修論とか就活とかの合間に、このあまりにも原作たちから乖離した
ストーリーどうにかできないか四苦八苦したんですけど駄目でした。
色んな人から突っ込まれそうなここからの展開。
好きな人は好きかもしれないから見て行ってね。
「くっ……!」 打{3}
「カン――――」
「し、しまっ――――」
「カン、カン、カン! ツモ、緑一色・四槓子!」
{ 8 8} {横3333 裏22裏 裏44裏}
「ぐああああああああああああ!!!」
({⑤,⑦,⑨}は全部切ってる! こいつなら………!)
「リーチ!」 打{⑧}
「御無礼、黒一色・四暗刻単騎です」
{⑧} {⑧②②②④④④東東東南南南}
「うあああああああああああ!!!?」
「だ、ダブルリーチ!」 打{中}
「ロン、人和・紅一点!」
{中} {中中22244466888}
「うぎゃああああああああああ!!?」
40分後
「つ、ツモ………役牌のみ、で……す……」
「煤けるどころか、全身黒焦げ………だが戦い抜いたか………」
「ふふ。今度また打ちましょう、失礼」
「いい闘志だったぜ。実力がついたら、また来な」
「は、はひ………」
俺と半荘を打ってくれたお兄さんたち3人が店から出ていく。
俺はというと、返事をする気力があることに感謝するほどだった。それだけぼっこぼこにされた。
「おう、終わったか」
「あ、あかぎ、しゃ…………」
「なに死にそうな顔してんだ」
井川プロ特集の雑誌を読んでいた赤木さんは、卓に突っ伏した俺の頭をグシャグシャと撫でた。
やめて、ホントに脳みそ焼ききれそうなの今。
「な、何点取られてたんすかね………」
「知らん。マイナス20万越した辺りで数えるのが面倒になった」
お兄さんたちの点棒箱には、真っ黒な箱下用点棒が山盛りになっている。
途中から店にあるのを全部持ってきても足りなかったので、赤木さんに後ろで数えてもらっていたのだ。
「だーから無茶だって言ったろ? 俺でも死ぬほど苦労するぞあの卓………」
「や、やっぱりやめときゃよかった…………」
赤木さんとの修行のラスト2日。俺はこの間のお兄さんたちに、無謀にも箱下アリのルールで挑み、今こうして死にかけている。
あがれたのは最後の役牌のみだったが、途中で投げ出さなかった自分を今だけは褒めてあげたい。
にしても何なのあの人たち。途中から見せつけてくるかのようにローカル役バンバン出してくるし。別にローカル役はいいんだけど、普通の役満とも可能な限り重複させてくるし。
「にしても意外だな。お前は相当気持ちの浮き沈みが激しい奴だと思っていたが、まさかあの連中に真っ向から挑むほどやる気に満ちるとは」
「じ、自分でも無謀だとは思いますけど…………でも、やってみたかったんです」
昨日、roof-topから皆を家まで送ってから帰路に着いた時、矢木のことを思い出していた。
あんな奴に負けたくない。きっと俺は県予選の時、イカサマを使っていない矢木にすら負けていた。
それだけあの時の俺は弱く、同じ卓を囲んでいた連中は強かった。
いつまでもあの場所に留まっていたくない。いつだったか咲に言ったように、俺だって清澄高校の選手だと胸を張れるようになりたい。
かといって、いささか無謀が過ぎたとは思うが、これでどんな相手にも物怖じしない度胸はつけられたと思いたい。
「少し休んだら、普通の相手ともやっておけ。感覚が狂ったままじゃ悪影響だ」
「はーい…………」
最高球速が100キロくらいなのに、メジャーの試合で9回まで投げさせられた野球少年の気分になりながら、俺はゆっくりと休んだ。
なぜか周囲にはギャラリーが出来ており、半荘打ち切った俺に拍手してくれて、店のつまみやドリンクを奢ってくれるおじさん達がいた。世界って優しいね。
「ふぅ………ん?」
店のほとんどの客が俺の周りに集まってる中、一番奥の、それこそ雀卓を無理矢理置いたようなスペースに見覚えのある顔があった。
(矢木に竜崎、黒崎…………?)
