京太郎&赤木 クロスオーバー   作:五代健治

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社会人になってから半年がたちました。
途中で何度かコロナ感染疑惑が浮上したものの、結果として感染することなく元気です。

社会人て本当に時間ないのですね。
もう色々覚えるだけで大変な日々で、学生時代は無限の時間があったのだなと感じます。

そんな日々と、たまにこの話を思い出しては某所に投稿していた時にやりたかったけど「それやったら京ちゃん反則負けじゃね?」という疑惑がぬぐい切れずにお蔵入りになった展開をやるべきか悩む折々。

結局この後の構想とも相談して、この展開にしました。
少しは読みごたえがある内容になってくれていればいいな。


16話 前進、そして終戦

最終5回戦

南2局 0本場

西家 京太郎 12100

北家 竜崎  9600

東家 矢木  49200

南家 黒崎 23000

 

 (理想は矢木からの直撃………でも、手牌が覗かれている以上、それは難しい)

 

 待ちになっている部分を左手で隠せばいいのだが、隠せるのはせいぜい3つが限度。

 染め手の多面張なら待ちを絞り切らせないことも可能だが、そうしたら今度は染めている色の牌を捨てなければいい話だ。

 用意できるのは単純な両面待ち、もしくは単騎待ちとなるだろう。

 直撃を狙いやすいのは単騎待ちだが、今度は自分でのツモ和了りがしにくくなるというデメリットもある。

 安牌を抱えられればどうしようもないし、いざとなれば矢木以外の二人が率先して危険牌を捨てればいいのだ。

 矢木以外からの直撃では点差はなかなか埋まらず、下手にリーチをして大物手になると、残り1万点無い竜崎から出和了りした場合は飛ばしてしまいかねない。

 

 他に可能性があるとすれば、手牌に大量に暗刻を用意し、2シャンテン程度のところから矢木の捨て牌を連槓して、一気に嶺上開花の責任払いでツモを直撃に変えることも考えられるが………。

 

(いや………4回戦のオーラスは、本当に運が良かっただけだ。咲じゃあるまいし、何度もあんなこと俺にできやしない)

 

 不利と知りつつ、単騎待ちで矢木からの直撃を試みるしかなく、俺は矢木が親のこの局の手牌を開けた。

 

 京太郎 配牌 ドラ{7}

 {一一九⑧⑨111569西西}

 

(牌が端に集まった、チャンタもしくは混老頭まで狙えそうな手。

 だけど待ちは簡単に読まれてしまう手でもあるよな……。

 仮に一九字牌が3つくらい鳴けて、残り手牌4枚の時に一九字牌の暗刻と、何か単騎待ちの牌が用意できて和了れた場合は………20+12+8+2で50符。対々和 と西のみで和了っても、5200は確定か………)

 

 混老頭が絡んだ場合待ちは読まれてしまうが、符跳ねによる高得点が狙えそうなので、少しだが安心する。

  

「ポン」

 

 自分の第一ツモが来る前に、上家の黒崎が切った{一}を鳴く。

 そのまま打{5}。これまでのように、チャンタか染め手か絞り切れないような捨て牌に見せる努力もしながら、局は進んでいった。

 

 

13巡目

「ポン!」

 

 3つ目のポンをして、俺の手牌はこの形になった。

 

 {⑨111 ポン:横一一一 九横九九   明槓:西横西西西 (新ドラも7)}

 

 混老頭・対々和・西の満貫。

 {1}の暗刻はカメラで覗かれてしまっているだろうが、待ちになっている{⑨}だけは指で隠しているので、何の単騎待ちかまではわからないはずだ。

 鳴いた牌だけ見れば混一色にも見えるので、萬子は切りにくくなっている。萬子を避けて{⑨}を出してしまうこともあるだろうし、よしんば混老頭を警戒して{⑨}を押さえられたとしても、何か別の牌に待ちを変えて60符3翻の7700を取りに行けばいい。

 8000も7700も正直あまり変わらない。

 

 そんな時、対面の矢木のツモ。

 

(ん…………?)

 

 矢木はツモった牌を手牌の1番右端に入れ、右端から4番目を切り出した。

 そしてその牌は{⑧}だった。

 

(………理牌がされているとなると、あの右端の3枚は{⑨}か字牌ってことか?)

