

(ここで{二}をツモ切れば7面待ちのまま………。でも、萬子は染谷先輩に絶対捨てられない。せめて{五}が捨てられていたら、{二-五-八}の筋がほぼ消えて別だけど。

 とにかく、聴牌を維持するなら…………)

 

 涙を呑んで、俺は打{2}で{二}単騎に受ける。

 三暗刻確定と言えば聞こえはいいけど、上がっても60符2翻の3900どまりだ。

 どうしてこうなった。

 咲だったらここから{1}と{6}で槓して三槓子とかやってのけるんだろうけど………。

 あ、{6}が新ドラ表示牌だし咲でも無理か。

 

「ん、リーチじゃ!」

 次の番、染谷先輩が打{五}でリーチをかけた。

 ({二-五}通ったんかい!)

 何だか東1局でも似たようなことがあったなと思いつつ、心の中だけで叫ぶ。

 

 和は安パイの打{⑨}。

 優希も引いて来た牌とにらめっこをした後、染め手に対して危険牌の中切り。

 だがこれは通った。優希もかなり手が進んできているとみていいだろう。

 

 そして俺の番。

 7面とは言わずとも、せめて2面待ちには戻れるように索子を渇望する。

 ツモ:{7}

(やった………!)

 

 これで{二}を切れば、改めて俺の待ちは{5,7,8}待ち。

 {8}は暗槓で種切れだけど、{57}はまだ3枚ずつ待ちがある。

 清一色ドラ1の跳満。{7}で上がるかツモれば倍満の逆転への手だ。

 喜んで{二}を切ろうとした瞬間。

 

 ゾワヮ!

(ひぃっ――――!?)

 得体のしれない気持ち悪さが、{二}を持った手に奔った。

 とっさに{二}を手の中にしまい込んで、真っ白になった頭を働かせる。

 息を落ち着けて、染谷先輩の河をよく見る。

 

(あの捨て牌………染め手じゃないとしたら?)

 染谷先輩の捨て牌は、確かに萬子の染め手に見えるが、それだけではない。

 一九字牌が、あまりに多すぎる。

 つまり初めの初手{④}などは、チャンタに向かったためではなかろうか?

 

(それでもし………もしだぞ? 思った以上に萬子の端っこの数牌が集まったから、後から萬子だけのチャンタに向かったとしたら?)

 リーチ直前の5巡。

 {3⑨①99}の捨て牌が、実は途中まではそれらを用いたチャンタに向かうための牌だったとしたら?

 河を改めて眺めてみる。

 …………{一と九}が、一枚も見当たらない。

 

(和は筒子の染め手だから、{一}を手牌に持ってるなんてあるはずがない。

 優希も{①}と{2}を捨てていてあの捨て牌だから………多分、345あたりの三色?)

 

 どっちにしろ、二人の手の中に、{一}があるわけがない。

 

(仮に{一か九}が全部染谷先輩のところに行ってるとすると………123、789あたりの萬子は超危険牌だ………!

 いや、俺の捨て牌も含めて{八}はもう場に3枚出ているから、123の方が危険だ。

 それに今日染谷先輩は悪待ちをするって堂々と言っていた。

 だからこの{五-八}捨てが、特に{二}を誘うためのものだとすると…………だめだ、絶対に捨てられない!)

 

 {二}を手牌に戻し、脳みそをさらに回転させる。

({二}は絶対に捨てられない! じゃあどうする?)

 多分3人ともに通りはするだろうが、今引いて来た新ドラの{7}を捨てて、{二}単騎?

 そんな馬鹿なと、すぐに否定の声が響く。

 この手はどう考えても{二}切りだ!

 でも、いくらそうしようとしても{二}が手から離れてくれない。

 

(京ちゃん……?)

 

 後ろでずっと見ていた咲は訝しんだ。

 勝てる勝算もある{8}暗槓で危険牌を持ってきてしまい、それを万全を期して抱え込んだまではいい。

 決して振らないよう、安手になるのも我慢して立派に立ち回った。

 だが、{五-八}が通るのだし、もうここは100%安全とはいいがたいが、{二}切りでいいはずだ。

 

(え…………!?)

 

 次の瞬間、咲は目を疑った。

「…………リーチ!」

 

 京太郎。ツモ切りリーチ、打{7}。

(きょ、京ちゃん何してるの!?)