俺とあいつらのどちらが先に店にいたのかは定かではない。俺はお兄さんたちの猛攻をしのぐので精いっぱいだったし、途中であいつらが近くを通っていても気づかなかっただろう。
それはさておき、その卓の空気は妙だった。
同じ卓を囲んでいる4人目、眼鏡をかけた大学生くらいのお兄さんが、ここから見て分かるくらいに狼狽しているのだ。
手も心なしか震えているし、異様に汗をかいている。
黒崎が指を4本立てて、そのお兄さんの前でひらひらと手を振る。
するとお兄さんは、目に見えて全身を震わせた。
『一番ヒョロそうに見えるのはあいつじゃがの、一番やばいうわさがあるのはあいつじゃ……。ガキのくせに金貸しまがいのことをして、払えなくなった奴の指を切り落としたらしい……』
(おいおい、まさか………)
黒崎と指というキーワードで、染谷先輩の言葉を思い出す。
嫌な予感がした俺は、急いでその卓の様子を見に行った。
「おっ! きたきたリーチ!」
「ううっ………!」
下家の矢木がリーチをかけ、お兄さんがうめく。
学生さん手牌
{②一一一三三四四五七西西西} ツモ:{七}
矢木 捨て牌
{四④北南6赤⑤9南一六横⑧}
聴牌。
(でも、この捨て方は………)
どれが手出しかツモ切りかわからない以上、憶測になるが俺は{②}は切りたくないと感じた。
しかし赤5pが捨てられていることにとらわれ過ぎたお兄さんは、{②}に手をかけてしまう。
({一と西}あたりを切って逃げつつ七対子…………て、おい!)
「リーチ!」
「ロン!」
矢木が笑みを浮かべて手牌を倒す。
「リーチ・一発・七対子・赤1。んで、裏2.跳満だな」
「ううっ…………」
やはり七対子だった。
(最初の2順で、タンヤオの線は消える。それ以前に、{北}と{南}を捨てるのと{四④}を捨てる順番が普通は逆だ。
チャンタから純チャンに切り替えるためっていう可能性もあるけど、それも最後から3巡目の{一}切りでなくなる。
{四}を切っておいて、その後{一}を切るっていうのはチャンタに進む時に {一一二三四} の並びから、{一二三}の順子にする時くらいのものだ。でも、お兄さんの手牌に{一}の暗刻があるからそれもない。
それに中盤でやけにスジを増やしそうな牌を捨てまくってる。多分、456の数字を多めに捨てておいて、最後にスジで出してきた牌を捕まえる気だったんだ)
少し冷静になればわかりそうな露骨な捨て牌。
だが焦っているお兄さんにはそれすら気づけない。典型的な悪循環の流れ。
「あっはっは、早めに指とお別れしておいた方がいいんじゃないかー?」
「ぃ………あ………」
お兄さんが右手を抑えてがたがたと震え出す。
指を切り落とすという噂は本当だったのだ。
(マジかよっ…………)
その様子を見ても、俺は半ば信じられなかった。
なぜ、自他問わず人の指を切り落とすなんて言う発想が生まれてくるのか。
なぜ、それをそんな嬉しそうに、楽しみに出来るのか。
「おい、待てよ……!」
「あ?」
気付いた時には、俺は矢木の目の前に躍り出ていた。
今更怖気づきそうになってしまうが、やっぱり何でもないなどとは言えない。
「指を切るって、お前ら本気でそんなこと…………」
「あ? てめぇにゃ関係ねーだろ。つーかてめぇよぉ………」
俺の顔を見て、矢木たちが怒りの表情を浮かべ立ち上がる。
当たり前だ。つい昨日、目つぶしをかましてやった相手なのだから。
ふと矢木の視線が、さっきまで俺のついていた卓に向けられる。
「ぶっは! なんじゃありゃ? 箱下どんだけ取られてんだよ?」
「さぁな。…………最低でも20万だってよ」
「にじゅーまっ、ぎゃはははははは!」
俺の言った数字に、矢木たちが腹を抱えて大笑いする。
オメーらだって同じ条件なら間違いなく同じくらいの数字になるっつの。
「あー………腹痛ぇー……。つかあれだろ? 昨日帰った後に気付いたが、てめぇ清澄の麻雀部か? 一緒に居た連中がそうだったはずだけどよ」
「それがどうした?」
「あのチビどもみてーに、てめぇはサマ使えねぇわけか?」
「え?」
サマ? 一瞬何の事だかわからなかった。
「サマって………イカサマって意味か?」
「たりめーだろ」
「咲たちがイカサマって、どういう意味だよ?」
そりゃあ前に和に訊いた話で、入部したばかりの咲は小手返しでツモ牌をごまかしたりしていたらしい。
でも、イカサマなんてしたことはないはずだ。少なくとも、きちんと麻雀をやると決めた頃からは。
「おいおい、お前それ本気で言ってんのか? 公式戦何見てたんだ?
