卒業式も卒業旅行もコロナで潰れましたけどね。
一次創作の小説ばっかり書いていてこっちがおざなりでしたすいません。
※多分どこかしら牌画像の扱い間違えている部分有りますけど、
見つけ次第直すので放っておいてください。
東1局 0本場 ドラ{四}
親 矢木 25000
南家 竜崎 25000
西家 京太郎 25000
北家 黒崎 25000
京太郎 配牌
{二二三四467⑤赤⑤⑥⑧北發}
(悪くない。タンピンドラ2で満貫まで素直に行けそうだ。字牌が頭になったらリーチするかは相談だな)
とりあえず不運の大波が押し寄せていないことに安堵しつつ、第1ツモ。
ツモ:{東}
(……………)
数秒考え、そのままツモ切りする。
幸い鳴かれはしなかったものの、第一打からの役牌切り。和がいたら叱られそうだ。
だがこれは、まともな麻雀じゃない。1対3の、元より不利な戦いだ。
鳴かれた不味いから、せめてだれか出すまで待っていよう。重なるのを待とう。なんて遅延行為は命取り。
多少のリスクは目を瞑り、とにかく全力で前へ進み続けるしかない。”もしかしたら”の淡い希望には目もくれない。
矢木たちは俺の無警戒な打牌を見て薄ら笑いを浮かべる。
ああいいさ。今のうちに笑っておけ。その間に俺は前へ進む。
2巡目ツモ:{北}
(ほらな?)
オーソドックスに北から切っていたら、裏目を引いていた。
そんなの結果論です、なんて頭の中の和が突っ込みを入れてくるが、今はそれがありがたい。
和だけじゃない。心の中のみんなが、指を賭けたこの狂った麻雀でいつも通りに打てる一助となってくれる。
麻雀部をやめようと思っていた時は、必死に引き留めてきて鬱陶しかった俺の中のみんなが、今はとても頼もしい。
流れは確実に、今俺の味方だ。 打 {發}。
「ポン!」
上家の竜崎が喜々として2枚の牌を倒す。
役牌が鳴けたのがそんなにうれしいか。その代り、俺のツモ番を増やしているとも気づかずに。
3巡目ツモ:{5}
手牌に入れて、打{⑧}。これで俺の手牌は
{二二三四4567⑤赤⑤⑥北北} の2シャンテン。
他の奴らはまだまだ一九字牌の整理。
(大丈夫だ。行ける!)
自分の好調を悟られないよう平静を装いながら、俺はツモ山に手を伸ばした。
「よしよし来たわ。リーチ!」
「あ、それカンです。あ、もう一個カン。あ、嶺上自模りました。8000点」
「やめてよそれ!?」
親跳ねを張った久が悲痛な叫びをあげる。
咲がいるだけで、生牌を下手には切れなくなる。
2シャンテン辺りが実質聴牌に変貌するのだから溜まったものではない。
「じゃあ私の親ですね。カン。カン! あ、自模りました! 6000オール!」
「部長。これなんて言うゲームでしたっけ?」
「奇遇ね和。私も聞きたかったところよ」
「もう天和でいいんじゃないかのぅ」
点棒を払う3人が、げっそりとした表情を浮かべる。
子3人に1度もツモが回ってこないで親が上がるかつ天和ではない。普通に天和するより確率が低いのではなかろうか。
「そもそも嶺上開花出来る確率って何パーセントだっけ?」
「えっと、確か前に統計データを見たと思うんですけど………」
「ちょっと調べてくるじぇ」
卓に入っていない優希が、部室のパソコンで『嶺上開花 確率』と検索する。
「2.8%だじぇ」
「普通に二局連続で出るだけで、0.09%ないんだけど」
「ぐ、偶然ですよきっと」
「9局やって4局が嶺上開花なんじゃがのう………」
「0.028の4乗の確率ね……」
「………ん? あはは! これすごいじぇ!」
「?」
「嶺上開花の他の検索候補見てたら、咲ちゃんの名前が出てきたじぇ!」
「ええ?」
卓を囲んでいる4人が立ち上がり、画面の前に集まる。
そこには確かに、咲のインターハイでの和了シーンを中心としたネット掲示板などの書き込みが映っていた。
「はぁー、とうとう代名詞染みて来たわね」
「『王の牌を制すもの』、『牌に愛された子』、『狂い咲く才媛』………もはや遊ばれてますね」