 ここはリーチをかけるにしても、{二}切りの{5-7}待ちだろう。

 なのに、ドラをツモ切ってまで{二}の単騎待ちリーチ。

 

(ツモ切りリーチ…………?)

 それを見ていたまこもまた、同じように訝しんだ。

 索子の染め手で、{8}が暗槓で種切れだから、その周辺で待ちの無さそうな{7}を切ってリーチというのはわかる。

 ただ、ツモ切りリーチというのがどうにも解せない。

 

(つまり1巡前には張っとったんじゃろ?

 ならばなぜリーチをする?)

 

 追っかけリーチ、というのは点差がある状態でやるのは、ほとんどやけくその思考放棄にも似た行為だ。

 まこは自分の手を見下ろす

 

まこ手牌

{一一一二二三三九九九北北北}

 

 {一二三四}待ちの、出上りは高めリーチ・面前混一色・三暗刻・対々で倍満、ツモれば四暗刻の怪物手。

 途中までは{①}や{9}の対子も使ってチャンタを狙っていたのだが、予想外に萬子の端牌が重なった。

 言い換えれば、萬子の染め手さえ警戒していれば絶対に振り込むことはない。

 図らずも都合よく{二}を誘いやすい捨て牌になってしまったが………それにしたって、万が一を考えて金輪際萬子を出さなければ済む話だ。

 よって、捨て牌を選ぶ権利を失うリーチはここではしてはならない行為だ。

 

(惜しいのぉ、京太郎。焦る気持ちはわかるが、そりゃさすがに無謀が過ぎるわ)

 

 倍満を一度上がった収入がなければ既にここまで来る前にトンでいたとはいえ、安い悪待ちとたった一度の3900を除けばすべて満貫以上の点しか出ていないこの魔卓で、よくここまで戦えるようになったと褒めるつもりでいたが、この分ではねぎらいの言葉はまた今度かなと思い、まこがツモる。

 

 引いて来たのは{④}。

 和に厳しい牌だ。

 

「チー」

 

 幸いロンではなかったが鳴かれ、すでに3枚見えている{東}を切った。

 まぁ京太郎の一発も消せたし、トントンと思うことにする。

 そして、ことが起きたのは優希の番。

 

(よし………何とかなったじぇ)

 優希手牌

 

 {二三四③④④⑤⑤345⑦⑦ ツモ:五}

 

 京太郎の読み通り、345の三色狙いの手。

 先ほどまではタンヤオ・平和のみで逆転は難しそうだったが、この{五}引きで{3-6}待ち聴牌。

 {③}を引いてこれれば、タンピン三色一盃口の満貫手だ。

 リーチをかければ跳満の手。

 我ながら南場に入ってよくこの手を作れたと感心する。

 

「よっしゃ! リーチだじぇ!」

 打{二}。

「すまんのぉ、優希」

「じぇ?」

 

 まこが勿体ぶりながら、その手を倒す。

 

「それ、通らんわ。

 リーチ・三暗刻・対々・面前混一色で倍満じゃ。

 裏は………乗らんから、16000点じゃな」

「じぇえええええええええええええええええ!!!?

 なんだじぇその待ちぃいいいいい!?」

 

 100%安全だと思った{二}で振り込み、年頃の女子にあるまじき悲鳴を優希が上げる。

 だがそれを聞いて、俺は息を大きく吐いて安心した。

 

「安心しろよ、優希」

「はぁ? 何がだじぇ!」

「きょ、京ちゃん………? それ、狙ってやったの………?」

「ああ、正直うまくいくとは思わなかったけど………」

 

 後ろの先に見守られながら、手牌を倒す。

 

「頭ハネだ」

 

京太郎手牌

{111345666二}  ロン:{二}

カン:{裏88裏}

 

「リーチ・三暗刻。

 裏は乗らないけど、60符3翻で7700だ」

 

 リーチをしたのは槓も一つ入っているので、上がれたときに裏ドラが乗って満貫以上の手になってほしかったからだが、7700ならまぁ満貫みたいなものだ。

 

「りゃ、{二}単騎!?」

「え、だって、{7}を切ってるのに………!」

 

 皆が俺のリーチ宣言牌と、待ちの{二}を見て驚愕の声を上げる。

 染谷先輩の悪待ちにも驚きの声は上がっていたけれど、これが今日一番の驚愕だったらしい。

 