あんな連発して、嶺上ツモるわけねーだろ!」
「!」
「嶺上の出る確率知ってるか? 1%ねーんだぞ? んなもん連発できるとしたら、サマ以外ありえねーだろ!」
「っ……!」
「それにもう一匹のクソチビも怪しいもんだ。東場だけ異様に毎回配牌が良すぎる。
南場で失速すんのも、ひょっとしたら東場でのサマをごまかすためなんじゃねぇのか? 帳尻合わせによ」
「黙れ!」
気が付いた時には、俺は矢木の胸ぐらを掴んで持ち上げていた。
矢木は自分より背の高い相手に憤怒の形相で迫られて一瞬怯えるが、すぐにとって付けたような嘲りの表情を浮かべる。
「それ以上あいつらを侮辱してみろ…………!
そこの人の指を切り落とす前に、俺がお前らを一生麻雀の出来ない体にしてやる!」
「おいおい、図星だからってんな怒んなよ。サマ野郎」
「てめぇ………!」
安い挑発だと分かっているのに、どうしてもそれを無視できない。
「実際当たらずとも遠からずだろ?
他の部員のレベルをみりゃ分かるってもんだ。ここまで雑魚って言葉がぴったりな奴も珍しいぜお前?
サマしか能のねぇ卑怯者どもはすっこんでろよ!」
「っ!」
バキッ!
「がっ!?」
矢木を殴ろうとして腕を上げたのと同時に、何かで思い切り頭を殴りつけられ、隣の雀卓に突っ込む。
牌を床中にまき散らしながら痛む頭を押さえて立ち上がると、竜崎が椅子を両手で振り抜いた体勢でいた。
周りの客が慌てて俺たちの側から逃げ出す。
「痛ぅ………!」
側頭部から、ぬめ付いた血液が流れる。頭を切ったらしい。
「はっ、言葉につまれば逆切れか? いいぜ、やってやろうじゃねぇか」
叩きつけられた鼻頭を抑えながら、矢木が臨戦態勢をとる。
他の二人も同じだ。
「オラァ!」
突っ込んできた矢木の拳を腕で受け止める。
伸ばされた腕を掴んでねじあげようとする間もなく、すぐに竜崎がまた椅子を思い切り振ってくる。
「うわっ………!」
慌てて腕で頭部を守るが、何度も執拗にガードの上から椅子を叩きつけられる。
極めつけに、脇から黒崎の蹴りがわき腹にめり込む。
もう一度派手に吹き飛び、雀卓がもう一台倒れる。
「げほっ………」
椅子を振り抜くのもそうだが、こいつらは一切容赦がない。
俺だって、誰かを殴りつける時はおっかなびっくりなんだ。だけどこいつらは、他人を傷つけることに一切の躊躇がない。
「いくら泣き喚いても終わんねーぜ?