 河を見渡してみると、字牌は多めに捨てられており、俺の西が全て見えていることも考えると、矢木の手牌には最高でも字牌は対子でしかないことになる。

 

(つまり最低でも{⑨}が矢木の手に最低1枚。下手すると3枚握られていることになる………。

 暗刻だと流石に切ってくれなさそうだし、こりゃ待ち変えないといけないか?)

 

 次の俺のツモ。

 まだ生きている字牌辺りを引けることを期待しながら山から牌を持ってくる。

 

 が、引いて来た牌は中張牌だった。

 

(さすがにこれは出てこないだろ………)

 

 待ちとしても出和了りは期待できない牌だったので、そのまま切ろうとしたが………

 

(いや、まてよ?)

 

 ツモった牌を見つめ、頭を回転させる。

 

(今矢木たちは、俺の手牌を覗いてその待ちを確認しようとしている。

 そしてその待ちを伝える役は後ろの店主…………なら………)

 

 ある考えを思いつき、ツモ切ろうとしたその牌を手牌に入れ、{⑨}を切り出した。

 そしてその際牌を隠す指をずらし、ツモってきた牌の下4分の1くらいを、わざと見えるようにした。

 

 俺はそのまま何食わぬ顔で対局を続けるが、矢木はその後自分のツモの時視線を少しずらした後、隠しきれていない様子の笑みを浮かべた。

 恐らく店主からのメッセージで、俺の待ちが分かったのだろう。

 

 ツモって来た俺に対する危険牌である發をツモ切り、番を回した。

 その流れを俺は努めて無表情のまま見ていたが、心の中では試みが上手くいったかどうか気が気でなかった。

 

(それに、俺が自分でツモって来ちゃったらどうしようもないんだけどなぁ。2回も同じ手が通用するとは思えないし、この局を逃したらもう後がないし……。

 だから来るな来るな………! てっ―――)

 

 次の自分のツモ番、出来れば自分でツモらず仕掛けた罠に矢木がかかってくれないかなと期待していた時、自分のツモる牌に違和感を感じた。

 

(あれ? この牌、ひょっとして………?)

 

「おい、さっさとツモれよ」

「あ、ああ」

 

 数秒間手を止めて牌をまじまじと見つめてしまったが、竜崎にせかされてそのままツモる。

 持ってきた牌は、{赤5}だった。

 

(やっぱり………)

 

 自分の感じた違和感が正しかったことと、{赤5}が完全とは言えないが3人ともに通りそうなのを見てそのままツモ切る。

 

(さて、あとは罠が上手くいくかだな………)

 

 ポーカーフェイスもここまでくると疲れる。

 もう負けてもいいから早くこの辛い時間が終わってほしいなどという考えまで浮かんでくるが、直後にダメだろと自分で言い返す。こんな脳内のやり取りも何度目だろう。

 

 

 そしてその頃、矢木の手牌。

 

 {三四五六七22779⑨⑨⑨} ツモ:{8}

 

 {⑨}暗刻のせいで役無しなことと、ダブドラとなった{7}対子の処理に困り少し手が遅れたが、これで{7}を切れば{二}-{五}-{八}待ちの聴牌。

 そして{五}が残り9600点の竜崎の手の中に在るので、差し込ませればリーチ一発ドラ2で親満12000点でトビ終了。

 矢木のトップ終了が確定する。

 

 ダブドラの{7}を切ってのリーチは中々勇気が必要だが、京太郎の手牌を覗いた店主からのサインでは京太郎の待ちは{中}。

 恐らく混老頭・対々和・西の満貫を狙ったのだろうが、西の明槓は完全なミス。

 おかげで一番楽な、味方を飛ばしてトビ終了の手が使える。

 これまでは京太郎が尋常ではない粘りを見せて来たせいで、味方を飛ばしても2位までしか確定しないシーンが多かったが、これだけの点差があれば別だ。

 

「リーチ!」

 

 矢木は意気揚々とリーチをかけ

 

「ロン」

 

 そして振り込んだ。

 

「…………は?」

「西・対々和・ドラ4。跳満、12000点」

 

 京太郎の手牌はこう。

 

 {7111} {ポン:一一横一 横九九九 明槓:横西西西西  ロン:7}

 

 確かに点数は言う通りなのだが、その{7}は何だ。

 お前は{中}待ちの混老頭じゃなかったのか。

 

 矢木は混乱しきった状態で、倒されたその手牌を見る。

 {1}の暗刻と、京太郎から見れば『逆さに置かれている』{7}を。

 

({7}………{中}……逆さ………)

 

 その時、矢木に電流走る。

 

「あ、あああっ!? て、てめぇっ………!!!」

「ん? 何の話だ?」

 

(やられた…………!)