「のどちゃんも『デジタルの天使』とか呼ばれてるじぇ」
「何よこの私の『悪待ち女、略して悪女』って書き込み!?」
「『キンクリ』ってなんじゃこりゃ?」
対局中であることも忘れ、わいのわいのとはしゃぐ女子達。
夏以降インタビューはそれなりに受けてきたが、記事以外のこうしたネット上の非公式のものは初めて見た。
「他になにか………じぇ?」
別のページに跳んだ優希の手が止まる。
そこには咲の写真と共に、中傷の内容が書かれていた。
『宮永咲、イカサマをしているのは明らか?』
『不正工作疑惑上がる』
『嶺上開花、計算してみた』
咲の嶺上開花の頻度が確率的にありえないことを根拠に、咲がイカサマをしているのだという主張が掲示板一杯に書き込まれていた。
凄いものになると、データを全部集めて『イカサマであることに有意性が確認された』とする書き込みまであった。
「………………」
「さ、咲さん?」
「き、気にすることはないじぇ! こんなのは所詮、ザコ共の遠吠えだじぇ! あはは………」
黙り込んでしまった咲を慰めようと、残りの4人が慌てる。
「さ、もう休憩はおしまい! 南3局から再開………」
コンコン
「あら? はーい、どうぞ」
久がノックされた部室のドアを向き、入るように返事をする。
「失礼………」
「あら? 赤木さん?」
部室にやって来た赤木の姿を見て、久が首をかしげる。
来るのは別に構わないのだが、京太郎が一緒のはずが見当たらない。
「赤木さん? 京ちゃんと一緒じゃなかったんですか?」
「ああ、そのことでな」
赤木は胸ポケットから煙草を取り出し加えながら答えた。
「赤木さん。校内は禁煙じゃぞ」
「そうだったな………(´・ω・`)」
ライターを取り出したところでストップをかけられ、残念そうな表情を浮かべる。
「昨日、お前さんの実家の雀荘で会ったチンピラどもがいただろう?」
「うん? 矢木たちのことかの?」
「ああ、あいつらと取っ組み合いの喧嘩を派手に始めやがってな」
「ええ!?」
「雀荘の中で、向こうは椅子まで持ち上げて京太郎の頭をガンガン殴ってたな」
「きょ、京ちゃんは!? 京ちゃん、怪我はしてないよね!?」
赤木の目の前まで詰め寄って、涙目で見上げながら咲が問い詰める。
「いや、だから頭を椅子で殴られたんだって。結構血も出てたな。そのまま倒れたところを蹴られて………」
ふら………と咲の身体が力を失い後ろへ傾いた。
「さ、咲さん!」
慌てて和が支え、ゆっくりと息をつかせた。
「何でもあのチンピラどもが、お前さんたちのことをイカサマだと何だの馬鹿にしたらしくってな。しかもヤクザを使ってお前さんちの雀荘をぶっ壊すだのなんだの………まったく最近のガキは物騒だなぁ」
赤木が自分の少年期を知っている人間がいたら、口をそろえてお前が言うなと言われそうなセリフをさらりと口にする。
「そ、それで須賀君はどうしたんですか!?」
「まぁ京太郎が殴ったらそれこそ暴力沙汰だからよ、必死に押しとどめてたな。
向こうは部員である京太郎に、お前さんたちはイカサマですって言わせたかったらしいが死んでも断るつってな。代わりに自分の麻雀打ちとしての将来を賭けやがった。場所を変えて、奴らと半荘5回の勝負だとよ」
笑みを隠そうともせず、赤木は狂ったギャンブルの内容を喜々として語る。
「え?」
「半荘1回1位になれないごとに、指2本切り落とせとよ。お前さんたちの麻雀打ちとしての将来の為に、一人辺り指2本差し出しやがった」
「え…………?」
半荘で1位になれなかったら、指を切り落とす。
そんな狂気の沙汰に京太郎が及んだと聞いて、部員全員が血の気を失う。
「す、須賀君は、須賀君はどこですか!?」
「すぐに、警察に………!」
「おいおい、あいつはお前らの為に指10本全部賭けてるんだぜ? 野暮なことはしてやるな」
「それが問題なんじゃないですか! もし、もし本当に指を切られるようなことになったら! あの人たち、本当にそうしたって噂があるんですよ!?」