『ごめんなさい、僕たちはイカサマをして勝ってきました』って、部員のお前が週刊誌辺りに言うなら考えてやっけどな」
「…………!」
「そっちの伝手はいくらでもあんでな。きっといい記事になるぜぇ?
現役の部員が、自分たちの功績を全部イカサマによるものだったって告発したらよぉ?」
「そんなことっ…………!」
もしそんなことになったら、冗談では済まない。
赤の他人が周りで囃し立てるのならともかく、身内が自分たちはイカサマをしたと宣言したら、どんな取り返しのつかないことになるかわからない。
公式戦の映像があれば、咲たちがイカサマをしていないのは明白だ。でも、間違いなくひと悶着は起こる。
少なくとも、咲たちが今まで通りに麻雀を打つことは難しくなる。
麻雀部が出場を辞退する羽目になったり、部長はプロへの内定を取り消されるかもしれない。
現にインハイ本選でイカサマのバレた矢木は、無期限の公式戦出場資格剝奪処分を受けている。
「おらっ!」
「ぉげっ!?」
もしそんなことになったらという恐ろしい未来について気を取られ過ぎ、矢木の蹴りを防げない。
わき腹に爪先がもう一度めり込んだ痛みに悶絶する。
「~~~~~~っ!」
「ほらほら、どうしたぁ!? なんか言ってみろよ、イカサマ野郎!」
「だ、れが、イカサマだ………! てめぇが、その最たるもんだろうが………」
矢木は舌打ちを一つすると、もう一度拳を振り上げた。
がしっ
「え?」
その拳が、横から伸びて来た腕につかまれる。そしてそのまま
バキッ!
「ぐほっ!?」
「矢木ぃ!?」
矢木の腕をつかんだ赤木さんが、その拳を矢木の顔面に叩き込む。
矢木が俺に負けず劣らず、卓を散らして派手に吹っ飛んだ。
「ほれ、京太郎。立てるか?」
「は、はい…………」
「て、てめぇ! 俺が誰だかわかってんのか!?」
「知るか、そんなもん」
左手に持っていた煙草をふかしながら、赤木さんが心底どうでもよさそうに答える。
「だったら教えてやる! 俺ん家は爺さんの代からこの竜崎の親父が組長を務めるヤクザの代打ちでな、要するに俺に手を出せば、稼ぎ手を潰されたヤクザのおっさん達が痛い目に遭わせるってこった!
おっと、そこで警察呼ぼうとしてる奴! 下手な真似はすんなよ? でなきゃグラサン付けたおっさんが毎月みかじめ料をせびりに来ることになるぜ!」
「ひっ………」
電話に手が伸びていた店員さんを、目ざとく矢木が見つけて脅す。
しかし一方で、赤木さんは口元を歪めるだけだ。
「ヤクザが俺を痛い目にねぇ…………」
やっぱりこの人筋モンだよ。カタギじゃないよ。
ほら、あんまりビビんな過ぎて矢木たちも戸惑ってるもん。
「……まあいい。この店は後回しだ。先に昨日てめぇらのいた店からだな」
「なっ!?」
roof-topをヤクザを使って潰す。この男はそう言っているのだ。
「まてっ! 染谷先輩は、あの店の人は関係ないだろ!?」
「は、知るかそんなもん。イカサマ使うような奴の店は、潰れて当然だよなぁ!?」
「っ………!」
「いいぜ別に? 代わりにお前がイカサマを認めて、マスコミにそう言うなら止めてやるよ。んなことになれば、どっちにしろ店は潰れるかもしれねぇけどな」
「……………ふざけるな」
「あ?」
「ふざけるな! 自分の弱さ、力の無さを! 実力のある人達を自分達のところまで引きずり落とすことでしか目を逸らせないクズが! あいつらを、誰よりも麻雀が好きで、まっすぐに頑張ってきた人達を馬鹿にするんじゃねぇよ!」
店中を震わせる俺の叫びに、矢木たちが一瞬面食らう。
だがこいつらは、他人を傷つけることを厭わないクズたちはこんなことでは変わらないだろう。
だから、俺も覚悟を決める。
「おい、人を雑魚だのイカサマだの謗るなら、当然お前らは強いんだろうな?」
「ああ?」
「今から俺と半荘5回の勝負をしろ。お前たち3人と、俺1人だ。そして………」
俺は震える手を、胸の前まで持ち上げる。
「俺が1位になれなかったら、その回数につき2本、俺の指を切り落としていい」
「なっ……」
「あいつらがイカサマをやっていたなんて嘘は、口が裂けても言わない。あいつらの麻雀打ちとしての未来は、誰にも傷つけさせない。
だから………代わりに、俺の麻雀打ちとしての未来を賭ける。仮に負けても、あいつらの将来を守れるなら1人辺りに指2本くらい、安いもんだ」
みんなは俺とは違う。皆才能に溢れ、輝かしい未来を持っている。
大事な皆の未来を守るためなら、命だって賭けていい。
「もし俺が5回連続で勝ったら、二度と俺たちの前に現れるな! 咲たちを侮辱したことも、染谷先輩の店で好き勝手したことも、全部土下座して謝ってもらう!