 

 京太郎はこれまで、理牌は牌の上下まで綺麗に揃えて打っていたが、それを逆手に取られた。

 京太郎は自分の手牌が覗かれていると知ったうえで、単騎待ちの{7}を覗いている店主へ見せたのだ。

 ただし、「逆さに置いた{7}」の、「下4分の1」を。

 

 {7}の絵柄の赤い突起。

 {7}を逆さに置いた上であの赤い縦棒の部分だけを見せれば、解像度の悪い、手の影で薄暗くしか見えないカメラには、{中}の赤い縦線と見間違えてもおかしくない。

 しかもこれまでずっと綺麗に牌を揃えていたせいで、後ろから見ている人間には牌の元々の柄しか頭には浮かんでこない。

 

 後ろから覗かれていることを逆手に取り、単純だが巧妙に{7}を{中}と勘違いさせたのだ。

 さらに言えば、これまでこの最終戦で矢木たちは当たり牌でさえなければ、それが危険牌だろうとガンガン切っていた。

 ゆえに今回、ダブドラとなった{7}も何の警戒心もなく切ってしまった。

 

(コイツっ………!!)

 

 点棒を投げつけ、息も荒く肩を上下させながら矢木は舌打ちをすると、どっかと椅子に深く腰掛けた。

 

(落ち着け……! これ以降は単騎待ちだろうと何だろうと、とにかく振り込まなきゃ勝ちだ。

 奴が親のオーラスは、通しでガンガン俺達だけで鳴きまくるとして、この南3局!

 ここさえ越せば俺の勝ちなんだ!)

 

 店主にも鋭い視線を投げ、これ以上ミスをしないよう釘を刺しておき、黒崎が親の南3局が始まった。

 

 南3局 0本場

南家 京太郎 24100

西家 竜崎  9600

北家 矢木  37200

東家 黒崎 23000

 

(さて、ここで5200以上は和了っておきたいぞ…………)

 

 京太郎 手牌 

 {三三五五六③⑥⑦289南南  ドラ:南}

 

 ドラのダブ南を揃えられれば点数的には十分だが、揃わなかった場合他の役も見当たらないので、面前でリーチまで持って行くには苦労しそうな配牌だ。

 

 第一ツモは{②}。

 塔子オーバーになりそうで嫌だなと感じながら、打{2}とした。

 

 しかしその直後、

 

「ダブリー!」

 

(んなっ!?)

 

 下家の竜崎が、いきなり牌を曲げた。

 

(このタイミングでそれかよ!?)

 

 ラス親に向けて少しでも稼いで後の展開を楽にしておきたいこの場面で、他家からのダブリー。

 心の中で悪態をつきながら、振り込まないように警戒心を強める。

 

 が、ダブリーなんてそうそう簡単に躱せるものではない。

 6巡もして安牌の種類が増えれば別だが、それまでが一番つらいのだ。

 

 その問題がやって来たのは4巡目。

 京太郎の手から、安牌がなくなった。

 

 京太郎 手牌 

 {三三五五五六七②③⑥⑦南南  ツモ:④}

 

(普通に考えれば、雀頭候補になりそうな{三か南}の処理に入る頃………

 何時ツモられるかわからないし、これだけ早く進んでくれた手だ。

 出来ればそのどっちかを切りたいけど………)

 

 {五}の壁を利用する場合{三か六七}切りという手がある。しかしこの場合、{五}が俺の手牌に3枚あるといっても後者を切るのは依然危険なままだ。

 {七}は竜崎の手の中に{五六}の両面待ちが出来にくいことから、比較的安全だ。

 しかし{六}は竜崎の手牌で{七八}の両面待ちが出来ていた場合、振り込むことになってしまう。

 一方で{三}を雀頭落としする場合、{四五}の待ちが竜崎の手牌に出来にくいことは保証されている。

 