「驚いた………。京太郎。

 おんし、それ狙って待っていたんか?」

「ええ。絶対うまくいくわけないって、俺自身やけくそ気味にそう思っていたんですけど………。

 でも、それでもこの{二}は絶対に切ったらダメだって思ったんです」

「理由は?」

「先輩の捨て牌です」

 

 すっかり真剣な顔になった染谷先輩が、俺の方をまっすぐ見て聞いて来た。

 俺は上がった後の高揚感とか、うまくいったときの達成感とかを抑えて呼吸を整えつつ、自分が先輩のラスト5巡の捨て牌から考えた推理を説明した。

 

「和と優希が{一九}辺りを持っているわけはないし………。

 じゃあ全部それを染谷先輩が持っているとしたら、{二}は絶対切れないって思ったんです。

 それに、今日の先輩は意地悪な待ちばっかりしてきますから、{五-八}が通るのもかえってわざとらしい気がして」

「いやそれは本当に偶然じゃったんじゃが…………」

 

 まこは言葉を切って真剣に考え込んだ。

 京太郎の推理は正しい。

 だがそれだけではこの打牌は片づけることが出来ない。

 

「なぁおんしら………、もし京太郎の立場だったとして、{二}単騎なんてできたか?」

「無理ですよ………{五-八}が通る以上、安全とは言い切れませんが、上がれた時の点の期待値や上がりやすさから考えても、ここは清一色に走ります」

「そうだじぇ。ふつーここは迷わず清一色多面張だじぇ」

 

 一緒に卓を囲んでいた二人は、首を横に振った。

 

「咲はどうじゃ?

 おんしはよく対子系の手に進むが」

「もしかして………{1}と{6}で槓が出来ればやったかもしれません。

 でも、今回{6}は切れていたし…………やるとしても、清一色に向かってから{1}槓で嶺上開花を決めるまでだと思います」

「そうか…………」

 

 まこは戦慄した。

 自分は答えていないが、こんなもの迷わず{二}切りの清一色に受けるに決まっている。

 京太郎にも無論その発想はあっただろうが…………、それでもそのわかりやすい誘惑を跳ねのけ、満貫には一歩及ばなかったが7700を手にした。

 仮に{二}を切っていたら、倍満に振り込んでトビ終了となっていた。

 だが………それどころか、10人が居たら9人は振り込んで終わりだった状況をかいくぐり、頭ハネでまこの独走すら許さずほぼ満貫を手にし、ラス親の南4局での逆転も可能な位置にたどり着いた。

 

(こいつ…………本当に京太郎か!?)

 

 最近、それこそ和に国士を振り込んでしまうことはあったが、あの頃からだんだんうまくなってきていることは感じていた。

 だがこれは、あまりにも異様だ。

 こんな打牌、常人にできるものでは、否、下手に麻雀のセオリーを修めた上級者では思いつくことすらできないだろう。

 

「京太郎おんし………こわくはなかったんか?」

「え?」

「そう読み切ったまではええが………それが本当にあっていると、自信があったんか?

 もしかしたら、全部自分の間違いかもしれないって、思わなかったんか………?」

 

 染谷先輩の、どこか呆然としたような問いかけに、俺はなんだか少し、くすぐったいような気持ちになった。

 

「もちろん思いましたよ。さっきも言ったけど、ほぼやけくそでしたし。

 でも………何て言ったらいいのか…………その…………」

 

 自分でもうまく言い表せなくて、何というべきか戸惑ってしまう。

 数秒かけて言いたいことを頭の中でまとめて、順番に話す。

 

「もし………{二}切りに行ったら、負けるっていう確信はあったんです。

 {二}も通りそうな牌で、普通は切ってもいい牌だったし、切ろうって最初は考えたんです。

 でも、よくわかんないんすけど………理性は{二}を切れっていうのに、体と直感がどうしても{二}を切らせてくれなかったんです。

 今まで頭で考えてこの牌は通らないなってわかることはあったんですけど、こんな風に体そのものが切らせてくれないのは初めてで………。

 それで、ああやっぱりこの{二}は切れないなって思ったんです。切ったら絶対振り込むって。

 じゃあ何を切るかっていうと、{1}あたりで回しても後手に回るだけだって思ったから………。

 今の自分のこの読みと直感と一緒に、行きつくところまで心中してやろうって、前に突っ込んでリーチをかけたって感じなんです」

 