「だがな、もし警察沙汰になってみろ。あいつが一方的に殴られても我慢して、ついでに指を賭けてまで守ろうとしたお前さんたちの立場が危ういことになるぜ?」
「っ…………」
確かにそれはそうだ。
仮にこちらが完全な被害者であっても、警察沙汰になれば部にも少なからず被害が及ぶ。
京太郎の負わされた怪我の程度はわからないが、それでも暴力事件に関与したとなれば、体面を気にする学校の指示で出場停止処分になっても何ら不思議はない。
久のもらったプロ内定も、白紙に戻るだろう。
「…………いいわ、構わない」
「え」
「そこまでしてくれる後輩を見捨てるような真似をしたら、それはもう人間じゃあないわ。
あれだけ酷いことをした私たちを、そうまでして庇ってくれてるんだもの。助けない理由がないわ」
「自分達の業績も、全部パァにしてもか?」
部屋に飾ってあるインハイの入賞記念の賞状を、赤木が顎で指す。
「ええ………私は構わないわ。皆、私は今すぐに警察に行くけど、もし面倒ごとは避けたい人がいたら………」
「何言ってるんですか! とにかく今は、早く須賀君を保護してもらわないと!」
「赤木さん、京太郎が場所を移したというんはいつ頃の話じゃ?」
「大体2時間しないくらいだな。雀荘で一休みしてからからここまで歩いてきたもんでよ」
「2時間………移動に30分かかったとしても、もう半荘3回目に入り始めていてもおかしくない時間じゃ」
「その……ゆ、指の件が半荘1回ごとか、終わった時に最後まとめてかわからないですけど、あと半荘3回分……2時間かからないくらいですか」
「赤木さん、京太郎の行き先に心当たりは?」
「あるっちゃあるが………電話貸してくれるか?」
「え? あ、えっと………はい」
久が数秒迷ったが、今は火急の事態なのでおとなしく赤木に渡した。
「その手の情報に詳しい知り合いに訊いてみよう。
竜崎の孫ってことは、親は川田組………確か石川さんが、まだ相談役としていたっけな………」
何やら呟きながら、廊下に出てどこぞへと電話を掛ける。
そしてそのまま数分すると、部室に戻ってきた。
「竜崎の組は、東京の川田組ってとこの傘下だ。その川田組に知り合いがいるんで、今調べてもらっている。折り返しですぐに電話が来るはずだ」
「は、はい…………」
久が1件増えた発信履歴の番号を眺めながら、曖昧にうなずく。
他人に携帯を貸したら、ヤクザの組の電話番号が履歴に追加されて返されたのだ。中々経験できることではない。
「念のため確認しておくが、本当にいいんだな? この件のせいで、お前たちはもう大会に出れねぇかもしれんぞ。特に部長さん、あんたはプロの話もおじゃんかもな」
「ええ、構わないわ。今後の須賀君の大会参加が難しくなってしまうのは、とても申し訳ないけど………でも、彼は私たちの仲間です。彼が自分の麻雀打ちとしての将来を賭けたというなら、私たちだって、このくらい当然よ」
「くくく…………揃いも揃って、羨ましくなるほどのお人よしだな………」
赤木が笑みを浮かべる。
そもそも赤木がここに来たのは、久たちを試すためだ。
京太郎が見せた覚悟に、久たちがどのような行動をとるか。本当に、久たちが京太郎があそこまでする価値のある人間なのかを。
もしここで怖気づいたり、自分たちの経歴に傷かつかないようにするのを第一とした立ち回りをしようとしたら、赤木は久たちに京太郎の行き先を探す手助けはしなかった。
本当に心の底から強くなろうとする京太郎に久たちはふさわしくないと判断し、かつての自分ほどまでではないものの、破滅を賭けた勝負を常とする無頼に育て上げようと思っていた。
(友……か)
しかし、ここまで見事に覚悟を示されては文句のつけようもない。
誰かのために必死になれるその性格を、赤木は好ましさ半分、羨ましさ半分といった具合で眺めていた。
タンッ………カチャ………タンッ…………
牌をツモる音と打牌する音が、交互に延々と続く。
卓を囲む4人と、店の主の5人のみの空間で、口を開く者はいない。
異様な雰囲気が、暗く陰鬱な店内に漂っていた。
(なんだよ………!)