 同じ雀頭落としなら{南}を落とす選択肢もあるが、ドラ且つ役牌だ。捨てるのはリスキーすぎる。

 しかもこれはただの推測だが、ダブリーというからには、待ちまで選んでいる余裕がなかったんじゃないかと思う。

 ペンチャンやカンチャン、字牌なんかの単騎待ちだって十分に考えられる。

 ダブリーと言えば聞こえばいいが、配牌がもう少し牌が入れ替われば三色が出来たりする場合など、ダブリーが最善ではないことも往々にしてある。

 だがそれでもダブリーをするということは、手牌の入れ替わりを待たずともその手のまま和了るメリットが十分にある配牌だったということだ。

 ダブリーのドラ字牌単騎待ちは、最低でも満貫の手。ダブリーをする価値は十分にある分類だろう。

 

(確かに{三}も絶対に安全ってわけじゃない。でも、直撃された時のダメージを考えたら……)

 

 ここは十分に安全そう且つ、最悪和了られても傷が浅くて済みそうな{三}を切ることに決める。

 だが、

 

「ロン!」

 

 これが、麻雀の魔性とでもいうのか。

 どんなに頭を働かせ、安全を保障できそうなもっともらしい理由を用意できたとしても、それは100%ではないのだ。

 

 竜崎 和了り形

 {四赤五八八234567赤⑤⑤⑤}

 

 ダブリーの上赤ドラを2枚手の内で使っている、麻雀の神の悪ふざけか何かかと言いたくなってしまう馬鹿馬鹿しい手。

 俺の怯えつつも、滅ぶ覚悟を内包した決断が行き着いた先。

 仮に振ることになっても傷が浅い方を望んだ甘さは、最悪の形でしっぺ返しを食らうことになった。

 

「ダブリー・タンヤオ・赤2・裏1! 跳満!」

「ぐうっ………!」

 

 更に裏が乗り6翻に届いてしまった。

 南2局で矢木から奪った点を、そっくりそのまま奪い返された形だ。

 

(25100点差………!)

 

 大差が開いたままの、最終5回戦のオーラス。

 点は次のようになっている。

 

  南4局 0本場

東家 京太郎 12100

南家 竜崎  21600

西家 矢木  37200

北家 黒崎 23000

 

 親満の12000点を矢木に直撃させるか、跳満をツモっても逆転は出来ず、かと言って倍満の手を矢木以外の二人から和了ってしまうと、2位のままトビ終了となってしまう。

 跳満以上の手を矢木から直撃するか、ここは点数調整の為の安手で連荘に臨むかの2択。

 

(泣いても笑ってもこれが最後………かはわからないけど、まずは配牌次第だよな)

 

 手が震えて仕方ない。

 縋るような心持ちで、配牌を開ける。

 

 京太郎配牌 (理牌前)

 {②③西4766六④一③3②7}

 

 見た限りでは、対子が多い。

 牌は中に寄っているので、タンピンでも1度和了って点数調整かなと思いつつ、理牌を始めた時だった。

 

(いや………もしかして………)

 

 手の中にある、とある牌を見つめながら、数秒間全力で頭脳を回転させる。

 思い浮かべるのは、つい先日あったある1局。

 

(もしそれが可能だとしたら………用意できるのは4パターン。

 でも最終的に2つまで絞らなきゃいけない。

 それに、矢木がその1枚を待っているかなんて………)

 

 俺は理牌中の他の3人の手を見た。

 そして、矢木の手の中に「それ」を見つけ、思わず目を見開いてしまう。

 

(い、いや、落ち着け………!

 第一あれが「それ」という保証はない。他に2枚、同じ条件を満たす牌はあるはずだし………!)

 

 落ち着いて他の二人の手牌も見ると、竜崎と黒崎の手にも「それ」はあった。

 これではどれが俺の求めている牌か絞り切れない。

 

 だが、これは希望かもしれない。

 このオーラスで神様が俺に送ってくれた、保護色に覆われた細い勝ち筋。

 

 いつでもその糸を手繰れるように念頭に置きながら、理牌を済ませる。

 

 京太郎 手牌 

 {②②77③③66六西④43一} ドラ:{5}

 

 左端に対子を集め、最初から七対子を狙っていく。

 まずはドラ表示牌で、他の牌に比べ重なる可能性の低い{4}から切り出す。

 

「ポン」

 

 1打目から、竜崎が俺の切った牌を鳴く。

 その後、打{②}

 

(ッ…………!)