それとも怖いか? 麻雀初めてまだ10カ月も満たない奴に、春にはボコボコにしたやつに、3対1の勝負で5連続負けるのが? インハイ本番でイカサマがばれた以上に恥ずかしいエピソード作るのが、そんなに怖いか!?」
「んだと………!」
俺の挑発を受けて、矢木がいきり立つ。
「はっ………言ったな! もう取り消せねーぜ!? ………おい黒崎」
「何だ?」
矢木が黒崎に何かを耳打ちすると、黒崎は笑みを浮かべて二言三言返した。
それを受けて、矢木は俺に向き直った。
「いいぜ………その勝負、受けてやる」
「…………! わかった。じゃあ、ここで今すぐ………」
「いや、場所は変える。ここじゃ色々と都合が悪いんでな。おい、竜崎。足を呼べ」
「ああ」
竜崎がスマホを取り出し、車を寄こすように命令口調で話す。きっと、ヤクザの下っ端でも読んだのだろう。
「10分以内には車が来る。それで、俺たちの指定する雀荘で売ってもらう。心配すんな、別にうちの組の事務所に連れ込もうってわけじゃない。少し離れちゃいるが、一般の雀荘だ。ここより俺たちの顔が利くがな」
「……わかった。それでいい」
俺は打っていた席に戻り、荷物をまとめ始めた。
頭を切ったことを心配して、店員さん達が慌てて救急箱を持ってきてくれる。
俺は雀卓を倒したりしてしまったことに頭を下げて、手当てを受けた。
「京太郎」
「赤木さん…………すみません、勝手なことして……」
「何で俺に謝んだよ? お前が今謝らなきゃいけねえ相手なんざ、どこにもいねぇだろ。
にしても参ったな。命を懸けた勝負までは、流石に教えるつもりもなかったんだが……」
赤木さんが頭を掻き、どうしたものかとため息をつく。
「………京太郎。まっすぐに行け」
「え?」
「まっすぐ、ひたすらにまっすぐ無謀と勇敢、暴打と攻撃的の分水嶺を攻め続けろ。
あの手の打ち手は、そう大した事はない。所詮、人を騙し嵌めることしか考えてねぇ。そんな痩せた考えに基づいた麻雀、勢いに乗った相手を止めるのは容易くねぇ」
「まっすぐ………」
「ああ。一度強い心で勢いに乗りさえすれば、お前に分がある。迷うな」
「わかりました………」
「おい、車が来たぜ」
竜崎が顎で指した店の外には、黒塗りの車が止まっていた。
「赤木さん。俺一人でいいです」
「………いいのか?」
「ええ、赤木さんを巻き込むわけにはいきません。………下手すると、ヤクザ相手じゃ何があってもおかしくない」
「それはお前にも言えるだろう」
「かもしれないけど………大丈夫ですって。見ての通り、ガタイはいいですし、思い切り暴れれば逃げるくらいできますよ!」
俺はポージングの恰好をとって、明るく振舞う。
嘘だ。実は滅茶苦茶怖い。そもそも相手が本当に麻雀の勝負を受けたのかも定かではないのだ。
「じゃあ………行ってきます」
赤木さんと別れ、先に矢木たちの乗っていた車に乗り込む。
幸いなことに、乗った瞬間袋叩きにされるということはなかった。車はそのまま発進し、俺の知らぬ場所へと赴く。
「さて………どうしたもんかね」
車が止まったのは、 雀荘を出て15分程度の場所のビルの前だった。