タンッ………
嫌な汗が背から首筋周りに浮かぶ。
いつからか誰も口を開かなくなったこの勝負。誰もこんな展開は想像していなかった。
(なんなんだよ、これは…………!?)
手牌
{333②③④⑦⑦⑦一二三中} ツモ:{⑧} ドラ:{④}
(くっ…………!)
役無しの中単騎から、同じく役は無いものの3面張となる{⑧}引き。
ともかく、相手の捨て牌を見る。
{
南 7 ② ① 北 9
3 赤5 發 ③ 白 横二
東}
あからさまな萬子の染め手。
リーチ前の{發}と{白}は、混一色から清一色に移ったためだろう。
{中}は場に1枚出ているのみだが、清一色相手なら字牌の危険性は下がっている。
そのはずが、やけに指に吸い付いて離れない。
(くそっ、何をビビってるんだ、俺は!?)
「リーチ!」 打 {中}
(ああ…………)
河に放たれた横向きの中を見て、張りつめていた糸が緩まる。
体中に血が流れていることに、今更ながら気づいたような感覚だ。
「ロン」
京太郎は、静かに手牌を倒した。
{二二三三七七八八發發白白中 ロン:中}
「リーチ・メンホン・七対子 跳満、12000点」
「がっ………!?」
矢木は瞠目した。
京太郎の捨て牌の{發、白、二}。
これらを手牌に納めておけば、同じ{中}で上がってもそれだけで混一色・小三元・三暗刻の倍満。
上手くいけば大三元まで在り得た。
だが京太郎はそれを蹴り、あえて跳満まで手を落とした。
「点棒を」
「ちっ………!」
(なんなんだ、こいつ!?
前に会った時は完全など素人だった! それは覚えてる。
だが………逃げるのが上手いだけじゃねえ、どっからかわからねえが、盤面を支配して、結果点棒を制しているのはコイツだ…………!
なんなんだよ………これは!?)
矢木は苛立ちと焦燥を隠しきれず、歯を食いしばって京太郎を睨み付ける。
1,2回戦は別に気にしてはいなかった。
矢木たちも本気ではなかったし、なぶり殺しにしようと愉しむ目論見の方が強かったからだ。
だが、妙だと感じ始めたのは3回戦から。
そろそろ本気を出そうとした時からだった。
思うように和了れず、京太郎に常に1歩先を行かれる。
その打ち筋は時に原村和のように精錬されており、時に今のように竹井久のような常軌を逸した馬鹿げた悪待ちにも変わる。
基本的に3対1の振りを覆すために超速攻でくるが、その隙を突こうと短くなった手に対して多面待ちで待ち構えれば、盤面を注視したかと思えば和了りを放棄してまで振り込んでこない。
この場を制しているのが誰かは、一目瞭然だった。
手元へ乱暴に投げられた点棒を、自分の点棒箱にしまいながら京太郎は、今自分が恐ろしいほどの絶好調にいることを自覚していた。
恐怖は今もつかず離れず、隙あらば押し寄せようとしている。
だがそれを押し返しているのは、今の自分の状態。
体中が心地よい熱を帯びて、熱い血流が体中をドクドクとめぐっている。
そしてそれとは対照的に頭はどこまでも冷え、集中力は止まることを知らない。
『いいか京太郎。麻雀ってのは当たり前だが、人間同士がやるもんだ。そいつが人間な以上、どうしてもそこに感情が入ってくる。
牌だけじゃない、人を見ろ。そいつの表情が大きく変わった時、どこを見ていたか、どこにその嫌な牌を入れたか、それを見るだけで随分と違う』
(本当に……赤木さんの言う通りだ…………)
京太郎が、矢木が{中}を自模ったのだと知ったのは7から8巡目にかけて。
京太郎の捨て牌から京太郎の手が萬子の混一色だと読んでいた矢木は、ある牌を引いて猛烈に顔をしかめ、それを手牌の端に入れた。
迷わず端に入れたことで、それを字牌だろうとあたりをつけた京太郎は、河に出ている字牌の枚数から、それが{中か北}だと見破った。
しかし北は早々に京太郎が捨てているので、捨てるのに気にする必要はない。ならばあの牌は{中}ということになる。
相手にロン牌を掴ませることは、裏を返せば握りつぶされることでもある。
そこで京太郎は、なんとかしてこの{中}単騎になりそうな手に振り込ませるため、暗刻になっていた{發、白}を落とすことで混一色から清一色への移行を装った。
相手に振り込ませるために、翻数を下げる。
作戦を実行に移す際、京太郎の脳裏には久のことが浮かんだ。
いざ実行に移す際にはやや躊躇われたこの作戦も、当然の如く悪待ちを決める彼女のことを思い出すだけで、京太郎の心からは一切の迷いが消えた。
この場にいるのは京太郎一人。
だが心の中には、みんながいて支えてくれる。
この絶好調の流れを、来ている手をどう生かせばいいかは、ずっと憧れていた皆が嫌というほど見せてくれていた。
4回戦 南4局 {ドラ:3}
西家 矢木 7000
北家 竜崎 20800
東家 黒崎 34000
南家 京太郎 39200
4回戦も大詰め。
黒崎に3900を自模られるか、5800以上を和了られない限り京太郎の勝ち。
5800は親としては決して難しい数字ではない。
軽くて速い手が望ましい時、京太郎の手牌。
{一二二6667⑧⑧⑨南北發 ツモ:⑨ }
索子の繋がりが上手く繋がってくれればいいのだが、下手をすると辺張の処理に困り対子手になりかねない。
七対子2シャンテンでもあるが、早上がりしたいオーラスでそんなことをしている暇はない。
(頼むぜ、ここを逃げきれればあとは5回戦でおしまいなんだ………!)