 その時、どこから何の牌が出て来たか見逃さない。

 理牌がきちんとされていれば、竜崎の手にある「それ」はハズレだと分かった。

 

 となれば、残りはあと2枚。

 

 2枚あるうち、どれが「それ」か見切り、それにふさわしい形に手牌を整えられれば俺の勝ちだ。

 

 2順目 

 京太郎 手牌 

 {②②77③③66六西④3一 ドラ:5 ツモ:五}

 

(この{五}は……使えるかもしれない)

 

 持ってきた{五}を手牌に入れ、打{一}。

 

 七対子なら待ちに使えそうな一九字牌を残しておくべきだが、今の俺にはそれより大事なことがある。

 

 

 6巡目

 

「ポン」

 

 竜崎が黒崎からポンをして、俺の番が飛ばされる。

 これで竜崎が鳴いた牌は{4と四}。

 三色同刻なんて珍しい役まで見えてきた。

 

 その時の俺の手牌はこれ。

  京太郎 手牌 

{②②77③③66五西④④3}

 

 七対子1シャンテン。

 {④}は対子で押さえているので、少なくとも竜崎の三色同刻は握りつぶしている。

 

「ポン」

 

 今度は竜崎の切った{三}を黒崎がポンして打{⑤}。

 俺以外の誰かが和了れば勝ちという状況だ。喰いタンで早和了りしたいのだろう。

 

(早和了りは早和了りでも、役牌じゃなくて喰いタンで助かったよ………)

 

 多くの牌を対子で抱え、さらに俺の手牌に無い牌がポンされて、どんどん筋が消えていく。

 振り込みの危険が減るとともに、相手の待ちも大体絞り込みやすくなる。

 

 後は俺の求めている牌が、矢木と黒崎のどちらの手の内にあるかを暴くだけだ。

 

 10巡目

  京太郎 手牌 

{②②77③③66五西④④3} のまま変わらず。

 

(やばいやばい、そろそろ聴牌はしないとまずいぞ………!)

 

 局も後半に入った。

 七対子のイーシャンテンからの進まなさはいつものことだが、張らないとそもそも連荘すらできなくなる。

 

 そんな時、持ってきた牌は{8}。

 

(……………ここだ!)

 

 イーシャンテンは相変わらずだが、俺はこの機を逃さずに{五}を切り出した。

 

「ポン!」

 

 黒崎が二度目のポンを倒し、{赤五}混じりの{五}を2枚倒す。

 そして打{⑦}。

 

(これで2枚ハズレ………!)

 

 求める牌が矢木の手の中に在ることが、この時点で明らかになった。

 後は、その牌に狙いを定めるだけ。

 

(こいっ…………!)

 

 急に心臓が、やかましいほどに胸の内側を叩きだす。

 いつ千切れてしまうかも分からない、細い命綱を伝う闘牌。

 

 半荘5回戦の、最後の山場。

 勝ってみんなの名誉を守れるか、負けて無惨に指を切り落とされるか。

 

(頼むっ……! 来てくれっ……!)

 

 体中のありとあらゆる部位から熱と汗を発し、今からツモる牌に意識を集中させると同時に、手牌左端の3牌をカメラから隠す左手の指をずらす。

 

 時間はかけられない。

 すべての牌を筒抜けにした上で時間をかけすぎれば、俺の仕掛けた最後の罠が見破られかねない。

 

 ここで聴牌できなければ、罠を見破られるだけでなく、おそらくは3,4巡以内に他の誰かが和了ってしまうだろう。

 

 だから、聴牌できなかったときのリスクを承知で、手牌をわざと覗かせる。

 

(来い!)

 

 

京太郎 手牌 

 {②②77③③66西8④④3} ツモ:{西}

 

(聴牌………だけどこれは………!)