建物の表面はところどころひび割れていて、非常階段と思しき外付けの階段の一ヶ所に、さび付いた雀荘の看板があった。
「4階だ。ついてこい」
矢木が車から降りて伸びをすると、俺の方を見ずにそう言って来た。
俺は無言でその後をついていく。
車を運転していたヤクザはそのまま車の中に残り、階段を上るのは俺達4人だけだ。
ギイィ………と、顔をしかめてしまうような耳障りな音を立てて、雀荘の扉が開かれる。
そこは暗いオレンジの蛍光灯に照らされた、昭和の戦後の映画に出そうな雀荘だった。
客はいないが、日本酒の便が並んだカウンター席には、頭の禿げかけた店主が競馬新聞を広げていた。
「おい親父、邪魔するぜ」
「あん……まだ店は開いていな…? りゅ、竜崎の坊ちゃん!? こ、こりゃどうも……!」
竜崎が声をかけると、店主は仰天して姿勢を正した。
「前に黒崎宛に来た荷物、今持ってこれるか?」
「は、はい! 持ってきます!」
店主が店の奥に入り、ドタドタとせわしなく荷物をひっくり返す音が聞こえる。
このあたりから、俺は嫌な予感が強くなるのが分かった。どうせ、ロクなものは来ない。
1分とせずに、息を切らした店主が段ボール箱を抱えて来た。
カウンター席に取り出されたその中身を見て、俺は眉をひそめた。
(裁断機………? …………!)
ぐら、と視界が揺れる。
最初それを見た時は、職員室とかにある大量の紙束を切るための裁断機かと思った。
しかし、その刃が行き着く先にあったものを見て驚愕する。
手形と、指を通す穴。そしてその穴を出たすぐのところに、丁度刃が降りるようになっている。
直感的に理解した。これは、指を切り落とすための裁断機だ。
「うちの伯父さんの伝手でなぁ。帝愛グループじゃ、これで借金を踏み倒す奴の指を切り落とすらしいぜ?
前にグループ会長に1億賭けて挑んで負けた奴の指4本切り落としたって話だ」
デカい鼻をひくひくと興奮気味に動かしながら、黒崎が何回か試しにガシャガシャと裁断機の刃を下ろす。
(ああ………)
現実感の無さゆえに一周回って、他人事のように感じられたのはかえって幸いだった。
俺はこれから、半荘1回負けるごとにあれで指を2本切り落とされるのだ。
「丁度良かったぜぇ~。これ、1度使ってみたかったんだよぉ~~」
「なら、残念なまま終わらせてやるよ」
「は?」
「お前らなんかに、俺は負けない」
胸を張って言い切る。虚勢だってかまわない。でも、勢いを少しでも殺したら一瞬で負ける。
その確信があった。
「お~言うなぁ? そんじゃもう後戻りできねぇぜ。座りな」
矢木がへらへらと笑いながら、爪先で雀卓の一つをつつく。
俺は言われた通り席に着いた。
対局開始だ。
最近麻雀から離れていたけどまたアプリでちょこちょこ遊び始めました。
素っ頓狂な捨て牌読みとかすると思うけど、全部我流だから許して。何でもはしません。
(牌画像どこかミスしてると思うけどそのうち直します。
それとどなたか牌画像を上下逆さまに描写する方法知っている方いたら教えてください。90度しか回転できないんよ)