汗ばむ手で{南}を切る。
「ポン!」
(ちっ!)
早速親の黒崎が{南}を鳴く。
役牌を重ねるのに期待していては時間がかかるので早々に切ったのだが、相手がすでに役牌対子であった場合裏目になる。
相手にも役牌を重ねられる前に……ということで、全員共通で役牌になる{南}から切ったのだが、まずいことによりにもよって親に鳴かれてしまった。
「チー」
(くっ………)
「ポン!」
(早っ………!)
その後も黒崎は追加で2鳴き。
早くも7巡目で聴牌気配を見せる。
捨て牌からして多分索子か、萬子の上あたり。
俺は索子は真ん中以上なら手牌に入るので構わないが、萬子の上だと手を回さ無いといけない。
歯噛みした、その時だった。
京太郎手牌
{二三四6667④⑧⑧⑧⑨⑨}
黒崎 打{⑧}
({⑧}…………?)
自分でも最初はなぜかわからなかった。
その牌を見た瞬間、今この状況がすべて解決されたような感覚に包まれた。
続いてやってくる理性がそれを否定するが、俺は絶好調の今の自分の直感を切り捨てる気にはならなかった。
文句を叫ぶ理性を無理やり従わせて総動員し、この{⑧}で局面を打開する方法を考える。
だが、思い浮かばない。
鳴ける牌ではあるけど、鳴いたところで役無しになるだけだし、聴牌にもならない。
同じ鳴けるなら{58}あたりをチーして、{⑨}の対子落としでタンヤオへ向かうくらいしか………。
{⑧}じゃポンしても、ましてやカンして――――――
(あ―――――)
カン。その一言だけで、すべてが繋がった。
脳裏に浮かぶのは、チビでポンコツな、誰よりもかっこいい俺の憧れの雀士。
「――――ポン」
俺は迷わず、{⑧}を2枚倒した。
そして、打{④}。
京太郎手牌
{二三四6667⑧⑨⑨ ポン:横⑧⑧⑧}
役無しのイーシャンテン。だが、俺には上がりまでの道がはっきり見える。
次巡、矢木も竜崎も差し込むことは出来ず、黒崎もツモ切り。
見えている範囲ではまだ{南}ドラ1の2900点なので、差し込みでは逆転に届かないのだろう。
俺からの直撃か、出来るなら自模りたい目論見が分かる。
そして無事迎えられた俺の番。
ツモは{⑨}。
「カン」
{⑨}を手牌に入れ、手牌の{⑧}を加カンする。
これで俺は{5-8,7}待ちの3面張。
京太郎手牌
{二三四6667⑨⑨⑨ 加カン:⑧横⑧⑧⑧}
「矢木、嶺上牌はお前がとってくれ。イカサマだとか、あとで言われたくないからな」
「ああ? ………ちっ」
矢木が舌打ちしながら、嶺上牌の背をつまんで俺の目の前に伏せたまま置く。
(たのむぜ………!)