 

 {西}が重なり、{3か8}を切れば聴牌。

 

 しかしその両方とも、タンヤオの気配を見せている黒崎に通っていない。

 

(黒崎はタンヤオ………多分、もう両面待ちの上に張っている……。

 竜崎は、多分三色同刻狙い。さっき俺が{北}を切った時に反応してたし、多分手牌に客風牌の対子がある。他の役牌は河に見えている枚数から、全部が最大でも対子までしか誰も手の内で持てないはずだ。

 だから対々和の可能性もあるけど、多分まだ1か2シャンテン………{④}は俺が握りつぶしてるし、竜崎は大丈夫だ。

 

 そして矢木…………)

 

 脇の二人について考えた後、正面の矢木に目を向ける。

 

 矢木捨て牌

{南 9 2 2 發 中 }

{ ⑦ 3 八 西 ①}

 

 3巡目は手出しの{2}、4巡目はツモ切りで{2}………顔をしかめていたから、よく覚えている。

 直近2順の手出しの{西}と{①}が気になったが……恐らくまだ張っていない。

 配牌とツモがひどすぎて、途中から降りつつ七対子に向かうということはよくあるが、おそらくはそれの累計だろう。

 この時点で25100点差。

 親に振り込みかねない鳴きまくっての速攻は、ほかの二人に任せて矢木は降り気味に回しているのだろう。

 

(つまりこの時点で警戒するべきは黒崎一人のみ………だけど、これは………)

 

 改めて河と鳴いて晒された牌を見る。

 黒崎は恐らくタンヤオの両面待ち。となると牌の色ごとに2-5、3-6、4-7、5-8の4つの筋が存在する。

 

(萬子は竜崎の{四}ポンと黒崎の{三と五}ポンで、萬子はほぼ全滅。

 筒子も黒崎の捨て牌の{⑤と⑦}で残る筋は{③-⑥}のみ。

 索子は竜崎の{4}ポンしか見えていない。この{4}は実質壁だから、{45}の両面塔子は作りにくいけど……)

 

 京太郎の脳裏に浮かぶのは、全局の振り込み。

 手牌の中の{五}の壁を過信しすぎ、理に頼り過ぎた結果、偶然の結晶ともいえるダブリーに振り込んだ。

 それが、もしこの局も起きたら?

 

 現状、黒崎に振り込む可能性があるのは、{③-⑥}、{2-5-8}、{3-6}の3つの筋。

 このうち最も可能性が低いのは{3-6}。が、それも100%ではない。

 {3}が通りそうに見えて、実は{8}の方が安牌だったということも、未来で起こりえる。

 

(いや………迷うな)

 

 どんなに頼りなく見える糸でも、それのみに縋り信じてこの局を打ってきた。

 最後の最後で、その自分の判断を裏切ることは愚の骨頂。

 

(どうせ聴牌をとるなら、振り込む危険のある{3か8}を切らなきゃいけない。

 対子を作り替える時間なんて、残されちゃいない………なら)

 

 {西}を手牌に入れ、手元から1000点棒を取り出す。

 

(死ぬかもしれない時こそ…………!)

 

「リーチ!!」

 

(格好良く、進め!)

 

 京太郎 打{3}でリーチ。

 

 その牌に、ロンの声は和了らない。

 

(通った………!)

 

 {②②77③③66西西8④④}

 

 これで七対子{8}単騎。

 

 

(ちっ………)

 

 この時矢木は、京太郎のリーチに顔をしかめた。

 しかしすぐさま横の竜崎から声が和了る。

 

「チー」

 

 竜崎が{1と2}を倒し、一発消しのチーをする。そして打{赤⑤}。

 

 竜崎手牌({④待ち聴牌})

 {④④北北 ポン:横444 四横四四 チー:横312}

 

 矢木は店主に視線を飛ばし、京太郎の待ちを確認する。

 その問いかけに数秒して、店主は{8}単騎と返答した。

 

 京太郎がリーチをする時、ほんのわずかな間だが牌を隠していた左手がどき、そこに対子が出来ていることを確認した。

 今見えているのと合わせて、対子が6つ。これは七対子で決まりだと考え、1枚だけ手牌に見えている{8}を待ちとして答えた。

 

 そしてその待ちを聞き、矢木は口元に笑みを浮かべた。

 

 矢木 手牌

 {11赤5②⑦⑦六六八九南白發}

 

 七対子3シャンテンの、ボロボロの手牌。

 配牌もツモも悪いが、差し込み役に徹しながらベタ降りするのだと考えればこれも悪くない。

 それにもうこの局は終わりを迎える。

 下家の黒崎はすでに{5-8}待ちで聴牌している。

 

 黒崎 手牌

 {六七八67⑧⑧  ポン:三横三三 赤五五横五} 

 