 その言葉にまこは息を呑みこみ、自分の次のツモだった牌を確認する。

 そこにあったのは{三}。自分の最高の高目上がり牌だ。

 まこは今度こそ言葉を失った。

 自分の読みと共に心中する。

 口にするのはたやすいし、そういう考えがあるのはわかるが、実践するのは至難の業だ。

 

 全国の決勝にまで行ったまこにはそれが分かる。

 

 麻雀に必要なものは何か? という質問があったとする。

 多分一番多く挙がる答えは、「運」だろう。

 確かに毎回天和でも上がれれば、それで確実に勝てる。

 

 だがそれはあまりにも非現実的だ。

 神でもない人間は、配られた配牌と持ってくる牌で戦うしかない。

 

 全国を経たまこは、おそらく麻雀に必要なものは3つあるのだと考えた。

 

 まず3番目に大事なのが「運」。

 これは何も先ほど言ったような非現実的なほどの運ではなく、人並みの、絶対に毎回5シャンテンから始めるとか言ったようなことが起きない、どんな相手とも同じ土俵で戦える程度の平運があればいいということだ。

 

 2番目が「読み」。

 これも当然必要だ。

 基本的な筋読みは当たり前として、風越の福路美穂子のような相手の手牌をすべて読み切りかねないほどの決定的な読み。

 これがあれば、麻雀で負けることは劇的に減るだろう。

 

 そして1番、最も大切なもの。

 それが「自分の読みを信じる勇気」。

 

 いくら超人的な読みを持っていても、その100%当たる読みを自分で信じられなければ意味がない。

 弱気に流れ、確率という分かりやすい万人が信じる指標があれば、ついついそちらへ逃げてしまいたくなることが、麻雀には多々ある。

 本当は正しいのに、自分でも荒唐無稽に見えてしまって………結果、自分の読みを信じずに楽へと逃げてしまう。

 それで結果勝利を逃すようなことがあれば、もうそれは悔やんでも悔やみきれない。

 そんな事態を避けるために、自分で「これだ!」と読んだなら、その自分の読みを信じぬく心の強さが、麻雀には必要なのだ。

 

 それを、京太郎は持ち始めている。

 本人に自覚はないかもしれない。

 負けが常だった京太郎にとって、今回は単に運が良かっただけと思うかもしれない。

 勇気を出したら、運よく当たったあてずっぽうのように本人は感じているかもしれない。

 だが、違う。

 今京太郎は、この卓を囲んでいる面子の中で、麻雀に一番大事な資質を、最も強く持っている人間だ。

 

 じんわり、とまこの胸の中に温かいものが流れる。

 京太郎が才能の片鱗を、自分たちに見せつけてくれたことが、とてもうれしい。

 ずっとひどい目に遭っていた、辛い目に遭わせてしまった後輩が、自分を打ちのめしてくれたことが嬉しい。

 そりゃあ京太郎以外の3人は全然本気ではない。

 が、それでももう京太郎は自分たちのサンドバッグでも何でもない。

 牙を以って、隙あらば自分たちを打ち倒さんとする一人の雀士だ。

 

「ほれ、優希。

 点棒くれよ。16000点よかましだろ?」

「う、う~ん。何か釈然としないじぇ」

 

 命拾いしたのには違いないが、それでも7700もかなり痛い出費だ。

 これが3900程度ならと呟きながら、優希が点棒を取り出すが………。

 

「あー……すまん、ふたりとも」

「はい?」

 

 点棒をもらう直前、染谷先輩が申し訳なさそうに頭を掻いた。

 

「最初に言っておかなかったのが悪いんじゃが………うち、雀荘じゃからその………大会ルールと違って、ダブロンありなんじゃ」

「へ?」

「つまり………」

 

 染谷先輩が一瞬視線を飛ばして、点数を計算する。

 

「16000と7700……うちの雀荘では8000じゃな。

 じゃから24000点の直取りで………優希がトビ終了じゃ。京太郎、おんしは3位でおしまい」 

 

 俺と優希の悲鳴が、店に響き渡った。

 それを後ろで見ていた赤木さんは、馬鹿笑いしながら腹を抱えてうずくまっていた。




お久しぶりです。
就活終わったよ。
内定出たとは言ってないがな!
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