汗の滲む手で持ってきたのは……………{③}。
「くそっ………!」
3面張は良い待ちとは言え、絶対的に信頼できるものというわけでもない。
事実俺は先日、7面張のツモで2回連続和了り牌を引けなかったのだから。
幸い安牌ではあるので、そのままツモ切る。
「へっ………」
清澄の一員である俺がカンをしたことで、一瞬矢木たちは強張った顔を見せてはいたものの、すぐにその焦りは消え去った。
さらに新ドラをめくると、表示牌は{東}。黒崎が最初鳴いた{南}にもろ乗りしてしまった。
ツモにこだわらずとも、差し込みで逆転可能。
(やばっ………!)
いやな汗が一気に噴き出す。
これで差し込まれたら、俺には一切の対抗手段がない。その時点で終了だ。
「へへへ………藪蛇だったな?」
「っ………」
露骨に安堵の息を漏らしながら、竜崎がツモる。
しかし、すぐその表情が苦いものに変わる。
「ち…………」
(? ひょっとして………手牌に無いのか? 黒崎の和了り牌)
軽く舌打ちした竜崎の顔を見て、僅かな安堵が俺の中にも芽生える。
だが竜崎が矢木の方を見やると、矢木は笑みを浮かべて頷いた。竜崎の手にはないだろうが、おそらく奴の手には差し込める牌があるのだろう。
竜崎が再び自分の手牌に目を落とし、俺の河と見比べる。
「んー………」
竜崎の手牌は、リーチなしで俺から5200以上を奪えるようにするためか筒子の染め手気配だ。
(頼む………!)
竜崎が持っていそうで、俺が最後の悪あがきを行える牌は、1つしかない。
それを出してくれなかった瞬間、俺の指が最低2本切り落とされることになる。
「ん………」
ややあって、竜崎が切ったのは{⑨}。
俺の{⑧}カンを見て、壁が出来た{⑨}を切ったのだろう。
「ッ………カン!」
吠えるように声を上げ、手牌の{⑨}を3枚倒す。
「はぁっ…………はぁ……!」
{⑨}が出てくれたことで、張りつめていた息を思い切り吐き出す。
暖房は幾分か効いているとは言え、12月に掻く量とは思えない大量の汗が、滝のように額や背を流れる。
しかし、本当の綱渡りはここからだ。
京太郎手牌
{二三四6667
カン:⑧横⑧⑧⑧ ⑨⑨⑨横⑨}
再び3面張の嶺上ツモ。
ここで和了り牌を引けなければ、次巡が来る前に矢木が竜崎に差し込み、俺の指がまずは2本飛ばされる。
(頼む………咲……!)
今にも折れそうになる心を、咲の姿を思い浮かべることで辛うじて奮い立たせる。
矢木が同じようにして目の前に置いた牌に、ガタガタと震えて止まない腕を伸ばす。
持ってきたその牌は…………
「へへっ…………」
「おい、どうしたよ?」
「早くしろよ。こっちゃもう少しで和了れそ――――」
「カン」
京太郎手牌
{二三四7}
カン: {裏66裏 ⑧横⑧⑧⑧ ⑨⑨⑨横⑨}
「なっ!?」
「ああぁ!?」
「んだと!?」
持ってきた牌は{6}。
命はつないだものの、3面張どころか{7}単騎。しかも場に2枚見えている地獄待ちとなった。
でも、
(…………不思議なもんだな)
さっきまでの腕の震えが、ピタリとやんだ。
状況は相変わらず厳しいのに。
三槓子が付いたから、もしかしたらここでツモれなくても、うまくいけば出和了り出来る、とか。
そんな数少ない新たに生まれたメリットすら、どこかに吹っ飛んでしまった。
今はただ、早く嶺上牌に手を伸ばしたい。
(そっか………咲、お前はいつも)
心なしか顔色の悪くなった矢木が、3枚目の嶺上牌を俺の目の前に置く。
(こんな気持ちで、麻雀を打ってたんだな………!)
{二三四7} ツモ:{7}
カン: {裏66裏 ⑧横⑧⑧⑧ ⑨⑨⑨横⑨}
「ツモ! 嶺上開花・三槓子! 責任払いで8000点!」
4回戦、終了。
もっと私に無限に近い時間と発想力と麻雀力があれば、
清澄の面々の特徴を持ったうち回しを京ちゃんにさせたかったのですが、
分かりやすい奴だけ採用しました。
物騒なご時世ですが、皆様も体調にはお気をつけください。