 矢木のツモった牌は{8}。

 これでも黒崎に差し込むことは出来るが、同時に京太郎にも振り込んでしまう。

 ただの親のリーチ・七対子の4800点ならそれでもいいが、万が一裏ドラが乗るとダブロン込みで逆転されるので、{8}は手牌に加える。

 握りつぶすつもりでいた{赤5}を手にし、河へと放った。

 

「ロン!」

 

 黒崎が牌を倒す。

 

「タンヤオ・赤2。 3900」

 

 終わった。

 予想外に時間のかかったこの5回戦勝負も、ようやく終わった。

 

 矢木は大きく息を吐きだし、自然と込み上げてきた笑い声を漏らそうとした時。

 

「ロン」

 

 京太郎が、手牌を倒した。

 

「七対子………だと、思ってたんだろ?」

 

京太郎 手牌

{②②77③③66西西8④④}

 

 京太郎を除くその場の誰もが、理解できなかった。

 どう見ても、京太郎の手は七対子{8}待ちだ。

 

 ローカル役か何かか?

 そんなものは認めないの一言で済ませる。そう思って口を開いた矢木は、理牌を始めた京太郎を見て固まった。

 

京太郎 手牌(理牌後)

 

{②②③③④④66778西西 ロン:赤5}

 

「リーチ・平和・一盃口・赤1・ドラ1。満貫。12000点」

 

「あ、頭ハ―――」

「それに………」

 

 京太郎は矢木の言葉に被せるようにして、同じく牌を倒した黒崎の方も向き、

 

「この店、ダブロンありだから、そっちの3900も同時にとられるな」

 

 『ダブロンあり』

 それは先ほど矢木たちが京太郎に従えと促した、れっきとしたこの店のルールだ。

 念を押された矢木は、頭ハネを今から主張することは出来ない。

 

 矢木は開きかけた口を閉じざるを得ない。

 

「あ、そうだ」

 

 京太郎は思い出したように裏ドラへ手を伸ばし、

 

「裏2………わざわざダブロン狙わなくても勝てたのかよ………」

 

 自嘲気味に溜め息を一つ漏らした。

 

 

 

(これで………終わった、んだよな……?)

 

 5回戦を終え、真っ先に京太郎が感じたのは真っ白な思考停止の感覚だった。

 

 

 勝てた喜び、未だ過ぎ去らぬ恐怖混じりの興奮、極度の疲労感。

 そう言ったものがすべて混ざって、丁度±0になってしまったようだった。

 

 天井を仰ぐように背もたれにかかりながら、次に思い浮かべたのは先日のroof-topでの対局内容だった。

 東1局の1本場、まこにたいして七対子を直撃させたかと思えば、実は気づかぬうちに二盃口だったあの局だ。

 このオーラス、配牌時の{②と③、6と7}の対子を見た時に一盃口もいけそうだと思った瞬間、あの局のことが思い出された。

 

 後ろから覗いている店主にこの手を七対子だと思い込ませ、実は両面待ちで裏をかくことが出来るのではないかと考えた。

 あの配牌からして、最終的に待ちになりそうなのは{①-④}か{5-8}のどちらかだった。

 しかしそのだまし討ちを成功させ矢木から直撃を奪うには、矢木の手にそれらの牌がなければならない。

 京太郎はまだ面前の相手の手牌を読み切れるような実力はない。しかし今回に限り、京太郎は矢木が3分の1の確率で{赤5}を持っていることを知っていた。

 

 5回戦南2局、{7}単騎で聴牌した時の次のツモ。自分で{7}を持ってくるなとツモ牌を凝視しながら念じていた京太郎は、牌に違和感を感じた。

 具体的には牌の背の色が、他の牌に比べて少し濃かったのだ。そしてその牌は、{赤5}だった。

 

 

『あれ? 部長、この牌別のセットの奴が混じってません?』

『え、どれ?』

『ほらこれ、少し色濃くありません?』

『あー、赤ドラはそういうことあるのよ。他の牌と違って、赤ドラは使わないルールの時があるから、使用頻度に差が出るでしょ? そのせいでたまに赤ドラだけ色が濃いままになるのよ』

『へー、マーキングとかルール違反にならないんですかそういうの?』

『まぁ意見が分かれるところでしょうけど、その牌を使えと提供して来た側の責任じゃないかしらね』

 

 

 以前部室で久と交わした会話を思い出し、ひょっとしてと思いよく牌を注視してみると、各色から1枚ずつ入れられている赤ドラは、どれも色が微妙に濃かった。

 店内がオレンジの照明の上に、牌の背も黄色だから、よく見ないと見落としてしまうくらいの僅かな差だ。

 

 オーラス開始時、色の濃い牌は京太郎以外の3人の手牌に1枚ずつあり、どれが{赤5}かは判断がつかなかった。

 しかし、竜崎の手にあるのは{赤⑤}だと、1巡目の{4}ポンの後に切った{②}を出した位置から判断し、黒崎には{五}をポンさせた時に赤入りだったことから、矢木の持つ赤ドラが{5}であることを特定した。

 

 だが仮に{赤5}で振り込んでもらっても、リーチ・平和・一盃口・赤1・ドラ1の満貫止まり。裏ドラ抜きでは、逆転にどうしても1100点ほど届かなかった。

 しかし局が進み黒崎、竜崎がポンを計4回してくれたことと捨て牌から、だんだんと黒崎の待ちの筋まで特定が可能になったあたりから、ダブロンを狙い始めた。

 七対子の待ちに使えそうな一九字牌を捨て、やがて黒崎の待ちの候補になりそうな{8}を手牌に入れたのはその為だ。

 

 聴牌時に通っていない{3か8}を打たなければならなかったのは、処理の順番が甘かったという他ないが、結果として足りない1100点は、黒崎が補ってくれる形になった。

 もっとも、そこまでせずとも本当は矢木に振り込んでもらうか高めをツモるかすれば、裏が乗って自力で逆転できたのだが、それはたらればだろう。

 

(本当に………皆には感謝だよなぁ………)

 

 この手を思いつけた最も大きな要因は、実際に似たような状況を体験していたからだろう。

 そういう意味では、清澄の仲間と一緒に卓を囲んだことが活きた形となった。

 

 5回戦 終了時の点数

 京太郎 30100

 竜崎  21600

 矢木  15300

 黒崎 26900

 

 5回戦 終了。




麻雀初心者にしては、少しは面白いものが描けたのではないかと思います。
特に{7}単騎の部分は、中々面白い発想だったのではないかと。

※※以下プログラミング詳しい人向け※※
あのアイデアはお気に入りだったので、javaScriptまで勉強して上下逆さまの牌画像を実装出来ないものか試しましたが、やはり無理だったので断念しました。
ページ編集で一時的に画像回転を実装できても、ソースファイルが手元にないのでその変更を永続化できないんですよね。
ページ検証から使っているCSSファイルには行けるのですが、いくら自分の書いた小説のページとはいえ勝手にアクセスして書き換えることもできないし、書き換えることも出来ないのであきらめました。
もしそこらへん詳しい人いたら教えて下さい。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ちなみに赤{5}打ち取りの部分は、最初は「この店に来る前に矢木たちに殴られた時の傷の血が、京ちゃんの指について、血の汚れが目印になって矢木の手牌にあるのが分かる」という展開を考えていましたが、「それマーキングでイカサマやん」という疑惑を振り切れず、仕方なくアカギ外伝漫画のHEROのネタを使わせてもらいました。

さて、ついに5回戦連続1位を取れた京ちゃん。
しかし矢木が黙ってその結果を受け入れてくれるものでしょうか。
もう少しこの先の話もあるので、また長く間が空くと思いますがお付き合いいただければ幸いです。


以下余談
こっちの更新が遅くなった理由の一つに、一次創作の小説を書いていたからというのがあります。
先日こことは別の某小説投稿サイトに投稿してみました。
こちらの話をずっと待っていただいた方には、「いやそんなんいいから京ちゃんの話よませろや」と思われるでしょうが、こっちも読んでいただけたら幸いです。
正直一次創作って誰も見に来てくれないし、感想くれないしでこっちよりはるかに心折れそうです。
ペンネームはここと同じで投稿しているので、私の名前で検索してくれたら出るはずです。
めっちゃ重い上に初心者丸出しの小説ですが、読んでくださるとうれしいです。

それと正直このまま40年間社畜なんて冗談じゃないので、今後は積極的に創作活動に取り組むつもりです。
もちろん執筆力向上につながるので、こっちのサイトでも短編集とも合わせて着実に書き進める所存です。
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